「君はめちゃめちゃ弱いじゃんよ!!」
安全地域に戻ったら、絡んで来た女の人から、またもや絡まれた。
「はい。俺は弱いですよ?」
「彼女に助けられて、男として恥ずかしくない訳!?」
なんか、妙に絡んでくる。
「ソラは弱くないです!」
「あはは……いいよ、フィリア。弱いのは事実だし。えっと、お名前をお聞きしても?」
「ふん! 私はこの『赤き紅蓮』パーティーの炎の魔法使い、メリッサよ! 覚えておきなさい!」
「メリッサさんですね。はい。ちゃんと覚えておきます。それとですね」
「ふん、なによ?」
「確かに俺は弱いです。ですが、俺には俺なりの強さがあります。いずれ……お見せしますよ」
「っ!? …………いいわ。その時を楽しみにしてるわ」
珍しく俺達に突っかかって来るメリッサさんは、「ふん!」と言い、パーティーの元に戻っていった。
俺と同じ赤い髪と赤い瞳の彼女は、俺とは真逆の強気な性格のようだ。
「フィリアが怒る事はないだろう」
「むぅ……ソラの強さを知りもしないで……」
「あはは、それをいずれ証明するんだから、今はいいよ。それに彼女達は敵じゃない。同じダンジョンで戦う良きライバルだから、あんまり威嚇しないでね?」
「うん…………」
休憩しながら、他のパーティーの戦いを見る為、残ろうとした時、違うパーティーの男性が一人、近づいてきた。
「中々良い事言うじゃねぇか。同じダンジョンで戦う良きライバルか」
「はい。だって、ここで争う理由はないですから」
「ふぅん~、争う理由ならあるさ」
「え? あるんですか?」
「ああ、狩りは効率が大切だ。だから狩りの途中で鉢合わせもよく起きる事だよ。そうなれば、獲物の奪い合いが始まるのさ。だから俺達は敵同士なんだよ」
「でもお互いに危なくなったら助け合うでしょう? 助けてくれたお礼はするんですけど、そもそも助けてくれなかったら、生きられないですからね。それは敵というよりは、良きライバルですよ」
「がーはははっ! 気に入った! 最近出会った若いのでは、一番まともだな! 俺はパスケル。『蒼い彗星』というパーティーのリーダーをしている。よろしく」
「俺はソラです。パーティーは組んでいますが、名はまだないです。よろしくお願いします」
握手を交わした青い髪と爽やかな笑顔が素敵なパスケルさんは、気に入ったらしく、二層について教えてくれた。
二層では三種類の魔物が出て、一番強いのはレッドスケルトン。単純に動きが速いのに、攻撃が重いらしい。
二番目に強いのはレイス。今回の目標である『フォースレイス』の劣化版だそうだ。浮遊している為、足を砕いて動けなくさせるなどの事が出来ない分、戦いでは厄介らしい。攻撃も魔法を使ってくるので、気を付けてないと、炎の魔法が急に飛んでくる事もしばしばあるそうだ。
三番目は水の精という魔物らしくて、水の玉のような魔物が浮遊しているらしい。攻撃した場合のみ反撃してくるけど、基本的には水魔法を撃って来るそう。剣などでは斬れず、魔法じゃないと倒せないそうなので、魔法がないパーティーは基本的に無視するといいそうだ。ちょいちょい水溜まりがあるのが、水の精がいる場所だそうだ。
「パスケルさん。ありがとうございます!」
「いやいや、君のような若者には頑張って欲しいからね。ぜひこれからも頑張ってくれよ!」
「はい!」
パスケルさんはメンバーを連れ、安全地域を後にした。
その後、メリッサさんが「ふん!」とわざわざ目の前で言い放ち、安全地域を後にした。
両方の戦い方を眺める。
今まで見て来たパーティーと戦い方は大して変わらない。
前衛が削りつつ、後衛の魔法使いがトドメを刺す。
連携の仕方はそれぞれ違うけど、最終的にトドメ役がトドメを刺すのは一緒だ。
暫く見て、レッドスケルトンとレイスとの戦い方を眺める。
一層やセグリス平原、沼地とは違い、魔物が基本的に一体ずつ飛んでいる事に気が付いた。
多くて二体だった。
それと魔法使いに余裕がある場合には、雷魔法で水の精を一撃で沈めていた。
一時間ほど、戦い方を眺めて俺達はセグリス町へ戻って行った。
◇
「メリッサ、何をそんなにイライラしてる?」
「んも! あんなカップルでダンジョンに潜って、ダンジョンを舐めているやつを見るとイライラするのよ!」
「はぁ……そんな……人によりけりだろうよ」
「ふん! なーにがソラは弱くないですーだ! ムカつく!!」
腹いせに雷魔法を水の精に放つメリッサ。
パチパチと雷の残滓残ってる場所に、水の精のコアが落ちる。
「おい! メリッサ! 珍しくコアが落ちたぞ! やるな!」
「…………はぁ、イライラしてたのに、こんな時に限って、こんなの落ちるもんな」
「いいじゃねぇか、今日は美味いもん食おうぜ!」
「「「「おー!」」」」
メリッサのパーティーメンバー五人が水の精のコアを見て喜びの声を上げた。
当人のメリッサは、小さく溜息を吐いて彼らの後を追った。
「…………ラミィ……」
メリッサは悲しそうな表情で小さく呟いた。
亡者の墓の二層に辿り着いた日から一か月が過ぎた。
その間にフィリアには、亡者の墓の二層で経験値を貯めて貰いつつ、僕も剣士や狩人でレッドスケルトンに挑戦してみたが、一人では手も足も出ない時期が続いた。
焦るつもりはないが、今のまま時間が過ぎても二層すら攻略出来る気配がなかった。
レッサーナイトメア戦のように、ベリンさんには盾で防いで――――とも考えたけど、それが使いにくい理由があった。
その理由は、レッドスケルトンが小さすぎるからだ。
元々レッサーナイトメアは人よりもずっと大きい。
なので、ベリンさんの後ろからでも簡単に攻撃できた。
でもレッドスケルトンは人と同じ大きさしかない。
ベリンさんが大盾を持つと、レッドスケルトンが全く見えなくなってしまうのだ。
だからと言って、横から攻撃しようものなら、レッドスケルトンがそのまま迎撃に向かってしまうのだ。
見た目以上に賢いレッドスケルトンならではの難しさだった。
色々考えたけど、今のところは結論が見い出せずにいる。
強いて言えば、僕の次のレベル、もしくは更にその次のレベルで味方を更に強く出来るスキルに期待するしかなかった。
それでも少しでも突破口を開く為に、フィリアと毎日二層に潜った。
フィリアならレイスですら簡単に倒せるので、フィリアの経験値貯めにも丁度良く、気付けばフィリアも随分とレベルを上げていた。
「それにしてもソラの経験値アップは凄いわ」
「ん? あ~経験値減算が無くなる話?」
