初日。

 まずは全員でゲスロン街の西に進んだ場所にあるダンジョン『石の遺跡』という場所に向かった。

 一層はDランク、二層はCCランクのダンジョンでレベル上げに向いてそうなダンジョンだ。

 トーマスさんは元々中級職能『騎士』で、同職転職させて経験値アップを取り付けておいた。

 レベルが1に戻ったけど、トーマスさんは顔色一つ変えないで俺の言う通りの事をすると言ってくれた。

 一層に入り、弓士のソーネちゃんが凄まじい速度で魔法矢を放ち、視野に入る魔物を一掃していく。

 二層まで歩く間、何もしてないままトーマスさんのレベルも上がった。

「…………ソラくん」

 その事でミリシャさんが呆れた口調で声を掛けてきた。

「どうしたんですか?」

「……いつもこんな感じだったの?」

「え? ソーネちゃんですか?」

「ソーネちゃんというか……弓士でああいう風に狩りをするの」

「ええ、セグリス町の時には弓士が十人近くいましたから、これよりも速かったと思いますよ?」

「…………ちょっと後で話があります。大事な話が」

 あれ?

 ミリシャさんどうしたんだろう……?

 少し呆れた顔だけど、夜にでも話してくれるんだろうか。

 それから俺達は二層に向かい、二層の魔物を狩り始める。

 Cランクの魔物が主体で、フロアボスと言われているCランク上位種が一日に一回出現するらしい。

 今回はその魔物よりも、通常Cランク魔物のハーピィという魔物を狩り始めた。

 ハーピィは背中に羽根があり、空を飛ぶ魔物で、遠距離攻撃がないと戦いにくい相手だ。

 なので、この層にハーピィを狙うパーティーは割と少ないので、魔物の数が多くいるのだ。

 俺達はカールとソーネちゃんを主軸に飛んでいるハーピィに一撃与えて、こちらに誘導させてから接近職で叩く戦法を取った。

 二時間ほど戦って、一旦休憩のために、広場に座り込んだ。

 ここでならハーピィが現れても見えやすいので、直ぐに対応出来るはずだ。

 暫く休んでいると、向こうにハーピィが十体まとめて現れた。

 あれだけの数が現れるなんて珍しい。

 その時。

 真っ先にハーピィの前に立ちはだかるのは――――



「ぷぅー!」



「ラビ? 危ないから遊んじゃ駄目だよ?」

「ぷー! ぷー!」

 少し怒ったような鳴き声のラビ。

 どうしたのだろう?

 何故か怒っているラビの周りに、目にも見えるくらい緑色の魔法の渦が現れ始めた。

「ぷぅー!!」

 ラビの鳴き声と共に、ハーピィに向かって魔法が放たれる。

 切り裂く音と共に、ハーピィの群れが魔法により切り刻まれる。

 ハーピィ達の短い鳴き声が聞こえた後、全員がその場から消え去った。


「ぷぅーっ!」


 こちらを向いて、ドヤ顔をするラビ。

 もしかして活躍させてあげてないのが不満だったのかな?

 というか、ラビって攻撃魔法も使える事を初めて知った。

「……ソラくん?」

「はい?」

「…………あの件も後で話したい事があるわ。大事な話が」

 またもやミリシャさんが呆れたように溜息を吐いた。

 休憩中はラビが頑張ってくれて、現れたハーピィを軽々殲滅していた。

 ラビがあんなに強いなんて思わなかった……今までバリア魔法しか使えないばかり思っていただけに、意外な戦力増強は嬉しい誤算だった。



 ◇



「ソラくん。今から話す事はものすごく……ものすごく! 大切な話になるからね!?」

「え、ええ、ミリシャさんがそこまで言うのですから……どんな大切な話なんですか?」

「あのね……ソラくんは今のこのパーティーの異常性(・・・)に気づいていないわ」

「このパーティーの異常性……ですか?」

 腰に両手を当てたミリシャさんが、いつもの先生モードに変わった。

「まず、パーティーがどうやって成立するのか、分かるかな?」

「ん~、お互いに仲間だと思っていると成立するんですよね?」

「ええ、その通りよ。パーティーはお互いがお互いをパーティーメンバーだと思う事によって、女神様の恩恵により、自動的に『パーティー』として判定されるの」

 俺達はみんな頷いて聞く。

「『パーティー』となったメンバーは、それぞれの戦いの功績(・・)によって、得られる経験値が違うと言われているわ。その功績もメンバー全員が心の中で思っている功績で配分が変わる…………つまり、戦っていなくてもその戦いに最も貢献したと思われれば沢山の経験値が貯まると言われているの」

「なる……ほど?」

「まずね、ソラくんのパーティーの異常性の一つ目はそこ! 全員が同じ量(・・・)の経験値が得られているわ」

「そう……ですね。俺達はいつもこんな感じです。レベルが上がるのも同じタイミングですし」

「…………それはもしかしたら『転職士』の力なのかも知れないわ」

「『転職士』の力…………」

 ミリシャさんの意外な言葉に驚くも、もしそれが本当ならとんでもない力って事くらい、俺にでも分かる。

 フィリアも気づいていなかったみたいで驚いていた。

「えっとね。それはあくまで一つ目(・・・)なの」

 ミリシャさんの続く言葉に少し怖さを感じる。

 俺にも知らない『転職士』の力が明らかになろうとしていた。