遂にゼラリオン王国に対して、グレイストール領を率いるハレイン様とミルダン王国軍が侵攻し始めた。
ハレイン様的には、ミルダン王国からの侵攻は予想外だと思っているだろうけど、実はミルダン王国側にはジェローム様が引き受けて止めてくれている。
グレイストール領方面は、ビズリオ様と――――まさかのゼラリオン王まで出て来た。
そして、王様の陣営。
「ビズリオ殿……その……部外者をここに置くのは……」
一人の騎士が、変装している俺達を指さした。
俺達は『シュルト』として、団長が俺、副団長がフィリア、そしてルリくんを連れ、三人で作戦会議に参加している。
これもビズリオ様からの提案だったりする。
「構わない。今回の戦争で彼ら『シュルト』はゼラリオン王国に大きな力となるだろう。インペリアルナイトのビズリオが責任を持つ。心強い味方だと思って接したまえ」
他の騎士達も少し難色を示したが、王様が何も言わず、ビズリオ様があそこまで押してくれる事もあって、問題なく会議に参加する。
「現在、敵軍はこちらに向かって、兵三千で向かって来ております」
「三千……」
騎士達が心配そうにつぶやく。
兵三千人は決して少ない数ではない。
現に、ゼラリオン王国の兵はたった千五百人しかいない。
他は隣国のミルダン王国を食い止めるべくジェローム様の所に集まっている。
「発言、宜しいでしょうか?」
俺は手を上げる。
「いいぞ」
「ありがとうございます。私の調べによりますと、その三千の裏にもう五百名の兵がございます」
「ふむ。続けてくれ」
「五百の兵は共和国からの支援で『速馬』を使い、こちらの陣営を後ろから叩くつもりでしょう。正面から来る兵は、ぶつかってすぐにその場を維持するはずです」
「なるほど……こちらの兵を突破できないふりをして、油断を誘って陽動作戦を行うのか。ハレインらしい作戦だ」
「ですので、皆様はそのまま食い止めてください。後方の五百は私達が処理しましょう」
「…………『シュルト』の力を疑っている訳ではないが、其方三人で対処するという事か?」
「いえ、私の配下の者が既に向かっております」
「そういう事か…………貴殿達はここに残ると?」
「はい、戦いが始まれば、こちらにいる『ブルーダー』に、相手の司令系統の者を潰して貰いましょう。恐らく、ハレインは我慢出来ず、こちらに出てくると思われます」
俺の作戦を聞いたビズリオ様と王様は頷く。
周りの騎士達は怪しいと思っているが、誰も言葉を出さない。
わざわざ反論してビズリオ様に睨まれたくはないだろうからね。
「『ヒンメル』と言ったな?」
奥で威圧感を放っていた王様が聞いて来る。
「はい。ヒンメルと呼んでくださいませ」
「ヒンメル。ハレインを我の下に誘導する事は出来るか?」
「ご所望であれば」
「頼む」
「かしこまりました。ハレインが痺れを切らした時に、誘導致します」
正面の兵達の細かい作戦はそのままビズリオ様が立て始めたので、俺達は一度外に出る。白兵戦は、経験者である人の方が指揮しやすいだろうから。
俺達が平原に広がっている王国軍とハレイン軍を眺めている頃、肆式のリーダーのカーターくんから隠れている陽動軍を見つけたとの連絡が入った。
◇
陽動用ハレイン軍が機を待っていた頃。
彼らは指示通り、煙幕が上がるのを待っていた。
その時。
少し遠くの丘の上に真っ黒い服と黒い仮面を着た数十人が見えた。
「リーダー、向こうに変なやつらが」
「ん? なんだあれは?」
「敵かも知れません」
「……そうだな。しかし、それほど多くはないな、一旦様子を見て、そろそろ煙幕が上がるはずだから、それに従った方が良いかも知れない」
「ですけど、あいつら何だか不気味ですよ? 真っ黒いし……」
「まあ、こちらの人数は五百にのぼる。心配しなくていいだろう」
しかし、直後、リーダーはその言葉を後悔する事になる。
向こうの黒い一団から魔法の気配が見えた。
「魔法か! 防御魔法を張れ!」
急いで魔法を指示するリーダーに、反応が早かったおかげで相手より防御魔法を先に張る事が出来た。
しかし――――。
直後に真っ赤に燃える巨大な炎の魔法が二十にも及ぶ数の魔法が飛んできた。
「こ、これは! インフェル――――」
ハレイン軍の陽動軍が炎の海に飲まれ、五百もいた兵達はたった一瞬で全滅した。
魔法により消えた兵達は、鎧や骨すら残らず燃え尽きた事は言うまでもない。
◇
ハレイン軍、本陣。
ハレインの指示により、進軍した本陣がゼラリオン王国軍とぶつかった。
予定通り、ハレインは青い煙幕を上げる。
しかし、いくら待っていても相手の本陣の後ろから、本来くるであろう陽動軍が出てこない。
ハレインは少しずつ苛立ちを覚えるが、まだ目の前の本陣は、数で勝っている。
冷静に本陣を見回していた。
その時。
ハレインの目に何人かの指揮官がその場で首が飛ぶのを見かける。
「っ!? しゅ、シュベスタ!」
急いで『シュベスタ』を呼ぶハレインの後ろの影から、『シュベスタ』が現れる。
「ここに」
「向こうにも暗殺者がいる! 処理してこい!」
「はっ」
ハレインは、『シュベスタ』がその場から消えると、それを察知した相手の暗殺者が逃げる気配を感じる。
