「今日の昼休みの中盤で私、クラスの子に
”七香さん、誰か呼んでるよ?”って言われてさ、最初は気のせいだと思ったんだけど気のせいじゃなくて・・・。
でクラスから出たら緑ちゃんがいて、
私、緑ちゃんに呼ばれたのかもしれないと思ったけど、その私の考えは外れていてほしいって願って、
『私、人に呼ばれたから・・・』
と言ったの。
そしたら、
『ばっかじゃないの!?
・・・というかもとからバカだったね。
呼んだのは私たちだよ?』
みたいに言われて。
それを言われたのと同時に、
『そうだぞ!』
『呼んだのは俺たちだよ?』
とグループの緑ちゃん以外の人が一斉に周りに来てさ、つれていかれたんだ。
運が悪くて先生は誰もいないしみんなは見て見ぬふりして・・・
で、よくわからない真っ暗で人のいない場所にきて、
『どこだと思う?
ま、お前に分かるはずがないか。
ここはな、お前と話をするためにわざわざ、探してあげた場所なんだよ?
感謝しないとだな。
ハハハハハ』
っていう風に言われて、その後、
『優笑、お前よくも先生にいじめられたことがあるなんてことを言ってくれたな!
そのせいで、ほんと俺たちが怒られたんじゃないか!
どうしていったんだよ。あ?
こたえろ。』
って、聞いたことがないくらいの低い声でいわれて。
私はすぐに”相当怒ってるな・・・”って感じ取ったの。
でも、多分ここまで怒らせると何を私がいってもどうなるか予想がついて、
”だったら・・・だったら、せっかくなんだから私の本音ぶつけてみよう。”
って考えて、私、勢い任せで思いっきり言い返したんだ。
『は・・・?
そっちがおかしいんじゃないの?
私は何をしたっていうの?
あなたたちをいじめた・・・?
私は小学生の頃たまたまお前らが私の悪口言っているところを聞いて、それからは関わらないように過ごしてたのにそんなことするわけないじゃん。』
ってね。
私は自分の口の悪さに思わず驚いたけど、私の口は止まらなくて。
『ねぇ?
聞いてる?
バカなのはそっちだよ!
作り話を先生や生徒に広め、みんなして私をいじめて何が楽しいの?
何の意味があるの?
というか、そもそも私なんかした?
なんか、お前らは私の性格が気に食わなかったようだけど、そんなん私の個性じゃん。
私は悪気があってやってるわけじゃないし!』
っていっちゃったんだ。
そこから先はもう想像が着くかもだけど、散々いろいろ言われて、叩かれて・・・で、今の状況なんだ。
あの時、緑ちゃんたちは
『そっちの勝手な理屈なんて知らねぇよ!』
とか、
『ほんとに、そんなおかしいことが言えるほど優笑っておかしいんだね。』
とかっていって、とにかく私の言ったことを認めなかったから私、
”緑ちゃんたちには何を言っても通じなさそうだな”って思った。
しかも、最後に
『緑も言ってたように、
”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
わかったね?』
ってグループの人にいわれて・・・。
今回はもう、どうしようのないのかな・・・。」
私は心から漏れてしまった言葉にハッっとした。
『何を言ってるんだろう。最後まで向き合って解決するって決めたのに・・・。』
そう思っていると広瀬君が口を開いた。
「そう、だったんだね。
俺、そんなことが起きてるときに駆けつけられなくてごめん。
”力になるとか言っておきながら!”って感じだよね。
・・・・・・。」
そういって、また朝のように頭を抱えた。
「広瀬、くん?」
「ん?」
「いや、朝からそうやって頭抱えてたからさ、大丈夫かなって思って・・・。」
「あ、あー、そ、そうだね。
心配かけて、ごめん。
頭がちょっと痛くて、さ、ハハハ・・・。」
見るからに様子が変だ。
「なにか、あった?」
「え?ううん。何もないよ?
それより、これからどうする?
教室、戻る?」
―――――明らかにはぐらかされた。
絶対何か隠してる。
私はどうにかして広瀬君の力になりたかった。
だから、
「広瀬君、自分の心の内側のことを詳しく聞かれるのは嫌なこと私もよくわかるんだけど、今だけ許して・・・。
あのさ、広瀬君本当は何かあるんじゃない?
