亡者の墓の二層に辿り着いた日から一か月が過ぎた。
その間にフィリアには、亡者の墓の二層で経験値を貯めて貰いつつ、僕も剣士や狩人でレッドスケルトンに挑戦してみたが、一人では手も足も出ない時期が続いた。
焦るつもりはないが、今のまま時間が過ぎても二層すら攻略出来る気配がなかった。
レッサーナイトメア戦のように、ベリンさんには盾で防いで――――とも考えたけど、それが使いにくい理由があった。
その理由は、レッドスケルトンが小さすぎるからだ。
元々レッサーナイトメアは人よりもずっと大きい。
なので、ベリンさんの後ろからでも簡単に攻撃できた。
でもレッドスケルトンは人と同じ大きさしかない。
ベリンさんが大盾を持つと、レッドスケルトンが全く見えなくなってしまうのだ。
だからと言って、横から攻撃しようものなら、レッドスケルトンがそのまま迎撃に向かってしまうのだ。
見た目以上に賢いレッドスケルトンならではの難しさだった。
色々考えたけど、今のところは結論が見い出せずにいる。
強いて言えば、僕の次のレベル、もしくは更にその次のレベルで味方を更に強く出来るスキルに期待するしかなかった。
それでも少しでも突破口を開く為に、フィリアと毎日二層に潜った。
フィリアならレイスですら簡単に倒せるので、フィリアの経験値貯めにも丁度良く、気付けばフィリアも随分とレベルを上げていた。
「それにしてもソラの経験値アップは凄いわ」
「ん? あ~経験値減算が無くなる話?」
「うん。恐らくだけど、減算が全部無くなる訳ではないみたい。それが証拠にスモールボアだけを大量に狩り続ける向こうのパーティーより、私の上がり方の方が早いもの。狩っている量から考えれば同じでもいいのに、向こうはレベル5から打ち止めのような雰囲気だから」
「あ~アムダ姉さんも似た事を言っていたね。ボアだけでレベル6になれる気がしないって」
「うん。そこで一つ仮設を立ててみたの。恐らく減算は無くなるけど、レベル差が開き過ぎた魔物は、0になってしまう説」
「0になる説……」
「うん。本当はそれも試してみたいんだけど、今は少しでも時間が欲しいからね…………でも間違いないのは、メンバーの皆が定期的に経験値をソラにくれれば、恐らくそれが一番いい効率かも知れないね」
「そうだな、一週間ごとに経験値を貰ってるけど、みんなレベルがどんどん上がっているもんな。そろそろ僕のレベルも5に上がりそうだけど――――はぁ、心配だな」
弱音を吐く俺に、フィリアが腕を組んで来た。
「大丈夫。ソラは強い。レベル5になれば、ソラはもっと強くなる。私が保証するから」
「ははは……そうだな。下を向いていても始まらないし、今はとにかくレベル5の事と、レッドスケルトンの単体攻略を考えるよ」
「うん。その方がいいわ」
フィリアに励まされ、また前を向いて狩りを続けた。
その日、狩りの成果物を売りに冒険者ギルドに行くと、ミリシャさんに呼ばれ、以前通された貴賓室に案内された。
恐らく、『攻略情報』の件だろう。
少し待っていると、ノックの音がして、ガレインさんが入って来た。
「やあ、お久しぶり」
「ガレインさん。お久しぶりです」
約一か月ぶりのギルドマスターのガレインさんだった。
「いや~ソラくんのおかげで、とんだ目にあってさ~」
「えええ!? 俺のおかげ!?」
「あはは~、その話を今からしたいのさ。さあさあ座って」
前回同様俺とフィリア、向かいにガレインさんが座った。
「さて、早速だけど、本題に入らせて貰うよ。他でもない、以前ソラくんが売ってくれた『攻略情報』についてだ。本当にソラくんの情報が凄すぎて色々検証に手間取ってね~」
「レッサーナイトメアの動きのパターンとかも見なきゃいけないですものね」
「そうなのさ~しかも三日に一回しか現れないからね。でも狩場の常連がみんな良い人で、検証もとてもやりやすかったよ~」
常連とは、いつもの面々だろう。
ワイルダさんとは、時々酒場で会っては、一緒にご飯を食べたり、雑談したりと、今では良い友人のような存在だ。
「おかげで一か月もかかったが……全て検証が終わったよ。だからその判定をギルドマスターの僕が下す事になるのさ。ではソラくん。君が売ってくれた『攻略情報』は、『特別情報』と判断させて貰うよ」
