幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。

 二日間、亡者の墓一層で魔物を狩り尽くした。

 幾つかのパーティーが肩を落として帰る姿もちらほら……、以前二層で出会った『蒼い彗星』のリーダーパスケルさんが言っていた冒険者同士は()同士という言葉が、少しは理解できた気がした。

 そして、休日を挟んで、今度は二層にやってきた。

 既に全員のレベルが5となっている。

 あまりの速さにカールですら、半笑いしていた。


「さて、二層からはCランク魔物なので、気を付けてくださいね。レッサーナイトメアがCランク上位とはいえ、同じCランクなので……レッドスケルトンは近接、レイスは遠距離が厄介なので、一層同様見つけたら即攻撃で!」

「「「「おー!」」」」

 今回は広場に他のパーティーが誰もいなかったので、俺達は静かに二層の中に入って行った。

 少し進めた所でレッドスケルトンが現れる。

「四番!」

 弓士隊の先輩の一人が声を上げると、全員が真後ろに向いて、そのまま数人が矢を放ちレッドスケルトンの頭に四本の矢が刺さった。

 この番号はそれぞれの先輩達が全方向を分担して、常に見回っており、俺を中心に前方から見て一番が右前、二番が右、三番が右後ろ、四番は真後ろ、五番が左後ろ、六番が左、七番が左前、八番が正面である。

 八番は基本的にベリンさんが担当している。


 レッドスケルトンの頭に刺さった魔法矢四本。

 まさか一撃で倒せるとは思わなかった。

 つまり…………その日、二層の魔物すら瞬殺していった。

 レイスですら瞬殺し、カールが暇そうにしていたから、僕と一緒に雷魔法で水の精も倒していった。



 ◇



「「「「乾杯ー!!」」」」

 二層の狩りがあまりにも簡単に運んだので帰り、打ち上げとなった。

 酒場『木漏れ日』から歓声があがる。

 ワイルダさん達に二層も簡単だったと話すと、凄く笑われた。

 意外に亡者の墓での収入が多いので、今日もマスターの美味しい料理を堪能した。



 次の日も二層を軽く回って、セグリス町に帰って来た。

 何の難しさもなく、二層も簡単に進んだ。

「ソラ、次の狩りからどうするの?」

「そうだな。このまま三層に――――と思ったんだけど、みなさんには申し訳ないんだけど、このまま四周して貰いたいんだよ」

「四周?」

「ああ、俺のサブ職能の回復士、魔法使い、召喚士、付与術師のレベルを上げたいんだよ。特に召喚士と付与術師は本来ならレベルを上げる方法が独特だから難しいけど、俺は経験値を貰う事で上げられるから、簡単に上げられるから、それが狙いなんだよ。三層はそれからでも遅くないかなと思って」

「そうだね。まだ時間はいっぱいあるからね。それじゃ、一旦ソラのレベルを上げる方向にしようか! 初日は一層、二日目は二層、三日目は休日にして、初日の朝にまた経験値をソラにあげる。感じでいいかな?」

「そうだな。フィリアの言った通りに、暫く続けますので、みなさん、よろしくお願いします!」

「「「「おー!」」」」


 その日からまた三日サイクルが始まった。

 予定通り進み、そのまま三日サイクルを十六週続けた。

 それで俺の四つのサブ職能のレベルが全部5になった。



 ◇



 明日から三層に行く事となるのだが、俺はフィリアとカールと一緒に水の精から拾った『水の魔石』を持って、俺の家に集まった。

「召喚士の召喚魔法なんて、普段見れないから楽しみだな~」

 ワクワクしているフィリアがまた可愛い。

 今回は俺の召喚士がレベル5になって、獲得した魔法『中級召喚』を試そうとしている。

 召喚士はレベル1の基本魔法『光の精召喚』があり、ただ光るだけ(・・・・・・)の精霊を呼び出す魔法があり、召喚士のレベルを上げるにはこの召喚魔法をずっと使い続けなくちゃいけない。

 召喚には媒介(魔石)が必要なので、このレベルを上げるのは中々難しいのだ。

 それでも光の精が明るいランタン代わりにも使えるし、ランタンよりも範囲が広く明るかったり、アンデッド属性の魔物が少し弱体化するという利点があるので、荷物持ち兼光の精係としてパーティーに入れたりするので、頑張ってレベルを上げる召喚士が多い。

 レベル3になった時、『初級召喚』を覚え、5で『中級召喚』、8で『上級召喚』、10で『超級召喚』を覚えて、『超級召喚』を使えるようになれば、中級職能では断トツに最強職能に変わるのだが……それに辿り着ける人はそうそういないのだ。


