「初めまして、ようこそアクアソル王国へ。わたくしがアクアソル王国の女王、エヴァと申します」
案内された玉座の間。
玉座に座っている美しい女性が自己紹介をしてくれる。
本来なら跪くべきなのだろうけど、客人だからそうする必要はないと言われている。
「初めまして、クラン『銀朱の蒼穹』のマスターのソラと申します」
「本日はこちらの要請に答えてくださり感謝します」
「いえいえ、こんなに美しい街に誘って頂きありがとうございます。元々休暇地として有名でしたから、休暇に来る予定でした」
「ふふふっ、とてもよいタイミングでお声を掛けたみたいで良かったですわ」
「早速ですが、呼んだ理由をお聞きしても?」
アクアソル王国の女王様は大きく深呼吸をして、静かな口調で語り始めた。
「我々アクアソル王国は現在、帝国に事実上占領されております。皆さんがここに来られる間に見られたと思いますが、まず砦にて帝国から訪れる人を規制する事が出来ません……それも帝国の支配下にあるためです。
さらに我が国で作られている麦を全て『バクシュ』作りを強制させられ、格安の価格で取られている状態にあります…………武力を持って経済でも我が国を支配している状況なんです」
静かな口調だったけど、その奥にはもどかしさや怒りに近い感情が垣間見れる。
俺の後ろに待機していたミリシャさんが一歩前に出る。
「僭越ながらマスターのソラに代わりまして、わたくしミリシャが代わりに話させて頂きます」
「ミリシャ様ですね。よろしくお願い致します」
ミリシャさんの予想だと、アクアソル王国は『銀朱の蒼穹』に『武力提供』を頼まれるのではないかと予想している。
帝国の支配という言葉が出てきた以上、ミリシャさんの予想通りになるのだろう。
こういう交渉関係は、俺よりもミリシャさんが適任なので、女王様と直接話し合うのはミリシャさんにお願いすると事前に決めていた。
ただ、アクアソル王国の方々には聞こえない『念話』を使い、俺達は都度話し合うように決めている。
「女王様は帝国から支配と仰いますが……それは庇護下にあるの間違いではありませんか?」
「っ! い、いいえ! それは違います!」
「…………」
「我が国は帝国の庇護を頼んだ事はないのです…………あれは帝国からの見せしめのための噓偽りでございます。支配の代わりに無理難題を押し付けて、他国には庇護下においていると話しているだけなのです」
一つ気になるのは、女王様が声を荒げて話している間、周りのアインハルトさんや、宰相さんに見える若い男性や、他の騎士さんも全く口を開けない。
全て女王様に任せているのだろうか?
「では、アクアソル王国としては帝国の支配下から抜け出したいという事でございますか?」
「………………はい」
女王様の重苦しい返事が放たれる。
そのたった一言がどれだけ重い判断なのかは、事情を知らない俺達でも分かる程だ。
帝国に反する行為を今までしてこなかった。
でもこの一言で、俺達が味方になってもならなくても帝国と反すると公言してしまった。
それがどれだけ大きな問題なのか、女王もここに立っている重鎮たちも覚悟を決めているのだろう。
その時。
俺の後ろからルリくんが両手に二人の動かない人を連れて現れる。
「マスター。盗み聞きしていた二人を捕まえて来ました」
「ルリくん。ありがとう」
アインハルトさんの目が一瞬光った気がする。
「女王様。ここで『敵対』の意思が帝国に伝わらなかったとしても、この二人が戻らなければ帝国は『敵対』の意思と見なすでしょう。ここで私達が結論を出さなくても既にアクアソル王国は帝国に敵対しました」
「……はい。存じております」
「それも知った上で、初めて会う私達に『敵対』の意思を伝えたのですか?」
「はい。その通りでございます。とても卑怯な手だとは思います。ですが、長年我が国が虐げられた現状から考えれば、帝国より、あなた方に付いた方がアクアソル王国としてはより良い未来に繋げられると思ったからです」
「まだ私達については、それほど詳しい訳ではないと思いますが…………」
「はい。まだ『銀朱の蒼穹』の皆さんがどういう方々なのか、私の目で直接見れた訳ではありません。ですが一つだけ間違いない事実がございます」
ミリシャさんと話していた女王様の美しい瞳が、俺に向く。
「『銀朱の蒼穹』は残虐非道だったゲスロン子爵領を救い、革命の地となるレボルシオン領を築き上げました。アインハルトからレボルシオン領の視察までして貰いました。その結果、初対面ではありますが、我が国は『銀朱の蒼穹』に全てを賭けても良いという結論になりました」
全て…………か。
とても重い言葉だ。
一国の王が、国や民を全て背負って滅亡の可能性と引き換えに、希望に手を伸ばす。
何だか――――――
俺が転職士になって絶望の淵に陥って手を差し伸べてくれたフィリアを一度拒否した時、カール達のおかげで立ち直った時を思い出す。
あの時、全てを諦めた俺に、希望に手を差し伸べるように促してくれた親友がいたからこそ、今の『銀朱の蒼穹』が、今の俺がいる。
女王様の決意に満ちた瞳を覗くと、あの時の自分もそうだったのだろうかと思えるくらい、親近感を感じる。
ただ、一国を背負う交渉なので、ただ助けるのはクランとして駄目だと思うし、それでは俺が背負っているメンバーのためにもならない。
それに、実はここまで、全てがミリシャさんの予想通りに進んでいる。
