幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。

 ダークドラゴンを初めて倒した日。

 宴会をする予定だが、まずその前に現状の確認を優先させる。

 戦争が目の前まで迫っていて、喜ぶのはあとでも出来るからだ。

 それと、俺のサブ職能もレベル10を迎えた。

 俺以外のメンバーのサブ職能はレベル9以上は上がらない。

 しかし、俺はサブ職能がメインとなる為なのか、不思議とレベル10まで上げられた。

 レベル10に到達すると、まずステータスが底上げされるのは言うまでもない。

 レベル9に比べて数段強くなり、不思議な強者のオーラを感じられるようになる。

 そして、最も目玉である最終スキルが獲得出来る。

 レベル10で覚えるスキルは、人それぞれが違うスキルを獲得出来ると言われていて、スキル『○○』みたいな感じではなく、スキル『軍神の頭脳を待つ者』とか、スキル『叡智を手に入れし者』とかのように、抽象的な言葉で表記されたスキルが獲得出来る。

 その文言で能力を読み取る事が出来るが、上記の『軍神の頭脳を持つ者』の場合、思考能力が二倍上昇し、思考速度が二倍上昇する。――――である。

 因みに、このスキルはミリシャさんのスキルだ。

 ミリシャさんにぴったりなスキルなのもあって、恐らくレベル10で手に入るスキルはその人を表すかのようなスキルだと予想される。

 こういったスキルを、通称『極スキル』と呼んでいる。


 俺のスキルはと言うと――――何も貰えなかった。

 そもそもサブ職能なのもあるし、スキルは獲得出来なかったけど、ステータスの底上げが出来たので、良しとするしかない。

 多分、転職士をレベル10にしないと、俺のスキルは手に入らないのだろう。

 話を戻して、俺以外のメンバー全員が極スキルを獲得できた。

 メンバー全員から、自分の極スキルの説明を聞いた。


 フィリア『剣神と謳われし伝説』。剣に関する全てのスキルの数倍上昇。剣に関する職能のステータスの数倍上昇。(数倍は剣を極めた分だけ上昇する、最大十倍)

 カール『氷冷を灯し者』。氷属性魔法や氷属性スキルの威力を二倍にし、詠唱や消費を半減する。

 アムダ『強靭を持つ者』。力のステータスが二倍上昇する。

 イロラ『幻影を持つ者』。盗賊系攻撃スキルを使用時、幻影の分が継続して攻撃を与える。効果は実体と同等。幻影は最大三体。

 ミリシャ『軍神の頭脳を持つ者』。思考能力と思考速度が二倍上昇する。

 カシア『獣神の心を灯し伝説』。獣王の本来の力を取り戻す。(獣王の全てが三倍上昇する)

 ルリ『神速の暗殺を極めし者』。暗殺攻撃スキルの効果が全て三倍上昇する。

 ルナ『暗黒に隠れし者』。隠密スキルの効果が全て三倍上昇し、『影同化』が『影融合』に進化する。

 シヤ『絆の箱を繋ぐ者』。スキル『アイテムボックス』が『異空間アイテムボックス』に進化し、絆のスキルを繋いだ相手と共有出来るようになる。


 以上が、みんなが覚えた極スキルだ。

 他にも肆式のメンバー全員がそれぞれ極スキルを手に入れた。

 こう見ると本当に()を感じる。

 例えば、この中で単純に最も強い極スキルを選ぶというなら、間違いなくフィリアとカシアさんのスキルだ。

 もはやフィリアを越えられる極スキルって想像もつかない。


 メンバーの極スキルを聞いた後は、肆式全員の極スキルをミリシャさんが一人で聞いて記憶するみたい。

 思考能力が上昇し過ぎて、簡単だそう。

 みんなの報告も念話で複数人が話しても全部理解出来たらしくて、すぐに宴会を始めて、ここにはいないメンバーも宴会を開いて、本日のダークドラゴンを倒した祝いを行った。

 祝い中に、ダークドラゴンの残骸(素材)を急いでレボル街に送ってくれと鍛冶屋のガイアさんから急かされたから、早速シヤさんの力で『アイテムボックス』を利用し、送ってあげた。


 こうして、『銀朱の蒼穹』の準備も終わりを迎え、二週間でダークドラゴンを素材を使い、肆式用の武器を作ってくれたガイアさんのおかげで、肆式のみんなも更なる強さを手に入れた。

 実はとある理由もあって、ハレイン様ではなく、王国の味方をする事にした。

 ダークドラゴンの装備が完成する間、俺達は両陣営を調査を行ったり、王国との話し合いも進めて、ハレイン様との戦いの報酬は、グレイストール領を貰う事となった。

 帝国と面しているのもあって、意外と簡単に承諾してくれた。

 王国としても今は報酬よりも、ミルダン王国も攻めてくる事を加味すればこその判断だと思われる。

 ハレイン様からは『シュベスタ』を通じて、応援を頼まれたので、ここも利用する事にして、良い返事を返しておいた。

 ――――まさかこっちが裏切り者だとは思わないだろう。

 しかし、()に裏切ったのは、ハレイン様だからね。

 この戦いの後、レボルシオン領と『銀朱の蒼穹』を『シュルト』に売るとは思わなかったからだ。


 そして、数日が経過し、遂にハレイン様とミルダン王国は、ゼラリオン王国に宣戦布告を行い、即日侵攻が始まった。
 遂にゼラリオン王国に対して、グレイストール領を率いるハレイン様とミルダン王国軍が侵攻し始めた。