 初級召喚はあまりにも役に立たないので、中級召喚を覚えたので、早速使って見る事にした。

 両手で水の魔石を持ち上げ、集中する。

「魔法、中級召喚!」

 魔石から魔力の光がゆらゆらと立ち上がる。

 自分の中の魔力がぐーっと減るのを感じる。

 俺の魔法が更に発動して、正面の空中に魔法陣が展開される。

 そして、

 魔法陣から、一体の召喚獣が現れた。



「可愛い~!」

 フィリアが黄色い声を上げ、出て来たばかりの俺の召喚獣に抱き付く。

 抱き付かれた召喚獣は既に状況を把握しているようで、フィリアを一切拒否する事なく受け入れていた。

「……ソラ」

「ん?」

「これはどういう名前の召喚獣なの?」

「ん~種族名が、スカイラビットっていう召喚獣らしい」

 フィリアに抱かれてモフモフしている小さな羽根が生えた可愛らしい兎は、プー! って嬉しそうに鳴き声をあげていた。
「「「可愛い~!」」」

 遂に『亡者の墓』三層に挑戦する日。

 馬車の中では、俺の召喚獣のラビちゃんと名付けたスカイラビットが大人気だった。特に女子組に。

「なんかソラに似てる気がするんだよな」

「うっ……フィリアにも言われた……」

「あはは、なんか目元が似てるというか。周りからモテモテなのもソラそっくりだわ」

「ええええ!? 俺、そんなにモテモテじゃないよ!?」

「あははは! まぁそういう事にしておこう」

 カールにいじられながら、俺達は亡者の墓に辿り着いた。

 一層に入って二層に向かう道中、出逢ったパーティーが全員離れていく。

「ふふっ、亡者の墓一層のパーティーはみんな逃げていくな」

「ああ……ちょっとやりすぎな気が……」

「やりすぎも何もあちらが先に俺らを笑ってきたからな~」

「ま、まぁそうだけど……まぁこのまま三層攻略するから、もう会う事はないかも知れないしな」

 逃げていくパーティーを横目に俺達は二層に進んだ。


 二層の広場では、以前広場にいたパーティーが休んでいた。

 パスケルさんやメリッサさんのパーティーではないところなので、まだ話した事はない。

 俺達を見た彼らは、興味深そうに俺らを見つめていた。

 気にせず、彼らを通り、広場を後にしようとする。

「ほぉ…………少年のパーティーか」

 通り過ぎる途中、リーダーと思われるごつい男性が俺に言葉を投げかけた。

「は、はい」

「そうか…………不思議なパーティーだが、ここを出るという事は……ふむ。――――――少年。良いパーティーを持ったな」

「え? は、はい! 自慢のメンバーです!」

「うむ。楽しみにしている。頑張りなさい」

「あ、ありがとうございます!」

 そして、俺達は広場を後にして三層を目指した。





「ねえねえ、あのパーティーのどこが良いパーティーなの? 人数も越えて(・・・)いるじゃん」

「ああ、確かに越えているが、それでも一緒にいるという事は、人数(・・)を越えたという事なのかも知れない」

「え!? う、嘘!?」

「一層で、弓使いが大勢所属しているパーティーが魔物を一掃していると噂があった。恐らく彼らだろう」

「そりゃ、弓使いなら撃つまで速いし」

「それを続けているのにも関わらず、気付いてないのであれば、それが越えた(・・・)という事なのだろう」

「あ!」

「どういう秘密があるかは分からないが、楽しみだ。あの少年は少し前にレッドスケルトンにすら勝てていなかった。だが、何故か今ではレッドスケルトンすら易々と倒せそうな雰囲気を感じる」

「へぇー、確かに今のあいつなら勝てそうだけど、この短期間で?」

「ああ、いずれ分かるだろう」

 ごつい男のパーティーはソラのパーティーが見えなくなると、一層に戻って行った。



 ◇



 俺達は二層の奥から、三層に続く階段を見つけ、降りた。

 降りる途中、三層部分が暗い事に気づいた。

「もしかして、三層は暗いかも知れないね」

「そうだな、光の精を召喚しておこうか」

 俺は既に光の精と契約を交わしているので、そのまま光の精を召喚する。

 現れた光の精にラビが嬉しそうに近づき、二匹は仲良さげに一緒に飛んだ。

 周囲が光の精のおかげで明るくなって、三層が見え始める。

 そして、俺達は三層に降り立った。


 フィリアと共に周りを見回す。

「雰囲気は今までと変わらないけど、周りが暗いな? 今まで飛んでいた緑色の光る玉が少ないんだな」

「それと、二層と違って降りたところが『安全地域』にはなってなさそうね」

「ああ、必ずしもある訳ではないみたいだからな…………それにしても敵の影も全く見えないな?」

「ん……ちょっと不気味だね」

「…………!? 全員戦闘態勢!」

 俺の声に、全員が迷わず武器を正面に構える。

「敵は見えない相手かも知れない! 全員、何があっても慌てないように!」

 メンバー全員の緊張感が伝わって来る。

 直後、正面から黒い触手のようなモノが飛んでくる。

 後方を狙う黒い触手をベリンさんが割って入り、盾で防ぐ。

 カーン

 触手を弾く音が響き、弓士隊から魔法矢が数発暗闇に撃たれる。

 しかし、当たった音もしなければ、当たった感覚もしない。

 ……。

 ……。

「! 地面に影がある!」

 光の精のおかげで周りが明るいのに、何故か何もない場所の地面に影が出来てる場所があった。

 弓士隊の魔法矢が地面の影に刺さる。

 そして、短い甲高い悲鳴の鳴き声と共に、影から黒くて丸い魔物が出て来てその場から消え去った。

「相手は地面に影になって隠れるタイプかも知れない。半数は地面、半数はそのまま警戒を!」

「「「「はい!」」」」

 俺達はそのまま三層を進める。

 光の精のおかげで周りが良く見える為、地面に隠れている魔物を探しやすかった。

 地面に隠れている魔物は、今の弓士隊の魔法矢が8発分当たって、やっと倒せた。

 今までの魔物とは比べものにならない耐久性に、緊張感が更に増す。


 少し進むと、明かりの先に二層でも見かけた『レイス』が見えた。

「二層のレイスより色が濃い! 上位種だと思います! 先に弓士隊から!」

 俺の後ろから魔法矢が8発放物線を描き、レイスに命中した。

 しかし、矢は不思議なバリアに弾かれて、矢が刺さる事はなかった。

 更に、こちらに気づいたレイスから二種の魔法が放たれた。

「散開!」

 魔法を防がず、避ける指示を出す。

 その隙間に、アムダ姉さんとイロラ姉さんがレイスに向かい、両脇から走り込む。

 次の魔法が撃たれる前に、アムダ姉さんの攻撃が始まる。

「臥竜打!!」

 アムダ姉さんの手に竜の形の気功が纏われ、そのままレイスを殴る。

 矢とは違い、レイスを防いでいるバリアは無く、そのまま吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされ、止まったレイスの首裏にイロラ姉さんの影が見えた。

 そして、両手に持っていた短剣がレイスの首を跳ねる。

 その後、カールから放たれた氷魔法がレイスを貫通して、レイスが消滅した。

 しかし、それはまだ序の口だった。

 すぐにレイスが複数現れる。

 まだ一体でも慣れていないので、メンバーに緊張が走る。





「剣聖奥義、百花繚乱」

 フィリアの綺麗な声が響き、レイスが一瞬で全滅した。
 三層で出現する魔物は全部で二種。

 地面に影の状態で潜れる魔物は『デモンアイ』という魔物で、影から黒い触手を伸ばして攻撃する。強さよりも、厄介な相手だ。

 レイスの上位種は『ハイレイス』という魔物で、レイスを単純に強化したような魔物だけど、それが非常に厄介で、レイスは一種の魔法しか使えないが、ハイレイスは二種の魔法を同時に使う為、攻撃力が数倍も跳ね上がっている。更に厄介なのは、『アローバリア』となるモノを常時使っている為、矢が当たらないという強みを持っているのだ。





「さて、ソラ。これからどうするんだ? 弓士隊がレイスに利かないのは、俺達にとってはかなり不利だぞ?」

「ふむ………………あのバリアってさ。矢なら全部防ぐのかな?」

「実際当たらなかったんだろう? 魔法矢だけでなく、鉄の矢も当たらなかったからな」

「そうだね。でもあのバリアにも何かしら弱点はある気がするんだよ」

「……例えば?」

「ん~至近距離なら当たる……とか?」

「至近距離って……そこまで先輩達に接近して貰うのか?」

「ん~それも難しいよね……」

 カールとレイスについて話していると、

「ソラくん。一ついいかな?」

 弓士隊の先輩の一人が話しかけてくれた。

「実は、弓士のレベル6で得た新しいスキルに『エクスプロードアロー』というスキルがあるんだけど、それならあのバリアで弾かれても爆風を当てられないかな?」

「なるほど……! 一回試してみましょうか!」

 少し道を進めてレイスを見つけた。

 先輩の一人が前に出て、弓矢を引くと、矢が真っ赤な色に染まる。

「エクスプロードアロー!」

 放たれた矢がバリアにぶつかる。

 ドカーン!

