『第三段落の三行目!』


 送ってくれた友人をチラリと見ると、右手にピースサイン。続けて彼女から送られてきたメッセージはスタンプ。これは開けないと見られないけれど、多分おはようスタンプだと思っている。


(ありがとう)


 お礼の言葉と欠伸のスタンプで返信する前に音読を済ませる。読めなかったら嫌みの一つでも言われただろう。きちんと続きから読んだことで先生はそれ以上何も言わなかった。再び椅子に座ったときには、もう笑いの声は一つも無くなっていた。


『また遅くまで本読んでたの? この本オススメだよー! 私は映画で観たから読んでないけど』


 笑みが零れ落ちるのをグッと堪える。先生の目が黒板に向けられているのを確認して、返信の文章をフリックで打ち込んだ。


『じゃあ私も映画から手をつけようかな。放課後観てみるよ!』


 私は何日もかけてゆっくりと本を読む方が好きだけれど、映画好きの友達は一刻も早く語りたいだろう。映画を観た後、気に入ったら買って読めばいい。本は直ぐには逃げない。電子書籍なら売り切れる心配もない。


(あと十分……)


 性格には八分か、七分か。授業が終わるまで何をしようか。

 机の上にあるプリントに目を向けた。第一希望の欄に「大学進学」と走り書きする。

 その後はタブレットを持って電子書籍のリーダーを開けた。読みかけの本の続きでも読んでいよう。

 そう思ったのに。


(いいの。あれで提出しよう)


 適当に書いた進路が頭に引っ掛かかっている。本の内容に集中出来なかった。

 将来の夢なんて、考えたところで意味はないのに。