さっき私に聞かれて答える時、明らかに変だった・・・。
私、力になりたいんだ。
だから、話せそうだったら話してほしい。」
そういった。
「優笑・・・。」
広瀬君は下を向いてしまった。
『私、やっぱり言わない方が良かったかな・・・、』
今そう思っても遅いのに、私はそう思ってしまった。
すると、
「心配かけてごめん。
優笑の思ってる通りだよ。
本当はなにかある。
でも、優笑に言う自信がなかった・・・。
怖かった・・・。
だから言えなかった。ごめん。」
「そっか、無理に聞いてごめん。」
「ううん。大丈夫。
俺も話さないといけないとは思ってたから・・・今話しちゃってもいい、かな?」
「うん。いいよ。」
「ありがとう。
優笑にはいってないけど、俺いまお母さんがいないんだ。」
「えっ・・・。」
言葉を挟んだらいけないところなのについ口から出てしまった。
だって、広瀬君の話は私がいままで話していたことよりもはるかに重い話で、辛い話なんだってさっき聞いた一言でわかったから。
「俺のお母さん、ちょうど一年前くらいに死んじゃったんだ。
自殺・・・、でさ。
それでお父さんと俺はしばらく抜け殻みたいになって、ほとんど何も食べないで過ごしてたんだ。
だけど、ある時急にお父さんが
『ここにいると思い出してしまう。
だから、全く違うところに行こう。』
っていって遠く離れたこの県のこの場所に引っ越したんだ。
お母さんが自殺した理由は周りからの嫌がらせというか、言葉というか・・・そんな感じの理由みたいなんだよね。
なんか、職場の人から、
”仕事がうまくできてないくせに・・・”とか、”あなたじゃなくて、もっと仕事ができる人を呼びたいな”とかって言われてたらしく、それに耐えられなくなって・・・。
ってことがお母さんの部屋に置いてあった紙に書かれてたってお父さんが言ってた。
それでもお母さんは何回も、”仕事ができるようになろう”っていって努力してたんだ。
だけど、事態は一向に良くならなくて、だんだん心が傷ついて行っちゃったんだって。
そのお母さんと今の優笑がさ、なんか重なって見えちゃって・・・。
もう、目の前の人とか身近な人が死んでいなくなってほしくなかったから、一時優笑に
『もう頑張っても難しいかもしれないから、いっそのこと思いっきりキャラを変えるとか、別室登校にするとかしてみたら?』
って言おうとしたことがあった。
でも、
”優笑なら・・・優笑に俺がついてしっかりサポートしてあげれば乗り越えて、明るい未来を作っていくかもしれない”
って思って、他にも
”俺には止める権利なんてないな”とも思って、止められなかった。
だけど、やっぱりどうしても今みたいに辛いことを吹っ切ろうとして、気持ちを切り替えてまたスタートをきった優笑がまた次嫌なこと、傷つくようなことをされたら今度こそ本当にいなくなっちゃうんじゃないかと思って心配でたまらなかった。
で、俺はずっと考えてたんだ。
”俺のお母さんの話をして、優笑に
『頑張ったのに傷つくこともある。
だけど、そうなったときはまず自分で何かする前に俺に言って。』
みたいに言おうかなって。
でも、よく考えてみたら、俺にその話をされるとまた考えこんじゃうんじゃないかって思って話せなくなったんだ。
―――――優笑。
俺は優笑が頑張っていることについて否定はしない。
だけど、頼むから俺のお母さんのようになってほしくない。
俺の身近な人がいなくなったりしないでほしい。
だから、本当に何かあったら遠慮しないで、どんな時でも話して。」
話を聞き終わって、私は情報を整理するのに時間がかかった。
だって本当にびっくりしたから。
こんなことが広瀬君の身に起きていたなんて想像してなかったから。
そして、頭にようやく情報が整理されると今度は申し訳のない気持ちでいっぱいになった。
『広瀬君は私にいままでたくさん質問されたり、相談に乗ってくれたりしたけれども、本当はどうだったんだろう。
・・・きっと、相当苦しかったんだろう。
なのに私は、なにも知らず話してしまった。
しかも、私はついこの間広瀬君のお母さんと同じ終わり方をしようとした。
広瀬君があの時『すごく心配してくれるな』ってただただ思っていたけど、本当はそれだけ心配した理由があったんだ。
”もしあの時広瀬君が来なくてそのまま自殺しちゃってたら、今頃広瀬君はどれだけ落ち込んでいるのかな・・・”そう考えただけで辛くなる。
だってもし私のお母さんがなくなって、苦しくてそれで引っ越してきて・・・。
そこで知り合った友達が自殺したって聞いたり、目の前で死んでいくのを見てしまったら、私、立ち直れる自信がない。
だから本当にあの時死ななくてよかったと思った。
「そうだったんだね・・・。
私、そんなことも知らずに自分勝手に広瀬君を振り回しちゃててごめん。
私が死のうとした時も、絶対怖かったよね。
私だったら、
”私と知り合いの人は誰かしら苦しんでしまっているのかもしれない。
もしかしたらまた死んでしまう人が出てくるかもしれない”
って考えて相当怖かったと思う。
だから、本当にごめん。
でも・・・、でも!