 ハレイン様的には、ミルダン王国からの侵攻は予想外だと思っているだろうけど、実はミルダン王国側にはジェローム様が引き受けて止めてくれている。

 グレイストール領方面は、ビズリオ様と――――まさかのゼラリオン王まで出て来た。

 そして、王様の陣営。

「ビズリオ殿……その……部外者をここに置くのは……」

 一人の騎士が、変装している俺達を指さした。

 俺達は『シュルト』として、団長が俺、副団長がフィリア、そしてルリくんを連れ、三人で作戦会議に参加している。

 これもビズリオ様からの提案だったりする。

「構わない。今回の戦争で彼ら『シュルト』はゼラリオン王国に大きな力となるだろう。インペリアルナイトのビズリオが責任を持つ。心強い味方だと思って接したまえ」

 他の騎士達も少し難色を示したが、王様が何も言わず、ビズリオ様があそこまで押してくれる事もあって、問題なく会議に参加する。

「現在、敵軍はこちらに向かって、兵三千で向かって来ております」

「三千……」

 騎士達が心配そうにつぶやく。

 兵三千人は決して少ない数ではない。

 現に、ゼラリオン王国の兵はたった千五百人しかいない。

 他は隣国のミルダン王国を食い止めるべくジェローム様の所に集まっている。

「発言、宜しいでしょうか?」

 俺は手を上げる。

「いいぞ」

「ありがとうございます。私の調べによりますと、その三千の裏にもう五百名の兵がございます」

「ふむ。続けてくれ」

「五百の兵は共和国からの支援で『速馬』を使い、こちらの陣営を後ろから叩くつもりでしょう。正面から来る兵は、ぶつかってすぐにその場を維持するはずです」

「なるほど……こちらの兵を突破できないふりをして、油断を誘って陽動作戦を行うのか。ハレインらしい作戦だ」

「ですので、皆様はそのまま食い止めてください。後方の五百は私達が処理しましょう」

「…………『シュルト』の力を疑っている訳ではないが、其方三人で対処するという事か?」

「いえ、私の配下の者が既に(・・)向かっております」

「そういう事か…………貴殿達はここに残ると?」

「はい、戦いが始まれば、こちらにいる『ブルーダー』に、相手の司令系統の者を潰して貰いましょう。恐らく、ハレインは我慢出来ず、こちらに出てくると思われます」

 俺の作戦を聞いたビズリオ様と王様は頷く。

 周りの騎士達は怪しいと思っているが、誰も言葉を出さない。

 わざわざ反論してビズリオ様に睨まれたくはないだろうからね。

「『ヒンメル』と言ったな?」

 奥で威圧感を放っていた王様が聞いて来る。

「はい。ヒンメルと呼んでくださいませ」

「ヒンメル。ハレインを我の下に誘導する事は出来るか?」

「ご所望であれば」

「頼む」

「かしこまりました。ハレインが痺れを切らした時に、誘導致します」

 正面の兵達の細かい作戦はそのままビズリオ様が立て始めたので、俺達は一度外に出る。白兵戦は、経験者である人の方が指揮しやすいだろうから。

 俺達が平原に広がっている王国軍とハレイン軍を眺めている頃、肆式のリーダーのカーターくんから隠れている陽動軍を見つけたとの連絡が入った。



 ◇



 陽動用ハレイン軍が機を待っていた頃。

 彼らは指示通り、煙幕が上がるのを待っていた。

 その時。

 少し遠くの丘の上に真っ黒い服と黒い仮面を着た数十人が見えた。

「リーダー、向こうに変なやつらが」

「ん? なんだあれは?」

「敵かも知れません」

「……そうだな。しかし、それほど多くはないな、一旦様子を見て、そろそろ煙幕が上がるはずだから、それに従った方が良いかも知れない」

「ですけど、あいつら何だか不気味ですよ? 真っ黒いし……」

「まあ、こちらの人数は五百にのぼる。心配しなくていいだろう」

 しかし、直後、リーダーはその言葉を後悔する事になる。

 向こうの黒い一団から魔法の気配が見えた。

「魔法か! 防御魔法を張れ!」

 急いで魔法を指示するリーダーに、反応が早かったおかげで相手より防御魔法を先に張る事が出来た。

 しかし――――。

 直後に真っ赤に燃える巨大な炎の魔法が二十にも及ぶ数の魔法が飛んできた。

「こ、これは! インフェル――――」

 ハレイン軍の陽動軍が炎の海に飲まれ、五百もいた兵達はたった一瞬で全滅した。

 魔法により消えた兵達は、鎧や骨すら残らず燃え尽きた事は言うまでもない。



 ◇



 ハレイン軍、本陣。

 ハレインの指示により、進軍した本陣がゼラリオン王国軍とぶつかった。

 予定通り、ハレインは青い煙幕を上げる。

 しかし、いくら待っていても相手の本陣の後ろから、本来くるであろう陽動軍が出てこない。

 ハレインは少しずつ苛立ちを覚えるが、まだ目の前の本陣は、数で勝っている。

 冷静に本陣を見回していた。

 その時。

 ハレインの目に何人かの指揮官がその場で首が飛ぶのを見かける。

「っ!? しゅ、シュベスタ!」

 急いで『シュベスタ』を呼ぶハレインの後ろの影から、『シュベスタ』が現れる。

「ここに」

「向こうにも暗殺者がいる! 処理してこい!」

「はっ」

 ハレインは、『シュベスタ』がその場から消えると、それを察知した相手の暗殺者が逃げる気配を感じる。

 少しずつ、心の余裕がなくなっていく事を、自覚できないまま、焦り始めた。
 ハレイン・グレイストールの反乱から、王国では今回の戦いを『グレイストール戦争』と名付けている。

 こちらの地名は『シカウンド』という地方名だから、てっきりシカウンド戦争と名付けると思っていたけど、違ったみたい。ハレインが帝国に勝った戦いを『シカウンド戦争』と呼んでいた。

 既に『グレイストール戦争』は始まっており、肆式がハレイン軍の陽動軍を相手している間に、両陣営の本陣がぶつかった。

 ハレイン軍はそもそも進撃してから耐える戦法を取っているので、本格的に攻めてこないのが王国軍にとってはプラスに働いている。

 ハレインが普通の状態なら、王国軍の少なさや、陽動軍が遅い事をいち早く理解して、本陣で押し込んで来たんだろうけど、そうしないという事は、それほど追い詰められているのだろう。

