俺とフィリアは恐る恐る『亡者の墓』に入って行った。

 初めてのダンジョンというのも相まって、緊張しながら入る。


 遺跡の門から暫く真っすぐ続く道を歩くと、道の先に明るい緑色の光が見え始めた。

 やがて道が終わり、目の前に広がるのは、大きく広がっている墓地だった。

 至る所に緑色の光る玉のような物が浮遊しており、おかげで遠くも眺められる。

 しかし、所々に大きな墓があり、その裏は死角になっていて視界を邪魔している。


「ふむ……墓が大きくて墓を背負って戦うのは不利だね」

「そうなの? 寧ろ壁になってるから良いと思ったんだけど」

「うん。意外かも知れないけど、あの死角がいざという時に邪魔になると思う」

「いざという時?」

「ああ、あの墓を背負って戦うという事は、逃げ道を断ち切るって事だから危ないんだよ。敵が正面から来るだけならいいんだろうけど…………あの墓の両脇から敵が現れた時、逆に不利になりやすいんだよ」

「へぇー! うん。ちゃんと覚えておくね」

「ああ。一番良いのは、わざとあの十字路で戦った方がいい」

「十字路ね! 周りのパーティーを見ると殆どが墓を背負っていて、十字路を避けているように見えるね」

「最初から四方を注意しなくちゃいけないからね。でもうちの場合はそもそもの前提から違うんだよ」

「前提から違う?」

「ああ。うちのパーティーは、戦いの分担が出来るから、四方を警戒出来るし、危険が迫った場合でも直ぐに逃げる判断をくだせるんだよ…………あ、あのパーティー。危ないかも」

 フィリアに亡者の墓の一層の雰囲気から思った事を話していた時、向こうの墓を背負って戦っている四人組のパーティーが、俺が思っていた墓の脇からの敵の出現に遭いそうだった。

 何となく、そう思った。だけなんだけど、暫く眺めていると、その何となくは、現実となった。

 彼らのパーティーは、小さなゴブリンのような魔物と、動く骨と戦っていた。

 その時、墓の脇から骨が数十匹がなだれ込んだ。

「フィリア! 右側をお願い!」

「はい!」

 現れた骨軍団に絶望的な表情を見せるパーティー。

 そこにフィリアが目にも止まらぬ速さで骨の軍団を切り刻んだ。

 その間、おれは反対側の骨の軍団に矢を放つ。

 思っていた通り、骨の頭を打ち抜いたら一撃で倒されていた。

 というか……寧ろ、この骨達は頭を破壊しないと倒せないかも知れない。

「フィリア!! 骨は頭を壊して!!」

「分かった!!」

 倒された骨が再度起き上がった瞬間、フィリアの高速剣戟が起き上がった全ての骨の頭を真っ二つにした。



「はあはあ…………あんたたち……助けてくれて、ありがとうよ」

 リーダーと思われる男性が前に出た。

 他の三人は、激しい戦いと予想していなかった強襲に一度は絶望したのもあって、その場に座り込んでいる。

「いえいえ、助けられて良かったです」

「本当に助かった……あのままでは全滅だったよ……はぁ、まさか脇から攻められるとは思いもしなかったのさ」

「ええ、実は皆さんが戦い始めた頃、墓の裏側(・・)で骨が溢れていると思ったんですよ。もしかして、ここの魔物はああいうタイプなのかも知れませんね」

「……ん~難しい事を言うんだな? 俺は良く分からないや。あ、これを受け取ってくれ」

 男は俺に小さな袋を渡してくれた。

「これは……?」

「助けてくれた礼だよ」

「え? いいえ! 要りま――――」

「ソラ」

 袋を返そうとしたら、フィリアが止めに入った。

「えっとね? もし狩場で全滅の危機にあった時、助けて貰ったら必ず礼をするのが、冒険者のルールなの」

「えっ? そうなの?」

「うん。そのパーティーによって、自分達の命を換算して渡すルールになってるの。もしそれが少なかったり、誠意がない場合、噂になり二度と助けて貰えなくなるの。だから、ちゃんと貰おう?」

 少し驚いてリーダーを見ると、笑顔で頷いてくれた。

「まさか、新人(・・)に助けられるとはな。それにしても君達はその若さでとても強いんだね。もし今度危ない所を見たら、また助けてくれよ?」

「あはは……危険にならないでくださいよ!」

「がーはははっ、そりゃそうだな! おら! 一旦町に戻るぞ!!」

 彼らのパーティーメンバーは起き上がり、疲れた表情で一層を後にした。



「ん~、フィリア、今度冒険者のルール教えて~」

「うん! それはそうと、骨の頭を壊すのってどうして気付いたの?」

「あのパーティーが戦ってて、手間が増えているなと思ってさ。何回か倒して倒れるのか、頭を壊して倒せるのか自信がなかったから、弓で頭を狙ってみたら一撃だったから気付いたんだよ」

「へぇー! 私は何回か倒す方だとばかり思ってたよ!」

「ふふっ、うちのフィリアさんもまだまだだな!」

「っ!? うん! 私もまだまだだよ!」

 何故か嬉しそうに笑う彼女の頭を優しく撫でる。

 ダンジョンの一層の暗い雰囲気でも光り輝く彼女の美しい金髪が、俺が撫でる度に美しく揺れる。

「そういえば、あのゴブリンみたいなやつの方が厄介そうだったね?」

「う~ん、確かにね。すばしっこい感じだったけど、私はあまり気にならなかったかな~?」

「そりゃ…………」

 噂をすればなんたらと、丁度ゴブリンみたいなのが数匹現れた。

 瞬時に目の色を変えたフィリアが、そのままゴブリンみたいな魔物を一瞬で通り過ぎる。

 そして、何もさせて貰えず、バタバタと倒れていった。

「ほらね?」

 …………そりゃ気にならないわな。