俺達は十三歳となった。

 レボルシオン領が発足してから三年目に突入する事となる。

 全てが順調で、年が明けて真っ先に行うのは、ミリシャさんの案により、『弐式』のメンバー増強だ。

 今までは教会に出向いて、礼金を払い開花して貰っていたのだけれど、人数が多かったり、礼金を増額すれば神官の方からこちらに来てくれるとの事だ。

 ミリシャさんに早速お願いすると、何故かシスターグロリアを連れて教会に向かう。

 屋敷の集会場と化している食堂で、弐式のメンバー全員が集まって神官を待った。

 …………何だろう? 弐式の戦えないメンバーってこんなに多かったっけ?

 確か元々三十人くらいだった気がするんだけど……視界に映っている『銀朱の蒼穹』の紋章を付けているのは、その三倍くらいに見えるんだけど……もしかして疲れているから子供達が二重に見えているのかも知れないね。

 今回開花する子供達はみんなソワソワしながら待つ。

 その中でも、最も緊張した面持ちで待っている二人が見えた。

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 俺は彼らにそう告げる。

 二人は少し緊張が解けたように笑顔になったけど、まだ本調子にはなれないみたい。



 暫く待っていると、食堂の入口が開いた。

 今回の開花式を見守ってくれている全ての人が注目する。

 『銀朱の蒼穹』、『弐式』、『参式』、『鍛冶組』、錚々(そうそう)たるメンバーに、ミリシャさんとシスターグロリアさんと一緒に入って来た神官二人が萎縮してしまった。

 一瞬足を止めた神官二人に向かい、弐式のメンバー全員が「よろしくお願いします!」と明るく声をあげると、神官二人も安心したかのように少し笑みを浮かべて、ミリシャさんに案内される場所に向かった。


「こほん。では一人ずつ、いらしてください」

 神官の指示で弐式のメンバーで今年10歳になる子達が並ぶ。

 みんな待ちに待ったようで、希望に溢れた表情だ。

 本来ならここまで希望に溢れた表情よりも、もっと切羽詰まった表情が主なのだけれど、うちは事情が違うだけに神官達も少し戸惑いを見せる。

 次から次へと『無職』が言い渡される。

 『無職』を言い渡されても尚、彼らは満面の笑顔で「ありがとうございます!」と大きな声で、深々と挨拶をする。

 毎回神官達の引き攣った笑顔が少し可哀想にも見えてしまうね。

 弐式のメンバー全員の開花が終わった。

 そして、最後の二人(・・)の番となった。



「ルナ」

「うん?」

「俺は絶対に兄さん(・・・)の為に強くなる」

「ルナも!」

「一緒に兄さんの為に頑張ろう」

「うん!」

 ルナちゃんとルリくんはそれぞれ神官の前に立った。

 最後の開花と知っている神官二人は漸く終わるなと思えるような安堵した表情だ。

 落ち着いた雰囲気の中、二人の開花式が同時に始まる。

 さっきまではタイミングもバラバラだったのだが、二人の出番の時は、何故か神官二人の言葉が被って聞こえる。

 被ったその声は、普段聞けるはずがない事でもあった為、とても神秘的な雰囲気を感じさせてくれる。

 しかし、その開花式はそれだけで終わらなかった。


 二人の身体から、今までメンバーでは見た事もない光の渦が現れる。

 二人の光はそのまま混ざり合い、幻想的な世界にいると錯覚してしまうくらい美しく光り輝いた。

「「しょ、職能は――――」」

 二人の神官の驚く声すら一緒になる。

 早くその続きが聞きたい。

 俺達は光の中で、神様に祈りを捧げている二人を見つめて、幸せな笑顔を零した。









「アサシンロード」「アサシンロード」



 二人の声が見事に被る。

 どっちが『アサシンロード』なのだろう? と思えるくらいだ。

 ゆっくり目を開ける二人。

 二人は自分の中に宿った力を感じる。

 両手を胸に当てて、誰にも聞こえないような声で「神様、ありがとう」と呟いた。

 二人は神官に感謝の言葉を伝えると、真っ先に俺の前にやってきた。

 まだ戦闘訓練も受けてない二人だが、既に身のこなしが流れるかのように美しく見える。


 二人が俺の前について、そのまま跪いた。

「「私達はこれからソラ様の剣となります」」

 二人は静かにそう告げた。



 ◇



 『銀朱の蒼穹』の開花式も終わり、開花を祝って宴会が開催された。

 宴会が始まるまでは、今回開花した全ての弐式のメンバーに中級職能を与える。

 中には下級職能を持った子も二人ほどいたけど、全員中級職能に上がってしまった。

 それにしても…………なぜ今年の弐式の十歳を迎えた子供が三十人もいるのか。

 何ならまだ開花してない子供がその三倍はいるんだけど……?

 あれ? 合計百人をとうに越えてない!?

「ソラくん? どうしたの?」

「ミリシャさん。何だか……弐式のメンバーが沢山増えた気がして……」

「あら、気のせいだよ?」

「えっ?」

「元々このくらいいたじゃない」

「そ、そうでしたっけ? アンダセン町から一緒に来たのは馬車――――」

「馬車五台分だったわね」

「えええええ!? そんなに多かったんでしたっけ!?」

「そうよ? あら、もしかしてソラくんって、彼らの事――――忘れていたの?」

「へ? い、いや、そ、そんな訳ではないんですけど……」

「ふふっ、これからの弐式もお願いね?」

「え、ええ。それはもちろん」

 そう告げたミリシャさんは、暗黒の笑みを浮かべてカールの所に向かった。

 まあ、みんな楽しそうだし、仕事もちゃんとしてくれているし、無理もしてないし、これでいっか。



 こうして、『銀朱の蒼穹』の二度目の開花式が終わった。