グレイストール戦争が終結して一か月。

 俺達はレボルシオン領に戻り、ゆっくり過ごしている。

 肆式は王国とのパイプ役として、王国で暮らして貰う事になったけど、それは彼らが希望したからでもあった。

 そんな俺達に訪問者が一人、訪れて来た。


「お久しぶりです。『銀朱の蒼穹』の皆様」

「ん? 貴方は…………たしか、『Aランクダンジョン』で出会ったあの方のパーティーメンバーですね?」

「はい。そう言えば名前も名乗りませんでしたね。我々はクラン『エデン』という者です」

「クラン『エデン』!?」

 その名前にはとても聞き覚えがある。

 たった六人で構成されているクランとして有名で、いくつもの高難易度ダンジョンを制覇した強者のクランだ。

「我々の名前を知ってくださっているなんて、とても光栄です。私はメンバーの一人、セリアと申します」

「い、いえいえ! 俺達はまだまだ新参者ですから、Aランククランの皆様とは思いもしませんでした」

「ふふっ、これも全てリーダーであるアインハルト様のおかげです」

 何となく目の前の女性が、あのリーダーを『様』と呼ぶ事に少し違和感を感じる。

 以前出会った時に、リーダーと絡んでいた別の女性はもっとフレンドリーだったはず。

「それで、クラン『エデン』様はどうしてうちに?」

「我々は対等な関係です。様など付けないでください。本日はこの書状をぜひ読んで頂きたく…………ただ、内容に関しては内密にお願いしたい。もし断ったとしても、あなた方を信用しての事ですので」

 彼女が取り出した手紙。

 手紙の封にはあまり見慣れない紋章が描かれている。

「その紋章は!?」

 隣で一緒に聞いていたミリシャさんが驚く。

「ミリシャさん、この紋章に心当たりが?」

「あるってモノじゃないわ。ソラくんも皆もこの事は決して口外しないようにね?」

 意外とミリシャさんが一番驚いた反応を示して、俺達は大きく頷いて答える。

 一体どこの紋章なのだろう?

「こちらは、『アクアソル王国』からの招待状でございます」

「っ!?」

 もしミリシャさんから注意されてなかったら、名前を叫ぶところだった。

 手紙を持って来てくれたセリアさんに促され、その手紙を開封する。

「親愛なる『銀朱の蒼穹』の皆様。私はアクアソル王国の女王エヴァ・エン・アクアソルと申します。本日は皆様のレボルシオン領の武勇を聞きまして、ぜひ一度直接お会いしたいと思い、こういう紹介状を送らせて頂きます。我がアクアソル王国はリゾート地としても有名ですので、ぜひ皆様でお越し頂くのはいかがでしょうか? 本日はいきなりの招待状に大変驚いておられると思いますが、ご検討をお願い申し上げます」

 とても丁寧な内容に、脅迫とか、そんな類の事ではないのが伺える。

 それにその内容にとても大きな誠実(・・)さを感じる。

「セリアさん」

「はい」

「一つ疑問に思うのですが、どうして俺達なのですか?」

「申し訳ございません。私程度ではその真意は分かりませんが、皆様との交流(・・)を望まれると思われます」

「交流……ですか?」

「はい。『銀朱の蒼穹』は急速に成長するクランです。それに本日その強さも納得しました。先日『暗黒の断崖(Aランクダンジョン)』で出会った皆様から、想像もつかないような強さを身に付けておりますから、その活躍も納得というモノです」

「なる……ほど」

「これは私の上司であるアインハルト様からの伝言ですが、アクアソル王国の『王家のダンジョン』というモノがある事を伝えてもよいと言われております」

「王家のダンジョン?」

 アクアソル王国にダンジョンがあるなんて全くの初耳だ。

 ミリシャさんに視線を移すと、彼女も知らないと顔を横に振る。

「はい――――――世界の数少ない『Aランクダンジョン』でございます」

「ええええ!?」

 世間一般的に知られている『Aランクダンジョン』は、ゼラリオン王国に一つ、帝国に二つ、噂によると魔女の森に一つ、砂漠のアポローン王国に一つの計五つが全部なはずだ。

 しかし、ここに隠された六つ目の『Aランクダンジョン』を知るという事は、とんでもない情報でもある。

「ソラ様。『銀朱の蒼穹』の皆様。我々アクアソル王国はそれ程までに皆様と交流(・・)を持ちたいと考えております。これがどういう意味かは、私なんかでは想像しか出来ませんが、王国の一員としてここまで情報を提示する見返りでも良いので、ぜひ女王様に一度会って頂きたい…………ずるいやり方かも知れませんが、どうか、よろしくお願いします」

 セリアさんは深く頭を下げる。

 彼女からも、この手紙からも(よこしま)な気配を感じない。

 ――――それに。

「セリアさん。頭をあげてください。実は俺達は元々『アクアソル王国』に行く予定でした」

「っ!? それは本当でございますか!?」

 周りにいたうちのメンバーがキョトンとした表情で俺を見る。

 まあ、行く予定だったのは本当だけど、言うのは初めてってやつだ。

「実は此度の戦争が終わった後、『銀朱の蒼穹』の皆で休暇に行こうって約束していたんです」

「!?」

 フィリアが過剰反応すると、隣にいたカールが小さい声で笑い出す。

 ルリくんとルナちゃんは、また始まったよ――――的な表情を見せる。

 二人がこういう表情を見せるのは珍しくない!?

「そうでございましたか。それはとても僥倖(ぎょうこう)でございますね」

「ええ。ただ今すぐには事情があって行けないので、来月にはお邪魔出来るかと思います。その時はぜひよろしくお願いします」

「お任せください。それはそうと、皆様はどれくらいの人数で来られますか?」



「えっと――――千人です」

 ずっとクールな表情のセリアさんが面白い表情になった。