「...なんだよ、これ...?」

雨が降っていた。

激しい雨が、ごうごうとノイズの如く耳に入る。

目の前は血の海だった。

普段は組織の人間で賑わっているメインエントランス。

現実味の欠ける量の血液の溜まり。

むせ返る様な匂いでそれが現実である事を理解させられる。

先週、煙草の銘柄で気の合った上司が。

昨日、几帳面に整理された書類を上げてくれた部下が。

さっき飲み会の約束をした同僚が。

殺されていた。

いや、殺されたのかも分からない。

ただ。

ただ、ただ、死んでいた。

「...ハッ...ハッ...ッッ...ハッ...」

呼吸の仕方を忘れる程に思考が渋滞している。

故に何を考えるでもなく。

自然に足が動いたままに従うしかなかった。

ボス。

ボスならなにか知っているはずだ。

いや、なにかしてくれるはず。

ボス、ボス。

...親父!!

その時。

バンッ!!!

勢いよく扉が開き、白衣を着た目つきの鋭い男が部屋から飛び出してきた。

男は私を見ると、大股で歩み寄って来る。

「尾方! 無事だったか!」

男は私の知り合いで、組織の幹部兼研究員であった。

私は一縷の安堵に全身を支配され、涙を浮かべるのも忘れてエントランスの様子を男に話した。

「やはりそうか...アジトの緊急事態ブザーが突然鳴り響いてな。非戦闘員の俺は隠れて居たんだが、余りに自体が収束しないので出てきたのだよ」

ブザーが鳴り響いたのは20分ほど前らしい。

それは自分が買い出しに出かけたすぐ後のことだ。

気づけなかった自分に腹を立てながらも、人と話せたことで微かに心が落ち着きを取り戻して来た。

しかし。

「......」

何かに気づいた様にハッと立ち止まった博士は、微かに身体を震わせて言う。

「...尾方...分かるか?」

数瞬の安らぎすら許されなかった。

目の前の博士の身体に無機質な幾何学模様が走っている。

私がそれになんらかの反応を示そうとした瞬間。


「死とは、救いなんだ」


バン

そう言い残し、博士は木っ端微塵に弾けとんだ。

こびり付いた血を知覚すると狂ってしまいそうだったので、全力で無意識かに追いやった。

「...ハァッ...ハァッ」

思考すら億劫になるほどの感情の渋滞を押し留めながら、足に力を入れる。

揺れる視界でそれでもはっきり目的地を見定める。

ボスの部屋...

親父のところへ...

そうすれば、なにか、どうにか。

きっと。


しかし、その時は訪れた。

ズルリと背中に、巨大な蛇が這うような感覚が走った。

指先一つ、瞬きすら出来ない緊張感。

なにかわからない後ろのソレは。

語るでもなく私に語りかける。

『死を、思いますか?』

それは我が組織名にもなっている有名な言葉。

しかしそれは質問ではなく、脅迫の様な重みで私に降り懸かった。

これにどう答えようが、結果は変わらない。

どうしようもない結果だけが私の中で完結していた。

しかし。

それでも。

私は心の底から思ったことを、そのままに口にした。

「...死にたくない」

言葉は、か細く空気を揺らす事は出来たが。

結果を変えるには、遠く及ばなかった。

身体の奥深く、熱のように迸った死という概念は、瞬く間に私の身体を侵し。

私の意識は、暴力的に遮断された。

恐らく身体の断片的な一部として落ちた私の目玉は。

犯人の姿を鮮明に映していたが、それは脳に渡ることは無く。

瞳の奥底に記録ではなく陽炎として焼き付けられた。


記憶に無くとも引かれる様に。

記録に無くとも惹かれる様に。

そこに恨みは無くとも。

『その時』

近くに居られるように。


男の恩讐を知ってか知らずか。

『ソレ』は。

形ならぬ指先で幾何学模様の箱を撫ぜ。

男の向っていた奥の部屋に視線を運ばせた。

呟くでもなく。

空気が微かに震える。

『死を、思いますか?』




これは執念の根幹。

既に始まっていた男の物語の特異点。

とある男が問答したこの外付けの命題は、程なくして世界を迸る事になるが。

それは、もう少し先のお話。



さぁ諸君!

折角、読者になったんだ。

面白おかしい世界の終わりぐらい、見ておかないと損だと思わないかい?

ああ、大丈夫。

高尚な話になんかならないよ。

世界だって今際の際には。

「死にたくない」ぐらいしか言えないからさ。

きっと君のいい暇潰しになると思うんだ。

え? タイトル?

良くぞ聞いてくれました。

流行りそうもないでも俗っぽい良いのがあるんだよね。

それではご照覧あれ。

残されし者達の面白おかしい復讐譚。

『 残党シャングリラ 』

諦めないの先にある、ドロリとした人間性の物語。


 この世界には、絶対に負けてはならない戦いと言うものが存在する。

 その戦いには、命が懸かっているか、またはそれ以上のものが賭けられている。

 基本的にはこの戦い、勝者の物語しか語られない。

 だが、確かに存在する。

 この絶対に負けられない戦いの数と同じだけ、それに敗れた者が存在する。

 これは、そんな絶対に負けられない戦いに敗れ続け、それでも諦めなかった。

 不屈の敗者の、これまた敗北の物語。



 時は現代、携帯電話が少なくなりスマートフォンが復旧する世の中。

 この世界には、かつて神々が保有した理想郷、『シャングリラ』があった。

 しかし、この土地を巡って残り二柱となった神様が対立。

 かたや善の神を名乗り、人に身体強化と特殊な武器を与え天使を名乗らせ。

 かたや悪の神を名乗り、人の身体を作り変え特殊な能力を与え悪魔を名乗らせ。

 それぞれ特殊な武器と能力を持ったもの同士がぶつかり合う混沌の浮世となってしまっていた。

 ......というのはシャングリラ周辺の戦闘許可区に限られた話で。世の中は平和そのもの。

 シャングリラの戦闘模様はニュースや新聞に取り上げられるだけ、民の娯楽の一つと化していた。

 私は、そんな世の中を見渡すありふれた一個人ではあるのだが。

 これから、とある男が繰り広げる。シャングリラを騒がす一連の騒動を、紹介させてもらおうと思う。

 敗北の女神に微笑まれた哀れな挑戦者の。最大の敗北をご覧あれ。



「ハァ、うまーい......」

 裏路地でタバコを吹かす影が一つ。

「バイト抜け出して吸うタバコは格別だよね。どうもこんばんわ」

 ぼさぼさの髪を整える事もなく。男は軽く会釈する。

「おじさんの名前は尾方巻彦おがたまきひこ、しがないフリーターやってる三十五歳。そう、三十五歳。で、フリーター。やばくない? でもおじさんは慌てない。もういい歳だからね。血圧に響くの。これでも昔は、悪の組織に所属してブイブイ言わせてたんだよ? まぁ、万年一般戦闘員の下っ端だったけど」

居心地の悪そうに男は頭を撫ぜる。

「え? 悪の組織ってなにだって? おやおや最近の若いのと来たら、新聞読んでないの? 毎日ニュースでもやってるじゃない。神様の代理戦争。天使と悪魔の陣取り合戦。通称、シャングリラ戦線。ここじゃあ、それが日常じゃない?」

