時刻は十七時。もう少し経てばバーとしてドアの表示をオープンに変えなければならない奉日本は周囲を見渡し、準備に怠りはないか確認していた。
「大丈夫そうですね……」
 辺りを見渡し、そう呟くとカウンターの席に座って一息つく。店内の音楽も消している空間は無音が主役で彼の心を落ち着かせる。
 しかし、その空間は長くは続かなかった。騒がしい足音が聞こえたな、と思うとそれはすぐに近くなり、そのままの勢いで店のドアを開けた。
「すみません、高本さん! お邪魔します!」
 その言葉と共に有栖が店の中に入ってきた。奉日本は彼女の登場に驚くことなく、今の勢いならドアの鍵を閉めていたら壊されていたかも、とそんなことを考えていた。
「有栖さん、ランチなら食べましたよ」
「知ってる。まだ呆ける年齢じゃない」
 有栖は息を切らしながら、奉日本の冗談に返答する。彼の記憶では彼女は体力にも自信はあるはずだ。それでも、これだけ肩で息をしているのだから、全力で走ってきたことは想像に容易かった。
「どうしました? そんなに慌てて」
「高本さんに聞きたいことがあって……それと、お願いしたいことも」
 奉日本は店内の壁に掛けてある時計を見た。バーの開店まで、あと三十分以上はある。そして、有栖の話が彼の予想していることであれば、聞くのも答えるのも時間としては充分だった。
「とりあえず、話を聞きましょうか」
 奉日本はそう言うと、有栖をカウンター席に座るように促した。