ソラが冒険者ギルドにいた頃。
カールはとある鍛冶場に向かった。
「ここがセグリス町一番の鍛冶屋……」
目の前にある『玄龍の鍛冶屋』という看板に暫く目を奪われた。
鍛冶屋の前で何やら意を決したカールは、扉を開いた。
「いらっしゃい」
カウンターから低い声が聞こえる。そこにいたのは、はち切れんばかりの筋肉の中年男性が立っていた。
男性の鋭い目がカールを睨む。
「は、初めまして」
「…………うちは子供の遊び場じゃないぞ」
既に敵意を剥きだしている男性に、カールは一瞬怯んでしまったが、呼吸を整えカウンターの前にたった。
「遊びに来た訳ではありません。この角を加工して欲しいんです」
カールは透明な角――――レッサーナイトメアの角をテーブルの上に置いた。
「ほぉ……」
一目で角の正体を見抜いた男が唸る。
「この角を使って、同じ形の『ネックレス』を二つ作ってください。大きさは最小限でいいです。角の残りの部分で支払うでどうですか?」
「…………なるほど、この角の価値を知っているようだな? 誰からだ?」
「はい。ワイルダさんに相談させて貰いました」
「……やつか。……………………この角はお前が取ったのか?」
「俺ではなくて、俺達です」
「…………くっくっ、気に入った。ネックレスの金属に注文は?」
「片方は女性に贈るものなので、細い方が――――」
「分かった。あとは任せておけ」
「っ! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「そうだな。一週間後に取りにこい」
「はい! 楽しみにしてます!」
「ふっ」
満面の笑顔のカールは、鍛冶屋を後にした。
「なるほど……最近急速に成長したパーティーのやつか……ワイルダめ。とんでもない客を紹介してくれたな」
男は『暫く閉店』という看板を扉に掛け、扉の鍵を閉めた。
テーブルの上に置いてある透明な角を大事そうに抱え、裏の工房に入って行った。
◇
その頃。
孤児院では。
「「「「はぁ……」」」」
孤児院の会議室では、ソラのパーティーのメンバー達が溜息を吐いていた。
アムダとイロラ、盾役のベリンの他に孤児院の八人がテーブルを囲っていた。
テーブルの上には各自の分のレッサーナイトメアの角が上がっている。
「ね、ねぇ、アムダちゃん」
メンバーの一人が不安な顔でアムダを呼ぶ。
「う~ん……みんなの言いたい事は分かるけど、ソラくんは次の戦いはもっと危険だから、寄付とかしないで自分の為に使って欲しいって言ってたよ?」
「そうだけど…………こんな高い物を貰っても…………」
彼女達の前に並んでいるレッサーナイトメアの角は、一つでも高価な物である。
八人パーティーが一体を倒して角二つを手にいれた場合、大金を使うような事をせず、小さな贅沢をするくらいの生活が一か月続けられる。
それほどの額の品を、孤児院の者が手に入れられる機会があるはずもなく……。
そんな高価な物をどうしていいか悩んでいるパーティーメンバーであった。
テーブルの上に置いてあるレッサーナイトメアの角を全部売れば、孤児院があと数年は楽に生きられる程。
しかし、パーティーのリーダーであるソラからは、この角は全員が命を懸けて手に入れた物だからこそ、孤児院ではなく、自分の為に使って欲しいと頼まれていたのだ。
彼の頼みを無下にする事も出来ず、それが返って全員の頭を悩ませている理由だった。
「みんな」
静かに口を開くイロラ。
全員がイロラに注目する。
「使うの、難しいよね」
全員が頷いた。
「じゃあ、みんなの分は、集めて、店、やったら、いいと思う」
イロラの言葉に全員が驚く。
『店』。
誰も考えた事がなかった言葉だ。
「これから、ソラくんがクランを作る。そうしたら、土地を買って貰えるから」
「「「「それだ!!」」」」
メンバーの目が輝き始めた。
各自どういう店をしたいのか、全員がこれからも一緒にこの町で店を開いてやっていきたいかなど、話し合う声で会議室中が満ちた。
