休暇も終わり、弐式、参式、肆式のメンバーは9日にも及ぶ期間、ずっとレベル上げに集中するため、『王家のダンジョン』で勤しんでくれるようになった。

 フィリアとアインハルトさんの元五騎士の皆さんも、毎日剣術の訓練に励んでいる。

 ルリくんとルナちゃんは、諜報のためワンド街に潜伏に向かっていて、ミリシャさんと俺とで二人の状況を聞いたり、指示を送ったりしている。

 他のメンバーもそれぞれ『銀朱の蒼穹』のためになる事を頑張ってくれていた。


 戦争まで残り10日。

 どうやらミリシャさんの予想通り、アクアソル王国から定期連絡が来なくなった事で、ワンド街の領主エヴィンは、戦いの準備を進めている。

 そのタイミングで、アクアソル王国からもう一回の十日間入国禁止を言い渡され、疑問から確信に変わった。



 戦争まで残り4日。

 こちらも向こうもお互いの準備がスムーズに進み、ワンド街に戦争のための兵士達が沢山滞在し始める。

 中にはまさかの『エンペラーナイト』の一人もやってきて、思っていた以上に大きな戦争になりそうな雰囲気だ。

 このタイミングで、ルリくんとルナちゃんには帰って来て貰った。

 念のためというか、『エンペラーナイト』が来たという事実が分かったので、大きな収穫だ。



 戦争まで残り2日。

 この日をもって、俺のレベル上げ期間が終わる。

 明日は祭りで、次の日には戦争が始まるからだ。



 その日の夜。

 ぎりぎりまで頑張ってくれるメンバー達。



 それにより――――――遂に俺のレベルが8から9に上昇した。


 - 職能『転職士』のレベルが9に上がりました。-

 - 新たにスキル『経験値アップ⑤』を獲得しました。-

 - 新たにスキル『エリートマスター』を獲得しました。-

 - 新たにスキル『キャリアマスター』を獲得しました。-

 - 新たにスキル『経験値タンク』を獲得しました。-



 『経験値アップ⑤』

 転職させた相手の獲得経験値を四十倍にする。

 ただし、このスキルを持った者を転職させ、転職士が経験値を獲得した場合、獲得経験値が半減する。



 『エリートマスター』

 指定した人のセカンドサブ職能を選択出来る。


 制約その①。

 サブ職能のレベルを最大にした職能のみ設定可能。


 制約その②。

 セカンドサブ職能はメイン職能より下のランクでなくてはならない。


 制約その③。

 セカンドサブ職能は経験値の獲得及び経験値の移動が不可能。


 制約その④。

 セカンドサブ職能はスキルのみが反映される。



 『キャリアマスター』

 スキル『キャリア』の獲得経験値が二倍に上昇する。(スキル『セカンドキャリア』の獲得経験値部分のみ上昇)



