冒険者ギルドの広場。

 クラン設立が決まってから数日後、ガレインさんと俺は冒険者ギルドの立ち台の上に並んでいた。

「では、セグリス冒険者ギルドマスターのガレインより、冒険者ソラの『クラン』設立を正式に認める事とする! 新しいクラン『銀朱(ぎんしゅ)蒼穹(そうきゅう)』に永遠の繁栄を!」

「「「「おおおお!!!」」」」

 冒険者ギルドに集まった多くの冒険者、王国の関係者、町民達も多く駆け付けてくれた。

 盛大な拍手を前に、何処か恥ずかしくも誇らしい思いだ。

 これも全てフィリアとカールがいてくれたからこそ、辿り着いた景色に少し目頭が熱くなった。


 俺達のクランの許可が出た後、正式なクラン紋章の制作とクランの名前を決めた。

 紋章は以前フィリア達が考えてくれた盾と複数の武器が交差している絵柄だ。

 名前は色々な案が出たけど、フィリアから「絶対『蒼穹』がいい!」と大空のように、多くの人々を包み込むように――――という願いが込められていると言われたので、『蒼穹』という文字が決まった。

 『蒼穹』という文字だけでは短いので、もう一つの文言を考えていると、今度はカールが「お前らの色を混ぜようぜ」と話した。

 俺の赤い髪の色と、フィリアの金色の髪の色。

 二つを混ぜると『銀朱色』になる。意外とカールのやつ、こういう芸術的な才能があるようで、名前の響きもとても良い感じだと勧めてくれた。

 こうして俺達の『銀朱の蒼穹』というクランが誕生した。



 ◇



 俺は早速冒険者ギルドを通じて、土地の購入に当たった。

 幸いにも亡者の墓を攻略して集めた素材の数々と、高額な『フォースクロース』も売り払って大金を作れた。

 少し心許なかったけど、先輩達からも自分達が住む土地だからと貯金を出して貰い、何とか町の広場の傍に広めの土地を購入出来た。

 更に土地に建てるお店をベリンさん達と建築商会と打ち合わせを始め、決まり次第建てる事となるだろう。

 ゆくゆく多くの孤児院出の人達で運営されるだろうそのお店の入り口には、俺達の『銀朱の蒼穹』の紋章が飾られる予定だ。



「先輩方々……今まで、本当にありがとうございました!」

「いや、こちらこそ、本当にありがとう。ソラくんのおかげで、素晴らしい経験が出来たよ。これからは自分達の力で、この町で頑張ろうと思う。離れてしまうが、これからのソラくんの活躍、楽しみにしているからな!」

「はい! 皆さんのお店に飾られる『銀朱の蒼穹』の紋章に恥じないように、これからも頑張ります!」

 俺がベリンさんと握手を交わし、フィリアとアムダ姉さんとイロラ姉さんは先輩達と抱き合っていた。

「カール。ソラを頼んだぞ!」

「ベリンさん、任せてくれ。俺が隣でビシバシ働かせるからさ」

 カールとベリンさんの握手が終わり、俺達は遂に先輩達と離れる事となった。

 餞別変わりではないが、先輩達には職能をそのままに、経験値アップもそのまま残す事にした。

 新しい店を始めたら仕入れも必要だろうし、力はいくらあっても余るって事はないからね。



 既にクランに所属したフィリア達は孤児院にいられない。

 なので、四人にはそのまま宿屋に泊まって貰う事になった。

 俺は一度家に帰って、書き置きを残す。

 これでも一応俺を生んでくれた両親だから、ちゃんと経済的な援助はしてくれていたから感謝はしている。

 だから、こうして一人で生きていけると書き置きを残した。

 出来れば顔を合わせて挨拶の一つでも、感謝の言葉一つでも言いたいのに、あの両親に会えるまでどれくらいの時間がかかるか分からないから、書き置きだけを残す事にした。


 宿屋は全部で三部屋取っており、俺とカール、アムダ姉さんとイロラ姉さん、フィリアと――――もう一人の為の部屋だ。


「カール。明日だよな?」

「あ、ああ……」

「あはは、カールが緊張するなんて、いつもは逆だから面白いな」

「くっ…………はぁ、上手くいくといいな」

「大丈夫だよ! いつも酒場で良い感じじゃん」

「そうだな、彼女にも少し待たせてしまったから、明日頑張って来るわ」

「おう、必ず連れて来いよ」

「おう」

 俺とカールは、お互いの拳をぶつけた。



 ◇



「ねえねえ、フィリア」

「ん? どうしたの? アム姉」

「うふふ、ソラくんとはどこまで行ったの?」

「えっ!? …………まだ……唇までしか……」

「ええええ!? イロちゃん! これはチャンスよ!」

「えっ!? アム姉!? イロ姉!? チャンスってどういうこと!?」

「ソラくんはまだ……うん。チャンス」

「ま、待ってよ! ソラは渡さないんだからね!?」

「ふふっ、フィリアちゃん、そういうのは早いもん勝ちだよ?」

「既にソラは私のです! 二人より早いんだからね!?」

「フィリア。恋に早さ、関係ない」

「あるから! もぉ……ソラに言い聞かせておかなくちゃ…………」



 女子部屋では新たな試練(?)が始まろうとしていた。



 ◇



 とあるゴキブリな剣聖は、既に無くした利き手である右手を見つめ、怒りに震えていた。

「ゆるさねぇ…………あのクソガキども、覚えてろ…………吾輩が必ず貴様らにも同じ苦痛を与えてやる……!!」

「おい! うるせ! 新米のくせによ!」

 怒りに震えていたアビリオの頭に小さな箱が飛んできて当たった。

「あっ、も、申し訳ございません!」

「さっさと掃除しろ!」

「は、はいっ! た、ただいま!」

 慌てるアビリオは左手にモップを持って、部屋を出た。

 その先には果てしなく続く――――海が見えていた。

 アビリオは慣れた手付きで、船の甲板の掃除を始める。

 その瞳は復讐心に溢れていたが、既にフィリアにボロボロにされ、利き手である右手も無くした彼は戦う能力もなく、落ちぶれていたのだ。