三日後。

 俺達はまた沼地にやってきた。

 前回同様、沼地の中央に集まった。

 前回は俺達を見て笑うパーティーもいたけど、今回は全然違う。

 ここにいるパーティー全員がやる気に満ちていた。

 それと大きく変わった点として、全てのパーティーが大盾(・・)を所持していた。

 恐らく、前回のうちらの戦いを参考にしたんだと思う。

 後衛の魔法使いや弓職の人達も大盾を持っていた。予備として持っているんだろうね。

 みんなが各場所で陣取っている。

 レッサーナイトメアが何処から出現するかは、完全に運次第だからね。

 静かな時間が過ぎていく。

 数分後、強烈な威圧感が放たれる。

 今回も俺達パーティーの射程範囲内だった。

 狩人パーティーから放たれた弓矢がレッサーナイトメアに命中し、二度目のレッサーナイトメア戦に突入。

 二度目の戦いともなると、前回より更に安定してレッサーナイトメアを追い詰めた。

 そして、最後は俺が『貫通の矢』を放ち、レッサーナイトメアは消滅した。

 弓矢にはそれぞれ強さがある。

 最も弱い普通の弓矢は『木の矢』、次は『鉄の矢』、次は『鋼鉄の矢』である。

 木や鉄だと命中した際、相手の装甲によっては壊れてしまって、本来刺さるであろう矢が弾かれたりしてしまう。ただ鋼鉄になるにつれ値段が上がるので、消耗品である弓矢は使いどころの選別が大事だ。

 では、前回と今回のレッサーナイトメア戦の最後に放った『貫通の矢』とは、矢の矢先に付ける金属を加工した『魔石』を付けた矢の一種であり、こういう矢を『特殊矢』と呼ぶ。

 『特殊矢』は魔石に特殊な力を付与した矢の事で、鉄や鋼鉄よりも高い効果を持つ。

 そして、何よりも種類が多いのだ。一番多いのは属性を付与した『火の矢』や『雷の矢』『氷の矢』があげられる。

 今回俺が使った『貫通の矢』は文字通り、貫通に特化した矢で一本でも剣一本よりも高い矢だけど、その威力は抜群だ。

 まだ狩人レベルが低いが、ステータスだけならパーティーの中で一番高い俺が放つその矢は、カールの魔法よりも威力があるのだ。



「前回より鮮やかな戦いだったな!」

「ワイルダさん! ありがとうございます!」

 ワイルダさんパーティーからまたもや激励される。

「こりゃ、俺らも遠距離で初撃を取る事を考えておかねばなー」

「それがいいと思いますよ。ただ、遠距離で初撃を与えるとデメリットもありますけどね」

「むっ? デメリットがあったのか?」

 周りの聞き耳を立てていたパーティーも、いつの間にか集まっていた。

 全員、先日の宴会に参加してくれて、祝ってくれた面々だった。

「はい。実はレッサーナイトメアはある特性があるんです」

「ある特性?」

 本来なら教えたくはない情報だけど、彼らの人情はとても温かいモノだった。

 それに、俺達が得た情報は彼らの戦いを見て学んだ事だから、隠さず教える事にしよう。

「レッサーナイトメアは幾つかの攻撃が状況に応じて決まって(・・・・)いる特性なんです。その中でも最も脅威なのが、レッサーナイトメアは敵全員(・・)が遠い場所にいる場合、黒い棘の攻撃ではなく、稲妻を纏って突撃してくるんですよ」

「むっ!? 確かに……お前らのパーティーには黒い棘はあまり使わないな?」

「はい。俺達のパーティーが初撃を与えた場合、必ず稲妻突撃を使って来ます。これはレッサーナイトメアにとって、最も強い攻撃だからだと思われます。だから逆にこれが防げるなら、遠距離で誘い出すのも手ですけどね」