 ヨレヨレのネクタイを正すでもなく撫でた男は、皺の深いスーツのズボンを押さえて立ち上がる。

 この、バイトをサボり、猫に愚痴を言ういかにもさえない中年のオッサン。

 信じられないことに、彼が今回の騒動の主犯となる。

 尾方巻彦その人である。

「そろそろ戻らないと、店長怒ると怖いんだよなぁ」

 年下店長の怒りを恐れるこの男はまだ知らない。

 この日を境に始まる、自分を中心としたシャングリラを騒がす大騒動を。





「いや、結局怒られちゃったよ。目が怖い。目がね。あの店長」

 トボトボと帰路につく尾方。その足取りは重い。

 とっくに日は落ちており、街頭に照らされた帰り道をフラフラ歩く。

「いつまでこんな生活してるんだろ僕...あれから...」

 ふと、歩みを止めた尾方は、持ち歩いている手帳のカレンダーを見て呟く。

「あれから、もう、一年になるのか......」

 そう、今日は彼が所属していた悪魔組織「メメント・モリ」が壊滅してからちょうど一年が経つ日だった。

 事件の当日、彼は組織のアジトに駐在し、警護に当たっていたが、なにが起こったかわかることもなく。

  気がついたら組織構成員が全員惨殺されているという不可解な事件に直面したのだ。

 意味も分からず組織は壊滅、残ったのは一般戦闘員の自分ひとりだけ。

それから彼は、抜け殻のように日々をただ過ごしていた。

「一般戦闘員だったけど、毎日にハリがあったよなぁあの頃はさぁ......」

 くたびれた襟を直しながら、賃金2万円の郊外アパートの自室に入る。

「ただいまー......」

 無論、家には誰もいない。だが、それでもただいまを言うことが彼にとっては肝要なのだ。

 だって、寂しいじゃない。

 散らかったテーブルの上に雑にスペースを作った尾方は、コンビニ弁当を食べながら新聞を読む。

 注視するのはシャングリラ戦線欄、いまや離れてしまった界隈の話しだがやはり気にはなるのであろう。

「へー、あそこの組織がねぇ......うーん、とすると、今日はどうするかねぇ...」

 中年特有の独り言に夢中になっている尾方だったが、その時、

「トントン」

 ノックの音が静かな部屋の中に響いた。

 この部屋に住んで一年、来客なんて勧誘業者以外皆無である尾方は、聞き間違いと断じて無視を決め込むこととした。

 だが、

「ドンドンドン!」

 音が大きくなる。もうノックじゃない。

「ドン!! ドン!!」

 そしてその音は、何かがドアに体当たりしているような音に変わった。

「わっ! わっ! なに!?」

 流石に慌てた尾方は走って玄関に向かいドアを開ける。と次の瞬間。

ドン!! 

「ぎゃう!」

 自分の腰ぐらいの大きさの何かがぶつかって来た。

「うぉ!?」

 思わずよろけて尻餅をつく尾方。

「あいたたたた! なんなのもう......」

 前を見上げると、そこには真っ黒なドレスを着た少女が立っていた。

 尾方をジッと見つめている。

「えーっと、誰さん家のお子さんかな? 部屋、間違えちゃってるよ?」

 どう見ても自分の関係者ではないと回れ右を促す尾方だったが。

「そなたが尾方巻彦じゃな?」

 思いもよらず自分の名前が飛び出してきたものだから、立ち上がるのも忘れて目を丸くしてしまう。

「そ、そうですが? え、どちらさん?」

 少女は、尻餅をつく尾方を見下ろし尊大に言い放つ。

「ワシの名前は悪道姫子あくどうひめこ! メメント・モリが長! 悪道総師あくどうそうじが孫娘! 」

「着いて参れ! メメント・モリ最後の生き残りよ! ワシとそなたで、組織の復興を果たすのじゃ!」



「はぁ、タバコ吸いたい......」

 尾方巻彦は困惑していた、急にボスの孫娘を名乗るゴスロリ少女が家に乗り込んできた挙句。

 部屋にずかずかと押し入り、聞いてもないのにこれまでの経緯と身の上話をつらつらと聞かされたのだ。

 まとめるとこうだ。

 メメント・モリのボス【悪道総師】は、放浪していたこの少女を保護し、孫娘として育てていたらしい。 

 そして組織亡き後、復興を掲げて活動をしようとしていたが当てが無く。

 風の噂でメメント・モリの生き残りがいるということを聞き、単身ここに乗り込んで来たのだそうだ。

「何か言ったか尾方巻彦?」

「いいえ、なにも、お嬢さん。でもおじさん、今日はバイト上がりで疲れているから、その話明日にしない?」

 心底興味がなさそうな尾方。しかしご令嬢の追撃は続く。

「何を隠そう。この悪道姫子。拾われてより三年間の間、おじじ様より悪の英才教育を受けていてな。歳こそまだ小学を後にしたばかりではあるが、組織経営と悪の道を敷くことには絶対の自信があるのじゃ」

 部屋に自分の座るスペースを作りながら尾方はうんざり顔である。

「流石は悪のエリートコース様だ、人様の家に乗り込んできて有無を言わさずご高説とは、親父もさぞや鼻が高かろうよ...」

 遠まわしな尾方の抗議にエリートコース様は「うむ!」と胸を張って答える。

「その通りじゃ尾方巻彦! おじじ様も自慢の孫だとしきりにワシを称えておった!」

 会話のドッジボールである。しかもかたやバスケットボールの。

 やれやれと自分の座るスペースを確保した尾方は、腰を落ち着かせて一息つく。

「はい、じゃあオジサンから質問いいかな、お姫様」

「うむ、よかろう言ってみよ」

「その喋り方、いま若い子で流行ってるの?」

「いいや、おじじ様の真似じゃ」

「その服は? 自分で買ったの?」

「おじじ様に貰ったのじゃ」

「悪の英才教育って具体的には?」

「おじじ様を観察しておったのじゃ」

 ハァ...と溜息をして尾方は状況を整理する。

「(つまり、勝手に親父の後を継ごうとしている背伸びした子供って事ね。てか親父...こんな趣味あったの? あと孫には甘々じゃんね?)」

「どうした尾方? 質問は終わりか?」

 ひときわ大きな溜息をついた尾方は後に続ける。

「最後に一つだけ、組織の復興って詳しくはなにするの?」

 その質問を聞いて、今まで自信に満ち満ちていた少女の顔は曇る。

「そ...それは、今から...そ、そう! 尾方と考えるのじゃ! ...のう? 尾方巻彦...?」

「いや、のう? って言われても...答えはNOだけども...オジサンもうそういうのやめたっていうか」

 少女の血相が変わる。驚きに目をまん丸にしている。

「え、いま、なんと言ったのかの...? やめた...? 尾方はもう、メメント・モリを辞めてしまったのかのう...?」

 急激なシオシオ加減に尾方はたまらずフォローに入る。

「いや! 辞めてはないっていうかぁ...でも、ほら、なくなっちゃったからさぁ...そうせざる得なかったっていうか?」

 なあなあに収めようと真偽の真ん中を取りに行った尾方であったが、

「ああ! なんじゃそんなことか! それなら問題はないぞ!」

 彼女はパッと笑顔を取り戻し先ほどの調子で語りだす。

「お主が残っておるではないか! そしてワシが加わる! 晴れてここはメメント・モリじゃ!」

 次は尾方が目を丸くする番であった。

「い、いやいやいや、なに言ってんのお嬢さん? 組織は壊滅したんだって。俺なんか一般戦闘員が残ってても仕方がないの? でしょ?」

「おぬしこそ何を言っておる。ワシだって全滅したと思っておった。でも、お主が残っておったではないか?」

 少女は、心からそう思っているようである。そして言い放つ。

「だったら問題はない。お主をもって組織存続の証じゃ。組織が残っておってワシは心底安心したぞ」

 まるでボスから言われているようで、怯む尾方だったが。一つ大きく呼吸を置いて、姫子の方を観る。

「いいかい、お嬢ちゃん。オジサンだって最初はそう思ってた。そしてやったよ、色々さ。でもオジサンの手には余っちゃって...だから、もうそういうことはオジサンしないことにしたの。ごめんね役に立てなくて...」