 ルリくんのおかげで、ハレイン軍の各所の司令官が暗殺され、実際の軍の士気は随分と減っている。

 こんなピリピリした状態で暗殺されたら、焦っても仕方ないと思う。

 暫く眺めていると、俺の足元に二つ(・・)の影が移動して来る。

【お疲れ様、ルリくん、ルナちゃん】

【【ただいま!】】

 ルリくんは暗殺を、ルナちゃんはハレインの不安を煽るために頑張ってくれた。

 ルリくんを追ったルナちゃんが、ハレインの下に戻らないと、ますます焦るはずだ。

 少しして、肆式のカーターくんから連絡が届いて、陽動軍を殲滅したとの事だ。

 殲滅か…………。

 もう戦争は始まっているし、気にしては駄目だね。

 暫く待っていても、未だ戦場の本陣に大きな動きはない。

 余程余裕がないように見えるね。

 陽動軍を殲滅して帰って来た肆式とルリくんで、ハレイン軍の後方に向かって貰った。

 更にルナちゃんには、ビズリオ様に伝言「これからハレイン軍の後方に陽動をかけます」と伝えに言って貰った。

「みんな行ったね」

「ああ……」

「みんな頑張ってくれるから、私達も頑張らないとね」

「そうだな…………君にも戦いを強制する事に……」

「ううん。私は自ら貴方の手になる事を誓ったの。だから私を使ってくれた方が嬉しい。その為にこの力があるのだから」

 フィリアは、自らの両手を見つめた。

 その瞳には、確たる信念が灯っている。

「だからね? 悲しまなくてもいいからね? 貴方は私が守るんだから」

 『シュルト』に扮したフィリアは、真っ黒い大きな大剣(・・)を『アイテムボックス』から取り出した。

 すっかり、シヤさんの『アイテムボックス』が『銀朱の蒼穹』内で定着していて、何もない所から武器を取り出す事など、造作もない。

 俺は大剣を持った『フロイント(フィリア)』に、精霊騎士のスキル『上級精霊付与』を掛けてあげる。

 火を司る上級精霊が『フロイント』の身体に灯る。

「うん。みんなをお願いね」

「任されたわ」

 そして、飛び出た『フロイント』は、とんでもない速度で向かい、ハレイン軍の本陣に大きな爆撃を与えた。



 ◇



 戦場に両軍ともに驚くほどの爆炎が空高く上がり、ともに響く熱風と爆音が聞こえる。

 あまりにも急な爆炎に両陣営驚くが、すぐに王国軍の方で進軍の太鼓の音が鳴り響く。

 更にそのあと、王国軍の後方から、炎の魔法が数十発、空を掛けハレイン軍に落ちると、兵士達が爆炎に包まれ、ハレイン軍の悲鳴が戦場に響き渡った。

 そんなハレイン軍に更なる追い打ちとして、後方から目にも止まらぬ速さで動く黒い()が、次々ハレイン軍を襲い始める。

 何が起きているか理解できないハレイン軍は逃げ回る事しか出来なかった。

 敵対しようとした瞬間、その首が空を舞う。

 そんな仲間を見ただけで、兵士達は恐怖に陥った。

 そんな彼らを導くべき司令系統も、既に『ブルーダー』により、殆どが命を落としていて、戦場のハレイン軍は最悪な状態であった。



「い、一体何が起きている! 何故王国軍がこんなに強いのだ! く、くそ!」

 ハレインは現状が信じられず、悪態をつく。

 頭をフル回転させ、現状を理解しようとするが、あの戦力差がひっくり返るとは思いもしなかった。

 相手はこちらの半数……それを戦争の対応が遅れた(・・・)と思い込んでいるハレインは、まさか王国の西側から攻めているミルダン王国すら侵攻が失敗している事を知る由もない。