こんなこと聞きたくないかもだけど、私はこのまま頑張っていろんな問題を乗り切っていく。」
「え・・・。」
「広瀬君の気持ちは十分わかった。
でも、私はもう逃げたくないの。
強くなりたい。変わりたい。
だから、このまま頑張る。
ただ、約束する。
なにがあっても死んだりしない。
必ず広瀬君に言う。
それに・・・これは私の勝手なことなんだけど、私のこの家族との問題と緑ちゃんたちとの問題をしっかり解決させて、
『私の今までの時とか広瀬君のお母さんのようにうまくいかない人もいるかもしれないけど、絶対にいつかは成功するんだよ』って広瀬君に言いたい。
そうすれば、なにか変わると思うんだ。
どう・・・かな。」
「俺はやっぱりまだお母さんのことがあったから、はっきり”賛成!”って言うことは難しいけど、
確かに優笑は成功させられると思う。
それに、優笑は今さっき
”約束する。なにがあっても死んだりしない。必ず広瀬君に言う。”
って言ってくれたから少しだけど安心した。
あと・・・」
「あと・・・?」
「たとえこういう感じで優笑に賛成できてなくても、絶対俺がついてるから、一人じゃないしな!
あ、ちょっと今俺が言ったこと、つじつまが合わないかも。
えっと、つまりは”俺はとにかく優笑の味方だよ”ってことかな。」
「たとえ、はっきり”賛成!”って言えなくても?」
「そそ!俺がたとえ優笑に賛成してなくても一応優笑についてるよってこと。
だから、一人じゃない優笑はもう大丈夫だよ。」
「そっか。ありがとう。
私、頑張る。
今はとりあえず緑ちゃんたちのことを先に乗り越えようと思う。
だから、よろしくお願いします。」
「おう!俺も案どんどん出せるように頑張るな!」
「ありがとう!」
そういって私たちはそのまま図書室に残り、緑ちゃんたちのことを解決するにはどうすればいいのか考えることにした。
「―――――俺さ、思ったんだけど、言ってもいい?」
「うん。」
「あの、証拠動画・・・みたいなのを先生に見せるっていうのはどうかな・・・?」
「あー、いいね。
でもその証拠動画はどうするの?」
「・・・・・・!
たし、かに。
んー。」
広瀬君は考え込んでしまった。
私も一緒に考える。
癖でつい下に目線が言ってしまう。
すると、痣のできた自分の皮膚が目に映った。
「あ・・・!」
「なんか思いついたのか?」
「え、あ、いや、思いついた・・・けど。
ちょっと怖い・・・。」
「どういうこと・・・?
優笑が思いついた方法ってどんなの?」
「えっと、また私が緑ちゃんたちにいじめられて、それを広瀬君に撮ってもらうっていう・・・方法。」
「んー。確かに怖いな。
俺も目の前でいじめられてる人を見ながら撮り続けるのは無理そうだな・・・。」
「そっか・・・。
まあ、そうだよね。
私も怖いし。」
「うん。」
そして沈黙が流れた。
すると急に
「あ・・・!」
と広瀬君がさっきに私のように声を上げた。
と思ったら私に向かって、
「やっぱりさっきの方法でやろ!」
と言い出した。
「え・・・?」
それってつまり、また叩かれるってことか。
私が黙っていると、
「あ、ごめん。言い方がまずかったかも。
あの、俺が考えたのは、―――――。」
と、いろいろ話してくれた。
内容はこんな感じだった。
まず、今回最後に言われた、
『緑も言ってたように、”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
わかったね?』
という言葉を利用して、わざと先生に”また、緑ちゃんたちのグループにいじめられました”といって、私のことを呼び出してもらう。
そして、つれていかれている私の後ろからばれないように先生と広瀬君でついていき、私に緑ちゃんたちが悪い言葉を言ったり叩かれたりしたところを先生にしっかり見てもらったら広瀬君がすぐに先生と登場する・・・。
という流れだった。
「こんな感じだったら、良いんじゃないかなって。
優笑が少しだけ傷つくのは確かだから、ごめん。
でも、これ以上思いつきそうになかったから口に出したんだ。
優笑はどう思う??」
「・・・・・・。
私は・・・。
私は、いい、よ。」
そう答えた。
だって、ここで頑張らないとどうにもならないと思ったし、第一、先生が直接見てくれるなら信じてもらえる確率が一番高い。
だから、私は”いいよ”と言った。
「本当に、いいの?」
「うん。大丈夫。
ちょっとくらいなら耐えられるし、広瀬君が見てくれているなら絶対大丈夫だって思えるから。
だから、それ、やってみよ!」
「そっか・・・。
ありがとう!