「なるほど……だから今回も最初から突撃してきたのか」

「はい。ただ、皆さんにも注意して欲しいのは、遠距離で初撃を取っても、次にくるレッサーナイトメアの初撃である稲妻突撃を防げなかった場合、逃げるしかありません。次にくる行動は恐らく咆哮、それで吹き飛ばされた人達に黒い棘が襲ってくるはずです。そうなれば……無事では済まないはずです」

「……ふむ、以前全滅したパーティーにそういうやられ方をしていたパーティーがいたな。あの時、彼らは全滅してしまった…………だから沼地のパーティーには一つ暗黙のルールが増えて、レッサーナイトメアが全滅の危機を判断した場合、他のパーティーが助けに入る事だ。これは冒険者ギルドでも了承してくれているくらいだ」

「沼地にそういうルールがあったんですね! とても素敵なルールだと思います!」

「うむ。それはそうと、貴重な情報をありがとう」

「いえいえ、俺達は角を人数分手に入れたら、ここを離れますから、折角の情報をワイルダさん達に公開していこうと思ってましたから」

「がはははっ! 戦い方を迷う事なく教えるとは……お前さんは本当に懐が広いな! だが、そんな優しさに甘えてるようじゃ、我々も誇りある冒険者とは言えない! だから、これ以上の施しは受けない! だから、ソラにはお願いがある」

「お願いですか? 何でしょう?」

「人数分手にしてたら離れると言ったが、離れる時、戦い方を冒険者ギルドに売って(・・・)欲しい」

「戦い方を冒険者ギルドに売る?? どういう事ですか?」

 全くの初耳だった。

「ソラ」

「ん?」

 カールが溜息を吐いて、俺の肩に手を上げた。

「あのな。冒険者ギルドで『狩場の情報』を買えるだろう? あれって何も冒険者ギルドだけが確立させたモノではないんだよ。『狩場の情報』は冒険者ギルドに売る(・・)事が出来るんだ。内容によって値段も変わるし、とんでもない内容の場合、『継続契約』となって、その情報が売れたら何割か入るようになったりするんだよ」

「ええええ!? あれって、情報を売って出来たモノだったの!?」

「はぁ、いくら冒険者ギルドが凄いとは言え、各狩場の情報を一々調べ続けられる訳がないだろう? それにな、とても言いにくいが……」

「ん?」

「…………例えば、ここにフィリアが来たとしよう」

「うん」

「レッサーナイトメアなんて攻略する必要すらないんだよ」

「へ?」

「フィリアなら、ものの数秒でレッサーナイトメアを倒せるだろうよ」

「…………」

「だからな。強い人は決して攻略なんてしないんだよ。冒険者ギルドの上位陣が攻略するのは、もっと難しい魔物とか狩場だけになるんだよ」

 カールが言っている言葉は、知っていたはずだけど、何処かで強者が正義のこの世界の事を否定したくて、目を逸らしていた。

 強者にとって、通常の狩場など目じゃない……確かに、攻略する必要すらないか……。

 その時、俺の頭に大きく分厚い手が載せられ、髪をわしゃわしゃにされた。

「がはははっ! だからこそだ! お前たちの戦い方を見て、俺らも希望が持てた! だからこそ、その情報全てを冒険者ギルドに売ってくれ! それをここにいる全員が買う(・・)だろう。それが我々冒険者同士の在り方なんだよ。パーティーはパーティー同士で借りを作らない。忘れないようにな? 後輩パーティー諸君!」

「「「「はい!」」」」

 俺はつくづく周りに恵まれているなと嬉しくなった。

 ワイルダさんの笑い声と髪をわしゃわしゃされて、心が少し軽くなった気分だ。

 セグリス町に帰ると、フィリアが出迎えてくれて「あれ? ソラ、何か良い事あったでしょう! 教えてよ~」と言われ、皆で打ち上げ兼食事をしながら今日あった事を話した。



「えへへ、ソラだからこそ出来た事だよ! やっぱりソラは凄い!」

 嬉しそうな彼女の笑顔に、俺も嬉しくなった。