 その時、ハレインの視界の向こうに一際金色に光る鎧が見えた。

「ゼラリオン王…………!」

 何度も見た『戦場の黄金獅子、イージウス・フォン・ゼラリオン』の姿だった。

 ハレインは、迷う事なく、黄金獅子に向かい速馬を走らせた。



「ゼラリオン王!!」

「……ハレインか。貴様の敗北だな」

「くっ! ふざけるな! ここで、貴様の首をはねれば、俺の勝利だ!」

「くっくっ、出来るかな?」

 ゼラリオン王の挑発に、ハレインは愛剣を抜いて、馬から飛びつく。

 斬りつけた剣は、ゼラリオン王の大剣に簡単に防がれ、二人の剣が火花を散り始める。

 常人には決して見える事がない速さの攻防に、周囲の騎士達は息を呑む。

 敵でありながら、元インペリアルナイトでもあり、ゼラリオン王国だけでなく、世界でも強者として知られているハレインの本気の戦い。

 そして、その剣戟をいとも簡単に跳ね返しているゼラリオン王。

 二人の戦いは多くの者の心に刻まれる事となった。
 俺の目線の先には、人類の頂点と思われる二人の戦いが繰り広げられている。

 剣の軌道が見える者はごくわずかだと思われるほどに、凄まじい剣戟のぶつかり合いだ。

 一閃一閃が上級魔法のような火花が散る。

 しかし、二人の表情は対照的だ。

 王様は余裕があり、笑みすら浮かべているが、ハレインは余裕がなく、苦い表情を浮かべ、汗まみれの姿を見せる。

 段々とハレインの動きが鈍くなっていくのが見える。

 王様の剣戟は少しずつ強くなっていく。

 見るからに元々の実力差も結構あったと思うんだけど、どうして戦争なんか……。

「ハレイン、この程度か!」

「っ! 舐めるな! 貴様には負けん!」

 ハレインは懐から、一本の小さな瓶を一つ取り出し飲み干す。

 すぐに彼の身体から、赤い色の湯気のようなものが出始める。

「…………ハレイン。落ちぶれたな」

「ふざけるなぁあああ! 貴様に虐げられた我が一族の苦しみ、決して忘れたとは言わせんぞぉおおお!」

「…………」

 大きな剣をハレインに構える王様。

「それを逆恨みというのだ。さあ、かかってくるがよい」

「ゼラリオン王おおおおお!」

 目が真っ赤に染まり、涎を垂らすハレインの怒涛の攻撃が続く。

 王様は一つ一つ丁寧に跳ね返すが、ハレインの攻撃が数段強くなっていて、少しずつ王様が押されて行く。

 先程の薬のせいなのだろう。


 その時、ハレインの剣が王様の剣を跳ね返し、王様の大剣が大きく吹き飛ばされた。

「貰ったあああああ、死ねええええええ!」

 ハレインの剣が王様を斬ろうとした瞬間。

 金属がぶつかる甲高い音と共に、王様の前に火花が散る。

「ッッッ!?」

 そこには真っ黒い衣装で真っ黒い大剣を持った者が、二人の間を割った。

「申し訳ございません。邪魔させて頂きます」

「……『シュルト』か。すまぬ」

「しゅるとぉおおおおおお!」

 王様が後方に去って行く。

 ハレインが悔しそうに、『フロイント』を睨む。

「ここは戦場。貴方に戦いを与える場ではないわ」

「くそおおおおお!」

 ハレインの剣が『フロイント』を襲うが、全てを簡単に跳ね返す。

 一歩ずつハレインが後ろに下がり続ける。

「どうしてだあああああ、貴様らは俺様の味方だろうがあああああ」

「…………残念。私達を売った(・・・)のは貴方自身。マスターは最後まで貴方を信じていたのに、それを裏切った貴方が悪いわ」

「ふ、ふざけるなああああ!」

 必死に剣戟を繰り出すが、『フロイント』には全く効かず、少しずつハレインの動きが鈍くなる。

「貴方程の者が薬に溺れるなんて皮肉ね」

「く、くそがあああああ! 貴様らに我が家の絶望が分かるか! 貴様らさえいなければああああ!」

「選択を間違えた貴方自身の責任ね」

 二人が何かを話しながら、凄まじい勢いでぶつかっていた剣戟の数も、秒間のぶつかり合う数が半数にまで減り、遂にハレインに傷が増えていく。

 必死に防ごうとするが、『フロイント』の剣の前では全く通用せず、少しずつ小さな傷が増え、次第に剣を振れなくなった。

 そして、ハレインは『フロイント』の一撃によって、その命を終わらせた。



 ◇



「『シュルト』。此度の活躍、褒めてつかわす」

「ありがとうございます」

「報酬については、すぐに精算するが、いかんせん戦時中だ。終わるまで暫し待って貰いたい」

「心得ております。ミルダン王国はどうなさるので?」

「このまま兵を送りたい――――と思うのだが、南側にいる帝国の動きも気になる」

「はい。ではミルダン王国に、我々は向かいましょう。均衡を崩す事くらいは出来るでしょう」

「うむ。その報酬についても後日話し合うとする。『シュルト』が提示する報酬を極力叶えると約束しよう」

「ありがとうございます。ゼラリオン王様の好意に『シュルト』の団長として嬉しく思います」

「うむ。では西側も引き続き頼むぞ」

「はっ」

 俺は『フロイント』と、帰って来た『ブルーダー』達を連れ、そのまま北側に向かった。





「陛下」

「ビズリオか」

「『シュルト』の戦力が思いのほか、凄まじいモノでした」

「そうだな。まさか、バーサークポーションを飲んだハレインですら相手にならないとは」

「!? そこまででございましたか」

「ああ。副団長『フロイント』というやらは、エンペラーナイトと同等かそれ以上の力を持っていた」

「…………『シュベスタ』と『ブルーダー』に『フロイント』。更には団長である『ヒンメル』。既にこの四人だけでも一国が滅ぶような戦力ですね」

「ああ。東の大陸は強者が多いと聞いているが、その通りかも知れないな。この戦争が終わったら東の魔女王に酒でも送ってやらねばならんな」

「はっ、()グレイストール領には良い酒があるようですので、そちらを送りましょう」

「そうだな。それと財産を全て王都に運べ。『シュルト』がどういう無理難題を言ってくるか分からないからな」

「はっ。かしこまりました」

 ビズリオは残るハレイン軍を殲滅しつつ、グレイストール領を占領するまで多くの時間は要さなかった。

 そして、この日。

 『銀朱の蒼穹』の裏の顔『シュルト』が大陸の戦争で初めて頭角を現した日となった。
 俺達はそのまま北上し続ける。

 王様の本陣と別れて、森の中に入ると、今回参戦出来なかったメンバー達が待っていてくれていた。

 荷車に乗り込み、いつものラビに飛ばして貰い、北上を急ぐ。

「ミリシャ姉、全て読み通りだったね」

「ええ。きっとジェローム様も耐えているはずだけど、攻めはしないと思う」

「本陣と合流してからですかね?」

「それもあるけれど、もしもかの戦場にハレイン軍が攻めて来た場合、挟まれる形になるからね」

「負ける時の事も考えれば……なるほど」

「ただジェローム様は王国でも一番と謳われている歴戦の戦士。このまま『シュルト』が参戦すれば、間違いなく一緒に攻めてくれると思うわ」

「分かりました。このまま『シュルト』はミルダン王国本陣を叩きましょう!」

「「「「おー!」」」」

 暫く空を飛ぶ旅を経て、戦場が見える森に着地する。

 準備を終え、『シュルト』として戦場に駆けつける。



 戦場はミリシャさんの予想通り、お互いに睨み合いながら小競り合いを行っていた。

 両軍共、お互いに援軍待ちの状況だろう。

「『シュルト』開戦!」

「「「「はっ!」」」」

 最初に肆式の魔導士組の魔法をミルダン王国の本陣に叩き込む。

 いきなり広がる爆炎に両軍共に驚くが、全ての爆炎がミルダン王国に広がっている事にジェローム様がいち早く判断し、進撃の太鼓を鳴らして、ミルダン王国軍本陣に攻め入った。