それで、頑張って先生に信じてもらおう!」
「だね!
今度こそ成功させよう!」
「おう!」
そういって、私たちは決意を固めた。
―――――キーンコーンカーンコーン・・・。
部活動開始のチャイムが鳴った。
私は真っ先に活動場所に行った。
すると・・・、緑ちゃんたちに遭遇してしまった。
「優笑・・・!?」
どうやら、私はけがのせいで帰ったと思っていたらしい。
私を見た瞬間、あからさまに驚きの声を上げ、みんなして目を丸くして固まっていた。
私は、あまり次の作戦までは関わりたくなかったため何も言わず通り過ぎた。
すると、うしろからグループの一人が
「優笑・・・!」
と今にもつかみかかってきそうなぐらいの勢いで追いかけてきた。
だけど、
「だめ・・・。
ここで変なことしたら誰かに先生に言われるよ。
だからやめて。」
そう緑ちゃんに言われると、その人はピタリと動きを止め”しぶしぶ・・・”と言った感じで戻っていった。
・・・・・・本当に緑ちゃんは悪い人だ。
人目に付くところでは普通に過ごして、誰にも見えないところでは思いっきり悪意をはたらかせる。
私は、緑ちゃんたちがいないことを確認し
「はぁー。」
と息をはいた。
すると広瀬君が
「優笑ー!」
といってきた。
「広瀬君・・・!
どうしたの?」
「いや、たまたま俺も活動場所に行こうとして通ったら、緑ちゃんたちと一緒にいるところを見てさ・・・。」
「そうだったんだ。
でも、少し絡まれただけだから大丈夫!
なにもされなかったし。」
「そっか、よかった。」
「うん。やっぱり緑ちゃんたちは悪い人だってわかった。」
「どうして・・・?
やっぱり何かあったの?」
「何もなかったって言ったらうそになるけど、ほんとに大したことじゃないよ。
ただそこで遭遇しちゃったの。
でも私は、無視して通りすぐたんだよね。
そしたら、グループの一人が追いかけてきたの。
だけど緑ちゃんが、”人目があるところでそんなことをしたらいけない。”みたいなことを言って、そのままどっかに行っちゃったってことがあっただけ。」
「そうだったんだ。」
「うん。」
そうして、その話は終わった。
部活を終えて今日も広瀬君と帰る。
すると、
「優笑、それでなんだけど、あの作戦いつどうやって実行する?」
と広瀬君に言われた。
私は考えてもなかったから答えられず、
「いつにしよっか・・・。」
と、あやふやな感じで返してしまった。
「というか、俺授業中考えたんだ。
優笑が”また、緑ちゃんたちのグループにいじめられました”みたいに言ったことをさ、どうやって緑ちゃんたちに伝えるかを。
で、思いついたのが先生にまず、
『優笑がこの間また緑ちゃんたちにいじめられて、すごく痣ができちゃったんです。』
っていう。
だけど先生はあまり信用してくれないと思うから、緑ちゃんたちに
『優笑がまた、緑ちゃんたちのグループにいじめられましたって言ったんだが、本当か?』
って聞いてもらう。
でも多分その時、緑ちゃんたちは『そんなことやってないです。』って否定すると思うんだ。
それでそのあと緑ちゃんたちにまた優笑を呼び出してもらって、そのことを俺が先生に言って作戦決行・・・。
みたいなのなんだ。
どう・・?」
「うん。私はいいと思う。
でも、先生にいつ話すの?
あと、私が呼び出されたとき先生がいなかったらどうするの?」
「えっと・・・んー。」
広瀬君は考えだしてしまった。
と思ったら、
「先生にはあらかじめ
”また呼び出されるかもしれないので、しばらくの間昼休みは教室にいてもらう事ってできますか?”
って聞くのはどうかな?