「うん。恐らくだけど、減算が全部無くなる訳ではないみたい。それが証拠にスモールボアだけを大量に狩り続ける向こうのパーティーより、私の上がり方の方が早いもの。狩っている量から考えれば同じでもいいのに、向こうはレベル5から打ち止めのような雰囲気だから」
「あ~アムダ姉さんも似た事を言っていたね。ボアだけでレベル6になれる気がしないって」
「うん。そこで一つ仮設を立ててみたの。恐らく減算は無くなるけど、レベル差が開き過ぎた魔物は、0になってしまう説」
「0になる説……」
「うん。本当はそれも試してみたいんだけど、今は少しでも時間が欲しいからね…………でも間違いないのは、メンバーの皆が定期的に経験値をソラにくれれば、恐らくそれが一番いい効率かも知れないね」
「そうだな、一週間ごとに経験値を貰ってるけど、みんなレベルがどんどん上がっているもんな。そろそろ僕のレベルも5に上がりそうだけど――――はぁ、心配だな」
弱音を吐く俺に、フィリアが腕を組んで来た。
「大丈夫。ソラは強い。レベル5になれば、ソラはもっと強くなる。私が保証するから」
「ははは……そうだな。下を向いていても始まらないし、今はとにかくレベル5の事と、レッドスケルトンの単体攻略を考えるよ」
「うん。その方がいいわ」
フィリアに励まされ、また前を向いて狩りを続けた。
その日、狩りの成果物を売りに冒険者ギルドに行くと、ミリシャさんに呼ばれ、以前通された貴賓室に案内された。
恐らく、『攻略情報』の件だろう。
少し待っていると、ノックの音がして、ガレインさんが入って来た。
「やあ、お久しぶり」
「ガレインさん。お久しぶりです」
約一か月ぶりのギルドマスターのガレインさんだった。
「いや~ソラくんのおかげで、とんだ目にあってさ~」
「えええ!? 俺のおかげ!?」
「あはは~、その話を今からしたいのさ。さあさあ座って」
前回同様俺とフィリア、向かいにガレインさんが座った。
「さて、早速だけど、本題に入らせて貰うよ。他でもない、以前ソラくんが売ってくれた『攻略情報』についてだ。本当にソラくんの情報が凄すぎて色々検証に手間取ってね~」
「レッサーナイトメアの動きのパターンとかも見なきゃいけないですものね」
「そうなのさ~しかも三日に一回しか現れないからね。でも狩場の常連がみんな良い人で、検証もとてもやりやすかったよ~」
常連とは、いつもの面々だろう。
ワイルダさんとは、時々酒場で会っては、一緒にご飯を食べたり、雑談したりと、今では良い友人のような存在だ。
「おかげで一か月もかかったが……全て検証が終わったよ。だからその判定をギルドマスターの僕が下す事になるのさ。ではソラくん。君が売ってくれた『攻略情報』は、『特別情報』と判断させて貰うよ」
「えええええ!? 『特別情報』!?」
「うちのソラの情報だから当然よね!」
フィリアがドヤ顔になる。
その微笑ましい行動にツッコミすら出来ないくらいに、俺は驚いてしまった。
確かに、他のパーティーとのやり方は違うとは思っていたけど、まさか『特別情報』とは思わなかった。
「あはは、君はもう少し自信を持った方がいいね。その情報は間違いなくギルドマスターである、このガレインが『特別情報』として買わせて貰うよ?」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「ふふっ、一応こちらで適正な値段を提示させて貰うけど、あくまで参考にだけして貰って、あとはソラくんが決めた値段で貼り出すからね~」
ガレインさんが紙一枚を前に出した。
「値段ですか…………ん、ちょっと高い気がします」
「ほぉ……だが、ソラくん? 情報を安くすればいい訳ではないんだよ?」
ガレインさんが右手を前に出して人差し指を立てる。
「いいかい? この情報は言わば、お金で買えるんだよ。買うだけで狩り方が分かるから今まで頑張ってきたパーティーにも大きな問題になるんだよ。だから、適切な値段にするのが大切なんだ。お金を多く払ってもこの情報を手に入れればレッサーナイトメアを倒せる作戦が簡単に組めて、色んなパーティーが挑戦出来るから、僕的にはこの値段でも安い方だと思うよ」
そうか……誰でもその狩場を簡単に利用できるようになるのは、決して良い事ばかりではないのか……。
また一つ良い事を学んだ気がした。
「分かりました。ではガレインさんのお言葉に甘えさせて頂いて、ここに書いてある値段の一割高く設定させて頂きます」
「ふふっ、それでいいと思う。ではそのように販売させて貰うよ。売られた額の二割は冒険者ギルドに入る事になる。残り八割はまとめて月一でソラくんの冒険者用口座に入る事になっているので、毎月ちゃんと確認してね!」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、初めての『特別情報』が冒険者ギルドを通して売り出された。
沼地の特別情報が売り出されてから一か月が経過した。
そして、遂にその時が来た。
「ソラくん。私の、経験値も、どうぞ」
イロラ姉さんが可愛らしく両手を前に出した。
手を触れて、イロラ姉さんを『同職転職』させて、レベル1に戻す。
そして――――――
- 職能『転職士』のレベルが5に上がりました。-
- 新たにスキル『経験値アップ③』を獲得しました。-
- 新たにスキル『スペシャリスト』を獲得しました。-
『経験値アップ③』
転職させた相手の獲得経験値を十倍にする。
『スペシャリスト』
スキル『下級職能転職』が『中級職能転職』にランクアップする。
スキル『キャリア』にも適応する。
「れ、レベルが上がった!!!」
「「「おおおー!!」」」
メンバーから歓声が上がった。
最後にレベルを上げてくれたイロラ姉さんもとても喜んでくれた。
遠くから少しだけ寂しそうな表情のフィリアが見えたけど、これも間違いなくフィリアのおかげでもあるのだ。
「フィリア、カール、皆さん。本当にありがとうございました!!」
「おめでとう!! ソラ、新しいスキルはどんな感じのが貰えたんだ!?」
みんながワクワクしていて、一番近くにいたカールが嬉しそうに聞いて来た。
「あはは、おかげで、ものすごいスキルが二つ手に入ったよ!」
「おお! それは凄く楽しみだな!」
「ああ、まずは今までの経験値アップスキルが遂にもう一つ上がったよ!」
「「「おおおー!!」」」
今回手に入った『経験値アップ③』は経験値獲得率が十倍になるスキル。