 爆発が起き、爆風はバリアに阻まれず、レイスに当たり吹き飛ばした。

「普通の矢と魔法矢を放ってみてください!」

 俺の号令で、後ろから魔法矢と鉄の矢が放たれる。

 そのままレイスに刺さり、レイスは消えていった。

「当たった!?」

 カールが驚く。

 もしかして、あのバリアって……。

「次は作戦を変えます。イロラ姉さん! 次のレイスが見つかったら、レイスの横に向かって貰い、レイスを横に向かせてください」

「あい!」

 そして、現れたレイスにイロラ姉さんが走る。

 横に立つとレイスがイロラ姉さんに向く。

「今です!」

 放たれた魔法矢と鉄の矢が、レイスの前でバリアに防がれる。

「爆発矢を!」

「はい! エクスプロードアロー!」

 爆風で吹き飛ばされたレイスに魔法矢が数本刺さり、消えていった。

「レイスの体勢が崩れれば、矢を防ぐバリアが無くなりますね。これはもしかすると『フォースレイス』にも効くかも知れませんので、みなさんで交互に爆発矢を撃って貰う事になるかも知れません」

「分かった! 既に順番は決めているから任せて!」

 既に先輩達が、そういう状況も話し合っていた事に、少し嬉しさを感じつつ、俺達は『フォースレイス』を目指して、三層を回り始めた。





 暫く歩き回ると、光の精の明かりの向こうに戦うパーティーがいて、その音がここまで聞こえてきた。

 熾烈な戦いの音に、普通の戦いではない事が分かる。

 向かって見ると、二つのパーティーが普通のレイスの三倍は大きい赤黒いレイスと戦っていた。

 あのレイスこそが、俺達が狙っている『フォースレイス』に違いないだろう。

 フォースレイスの周囲には、三層で出現する黒いレイスが大量に現れていた。


「メリッサ!! ハイレイスが溢れ出たぞ!!」

「う、うるさいわね! こちらも魔力がそろそろ切れるからやばいのよ!」

 よくよく見ると青い髪が印象的なパスケルさんと、火魔法を放ちながら今にも倒れそうなメリッサさんがいた。

 二つのパーティーって、二人のそれぞれのパーティーメンバーだったのか。

 総勢十二名で戦っているけど、溢れているハイレイスのせいで今にも崩れそうだ。

 更に、フォースレイスから広範囲の魔法が放たれた。

「くっ! 駄目だ! これ以上は戦えない! そろそろ引くぞ! メリッサ!」

「くっ…………分かったわ!」

「全員退却!!」

 パスケルさんの号令で、全員が逃げ始めた。

 しかし、途中魔力切れ寸前のメリッサさんがその場に倒れる。

「め、メリッサ!」

 メンバーの一人が叫んだ。

 メリッサさんにフォースレイスの魔法が当たる寸前。



「ラビ!!」

「ぷー!」



 俺の召喚獣ラビがメリッサの前に飛んで行き、魔法の前にバリアを展開する。

 フォースレイスの魔法が直撃するが、バリアに一切の傷もなかった。

「えっ? 兎?」

「メリッサ! 走れ!」

 パスケルさんの声に我に返ったメリッサさんが起き上がり、こちらに向かってきた。


「あ、あんたは!?」


「お久しぶりです。一旦後ろで休んでてください」

「っ!」

 通り過ぎるメリッサさんが悔しそうにしていた。

「みなさん。今日は『フォースレイス』を倒すのが目的ではありません。攻撃や性質を研究しますので、危なくなりそうだったらすぐに逃げますよ? 前衛はフィリア、アムダ姉さん、イロラ姉さんも出て貰います」

「「「はい!」」」

「ハイレイスと呼ばれているレイスのバリアの対応で、定期的に爆発矢を放って吹き飛ばしてください!」

「「「「はい!」」」」

「みなさん! 初めてのBランク魔物です! 油断せず行きましょう!」

「「「「おー!」」」」

 初めての『フォースレイス』との戦いが幕をあけた。
 目の前の大きな赤黒いレイスから放たれる殺気がその強さを証明していた。

 以前の俺なら立つのもやっとだったかも知れない。

 これが…………Bランク魔物であり、Bランクの中でも上位クラスとなるBBランク……。

 最初に、前衛三人のフィリア、アムダ姉さん、イロラ姉さんが向かう前に、後ろから爆発矢を一発撃ち込む。

 手前のハイレイスのバリアに当たった爆発矢が爆発し、爆風により全てのハイレイスを吹き飛ばす。

「無理せず、フォースレイスに攻撃!」

 フィリアを中心に、アムダ姉さんとイロラ姉さんの攻撃が始まる。

「カールは待機! 爆発矢は切らさないようにハイレイスを吹き飛ばして!」

「「「「はい!」」」」

「ラビ! 前衛の防衛をお願い!」

「ぷー!」

 ラビもフィリアの元に飛んで行く。

 フォースレイスから複数の広範囲魔法を放つ兆しが見えた。

「みんな! ラビの後ろに!」

 フィリア達がラビの後ろに隠れて、放たれた魔法をラビのバリアで耐える。

「カール、魔法を頭に当てるタイミングを計って欲しい」

「分かった!」

 数秒してフォースレイスの魔法が途切れる。

 それに合わせて体内で数を数える。

 その間にフィリア達の接近攻撃がフォースレイスに直撃するが、びくりともしない。

 というか、大きいから後退りすらしない感じだ。



 …………というより、よくよく見ると、フォースレイスって動いてない?

 彼女達の攻撃が当たっていても、フォースレイスが微動だにしない所か、前進すらしてない?