先生に話すのは、お互い部活がない日の放課後とか?」
と言ってきた。
本当にどうしたらそんなにすぐ案が思いつくのだろう・・・。
私は心底不思議に思いつつも、
「それならいいかもね。」
と返した。
でも、必ずうまくいくかなんてわからない。
もしかしたら、昼休みじゃないときに呼び出されるかもしれないし、そもそも呼び出さないで何かあった時にタイミングを見て急に攻撃してくるかもしれない。
私はそう考えて、やっぱり不安になってしまった。
それを正直に広瀬君に伝えてみた。
「私さ、正直うまくいくか心配なんだよね。
だって、必ずうまくいくかなんてわからないから。
それに、私たちが思ってもないときに攻撃してくるかもしれないから。
そう考えると、怖くって・・・。」
そして、広瀬君を見上げてみた。
広瀬君も
「まあ、そうだよね。
俺も実は少し不安なんだ。
これで失敗したら俺もどうすればいいかわからなくなるかもしれないって思ったから。
だけど、思ったんだ。
できないかもしれないって思ってたら本当にできないかもしれない。
でも、
”俺たちなら絶対に大丈夫。絶対成功させられる。”
って思ってたらきっと作戦通りじゃなくてもパッといいことが浮かんだりして乗り越えて、成功につなげられるかもしれないじゃん?
だから、怖がらないで”絶対に成功させられる”ってことだけを考えようってね。」
「そっか・・・。」
私は思った。
―――――確かにそうだ。
きっとうまく予定通りに進まないと慌ててしまうけど、”絶対に成功させるんだ”って思っていたらきっとその思いのおかげでいい考えが浮かぶかもしれないって。
そう素直に思えた。
すると、「それに・・・」と広瀬君が言葉をつづけた。
「俺はなんでお母さんのことに気づいてあげられなかったんだろうって思ってた。
俺が早く異変に気付いて、お母さんのことを支えてあげていたら何か変わっていたんじゃないかって思ってた。
それで、すごく後悔したんだ。
だから、今回しっかり優笑のことを支えて、成功に導けたら後悔がすべて消えるわけじゃないけど、少しはなんか和らぐというか何というか心の気持ち、自分を責めている気持ちが少なくなって、お母さんのようになってしまっている人を助けられるんだっていって、なにか変わるかもしれないから、何が何でも成功させようって思ったんだ。」
「そうなんだね・・・。」
「おう!
だから今回のことは優笑一人の壁じゃなくって、俺と優笑二人の乗り越えないといけない壁なんだ。」
「そっか・・・!
そうだね!
そしたら改めて、力を合わせてがんばろ!
もう私弱気にならないで成功させることだけを考える!」
「そうだな!
よろしく優笑!」
そういって、解散し家に戻った。
すると「ピコン」とタイミングよくスマホが鳴った。
送り主は広瀬君だった。
【俺、来週の木曜日が部活休みだった!】
【女バレーは休み??】
私はすぐに、今度先生に話す日を決めるのだろう思い急いで予定表を確認した。
「来週の木曜日は・・・!
休みだ!」
そして
【うん!女バレーも休みだったよ!】
と返信した。
するとすぐに
【マジか!よかった!
それじゃ来週の木曜日、先生に話す・・・?】
【うん!話そ!】
【了解。
できるだけ先生と話すときは俺が話を進められるようにするな。
でも、あの緑ちゃんたちにやられた時の状況説明を言うことになったりしたら、その時はよろしくな。】
【分かった!
ありがとう!
よろしくね!】
すると『グット!』と書いているスタンプが返ってきた。
私もそれに対して『ペコ』っと頭を下げている女の子のスタンプを返した。
そしてスマホを閉じ一人静かに
『頑張るぞっ!』
と気合を入れた。
次の日・・・。
私は、緑ちゃんたちに監視されつつ、後はいつものように過ごした。
「今日めっちゃ緑ちゃんたちを見かけるんだけど、優笑大丈夫?」
「うん。多分緑ちゃんたち、私が誰かに”緑ちゃんたちにいじめられました”みたいなことを言っていないか確認するために見てるんだよきっと。
だから多分何にもしてこない。」
「そういうことか。
相変わらずこういうことには敏感だよな。」
「ね。」
そう広瀬君と言葉を交わし、部活に向かう。
今でも、あのうその噂を流されてから同学年のことは部活でも避けられてしまう。
でも、もう前のように”なんで・・・”とかってことは思わないようにしている。
それに、何も知らない先輩が仲良くしてくれるようになって、一人ではないから。
だから何とかやっていけている。
「「―――――ありがとうございました!!」」
そう体育館にお辞儀をし、ミーティングをし、ここ最近の私のルーティーン通りに先輩に
「お疲れ様です!