 と上記の台詞を哀愁たっぷりに言おうと思ったが。

 尾方巻彦は大人なので、大人らしく、最もわだかまりの無い解決方法を取る事とした。

「うん! 一旦保留!!」

 そう叫ぶと尾方巻彦は、少女の制止の言葉も聴かずに。

 夜の街に走って消えた。


「てことがあってさあぁ、笑っちゃうよねぇ」

 ここは町に唯一ある商店街の一角のBAR。尾方巻彦行きつけの暇つぶしスポットである。

 少女から辛くも逃げ出した三十路フリーターは、家に帰るわけにもいかずBARで時間を潰していた。

「尾方さん呑みすぎよ。帰れなくなるわよ」

「帰らないために呑んでるんだよねぇ~。俺だってさあぁ、結構頑張ってるんだよぉ? でもさぁ全部はとれないじゃん? 苦渋を呑みまくってさぁ~あ、諦めてるってのにさぁ? あんなこと言われたらクるとこあるわけじゃな~い?」

「なに言ってるかさっぱりわからないわよ?」

 そして完全に出来上がっている彼はママからも大層煙たがられていた。

 その時。

「ここにおったか尾方巻彦! 話はまだ終わっとらんぞ!」

 BARでは絶対に聴くことの無い、幼さゆえの甲高い声が尾方の頭に響いた。

「うわぁ! なになに!?」

 BARの入り口にギョッと目線を移す尾方。

「ああ、また見えて来ちゃった...」

 そこに居たのは、どこからどう見ても件の少女であるが、酔っ払い尾方はそれを幻と断定。構わず酒を進める。

「お騒がせして失礼じゃママさん、オレンジジュースを一つ。横の酔っ払いのツケで」

 さらにその幻(本体)が横に座って自分の金でオレンジジュースを飲み始めたものだから、

「素晴らしい、夢の中でまでお天狗様とは...」

 このダメ男、事を夢だと断じてしまい。完全にスルーの構えに入ってしまった。

「よいか、尾方よ。組織復興は簡単な事ではない。すぐ決められないのも分かる。だが、だからといってな。目の前の現実を後回しにしても前には進めぬ。

悪の道その四! 

【まずは行動! 結果は経過と心得よ!】 

おじじ様も言っておった。世の中には単身で天使を襲う悪の奉仕活動に独り勤しむ。悪の道にそった人物がおるのは尾方でも聞き及んでおろう。最近世を騒がす通り悪魔「Return blood(返り血)」じゃ。なんでも目撃談が全部全身血まみれなところから来た通り名らしいんじゃがの。彼のように、まずは一人でも行動を起こすこと、これが大切じゃとワシも思うのじゃよ。それに彼に比べれば我らはもう二人、まだラッキーなほうと考えよ。これよりワシと二人力を合わせ、彼の者に負けぬ研鑽をじゃな...」

 つらつらとご高説講じるご令嬢であったが、尾方はすでに熟睡を開始していた。

「親父ィ...俺、まだ...」

 寝言までこぼす熟睡酔っ払い中年の隣でご高説たれる少女の異様な光景は、BARの閉まる時間まで続いた。



「ふあぁ~あ...ぃててて頭痛がぁ...」

 翌日、目覚めるとBARのシャッターにもたれ掛っていた尾方は

「...しっかし変な夢だったなぁ」

 と先日の件を全て夢だと思い込み、一旦家に帰りバイトへ出勤していた。

「おはようございます、今日も相変わらず眠そうですね尾方さん」

 そんな自堕落の極みに話しかける奇特な物好きが一人、

「んあぁ、おはようキヨちゃん。今日も朝から旅館前のお掃除? 小さいのに偉いねぇ」

 彼女は尾方のアパートの正面に位置する老舗旅館の一人娘、正端清まさただきよ。

 尾方の数少ない話し相手の一人であり、なにかと世話を焼いてくれる善き隣人であった。

 和服が似合う旅館の若女将は束ねた髪を翻して頬を膨らます。

「尾方さんが思っているほど小さくありませんよ、私。それにそんなこと言う人には今晩の肉じゃが分けてあげませんからね」

「えぇ、弱ったなぁ...おじさんアレだけが楽しみで毎日頑張ってるのに...」

「私小さいですかね?」

「心も体も尊大なご令嬢であられます」

「和服、似合っているでしょうか?」

「今生、お嬢様ほど和服を着こなす女性に巡りあう事はないでしょう」

「ふふ、敬称がバラバラですよ尾方さん。でもいいでしょう。ただし今日はあんまり無理せず早めに帰るんですよ?」

「とは言ってもねぇ、おじさん、アルバイトの数だけが自慢なんだよねぇ」

「前から、少し疑問だったのですけれど、なぜ沢山のアルバイトの掛け持ちをしてらっしゃるのでしょうか? ひとつのアルバイトに絞るとか、そこまで働く時間があるのであれば正社員のほうが生活が安定なさるのでは?」

 和服少女は掃除の手を止め、本当に不思議そうに尋ねる。

「...若女将さん。そこに気づくとは貴方まさか...まぁ、気づかれたからには答えるしかないか...」

 尾方の声色が変わり、ゴクリと若女将は息を呑む。

「ほら、実際の仕事内容がサボりまくりでも悲壮感出るじゃない? そしたら周りの裕福な人がご飯恵んで貰くれるかなぁって」

 和服少女はニコっと笑い竹箒を尾方の顔に前から被せる。

「痛ッたい眼がぁぁぁぁ!」

「今日の肉じゃがはお肉抜きです」

「冗談! 冗談なんです! 場が和むと思って! ...あと、おじさん、肉じゃがで一番好きな部分は半透明の玉ねぎなんで。ぶっちゃけ大丈夫ですハイ」

「あ、分かります? 私も特に時間と温度に気をつけて長めに煮ているんですよ」

「キヨちゃんの未来のお婿さんは毎日そんな料理食べられるんだよねぇ? 前世で世界でも救った徳高き御仁なんだろうなぁ」

 叫んだり言い訳したりグルメぶったり口説いたり、なんとも元気な二日酔いの中年である。

「もう、またそうやって肝心な部分をはぐらかすんですから、尾方さんなんだか危なっかしいから心配して言ってるんですよ?」

「そーれなら大丈夫、おじさんぐらいの歳の人はね。若い子と話すだけで丸一日は死なない生命力を得ることが出来るんだよ。知ってた?」

「妖怪なんです?」

「オマケにその若い子にご飯まで貰ってるんだからキヨちゃんは僕にとって神様と大差ないよね? シュハキマッセーリ?」

「調子の良いことばかり言って、それに神様は私なんかよりずうっと尊いお方ですよ? それにご飯はくれません」

「じゃあ、キヨちゃんママ?」

「いってらっしゃい尾方さん」

「痛ッたい眼がぁぁぁぁ!」

 竹箒は存外硬く鋭い、尾方はまた一つ賢くなった。




 完全に若女将に手玉にとられた尾方は、バイト先のコンビニレジにて一つ思い出していた。

「(昨日の夢、変な夢だったよなぁ。歳はキヨちゃんより少し下ぐらいだっただろうか。親父の孫娘とかなんとか、組織の復興ねぇ...あんな夢みるなんて...まだ心の何処かで...)」