 そういえば、メリッサさん達が逃げる時も、フォースレイスは決して動いていなかった。


「まだ確証はありませんが、フォースレイスは動かない(・・・)かも知れません! 全員、それを意識しておいてください!」

 丁度、俺の言葉が終わる頃、心の中の数字が50になった時、フォースレイスからまたもや魔法陣が展開される。

「魔法がくる! ラビの後ろに!」

 フィリア達は迷う事なく、ラビの後ろに逃げる。

 その後、放たれた爆発矢が爆発する前にフォースレイスの魔法に巻き込まれて消えていった。

「まずい! ハイレイスの魔法もくる!」

 一所懸命にフォースレイスの魔法を耐えているラビに、起きあがったハイレイス達の魔法が放たれる。


「ぷぅー!!」


 ラビが懸命に耐えるが、明らかにフォースレイスの魔法でぎりぎりなのが見えている。

 その時。

「ごめん! フィリアちゃん。動けなくなるから後はお願い! 奥義! 覇王轟々破!!」

 アムダ姉さんの両手から凄まじい気功の光が溢れ出て、ラビの内側から凄まじい衝撃波が前方の魔法を全て吹き飛ばす。

 魔法が消えた瞬間に、フィリアがアムダ姉さんとラビを抱き締め、後方に向かって走った。


「ソラ! 全力で行くぞ!」

「っ! 全力攻撃!!」

 弓士隊のエクスプロードアローとカールの広範囲魔法がフォースレイスを襲う。

 爆音と爆風が周囲を吹き荒れる。


 フィリアを擁する前衛組が帰ってきた。

「…………フィリア」

「ん?」

「あと数秒でまた広範囲魔法が来ると思う。それを何とか耐えるから、その後来るハイレイス達をお願いしていい?」

「分かった!」

「カール! 広範囲氷魔法を手前に展開させて!」

「おう!」

 カールが手前に氷魔法を展開させる。

「皆さん! エクスプロードアローを氷の前の地面に撃って、爆風で魔法を防ぎますよ!」

「「「「はい!」」」」

 氷の壁が現れ、向こうから魔法陣が展開されたのが見える。

「今です!!」

 爆破矢が放物線を描き、氷の壁を越えて地面に当たり、一気に爆風が荒れる。

 そこにフォースレイスの広範囲魔法がぶつかり、凄まじい爆風を生む。

 ベリンさんが「奥義! 城壁の盾!」と呟き、地面に大盾を叩きつけると、氷の壁の内側に大きな城壁の形をした魔法の壁が現れた。

 爆風でフォースレイスの広範囲魔法が多少減らされるも、氷の壁に直撃、少しして、氷の壁をも貫く。

 ドカーーン!

 魔法を魔法の壁が防ぎ、ベリンさんが大声を出しながら耐える。



 あと三秒。



 二秒。



 一秒。



「魔法が止む! 全力攻撃!」



 俺の号令の後、フォースレイスの広範囲魔法が終わり、目の前に美しい魔力の残滓(ざんさい)が広がり、向こうに、大きな赤黒いレイスの姿が視界に入る。

「ぷぅー!」

 ラビの鳴き声が響き、赤い色の複数の矢がフォースレイスに向かって放たれる。

 その合間に、時が止まったかのように、美しいフィリアの声が聞こえた。



「剣聖奥義、百花繚乱」



 矢がハイレイスに当たる前に綺麗な花びらのような剣戟の流れと共に、ハイレイス達が全て消滅する。

 消滅したハイレイスの間を潜り、赤い色の矢がフォースレイスに直撃した。

 その後からも放たれる矢でフォースレイスが凄まじい爆炎に包まれる。


 ……。

 ……。

 ……。



 爆炎が終わった後、そこにいたはずの赤黒いレイスの姿はなかった。

 不思議と周囲にいたハイレイスの姿も全て消えていた。


「か、勝った!!!」

「「「「うおおおお!!!」」」」





 その日、亡者の墓三層で『フォースレイス』に初めて挑戦したソラのパーティーが勝利した事が、瞬く間にセグリス町に広まった。

 多くの冒険者がソラのパーティーの噂で持ち切りとなる。

 沼地での活躍や、亡者の墓一層の多くのパーティーからの噂で、ますますソラのパーティーの噂は加速するのであった。
 フォースレイスを倒して帰って来てから、みんなで泥のように眠りに付いた。

 次の日起きたら、ベッドの中でフィリアも一緒に倒れるように寝ていた。

 静かに寝息を立てて眠っている彼女が可愛らしい。

 まだ昨日のフォースレイスとの戦いの興奮が収まらず、少し震える自分の手を見つめた。

「勝ったんだ…………」

 思わず、ポツリと言葉を漏らしてしまった。

「ん…………ソラ?」

「あ、起こしてしまった。ごめん」

「ううん、…………どうしたの?」

「……昨日の戦いを思い出してさ」

「ふふっ、昨日は頑張ったもんね」

「ああ、でも俺だけじゃない。みんなが頑張ってくれたおかげだよ。戦いの最中に何度も仲間に助けられたな」

「うん。私達……遂に勝ったんだね」

「ああ。でもここからが始まりだ。フィリア、これからも――――」



「あ~あ~、ここは甘いお花畑なのかしらね~」



 窓の外からアムダ姉さんの声が聞こえた。

「あはは…………フィリア、行こうか?」

「うん!」

 俺はフィリアと手を繋ぎ、家を後にした。



 ◇



「いらっしゃい。ソラくん」

「こんにちは、ガレインさん」

 俺達は冒険者ギルドから呼ばれ、フィリア、カール、アムダ姉さん、イロラ姉さんと五人でガレインさんの所にやってきた。

「よく来てくれた。早速だが――――『フォースレイス』の討伐おめでとう」

「あ、ありがとうございます。もうガレインさんに届いているんですね」

「そうだとも。『フォースレイス』を倒したパーティーの噂が広まらないはずもない。今ではソラくんのパーティーは一躍有名だよ?」

「ええええ!? そんなに早くですか?」

「ああ。冒険者ギルドでもすぐに噂が広まってくれてね」

「なるほど……だから既に知っていたんですね」

 ガレインさんが「うんうん」と頷く。

「それで、どうして呼ばれたんですか?」

「ん? 君は不思議な事を聞くね? 『フォースレイス』を目指した理由を忘れたのかい?」

「えっ? 確かに僕達は『フォースレイス』を倒したんですが…………まだクランの目標は達成出来てないんですけど……?」

「ん? 達成出来てない? どういう事だい?」

 ガレインさんがキョトンとする。

 俺達の目標は『フォースレイス』を倒して『フォースクロース』を持ってくることだ。

 ただ、既に『フォースクロース』は持っている。ちゃんとフィリアが守ってくれている。

 俺達に足りないのは…………

「だって、俺達はフィリアと一緒に(・・・)倒したんですよ?」

「ん? あ~なるほど! つまり、君は、『剣聖』であるフィリアくんと同じパーティーで『フォースレイス』を倒してしまったから、今回の試練(・・)は突破出来なかったと」

「え、ええ」

「あははは~ソラくん。君は本当に面白いね! うん。本当に気に入ったよ!」

 ガレインさんが大笑いした。

 それを俺達は不思議そうに見つめる。



「僕は君に剣聖くんと同じパーティーであってはならないとは一言も言ってないんだけどね?」



 ガレインさんの言葉に、俺の思考が停止する。

 え?