その姿を見たアムダとイロラは、優しい笑みを浮かべ、彼らを優しく見守った。
◇
次の日。
ソラのパーティーメンバーが孤児院の会議室に集まった。
「みなさん。今日は大事な話があります。実は――――クラン設立の条件を言い渡されました」
「「「「おおお!」」」」
メンバーから大きな歓声が上がった。
「それでですが……その条件は、今の俺達にはあまりにも重い条件です。それを達成するには――――これから全員が命を懸ける必要があります。レッサーナイトメア以上に…………ですから、最後の確認を取らせてください。この段階でパーティーを抜けたい方はいますか? 決して責めたりはしません」
ソラの言葉に、メンバーの顔が引き締まる。
そんな中、ベリンが立ち上がった。
「ソラくん。俺から一ついいかな?」
「どうぞ」
「ここにいるみんなを代表して交渉させて貰う。この中でソラくんのパーティーから抜けたいと思っている者はいない」
メンバーの決意した瞳がソラを見つめる。
ソラも彼らの想いを受け取れた気がした。
「ただ、命を懸けるのはまた違う。俺達は正直…………命が惜しい」
「はい。俺も自分の、皆さんの、命が大切です」
「ああ。ここまで来れたのも全てソラくんのおかげなのを俺達は知っている。だからこそ、この先も君に命を懸ける事も出来る。だが、折角の命を懸けるなら……俺達にもそれなりの報酬が欲しい」
「報酬ですか?」
「そうだ」
そして、ベリンは袋に入っていたレッサーナイトメアの角を十一個を前に出す。
「この角全部と、俺達の命を懸ける。だから――――」
ベリンの言葉に息を呑むソラ。
「クランを設立した際には、俺達にソラくんが土地を購入し、そこに建物を建てさせて欲しい。俺達がこの先もこの町で生きていけるお店を」
メンバーの願いに、ソラは迷う事なく承諾する。
ソラは自分を信じてくれる彼らの為にも、頑張ろうと決意した。
カールはとある鍛冶場に向かった。
「ここがセグリス町一番の鍛冶屋……」
目の前にある『玄龍の鍛冶屋』という看板に暫く目を奪われた。
鍛冶屋の前で何やら意を決したカールは、扉を開いた。
「いらっしゃい」
カウンターから低い声が聞こえる。そこにいたのは、はち切れんばかりの筋肉の中年男性が立っていた。
男性の鋭い目がカールを睨む。
「は、初めまして」
「…………うちは子供の遊び場じゃないぞ」
既に敵意を剥きだしている男性に、カールは一瞬怯んでしまったが、呼吸を整えカウンターの前にたった。
「遊びに来た訳ではありません。この角を加工して欲しいんです」
カールは透明な角――――レッサーナイトメアの角をテーブルの上に置いた。
「ほぉ……」
一目で角の正体を見抜いた男が唸る。
「この角を使って、同じ形の『ネックレス』を二つ作ってください。大きさは最小限でいいです。角の残りの部分で支払うでどうですか?」
「…………なるほど、この角の価値を知っているようだな? 誰からだ?」
「はい。ワイルダさんに相談させて貰いました」
「……やつか。……………………この角はお前が取ったのか?」
「俺ではなくて、俺達です」
「…………くっくっ、気に入った。ネックレスの金属に注文は?」
「片方は女性に贈るものなので、細い方が――――」
「分かった。あとは任せておけ」
「っ! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「そうだな。一週間後に取りにこい」
「はい! 楽しみにしてます!」
「ふっ」
満面の笑顔のカールは、鍛冶屋を後にした。
「なるほど……最近急速に成長したパーティーのやつか……ワイルダめ。とんでもない客を紹介してくれたな」
男は『暫く閉店』という看板を扉に掛け、扉の鍵を閉めた。
テーブルの上に置いてある透明な角を大事そうに抱え、裏の工房に入って行った。
◇