今日もありがとうございました。
明日もよろしくお願いします。」
といって、すぐに学校を出た。
今日は、女バレの方が早く終わったので男バレの広瀬君は当然いない。
まあ、話すことも大してないので別に大丈夫だけど・・・。
でも、いつの間にかそんなことを考えている自分に驚いた。
家に帰って、宿題をかたずけ、お菓子を食べる。
そして明日の授業の予習をし、ご飯を食べにリビングに向かう。
すると・・・「ピコン」とスマホが鳴った。
『広瀬君・・・かな?
何か話すことあったっけ?』
そう思いながら画面を開き送り主を確認した。
【歩ちゃん メッセージ一件】
「えっ!歩ちゃん・・・!」
思わず声に出てしまった。
そういえばここ最近全く話していない。
私はメッセージを読み、返信するために部屋に引き返した。
そして、内容を確認した。
【優笑ちゃん元気?
最近何の報告もなかったから、大丈夫かなって心配になって連絡しちゃった。
急にごめんね。】
私は内容を読み終え、心配をかけてしまっていたことに罪悪感があった。
『・・・歩ちゃんにもたくさん迷惑かけて、助けてもらったりしてお世話になったのに連絡一つしないで心配かけるとか最低だ。』
そう思い、今までのことを話すため、前回は何のことを話して終わったのか確認した。
最後に話したのは私が学校を休んでしまったときのことだった。
「意外と最近だ・・・」
そう、私にとってはいろいろありすぎてだいぶ前に話したつもりだったけど日にちを確認すると一昨日くらいの話だった。
だけど、心配させてしまったことには変わりない。
そうして私は歩ちゃんに休んだ日の後のことを話した。
【歩ちゃんに心配かけちゃってごめん。
私は大丈夫!元気だよ!
あれからのこと、話すね!
次の日、しっかり学校に行ったんだ。
そしたら、案の定緑ちゃんたちに呼ばれて人のいないところに連れていかれた。
それでいろいろ言われたり、叩かれたりした。
で、昼休み終了のチャイムが鳴ったらさ、
『私たちにいじめられたみたいなことは誰にも言わないでね?
もし言ったら今度は今回よりももっとひどいことになるから。』
みたいに言って教室に戻っていったの。
でも、そのあと保健室に行った私のところに広瀬君がきてくれて、いろいろこの後どうするのか話した。
本当に広瀬君はいい人で、すごく心配してくれるんだ。
でも、逆に緑ちゃんたちは最低な悪い人だってわかった。
緑ちゃんたちに叩かれたりしたのが昼休みのことだったんだけど、そのあとの放課後の部活に行くときたまたま緑ちゃんたちに会っちゃったの。
私は何も言ってないんだけど、グループの一人がなんかこっちに向かってきて何かしようとしてきたんだ。
だけど、緑ちゃんが
『ここは人目に付くからダメ!』
みたいなことを言って、その人を連れてどっかにいちゃったんだ。
最低だと思わない!?
人目に付くところでは何もしていない普通の生徒を装って、で人目のつかない裏では人をたたいたり悪口言ったりって悪魔みたいなことしてるんだよ?
だから、私は改めて悪い人だって思ったの。
っていうことぐらい、かな。】
そうして、送った後に私は肝心なこれからやろうとしている作戦のことを言い忘れたことに気が付きまた文字を打った。
【あ!
それで、広瀬君と次にやろうとしてる作戦のことなんだけど、最後に言われた
『私たちにいじめられたみたいなことは誰にも言わないでね?
もし言ったら今度は今回よりももっとひどいことになるから。』
って言葉を利用して、またいじめてもらって、それを先生に直接見てもらうっていう作戦なんだ。
もちろん、昼休みの最後までやられてたら私も耐えられないから、広瀬君にすぐ止めてもらう事になってるんだけど。
それならさ、直接先生に見てもらうんだから、今度こそあの”私はいじめていなくて、逆に私がいじめられている”ってことを信じてもらえる気がするんだ。
歩ちゃんは・・・どう思う?】
送信ボタンを押すと返信が思ったより早く帰ってきた。
【そっかそっか・・・。
なんか本当に緑ちゃんたちの怖さは人知れないなって感じた。
作戦、私は反対しないけど、気を付けてね?
これでめっちゃケガしちゃったら大変だから。
なんかやばいかもって思ったらすぐにその近くにいる広瀬君呼ぶか、すぐに逃げてね?
あと、もしその作戦が成功したらきっと先生も信じてもらえると思う!
だから、がんばって!
いつそれ実行するの・・・?】
【来週の木曜日にしようって話してる。】
【そっか。約一週間後だね。
頑張って!】
【うん!ありがとう!
歩ちゃんも学校頑張ってね!】
【わかった!