 フィリアと一緒に戦って良かったの?

 あの剣聖のフィリアと?

「ふむ、みんな納得いかない顔だね。フィリアくんが剣聖なのは知っているが、剣聖くらい(・・・)で『フォースレイス』は倒せないよ? あの魔物の別名は『絶望の軍団』さ。軍団と付く理由を君達は味わったのだろう?」

「あ……もしかして、ハイレイスがあんなに大量に現れたのって……」

「ああ、フォースレイスの取り巻きさ。あれは倒しても倒してもずっと現れ続ける。生半可なパーティーなら耐える事すら出来ないのさ」

 ガレインさんの言葉に、フォースレイス戦を思い浮かべると、確かにその通りだと思う。

 あのハイレイス達の魔法の数と、フォースレイスは単純だが、強力過ぎる広範囲魔法はフォースレイスの耐久が減れば減るほど強くなるのは、絶望に等しいのだろう。

「そんな相手に剣聖をたった(・・・)一人入れたくらいで勝てた君の実力を、ギルドマスターとして高く評価せざるを得ないのさ。だから、ソラくん。この試練を乗り越えた君だからこそ、セグリス冒険者ギルドマスターとして、君に今一度聞こう」

 最も聞きたかった言葉。

 俺達がずっと目指してきた道のり。

 周りの人々からすれば、俺達の努力は速かったかも知れない。

 人よりも努力をしてないように見えているかも知れない。

 それでも、俺達は決して楽な道を歩んでいない事を知っているし、俺達を見て来た沢山の人々もそれを分かってくれた。

 だからこそ、俺達はこれからも前を向いて走り続けたいと思う。





「ソラくん。クランを結成するかい?」



「はい! よろしくお願いします!」

「分かった。セグリス冒険者ギルドマスターとして、ソラくん。君のクランを正式的に許可する」





 この日。

 セグリス冒険者ギルドマスターのガレインの承認により、一つのクランが誕生した。

 その報せは王国だけでなく、隣国にも広まる事となり、瞬く間に広まる事となった。

 何故瞬く間に広まったのか。

 それには二つの理由がある。

 一つ目は、冒険者ギルドマスターのガレインという史上最強(・・)と呼ばれている男が唯一認めたクランである事。

 二つ目は、そのクランマスターが『転職士』であるからだ。



 こうして『転職士』のクランマスターが誕生する事によって、王国は、いや、世界は大きく変わろうとしていた。




 ――――『一章』後書き――――

 日頃『幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。』を読んで頂きありがとうございます!

 この話で『一章』が終わりとなります。一章のテーマはクランを設立するまでの話を書いております。

 ソラだけでなく、フィリアとカール、アムダやイロラ、先輩達の頑張る姿をしっかり書けたと思っております。

 ここまで読んで頂けた方なら既に作品フォローはしてくださっていると思いますが、この先も楽しみだと思われた方は、是非作品フォローと★を3つ入れて頂けると作者のモチベが上がり、これからの執筆も頑張ります!


 さて、ここからの進行の件になりますが、二章からはソラくん達のクランの話となります。

 一章で猛威を奮っていた弓士隊は卒業してセグリス町に残りますが、ソラ達の冒険が新たに始まります。

 それに伴い、また魅力的な仲間が増える予定でございます。

 新たな仲間やソラ達の活躍を楽しみに待ってくださると嬉しいです!


 作者御峰はこれからも精力的に執筆を頑張っていきますので、読者様の温かい応援を心からお待ちしております! よろしくお願いします!


 あ、それと明日から一話投稿に戻りますのでよろしくお願いします!
 冒険者ギルドの広場。

 クラン設立が決まってから数日後、ガレインさんと俺は冒険者ギルドの立ち台の上に並んでいた。

「では、セグリス冒険者ギルドマスターのガレインより、冒険者ソラの『クラン』設立を正式に認める事とする! 新しいクラン『銀朱(ぎんしゅ)蒼穹(そうきゅう)』に永遠の繁栄を!」

「「「「おおおお!!!」」」」

 冒険者ギルドに集まった多くの冒険者、王国の関係者、町民達も多く駆け付けてくれた。

 盛大な拍手を前に、何処か恥ずかしくも誇らしい思いだ。

 これも全てフィリアとカールがいてくれたからこそ、辿り着いた景色に少し目頭が熱くなった。


 俺達のクランの許可が出た後、正式なクラン紋章の制作とクランの名前を決めた。

 紋章は以前フィリア達が考えてくれた盾と複数の武器が交差している絵柄だ。

 名前は色々な案が出たけど、フィリアから「絶対『蒼穹』がいい!」と大空のように、多くの人々を包み込むように――――という願いが込められていると言われたので、『蒼穹』という文字が決まった。

 『蒼穹』という文字だけでは短いので、もう一つの文言を考えていると、今度はカールが「お前らの色を混ぜようぜ」と話した。

 俺の赤い髪の色と、フィリアの金色の髪の色。

 二つを混ぜると『銀朱色』になる。意外とカールのやつ、こういう芸術的な才能があるようで、名前の響きもとても良い感じだと勧めてくれた。

 こうして俺達の『銀朱の蒼穹』というクランが誕生した。



 ◇



 俺は早速冒険者ギルドを通じて、土地の購入に当たった。

 幸いにも亡者の墓を攻略して集めた素材の数々と、高額な『フォースクロース』も売り払って大金を作れた。

 少し心許なかったけど、先輩達からも自分達が住む土地だからと貯金を出して貰い、何とか町の広場の傍に広めの土地を購入出来た。

 更に土地に建てるお店をベリンさん達と建築商会と打ち合わせを始め、決まり次第建てる事となるだろう。

 ゆくゆく多くの孤児院出の人達で運営されるだろうそのお店の入り口には、俺達の『銀朱の蒼穹』の紋章が飾られる予定だ。



「先輩方々……今まで、本当にありがとうございました!」

「いや、こちらこそ、本当にありがとう。ソラくんのおかげで、素晴らしい経験が出来たよ。これからは自分達の力で、この町で頑張ろうと思う。離れてしまうが、これからのソラくんの活躍、楽しみにしているからな!」

