あれから数日は亡者の墓の一層を回った。

 ここで出る魔物はDランク魔物の『インプ』と『スケルトン』の二種類。

 インプはゴブリンより一回り小さい魔物ですばしっこいのが特徴で、ゴブリン同様連携して攻撃してくるから厄介だ。

 スケルトンはまんま骨。動く骨だ。厄介なのは、頭を壊さないと倒れない事。強さは大した事はなく、魔法使いでも力負けはしなさそう。

 一層の道は非常に綺麗に並んでいる。丁度四角の形で道が伸びていて、十字路が非常に多い。

 その先に大きな墓がある場合があって、そこで戦うパーティーが多い感じだ。



 一層の最奥に、下に降りる階段を見つける事が出来た。

 階段の前には、ちゃんと看板があって「二層はCランク」と書いてある。

 Cランク…………レッサーナイトメアと同レベルの魔物が出るのか……。

 フィリアによれば、Cランクから強いパーティーと認知されるみたい。

 レッサーナイトメアがCCランクとは言え、Cランクに分類されるからね。

 二層からはレッサーナイトメア程ではないが、それと同じ分類されるランクの魔物が大量に出てくる事を考えたらレッサーナイトメア戦の比ではないと思える。

「さて…………これから二層だけど、フィリア? 危険だと思ったら直ぐに引く事。俺の指示に従って貰う事。いいね?」

「はい!」

 右手を上げて返事するフィリアが可愛らしい。

 そして、俺達は二層に降りていった。



 ◇



「ん~意外~! 二層も同じだ~!」

「だね。ただ道が広いのと、道の所々に水溜まりがあるね?」

「えっ! 本当だ! ソラ、凄い!」

 階段を下りて直ぐの所は広場になっている。

 何人かのパーティーが広場で陣取っている。

「ん……? この広場に集まっているけど、どんな意味があるんだろう?」

「あ~噂に聞いていた『安全地域』かも知れないよ!」

「『安全地域』?」

「うん。ダンジョンには魔物が入れない地域があるらしいの。でもデメリットもあって、安全地域に入った状態で魔物を倒した場合は、魔物は何も残らなくなるって聞いた事あるよ」

 そんな地域があるんだ……。

 確かに、広場にいるパーティー全員が寛いでいる。

 食事を取っているパーティーもいれば、のんびり会話を楽しむパーティー、興味有り気に俺達を見つめるパーティーもいた。

 それくらい、この広場にいる皆はのんびりしていた。



「へぇー、二人パーティーとは、随分ラブラブなカップルだね? 二人だけでここの二層はやめておいた方がいいわよ? ふふっ」



 ジロジロ見ていたパーティーの女性一人が、俺達に声を掛けて来た。

「ありがとうございます。少しだけ様子を見に来た感じですので」

「ふ~ん。まぁ、危なくなったらお姉ちゃんが助けてあげるわ!」

「ありがとうございます。その時は、助けてくださると嬉しいです」

「…………ふん!」

 ええええ!?

 どうして!?

「ソラ……」

「ん?」

「あれ、ものすごい嫌みを言われたんだよ? 早く出ていけ的な」

「あ…………なるほど…………人付き合いって難しいんだな」

「ふふっ、でもソラはそんな感じのままがいいな~だから、気にしないで私達がやるべき事をやろう?」

「そうだな。取り敢えず、ここから魔物を研究したいな」

「分かった。一応入口の前に魔物がいたら、私が戦うね」

「その時は頼むわ」

 暫く待っていても、戦っているパーティーが視界に入らず、どうしようかなと悩んでいたら、入口付近に赤い色のスケルトンが現れた。

「上のスケルトンよりは遥かに強そうだね。フィリア、気を付けてね」

「うん!」

「確認の為に、最初は頭ね」

「うん!」

 安全地域になっている広場から、フィリアが一歩外に出る。

 目の前にいた赤い骨は、瞬時にフィリアの存在を補足したようで、目もない顔をフィリアに向ける。


「ふん、レッドスケルトンに一人で挑むなんて、彼女直ぐに死――――」


 後ろから先程の女性の声が聞こえ――――始めた時に、フィリアがその場で消えた。

 今までの速度は遊びでした。と言わんばかりの速さだった。
 
 寧ろ消えたようにしか見えなかった。

「ソラ~、頭一撃だったよ~」

 レッドスケルトンの頭が二つに割れて、身体が崩れ落ち、その後ろから笑顔で手を振るフィリア。

 それを見る後ろの女の人は、信じられないモノを見るかのような顔だった。



「な、な、な、なっ! レッドスケルトンを一撃!?」



 意外にも周りの人達も驚いていた。

 レッドスケルトンを一撃ってそんなに凄い事なのだろうか?

 いつもの光景だから、あまり凄さが分からない。

 フィリアが戻って来た頃、またもや入口にレッドスケルトンが現れた。

「フィリア、今度は僕が戦ってみるよ」

「えっ!? う、うん。でも気を付けてね?」

「ああ、危なくなったらよろしくね」

「任せといて!」

 フィリアは剣を抜いて、いつでも全力ダッシュが出来る体勢になった。

 そこまでしなくても……。

 俺は『狩人』から既にレベル4になっている『剣士』に変更した。


 安全地域から一歩外に出た。

 レッドスケルトンが俺を見る。

 ずしっと重い殺気が俺を襲った。

 安全地域からは感じなかったけど、対峙するとその恐怖さがよくわかる。


 レッドスケルトンが俺を目掛けて飛んできた。

 どれ程の強さなのかを調べる為にも、攻撃を一度剣で跳ね返してみた。

 カーン

 レッドスケルトンの腕は思っていた以上に固く、すぐにキックが飛んできた。

 避けられない程ではなかったので、キックを避けるも、直ぐに腕による攻撃が止む事なく続いた。

 懸命に防いではいるが、このままではいずれやられそうだ。


 シューッ


 そよ風が吹いて、レッドスケルトンの頭部が二つになり、崩れ落ちた。

「はあはあ……ありがとう。フィリア」

「えへへ、お疲れ様~」

 フィリアから渡されたタオルで、いつの間にか溢れる汗を拭いた。

 こんな強い魔物を一瞬で倒すフィリアの異常な強さに驚くのも、無理はないなと思った。