今まで五倍だったので、そこから更に倍増しだ。
「元々五倍だったのが、これからは十倍になるみたい!」
「「「おおおー!!!」」」
フィリアも少しずつ笑顔になっていった。
「そして、二つ目は転職に関するスキルだったよ。――――フィリア」
「ん?」
「フィリアがずっと言っていた事が、本当に現実……なっ……て…………」
二つ目のスキルとフィリアの事を思ったら、何故か涙が出て来た。
「ソラ!?」
驚いたフィリアが俺を抱きしめてくれる。
カールやアムダ姉さん達がニヤニヤしているのが視界に入る。
「えっと…………いつか必ず、凄い転職が出来ると、フィリアが信じ続けてくれたから、レベル5になって、初めて、俺の転職にも大きな光が見えたよ」
「えっ!? ――――――まさか!?」
フィリアだけでなく、メンバー全員が驚いた顔になった。
「ああ、遂に、転職が下級だけでなく、中級職能まで転職出来るようになったよ」
俺の言葉に、今日一番の歓声があがった。
◇
「中級職能で選べるのは――――全部で十の職能を選択出来るようになったよ!」
「「「「十!?」」」」
実は基本下級職能って五種類しか無かったのだが、基本中級職能はその倍の十種類あった。
そして、メンバーに十種類の職能と、各職能の特性を説明した。
①回復士
今回中級職能で最も凄い職能の一つ。
名前の通り、回復魔法が使える職能だが、この上の聖職者や、同じ中級職能の特殊職能『神官』には大きく劣る。それでも、回復魔法が使える職能は非常に重要で、いつでも職能が変えられる俺にとっては一番有能な職能かも知れない。
②魔法使い
基本中級職能の中の最強職能と言っても過言ではないだろう。
カールが持っている職能だ。
全属性魔法が使えるのだが、その人によって得意な魔法があったりするので、カールのように氷魔法が得意な人は氷系統魔法が使いやすくなるという。そればかりは人それぞれなので、俺を含め、みんなの使いやすい属性を確認しておかなくちゃいけなさそうだ。
③召喚士
非常に難しい職能だ。
魔物の中で『魔石』を落とす魔物がいて、その『魔石』を使い、自分の使い魔を召喚する職能で、召喚士はレベルが10になった場合、上級職能にも匹敵すると言われているけど、召喚士のレベルを上げる方法は非常に難しいらしく、転職士ほどじゃないが、ハズレ職能と言われている。
④弓士
基本下級職能『狩人』の上位職。
狩人は弓というより、フィルディングに特化した職能だが、弓士は弓に特化した職能で、弓用スキルでより強力な弓攻撃が可能となる。
⑤騎士
基本下級職能『剣士』の上位職。
騎士は剣士の上級職ではあるが、どちらかといえば、マルチ的な職能である。剣だけでなく、槍や斧、弓、盾などの適正もある。
⑥武道家
基本下級職能『武闘家』の上位職。
こちらは完全な上位職で、純粋に強くなる。
⑦ローグ
基本下級職能『盗賊』の上位職。
こちらも完全な上位職で、盗賊よりも戦闘能力が底上げされる。
⑧闘士
基本下級職能『戦士』の上位職。
こちらも完全な上位職で、スキルはほとんど変わりなく、ステータスが戦士よりも遥かに高いのが特徴だ。
⑨付与術師
後衛特化職能で、味方に能力上昇魔法を掛けてあげたり、レベルが上がると味方の武器に属性付与が出来るようになるのだが、最も使える属性付与を使えるようになるまでが長いので、基本的にお荷物扱いにされる職能だ。
⑩盾士
中級職能で最もハズレ職能と言われている盾士。
攻撃スキルは一つもなく、盾しか使えない為、一人では狩りもままならない為、最もハズレと言われているのだ。
全ての説明を終えるとアムダ姉さんから、
「うん! 全然分からない! ソラくんに言われた職能で頑張るね!」
と言われた。
一通り全ての職能をメンバー全員で試して貰う事となった。
フィリアは唯一『両手持ち』というスキルがある『剣士』のままが良いとの事で、フィリアだけ転職なしとなった。
あとは、俺、カール、アムダ姉さん、イロラ姉さんのこれからクランに所属する四人。
先輩組は、ベリンさんとその他の8人の職能を決める事となった。
まず最初にカールは、変更なしである。そのまま魔法使いに徹して貰うのと、元々魔法使いだから、使い慣れたままの方が良いと思う。
アムダ姉さんとイロラ姉さんには将来の為に、アムダ姉さんには武道家に、イロラ姉さんにはローグになって貰った。
町に残る組から、ベリンさんは、より盾に特化した盾士に、他の先輩達には今まで通り慣れた弓で戦えるように弓士になって貰った。
最後に俺はというと、回復士、魔法使い、召喚士、付与術師を試していく方向にした。
◇
「馬車旅なんて初めてだわ」
おもむろにカールが言う。
「まあ、セグリス町から出た事がなかったしな」
俺達は馬車に乗り、全員で『亡者の墓』を目指した。
これから思いっきりレベルを上げてしまおうと思い、それならばいっその事、亡者の墓の一層に行こうという事となった。
初めての馬車旅というか、荷台に乗り移動する。
今までは近場なのもあって歩いたから、こういう馬車があると移動が楽かも知れないね。――――と思っていたら、カールが、
「あ、ソラ。ある程度お金が貯まったら、馬車を購入する方向も考えた方がいいかも知れないな」
「あ~それは考えたけどね。まぁ……馬車を守るのも大変だから、こういった定期馬車で通った方がいいのかなと思ってしまってね」
「ふむ。それもそうだな。馬車の件はそのうち考えるか」
カールとそんな会話をしていると、いつの間にか『亡者の墓』に着いた。
「「「「おおお~」」」」
みんな初めてのダンジョンを前に歓声をあげる。
俺も最初は驚いたけど、やっぱりみんなも驚くよな。
「さて、一層は先程説明した通りですので、スケルトンの頭を狙う事を忘れず、今日は無理しない程度に慣らしていきましょう」
「「「「おー!」」」」
既に馬車での移動中、一層について詳しく説明を終えたので、俺達はそのまま一層に降りていった。
「フィリアは護衛をお願い」
「うん!」
スケルトンが地面から出て来たりするので、弓士隊の防衛を任せた。
それにしても、他は六人パーティーが多い中、俺達は十人越えのパーティーだから、とても目立つ。
他のパーティーがクスクス笑ってるけど、弓隊の多さの所為なのだろうな。
少し歩いていると、前からインプ五匹が突如現れた。
現れた瞬間に、それぞれのインプの頭に刺さる矢。
瞬く間に矢が刺さったんだけど……?
