「氷の魔石、よし――――鋼鉄の矢、よし――――大盾二つ、よし――――最後にもしもの為の『回復ポーション』、よし」

 俺は目の前に並べられた物品を確認する。

 使い捨て用の氷の魔石、狩人チーム用の鋼鉄の矢、最前衛盾役用大盾二つ、そして、もしもの時のポーションを二つ。

 『回復ポーション』は特殊職能である『錬金術師』しか作る事が出来ず、材料は大した事がないらしいが、作り手が少ないのでとても高価なモノとなっていた。しかも、鮮度付き。

 今の自分の全財産ではここまでが限界だった。

 パーティーメンバーからも金を出すと話があったが、この戦いはあくまで俺の為の戦いであり、俺の為の挑戦だから、俺が揃えるのが当然だと思って断った。

 それに……下手をすれば命まで落とすかも知れない戦いに、メンバーを巻き込んだのだ。これくらいはしたいと思う。

 俺の決意もあって、メンバーも納得してくれて、準備が進み、遂に俺達は『レッサーナイトメア』に挑む日がやってきた。



 ◇



 その日は晴天で、いつもジメジメしている沼地ですら、晴れた日であった。

 そして、かの地は多くのパーティーで溢れた。

 目標は一つ。

 レッサーナイトメアである。

 三日に一度しか出現しない為、普段はパーティーも少ないこの地だが、三日に一度は人で溢れるのだ。

 既に十を超えるパーティーがその瞬間をじっと待っていた。

 そんな中、異様な雰囲気のパーティーがいた。

 弓を引いている人が十人にも及ぶそのパーティーは、他に魔法使い一人と、何故か両手に盾を持った男が一人、真ん中で長剣と弓を携えた少年が一人だった。

 本来なら弓使いは一人か二人しか入れないパーティーが多い中、大半の人数が狩人という光景に、初めて見るパーティーは笑う者も多かった。

 そんな中、古参パーティーのリーダーだけは違う目線で見ていた。

 彼らがやっている事がどれだけ効率が良い事なのかを感づいていたのだ。


 それがどういう事なのかは、その場にいた者全てが直ぐに分かる事となった。

 沼地に一際大きな威圧感が放たれた。

 皆がその場所に振り向く。

 しかし、皆が振り向くよりも早く、()が飛んでいた。

 沼地の中央から四方を向いていた狩人パーティーから直ぐに放たれた矢であった。

 黒い霧の中からレッサーナイトメアが現れたその瞬間に、放たれた矢が直撃する。

 その鋼鉄の矢は、スキルも相まって大きな音を鳴らし、直撃したレッサーナイトメアも一歩後ろに怯んだ。

 直ぐに中央の少年が「展開!」と声を上げた。

 すると、弓矢を持った狩人たちが、少年を中心に右側と左側に人五人分ほどの距離を離して並んだ。

 並び終えた頃、レッサーナイトメアがそのパーティーに向かって仕掛けてきた。

 稲妻を身に纏ったレッサーナイトメアが体当たりをする。

 しかし、そんなレッサーナイトメアを両手に大盾を持った男が全力で体当たりをしてぶつかった。

 鈍い音がして、レッサーナイトメアが吹き飛ばされた。

 大盾に稲妻が纏い、やがて男をも飲み込んだ。――――と思われたが、男が速やかに大盾を手放して、後方に逃げて行った。

 直後、大きな氷魔法と矢がレッサーナイトメアに降り注いだ。

 一通りの攻撃を喰らったレッサーナイトメアだったが、次の攻撃に対して咆哮を放った。

 咆哮により、撃たれた矢を全て空から落とした。

 しかし、それを既に見切っていたかのように、咆哮が終わるタイミングで、大きな氷魔法がレッサーナイトメアに直撃する。

 またもや大きなダメージを負ったレッサーナイトメアは悲痛な鳴き声を上げた。

 反撃を試みるレッサーナイトメアは、またもや全力で稲妻を纏い、パーティーに突撃する。

 しかし……その行動が届く事はなかった。

 何故なら、またもや大盾を二つ持った男が体当たりをして来たのだ。

 一度目と同じく、レッサーナイトメアが吹き飛ばされ、稲妻は既に持ち主がいない大盾二つを覆った。

「今です! 全力攻撃!」

 少年の声に合わせて、狩人達の弓矢と魔法使いの氷魔法がレッサーナイトメアに降り注いだ。

 数十秒。

 漸く矢と魔法が降り止み、ボロボロなレッサーナイトメアが起き上がった。

 そして、

 少年が放った矢がレッサーナイトメアの頭を貫通する。

 レッサーナイトメアは短い鳴き声をし、身体が消滅。

 その場に美しい角が二つだけ残っていた。