「はい! 皆さんのお店に飾られる『銀朱の蒼穹』の紋章に恥じないように、これからも頑張ります!」

 俺がベリンさんと握手を交わし、フィリアとアムダ姉さんとイロラ姉さんは先輩達と抱き合っていた。

「カール。ソラを頼んだぞ!」

「ベリンさん、任せてくれ。俺が隣でビシバシ働かせるからさ」

 カールとベリンさんの握手が終わり、俺達は遂に先輩達と離れる事となった。

 餞別変わりではないが、先輩達には職能をそのままに、経験値アップもそのまま残す事にした。

 新しい店を始めたら仕入れも必要だろうし、力はいくらあっても余るって事はないからね。



 既にクランに所属したフィリア達は孤児院にいられない。

 なので、四人にはそのまま宿屋に泊まって貰う事になった。

 俺は一度家に帰って、書き置きを残す。

 これでも一応俺を生んでくれた両親だから、ちゃんと経済的な援助はしてくれていたから感謝はしている。

 だから、こうして一人で生きていけると書き置きを残した。

 出来れば顔を合わせて挨拶の一つでも、感謝の言葉一つでも言いたいのに、あの両親に会えるまでどれくらいの時間がかかるか分からないから、書き置きだけを残す事にした。


 宿屋は全部で三部屋取っており、俺とカール、アムダ姉さんとイロラ姉さん、フィリアと――――もう一人の為の部屋だ。


「カール。明日だよな?」

「あ、ああ……」

「あはは、カールが緊張するなんて、いつもは逆だから面白いな」

「くっ…………はぁ、上手くいくといいな」

「大丈夫だよ! いつも酒場で良い感じじゃん」

「そうだな、彼女にも少し待たせてしまったから、明日頑張って来るわ」

「おう、必ず連れて来いよ」

「おう」

 俺とカールは、お互いの拳をぶつけた。



 ◇



「ねえねえ、フィリア」

「ん? どうしたの? アム姉」

「うふふ、ソラくんとはどこまで行ったの?」

「えっ!? …………まだ……唇までしか……」

「ええええ!? イロちゃん! これはチャンスよ!」

「えっ!? アム姉!? イロ姉!? チャンスってどういうこと!?」

「ソラくんはまだ……うん。チャンス」

「ま、待ってよ! ソラは渡さないんだからね!?」

「ふふっ、フィリアちゃん、そういうのは早いもん勝ちだよ?」

「既にソラは私のです! 二人より早いんだからね!?」

「フィリア。恋に早さ、関係ない」

「あるから! もぉ……ソラに言い聞かせておかなくちゃ…………」



 女子部屋では新たな試練(?)が始まろうとしていた。



 ◇



 とあるゴキブリな剣聖は、既に無くした利き手である右手を見つめ、怒りに震えていた。

「ゆるさねぇ…………あのクソガキども、覚えてろ…………吾輩が必ず貴様らにも同じ苦痛を与えてやる……!!」

「おい! うるせ! 新米のくせによ!」

 怒りに震えていたアビリオの頭に小さな箱が飛んできて当たった。

「あっ、も、申し訳ございません!」

「さっさと掃除しろ!」

「は、はいっ! た、ただいま!」

 慌てるアビリオは左手にモップを持って、部屋を出た。

 その先には果てしなく続く――――海が見えていた。

 アビリオは慣れた手付きで、船の甲板の掃除を始める。

 その瞳は復讐心に溢れていたが、既にフィリアにボロボロにされ、利き手である右手も無くした彼は戦う能力もなく、落ちぶれていたのだ。
「あ、あの! み、ミリシャさん! 俺達のクラン『銀朱の蒼穹』に入っては貰えないでしょうか!」

 カールは冒険者ギルドの受付嬢のミリシャとレストランで食事を終えていた。

 満を持して美しい青い色に光るネックレスを前に出して、誘うカール。

 二つのネックレスがテーブルの上で光り輝く。

「カールくん…………私、カールくんよりも七つも上だよ?」

「関係ありません! 俺は…………ミリシャさんが好きなんです」

 カールの言葉に目を潤ませるミリシャ。

 可愛らしい外見に豊満なモノを持っているミリシャは、冒険者の中でも非常に人気がある受付嬢である。

 それでも、彼女を真剣に好いてくれる人は現れず、誰もが遊び半分(・・・・)で彼女に近づく。

 十五歳で成人を迎えるこの世界で、十八歳までに相手がいた事がないのは、珍しいパターンでもあった。

「まだ俺は成人もしていませんが、この想いは本物だと思ってます。このネックレスは俺の覚悟です」

 そのネックレスがどれほどの値打ちのものなのか、どんな意味が込められているか、ミリシャは誰よりも知っていた。

「うん……じゃあ、カールくんが成人するまで()で待ってる……それでも私が良いと言うなら…………」

「っ!? では!?」

 笑顔のミリシャが答える。

「ええ、クランの件。受けるわ。これからよろしくお願いします」

 カールは声にならない声で立ち上がり、その場でガッツポーズをした。



 ◇



「ミリシャさん! いらっしゃい!」

「ソラくん――――これからよろしくお願いします。クランマネージャなら任せてください」

「はい! ミリシャさんならとても信頼できます! これからもよろしくお願いします!」

 俺はミリシャさんと握手を交わした。

 隣のカールが嬉しそうにニヤニヤしている。

 カール……顔が緩み過ぎだぞ……。



「それではこれからどうするかを考えます」

 テーブルを囲い、みんなが頷く。

「このままセグリスを拠点にするのもいいんですが、折角のクランですから、色んな場所を見て回りたいと思ってます」

「「「賛成ー!」」」

「でも俺は地理とか詳しくないので、ここは一つ、我らがマネージャ殿に意見を求めようと思います!」

「「「賛成ー!」」」

 俺達は新しく仲間になったミリシャさんに注目した。

「ごほん、新しくマネージャーになりましたミリシャです。私に戦う術はないので、知識で皆さんのサポートをさせて頂きますね。ではまず王国の事から――――――」

 ミリシャさんから俺達が住んでいる王国の説明があった。



 王国の名前は『ゼラリオン王国』。

 大陸の北側に属している王国で、西側に『ミルダン王国』がいて、仲は良好。

 ゼラリオン王国はボアを始めとする豊かな動物系統の魔物が多いので主に肉の生産で財を成している。

 ミルダン王国は森が多い為、果物や野菜が多く採れる国である。


 両国の南側には『ソグラリオン帝国』があり、大陸の中心地から栄え、大陸の半分を支配している最強国である。

 ゼラリオン王国もミルダン王国もソグラリオン帝国との仲はそれほど悪くはないが、常に好戦的な帝国にびくびくしている状況である。


 ソグラリオン帝国から東側には『魔女の森』が広がっており、王国の大きさほどの森が存在しているが、帝国すら足を踏み入れないその地は、『魔女王の国』と呼ばれている。


 帝国の南に行くと、大陸では珍しい砂漠が広がっており、太陽王と名乗る王が支配している『アポローン王国』があり、非常に交戦的な為、帝国と長年戦いを繰り広げているが、帝国は不毛の地である砂漠に未来を感じず、防戦一方である。