後ろを見ると、先輩の五人が弓を引き終えていた。
「あれ? 早すぎない!?」
「ふふっ、私達で連携を決めたからね。あんなの序の口よ!」
アムダ姉さんがドヤ顔を決める。
いつの間にか先輩達がこういう作戦を決めていた事に感心する。
「それにしても、変な矢ですね?」
「うん! ソラくんのおかげで弓士の基本スキル『魔法矢』が使えるようになったんだよ!」
先輩の一人が教えてくれる。
インプの頭に刺さった矢は少し光っていて、インプ本体と一緒に消えていった。
魔法矢か…………弓士はそういうスキルがあるんだね。
「魔法矢はどれくらい撃てそうですか?」
「ん~今のところなら、十本分くらいかな? レベルが上がればもっと使えそうだよ!」
「なるほど! レベル5まで上げてしまえば、一日分は使えそうですね。とても良いスキルでいいですね! いつも矢が重そうでしたから……」
矢を入れた筒は、意外にも重いのだ。
それを多少解消出来るのは素晴らしい点かも知れない。
更に、弓士の皆さんにはサブ職を『闘士』にして『腕力増強(小)』を付けて少しでも重さを軽減させているのだ。
今度は左右からスケルトンが複数体現れた。
やはり、直後に頭に矢が刺さり、瞬時に倒れていく。
……。
……。
……。
皆さん、めちゃめちゃ強くなってない!?
反応速度も速いし、矢を放つまでノーモーションだし、弱点を一発で貫くのも凄い。
弓士隊にポカーンとしていたら、隣にいた先輩が、
「ふふっ、それもソラくんに教わった事を続けていたからね、中級職能『弓士』はレベル1でもこれくらい出来るのよ」
なるほど…………下級職能でもあれだけ戦えるんだから、中級職能ともなれば、あれくらい簡単に出来るのか。
先輩達は既にレベルが2に上がったそうで、あれだけの速度で倒していけば、レベルもとんでもない早さで上がりそうだ。
その日は一層でのみ狩りを続けた。
最初は俺達を見て嘲笑っていたパーティーも、弓士隊の圧倒的な実力にどんどん顔が真っ白になっていった。
現れた魔物を一瞬で倒す弓士隊。
…………もしかして、一層に来た時に笑われたから見返してるのかな? 少し、弓士隊のみなさんが黒い笑みを浮かべているのが気になる……。
「ふふ…………うちのソラのパーティーを笑うなんて…………ふふ…………」
フィリアもちょっと怖いかも……。
二日間、亡者の墓一層で魔物を狩り尽くした。
幾つかのパーティーが肩を落として帰る姿もちらほら……、以前二層で出会った『蒼い彗星』のリーダーパスケルさんが言っていた冒険者同士は敵同士という言葉が、少しは理解できた気がした。
そして、休日を挟んで、今度は二層にやってきた。
既に全員のレベルが5となっている。
あまりの速さにカールですら、半笑いしていた。
「さて、二層からはCランク魔物なので、気を付けてくださいね。レッサーナイトメアがCランク上位とはいえ、同じCランクなので……レッドスケルトンは近接、レイスは遠距離が厄介なので、一層同様見つけたら即攻撃で!」
「「「「おー!」」」」
今回は広場に他のパーティーが誰もいなかったので、俺達は静かに二層の中に入って行った。
少し進めた所でレッドスケルトンが現れる。
「四番!」
弓士隊の先輩の一人が声を上げると、全員が真後ろに向いて、そのまま数人が矢を放ちレッドスケルトンの頭に四本の矢が刺さった。
この番号はそれぞれの先輩達が全方向を分担して、常に見回っており、俺を中心に前方から見て一番が右前、二番が右、三番が右後ろ、四番は真後ろ、五番が左後ろ、六番が左、七番が左前、八番が正面である。
八番は基本的にベリンさんが担当している。
レッドスケルトンの頭に刺さった魔法矢四本。
まさか一撃で倒せるとは思わなかった。
つまり…………その日、二層の魔物すら瞬殺していった。
レイスですら瞬殺し、カールが暇そうにしていたから、僕と一緒に雷魔法で水の精も倒していった。
◇
「「「「乾杯ー!!」」」」
二層の狩りがあまりにも簡単に運んだので帰り、打ち上げとなった。
酒場『木漏れ日』から歓声があがる。
ワイルダさん達に二層も簡単だったと話すと、凄く笑われた。
意外に亡者の墓での収入が多いので、今日もマスターの美味しい料理を堪能した。
次の日も二層を軽く回って、セグリス町に帰って来た。
何の難しさもなく、二層も簡単に進んだ。
「ソラ、次の狩りからどうするの?」
「そうだな。このまま三層に――――と思ったんだけど、みなさんには申し訳ないんだけど、このまま四周して貰いたいんだよ」
「四周?」
「ああ、俺のサブ職能の回復士、魔法使い、召喚士、付与術師のレベルを上げたいんだよ。特に召喚士と付与術師は本来ならレベルを上げる方法が独特だから難しいけど、俺は経験値を貰う事で上げられるから、簡単に上げられるから、それが狙いなんだよ。三層はそれからでも遅くないかなと思って」
「そうだね。まだ時間はいっぱいあるからね。それじゃ、一旦ソラのレベルを上げる方向にしようか! 初日は一層、二日目は二層、三日目は休日にして、初日の朝にまた経験値をソラにあげる。感じでいいかな?」
「そうだな。フィリアの言った通りに、暫く続けますので、みなさん、よろしくお願いします!」
「「「「おー!」」」」
その日からまた三日サイクルが始まった。
予定通り進み、そのまま三日サイクルを十六週続けた。
それで俺の四つのサブ職能のレベルが全部5になった。
◇
明日から三層に行く事となるのだが、俺はフィリアとカールと一緒に水の精から拾った『水の魔石』を持って、俺の家に集まった。
「召喚士の召喚魔法なんて、普段見れないから楽しみだな~」
ワクワクしているフィリアがまた可愛い。