 俺達もその手伝いとして、相手本陣に横やりを入れる。

 固い防御力を誇っているミルダン王国軍も、魔導士の魔法に十発も飛んで行くと大きなダメージを追っているようだった。

 兵士達が次々爆炎に飲み込まれ、戦場に悲痛な叫び声がこだまする。

 ジェローム様の進軍も素早く進み、ミルダン王国軍を次から次へと斬り伏せて行く。

 逃げていく高官は『ブルーダー』達を逃がす事はなかった。

 半日。

 戦争は終結し、攻めて来たミルダン王国軍は文字通り惨敗を喫した。



 ◇



 本陣の戦いが終わり、ミルダン王国軍の本陣があった場所に一度陣営を整える。

 一度ジェローム様の所に向かう。


「『シュルト』だな?」

「はい、この度の素早い対応ありがとうございました」

「うむ。あの爆炎には驚いたが…………あれは魔法か?」

「はい。魔導士隊がございますので」

「…………」

「王様は南側の帝国を警戒して、『シカウンド地域』に残られております」

「ふむ。了解した。ではこのまま西側を攻める選択を取るべきだろうな」

「報酬の件は後回しでよいので、我々もお供します」

「それは助かる。ただ、悪いが報酬は少し手加減してくれると助かる」

「ふふ、かしこまりました」

 俺達はジェローム様と共にそのままミルダン王国に進軍し、ミリシャさん達には、そのまま王都に戻って貰った。



 ◇



 ミルダン王国の東砦『アンブロ』。

 ここに来るまでの間、ジェローム様と一緒に来られたので、ミルダン王国について少し聞いてみた。

 どうやら好戦的な国ではなく、此度の戦争も不可解な事が多いという。

 そもそもゼラリオン王国とは仲も良好なはずのミルダン王国とエリア共和国。

 ハレインにそそのかされたのは間違いないだろうけど、そう簡単にゼラリオン王国を攻めるのだろうかという謎があるらしい。

 三千の兵で戦争を始めたミルダン王国軍も既に半数を減らし、残り半数も既に戦える状態ではない。

 『ブルーダー』達のおかげで、ミルダン王国軍の司令系統は全滅しているので尚更だ。

 そして、


「ジェローム様。どういたしますか?」

「ふむ……困ったモノだな。『ヒンメル』の意見を聞いても?」

 俺達の前の砦には、恐らく戦えない兵が千五百、元々守っていた二百人くらいいるのだろう。

 砦の上に映る兵の影はそれほど多くない。

 我が軍は四千にも及んでいるので、その数は既に圧倒的なモノになっている。

 そういう理由もあり、向こう砦では白旗(・・)を掲げていた。

 戦場で白旗というのは、負けを認め降伏するという意思表示。

 その砦は降伏するという事で、城壁から武器を投げ捨て、城門を開いて中からこの砦を仕切っている者と思われる人と沢山の兵士達が両手をあげて出て来た。

「わたくしとしては、人材は最も大事な資源(・・)だと思っております。ミルダン王国の全ての者を隷属(・・)させるのも一つの手かと」

「…………そこまでしてしまっては、帝国が黙ってはいまい」

 実はこれもミリシャさんの予想通りだ。

 我々『シュルト』は、基本的な思考を残虐非道な集団として、王国側に刻む必要がある。

 ミルダン王国の全ての者を隷属させるとか言い出したら、どちらかと言えば、俺達が止めるが、ここは一つ芝居を打っておく。

 そうする事によって、王国側はミルダン王国に対して賠償くらいで済ませるはずだ。

「帝国とは事を構えないのですか?」

「先日はハレインの秘策によって勝利した。だが、あれは帝国のほんの一部であり、どこか切り捨てた形跡まである。本隊(・・)が来れば、今の王国としては厳しい戦いになるだろう。ましてやハレインがいない今……ミルダン王国の者をさらに庇って戦うのは得策ではない。ここは賠償金くらいで十分だろう」

「…………浅い考えでした。帝国はそこまで強いのですね。それはそうとエリア共和国はどうなさるのですか?」

「そうだな。あの国がこの戦争に加担したという証拠さえあれば、あの国にも多少無理を聞かせるのだがな」

 それを聞いた俺は、懐から取り出すふりをして、『アイテムボックス』から書状五つを取り出す。

「ジェローム様。こちらはその証拠(・・)になりますが、購入(・・)して頂けますでしょうか? 後払いで良いので……」

 ジェローム様は、何か納得したように苦笑いを浮かべ、「『シュルト』らしい交渉だな」と言いながら書状を受け取った。
 『グレイストール戦争』

 ※ゼラリオン王国の南で戦っている王様率いる軍は、ゼラリオン王軍と表記。

 ※ゼラリオン王国の西で戦っているジェローム率いる軍は、ゼラリオン王国軍と表記。



 初日、首謀者であるハレイン軍とゼラリオン王軍が衝突し、その日のうちにハレイン軍は全滅し、ハレインも命を落とす。

 ゼラリオン王国の西側にある『オルレット領』にてミルダン王国とゼラリオン王国軍が衝突する。



 二日目、ゼラリオン王軍はグレイストール領であるシカウンド地域を占領し、この時点で戦争は勝利したものの、帝国の防衛の為、ゼラリオン王軍はそのままシカウンド地域に滞在した。

 ゼラリオン王国軍はミルダン王国軍と小競り合いを続けていたが、この日のうちにミルダン王国軍三千が半数を減らし大敗。



 三日目、ミルダン王国の全面降伏により、戦争は終結。

 十日目、エリア共和国の内通による参戦が発覚、ゼラリオン王国に全面降伏。



 『シュルト(銀朱の蒼穹)』の功績。

 初日、ハレイン軍の陽動軍を殲滅。

 ハレイン軍に大打撃。

 ハレインを討ち取る。

 二日目、ミルダン王国軍に大打撃。

 三日目、エリア共和国の内通証拠提示。



 ◇



 とある森。

「女王陛下~」

 玉座に座っている身体が大きい女性が目を開ける。

「アンナ、どうだったんだい?」

「うん~ゼラリオン王国の大勝利~」

「くふふふふ、それもあの子の力かい?」

「そうよ~殆どあの子の力だったよ~」

「くふふふふ、これは面白くなってきたわね~これは飛鳥(あすか)に一泡吹かせられるかしらね。くふふふふ」

 周りの女性達も女王に呼応して楽しそうに笑い始める。

「女王陛下~そろそろ私も混ざりたいよ~」

「くふふ、分かった、アンナの好きなようにしな」

「ほんと!? やった~!」

 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるアンナ。

「女王陛下? いつ頃連れてくる?」

「そうじゃな、まずあの少年の力を探ってからさね」

「分かった~! 『鑑定』を教えてもいい?」

「仕方ないわさ、アンナの好きにしな」

「わ~い! 女王陛下大好き~!」

 アンナは飛びながら、女王の足に抱き付いた。



 ◇



 帝国宰相執務室。

「宰相閣下、こちらに」

「うむ。ご苦労」

 帝国宰相は密偵から一枚の書状を取ると、密偵が消えた執務室で一人、書状を眺める。

「…………!? あのハレインが負けたのか。しかも…………惨敗とはまた…………ゼラリオン王国。これ程までに力を付けたというのか?」

 思っていたよりも遥かに悪い(・・)結果に、宰相は溜息を吐く。

 しかし、その瞳に宿る野心の火は弱まる事はなかった。



 ◇



 とある国の城内。

「女王陛下」

 玉座に座っている顔を透明なベールで隠した一人の女性が座っている。

「アインハルト。お久しぶりです」

「はっ、遂に我々の救世主となるお方を見つけられました」

「っ!? それは本当なのですか!?」

 驚きのあまり、玉座から立ち上がる女王。

 少し興奮気味の女王が目を輝かせてアインハルトを見つめる。

「まだ詳しい事は分かりませんが……あのクランは、色んな制限を無視(・・)しております。ここまでの活躍を見た感じ、これからさらなる頭角(とうかく)を現すと考えられます」

「ゼラリオン王国のクランでしたね?」

「はい。その名を――――――――『銀朱の蒼穹』と申します」

「分かりました。ゼラリオン王国は此度戦争が終わったと聞きます。帝国との睨み合いが続くでしょうけど、まだ開戦には時間がかかるでしょう。急いで『銀朱の蒼穹』に連絡を取り、一度こちらに来て頂きましょう」

「はっ、五騎士のセリアに急いで貰います」

「お願いしますね。騎士団長」

「はっ」

 騎士団長アインハルトは、ようやく国に帰って来たパーティーメンバーでもあり、王国最強五騎士の一人セリアに書状を持たせ、次の日には『銀朱の蒼穹』に向かわせるのであった。



