三層で出現する魔物は全部で二種。

 地面に影の状態で潜れる魔物は『デモンアイ』という魔物で、影から黒い触手を伸ばして攻撃する。強さよりも、厄介な相手だ。

 レイスの上位種は『ハイレイス』という魔物で、レイスを単純に強化したような魔物だけど、それが非常に厄介で、レイスは一種の魔法しか使えないが、ハイレイスは二種の魔法を同時に使う為、攻撃力が数倍も跳ね上がっている。更に厄介なのは、『アローバリア』となるモノを常時使っている為、矢が当たらないという強みを持っているのだ。





「さて、ソラ。これからどうするんだ? 弓士隊がレイスに利かないのは、俺達にとってはかなり不利だぞ?」

「ふむ………………あのバリアってさ。矢なら全部防ぐのかな?」

「実際当たらなかったんだろう? 魔法矢だけでなく、鉄の矢も当たらなかったからな」

「そうだね。でもあのバリアにも何かしら弱点はある気がするんだよ」

「……例えば?」

「ん~至近距離なら当たる……とか?」

「至近距離って……そこまで先輩達に接近して貰うのか?」

「ん~それも難しいよね……」

 カールとレイスについて話していると、

「ソラくん。一ついいかな?」

 弓士隊の先輩の一人が話しかけてくれた。

「実は、弓士のレベル6で得た新しいスキルに『エクスプロードアロー』というスキルがあるんだけど、それならあのバリアで弾かれても爆風を当てられないかな?」

「なるほど……! 一回試してみましょうか!」

 少し道を進めてレイスを見つけた。

 先輩の一人が前に出て、弓矢を引くと、矢が真っ赤な色に染まる。

「エクスプロードアロー!」

 放たれた矢がバリアにぶつかる。

 ドカーン!

 爆発が起き、爆風はバリアに阻まれず、レイスに当たり吹き飛ばした。

「普通の矢と魔法矢を放ってみてください!」

 俺の号令で、後ろから魔法矢と鉄の矢が放たれる。

 そのままレイスに刺さり、レイスは消えていった。

「当たった!?」

 カールが驚く。

 もしかして、あのバリアって……。

「次は作戦を変えます。イロラ姉さん! 次のレイスが見つかったら、レイスの横に向かって貰い、レイスを横に向かせてください」

「あい!」

 そして、現れたレイスにイロラ姉さんが走る。

 横に立つとレイスがイロラ姉さんに向く。

「今です!」

 放たれた魔法矢と鉄の矢が、レイスの前でバリアに防がれる。

「爆発矢を!」

「はい! エクスプロードアロー!」

 爆風で吹き飛ばされたレイスに魔法矢が数本刺さり、消えていった。

「レイスの体勢が崩れれば、矢を防ぐバリアが無くなりますね。これはもしかすると『フォースレイス』にも効くかも知れませんので、みなさんで交互に爆発矢を撃って貰う事になるかも知れません」

「分かった! 既に順番は決めているから任せて!」

 既に先輩達が、そういう状況も話し合っていた事に、少し嬉しさを感じつつ、俺達は『フォースレイス』を目指して、三層を回り始めた。





 暫く歩き回ると、光の精の明かりの向こうに戦うパーティーがいて、その音がここまで聞こえてきた。

 熾烈な戦いの音に、普通の戦いではない事が分かる。

 向かって見ると、二つのパーティーが普通のレイスの三倍は大きい赤黒いレイスと戦っていた。

 あのレイスこそが、俺達が狙っている『フォースレイス』に違いないだろう。

 フォースレイスの周囲には、三層で出現する黒いレイスが大量に現れていた。


「メリッサ!! ハイレイスが溢れ出たぞ!!」

「う、うるさいわね! こちらも魔力がそろそろ切れるからやばいのよ!」

 よくよく見ると青い髪が印象的なパスケルさんと、火魔法を放ちながら今にも倒れそうなメリッサさんがいた。

 二つのパーティーって、二人のそれぞれのパーティーメンバーだったのか。

 総勢十二名で戦っているけど、溢れているハイレイスのせいで今にも崩れそうだ。

 更に、フォースレイスから広範囲の魔法が放たれた。

「くっ! 駄目だ! これ以上は戦えない! そろそろ引くぞ! メリッサ!」

「くっ…………分かったわ!」

「全員退却!!」

 パスケルさんの号令で、全員が逃げ始めた。

 しかし、途中魔力切れ寸前のメリッサさんがその場に倒れる。

「め、メリッサ!」

 メンバーの一人が叫んだ。

 メリッサさんにフォースレイスの魔法が当たる寸前。



「ラビ!!」

「ぷー!」



 俺の召喚獣ラビがメリッサの前に飛んで行き、魔法の前にバリアを展開する。

 フォースレイスの魔法が直撃するが、バリアに一切の傷もなかった。

「えっ? 兎?」

「メリッサ! 走れ!」

 パスケルさんの声に我に返ったメリッサさんが起き上がり、こちらに向かってきた。


「あ、あんたは!?」


「お久しぶりです。一旦後ろで休んでてください」

「っ!」

 通り過ぎるメリッサさんが悔しそうにしていた。

「みなさん。今日は『フォースレイス』を倒すのが目的ではありません。攻撃や性質を研究しますので、危なくなりそうだったらすぐに逃げますよ? 前衛はフィリア、アムダ姉さん、イロラ姉さんも出て貰います」

「「「はい!」」」

「ハイレイスと呼ばれているレイスのバリアの対応で、定期的に爆発矢を放って吹き飛ばしてください!」

「「「「はい!」」」」

「みなさん! 初めてのBランク魔物です! 油断せず行きましょう!」

「「「「おー!」」」」

 初めての『フォースレイス』との戦いが幕をあけた。