「えええええ!? 『特別情報』!?」
「うちのソラの情報だから当然よね!」
フィリアがドヤ顔になる。
その微笑ましい行動にツッコミすら出来ないくらいに、俺は驚いてしまった。
確かに、他のパーティーとのやり方は違うとは思っていたけど、まさか『特別情報』とは思わなかった。
「あはは、君はもう少し自信を持った方がいいね。その情報は間違いなくギルドマスターである、このガレインが『特別情報』として買わせて貰うよ?」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「ふふっ、一応こちらで適正な値段を提示させて貰うけど、あくまで参考にだけして貰って、あとはソラくんが決めた値段で貼り出すからね~」
ガレインさんが紙一枚を前に出した。
「値段ですか…………ん、ちょっと高い気がします」
「ほぉ……だが、ソラくん? 情報を安くすればいい訳ではないんだよ?」
ガレインさんが右手を前に出して人差し指を立てる。
「いいかい? この情報は言わば、お金で買えるんだよ。買うだけで狩り方が分かるから今まで頑張ってきたパーティーにも大きな問題になるんだよ。だから、適切な値段にするのが大切なんだ。お金を多く払ってもこの情報を手に入れればレッサーナイトメアを倒せる作戦が簡単に組めて、色んなパーティーが挑戦出来るから、僕的にはこの値段でも安い方だと思うよ」
そうか……誰でもその狩場を簡単に利用できるようになるのは、決して良い事ばかりではないのか……。
また一つ良い事を学んだ気がした。
「分かりました。ではガレインさんのお言葉に甘えさせて頂いて、ここに書いてある値段の一割高く設定させて頂きます」
「ふふっ、それでいいと思う。ではそのように販売させて貰うよ。売られた額の二割は冒険者ギルドに入る事になる。残り八割はまとめて月一でソラくんの冒険者用口座に入る事になっているので、毎月ちゃんと確認してね!」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、初めての『特別情報』が冒険者ギルドを通して売り出された。
その間にフィリアには、亡者の墓の二層で経験値を貯めて貰いつつ、僕も剣士や狩人でレッドスケルトンに挑戦してみたが、一人では手も足も出ない時期が続いた。
焦るつもりはないが、今のまま時間が過ぎても二層すら攻略出来る気配がなかった。
レッサーナイトメア戦のように、ベリンさんには盾で防いで――――とも考えたけど、それが使いにくい理由があった。
その理由は、レッドスケルトンが小さすぎるからだ。
元々レッサーナイトメアは人よりもずっと大きい。
なので、ベリンさんの後ろからでも簡単に攻撃できた。
でもレッドスケルトンは人と同じ大きさしかない。
ベリンさんが大盾を持つと、レッドスケルトンが全く見えなくなってしまうのだ。
だからと言って、横から攻撃しようものなら、レッドスケルトンがそのまま迎撃に向かってしまうのだ。
見た目以上に賢いレッドスケルトンならではの難しさだった。
色々考えたけど、今のところは結論が見い出せずにいる。
強いて言えば、僕の次のレベル、もしくは更にその次のレベルで味方を更に強く出来るスキルに期待するしかなかった。
それでも少しでも突破口を開く為に、フィリアと毎日二層に潜った。
フィリアならレイスですら簡単に倒せるので、フィリアの経験値貯めにも丁度良く、気付けばフィリアも随分とレベルを上げていた。
「それにしてもソラの経験値アップは凄いわ」
「ん? あ~経験値減算が無くなる話?」
「うん。恐らくだけど、減算が全部無くなる訳ではないみたい。それが証拠にスモールボアだけを大量に狩り続ける向こうのパーティーより、私の上がり方の方が早いもの。狩っている量から考えれば同じでもいいのに、向こうはレベル5から打ち止めのような雰囲気だから」
「あ~アムダ姉さんも似た事を言っていたね。ボアだけでレベル6になれる気がしないって」
「うん。そこで一つ仮設を立ててみたの。恐らく減算は無くなるけど、レベル差が開き過ぎた魔物は、0になってしまう説」
「0になる説……」
