「なんて卑怯な……」
前線に立っているインペリアルナイトの一人ジェロームが呟く。
帝国軍の一部始終を遠くながら、見つめていた。
おおよその予想は付く。
ハレインの策略なのだろう。
だが、それだけではない雰囲気がある。
そもそもこんなにも早く全軍前進の命令が下されるのは、あまりにも早すぎる。
しかし、このまま見ている訳にもいくまい。
ジェロームは前線の軍を率いて、帝国軍を迎え撃つ。
――――ハレインの二つ目の作戦を待ちながら。
◇
「予想通り帝国軍は進軍か。その親にその息子だな」
ハレインは森の中から帝国軍を見つめながら、内心自分の策に引っかかった親子を可哀想に思う。
帝国ともあろう国が、ここまでの無能が将軍家とは。
「帝国軍は前進を決め込んだ! 我々はこのまま奴らの懐を攻めるぞ!」
「「「「おー!」」」」
ハレインの号令に兵達の士気も高まる。
「では、俺に続け!」
「「「「おー!」」」」
ハレインと共に、兵達が戦場に出た。
彼らを乗せた馬が帝国軍に向かって、凄まじい速度で迫る。
途中で森に向かっていた帝国軍の兵はハレインにあっさり切り捨てられた。
たった数十人でインペリアルナイトの一人であるハレインを止める事など出来るはずもなく。
ハレイン達は既に前線でぶつかり合っている帝国軍の後方から斬り込む。
精鋭で構成されているハレインの兵達は次々切り捨てながら、後方中央にある将軍家の息子に向かう。
「な、何者だ!!」
将軍家の息子が突如現れハレインに問う。
「ふん。温室育ちが」
ハレインはまるで虫を見るかの如く、馬の上から将軍家の息子を睨む。
あまりの迫力に、周囲の兵士達の足が竦む。
将軍家の息子は得意な槍を手に取り、ハレインに仕掛ける。
「王国軍如きに遅れは取らん!!」
槍がハレインに届く一歩前。
その槍が届く事はなかった。
何故なら、既に彼の身体は複数に分かれていたからだ。
「…………帝国の将軍家ともあろう者がこんなもんか」
いつの間にか抜いた剣を鞘に納める。
「全軍! このまま帝国軍に斬り込む!」
「「「「おー!」」」」
ハレインとその兵達は、帝国軍の後方で暴れ出す。
次々と斬られる帝国軍は、数こそ圧倒的だったが、既に指揮官を亡くしている為、右往左往し始める。
前方では、ジェロームが率いる重戦士達の圧力が帝国軍を板挟み、次々蹴散らした。
帝国軍五千対王国軍一千。
その五倍の差は圧倒的なはずだった。
だが結果は王国軍の圧勝に終わるモノだった。
しかし、この時、戦いがまだ終わっていない事を知る者は誰もいなかった。
◇
王城内。
「…………ご苦労。この密書を簡単に見つけるとは、さすがだな『シュベスタ』」
「恐れ入ります」
ビズリオは目の前の密書を眺めながら、これを持って来た小柄の女性を見つめる。
どう見てもまだ幼さが残る少女。
顔は布で隠していて見る事は出来ないが、その体付きや声からはまだ幼さが残る。
そんな少女を自分の配下に加えたいと思ったが、彼女の瞳からは強い忠誠心を感じて、すぐに諦めた。
「ではこれが報酬だ」
ビズリオは金貨が大量に入った袋を前に出した。
袋を受け取るシュベスタ。
「随分と多いと思うのですが……」
「気にしなくて良い。そもそもこの密書を盗めるのは、俺が知っている範囲では誰もいなかった。その感謝でもある。それにこれ程払えると知れば、また俺の力になってくれるだろう?」
ビズリオの心境を知ったシュベスタは、小さく頷いた。
「主にそう伝えておきます」
「ああ。その力、またこちらの為に奮ってくれる日を待っているぞ」
「ありがとうございます」
シュベスタは深く一礼して、その屋敷を後にした。