バイト中に物思いに耽っている中年であったが、

「頼もう! 見つけたぞ尾方巻彦! さぁ、今日こそはワシと一緒に来てもらうぞ!」


 夢は現実に、今日も朝から元気なご令嬢の登場である。

「...お帰りくださいませぇ」

「いらっしゃいませじゃろ! 接客がなってないぞ尾方巻彦!」

「いや、オジサン現実でまで夢の面倒見れないって言うか...もう色々面倒臭いっていうか...」

「前半も後半も聞き捨てならない台詞じゃ尾方! 今日という今日はハイと言うまで帰らぬからな!」

「ハイハイ...あ、言いましたよ。おかえりはあちらになりまぁす」

「ムキー!」

「うぉ、怒り方だけおじさんと同世代だ」

「おじじ様だってこう言って怒っておったわ!」

「あ、やめて、おじさんの中の新鮮な桃のような思い出に指を突き立てるのやめて」

「桃は好いておる! あるのかの!」

「いや、あったらオジサンが食べてます。おじさんもう半年は果物口にしてないので」

「えぇ、それは、こんど、ミカン持ってくるからの...」

「少女にガチ哀れみを向けられてもおじさんは動じない。なんなら姫子ちゃんがいただきますって言った後に、その横から桃を奪って笑顔で食べられるぐらいには強いよおじさん」