 ◇



 帝国のとあるダンジョン。

「そっち行ったぞ!」

「任せろ!」

 一人の青年が、近づいてきた大きな狼の魔物を斬りつける。

 狼魔物は小さく吠え、その場で倒れ込んだ。

「うむ。少しは強くなったな。アース」

「ああ。これもみんなのおかげだ。すまないがこれからも頼む」

「…………言われるまでもない。お前は俺達の希望だ。リース達の為にも強くなるぞ!」

「ああ!」

 アースは十人の上級騎士のうち生き残った五人とパーティーを組み、日々ダンジョンでレベル上げと訓練に励んでいた。

 自分の所為で負けた戦いで、多くを失った。

 その事実が、彼の生きる原動力となり、今ではパーティーメンバーの上級騎士達とも対等に語り合う仲となっている。

 全ては、戦えなくなった彼女達の為に。

 そして生き残りを掛けた自分の為に。


「アース。向こうの噂は聞いたか?」

「ん? 戦争の件か? 始まったとだけ聞かせてるが……」

「……どうやら、噂によれば、ゼラリオン王国が圧勝したようだ」

「!? ――――ゼラリオン王国が圧勝!?」

「そうらしい。どうやら凄まじい魔法使い部隊を隠し持っていたらしいぜ」

 その言葉を聞いたアースの頭に、一つの言葉が思い浮かんだ。



 ――――――『転職士』。



 転職士ならば、職能を簡単に変えられる。

 既に自分も誰彼構わずに中級職能に出来る。

 一度レベルが1に戻ってしまうが、下級職能を中級職能に上げるのは十二分に魅力的な話だ。

 現在、アイザック軍の全ての兵は中級職能について、懸命にレベルを上げている。

 その中でも32人だけが、十倍の経験値獲得率を誇っている。

 現在パーティーメンバーである五人にその恩恵を与えているので、急速なレベル上げを実現出来ているのだ。

 最終的に、帝国最強級のアイザックと一緒にAランクダンジョンでAランク魔物を倒せば、レベル最大も夢ではない。


 戦場に現れたという隠し持った戦力。

 アースの頭には、どうしても『銀朱の蒼穹』の『転職士』が思い浮かんで離れなかった。

 強い魔法使いの部隊…………そんな理想的な戦力がそう簡単に揃うはずもない。

 ましてや、帝国でもなくゼラリオン王国という中堅王国でとなれば。

 自分より遥か先を行っていると思われる向こうの転職士の更なる闘争心も燃やすアース。

 『銀朱の蒼穹』に復讐(・・)の為、アース達は日々励み続けるのだった。
 グレイストール戦争が終結して一か月。

 俺達はレボルシオン領に戻り、ゆっくり過ごしている。

 肆式は王国とのパイプ役として、王国で暮らして貰う事になったけど、それは彼らが希望したからでもあった。

 そんな俺達に訪問者が一人、訪れて来た。


「お久しぶりです。『銀朱の蒼穹』の皆様」

「ん? 貴方は…………たしか、『Aランクダンジョン』で出会ったあの方のパーティーメンバーですね?」

「はい。そう言えば名前も名乗りませんでしたね。我々はクラン『エデン』という者です」

「クラン『エデン』!?」

 その名前にはとても聞き覚えがある。

 たった六人で構成されているクランとして有名で、いくつもの高難易度ダンジョンを制覇した強者のクランだ。

「我々の名前を知ってくださっているなんて、とても光栄です。私はメンバーの一人、セリアと申します」

「い、いえいえ! 俺達はまだまだ新参者ですから、Aランククランの皆様とは思いもしませんでした」

「ふふっ、これも全てリーダーであるアインハルト様のおかげです」

 何となく目の前の女性が、あのリーダーを『様』と呼ぶ事に少し違和感を感じる。

 以前出会った時に、リーダーと絡んでいた別の女性はもっとフレンドリーだったはず。

「それで、クラン『エデン』様はどうしてうちに?」

「我々は対等な関係です。様など付けないでください。本日はこの書状をぜひ読んで頂きたく…………ただ、内容に関しては内密にお願いしたい。もし断ったとしても、あなた方を信用しての事ですので」

 彼女が取り出した手紙。

 手紙の封にはあまり見慣れない紋章が描かれている。

「その紋章は!?」

 隣で一緒に聞いていたミリシャさんが驚く。

「ミリシャさん、この紋章に心当たりが?」

「あるってモノじゃないわ。ソラくんも皆もこの事は決して口外しないようにね?」

 意外とミリシャさんが一番驚いた反応を示して、俺達は大きく頷いて答える。

 一体どこの紋章なのだろう?

「こちらは、『アクアソル王国』からの招待状でございます」

「っ!?」

 もしミリシャさんから注意されてなかったら、名前を叫ぶところだった。

 手紙を持って来てくれたセリアさんに促され、その手紙を開封する。

「親愛なる『銀朱の蒼穹』の皆様。私はアクアソル王国の女王エヴァ・エン・アクアソルと申します。本日は皆様のレボルシオン領の武勇を聞きまして、ぜひ一度直接お会いしたいと思い、こういう紹介状を送らせて頂きます。我がアクアソル王国はリゾート地としても有名ですので、ぜひ皆様でお越し頂くのはいかがでしょうか? 本日はいきなりの招待状に大変驚いておられると思いますが、ご検討をお願い申し上げます」

 とても丁寧な内容に、脅迫とか、そんな類の事ではないのが伺える。

 それにその内容にとても大きな誠実(・・)さを感じる。

「セリアさん」

「はい」

「一つ疑問に思うのですが、どうして俺達なのですか?」

「申し訳ございません。私程度ではその真意は分かりませんが、皆様との交流(・・)を望まれると思われます」

「交流……ですか?」

「はい。『銀朱の蒼穹』は急速に成長するクランです。それに本日その強さも納得しました。先日『暗黒の断崖(Aランクダンジョン)』で出会った皆様から、想像もつかないような強さを身に付けておりますから、その活躍も納得というモノです」