今回は俺の召喚士がレベル5になって、獲得した魔法『中級召喚』を試そうとしている。
召喚士はレベル1の基本魔法『光の精召喚』があり、ただ光るだけの精霊を呼び出す魔法があり、召喚士のレベルを上げるにはこの召喚魔法をずっと使い続けなくちゃいけない。
召喚には媒介(魔石)が必要なので、このレベルを上げるのは中々難しいのだ。
それでも光の精が明るいランタン代わりにも使えるし、ランタンよりも範囲が広く明るかったり、アンデッド属性の魔物が少し弱体化するという利点があるので、荷物持ち兼光の精係としてパーティーに入れたりするので、頑張ってレベルを上げる召喚士が多い。
レベル3になった時、『初級召喚』を覚え、5で『中級召喚』、8で『上級召喚』、10で『超級召喚』を覚えて、『超級召喚』を使えるようになれば、中級職能では断トツに最強職能に変わるのだが……それに辿り着ける人はそうそういないのだ。
初級召喚はあまりにも役に立たないので、中級召喚を覚えたので、早速使って見る事にした。
両手で水の魔石を持ち上げ、集中する。
「魔法、中級召喚!」
魔石から魔力の光がゆらゆらと立ち上がる。
自分の中の魔力がぐーっと減るのを感じる。
俺の魔法が更に発動して、正面の空中に魔法陣が展開される。
そして、
魔法陣から、一体の召喚獣が現れた。
「可愛い~!」
フィリアが黄色い声を上げ、出て来たばかりの俺の召喚獣に抱き付く。
抱き付かれた召喚獣は既に状況を把握しているようで、フィリアを一切拒否する事なく受け入れていた。
「……ソラ」
「ん?」
「これはどういう名前の召喚獣なの?」
「ん~種族名が、スカイラビットっていう召喚獣らしい」
フィリアに抱かれてモフモフしている小さな羽根が生えた可愛らしい兎は、プー! って嬉しそうに鳴き声をあげていた。
「「「可愛い~!」」」
遂に『亡者の墓』三層に挑戦する日。
馬車の中では、俺の召喚獣のラビちゃんと名付けたスカイラビットが大人気だった。特に女子組に。
「なんかソラに似てる気がするんだよな」
「うっ……フィリアにも言われた……」
「あはは、なんか目元が似てるというか。周りからモテモテなのもソラそっくりだわ」
「ええええ!? 俺、そんなにモテモテじゃないよ!?」
「あははは! まぁそういう事にしておこう」
カールにいじられながら、俺達は亡者の墓に辿り着いた。
一層に入って二層に向かう道中、出逢ったパーティーが全員離れていく。
「ふふっ、亡者の墓一層のパーティーはみんな逃げていくな」
「ああ……ちょっとやりすぎな気が……」
「やりすぎも何もあちらが先に俺らを笑ってきたからな~」
「ま、まぁそうだけど……まぁこのまま三層攻略するから、もう会う事はないかも知れないしな」
逃げていくパーティーを横目に俺達は二層に進んだ。
二層の広場では、以前広場にいたパーティーが休んでいた。
パスケルさんやメリッサさんのパーティーではないところなので、まだ話した事はない。
俺達を見た彼らは、興味深そうに俺らを見つめていた。
気にせず、彼らを通り、広場を後にしようとする。
「ほぉ…………少年のパーティーか」
通り過ぎる途中、リーダーと思われるごつい男性が俺に言葉を投げかけた。
「は、はい」
「そうか…………不思議なパーティーだが、ここを出るという事は……ふむ。――――――少年。良いパーティーを持ったな」
「え? は、はい! 自慢のメンバーです!」
「うむ。楽しみにしている。頑張りなさい」
「あ、ありがとうございます!」
そして、俺達は広場を後にして三層を目指した。
「ねえねえ、あのパーティーのどこが良いパーティーなの? 人数も越えているじゃん」
「ああ、確かに越えているが、それでも一緒にいるという事は、人数を越えたという事なのかも知れない」
「え!? う、嘘!?」
「一層で、弓使いが大勢所属しているパーティーが魔物を一掃していると噂があった。恐らく彼らだろう」
「そりゃ、弓使いなら撃つまで速いし」
「それを続けているのにも関わらず、気付いてないのであれば、それが越えたという事なのだろう」
「あ!」
「どういう秘密があるかは分からないが、楽しみだ。あの少年は少し前にレッドスケルトンにすら勝てていなかった。だが、何故か今ではレッドスケルトンすら易々と倒せそうな雰囲気を感じる」
「へぇー、確かに今のあいつなら勝てそうだけど、この短期間で?」
「ああ、いずれ分かるだろう」
ごつい男のパーティーはソラのパーティーが見えなくなると、一層に戻って行った。
◇
俺達は二層の奥から、三層に続く階段を見つけ、降りた。
降りる途中、三層部分が暗い事に気づいた。
「もしかして、三層は暗いかも知れないね」
「そうだな、光の精を召喚しておこうか」
俺は既に光の精と契約を交わしているので、そのまま光の精を召喚する。
現れた光の精にラビが嬉しそうに近づき、二匹は仲良さげに一緒に飛んだ。
周囲が光の精のおかげで明るくなって、三層が見え始める。
そして、俺達は三層に降り立った。
フィリアと共に周りを見回す。
「雰囲気は今までと変わらないけど、周りが暗いな? 今まで飛んでいた緑色の光る玉が少ないんだな」
「それと、二層と違って降りたところが『安全地域』にはなってなさそうね」
「ああ、必ずしもある訳ではないみたいだからな…………それにしても敵の影も全く見えないな?」
「ん……ちょっと不気味だね」
「…………!? 全員戦闘態勢!」
俺の声に、全員が迷わず武器を正面に構える。
「敵は見えない相手かも知れない! 全員、何があっても慌てないように!」
メンバー全員の緊張感が伝わって来る。
直後、正面から黒い触手のようなモノが飛んでくる。
後方を狙う黒い触手をベリンさんが割って入り、盾で防ぐ。