「強さ...強さって...なんじゃろな...」

「振り向かないことさ」

 のらりくらりと逃げる中年。

「ぐぬぬ...バイト先に迷惑ゆえ、ここではこれぐらいにするが、覚悟しておれよ尾方巻彦! 今日はまだ始ったばかりなのだからな! さらばじゃ!」

 ご令嬢は走り去りかけたが、二、三歩走ったところでスッと振り返ると、尾方の前にモジモジとやってきた。

「あ...あと、叫んだら喉が渇いたのでお茶買うのじゃ。お会計」





「ここにおったか! 尾方!」

「おるな! 尾方巻彦!」

「ここじゃな! 尾方ァ!」

「ここにおるぞ! 尾方! 尾方ぁ!」

「サボるな! 巻彦ォ!」

 少女は宣言のとおり、その日、尾方巻彦の掛け持ちしている全てのバイト先に現れ、またサボり場所にまで追ってきた。

 だが尾方も負けじとのらりくらりと煙に巻いては逃げを繰り返し、ついに本日最後のバイト場所、街角にある古本屋にまで逃げおおせていた。

「ハァ...おじさんバイトだけでも手一杯だってのに...」

 本の整理をする尾方には流石に疲労の色が見えていた。手を止めて溜息しながら腰を叩く仕草、実年齢よりオッサン度が高い。

「...アルバイトの身で溜息しながら休憩とはいいご身分ですね」

 疲労困憊の中年に歯に衣着せぬ物言いをするのは、先日も尾方が怖いと愚痴っていたこの古本屋の店長。名を守本一もりもとはじめという。

 現役JDにして祖父の古本屋を継ぎ、名門大学に通いながらも古本屋を経営する才女である。

 基本無口な彼女だが、サボる尾方を罵倒する際は別であった。また眼鏡の奥に潜む鋭い眼光を尾方は苦手としていた。

「店長こそ、まぁたレジをサボって本の話でもしに来たんですか?」

「違うわ。サボり魔がいるから定期的に巡回しておかないとなの」

「そいつは大変だぁ。どんな悪魔で? 二つ名とかあります?」

「ごく潰しの悪魔、中年ルーザーよ」

「酷い! 酷くない?」

「私なりに皮肉を利かせてみたの」

「皮肉は変化球! 店長のは暴投! デッドボール!」

「本当のデッドボールを見せてあげましょうか?」

「まだ先があるの!?」

「WWWワンダーワイドホワイトボールよ」

「あれボークだからね!?」



 息を切らしながらツッコみする尾方。

「ちょ、ちょっと、おじさん本当に辛いから、手加減して...」

 疲れを隠さない中年ルーザーは観念して言い訳を始める。

「いや、違うんすよ店長。今日はちょっと朝からストーカー被害にあっておりましてね」

「...ん」

「いや、違う! 適当な嘘じゃないの! 分厚い本持って振りかぶるのやめて!」

「...どう証明するの?」

「えぇ...? 証明のしよう? なくない? ないよね? こんなオジサンがストーカーされる証明でしょう? 逆にあると思っちゃう? 店長ちゃん?」

「...んん」

「わー! 待って! 待ってってば!」

 振り上げた本が振り下ろさんとされたその瞬間、

「尾方ぁ! 尾方巻彦はおるかぁ!」

 良く響く甲高い声が本棚を揺らした。尾方はハンズアップしていた両手で入り口方向を指刺しながら店長を見る。

 守本は溜息をしながら本棚の裏にある入り口へと赴く。

「むむ、お主が店の主か! 尾方巻彦という、ろくでなしの擬人化の様な中年がここにおらんかのう?」

「...ここにはごく潰しの擬人化のような中年しかいないわ」

「そうか、おかしいのう。この辺りなんだがのう、失礼したのう店主よ」

 少女は携帯のような端末を見てブツブツ言いながら店を後にする。溜息をしながら守本は尾方の所へ戻ってくる。尾方は渋い顔をして言う。

「色々言いたいんだけど、なんであれで撒けるのよ...」

「...隠し子?」

 心底ドン引きした目を店長に向けられる尾方。だがこの尾方なんと慣れたものなのである。

「そうだよ。昔やっかいになってた職場の店長の隠し子...だけどね」

「そう、昔厄介になった職場の店長との隠し子なの...店潰し中年崖下ルーザーさん...」

「昔! お世話になった! 人が! 拾った! 孤児! 俺! 無関係!」

「じゃあ、なんで貴方を捜してるのよ?」

「少し話を聴いてあげたら懐かれちゃって、困ってるんだよおじさんも...」

 守本は少し尾方の目を見るとスッと興味が失せた様に

「...そ」

 と一言いって奥に引っ込んでしまった。

「...あんなに喋る店長初めて見たかも。明日は雨かなぁ?」

 溜息が一層深くなった尾方は本棚の整理にヨロヨロと戻っていく。

「ところで尾方さん」

「うぉっと!?」

 去っていった反対側の本棚の影から守本が再度出てきたものだから尾方は情けない声を挙げる。

「な、なに? 店長? 心臓に悪いんだけど?」

「今日もシフト夕方まででしたが、もう少し長くできません?」

 急に仕事の話になるので尾方は息を整えて答える。

「ごめんね店長。夜は用事が有ってねぇ。ほら、おじさん色男だから、引く手数多でさぁ」

「そうですね。色男です。桑の実の色をしています」

「もういっそどどめ色って言ってくれていいよ!?」

「どどめ色男さん」

「最下級の妖怪とかに居そう...」

「まぁ、分かりました。気が変わったら教えてください」

 そういうと守本はまた本棚の影に消えた。

「はぁ、夜は引く手数多っていうのは本当なのになぁ...」

 一応逆の本棚の影から店長が飛び出してこないか確認した尾方は、フラフラと仕事に戻った。



 バイトが終わり、 店長の手を逃れたオガタを待っていたのは、また少女だった。

「むせる」

「なにがじゃ尾方! やはりこの古本屋におったな! よくよく考えたらごく潰しも尾方っぽいと思っておったぞ!」

「だったらなんで再突撃してこなかったの?」

「そ、それは、あの女店主...なんか怒ったら怖そうだったのじゃ...」

「中々の観察眼...本能的に長寿タイプだねぇ」

「お主なんか喋るのが面倒になっていろんなところから引用してきてないか!」

「君のような勘の良いガキは嫌いだよ」

「ムキー! やっぱり! それぐらいワシでも知っとるわムキー!」

 尾方はまたもご令嬢を怒らせて逃げる算段をつけていた。というか既に回れ右をして裏路地に走り去っていた。

「待て尾方ぁ! 今度とゆう今度は逃がさんぞ!」

 流石に、本日何度目か分からないほどの目を盗んでの逃走。ご令嬢も反応が早くなっており、裏路地に追走を仕掛けてきた。

「速さが足りない!」

「いい加減にせい!」

 少女をおちょくりながら走るおっさん。存外すごく元気である。

 しかし正直、尾方も追いかけられるのは想定外であった。この先は、尾方のサボりスポット。つまり行き止まりである。流石の尾方もここから少女を撒くルートは知らない。

 しかし、先に行き止まりに着いた尾方は、落ち着いた様子で足を止める。

 そう、この男は組織でも指折りの諦めの悪さが売りの一般戦闘員。まだ策があるのだ。

 こなれた様子で悠々と準備をする尾方巻彦。そこには大人の貫禄、余裕が漂っていた。

 そこへ。

「追い詰めたぞ! 尾方巻彦! そこは行き止まりであろう!」

 最後の曲がり角を曲がり、姫子が追いついてきた。しかし姫子は、その光景に言葉を失ってしまう。そう、これが尾方巻彦、大人の一発逆転の天計。

「もう勘弁してください!!!!!!」

 土下座である。

 正直、地の文である私も形式破りのドン引きである。少女に追いかけ回され、逃げに逃げた中年フリーターの決死の土下座なんて誰も見たくない。

 見たくない。

「.........」

 暫く唖然としていた私と姫子であったが、ご令嬢の方が動く

「や、やめよ尾方。ワシこそ追い掛け回して悪かったの...」

 訂正しよう。

 少女に追いかけ回され、逃げに逃げた中年フリーターの決死の土下座を見て、少女に気を使われる男なんて誰も見たくない。

 見たくない。

「じゃ、じゃあ! 勘弁してくれるの?」

 おい、嬉しそうにするんじゃない駄目ダメ中年。

「そ、そうじゃのう。最後に一つだけ話を聴いてくれたら今日は諦めるかの...」

「うん、聴く聴く、競馬のラジオにイヤフォン繋ぐからちょっと待ってね」

「聴く気全くないじゃろ尾方ー!」

 もうコントを見せられてる気持ちにしかならない。私が見てるんだからもう少し頑張って欲しい。色々。

「わかったわかった。オジサンの負け。聴こうか、なんの話?」

 やっと観念した尾方は耳を傾ける。

 ハァ、と溜息をついた姫子はキッと尾方に目線を向ける。

「お主の話じゃ。尾方巻彦」

 少女の声色が変わる。

「おじじ様は、よくお前の話をしておった。一般戦闘員に納まる奴ではないと。ワシは尾方をもっと重用してやりたいが、本人が断る。謙虚な奴だと。そして、もしもの時は、やつが組織を背負うことも出来る器があるだろうとも。だから、だから私・は、尾方巻彦が生きていると聴いたとき...嬉しかったのじゃ。彼の者とであれば、たった二人でも組織を復興出来るかも知れないと。本当に本当にそう思ったのじゃ...なのに...うぅ」

 最後まで話せずに泣き出してしまう姫子。さっきとはうって変わって真剣な眼差しで話を聴いていた尾方巻彦は、これまた悲しそうに答える。

「ありがとうね、姫子ちゃん。そうだったんだね。オジサンにそこまで期待してくれていたんだね。オヤジの話も聴けてよかった、そうな風に想われてるなんて露にも思わなかった。でも...でもやっぱりその期待はオジサンには重すぎるよ。だってオジサンは...既に一度...」

「大丈夫じゃ! 尾方であれば! 【メメント・モリ】を!」

 その時、

「いま? なんつったぁ?」

 少女の後ろからおぞましい声が割って入ってくる。

 そして割って入ってくるのは声だけではなかった、同時に鋭利な刃物が少女に向って振り下ろされていた。

「――なにやってんのぉ!?」

 咄嗟に姫子と刃物の間に入った尾方は、当然刃物に、深々と切り裂かれた。

 返り血がその凶暴な乱入者を赤々と染める。その姿に姫子は一つの単語を思い出した。

「Return blood」である。


「......ッッ......お...が...?」

 少女にはなにが起こったかもわからない。一瞬であった。言葉をうまく発することも出来ない。

「ああ? 見ればわかるだろ? 死んでんだよ?」

 血だらけのソレは少女に嗤いかける。男の姿は異様であった。

 白いワイシャツにネクタイをつけており一見、真面目そうな印象を受けるが、ワイシャツの丈は異様に大きく、ボサボサの金髪、凶悪な目つき、返り血の鮮血が、ソレがまともなモノでないことを知らせていた。

「聞き間違いじゃなければメメント・モリっつったよなぁ? いや、聴こえてたよ? 聴いてたんだよ? 俺はその関係者は、ぶっ殺すって決めてるんだ...ヒヒッハハハッ」

 心底楽しそうにソレは笑っている。

「お、お主、こ、ここは、ひっ、非戦闘地区じゃぞ? あ、っ、悪魔か? Return blood(返り血)なのか? なんでメメント・モリを? お、尾方を、は、...し? 死...?」

 震える声で少女は疑問を並べる。

「あ゛あ゛!? 五月蠅ぇよガキ! 俺ァ天使! 快血かいけつの天使、血渋木 暢ちしぶき のぼるだ! あー? でも? 確かに? そういえばここじゃ殺しも駄目だし、殺し合う前は、お互いに名乗るのがベターだったっけ? まぁいいや、メメント・モリだろコイツ。メメント・モリは問答無用、それが俺のベターだしなぁ? 分かる? 最善よ?」

