「ん~! この果実水おいし~!」

 ピリピリしているフィリアをよそに、出された果実水を飲んでご機嫌になる魔女アンナさん。

 ものすごく緩い雰囲気だけど、その身体からはとんでもない強者の雰囲気を感じる。

「アンナさん」

「――――、さんもいらない~」

「…………えっと…………アンナ?」

「なに~?」

「どうしてここに来たのか、聞いてもいいかな?」

 どうやらアンナは、さん付けも嫌いらしく、さん付けだと返事すらしてくれないし、言葉をラフにしないと興味を示さない。

「うふふ、君。とっても有名人なの」

「え!? 俺が!?」

「うんうん~」

 そして、彼女の緩い表情が一瞬で鋭いモノに変わる。

「君は、女王陛下のお気に入りになっているよ~」

 彼女の挑発的な言葉に、フィリアは興奮気味に双剣に手を掛ける。

 俺は急いでフィリアを手で制止した。

「えっと、女王陛下というのは、魔女王様でいいのかな?」

「あってるよ~」

「その魔女王様がどうして俺を気に入っているの?」

「うふふっ、君が――――――強いから」

「え? 俺が強い?」

 意外な答えに驚く。

 俺は強いと言うが、俺はここにいるフィリアに何をしても勝てない。

 スキル『ユニオン』で繋がっているから、強制的にレベル1にすれば、勝てない事もないかも知れないが、そういう裏技なしで普通に戦えば、相手にすらなれないはずだ。

 なのに、フィリアではなく、俺が強いという言葉に疑問を感じてしまう。

「うんうん。君は自分の力に気付いていないだけ~」

「自分の力に気付いていないだけ…………」

「ねえねえ、ソラくん」

「うん?」

「私も仲間に入れてよ~」

「駄目ッ!」

 アンナの意外な提案に、フィリアは迷う事なくすぐに返事する。

「ふぅん~君さ。私より弱いんだから、静かにして貰えない? 私はソラくんと話しているの~」

 フィリアを威嚇する彼女の前を遮る。

「フィリア。落ち着け」

「で、でも!」

「魔女と事を構えるほど、俺達は強くない。アンナがもし俺達を殺そうと思っていたなら、もう俺達は死んでいるはずだよ。それにアンナはとても強い味方になれると思う」

 こんな緩い雰囲気のアンナだけど、恐らく魔女だからというより、魔女の中でも随一の強さを持っているんだと思う。

 根拠も理由もないけど、フィリアの双剣が彼女の首に掛けられた時、その双剣では斬れないと何となく感じていた。

 フィリアはバーサークポーションを飲んだハレインにすら圧勝した。

 その時ですら()手だったのに、今は全力を持ってしても相手にならない。

 つまり、俺達が束になってもアンナには勝てないと思われる。

「…………」

「だからと言って、アンナの言う事を全部聞くつもりはない。ちゃんと理由を聞いて、事情を教えて貰うから」

「…………うん……ごめんなさい…………」

 肩を落とすフィリアの頭を撫でて、落ち着かせてあげる。

 俺達の後ろから猫のような目で、うふふと笑いながら見ているアンナがとても気になる。


「アンナ、ごめん。やっぱり俺達人間にとって魔女は少し怖い相手だから」

「うんうん。理解しているから大丈夫~」

「それで話を戻すけど、仲間になりたいって?」

「うん! 君が使うその力が知りたいんだ!」

「…………それは魔女王様のご意向かな?」

「…………うふふ、ソラくん。流石は『神威(しんい)を持つ者』ね」

 『神威を持つ者』……?

 初めて聞く言葉だ。

 一体何のことなのだろう?

「ねえ、ソラくん。ここは私と取引しない?」

「……断ってもいいというなら」

「いいわ。でも君は――――君達は取引の魅力には勝てないと思うわ~」

「…………一旦取引内容を聞いて、仲間と相談させてもらうよ?」

「わかった~私が提示するのは『神威(しんい)を持つ者』について教えるのと、それを確認する為に私が持つ『鑑定術』でその中身を覗く事が出来ること~、ここは一つサービスするけど中身を知らなくても既に君達はそれ(・・)の恩恵は受けているから、解放するとは違うの~ただ知る(・・)事が出来るだけ~」

 アンナの言い分からすると、俺達は何かしらの恩恵を受けていて、その恩恵の詳細を知らない。

 その恩恵の詳細を知るには、アンナが持つ『鑑定術』でしか知る事が出来ないという事だね?

 情報はとても大事なモノだからこそ、アンナの提案はとても魅力的なモノだ。

「因みに~その代償として――――君の能力の詳細を教えて~これは女王陛下の依頼~だから、教えて貰ったら報告するよ~」

「えっと、魔女王様が知ったらどうなるの?」

「多分連れてこいって言われる~」

「っ!」

 さすがに『魔女に連れて行かれる』という言葉に、落ち着いていたフィリアも反応していました。

「分かった。ただ、それには一つだけ条件を付け加えさせて欲しい。もし魔女王様が僕に会いたいというのなら、俺だけでなくメンバー全員で行かせて欲しい。あと出来ればここに返してほしい」

「う~ん。メンバー全員連れて行くのはアンナが約束するよ~でも返すのは約束出来ないかな? 女王陛下次第~」

「分かった。そうなった場合、魔女王様には俺が交渉するよ」

「うふふ、女王陛下に交渉とは、ソラくん、さっすが~『神威を持つ者』ね~」

 少なくとも、魔女王様としても俺に興味があるなら、多少の交渉の余地はあるはずだ。

「それと、アンナが仲間になりたいというのは?」

「あ~それは私がソラくんに興味があるだけ~だから言われた仕事はちゃんとするし~でもご飯とか美味しい果実水は欲しいな~」

「それは単純にクランメンバーになりたいってことだね…………分かった。その件も込みで相談してみるよ。それはそうと、アンナはその衣装を着替えるもらう事は出来る?」

「衣装?」

「今着ている服?」

「あ~これは服じゃなくて、私の魔力だよ~消す(・・)事なら出来るよ~でも裸になるから今はちょっと~」

「っ!? い、いい! ならなくていいから! とにかく、もし仲間になったら、その魔力? は人間には刺激が強すぎるから、普通の服を着て貰うけど、いい?」

「うん~それは仕方ないと理解しているからいいよ~」



 こうして、突如として訪れて来た魔女の件で、休暇を前にひと悶着する事となった。