帝国の宣戦布告の報せを受けて、俺達は戦線が最も近いガルン町に集まった。

 ガルン町は、レボル街から西に進み、ハイオークの平原に近いホレ村から更に西に進んだ場所にある。

 レボルシオン領の最西端にある町だ。

 まだ現状が分からない為、『銀朱の蒼穹』のメンバーのみでの対応となっている。

 出来れば俺のレベルを7から8に上げたかったのだけれど、必要な経験値が思っていたよりも遥かに高くて、上がれる気配がない。

 なので、みんなには暫く最大レベル8まで上げて貰っている。

 こうなる事が分かっているなら、王都近くまで進み、みんなのレベルを9に上げておけば良かったと、心底後悔した。

 ただ、エイロンさんは『銀朱の蒼穹』の弐式や参式のメンバーは異常に強いからと、それほど心配はしなくてもレボルシオン領は守れるだろうと言ってくれた。

 ガイアさん達のような鍛冶屋の場合、場所関係なく鍛冶する事でレベルが上がるからな……それで実は既にガイアさん達鍛冶組は全員レベル9だったりする。

 ガイアさんが間もなくレベル10になるだろうというタイミングで、まさか戦争が起きるなんて……。



「では馬車内で考えたプランで動こう。ルリくんとルナちゃんには大変だと思うけど、それぞれ王都と前線の状況を見てきて貰いたい」

「「はい!」」

 ルリくんとルナちゃんの『アサシンロード』は、闇夜に紛れるスキルがある。

 その下位である中級職能ローグが持っている影移動と同じスキルで、その上位スキルとなる『影同化』というスキルだ。

 このスキルさえあれば、余程の強者でもない限り、見つける事すら困難なはずだ。

 ただ、前線の指揮を執っているインペリアルナイトともなると危ないので、二人には念には念を入れ、安全を徹底して動くようにと伝えてある。

 早速二人はその場から消える。

 ここ一年くらいでレベルも上がり、職能にも慣れた二人は『銀朱の蒼穹』の闇の番人となっている。

 二人談だけど、『ユニオン』の『隊長』に任命されて得ている全スキル効果1.5倍のおかげで、移動も容易く、馬車の数倍の速さで移動出来ると喜んでいた。

 馬車の数倍の速さって…………二人がどんどん規格外になっていく気がする…………フィリアと同じ最上級職能だものな。

 二人が消えてから俺達は町で情報収集をしたが、特に変わった様子はないとの事だが、食料を大量に購入に来た兵士達がいたと教えてくれた。

 実は、その件は既に冒険者を通して『銀朱の蒼穹』に報告を送ってくれたみたいだけど、先にこちらに向かった俺達とはすれ違いになっているみたい。

 定期的に二人から「異常なし」の念話が届き、毎回二人の安否に安堵した。



 ◇



【こちらルナ。王都に着いたよ】

 ルナちゃんから念話が届いた。

 俺達全員に向けられている念話で、みんなも聞こえている事に大きく頷いて返してくれる。

【お疲れ様。ルナちゃん兎にも角にも安全にね?】

【うん! 安全優先で頑張ります!】

【では、王都の雰囲気から教えて欲しい】

【はい、王都はいつものような活気はないかな。住民達は必要最低限に動いている感じで、市場も回ってないかな】

【なるほど。戦争の影響だろうね】

【うん。酒場では商売あがったり~って言ってる】

 深刻な雰囲気だろうに、ルナちゃんの「あがったり~」のモノマネが可愛い。

【では、本番と行こうか】

【うん! 頑張ります!】

 ルナちゃんには王城に潜入して貰う事にしている。

 本番――――つまり、王城潜入の時間となった。



 暫く待っていると、ルナちゃんから念話が届いた。

【思いっきり兵の数が少ないよ、近衛兵達はいるけど、訓練場にも兵団の姿は見えないよ】

 これで戦争は間違いなく起きている事が確定した。

 出来れば、偽情報であって欲しかっただけに、俺は肩を落とす。

 隣にいたカールが、俺の肩に手をあげて励ましてくれる。

【ルナちゃん。出来る限り無理はせず、王城内にいる――――】

【待って、見つかった】

 っ!?

 ルナちゃんの小さな声に俺達の顔に緊張が走った。



 ◇



 ゼラリオン王国の王城。

「動くな」

 誰もいない壁に向かい、その男は告げる。

「帝国の者、敵対の者でなければ戦うつもりはない。お前がどこの誰かは分からないが、敵意を感じない、王国の者なのだろう。危害を加えない。姿を見せろ」

 男の静かな声が響き渡った。

 しかし、返事は何一つ帰ってこない。

「……分かった。ここまでして逃げず攻撃もしないのなら、味方(・・)だと判断しよう。お前の主に伝えてこい。お前らと話し合いたい事がある。俺の名は、ビズリオ。その名くらい分かるだろう? 俺は向こうの西棟にいる。お前でも主でも良い。待っているぞ」

 そして男は何もない壁の前から背を向けてゆっくり歩き去った。



 ◇



【大丈夫。ちゃんと逃げられる距離だったから。向こうも逃げれる距離で話している感じだったよ】

 ルナちゃんからずっと現状を念話で聞いていた。

 ビズリオ……。

 その名に覚えがある。

 というか、覚えてないはずがない。

 ハレイン様と同じインペリアルナイトの一人である『ビズリオ・ジークラム』様だ。

 ルナちゃんの何となくの気配をかぎ分けられたって事は、本物なのだろう。

 兎にも角にもルナちゃんが怪我がない事に安堵の息を吐いた。

【ソラお兄ちゃん。王城には玉座の間から強い気配がもう一人、あとはさっきの男だけだよ】

【そうか。ありがとう。では一旦王都に潜入していてくれ】

【うん!】

 ルナちゃんにはもしもの時の為に、王都に残って貰う事にする。

「さて、インペリアルナイトの一人、ビズリオさんに会うべきか会わないべきか……」

「ソラ。会うのが危険なら手紙のやり取りでいいんじゃない?」

「手紙?」

「うん。ルナちゃんに王城の西棟に手紙を運ばせれば、ルナちゃんも見つからないし、私達だともバレない。せめて目的くらい聞けると思うんだけど」

「なるほど……分かった。それはフィリアの案でいこう」

 ルナちゃんには手紙で「用件を教えてください。夕方に取りに来ますので、以前会った場所に置いてください」と書いて貰い、西棟にある彼の部屋と思われる所に手紙を運んで貰った。