「『アサシン』…………にしてはあまりにも鮮やか過ぎる。となると――――『アサシンロード』か。それほどの職能を持つ者が主と崇める存在。とても興味深いな。そんな存在がいるとはとても信じられないが、こちらに連絡を取ってくれるまで待つべきだろう」
ビズリオは一人で執務室で、彼女の主について考え込んだ。
◇
【ソラお兄ちゃん。任務完了したよ!】
【お疲れ様。ではそのままこちらに戻って来てね】
【了解!】
やっとルナちゃんの任務も終わり、合流できそうだ。
それにしても、前線はどうなったのだろうか……。
と思っていた時、ルリくんから念話が届いた。
【ソラ兄さん。前線に着いたよ】
待ちに待ったルリくんの到着の連絡だ。
【ルリくん。お疲れ様。ゆっくりでいいので、現状の報告をお願い】
【うん! まだ余裕があるから、このまま戦場を見渡すよ。見える感じ、両軍が睨み合ってる感じだね】
どうやら、まだ両軍はぶつかっていないみたいだ。
【こちらにはハレイン様ともう一人凄く強い人がいて、二手に分かれたよ。ハレイン様の兵は全員馬に乗り込んで、森に迂回して行くみたい】
「なるほど……馬で森か。余程特殊な馬なのかもね」
ミリシャさんが呟く。
そもそも馬は前に向かって走り続ける。
そのまま森に入ってしまうと木々が邪魔で走れないはずなのに、その中を進めるなんて、ミリシャさんの言う通り特殊な馬なのかも知れないね。
【帝国軍はざっと五千くらいかな? 王国軍はその五分の一ほどだね】
【五分の一!? 王国軍は随分と少ない数で対処するんだね】
それから数分ほどルリくんの状況説明を聞いた。
その時。
「ソラくん」
ミリシャさんが俺を呼んだ。
「ちょっとおかしい箇所があるわ」
「おかしい箇所?」
「ええ。ルリくん。悪いんだけど、急いでそのまま帝国軍の後方に走ってくれる? なるべく早く」
【了解】
ミリシャさんが顔を強張らせて、俺を見つめた。
前線に立っているインペリアルナイトの一人ジェロームが呟く。
帝国軍の一部始終を遠くながら、見つめていた。
おおよその予想は付く。
ハレインの策略なのだろう。
だが、それだけではない雰囲気がある。
そもそもこんなにも早く全軍前進の命令が下されるのは、あまりにも早すぎる。
しかし、このまま見ている訳にもいくまい。
ジェロームは前線の軍を率いて、帝国軍を迎え撃つ。
――――ハレインの二つ目の作戦を待ちながら。
◇
「予想通り帝国軍は進軍か。その親にその息子だな」
ハレインは森の中から帝国軍を見つめながら、内心自分の策に引っかかった親子を可哀想に思う。
帝国ともあろう国が、ここまでの無能が将軍家とは。
「帝国軍は前進を決め込んだ! 我々はこのまま奴らの懐を攻めるぞ!」
「「「「おー!」」」」
ハレインの号令に兵達の士気も高まる。
「では、俺に続け!」
「「「「おー!」」」」
ハレインと共に、兵達が戦場に出た。
彼らを乗せた馬が帝国軍に向かって、凄まじい速度で迫る。
途中で森に向かっていた帝国軍の兵はハレインにあっさり切り捨てられた。
たった数十人でインペリアルナイトの一人であるハレインを止める事など出来るはずもなく。
ハレイン達は既に前線でぶつかり合っている帝国軍の後方から斬り込む。
精鋭で構成されているハレインの兵達は次々切り捨てながら、後方中央にある将軍家の息子に向かう。
「な、何者だ!!」
将軍家の息子が突如現れハレインに問う。
「ふん。温室育ちが」
ハレインはまるで虫を見るかの如く、馬の上から将軍家の息子を睨む。
あまりの迫力に、周囲の兵士達の足が竦む。
将軍家の息子は得意な槍を手に取り、ハレインに仕掛ける。
「王国軍如きに遅れは取らん!!」
槍がハレインに届く一歩前。
その槍が届く事はなかった。