 血が滴ってきても閉じようともしない眼で姫子を見る血濡れの天使。

「(て、天使?ということはこいつは「返り血」ではない...? メメント・モリをなぜ...? ...お、尾方! 尾方!)」

 目の焦点が合わない。堪らず俯く姫子だったが、血にまみれた天使は視線を外さない。

 縋る様な気持ちで尾方に目を移すがピクリとも動かない。

 もう涙で前も見えない状況だった。心臓の音が脳を揺らすほど鳴っている。

「でぇ? お前はァ? メメント・モリの? なに? なにかなの? やだなぁ、子供を捌くのなんてさぁ? いや、裁くネ? 俺、正義の使徒だからさぁ?」

 少女は恐怖で呼吸も出来ない。尾方の血溜まりをピチャピチャと踏みつけながら赤い足跡が近づいてくる。

「ハッ、ハァッ、ハァ」

 震える足で半歩下がる姫子であったが恐怖でそれ以上下がれない。近づいた天使は手にもった血に濡れたトマホークを振りかぶる。心底楽しそうな顔でそれを外さない距離で振りかぶる。

 その時、

「わ、私は、違う! メメント・モリとは...関係ない! この男が、急に話しかけてきたので! それで...!」

 必死に目に涙を浮かべて弁解する少女。

「...助けてください!」

 その様子に血だらけの天使は、少し考え、心底面白くなさそうに、手を下ろす。

「んだよ、そうか。あー、面白くねぇ。怪我? ねぇか? ねぇな? じゃあな?」

 熱が一気に冷めたように背中を向けて歩き出す。少女は糸が解けたようにその場に崩れ落ちた。

「ハァッ...ハッ...ハァ...」

 まだうまく呼吸が出来ない。助かったのか? そんな安堵を心に浮かべるより早く。その場を去る血渋木が大きな声で不満を漏らす。

「しっかし、本当に面白くねぇ。折角逢えたメメント・モリの生き残りはクソ雑魚だしよぉ。これで終わりかよメメント・モリ? 本当ちっぽけな無能集団! 勝手に滅びて当然だ! ボスもボスなら、このクソ雑魚もクソ雑魚だ。ダメな組織には駄目な奴しか集まらねぇ。 正しくねぇ上に弱ェなんて無いも一緒じゃねぇか。あー、イライラする。ムカムカする。誰でもいいからブチ殺してぇ......あ」

 悪態をつく天使は思い出したように振り返る。それは笑顔でであった。

「もう、お前でいいや。正しさの為に...死んでくれねぇ?」

 しかし、振り返った血渋木が見たのは、先ほどとは大きく違い、鋭く、強い眼差しで自分を睨みつける少女の姿であった。

「なんだぁ、その目は?」

「......と...」

「ああ?」

「とでも! 言うと思ったか! この血腐れ天使が! ワシの名前は悪道姫子! メメント・モリが長! 【悪道総師】が孫娘! これより独りでもメメント・モリ、それを引き継ぐ! 悪の姫君であるぞ! 貴様のメメント・モリへの! おじじ様への! 尾方への! 数々の暴言もはや許しがたし! そこに直れ愚か者! ワシが...ッ...ワシが直々に鉄槌を下してやろう...ッッ!」

 さっきまでとは別人である。目に涙を蓄えながらではあるが、足が震えながらではあるが、彼女は、宣戦を。圧倒的に強く、立場的に正しく、無心なほどに無慈悲な、血が滴る人殺しに。布告してみせた。

 それを受けた人殺しは、一瞬面食らっていた様子だったが、心底楽しそうに笑いに嗤う。

「ハッ、ハハッ!! ハハハハッッ!! あーあ、面白ぇ! どっち死ぬにしても死に方があるだろうによう? なぁ?」

 再び近づく血の足跡。だが姫子は、震える足で半歩前に出てみせた。拳を握り締めながら。少女は前を見る。そして、再び天使が笑う。

「はぁっはは、またさっきみたいに泣いて許しを請うまで殺さずに切り刻んでやるよ」

 血まみれの天使が再びトマホークを振り上げた。姫子はそれでもグッと目を開き、前を睨みつける。そして刃が少女を切り裂こうと振り下ろされた。

その瞬間

「いや油断しすぎ? 素人さん?」

 何者かが天使の足を払いのけ、落ちてきた顔を殴り飛ばした。

「ぶはっ...!?」

 その衝撃に天使が悶絶しながら転がる。刃物と姫子の間に咄嗟に割って入る影。

 これはまた、尾方巻彦で間違いはなかった。



「......ッッ......お...が...?」

 少女にはなにが起こったかもわからない。一瞬であった。言葉をうまく発することも出来ない。

「ん? 見ればわかるでしょ? 生きてるよん」

 血だらけのそれは、少女に笑いかける。

「なんだぁ、てめぇ!? 死んでただろうが! 俺が見間違えるか! 死んでただろうが!」

 ヨロヨロと立ち上がる血渋木が声を荒げる。それを一瞥した尾方はケロっとした顔で答える。

「あー、自己紹介がまだだったかなぁ。おじさんは、屈折の悪魔、尾方巻彦っていう、人生自体が敗者復活戦の底辺悪魔。明日には忘れてもらえると嬉しいなぁ」


【尾方巻彦】

 悪魔組織「メメント・モリ」一般戦闘員。

 権能けんのう「七転八倒トライアンドエラー」

自身が【敗北】した際に限り、五体満足で復活する。

 この能力を与えた際、尾方巻彦は言った。

「あー、良い能力っすね? 読みが誤用英語な辺りとか。自分にピッタリっていうか。まぁ、ども」

 私はなんて運の無い男なんだと思った。よりにもよってこの男にこの力はあまりに...

 しかし、「とーっても、お似合いだよ」とこれも心から思った。




「尾方...尾方ぁ...」

 またボロボロと涙を流して俯いてしまう姫子。

「聴いてたよ、姫子ちゃん。いい激励だった。誰がなんと言おうと君は、新しいメメント・モリの頭領だ。でも一つだけ注意点ね。最後に、自ら鉄槌を下すって言ってたけど、組織のボスがそんなに簡単に前に出ちゃいけない。こんな下っ端の相手なんて、下っ端に任せておけばいいの。おじさんみたいなね。あと泣き顔もよくないなぁ。天使と相対する際、悪魔は不敵に笑うこと。これ、六条だっけ? あれ? これだと注意点二つかなぁ? まぁ、ほら、それでいこうよ、ボス?」

 今まで見せたことがないような、気持ちの良い笑顔を姫子に向けて、尾方は語らう。

 それを受けて悪道姫子は、さらに大粒の涙を零したが、それでも前を向いてニッと笑って見せた。

「いいね」

 尾方は再び血まみれの天使に相対する。

「待っていてくれるなんて、流石は正義の天使様だぁね。SNSで拡散しておこうか?」

「バカ言ってんじゃねぇ。 待つに決まってんだろ? 俺は今最高に機嫌がイイんだ」

 言葉の通り心底嬉しそうに天使は笑う。

「おめぇ、屈折不退くっせつふたいの尾方だろう? 階級詐欺の尾方だろう? メメント・モリの尾方だろう? なぁ、Return blood(返り血)だろうお前? 最高だよ。お前を何回だって殺せるなんて、天使冥利に尽きるってもんだ」

 背中からもう一本のトマホークを取り出し血塗れの天使は微笑む。

「人違イデスネ。おじさんはフリーターの...」

「快血の天使、戒位かいい112軀く、血渋木暢だ。血ィ吹き零せ尾方巻彦ォ!!!」

「人の話は最後まで聴きなさいってお母さんに言われなかったぁ!?」

バシィッッ!!