「なる……ほど」

「これは私の上司であるアインハルト様からの伝言ですが、アクアソル王国の『王家のダンジョン』というモノがある事を伝えてもよいと言われております」

「王家のダンジョン?」

 アクアソル王国にダンジョンがあるなんて全くの初耳だ。

 ミリシャさんに視線を移すと、彼女も知らないと顔を横に振る。

「はい――――――世界の数少ない『Aランクダンジョン』でございます」

「ええええ!?」

 世間一般的に知られている『Aランクダンジョン』は、ゼラリオン王国に一つ、帝国に二つ、噂によると魔女の森に一つ、砂漠のアポローン王国に一つの計五つが全部なはずだ。

 しかし、ここに隠された六つ目の『Aランクダンジョン』を知るという事は、とんでもない情報でもある。

「ソラ様。『銀朱の蒼穹』の皆様。我々アクアソル王国はそれ程までに皆様と交流(・・)を持ちたいと考えております。これがどういう意味かは、私なんかでは想像しか出来ませんが、王国の一員としてここまで情報を提示する見返りでも良いので、ぜひ女王様に一度会って頂きたい…………ずるいやり方かも知れませんが、どうか、よろしくお願いします」

 セリアさんは深く頭を下げる。

 彼女からも、この手紙からも(よこしま)な気配を感じない。

 ――――それに。

「セリアさん。頭をあげてください。実は俺達は元々『アクアソル王国』に行く予定でした」

「っ!? それは本当でございますか!?」

 周りにいたうちのメンバーがキョトンとした表情で俺を見る。

 まあ、行く予定だったのは本当だけど、言うのは初めてってやつだ。

「実は此度の戦争が終わった後、『銀朱の蒼穹』の皆で休暇に行こうって約束していたんです」

「!?」

 フィリアが過剰反応すると、隣にいたカールが小さい声で笑い出す。

 ルリくんとルナちゃんは、また始まったよ――――的な表情を見せる。

 二人がこういう表情を見せるのは珍しくない!?

「そうでございましたか。それはとても僥倖(ぎょうこう)でございますね」

「ええ。ただ今すぐには事情があって行けないので、来月にはお邪魔出来るかと思います。その時はぜひよろしくお願いします」

「お任せください。それはそうと、皆様はどれくらいの人数で来られますか?」



「えっと――――千人です」

 ずっとクールな表情のセリアさんが面白い表情になった。
 アクアソル王国に休暇に行く事が決まって数日後。

 俺達は『シュルト』として、報酬の件で王様から呼ばれ、真夜中寝静まった王城を訪れ、ビズリオ様に案内されて王様の下に到着した。

 王様の執務室には、王様とジェローム様、ビズリオ様の三名。

 どうやら宰相様は王様の飾り役職らしくて、全く権限もなければ、意見も出来ないので呼んでいないらしい。

 こちらは、真っ黒い衣装と仮面を被った団長の(ヒンメル)と副団長の『フロイント』、『シュベスタ』と『ブルーダー』の四人で参加した。



「『シュルト』。此度の戦争の援助、感謝する」

「いえ、ゼラリオン王国の力になった事を誇りに思います」

「うむ。今回はその報酬の件だ。まず最初に、ハレイン軍との戦いに参戦してくれた件で、随分楽に勝たせて貰った。その報酬に『シカウンド地域』の土地を欲していたな?」

「はい。ゼラリオン王国の一部としてで構いませんが貴族位は必要ございません」

「分かった。ただし、各町の役場や城は拠点としてゼラリオン王国が所有で良いな?」

「はい。まだゼラリオン王国の税金の詳細を知らないので、税金の額や時期なども後ほど教えて頂けたらなと」

「それは追って書状で知らせよう。本来なら貢献度に応じての貴族位で税金を変えているのだが、最低率にするので心配はせずともよい」

「感謝します」

 かの土地は全てビズリオ様が所有しているようで、ビズリオ様から土地の保有権を記入した正式書面を渡されて『ヒンメル』とサインをすると、俺の中に『シカウンド地域』の土地が移った事が確認出来た。



「では次の件だが、ハレインを討ち取った件だが、欲しいモノはあるか?」

「はい。王国内の『販売権利』でいかがでしょうか?」

「ほぉ……『シュルト』は販売も手掛けるのか?」

「ふふふっ、実は我々の仲間に『鴉』という者がございまして、彼女は商売に精通しております」

 ビズリオ様の表情が一瞬ピクリと動く。

「彼女の提案で、とあるクラン(・・・)と交流を持とうと思っております」

「ほお? 『シュルト』が交流を持つクランがいるとは」

「いえ、これはあくまで『鴉』が商売として手掛ける企画で、『シカウンド地域』の土地を有効活用する為の術でございます…………くれぐれも皆様には我々『シュルト』が関わっている事をかのクランに伝えないようにお願いします」

 俺は低い声でそう告げた。

 これは言わば、『事情を話した場合、敵対と受け取ります』と言っているのと同様な意味を持つ。

 本来ならゼラリオン王様にこういう無礼(・・)は通用しないが、今回の戦争で『シュルト』の戦力が凄まじい事と、ここにいる四人でもその戦力が大きい事を既に見せつけている。

 王様もそれを知っていてか、嫌な顔はしない。

 これで堂々と『鴉』を使い、『シカウンド地域』の土地だけでなく、王国全土で『銀朱の蒼穹』として商売が出来るというモノだ。

「分かった。ただハレインが持っていた財産は全て王家で貰うぞ?」

「かしこまりました」

 一緒に聞いているビズリオ様から「後日盗賊ギルドに届ける」と言ってくれた。



「では次はミルダン王国軍の件だが、こちらに関しては提示させて貰おう。ミルダン王国からの賠償金がこれから定期的に支払われる。その額の一定額を支払おう。これは次のエリア共和国の件も同様だが、どうかね?」

「既に沢山の報酬を頂いておりますので、こちらが指定する報酬はございませんので、その通りにお願いします」

「うむ。ミルダン王国の均衡を壊してくれたので、ミルダン王国側の賠償金は二割を支払う。エリア共和国は其方達が入手した証拠がなければ得られなかったので、エリア共和国側の賠償金の八割を支払おう」

「ありがとうございます。――――――それと一つだけ個人的な疑問があるのですが宜しいですか?」

「うむ。答えられる事なら」

 報酬の件ではなく、一個人として疑問に思った事を聞いて見る事にする。

「先日、ハレインが王様と戦っていた時に話していた件ですが、もしよろしければ事情をお聞きしても?」

「うむ。構わぬ。グレイストール家は元々王家の血筋の一つであった。しかし、ゼラリオン家とグレイストール家で確執があり、長い間覇権を巡り争い続けた。そのままだったら良かったのだが、先代のグレイストール家当主が反乱を目論み、そして失敗。グレイストール家は潰される事となったのだ」

