「ゲシリアン子爵の許可の元、これから屋敷の捜索をしますので、執事及びメイドさん達は全員(・・)食堂に集まってください」

 ゲシリアン子爵邸に入ったエイロンが筆頭執事のシランに告げる。

 シランは無表情のまま、メイドと執事を一か所に集めた。

 当のゲシリアン子爵は、屋敷に入れず、屋敷前で待機しているが、自信満々だった表情から一転して、不安な表情をしていた。

 それもそのはずで、寧ろ自信満々に答えたソラの事で不安を覚えたのだった。



 ◇



「恐らくは普通の場所に証拠はないはず。俺の予想だと、地下な気がする。ラビ。地下に()が通っている場所を探ってくれ!」

「ぷぅー!」

 敬礼ポーズをしたラビは、その後、鳴き声をあげて風魔法を使う。

 風魔法が屋敷の色んな場所に放たれた。

 暫く待っていると、

「ぷぷぷ!」

 ラビに連れられ、俺達は子爵の書斎に入った。

 書斎の本棚に向かってラビが指を指す。

「ラビ。この裏ね?」

「ぷぷ!」

「よし、この本棚を探ろう」

 本棚を触っていると、一つだけ取れない本があった。本というよりは、棚本体のような感触。

「この本。動かしてみるよ」

 本を押し込むと、本棚がグググっと中に動き、扉のように開いた。

 中には地下に続く階段があり、秘密階段のようだ。

「ソラ。下から静かな殺気を感じるわ。気を付けてね」

「分かった。ラビ。バリアをお願いね」

「ぷー!」

 ラビの防御魔法で俺達の周囲に魔法が掛けられる。

 そのまま階段の下に降りていく。

 降りた先に部屋があり、降り立った瞬間、短剣が数十本投げられた。

「ぷー!」

 短剣にラビが反応して、風魔法で投げられた短剣が飛ばされる。

 俺達はその先で待っていた男を睨んだ。

「お久しぶりです。シランさん」

 向こうに無表情のまま、美しく立ち竦んでいるシランさんが待っていた。

「…………まさか、貴方様が()だったとは……」

「先に仕掛けたのは、そちらでしょう?」

「…………そうですね。ここは一つ、最後まで抗わせて頂きます」

「残念です」

 シランさんの動いた瞬間、フィリアも動く。

 お互いに目にも止まらぬ速さで剣戟がぶつかり合う。

 シランさんは恐らく盗賊系の職能だろう。

 次第にフィリアに押され、傷が増えていった。

 そして、最後に腹を大きく斬られ、その場に倒れ込んだ。

「…………これほど強いとは……さすがにクランに認められる実力です……」

「……シランさん」

「…………はい」

「…………お待たせしました」

「………………感謝申し上げます……」

 感謝を口にしてシランさんは気を失った。

 急いでシランさんを縛り、傷を回復させて、中に入って行った。



 実はシランさんはゲシリアン子爵を止めて欲しかったんだと思う。

 その証拠に、山賊についてとても(・・・)詳しく教えてくれた。

 あまりの詳しさに違和感を覚えたが、ずっと無表情だったシランさんの瞳は、悲しみに溢れる瞳に変わっていた。

 俺達がトーマスさんに出会ってなかったとしても、既に作戦は決まっていた。シランさんのおかげで。

 だから俺はずっと疑問だった。

 ここに来るまで。


 俺達に投げられた短剣は、全く勢いがなかった。

 更に、剣聖であるフィリアと正面切って戦えば、確実に負ける事も知っていたはずだ。

 それなら、もっとやりようもあったはずだ。

 例えば、証拠隠滅の為に、ここを崩壊させるとか。

 恐らくゲシリアン子爵からそういう命令を受けているはずだ。

 だから、彼は命令に従い、俺達を正面切って戦った。

 負けるのを知っていての行動に間違いないだろう。

 だからここでゲシリアン子爵を止めたいと思う。いや、止めないといけない。

 これ以上被害を広げない為に。



 こうして、俺達はシランさんを通り抜けて、地下の扉を開いた。

 長い廊下と沢山の扉が見えるが、その扉の中の部屋が貧相な部屋なのは、外からでも分かるほどだ。

 更に、この廊下に充満している匂い(・・)

 それは…………





 血の匂いだった。



 ◇



「くっ! 何故エイロン達は出てこない! そろそろ捜索も終わりだろう!」

 ゲシリアン子爵のイライラした言動が既に複数回にも渡っていて、焦っている様子が多くの人に映っていた。

 屋敷に入ろうとする子爵を、冒険者ギルドの者が入口で防ぐ。

 その繰り返す姿が異常に映る者も沢山いた。

 その時。

 一人の男がゲシリアン子爵の前に現れた。

 美しい金髪とすらっとした体型は、誰が一目見ても美しいと思えるような男だった。

 その男を見たゲシリアン子爵は、

「あ、貴方様は!?」

「…………ゲシリアン子爵。ここまでの一部始終を見させて頂きました」

「!? も、申し訳ございません! こ、これは――」

「結構。全ての結果(・・)は彼らが出てくれば分かる事でしょう。ゲシリアン子爵。決して違法(・・)はありませんね?」

 鋭い視線がゲシリアン子爵に向く。

 その冷たい視線にゲシリアン子爵が身を構える。

 今までの不安そうな表情以上に、不安な表情を見せる。

 ゲシリアン子爵は、男の質問に答えられず、顔に冷や汗が流れ出す。

 その時。

 屋敷の扉が開いた。