 間合いを潰すような速度の斬撃を、尾方は起用に手首を掴み受け止める。

「うんぐぅ!? こ、こっちだけ権能バレてるなんてフェアじゃないんじゃない!? その正装の能力教えてよ!」

 力で押し切られ、胸に深々と刃が突き刺された尾方であったが、その衝撃を受け流すように血渋木を投げ飛ばす。

 壁に叩きつけられる血渋木であったが、怯んだ様子もなく立ち上がり叫ぶ

「ああ!? そうかよ!! こいつぁ【蝙蝠こうもり】! 俺が浴びた血の量に比例して俺の力が上がる相棒だァ! つまり、一回斬り殺しても終わりじゃないお前は最高だってことだよ!」

肉を断ち、骨に刃物が引っかかる金属音にも似た音が裏道に響く。

 先ほどより数倍早い斬撃に尾方は対応出来ず深々と刃物が肩を切り裂く。

「尾方ぁ!!」

 姫子が叫ぶが、地面に叩きつけられた尾方の血に塗れた目は、血渋木を離さない。

「ヨッと!」

 反動をバネに腕に力を込め標的の方角へ飛び上がる尾方、そして血渋木の胴の中心を蹴り飛ばす。

「いッッッ!?」

 仰け反り壁に叩きつけられる血渋木。一方、蹴りの反動で後ろに跳んだ尾方はすかさず標的の方に跳躍し間合いへ入る。

 そして脱力した手のひらで思いっきり血渋木の顔の中心を叩いた。

スパァァァァン!!

「いってえぇぇぇ!?」

 顔を抑えて悶絶する血渋木。

 しかし、叩いた手が痛かったのか尾方は追撃もせず、苦い顔で手にフーッフーッと息を吹きかけていた。

 ようやく立て直した血渋木は不可解そうに糾弾する。

「お前! どんな手品だ! お前は悪魔だろうが! 俺と格闘で渡り合えるわけがねぇ!」

 そう、そもそも天使というのは、純粋な身体強化が施されており、通常の人間の数倍の身体能力を持っているのである。

 大して悪魔は、体が作り変えられ特殊な能力こそあるものの。そのほとんどが身体能力は普通の人間と大差がないのだ。

 つまり正面戦闘、フィジカルでの戦闘が行われる際、優位は天使に傾くのである。

 しかし、

「なぁに言ってんの。視界が狭いぞ若人君。どうみても渡り合えてない、おじさん必死よ。実際何回か死んでるし」

手を振ったままで尾形は答える。

「でも必死で縋りつけている理由はあるよ。それはね、どんなに力が強くたって、どんなに便利な道具を持ってたって。体が人間だからなんだよね。どうしても痛い部分は痛いし、構造上曲がらない部分は曲がらないし、急な力の流れには逆らえないし。油断、慢心、疑心に魂胆。おじさんみたいな卑屈な人間の搦め手だったらさぁ。枚挙のいとまがないんだよねぇ」

 この時、尾方はとても悪い顔をしていたが、

「ま、搦めてる間に搦めとられて何回か死んでるけどねぇ」

 またケロッといつもの気の抜けた顔に戻った。

 血飛沫は髪を振り上げてトマホークを打ち鳴らす。

「上等だよ、上等だよお前尾方巻彦ォ!! 自分で死にたくなるまで殺してやるよ!!」

「いいのそれ? 時間かかるよぉ。明日の予定とか台無しになっちゃうよ?」

 血だらけの天使と悪魔は笑い、嗤う。

 かたや回生の敗北者、かたや血浴びの追撃者。

 天使が斬り殺し、悪魔が切って返す。

 それが幾度も繰り返され、闘争は加速していく。

 文字通り血で血を洗う死に塗れた闘争は、世が更けるまで続いた。



「はい、これでオジサンの九十ハ敗と...一勝」

 もはや体から血に塗れていない部分がなくなった尾方巻彦は、倒れた天使を見下ろしながら嘯うそぶく。

「...クソ、が、まだ、おれぁ...! 尾方ァ...! 俺は...俺がァ...!」

「まだそんな元気があるの? すごいなぁ君、おじさんもうヘトヘトだよ」

 こりゃ一勝も怪しいところだなぁと呟き、疲れきった尾方はその場に座り込む。ついでに足で血渋木の顎を蹴って気絶させておいた。

「はぁ、タバコ吸いたい...」

 ヘロヘロの尾方がポケットから箱が無残に切り裂かれたタバコを取り出したその時、

「尾方ぁ!!尾方尾方尾方ぁ!!!」

 取り出したタバコが吹き飛んでいく衝撃。

 ご令嬢のタックルであった。

「お、おぉい、姫子ちゃん。血が付いちゃうよ?」

「尾方! すごいぞ! 尾方! 天使を倒すなど! それに! すごいなぁ尾方は!」

「いだだだだだ! 傷! 傷がね! 残るのよ! 勝ったときは!」

「おおおぉ、すまぬ尾方、大丈夫か? どこが痛むのかの?」

 オロオロと尾方の周りを回る姫子。

「いいや、全身痛みまくりだけど。こんなのいつものだからねぇ。姫子ちゃんこそ大丈夫? 時間かかったねぇ? お腹すいてない?」

 ヘラヘラと尾方はいつもの調子である。

「大丈夫なわけあるか! お主、どれほど心配したと! それに...ワシは...」

 姫子は心底悲しそうに呟く。

「...やはり、おじじ様の跡など継げないのであろうな。偉そうなことを散々言っておいて。その実、恐怖に屈してあんなことを言うとは...情けないところを見せたの...。迷惑をかけた、尾方巻彦。ワシはボス失格じゃ」

 申し訳なさそうに姫子は頭を下げ、俯いてしまう。その頭にポンッと尾方が手を置く。

「それは違うよ姫子ちゃん。あれはあの状況下でも生きようっていう選択だ。諦めないっていう意志だ。それにその後、組織の為に前を向いてくれたよね? 姫子ちゃんは、僕が諦めや、ネガティブな言葉を発っした際には、まずその眼差しを前に向けようとしてくれた。自然に、心から。それは紛れも無いボスの素養さ。僕はね、色々言ってはいたけれども、嬉しかったよ。無意識かも知れないけど。姫子ちゃんにはオヤジの意志がしっかり受け継がれてる。だから、頼むよボス。また夢、観させてくださいよ」

 ヘラヘラではなく、ニコッと笑い。尾方は言う。

 姫子は、大粒の涙を流し、また泣いてしまったが、それはもう悲痛なものではなかった。

 あとまた思わず尾方に抱きついてしまった姫子であったが、尾方は大人なので空気を呼んで渋い顔で痛みを耐え抜いて見せた。



「のう、ワシから質問いいかの尾方?」

 ひとしきり泣きじゃくったお姫様は尾方から離れないまま顔をあげる。

「ん? おじさんに答えられることなら、言ってみて?」

「ワシは先ほどの戦いを見た、凄い実力じゃ、なぜ尾方は一般戦闘員だったのかの?」

「いや、本当に見てた? 負けまくりだったじゃない? ...まぁ、辞退だね。おじさん人の上とか面倒でさぁ」

「あの天使にReturn blood(返り血)と言われておったがあれは?」

「んー、不本意ながらおじさんそう言われてるみたい。全部自分の血なんだけどなぁ」

「そうだったのか! 尾方が通り悪魔? い、一体、何故そんなことを?」

「あー...言わなきゃだめ? 年甲斐も無いし、恥ずかしいんだけどなぁ...」

 ボリボリと頭をかいて苦い顔をする尾方だったが、

「教えてくれ! ワシは尾方のことが知りたい!」

 姫子に真っ直ぐに見つめられて観念したようにうなだれた。

「その、ね、おじさんね...組織を壊滅させた犯人を捜してたのよね。組織の復興そっちのけで、復讐選んじゃって、許せなくってさぁ...。最初は組織の復興も復讐もどっちもやっちゃるって頑張ってたんだけど...日が経つ程に、難しくなって、苦しくなって、復興を諦めたんだ、ごめんねぇ」