カーン
触手を弾く音が響き、弓士隊から魔法矢が数発暗闇に撃たれる。
しかし、当たった音もしなければ、当たった感覚もしない。
……。
……。
「! 地面に影がある!」
光の精のおかげで周りが明るいのに、何故か何もない場所の地面に影が出来てる場所があった。
弓士隊の魔法矢が地面の影に刺さる。
そして、短い甲高い悲鳴の鳴き声と共に、影から黒くて丸い魔物が出て来てその場から消え去った。
「相手は地面に影になって隠れるタイプかも知れない。半数は地面、半数はそのまま警戒を!」
「「「「はい!」」」」
俺達はそのまま三層を進める。
光の精のおかげで周りが良く見える為、地面に隠れている魔物を探しやすかった。
地面に隠れている魔物は、今の弓士隊の魔法矢が8発分当たって、やっと倒せた。
今までの魔物とは比べものにならない耐久性に、緊張感が更に増す。
少し進むと、明かりの先に二層でも見かけた『レイス』が見えた。
「二層のレイスより色が濃い! 上位種だと思います! 先に弓士隊から!」
俺の後ろから魔法矢が8発放物線を描き、レイスに命中した。
しかし、矢は不思議なバリアに弾かれて、矢が刺さる事はなかった。
更に、こちらに気づいたレイスから二種の魔法が放たれた。
「散開!」
魔法を防がず、避ける指示を出す。
その隙間に、アムダ姉さんとイロラ姉さんがレイスに向かい、両脇から走り込む。
次の魔法が撃たれる前に、アムダ姉さんの攻撃が始まる。
「臥竜打!!」
アムダ姉さんの手に竜の形の気功が纏われ、そのままレイスを殴る。
矢とは違い、レイスを防いでいるバリアは無く、そのまま吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ、止まったレイスの首裏にイロラ姉さんの影が見えた。
そして、両手に持っていた短剣がレイスの首を跳ねる。
その後、カールから放たれた氷魔法がレイスを貫通して、レイスが消滅した。
しかし、それはまだ序の口だった。
すぐにレイスが複数現れる。
まだ一体でも慣れていないので、メンバーに緊張が走る。
「剣聖奥義、百花繚乱」
フィリアの綺麗な声が響き、レイスが一瞬で全滅した。
三層で出現する魔物は全部で二種。
地面に影の状態で潜れる魔物は『デモンアイ』という魔物で、影から黒い触手を伸ばして攻撃する。強さよりも、厄介な相手だ。
レイスの上位種は『ハイレイス』という魔物で、レイスを単純に強化したような魔物だけど、それが非常に厄介で、レイスは一種の魔法しか使えないが、ハイレイスは二種の魔法を同時に使う為、攻撃力が数倍も跳ね上がっている。更に厄介なのは、『アローバリア』となるモノを常時使っている為、矢が当たらないという強みを持っているのだ。
「さて、ソラ。これからどうするんだ? 弓士隊がレイスに利かないのは、俺達にとってはかなり不利だぞ?」
「ふむ………………あのバリアってさ。矢なら全部防ぐのかな?」
「実際当たらなかったんだろう? 魔法矢だけでなく、鉄の矢も当たらなかったからな」
「そうだね。でもあのバリアにも何かしら弱点はある気がするんだよ」
「……例えば?」
「ん~至近距離なら当たる……とか?」
「至近距離って……そこまで先輩達に接近して貰うのか?」
「ん~それも難しいよね……」
カールとレイスについて話していると、
「ソラくん。一ついいかな?」
弓士隊の先輩の一人が話しかけてくれた。
「実は、弓士のレベル6で得た新しいスキルに『エクスプロードアロー』というスキルがあるんだけど、それならあのバリアで弾かれても爆風を当てられないかな?」
「なるほど……! 一回試してみましょうか!」
少し道を進めてレイスを見つけた。
先輩の一人が前に出て、弓矢を引くと、矢が真っ赤な色に染まる。
「エクスプロードアロー!」
放たれた矢がバリアにぶつかる。
ドカーン!
爆発が起き、爆風はバリアに阻まれず、レイスに当たり吹き飛ばした。
「普通の矢と魔法矢を放ってみてください!」
俺の号令で、後ろから魔法矢と鉄の矢が放たれる。
そのままレイスに刺さり、レイスは消えていった。
「当たった!?」
カールが驚く。
もしかして、あのバリアって……。
「次は作戦を変えます。イロラ姉さん! 次のレイスが見つかったら、レイスの横に向かって貰い、レイスを横に向かせてください」
「あい!」
そして、現れたレイスにイロラ姉さんが走る。
横に立つとレイスがイロラ姉さんに向く。
「今です!」
放たれた魔法矢と鉄の矢が、レイスの前でバリアに防がれる。
「爆発矢を!」
「はい! エクスプロードアロー!」
爆風で吹き飛ばされたレイスに魔法矢が数本刺さり、消えていった。
「レイスの体勢が崩れれば、矢を防ぐバリアが無くなりますね。これはもしかすると『フォースレイス』にも効くかも知れませんので、みなさんで交互に爆発矢を撃って貰う事になるかも知れません」
「分かった! 既に順番は決めているから任せて!」
既に先輩達が、そういう状況も話し合っていた事に、少し嬉しさを感じつつ、俺達は『フォースレイス』を目指して、三層を回り始めた。
暫く歩き回ると、光の精の明かりの向こうに戦うパーティーがいて、その音がここまで聞こえてきた。
熾烈な戦いの音に、普通の戦いではない事が分かる。
向かって見ると、二つのパーティーが普通のレイスの三倍は大きい赤黒いレイスと戦っていた。
あのレイスこそが、俺達が狙っている『フォースレイス』に違いないだろう。
フォースレイスの周囲には、三層で出現する黒いレイスが大量に現れていた。
「メリッサ!! ハイレイスが溢れ出たぞ!!」
「う、うるさいわね! こちらも魔力がそろそろ切れるからやばいのよ!」