 しかし、アポローン王国だけが生産出来るという『太陽酒』は大陸最高の酒として有名であり、それだけでアポローン王国の財を成せるほどだ。


 帝国の西側には『エリア共和国』という国があり、五つの州によって構成されたその国はそれぞれの代表の五人によって統制される国である。

 殆どの法や決まり事は、全て代表の多数決で決められる。

 大陸の国の中で、一番貿易に力を入れている為、彼らは全ての国に太いパイプを持ち、物資だけでなく情報も集めて財を成している国である。


 最後に、帝国から最も離れた南西側に大陸で最も小さな国が一つある。

 その地は、大きな山脈に閉ざされ、唯一の道が帝国から一本だけ繋がっている国であり、その一本道でもとても遠い場所にあり、その向こうには『アクアソル王国』という国がある。

 その国の主な産業は『観光』であり、大陸随一の休暇の地として有名で、代々女王により統治されている国だが、実際は大きな街が一つあるだけの国である。



 そして、これらの国が存在しているこの大陸は『ソグラ大陸』と名付けられている。

 『ソグラ大陸』から北側、東側にそれぞれ大陸が存在するが、それはまたいずれ……。





「はい、以上が私達が住んでいる『ソグラ大陸』についてでした」

 パチパチパチパチ――

 ミリシャ先生の説明が終わり、俺達は拍手を送る。

 ミリシャさんはとても聡明で、知識豊なので、これからの俺達のクランにはかけがえのないマネージャとなるだろう。

 カールのおかげで、素晴らしい人材が入ってくれた事に感謝だ。


「色んな国を見回るのは勿論いいんだけど、最初に行くべきは、やはり私達の国『ゼラリオン王国』の首都のゼロリオン王都に行ってみるべきかしらね!」


 こうして、俺達の行く先が決まった。

 既に旅費はそれなりに用意してあるので、明日から早速馬車でゼロリオン王都を目指す事となった。
 俺達はセグリス町から馬車に乗り込み、西に向かってセグリス町を発った。

 目標はゼロリオン王都。まずは世界の広さを見たいからだ。

 そして、馬車の中。


「ミリシャさん。職能ないんですよね?」

「え? え、ええ、そうね」

「もし良かったら、欲しい職能がありましたら付けますよ?」

「へ?」

 ポカーンとしてるミリシャさん。

「ミリシャさん。ソラは『転職士』。職能を与える事が出来るんですよ」

「あー! そ、そう言えばそうだったわね! クランマスター史上初の『転職士』だったものね……すっかり忘れていたよ」

「ミリ姉! うちのソラは凄いんだからね?」

 フィリアが自慢げに言う。

 それもこれもみんなのおかげなんだけどね。

「戦闘に慣れていないのなら支援職でもいいかも知れません。おすすめとしては『召喚士』『付与術師』『回復士』あたりですかね~『魔法使い』になってカールと一緒に魔法を使ってもいいかも」

「お、ソラ、中々良いアイデアだな! 魔法使いがいいかも知れないな」

「カール、魔法使いはカールだけでいいでしょう! 私のおすすめは回復士かな?」

 カールとフィリアの言い合いが始まった。

 二人のそういう姿も久しぶりに見るので微笑ましい。

「ソラくん……?」

「はい?」

「今の職能って……全部中級職能なんじゃ……?」

「あ、そうですよ。俺は中級職能まで転職出来ますから」

 それを聞いたミリシャさんが更に驚く。

 そんなに驚く事なのだろうか?

「中級職能を与える事が出来るなんて……それを知られたら色んな所から攫われるわよ……?」

「え? そんなにですか?」

「それもそうよ。中級職能持ちだけでも貴重なのに、選べられるなんて……しかもしれっと『回復士』や『魔法使い』も入っているし…………ソラくんのパーティーが強いのも少し納得したわ」

「ミリ姉! ソラの強さはこんなもんじゃないからね!」

「えっ!? まだあるの!?」

「うん! それはまたの楽しみに!」

 いたずらっぽく笑うフィリアがまた可愛い。


 その後、カールはフィリアから「ミリ姉から回復されたら嬉しくないの?」と言われ、一瞬で「回復士でお願いします!」と答えていた。



 ◇



 馬車はセグリス町の西側にある『ムンプス町』で止まった。

 本日はここまでらしいので、俺達は『ムンプス町』で三日ほど滞在する事にして馬車乗り場を後にした。

 その日はそのまま泊まり、次の日、折角だからミリシャさんのレベル上げも兼ねて、狩りに出掛けようという話になり、ムンプス町から南にあるムンプス森にやってきた。

 冒険者ギルドで聞いた話では、Dランクの魔物が三種出るようだ。

 最初に見かけたのは大きな栗鼠で、カールの魔法一撃で沈んだ。

 次に現れたのは小型狼で、狼というよりは可愛らしい犬だったけど、鋭そうな歯にすばしっこい動きで、Dランクの中では中々に強いらしい。更に群れで動く為、ビッグボア以上に怖い相手のようだ。