 グレイストール家はゼラリオン王国の王になりたかったのだろうか。

「グレイストール家が潰される時、当主が下町で産ませた子供が一人だけ生き残った。それがハレインだ。グレイストール家の先代当主とはそれなりに長年の仲だったから最後の願いとして、ハレインの命だけは生かす事にした…………陰ながら友人でもあった先代当主の息子を支援もしていた」

 王様はとても深い悲しみを帯びた目を見せる。

「ハレインは優秀ですぐに頭角を現し、王国に仕えると仕官に訪れた。そのとき、ハレインに全てを打ち明けたのだが、その事がハレインの復讐心を駆り立ててしまった…………まさかあそこまで復讐心に燃えているとは思わなかったが、あれも一人の我が子のように思い、玉座を奪われるならそれもまた一興と野放した結果が、この結果だ」

 淡々と話した内容に深い悲しみが滲み出た。

 もしかしたら、ハレインを自分の後継者として考えていたからこそ、ああなっても見守っていたのかも知れない。
 数日後。

 ゼラリオン王国から報酬として『商売権利証』が届いたので、早速『鴉』に直接運んで貰い、『銀朱の蒼穹』に売り込んだ。

 と言っても、自作自演なんだけど。

 一応、ビズリオ様の情報部に見せる為のパフォーマンスでもある。

 これで、『鴉』の一個人が、『銀朱の蒼穹』を利用して王国全土で商売をするという図式になる。

 不自然に『銀朱の蒼穹』から大量の宝石や素材が売られても、不審がられる心配がなくなったので、今回の報酬はクランにとって、とても有意義なモノになった。


「ソラ」

 優しい声に振り向くと、いつもとは違うラフな格好のフィリアが笑顔を浮かべている。

 真っ白なワンピースがフィリアの長い金髪にとても似合うと思う。

「ソラ、今回の戦争は大変だったね。よしよし」

 何故か俺の頭を撫でてくるフィリア。

「ふぃ、フィリア!? 俺よりもフィリア達の方が大変だったでしょう!」

「ううん。私達はソラというマスターの下で動いているし、言われた事をこなせばよかった。でもソラは常にみんなの事を考え、クランがどう動かすべきかずっと悩んで、戦いやその後の事まで沢山の事を一人で気負っていたんだから」

「…………みんなが一緒にいてくれるからだよ」

「ソラは昔からそう言うけど、違うの。ソラがいてくれるから、私達はここにいるの。貴方がいなければ、私達は今こうしていられなかったと思う。だから――――――ありがとう。そして、お疲れ様」

 俺より少し背の低い彼女は、背伸びをして、懸命に俺の頭を撫でてくれる。

 少し上目遣いの笑顔のフィリアが、とても愛おしい。

 セグリス町でカールと知り合い、いつの間にかずっと俺の隣にいてくれるようになったフィリア。

 フィリアがいなければ、『転職士』である俺がここまで来れる日は無理だったと思う。

 こんな頼りがいのない男に、よく付いて来てくれるんだなと感心しながら、俺はこれからも彼女を、みんなを守って行こうと、今一度決心を固めた。

 いつまでも弱いソラではなく、『銀朱の蒼穹』のマスターとして、みんなと守っていく強いマスターとして、そして、フィリアにふさわしい男として、俺はこれからも頑張って行こうと思う。

 戦争が終わり、フィリアと交わしたキスは、今までの中で最も格別なモノだった。



 ◇



 『銀朱の蒼穹』の大型休暇まであと三日となったその日。

 俺達が過ごしている『レボル街』に、離れていた他の弐式や肆式が全員集まった。

 流石に千人ともなると、屋敷では泊まれないので、レボル街にある宿屋や民宿を全て一斉に借りている。

 今日明日はお祭り騒ぎの日だ。



 そんな日に、突如としてそれはやって来た。



「そ、ソラ様!」

 慌てて入って来る弐式のメンバーの一人。

「どうしたの?」

「と、とんでもない人がソラ様に会わせろと……私が言うのもなんですが、お会いにならない方が良いかと……」

「ん?」

「ソラ。私が先に会って来ていい?」

「う~ん、いいけど無理はしないようにね?」

 頷いたフィリアは、弐式のメンバーに案内され屋敷の外に向かう。

 一体誰なのだろう?


 少し心配になるが、数分待つと、扉が開いてフィリアが双剣を首に当てて、とある女性を一人連れて来た。

「フィリア!?」

「ソラ。あまり近づいちゃダメ」

「にゃはは~」

 フィリアは完全臨戦態勢だが、首に双剣を突きつけられている彼女は緩い笑い声を出す。

 最初の印象としては――――とても不思議な感じがする。

 彼女が着ている衣装が不思議で、黒色よりも黒い――――暗黒色とでも呼べばいいのだろうか? そんな(よど)み一つない黒色の衣装は生きているかのようにうねうね動いている。

 衣装は大きな帽子にも繋がっていて、帽子の大きさが印象に残る姿だ。

 ――――何となく『魔女』っぽい?

「はじめまして~」

「は、初めまして」

「君がソラくんね~?」

「はい。貴方は?」

「私は~」

 彼女は緩く返答する。









「東にある魔女の森から来た魔女だよ~」




 ま、魔女!?

 その異様な姿から既に普通の人ではないと思っていた。

 何となく、『魔女』っぽいと思っていたのが、当たった形だ。

「えっと……どうして魔女様がこんな場所に?」

「うふふ、様なんて付けなくていいわ。私はアンナ~と呼んで~」

 アンナと名乗る魔女。


 実は、魔女というのはとても忌み嫌われている。

 その理由としては、まず男を攫って行くのが一つ。

 攫われた男は基本的に帰って来ない。

 そういう事もあって、子供に「魔女に連れてって貰うよ!」という恐怖の言葉が存在するくらいだ。

 それも相まって、世界では『魔女』というだけで敵対する。

 ただ――――――俺の目の前にいる魔女のアンナさんからは、忌み嫌うような感情は全く感じない。

「フィリア。その剣を納めてくれない?」

「っ!? ソラ!? 魔女は駄目よ!」

「いや、もし彼女が俺を攻撃しようと思えば、俺は既に死んでいると思う」

「にゃはは~ソラくん、さっすが~」

「くっ……」

 フィリアは渋々剣を納める。

「うちのフィリアがすみませんでした」

「ううん~魔女を見た人間はみんなああだから、一々怒ったりしない~ソラくんが好意的だからもっと怒らない~」

 こうして、俺の前に初めて魔女が姿を見せる。

 不吉の象徴でもある魔女が俺の前に現れたのには、大きな不安を覚えざるを得なかった。