「うん。本当はそれも試してみたいんだけど、今は少しでも時間が欲しいからね…………でも間違いないのは、メンバーの皆が定期的に経験値をソラにくれれば、恐らくそれが一番いい効率かも知れないね」
「そうだな、一週間ごとに経験値を貰ってるけど、みんなレベルがどんどん上がっているもんな。そろそろ僕のレベルも5に上がりそうだけど――――はぁ、心配だな」
弱音を吐く俺に、フィリアが腕を組んで来た。
「大丈夫。ソラは強い。レベル5になれば、ソラはもっと強くなる。私が保証するから」
「ははは……そうだな。下を向いていても始まらないし、今はとにかくレベル5の事と、レッドスケルトンの単体攻略を考えるよ」
「うん。その方がいいわ」
フィリアに励まされ、また前を向いて狩りを続けた。
その日、狩りの成果物を売りに冒険者ギルドに行くと、ミリシャさんに呼ばれ、以前通された貴賓室に案内された。
恐らく、『攻略情報』の件だろう。
少し待っていると、ノックの音がして、ガレインさんが入って来た。
「やあ、お久しぶり」
「ガレインさん。お久しぶりです」
約一か月ぶりのギルドマスターのガレインさんだった。
「いや~ソラくんのおかげで、とんだ目にあってさ~」
「えええ!? 俺のおかげ!?」
「あはは~、その話を今からしたいのさ。さあさあ座って」
前回同様俺とフィリア、向かいにガレインさんが座った。
「さて、早速だけど、本題に入らせて貰うよ。他でもない、以前ソラくんが売ってくれた『攻略情報』についてだ。本当にソラくんの情報が凄すぎて色々検証に手間取ってね~」
「レッサーナイトメアの動きのパターンとかも見なきゃいけないですものね」
「そうなのさ~しかも三日に一回しか現れないからね。でも狩場の常連がみんな良い人で、検証もとてもやりやすかったよ~」
常連とは、いつもの面々だろう。
ワイルダさんとは、時々酒場で会っては、一緒にご飯を食べたり、雑談したりと、今では良い友人のような存在だ。
「おかげで一か月もかかったが……全て検証が終わったよ。だからその判定をギルドマスターの僕が下す事になるのさ。ではソラくん。君が売ってくれた『攻略情報』は、『特別情報』と判断させて貰うよ」
「えええええ!? 『特別情報』!?」
「うちのソラの情報だから当然よね!」
フィリアがドヤ顔になる。
その微笑ましい行動にツッコミすら出来ないくらいに、俺は驚いてしまった。
確かに、他のパーティーとのやり方は違うとは思っていたけど、まさか『特別情報』とは思わなかった。
「あはは、君はもう少し自信を持った方がいいね。その情報は間違いなくギルドマスターである、このガレインが『特別情報』として買わせて貰うよ?」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「ふふっ、一応こちらで適正な値段を提示させて貰うけど、あくまで参考にだけして貰って、あとはソラくんが決めた値段で貼り出すからね~」
ガレインさんが紙一枚を前に出した。
「値段ですか…………ん、ちょっと高い気がします」
「ほぉ……だが、ソラくん? 情報を安くすればいい訳ではないんだよ?」
ガレインさんが右手を前に出して人差し指を立てる。
「いいかい? この情報は言わば、お金で買えるんだよ。買うだけで狩り方が分かるから今まで頑張ってきたパーティーにも大きな問題になるんだよ。だから、適切な値段にするのが大切なんだ。お金を多く払ってもこの情報を手に入れればレッサーナイトメアを倒せる作戦が簡単に組めて、色んなパーティーが挑戦出来るから、僕的にはこの値段でも安い方だと思うよ」
そうか……誰でもその狩場を簡単に利用できるようになるのは、決して良い事ばかりではないのか……。
また一つ良い事を学んだ気がした。
「分かりました。ではガレインさんのお言葉に甘えさせて頂いて、ここに書いてある値段の一割高く設定させて頂きます」
「ふふっ、それでいいと思う。ではそのように販売させて貰うよ。売られた額の二割は冒険者ギルドに入る事になる。残り八割はまとめて月一でソラくんの冒険者用口座に入る事になっているので、毎月ちゃんと確認してね!」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、初めての『特別情報』が冒険者ギルドを通して売り出された。