よくよく見ると青い髪が印象的なパスケルさんと、火魔法を放ちながら今にも倒れそうなメリッサさんがいた。
二つのパーティーって、二人のそれぞれのパーティーメンバーだったのか。
総勢十二名で戦っているけど、溢れているハイレイスのせいで今にも崩れそうだ。
更に、フォースレイスから広範囲の魔法が放たれた。
「くっ! 駄目だ! これ以上は戦えない! そろそろ引くぞ! メリッサ!」
「くっ…………分かったわ!」
「全員退却!!」
パスケルさんの号令で、全員が逃げ始めた。
しかし、途中魔力切れ寸前のメリッサさんがその場に倒れる。
「め、メリッサ!」
メンバーの一人が叫んだ。
メリッサさんにフォースレイスの魔法が当たる寸前。
「ラビ!!」
「ぷー!」
俺の召喚獣ラビがメリッサの前に飛んで行き、魔法の前にバリアを展開する。
フォースレイスの魔法が直撃するが、バリアに一切の傷もなかった。
「えっ? 兎?」
「メリッサ! 走れ!」
パスケルさんの声に我に返ったメリッサさんが起き上がり、こちらに向かってきた。
「あ、あんたは!?」
「お久しぶりです。一旦後ろで休んでてください」
「っ!」
通り過ぎるメリッサさんが悔しそうにしていた。
「みなさん。今日は『フォースレイス』を倒すのが目的ではありません。攻撃や性質を研究しますので、危なくなりそうだったらすぐに逃げますよ? 前衛はフィリア、アムダ姉さん、イロラ姉さんも出て貰います」
「「「はい!」」」
「ハイレイスと呼ばれているレイスのバリアの対応で、定期的に爆発矢を放って吹き飛ばしてください!」
「「「「はい!」」」」
「みなさん! 初めてのBランク魔物です! 油断せず行きましょう!」
「「「「おー!」」」」
初めての『フォースレイス』との戦いが幕をあけた。
目の前の大きな赤黒いレイスから放たれる殺気がその強さを証明していた。
以前の俺なら立つのもやっとだったかも知れない。
これが…………Bランク魔物であり、Bランクの中でも上位クラスとなるBBランク……。
最初に、前衛三人のフィリア、アムダ姉さん、イロラ姉さんが向かう前に、後ろから爆発矢を一発撃ち込む。
手前のハイレイスのバリアに当たった爆発矢が爆発し、爆風により全てのハイレイスを吹き飛ばす。
「無理せず、フォースレイスに攻撃!」
フィリアを中心に、アムダ姉さんとイロラ姉さんの攻撃が始まる。
「カールは待機! 爆発矢は切らさないようにハイレイスを吹き飛ばして!」
「「「「はい!」」」」
「ラビ! 前衛の防衛をお願い!」
「ぷー!」
ラビもフィリアの元に飛んで行く。
フォースレイスから複数の広範囲魔法を放つ兆しが見えた。
「みんな! ラビの後ろに!」
フィリア達がラビの後ろに隠れて、放たれた魔法をラビのバリアで耐える。
「カール、魔法を頭に当てるタイミングを計って欲しい」
「分かった!」
数秒してフォースレイスの魔法が途切れる。
それに合わせて体内で数を数える。
その間にフィリア達の接近攻撃がフォースレイスに直撃するが、びくりともしない。
というか、大きいから後退りすらしない感じだ。
…………というより、よくよく見ると、フォースレイスって動いてない?
彼女達の攻撃が当たっていても、フォースレイスが微動だにしない所か、前進すらしてない?
そういえば、メリッサさん達が逃げる時も、フォースレイスは決して動いていなかった。
「まだ確証はありませんが、フォースレイスは動かないかも知れません! 全員、それを意識しておいてください!」
丁度、俺の言葉が終わる頃、心の中の数字が50になった時、フォースレイスからまたもや魔法陣が展開される。
「魔法がくる! ラビの後ろに!」
フィリア達は迷う事なく、ラビの後ろに逃げる。
その後、放たれた爆発矢が爆発する前にフォースレイスの魔法に巻き込まれて消えていった。
「まずい! ハイレイスの魔法もくる!」
一所懸命にフォースレイスの魔法を耐えているラビに、起きあがったハイレイス達の魔法が放たれる。
「ぷぅー!!」
ラビが懸命に耐えるが、明らかにフォースレイスの魔法でぎりぎりなのが見えている。
その時。
「ごめん! フィリアちゃん。動けなくなるから後はお願い! 奥義! 覇王轟々破!!」
アムダ姉さんの両手から凄まじい気功の光が溢れ出て、ラビの内側から凄まじい衝撃波が前方の魔法を全て吹き飛ばす。
魔法が消えた瞬間に、フィリアがアムダ姉さんとラビを抱き締め、後方に向かって走った。
「ソラ! 全力で行くぞ!」
「っ! 全力攻撃!!」
弓士隊のエクスプロードアローとカールの広範囲魔法がフォースレイスを襲う。
爆音と爆風が周囲を吹き荒れる。
フィリアを擁する前衛組が帰ってきた。
「…………フィリア」
「ん?」
「あと数秒でまた広範囲魔法が来ると思う。それを何とか耐えるから、その後来るハイレイス達をお願いしていい?」
「分かった!」
「カール! 広範囲氷魔法を手前に展開させて!」
「おう!」
カールが手前に氷魔法を展開させる。
「皆さん! エクスプロードアローを氷の前の地面に撃って、爆風で魔法を防ぎますよ!」
「「「「はい!」」」」
氷の壁が現れ、向こうから魔法陣が展開されたのが見える。
「今です!!」
爆破矢が放物線を描き、氷の壁を越えて地面に当たり、一気に爆風が荒れる。
そこにフォースレイスの広範囲魔法がぶつかり、凄まじい爆風を生む。
ベリンさんが「奥義! 城壁の盾!」と呟き、地面に大盾を叩きつけると、氷の壁の内側に大きな城壁の形をした魔法の壁が現れた。
爆風でフォースレイスの広範囲魔法が多少減らされるも、氷の壁に直撃、少しして、氷の壁をも貫く。
ドカーーン!