 なんともバツの悪そうに尾方は打ち明ける。先ほどの鬼気迫る戦闘とは打って変わって少女の顔色を伺う中年悪魔。

 しかし、

「すごいぞ尾方! お主は何一つ諦めてはおらなんだな!」

 パァッと少女が笑顔になるものだから目が点になる。

「へ?」

「復興じゃ! 復讐だって立派な復興の第一歩じゃ! 心の復興! 体制の復興! どちらも成してこその完全復活である! 誇ってくれ尾方! 壊滅なものか! あの日からずっと! メメント・モリは続いておったのじゃ! お主の手によって! お主はあの日からずっと! 今まで! メメント・モリを護ってくれていたのじゃ!」

 輝くその眼がやはりその言葉に嘘偽りが無いことを教えてくれる。

「―――――――」

 対する尾方は、目を丸くして数秒固まっていたが、

「ハァ、オジサンさ。やっと諦める気楽さを手に入れたと思ってたばっかりだったんだよ?」

 その声は少しだけ震えていた。そして尾方は立ち上がるとポンッと姫子の頭に手のひらを置いて空を見上げる。

「尾方...?」

「俺さ、すっっっっごい諦め悪いの。姫子ちゃん。それに対してまた奮い立たせるような事言って、後悔するよ多分?」

「後悔などするものか! お主の復讐! 組織の復興! ワシだってどちらも諦めぬぞ! 折れずに着いて来られるかのう尾方巻彦?」

「いいね、賭けてみるかい?」

「よいぞ! 尾方が途中で折れぬ方にその日の晩御飯を賭けよう」

「それおじさんが折れなかったら、おじさんの晩御飯が抜きになるってこと? えぇ、嫌だなぁ、折れようかなぁ...」

「晩御飯で揺れるでない! 意思が弱いぞ尾方!!」

 いつもの調子に戻った二人は顔を見合わせて、ひとしきり笑いあった。



「あ、いかんね。早くここ離れないとだ」

 思い出したかのように尾方が突然苦い顔をする。

「うん? どうしたのかの尾方? お腹空いたのかの?」

 お姫様はもう落ち着いたのか、相変わらずノホホンとしている。

「うん、お腹がもう鳴かなくなるぐらいには空いた...じゃなくてね? ここ非戦闘地区だから。天使がやられたとあったら信号が出て、誰か別の天使が来るんだよね」

「そうなのか? でも別に正当防衛であろう?」

「喧嘩両成敗なんだよこの制度。あと非戦闘地区での執行権は天使が持っててさぁ、見つかったらその天使の酌量次第でどうなるか分かんないんだよねぇ」

「なんと非平等な! まぁよい、それなら早くここから離れるぞ尾方!」

 尾方の腕を引っぱる姫子。

「いだだだだだだ!? 歩く! 歩けるからヒメ!」

「そうか!すまぬ!...ん? そのヒメと言うのはなんじゃ?」

「あだ名、駄目かな? 新生メメント・モリの姫君でヒメ。よくない?(呼びやすいし)」

「うむ...うむ! 悪くない! いやむしろ良い! ワシはヒメを大層気に入ったぞ!」

 とヒメがはしゃいで飛び上がっていたその時、

『カランッ...コロンッ...』

 裏路地に足跡が響いてきた。

 それは下駄のような足音。

 二人は顔を見合わせて息を呑む

「いいかい、おじさんが言い包めるからヒメは隠れてるんだ。いいね?」

 ヒメは無言でブンブンと頷く。周りを見渡したヒメは大きなゴミ箱を見つけて、

「決して無理をするでないぞ尾方!」

 そういってゴミ箱の裏で体を丸める。

 尾方は静かに頷いて曲がり角の方をジッと見つめる。

 そして足音がカッと止まる。

 まるで時が止まったかのような静寂、

 その時、

 尾方が見つめる曲がり角から、ヒョコっと顔を出したのは、尾方宅向かいの旅館の若女将。正端清だった。

「キヨちゃん!?」

「尾方さん!?」

 二人は目をパチクリさせる。

「どしたのキヨちゃん? いや、まさかオジサンが帰らなかったから? なにもそこまで...」

 尾方は申し訳なさそうに和服少女に近づく。

「な、なんで尾方さんが...?」

 若女将は酷くうろたえている。

「うん、どしたの?」

「いや! そんな......だ......め...ッッ!」

「キヨちゃん...?」

「来ちゃ駄目!!!」

 若女将が半身になっていて尾方からは見えなかったが、少女は、自分の身の丈ほどの長大な大太刀を持っていた。

 それに尾方が気づいた瞬間。


 『パチン』と刀を納刀する音がして、

尾方は首のない自分の体を見上げていた。

「流石に自分を見上げた経験はおじさんもないなぁ」

 と尾方は言いたかったが。


 口と首はすで離れ離れになっており、虚しく口だけが空気を揺らした。

 薄れ行く意識の中で尾方が聴いたのは、少女の慟哭のような「ごめんなさい」と

 ヒメが叫ぶ自分の名前だった。




第一章「中年ルーザーと復興プリンセス」 END



「次回予告ぅ!!」

「ねぇおじさん首から上しかないんだけど、しなきゃ駄目かな?」

「これはネタばれじゃが今後全ての次回予告にて無傷な尾方は存在せんぞ」

「主人公の辞表ってどこに出せばいいの?」

「サンタさんにでもお願いすればどうじゃ?」

「それ靴下の中になにが入るのかな?」

「生首じゃろ、作者の」

「いま生首ネタやめてくれない?」

「そんなことはどうでもよい! 次回予告じゃ!」

「はいはい、おじさんが泣きっ面に蜂まくります」

「日常じゃのう尾方」

「日常小説だからねこれ」

「中年の日常なんて需要あるのかの?」

「なくても続くから日常なんじゃない?」

「含蓄ある風にみせて思考丸投げしたの尾方」

「次回は、キヨちゃんとJKと老害と残念二枚目と医者が出るよお楽しみに」

「箇条書きじゃの?」

「大人は箇条書きが大好きなの」

「作者は過剰書きが好きじゃの?」

「オジサン大人だからノーコメントで」

「もう話すこともないの?」

「終わろうか、おじさんお腹空いちゃった」

「いま尾方のお腹が空いているだけにの」

「終わろうか」

「「次回」」

第二章『中年リベンジャーと物好きコープ's』



「首だけになった尾方は果たして、顔と体どちらから生え変わるのか! こうご期待じゃ!」

「正解は両方消滅、からの五体復活だよ」

「尾方ぁ!!!」

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