少しずつ、心の余裕がなくなっていく事を、自覚できないまま、焦り始めた。
ハレイン様的には、ミルダン王国からの侵攻は予想外だと思っているだろうけど、実はミルダン王国側にはジェローム様が引き受けて止めてくれている。
グレイストール領方面は、ビズリオ様と――――まさかのゼラリオン王まで出て来た。
そして、王様の陣営。
「ビズリオ殿……その……部外者をここに置くのは……」
一人の騎士が、変装している俺達を指さした。
俺達は『シュルト』として、団長が俺、副団長がフィリア、そしてルリくんを連れ、三人で作戦会議に参加している。
これもビズリオ様からの提案だったりする。
「構わない。今回の戦争で彼ら『シュルト』はゼラリオン王国に大きな力となるだろう。インペリアルナイトのビズリオが責任を持つ。心強い味方だと思って接したまえ」
他の騎士達も少し難色を示したが、王様が何も言わず、ビズリオ様があそこまで押してくれる事もあって、問題なく会議に参加する。
「現在、敵軍はこちらに向かって、兵三千で向かって来ております」
「三千……」
騎士達が心配そうにつぶやく。
兵三千人は決して少ない数ではない。
現に、ゼラリオン王国の兵はたった千五百人しかいない。
他は隣国のミルダン王国を食い止めるべくジェローム様の所に集まっている。
「発言、宜しいでしょうか?」
俺は手を上げる。
「いいぞ」
「ありがとうございます。私の調べによりますと、その三千の裏にもう五百名の兵がございます」
「ふむ。続けてくれ」
「五百の兵は共和国からの支援で『速馬』を使い、こちらの陣営を後ろから叩くつもりでしょう。正面から来る兵は、ぶつかってすぐにその場を維持するはずです」
「なるほど……こちらの兵を突破できないふりをして、油断を誘って陽動作戦を行うのか。ハレインらしい作戦だ」
「ですので、皆様はそのまま食い止めてください。後方の五百は私達が処理しましょう」
「…………『シュルト』の力を疑っている訳ではないが、其方三人で対処するという事か?」
「いえ、私の配下の者が既に向かっております」
「そういう事か…………貴殿達はここに残ると?」
「はい、戦いが始まれば、こちらにいる『ブルーダー』に、相手の司令系統の者を潰して貰いましょう。恐らく、ハレインは我慢出来ず、こちらに出てくると思われます」
俺の作戦を聞いたビズリオ様と王様は頷く。
周りの騎士達は怪しいと思っているが、誰も言葉を出さない。
わざわざ反論してビズリオ様に睨まれたくはないだろうからね。
「『ヒンメル』と言ったな?」
奥で威圧感を放っていた王様が聞いて来る。
「はい。ヒンメルと呼んでくださいませ」
「ヒンメル。ハレインを我の下に誘導する事は出来るか?」
「ご所望であれば」
「頼む」
「かしこまりました。ハレインが痺れを切らした時に、誘導致します」
正面の兵達の細かい作戦はそのままビズリオ様が立て始めたので、俺達は一度外に出る。白兵戦は、経験者である人の方が指揮しやすいだろうから。
俺達が平原に広がっている王国軍とハレイン軍を眺めている頃、肆式のリーダーのカーターくんから隠れている陽動軍を見つけたとの連絡が入った。
◇
陽動用ハレイン軍が機を待っていた頃。
彼らは指示通り、煙幕が上がるのを待っていた。
その時。
少し遠くの丘の上に真っ黒い服と黒い仮面を着た数十人が見えた。
「リーダー、向こうに変なやつらが」
「ん? なんだあれは?」
「敵かも知れません」
「……そうだな。しかし、それほど多くはないな、一旦様子を見て、そろそろ煙幕が上がるはずだから、それに従った方が良いかも知れない」
「ですけど、あいつら何だか不気味ですよ? 真っ黒いし……」
「まあ、こちらの人数は五百にのぼる。心配しなくていいだろう」
しかし、直後、リーダーはその言葉を後悔する事になる。
向こうの黒い一団から魔法の気配が見えた。
「魔法か! 防御魔法を張れ!」
急いで魔法を指示するリーダーに、反応が早かったおかげで相手より防御魔法を先に張る事が出来た。
しかし――――。
直後に真っ赤に燃える巨大な炎の魔法が二十にも及ぶ数の魔法が飛んできた。
「こ、これは! インフェル――――」
ハレイン軍の陽動軍が炎の海に飲まれ、五百もいた兵達はたった一瞬で全滅した。
魔法により消えた兵達は、鎧や骨すら残らず燃え尽きた事は言うまでもない。
◇
ハレイン軍、本陣。
ハレインの指示により、進軍した本陣がゼラリオン王国軍とぶつかった。
予定通り、ハレインは青い煙幕を上げる。
しかし、いくら待っていても相手の本陣の後ろから、本来くるであろう陽動軍が出てこない。
ハレインは少しずつ苛立ちを覚えるが、まだ目の前の本陣は、数で勝っている。
冷静に本陣を見回していた。
その時。
ハレインの目に何人かの指揮官がその場で首が飛ぶのを見かける。
「っ!? しゅ、シュベスタ!」
急いで『シュベスタ』を呼ぶハレインの後ろの影から、『シュベスタ』が現れる。
「ここに」
「向こうにも暗殺者がいる! 処理してこい!」
「はっ」
ハレインは、『シュベスタ』がその場から消えると、それを察知した相手の暗殺者が逃げる気配を感じる。
少しずつ、心の余裕がなくなっていく事を、自覚できないまま、焦り始めた。