 『経験値タンク』

 溢れた経験値が自動的に『タンク』に貯蔵される。


 制約。

 貯蔵された経験値は、スキルの所有者にのみ使用可能。



 ◇



「以上が今回獲得したスキルだよ」

 レベル9になり得られたスキルを4つ、仲間に説明した。

「またとんでもないスキルばかりだね……確かにレベル9で覚えるスキルって凄いんだけど、『転職士』のスキルって他の職能よりも遥かに凄いわ……」

「うふふ、ソラくんがますます強くなるのは、嬉しいわ~」

 溜息を吐いているミリシャさんとは対照的に、アンナは嬉しそうだ。

「それと、サブ職能から、今度はセカンドサブ職能が付けれるようになったので、フィリアはここに『剣士』を付ければ、他に好きな職能をサブ職能に出来るね!」

「えっ!? わ、私?」

 呼ばれると思わなかったようで、驚いた表情で俺を見つめる。

「うんうん。俺はこのスキルを見た時に、真っ先にフィリアの事が思い浮かんだからね」

「おいおい、ソラ。惚気はやめてくれ~」

「えっ!? の、惚気じゃな…………ごめんなさい」

 周りが笑う中、俺とフィリアだけ恥ずかしそうに少し顔が赤くなってお互いを見つめた。

 これでフィリアも好きなように職能が付けられると思ったら、それがとても嬉しくなってしまった。


「ソラくん。それもそうだけど、最後のスキルはもっと凄いわ。これがあれば、つまり! もうレベルを1に戻す必要がないって事でしょう?」

 ミリシャさんの言う通りだ。

 スキル『経験値タンク』の溢れた経験値という文言。

 それはレベルが最大に達した者が得た経験値の事を指す。

 これでみんながわざわざレベル1に戻るのは、メイン職能を付け替えた時だけになる。

 さらにサブ職能で得た経験値もこれに入るので、場合によってはこれから120倍の速度で貯まる事になるだろう。

 メイン職能が40倍、サブ職能がメイン職能で得た経験値が2倍で手に入るので結果的に80倍、二つを足したら最終的に120倍の分になる。

 戦争が終わったらすぐにでも俺のレベルを10にあげるのも良いかも知れないとミリシャさんがつぶやいているけど、どれだけ経験値が必要なのか分からないからね。


 レベルも上がり、次の日には祭りが開かれた。

 既にワンド街には大軍が留まっており、明日にはここに向かって出陣するはずだ。

 この戦争に勝つためにも、喝を入れるために祭りを開くという名目だけど、喝を入れるためなのはちょっと不思議だ。

 まあ、王都民達が喜んでくれるからいいか。

 今回は女王様も下町に降りられ、みんなでお祭りを堪能した。

 こんなに楽しい時間がいつまでも続いたらいいのにと思う。

 広場に上がる焚き火を囲い、俺達は踊りながら夜を楽しんだ。



 その日の夜。

「ソラ? 話しがあるってどうしたの?」

 俺が話しがあると呼んだフィリアがやって来た。

 フィリアは風呂上がりのようで、アクアソル王国の果物石鹸の良い香りが部屋に充満する。

 それも相まってさらに緊張してしまう。

「えっと、フィリア……その……えっと…………」

 フィリアはゆっくり俺が座っているソファの隣に座る。

 ビタっとくっついて座るフィリアの匂いがより近くで感じられる。

 自分の心臓の音がこんなに大きかったのかと思えるくらい、心臓の音が聞こえる。

「ねえ、ソラ? 私達って気づいたらこんな場所まで来てしまったね」

「う、うん……」

「初めて出会った時は、こうなるとは思わなかったけど…………私はソラに出会えて本当によかった」

「俺もだよ、フィリア」

 見つめ合った彼女を自然と唇と重ねる。

 いつもなら、ただ重ねるだけだけど、今日はもう少し先に進む。

 拒否されたらどうしようと悩んでいたけど、フィリアは拒否一つ出さずに全て受け入れてくれた。

 暫く息が入り混じる時間を過ごし、俺達はベッドに移動する。

 初めてフィリアをお姫様抱っこすると、嬉しそうに俺の肩に頭をこすりつける彼女がまた可愛い。

 ベッドに運んだフィリアは、全てを包み込んでくれる聖母様のような笑みを浮かべていた。

 俺は慣れない手付きで、フィリアの服を一つ、また一つ脱がしていく。

 途中、フィリアも手を伸ばし、俺の服を一つ、また一つゆっくり脱がしてくれる。

 ゆっくり過ぎる時間も自分の心臓の鼓動の音が耳元まで聞こえてくる。

 お互いに生まれた時の姿になり、初めて彼女の肌に触れる。

 温かくも切なくも嬉しい感情が湧き出る。

 フィリアと暫く肌をふれあい、俺達はお互いの愛を確かめ合う。

 俺は最も幸せな時間をフィリアと一緒に過ごした。