三日間、ダンジョン『石の遺跡』の二層でレベルを上げ続けた。

 俺達六人と、メイリちゃん達四人にトーマスさんの計十一人で狩りを続けた。

 ミリシャさんからの情報ならパーティーは六人までだが、やはり俺達は問題なく十一人全員でパーティー認識が出来ていた。

 『経験値アップ③』も相まって、俺達はたった三日で物凄い速度でレベルを上げていった。



 ◇



「イロラ姉さん、気を付けてね」

「うん。任せて」

 職能『ローグ』のイロラ姉さん。

 既にレベルも8に上がったイロラ姉さんは、スキル『影移動』を覚えて、影に紛れるようになっていた。

 気配までは隠せないけど、視覚的に見えなくなるだけでも大きなアドバンテージがある。

 イロラ姉さんが森の中に消え去った。

 俺達は彼女が帰って来るまでの間に作戦を再度確認する。

 この場にいない人も既に作戦に取り掛かっているはずだ。

 暫くして、イロラ姉さんが帰って来た。

「ただいま。見つけたよ」

「イロラ姉さん。お疲れ様、では近くまで行こうか」

「「「おー!」」」

 イロラ姉さんに案内され、森を進んでいく。

 進んだ先は高台になっていて、そこから見下ろしたところに洞窟があり、その前に見張りが二人立っていた。

 見た感じただの山賊ではあるんだけど……山賊にしては強そうな雰囲気だ。

 トーマスさんの話の雰囲気的に、相手のリーダーはレベル10に到達している可能性もある。

 でもこちらにはフィリアがいるので、単独戦いでも十分に戦えるはずだ。

「では予定通り行くよ」

「「「はい」」」

 みんな小さい声で返事をする。

 ここには俺とフィリア、アムダ姉さん、イロラ姉さんの四人が集まっている。

 イロラ姉さんとアムダ姉さんは洞窟を裏手に回る。

 彼女達の移動を見届け、俺とフィリアが正面に出て行く。

 俺達を見つけた相手の二人が普通の反応とは違い、声一つ出す事なく洞窟内に入って行こうとするが、上から降って来たイロラ姉さんとアムダ姉さんに襲われ、一瞬で倒された。

 二人の見張りを草むらに隠して、洞窟中に入って行く。

 やはり、情報通り(・・)静かだ。


 その時、地面から黒い煙が上がって来た。

 これも予定通りの眠り煙(・・・)だね。

 俺達は眠りについたふりをして、その場に横たわった。

 気配は全力で感知する。

 少し待っていると煙が消え、足音が聞こえ始めた。

 人数は……八人。意外と多い。

「今回は意外と楽勝だな~? 前回はあんなに手こずったのによ」

「おい、人数が違うぞ」

「リーダー! 二人足りません!」

「……ちっ、外にいそうだな。お前ら、こいつらを奥に運んでおけ。外は俺がやる」

「「「はっ!」」」

 一番強い気配を持った男が外に走って行く。

 急いだって事は、向こうも焦っている証拠だ。

 きっと、逃がさないように急いでいるのだろう。

 前回はトーマスさんを逃したから、色々問題があったに違いない。

「はぁ、こんな可愛いの一人くらいこっちが貰いたいね~」

「おいおい、やめとけよ。子爵に見つかったら一瞬でクビ飛ぶぞ?」

「ちっ、分かるけどよ……くそ! こんな美少女とか俺もく――――」

 彼が次の言葉を発する事はなく、起き上がった俺達に、彼らは一瞬で制圧された。


「ふぅー、作戦通りにいって良かった」

「ですね。あとはフィリア、気を付けてね?」

「うん! 任せておいて! ラビちゃんもよろしくね!」

「ぷぅ!」

 フィリアの髪の中に隠れているラビの鳴き声が聞こえる。

 もしもの時の為のバリア要員として、フィリアのところに隠れているのだ。

 今回、黒い煙を防いだのも全てラビのおかげだったりする。

 小さな風魔法で黒い煙を吸い込まないようにしてくれていたのだ。

 俺達は急いで山賊達を奥の部屋に運んで確保しておく。

 さて……あとはリーダーを捕まえて次の作戦だね。



 洞窟の入口から凄まじい殺気が痛いほど伝わって来た。

「……なるほど。貴様ら……あれを見抜けたのか」

「ああ。お前の部下から、ちゃんと子爵様(・・・)の名前まで聞いてるぞ?」

 子爵様の言葉を聞いた男があからさまに苛立ちを見せた。

「貴様ら……生きてここを出られると思うな!」

 男が剣を抜いて、斬り掛かってくる。

 しかし、既に戦いの準備をしていたフィリアの双剣が男を斬り返す。

 あまりの速度に男が驚く表情を見せた時には時すでに遅く、フィリアの剣戟が男の両足を切り落とした。

「が、があああああ!」

 あっけなく倒れる男は、信じられない目で悲鳴をあげた。

「さて、これで形勢逆転だね」

「っ! く、くそが!!」

 念には念をと、フィリアは容易なくその手首も切り落とす。

 卑怯な戦いをした上に、高レベルな男を相手に油断は一切しない。

「では、お前たちが子爵に――――」

 雇われている事を聞き出そうとした時に、男が恨むような視線で微動だにせず俺を睨んだ。

 そして、俺は続きを話す事は出来なかった。

 男は既に自分の歯の中に隠し持った即効性毒により、その場で絶命していたのだから。


「こういう仕事を請け負う以上、こうなったら自ら命を落とすのは知っていたけど、口の中に毒を仕込んでいたとは予想してなかったよ。出来ればそのまま死ぬのではなく、報いを受けて欲しかったな……」

 今まで男の手によって命を落とした多くの人達に報いて欲しかったけど、それは叶わなかった。

 しかし、まだ終わった訳では無い。

 本当の()はまだのうのうと生きているから。

 俺達は次なる作戦に移った。