その頃。
孤児院では。
「「「「はぁ……」」」」
孤児院の会議室では、ソラのパーティーのメンバー達が溜息を吐いていた。
アムダとイロラ、盾役のベリンの他に孤児院の八人がテーブルを囲っていた。
テーブルの上には各自の分のレッサーナイトメアの角が上がっている。
「ね、ねぇ、アムダちゃん」
メンバーの一人が不安な顔でアムダを呼ぶ。
「う~ん……みんなの言いたい事は分かるけど、ソラくんは次の戦いはもっと危険だから、寄付とかしないで自分の為に使って欲しいって言ってたよ?」
「そうだけど…………こんな高い物を貰っても…………」
彼女達の前に並んでいるレッサーナイトメアの角は、一つでも高価な物である。
八人パーティーが一体を倒して角二つを手にいれた場合、大金を使うような事をせず、小さな贅沢をするくらいの生活が一か月続けられる。
それほどの額の品を、孤児院の者が手に入れられる機会があるはずもなく……。
そんな高価な物をどうしていいか悩んでいるパーティーメンバーであった。
テーブルの上に置いてあるレッサーナイトメアの角を全部売れば、孤児院があと数年は楽に生きられる程。
しかし、パーティーのリーダーであるソラからは、この角は全員が命を懸けて手に入れた物だからこそ、孤児院ではなく、自分の為に使って欲しいと頼まれていたのだ。
彼の頼みを無下にする事も出来ず、それが返って全員の頭を悩ませている理由だった。
「みんな」
静かに口を開くイロラ。
全員がイロラに注目する。
「使うの、難しいよね」
全員が頷いた。
「じゃあ、みんなの分は、集めて、店、やったら、いいと思う」
イロラの言葉に全員が驚く。
『店』。
誰も考えた事がなかった言葉だ。
「これから、ソラくんがクランを作る。そうしたら、土地を買って貰えるから」
「「「「それだ!!」」」」
メンバーの目が輝き始めた。
各自どういう店をしたいのか、全員がこれからも一緒にこの町で店を開いてやっていきたいかなど、話し合う声で会議室中が満ちた。
その姿を見たアムダとイロラは、優しい笑みを浮かべ、彼らを優しく見守った。
◇
次の日。
ソラのパーティーメンバーが孤児院の会議室に集まった。
「みなさん。今日は大事な話があります。実は――――クラン設立の条件を言い渡されました」
「「「「おおお!」」」」
メンバーから大きな歓声が上がった。
「それでですが……その条件は、今の俺達にはあまりにも重い条件です。それを達成するには――――これから全員が命を懸ける必要があります。レッサーナイトメア以上に…………ですから、最後の確認を取らせてください。この段階でパーティーを抜けたい方はいますか? 決して責めたりはしません」
ソラの言葉に、メンバーの顔が引き締まる。
そんな中、ベリンが立ち上がった。
「ソラくん。俺から一ついいかな?」
「どうぞ」
「ここにいるみんなを代表して交渉させて貰う。この中でソラくんのパーティーから抜けたいと思っている者はいない」
メンバーの決意した瞳がソラを見つめる。
ソラも彼らの想いを受け取れた気がした。
「ただ、命を懸けるのはまた違う。俺達は正直…………命が惜しい」
「はい。俺も自分の、皆さんの、命が大切です」
「ああ。ここまで来れたのも全てソラくんのおかげなのを俺達は知っている。だからこそ、この先も君に命を懸ける事も出来る。だが、折角の命を懸けるなら……俺達にもそれなりの報酬が欲しい」
「報酬ですか?」
「そうだ」
そして、ベリンは袋に入っていたレッサーナイトメアの角を十一個を前に出す。
「この角全部と、俺達の命を懸ける。だから――――」
ベリンの言葉に息を呑むソラ。
「クランを設立した際には、俺達にソラくんが土地を購入し、そこに建物を建てさせて欲しい。俺達がこの先もこの町で生きていけるお店を」
メンバーの願いに、ソラは迷う事なく承諾する。
ソラは自分を信じてくれる彼らの為にも、頑張ろうと決意した。