(あと少しだけ待ちたい。美凰が来るのを)

「そうね、そなたの妻たちになるのだから、じっくりと考えるのも良いでしょう。王妃には張氏(ちょうし)を選びなさい。父親である(ちょう) (ぎょく)殿は、主上も大変評価なさっておられるから王妃として釣り合うわ。良妃、静妃などの上級妃には、喩氏(ゆし)楊氏(ようし)李氏(りし)劉氏(りゅうし)になさい。その他の者は、下位の位であれば何でもよいわ」

碽貴妃は良家の娘たちを見て、満足そうにしている。

しばらくたった後、碽貴妃は飲んでいた茶杯(ゆのみ)几案(つくえ)に置き、急き立てた。

「秀快。もう、良いでしょう。そろそろ始めなさい」

「ですが、……」

「始めなさい」

有無(うむ)を言わさぬ声音(こわね)で言われる。

「はい……」

秀快は、ちらりと回廊(かいろう)の方に目を向けた。しかし、求めている姿は見えず、諦める。
如意を手に持ち、張氏が立っている目の前まで行くと、母妃(ははうえ)(うなず)いているのが見えた。

張氏に如意を与えようとした、その時――

「――さま!お待ちください!」

回廊の向こう側から、侍女らしき者が誰かを追いかけているようだ。
その〝誰か〟は、真っ直ぐこちらへ向かってきている。

春風に舞う桜の花びらが彼女の訪れを歓迎するかのように、背景を桃紅(ももいろ)に染めえている。