ありがとう!】
そうして、やり取りは終わった。
つい最近までは『味方なんていない・・・。』って思っていたのに人間は何かのきっかけさえつかめば少しずつ変わっていけるんだなと思い、しっかりと光のある未来の方へ進んでいけている気がした。
迎えた木曜日・・・。
「ジリリリリリン・・・ジリリリリリン・・・」
というアラームの音で目を覚ました。
時間は朝の六時半。
昨日は今日のことが心配でよく寝付けなかった。
のろのろと体を起こしてアラームを止める。
すると、メッセージが三件来ていた。
「誰からかな・・・?」
送り主を見てみると歩ちゃんと広瀬君からだった。
歩ちゃんからは、
【優笑!今日作戦実行するんだよね?
頑張ってね!
私、成功するように祈ってる!】
というメッセージで、
広瀬君からは、
【優笑、いよいよ今日だな。
お互い成功させられるようにがんばろ!】
【あと、帰りの会終わったら、教室に残っててくれ。
先生には昨日言っておいた。
そしたら、”前と同じ会議室Aに来てくれ”って言われたから、そのまま一緒に会議室Aに行こう。】
というメッセージだった。
私は歩ちゃんには
【ありがとう!
絶対成功させる!
今日帰ってきたらなるべく早く結果のLAIN送るね。】
と返し、広瀬君には
【うん!がんばろね!
絶対成功させよ!】
【了解!
教室の自席に座ってるね!】
と返した。
実は今日の朝は落ち着かないだろうと思って、昨日の夜に朝ごはん用のスープを作っておいた。
だから今日は遅めに起きたのだ。
髪を結い、朝ごはんを食べるためリビングに向かう。
お母さんと碧唯はもうご飯を食べ始めていた。
ふと、広瀬君のお母さんのことを思い出した。
もし、私のお母さんが今いなかったら・・・
お父さんはほとんど会わないため基本、碧唯と二人きりになるということだ。
私はつい、この間久しぶりにお母さんの作ったスープを飲んで涙を流してしまった。
それが飲めなかったら、あの日、自分と向き合わなかった可能性もなくはない。
あと、この家だったら私がご飯を作っているため、あまり問題はない。
でも広瀬君の家はどうなんだろうか・・・。
私は気になってしまった。
でも、それを本人に聞く勇気はなかった。
だって、深く聞かれたくないこと、他人にずかずかと踏み入られたくない話題は少なからずあるだろう。
だからあまりお母さんのことは聞かない方がいいと思った。
それにもし、広瀬君に聞いてしまい、彼を嫌な思いにさせ嫌われたりしたら、私の未来は一気に黒く光のない方に進んでしまうかもしれない。
だから聞く勇気はなかった。
頭をブンブンと振り、頭からその話を消す。
そして、私も朝ごはんを食べ始めた。
◇
人の溜まっている学校の廊下を通り抜け自分のクラスへと向かう。
その途中で緑ちゃんたちを発見した。
幸い相手には気づかれていないみたいで、のんきにいつものグループでおしゃべりに花を咲かせていた。
そんな彼女たちを私は一瞬だけにらみつけ教室に急いだ。
教室に着くともう広瀬君がいた。
私が席に向かっている時に、私が教室に入ってきたことに広瀬君が気づき、近づいてきた。
そして、
「おはよう優笑!」
と言ってくれた。
私もそれに
「おはよう!」
と笑って返す。
少し前までは作り笑いしかしていなかったから、やっぱり少しずつ前に進めているなとまた感じた。
最近、こんな風に”変われているな”と思うことが増えた。
その一つの気づきが大きな自信につながっていた。
だから本当に嬉しかった。
すると今まで大して意識が向いていなかった周りのクラスメイトに意識が向いた。
みんな私たちの方を向いては友達と話している。
耳を澄ませ、何と言っているのか聞いてみた。
「―――――また空君と七香で話してるよ。」
「ほんとだ。
空君が転入してきたときは話そうともしてなかったし、最初空君が話しかけてきたときは七香怒ってたというか・・・
ほぼ無視してる感じだったもんね。」
「あー。たしかに。
でもほんと最近仲良くなってるよね。」
「それは思う。
どういう風の吹き回し?って感じがするわ。」
「ね。
広瀬君、かっこいいし、仲良くしてくれるから気になってたのに、あんな七香と一緒にいるの見て、ちょっとびっくりしたし引いたー。」
「まじで!?
まあ、でもそうなるよね。」
私はそこまで聞いて、”なんでそうなるんだろうな。”という疑問しか出なかった。
そして、”そんなこと思われていたんだな”という思いが後からこみあげてきた。
でも、広瀬君はどうも思っていないみたいだった。
「優笑?