 イロラ姉さんが小型狼に向かって走り、舞うように小型狼を通り過ぎると、小型狼達が全員倒れた。

 最後の三種目は動きが遅いけど、硬い事で有名なゴーレムだった。

 目の色を変えたアムダ姉さんが「発勁!」と唱えながらゴーレムを数回殴ると、ゴーレムは成す術なくその場で崩れた。

 …………いつの間にメンバーがこんなに強くなって驚いた。

 その日は、ミリシャさんの回復魔法を試しつつ、ムンプス森で旅費稼ぎがてら魔物を大量に狩った。

 大量の魔物を積んだ台車を引いていると、ムンプス町の町民達が驚いた目で見てくる。

 俺達はそのまま冒険者ギルドに全部買取をお願いして、酒場で食事にした。



「ソラくん達の強さを疑ったわけじゃないんだけど……本当に強いんだね」

「僕も驚きました。メンバー全員、とても強くなりましたね」

「ふふっ、それも全部ソラのおかげね!」

「そんな事ないよ! 俺だってフィリアがいなかったら、ここまで来れなかったからね」

「えへへ」

「え~ん、ソラくんが私達の事が全然(・・)役に立ってないって言った~」

「えええええ!? アムダ姉さん!? 言ってませんよ! アムダ姉さん達のおかげですからね!」

「「「あははは~」」」

 と、俺達が楽しく食事をしていると。



「ここはおままごとの場所じゃねぇぞ! ガキはさっさと帰って母ちゃんのおっ――――」

 向こうから俺達に向かって大声を吐き出す酔っ払いがいたんだが、喋っている途中に、フィリアが胸の紋章を見せつける。

「へぇ…………私達『銀朱の蒼穹』がおままごと……ね?」

「あ、あ、は?」

 フィリアの目だけで魔物を倒せそうな冷たい視線がおっさんを襲う。

「ひ、ひぃ~!」

 転げ落ちたおっさんは酒場から逃げ出すように去って行った。


 騒がしかった酒場が静寂になった。

 周りが俺達の紋章を見ると、少しバカにしていた声もすっかり無くなった。

 『クラン』というモノの影響力がここまで大きいんだと、改めて知る事ができた。
「ほぉ……新しいクランは子供で構成されているのか」

「はっ」

「更にそこに入っている女がまた良い女と」

「はっ」

「くっくっくっ、しかもこのまま我が領(・・・)を通り過ぎるのだな?」

「はっ、間違いありません。今頃はムンプス町にいるはずですが、恐らく王都を目指しているのでしょう。必ず通るモノだと思われます」

「くっくっくっ、でかした! いつもの連中を集めておけ」

「はっ!」

 豪華な部屋でワイングラスを揺らし、嫌らしい笑みを浮かべた男が、窓の外を眺めた。

「きひひひひ、また楽しみが増えたな」

 男の視線がベッドに向く。

 ベッドには短い黒髪の美しい女性が一人倒れていた。



 ◇



 ムンプス町で二日ほど泊まって、三日目に俺達は再度馬車に乗り込み、王都を目指した。

「王都に着く前に、ゲシリアン子爵領を通るわ。ただ……その子爵は、あまりいい噂を聞かないの」

「えっと…………どんな噂ですか?」

 ミリシャさんは俺達を一箇所に集め、小さい声で話し始めた。

「脅迫はもちろん、詐欺も多数、領民に無理難題を課して娘を奪うのも日常茶飯事。更には彼に関わった女性冒険者が引退する事態が後を絶たないわ」

 ミリシャさんの情報だけ聞いても、既にその子爵が如何に救いようがないか、俺でも分かるくらいだ。

「だからね? もし、彼から何らかの依頼(・・)が来た場合は、そのつもりで対応した方がいいわ」

「……権力を盾に…………許せない」

「みんないい? 相手は子爵家よ。絶対に敵対してはならない。それだけは忘れないで。王国を敵に回した場合、私達の知り合いにまでその火の粉が及ぶわ」

「分かりました。ではその子爵領は急いで通り抜ける事にしましょう」

「そうね……と言いたいんだけど、少し難しいかも」

「難しい?」

「ええ、あの領地には何故か通り抜ける馬車の便が存在しないわ。だから必ず一泊しなくちゃいけないの」

 恐らく、その一泊させるのも、わざとなのかもね。

「……では町では全員一緒に行動するようにしましょう。もし離れる場合は必ず二人以上で動きましょう」

「「「分かった」」」

 俺達は不安を胸に、馬車に揺られゲシリアン子爵領に入った。



 最初に着いたのはゲシリアン子爵領のアンダセン町で、子爵領で最も貧しい町だと馬車の御者さんが教えてくれた。

 貧しいので、食料やお金を盗まれる事も多いらしい。

 町の唯一の宿屋に向かうも、値段は普通の宿屋より二倍はふっかけられ、部屋の掃除も行き届いていなかった。

 窓を開けると、ラビが鳴き声を発して弱い風を起こし、部屋中のごみを窓の外にまとめて掃き出した。

「ラビちゃん! ナイス!」

 アムダ姉さん達がラビを撫でまわす。

 実は子爵領では大部屋一つに全員で泊まる事にした。

 フィリア達は元々孤児院で同じ部屋で泊まっていたので、問題なかったのだが、ミリシャさんが心配だったのだけど、元々冒険者ギルドで働いていただけあって、こういう事に拒絶感は全くないらしくて、快く承諾してくれた。

 掃除も終わらせ、俺達は食事を取っていた。



「あ、あの……」

 食事していた場所の傍には窓があり、窓の外で同年代くらいの女の子がこちらに声を掛けていた。

「ん?」

「あ、あの……なんでもいいので、少し食べ物を恵んでは頂けないでしょうか……」

 よくよく見ると彼女の身体はやせ細っていた。

「ソラくん。あげちゃダメよ」

 それを見ていてミリシャさんが話す。

「え? でも……なんだか可哀そうで……」

「気持ちはわかるけど、きっと後悔することになるわよ?」

 ミリシャさんは意味深な言葉を口にしたけど、俺は持っていたパンを二つ、窓から彼女に渡した。

 彼女は満面の笑みで感謝をし、そのまま逃げ帰るように帰っていった。

「…………、ソラくんが優しいのは分かっているけど、まぁ今回は良い勉強になると思う。みんなもよく見ておいてね」

 ミリシャさんの言葉を俺達は心に刻み、その日はゆっくり休んだ。

 その言葉が意味することが何なのかなど、全く分からなかった俺達だったが、次の日にその意味を知る事となった。



 ◇



 次の日。

 俺達は宿屋を後にし、馬車乗り場に向かった。

 その時。

「あ、あの! お、お兄さん!」

 どこかで聞いた声が聞こえ、振り返ると、昨日食べ物を恵んであげた女の子と、その後ろに数十人の子供達が並んでいた。

「っ!?」

「……やはり、来たわね」

「えっと……君は、確か昨晩の?」

「は、はい! 昨日はありがとうございました! おかげで弟と妹達が沢山(・・)食べれました!」

 昨日渡したパン二つでは、到底この人数が食べれたとは考えにくいけど……。

「そ、その……図々しいお願いで申し訳ないんですが、もしよろしければ――――」



「悪いけど、君たちに恵んであげるほど、私達に余裕はないわ」



 ミリシャさんが慣れた仕草で前に出た。

 ああ……昨晩話していた事は、こういう事だったんだね。

 一度恵んであげたら、ずっとお願いされる。

 更に多くの子供達を連れてくれば、より沢山の恵みを貰えるかも知れないという算段。

 それが彼女達の…………孤児院がない(・・)孤児たちの生きる術なのだと理解した。

「ミリシャさん」

「ソラくん?」

「話は分かりました。みんなには申し訳ないけど、この件。俺の所為(・・)なのだから、俺に任せてくれないかな?」

 すると、フィリアは

「クランマスターはソラよ。ソラのやりたいようにやっていいと思う」

 それにアムダ姉さんとイロラ姉さんも手を挙げ、

「「賛成ー!」」

 と言ってくれた。

 それを見ていたカールとミリシャさんが溜息を一つ吐いて、小さく笑った。



「「それでこそ、私(俺)が認めたソラくん(親友)だしね」」