魔法を魔法の壁が防ぎ、ベリンさんが大声を出しながら耐える。
あと三秒。
二秒。
一秒。
「魔法が止む! 全力攻撃!」
俺の号令の後、フォースレイスの広範囲魔法が終わり、目の前に美しい魔力の残滓が広がり、向こうに、大きな赤黒いレイスの姿が視界に入る。
「ぷぅー!」
ラビの鳴き声が響き、赤い色の複数の矢がフォースレイスに向かって放たれる。
その合間に、時が止まったかのように、美しいフィリアの声が聞こえた。
「剣聖奥義、百花繚乱」
矢がハイレイスに当たる前に綺麗な花びらのような剣戟の流れと共に、ハイレイス達が全て消滅する。
消滅したハイレイスの間を潜り、赤い色の矢がフォースレイスに直撃した。
その後からも放たれる矢でフォースレイスが凄まじい爆炎に包まれる。
……。
……。
……。
爆炎が終わった後、そこにいたはずの赤黒いレイスの姿はなかった。
不思議と周囲にいたハイレイスの姿も全て消えていた。
「か、勝った!!!」
「「「「うおおおお!!!」」」」
その日、亡者の墓三層で『フォースレイス』に初めて挑戦したソラのパーティーが勝利した事が、瞬く間にセグリス町に広まった。
多くの冒険者がソラのパーティーの噂で持ち切りとなる。
沼地での活躍や、亡者の墓一層の多くのパーティーからの噂で、ますますソラのパーティーの噂は加速するのであった。
フォースレイスを倒して帰って来てから、みんなで泥のように眠りに付いた。
次の日起きたら、ベッドの中でフィリアも一緒に倒れるように寝ていた。
静かに寝息を立てて眠っている彼女が可愛らしい。
まだ昨日のフォースレイスとの戦いの興奮が収まらず、少し震える自分の手を見つめた。
「勝ったんだ…………」
思わず、ポツリと言葉を漏らしてしまった。
「ん…………ソラ?」
「あ、起こしてしまった。ごめん」
「ううん、…………どうしたの?」
「……昨日の戦いを思い出してさ」
「ふふっ、昨日は頑張ったもんね」
「ああ、でも俺だけじゃない。みんなが頑張ってくれたおかげだよ。戦いの最中に何度も仲間に助けられたな」
「うん。私達……遂に勝ったんだね」
「ああ。でもここからが始まりだ。フィリア、これからも――――」
「あ~あ~、ここは甘いお花畑なのかしらね~」
窓の外からアムダ姉さんの声が聞こえた。
「あはは…………フィリア、行こうか?」
「うん!」
俺はフィリアと手を繋ぎ、家を後にした。
◇
「いらっしゃい。ソラくん」
「こんにちは、ガレインさん」
俺達は冒険者ギルドから呼ばれ、フィリア、カール、アムダ姉さん、イロラ姉さんと五人でガレインさんの所にやってきた。
「よく来てくれた。早速だが――――『フォースレイス』の討伐おめでとう」
「あ、ありがとうございます。もうガレインさんに届いているんですね」
「そうだとも。『フォースレイス』を倒したパーティーの噂が広まらないはずもない。今ではソラくんのパーティーは一躍有名だよ?」
「ええええ!? そんなに早くですか?」
「ああ。冒険者ギルドでもすぐに噂が広まってくれてね」
「なるほど……だから既に知っていたんですね」
ガレインさんが「うんうん」と頷く。
「それで、どうして呼ばれたんですか?」
「ん? 君は不思議な事を聞くね? 『フォースレイス』を目指した理由を忘れたのかい?」
「えっ? 確かに僕達は『フォースレイス』を倒したんですが…………まだクランの目標は達成出来てないんですけど……?」
「ん? 達成出来てない? どういう事だい?」
ガレインさんがキョトンとする。
俺達の目標は『フォースレイス』を倒して『フォースクロース』を持ってくることだ。
ただ、既に『フォースクロース』は持っている。ちゃんとフィリアが守ってくれている。
俺達に足りないのは…………
「だって、俺達はフィリアと一緒に倒したんですよ?」
「ん? あ~なるほど! つまり、君は、『剣聖』であるフィリアくんと同じパーティーで『フォースレイス』を倒してしまったから、今回の試練は突破出来なかったと」
「え、ええ」
「あははは~ソラくん。君は本当に面白いね! うん。本当に気に入ったよ!」
ガレインさんが大笑いした。
それを俺達は不思議そうに見つめる。
「僕は君に剣聖くんと同じパーティーであってはならないとは一言も言ってないんだけどね?」
ガレインさんの言葉に、俺の思考が停止する。
え?
フィリアと一緒に戦って良かったの?
あの剣聖のフィリアと?
「ふむ、みんな納得いかない顔だね。フィリアくんが剣聖なのは知っているが、剣聖くらいで『フォースレイス』は倒せないよ? あの魔物の別名は『絶望の軍団』さ。軍団と付く理由を君達は味わったのだろう?」
「あ……もしかして、ハイレイスがあんなに大量に現れたのって……」
「ああ、フォースレイスの取り巻きさ。あれは倒しても倒してもずっと現れ続ける。生半可なパーティーなら耐える事すら出来ないのさ」
ガレインさんの言葉に、フォースレイス戦を思い浮かべると、確かにその通りだと思う。
あのハイレイス達の魔法の数と、フォースレイスは単純だが、強力過ぎる広範囲魔法はフォースレイスの耐久が減れば減るほど強くなるのは、絶望に等しいのだろう。
「そんな相手に剣聖をたった一人入れたくらいで勝てた君の実力を、ギルドマスターとして高く評価せざるを得ないのさ。だから、ソラくん。この試練を乗り越えた君だからこそ、セグリス冒険者ギルドマスターとして、君に今一度聞こう」
最も聞きたかった言葉。
俺達がずっと目指してきた道のり。
周りの人々からすれば、俺達の努力は速かったかも知れない。
人よりも努力をしてないように見えているかも知れない。
それでも、俺達は決して楽な道を歩んでいない事を知っているし、俺達を見て来た沢山の人々もそれを分かってくれた。
だからこそ、俺達はこれからも前を向いて走り続けたいと思う。
「ソラくん。クランを結成するかい?」
「はい! よろしくお願いします!」
「分かった。セグリス冒険者ギルドマスターとして、ソラくん。君のクランを正式的に許可する」
この日。
セグリス冒険者ギルドマスターのガレインの承認により、一つのクランが誕生した。
その報せは王国だけでなく、隣国にも広まる事となり、瞬く間に広まる事となった。
何故瞬く間に広まったのか。
それには二つの理由がある。
一つ目は、冒険者ギルドマスターのガレインという史上最強と呼ばれている男が唯一認めたクランである事。
二つ目は、そのクランマスターが『転職士』であるからだ。
こうして『転職士』のクランマスターが誕生する事によって、王国は、いや、世界は大きく変わろうとしていた。
――――『一章』後書き――――
日頃『幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。』を読んで頂きありがとうございます!
この話で『一章』が終わりとなります。一章のテーマはクランを設立するまでの話を書いております。
ソラだけでなく、フィリアとカール、アムダやイロラ、先輩達の頑張る姿をしっかり書けたと思っております。
ここまで読んで頂けた方なら既に作品フォローはしてくださっていると思いますが、この先も楽しみだと思われた方は、是非作品フォローと★を3つ入れて頂けると作者のモチベが上がり、これからの執筆も頑張ります!
さて、ここからの進行の件になりますが、二章からはソラくん達のクランの話となります。
一章で猛威を奮っていた弓士隊は卒業してセグリス町に残りますが、ソラ達の冒険が新たに始まります。
それに伴い、また魅力的な仲間が増える予定でございます。
新たな仲間やソラ達の活躍を楽しみに待ってくださると嬉しいです!
作者御峰はこれからも精力的に執筆を頑張っていきますので、読者様の温かい応援を心からお待ちしております! よろしくお願いします!
あ、それと明日から一話投稿に戻りますのでよろしくお願いします!