何故なら、既に彼の身体は複数に分かれていたからだ。
「…………帝国の将軍家ともあろう者がこんなもんか」
いつの間にか抜いた剣を鞘に納める。
「全軍! このまま帝国軍に斬り込む!」
「「「「おー!」」」」
ハレインとその兵達は、帝国軍の後方で暴れ出す。
次々と斬られる帝国軍は、数こそ圧倒的だったが、既に指揮官を亡くしている為、右往左往し始める。
前方では、ジェロームが率いる重戦士達の圧力が帝国軍を板挟み、次々蹴散らした。
帝国軍五千対王国軍一千。
その五倍の差は圧倒的なはずだった。
だが結果は王国軍の圧勝に終わるモノだった。
しかし、この時、戦いがまだ終わっていない事を知る者は誰もいなかった。
◇
王城内。
「…………ご苦労。この密書を簡単に見つけるとは、さすがだな『シュベスタ』」
「恐れ入ります」
ビズリオは目の前の密書を眺めながら、これを持って来た小柄の女性を見つめる。
どう見てもまだ幼さが残る少女。
顔は布で隠していて見る事は出来ないが、その体付きや声からはまだ幼さが残る。
そんな少女を自分の配下に加えたいと思ったが、彼女の瞳からは強い忠誠心を感じて、すぐに諦めた。
「ではこれが報酬だ」
ビズリオは金貨が大量に入った袋を前に出した。
袋を受け取るシュベスタ。
「随分と多いと思うのですが……」
「気にしなくて良い。そもそもこの密書を盗めるのは、俺が知っている範囲では誰もいなかった。その感謝でもある。それにこれ程払えると知れば、また俺の力になってくれるだろう?」
ビズリオの心境を知ったシュベスタは、小さく頷いた。
「主にそう伝えておきます」
「ああ。その力、またこちらの為に奮ってくれる日を待っているぞ」
「ありがとうございます」
シュベスタは深く一礼して、その屋敷を後にした。
「『アサシン』…………にしてはあまりにも鮮やか過ぎる。となると――――『アサシンロード』か。それほどの職能を持つ者が主と崇める存在。とても興味深いな。そんな存在がいるとはとても信じられないが、こちらに連絡を取ってくれるまで待つべきだろう」
ビズリオは一人で執務室で、彼女の主について考え込んだ。
◇
【ソラお兄ちゃん。任務完了したよ!】
【お疲れ様。ではそのままこちらに戻って来てね】
【了解!】
やっとルナちゃんの任務も終わり、合流できそうだ。
それにしても、前線はどうなったのだろうか……。
と思っていた時、ルリくんから念話が届いた。
【ソラ兄さん。前線に着いたよ】
待ちに待ったルリくんの到着の連絡だ。
【ルリくん。お疲れ様。ゆっくりでいいので、現状の報告をお願い】
【うん! まだ余裕があるから、このまま戦場を見渡すよ。見える感じ、両軍が睨み合ってる感じだね】
どうやら、まだ両軍はぶつかっていないみたいだ。
【こちらにはハレイン様ともう一人凄く強い人がいて、二手に分かれたよ。ハレイン様の兵は全員馬に乗り込んで、森に迂回して行くみたい】
「なるほど……馬で森か。余程特殊な馬なのかもね」
ミリシャさんが呟く。
そもそも馬は前に向かって走り続ける。
そのまま森に入ってしまうと木々が邪魔で走れないはずなのに、その中を進めるなんて、ミリシャさんの言う通り特殊な馬なのかも知れないね。
【帝国軍はざっと五千くらいかな? 王国軍はその五分の一ほどだね】
【五分の一!? 王国軍は随分と少ない数で対処するんだね】
それから数分ほどルリくんの状況説明を聞いた。
その時。
「ソラくん」
ミリシャさんが俺を呼んだ。
「ちょっとおかしい箇所があるわ」
「おかしい箇所?」
「ええ。ルリくん。悪いんだけど、急いでそのまま帝国軍の後方に走ってくれる? なるべく早く」
【了解】
ミリシャさんが顔を強張らせて、俺を見つめた。