――――――アクアソル王国側もそれを予想していたかのように。
案内された玉座の間。
玉座に座っている美しい女性が自己紹介をしてくれる。
本来なら跪くべきなのだろうけど、客人だからそうする必要はないと言われている。
「初めまして、クラン『銀朱の蒼穹』のマスターのソラと申します」
「本日はこちらの要請に答えてくださり感謝します」
「いえいえ、こんなに美しい街に誘って頂きありがとうございます。元々休暇地として有名でしたから、休暇に来る予定でした」
「ふふふっ、とてもよいタイミングでお声を掛けたみたいで良かったですわ」
「早速ですが、呼んだ理由をお聞きしても?」
アクアソル王国の女王様は大きく深呼吸をして、静かな口調で語り始めた。
「我々アクアソル王国は現在、帝国に事実上占領されております。皆さんがここに来られる間に見られたと思いますが、まず砦にて帝国から訪れる人を規制する事が出来ません……それも帝国の支配下にあるためです。
さらに我が国で作られている麦を全て『バクシュ』作りを強制させられ、格安の価格で取られている状態にあります…………武力を持って経済でも我が国を支配している状況なんです」
静かな口調だったけど、その奥にはもどかしさや怒りに近い感情が垣間見れる。
俺の後ろに待機していたミリシャさんが一歩前に出る。
「僭越ながらマスターのソラに代わりまして、わたくしミリシャが代わりに話させて頂きます」
「ミリシャ様ですね。よろしくお願い致します」
ミリシャさんの予想だと、アクアソル王国は『銀朱の蒼穹』に『武力提供』を頼まれるのではないかと予想している。
帝国の支配という言葉が出てきた以上、ミリシャさんの予想通りになるのだろう。
こういう交渉関係は、俺よりもミリシャさんが適任なので、女王様と直接話し合うのはミリシャさんにお願いすると事前に決めていた。
ただ、アクアソル王国の方々には聞こえない『念話』を使い、俺達は都度話し合うように決めている。
「女王様は帝国から支配と仰いますが……それは庇護下にあるの間違いではありませんか?」
「っ! い、いいえ! それは違います!」
「…………」
「我が国は帝国の庇護を頼んだ事はないのです…………あれは帝国からの見せしめのための噓偽りでございます。支配の代わりに無理難題を押し付けて、他国には庇護下においていると話しているだけなのです」
一つ気になるのは、女王様が声を荒げて話している間、周りのアインハルトさんや、宰相さんに見える若い男性や、他の騎士さんも全く口を開けない。
全て女王様に任せているのだろうか?
「では、アクアソル王国としては帝国の支配下から抜け出したいという事でございますか?」
「………………はい」
女王様の重苦しい返事が放たれる。
そのたった一言がどれだけ重い判断なのかは、事情を知らない俺達でも分かる程だ。
帝国に反する行為を今までしてこなかった。
でもこの一言で、俺達が味方になってもならなくても帝国と反すると公言してしまった。
それがどれだけ大きな問題なのか、女王もここに立っている重鎮たちも覚悟を決めているのだろう。
その時。
俺の後ろからルリくんが両手に二人の動かない人を連れて現れる。
「マスター。盗み聞きしていた二人を捕まえて来ました」
「ルリくん。ありがとう」
アインハルトさんの目が一瞬光った気がする。
「女王様。ここで『敵対』の意思が帝国に伝わらなかったとしても、この二人が戻らなければ帝国は『敵対』の意思と見なすでしょう。ここで私達が結論を出さなくても既にアクアソル王国は帝国に敵対しました」
「……はい。存じております」
「それも知った上で、初めて会う私達に『敵対』の意思を伝えたのですか?」
「はい。その通りでございます。とても卑怯な手だとは思います。ですが、長年我が国が虐げられた現状から考えれば、帝国より、あなた方に付いた方がアクアソル王国としてはより良い未来に繋げられると思ったからです」
「まだ私達については、それほど詳しい訳ではないと思いますが…………」
「はい。まだ『銀朱の蒼穹』の皆さんがどういう方々なのか、私の目で直接見れた訳ではありません。ですが一つだけ間違いない事実がございます」
ミリシャさんと話していた女王様の美しい瞳が、俺に向く。
「『銀朱の蒼穹』は残虐非道だったゲスロン子爵領を救い、革命の地となるレボルシオン領を築き上げました。アインハルトからレボルシオン領の視察までして貰いました。その結果、初対面ではありますが、我が国は『銀朱の蒼穹』に全てを賭けても良いという結論になりました」
全て…………か。
とても重い言葉だ。
一国の王が、国や民を全て背負って滅亡の可能性と引き換えに、希望に手を伸ばす。
何だか――――――
俺が転職士になって絶望の淵に陥って手を差し伸べてくれたフィリアを一度拒否した時、カール達のおかげで立ち直った時を思い出す。
あの時、全てを諦めた俺に、希望に手を差し伸べるように促してくれた親友がいたからこそ、今の『銀朱の蒼穹』が、今の俺がいる。
女王様の決意に満ちた瞳を覗くと、あの時の自分もそうだったのだろうかと思えるくらい、親近感を感じる。
ただ、一国を背負う交渉なので、ただ助けるのはクランとして駄目だと思うし、それでは俺が背負っているメンバーのためにもならない。
それに、実はここまで、全てがミリシャさんの予想通りに進んでいる。
――――――アクアソル王国側もそれを予想していたかのように。