あれから一か月が経過した。

 三十日で一か月だから、レッサーナイトメアを十回倒した。

 ――――と言いたかったけど、他のパーティーも遠距離攻撃で初撃を取るようになり、レッサーナイトメアと戦えたのは半分に減った。

 それでも狙うパーティーの中では俺達が最も勝率が高かった。狩人十人のパーティーは反則級だね。

 そして、俺達のパーティーは最後(・・)のレッサーナイトメアを倒しに沼地にやってきた。

 そして、沼地の中央に全て(・・)のパーティーが集まっていた。全員武装解除のまま。

 暫く待つと、いつもの強烈な威圧感は放たれ、その場にレッサーナイトメアが現れた。



「行ってきます!」

 沼地に響く美しい声。

 レッサーナイトメアの前に対峙する――――フィリアだ。

「迅雷剣」

 フィリアが小さく呟いた後、目にも止まらぬ速さの剣戟がレッサーナイトメアを襲った。

「剛皇刃!」

 レッサーナイトメアが動く前にフィリアが更なる剣戟で吹き飛ばす。

「二連、牙蒼閃!」

 フィリアの双剣を覆っていた闘気から、大きな爆風が放たれ、レッサーナイトメアを包み込み、大きな音が響き渡った。

 あの攻撃…………喰らったらひとたまりもなさそうだ……。

 少し距離があるがフィリアは双剣を鞘に戻し、柄に両手を置いたまま、ぐっとこらえる。

 既にボロボロになったレッサーナイトメアが起き上がるが、戦える気力はなさそうだ。

 そして、

「剣聖奥義――――百花繚乱」

 消えたフィリアが、レッサーナイトメアの後方に現れる。

 後から無数の剣戟がレッサーナイトメアの周囲に見え始め、それが美しい花びらのように見えた。

 舞い上がった花びらが落ちていく。

 そして、レッサーナイトメアは鳴き声すら上げられず、その場で消え去った。



「カール…………」

「お、おう…………」

「俺達の努力ってさ…………」

「い、言うな……あれが特別過ぎるんだけだ……」

「そ、そうだな……そういう事にしないと…………」

 向こうからレッサーナイトメアの角を二つ持った笑顔のフィリアがやって来た。

「フィリア、お疲れ~」

「えへへ~、ただいま~」

 心なしか、一緒に見守っていた全てのパーティーの人達が一歩下がった。

 そりゃ……あんな圧倒的な戦いを目の当たりにしたら、そうもなるよね。

「レッサーナイトメアって、とても強いんだね! Cランクと聞いていたけど、まさか、三回目で終わらないと思わなかったよ~」

「あ、あはは……そ、そうなんだ? そういえば、フィリアって他のパーティーでCランク魔物と戦ったんだよね?」

「うん。レッサーナイトメアは、多分だけどBランクに限りなく近いCランクじゃないかな? あの体力の無さ(・・)じゃなかったら、Bランクだろうね~」

「そ、そっか……」

「これならソラがBランクを倒せるのもすぐね!」

「あ、あはは……が、頑張るよ」

「うん! 頑張ってね! 応援してるんだから!」

 帰り道、沢山の人から潤んだ目で肩に手を載せられ、「頑張れよ」と言われた。

 頑張ります…………。



 その後、相も変わらず、俺達は宴会を開いた。

 今度は俺達が貸切っての宴会だ。

 なんせ、今日が最後の沼地だからね。

 既に多くの貯金が貯まった俺達は、日頃の感謝も込めての事だった。

 沼地の主なパーティーが利用しているこの酒場『木漏れ日』で宴会が始まった。


「寂しくはなるが、打ち上げとかあれば、この酒場に来いよ! いつでも歓迎するぜ!」

「ありがとうございます! この酒場ってご飯もとても美味しいから、これから利用します!」

「おう! いいじゃねぇか! ここのマスターの飯は美味いからな!」

 ワイルダさんの「がはははっ!」と笑い声がとても心地よかった。

 その日は夜遅くまで、宴会が続いた。



 次の日。

 休息の日だけど、事前に終わらせておきたい事があったので、フィリアと一緒に冒険者ギルドにやってきた。

「ソラくん! いらっしゃい!」

 ミリシャさんが手を振って歓迎してくれる。

 手を振る度に右へ左へ揺れるのが凄い。

「ソ――ラ――」

「ち、違うから! そんなんじゃないから! ほら、早く行くよ!」

 恐ろしく冷たい視線を感じながら、急いでミリシャさんの所に逃げ込んだ。

「いらっしゃい」

「こんにちは、ミリシャさん。今日はお願いがあって来たんですけど」

「何でも任せて!」

 ミリシャさんが自分の右手で胸を叩く。

 だから……それは……揺れるんだよな……。

 必死に目線を外して、フィリアをけん制した。

「実は、俺達昨日で沼地を卒業しまして、沼地の『レッサーナイトメア』の『攻略情報』を提供しに来たんです」

「あ! ワイルダさんも話していたあれね? 分かったわ。ではこちらに付いてきて~」

 俺達はミリシャさんに連れられ、冒険者ギルドの二階にある部屋に案内された。

「では、担当の人が後から来るから、そこの紙に『攻略情報』を書いて待ってて~少し遅くなるかも知れないから、ゆっくりしててね」

「はい! ありがとうございます!」

 俺とフィリアはソファーに座り、俺は懸命に『レッサーナイトメアの攻略情報』を書き進めた。

 ある程度完成して、ノックの音がして、一人の男性が入って来た。

 ごつい体型が多い冒険者ギルドの中では、細身に見えるが、外でも分かるほど鍛えた身体が見える。

「君がソラくんだね?」



 綺麗な金髪から俺を覗く蒼い瞳がとても印象的な男性とは、それが初めての出逢いだった。