「では、アクアソル王国として、私達『銀朱の蒼穹』に求める事はどういう事なのでしょうか? まさか、私達に帝国を倒してくれと仰るのですか?」

 ミリシャさんの鋭い質問がアクアソル王国の女王様に向く。

 あの手紙を承諾した時点で、何となくこうなるであろう事くらいは予想していたし、向こうもそのつもりだったのが目に見て取れる。

 お互いの腹の探り合いが終わり、交渉に入る段階だ。

「私達アクアソル王国がクラン『銀朱の蒼穹』に求める事は、大きく二つです。一つ目は戦時の食料援助、二つ目は戦時の戦力援助を求めます」

 悩む事なく、簡潔な答えが返って来る。

「一つ目に関しては、私達にとって造作もない事ですので、お受け致しましょう。ただ、二つ目に関しては承諾しかねます。それなりの大きな報酬でもない限り、我々がアクアソル王国を味方し、帝国と相反するメリットはないのです」

 その時、アクアソル王国側の宰相と思われる男性が一歩前に出る。

「僕はアクアソル王国の宰相をしているアレックスという。其方らのメリットはないというが、現状ではゼラリオン王国に所属しており、かのシカウンド地域を支配したと聞く。このまま真っ先に帝国と戦いの場となるのは、シカウンド地域でもあるのだ」

「ふふっ、もし帝国がシカウンド地域に攻めて来た場合、ゼラリオン王国が対応するでしょう。私達はそれに無条件に力を貸す事でしょうけどね」

「では、そのゼラリオン王国よりもより高い報酬を用意するなら、クラン『銀朱の蒼穹』としては我らアクアソル王国の味方にもなってくれると受け取って良いのかな?」

「ゼラリオン王国よりも(・・・)でしたら、我々も友人(・・)を見捨てたりはしないでしょう」

 女王様、宰相様、アインハルトさんがお互いに見つめ合い頷く。



「分かりました。『銀朱の蒼穹』の皆さんにアクアソル王国が出せる全てを出します。まず一つ目、戦時中獲得した全てのモノを『銀朱の蒼穹』に渡します。
 二つ目、アクアソル王国の北側に行った先に王家の土地が存在しております。そちらの土地をこの件の承諾時、無償でお渡しします。税金や制限も全て免除致します。
 三つ目、アクアソル王国には資源はございません。ですが『歴史』がございます。その歴史をあなた達に共有させて頂きます。その中には我が国がずっと秘密裏に運営している『王家のダンジョン』という『Aランクダンジョン』もございます」



 思っていた以上に破格な報酬だ。

 一つ目は、そもそも戦力が足りないので戦時中獲得品を報酬にするのはよくある商法だ。

 二つ目からの報酬はとても大きい。

 無償で税金や制限無しの土地をくれた上に、その土地が元々王家のモノだという事も大きい。

 きっと王家が長年持っていた休暇地とかだろうと思うけど、広さまでは分からないが、ここで報酬で出す程だから広さは十分過ぎるかも知れない。

 そして最後の三つ目が一番魅力的な報酬だ。

 何なら、上記二つがなくても、これだけでも大きな報酬になる。

【ミリシャさんの予想以上の報酬ですね】

【そうね……まさか王家の地まで手放すなんてね。本当に良い意味で予想以上だよ】

【ミリシャさん、もう少し交渉します?】

【そうね。せっかくならもう少し細かい交渉を進めてもいいかな?】

【分かりました。お願いします!】

 ミリシャさんは少し緊張した風に装う。

「分かりました、もう一つお願いしたい事があります」

「はい、何でもどうぞ」

 女王様は何でも聞いてくれそうな雰囲気だね。

 ただ、そこに俺も女王様達も予想だにしなかったミリシャさんの交渉が放たれた。










「クラン『エデン』の解体及び退職。その後、六名の方に『銀朱の蒼穹』に入って頂きます」



 さすがに俺もメンバーもだけど、それ以上にアインハルトさんや女王様も大きく驚く。

 すぐに宰相様が何かを話そうとした時。

「実は私達『銀朱の蒼穹』には、人には言えない秘密がございます。申し訳ございませんがそれをアクアソル王国に共有するつもりはありません。さらにアクアソル王国の最高戦力をこのまま腐らせるのは勿体ないです。特に今回の戦争は、熾烈な戦いになるでしょう。それが予想されるからこその提案です。ただし、一つだけ約束します。『銀朱の蒼穹』のマスターであるソラくんは、メンバーの想い(・・)を最も重要視しております。だから戦いの後、メンバーがやりたいように応援すると思います。ねえ? ソラくん」

 ミリシャさん!?

 そこで俺に振るのかああああ。

「は、はい! 俺はメンバーに何かを強制したいとは全く思っていません。ただ、出来れば一緒に頑張れるところは一緒に頑張りたいなと思いますから」

 アインハルトさんが手をあげた。

「それなら先程の報酬を全て無しにして、俺達が『銀朱の蒼穹』に入り、この国を守ってくれと言ったらどうする?」

「『銀朱の蒼穹』としてではありませんが、俺個人は皆さんの力になろうと思います」

「…………そうか」

「アインハルト様、我々の負けですね」

「宰相殿…………どうやらそのようだな、女王陛下……此度の提案、このアインハルトは受けても良いかと思います」

「アインハルト。許可します。私は皆さんを、クラン『銀朱の蒼穹』を信じます」

 全てを悟ったように女王様の瞳が玉座の間にいる全ての人に向く。

 既に覚悟は決めていたと思う。

 でも最も身近で働いてくれた部下を手放すのは、報酬なんかよりもずっとずっと難しいことだと思う。

 女王様の決断に、俺達も覚悟を決めた。