もしかして周りの声聞いて、驚いてる感じ・・・?
だったらそんなの気にしないでね。
だって、みんな俺がどんな思いを抱えているのかとか、優笑がどんなことをしようとしてるのかとか何にも知らないんだから、しょうがないよ!
無視無視!」
「そっか・・・そうだよね!
私のことをみんな理解してないんだからしょうがないよね!
ありがとう!
気にしないようにするね!」
「おう!
優笑が元気になってよかった。」
「うん!
もう変なこと・・・というかネガティブなこと考えてないから大丈夫!」
「じゃ、その感じを放課後まで続けて、先生と話すときの緊張をどうにか乗り越えてね?」
「分かった!」
「うん。
それじゃな!」
「うん!」
そう言って、広瀬君は去っていった。
冷静になって思ったけど、そういえば先生にいろいろ話して緑ちゃんたちに言いつけてもらうから、早くて明日緑ちゃんたちとぶつかることになる。
だから、もうすぐのことだ。
そう考えると、なんか焦ってきてしまう。
でも、深呼吸をし気持ちを落ち着かせた。
そうして、こんな時だけ時間が過ぎるのは早く、あっという間に放課後になった。
私は言われた通りに自席に座って広瀬君が来るのを待った。
クラスメイトがほとんどいなくなった時、広瀬君は私の方に来た。
「行くか。」
「うん。行こう。」
そうして二人で会議室Aを目指して歩いて行った。
しばらくすると、目的地である会議室Aに到着した。
今日はいつにもましてその会議室の扉が大きく見えた。
だけど、不思議と怖くはなかった。
「大丈夫か?」
広瀬君が心配そうな声色で尋ねてきた。
「うん。平気。」
私がそういうと
「それじゃ、開けるな」
といって「ガラガラガラッ」と勢いよく扉を開けた。
そこには先生がもういた。
「おう、広瀬、七香。
また会いに来てくれて嬉しいよ!
もしかしてまた緑たちの話か・・・?」
「はい。そうです。
今回もその話で来ました。」
そう広瀬君が返してくれた。
「やっぱりそうだったか・・・。
で、今度は何だ?」
「えっと、つい一週間前くらいに優笑がまた緑ちゃんたちにいじめられたんです。
信じられないのであれば、保健室の先生に聞いてみてください。
彼女は痣ができてしまい保健室に行ったから、先生もわかるはずです。」
「そうか・・・。
でも、やっぱり緑たちがやったという証拠がないからな・・・。」
・・・・・・やっぱり先生は信じてくれなかった。
ただ、そこまでは想定の範囲内。
だからまだ攻められる。
「先生、だったら緑ちゃんたちに『”優笑がまた緑ちゃんたちにいじめられた”と言っているんだけど、本当にやったのか?』と聞いてみてはどうでしょうか?
実は保健室に私が向かう前に緑ちゃんたちに、
『もしも、”また緑ちゃんたちにいじめられました。”みたいなことを言ったら今度はもっとひどいことになるからね。』
と言われました。
だからきっと緑ちゃんたちは先生に言われたら『私たちはやっていません。』と否定し、そして、次の日あたりで
私の方に来ると思います。
きっとその時私はまたいじめられると思うので、先生は申し訳ないのですが私たちの教室に来てもらい、広瀬君と一緒に後ろからばれないようについてきてもらえませんか?
多分私がいじめられるところが見れるでしょう。
そうしたら先生も信じられますよね?」
そう一息で言った。
先生は、
「なぜ後ろからついていくのだ?」
と聞いてきた。
すると、広瀬君が
「先生、この間優笑がいじめられた時、緑ちゃんたちは優笑を人のいない場所に連れて行っていじめたんです。
だからきっと今回も人のいない場所に連れていくだろう・・・という予想で言ったのだと思います。
―――――そうだよな・・・?」
「うん」
「そうか・・・」
先生はそう言って考えたあと、
「それなら、まあ・・・」
といってくれた。
でも、先生の気持ちを考えば、そんな風に答える理由がわからなくもない。
だって、先生の立場でありつつも生徒がいじめられているのを見るのは嫌なことだ。
というか、先生としてあまりよくないことだ。
だけど、私たちのことを信じてもらえないのは困る。
私は心の中で先生に、
『今回は先生があまり乗り気でないことをさせてしまってすみません。』
と謝り、口では
「ありがとうございます。」
と感謝の言葉を言った。
広瀬君も
「ありがとうございます。」
と言うと先生は
「はい。
それでは緑たちには明日の放課後あたりに話しますね。
だから、七香が何か言われるとしたら月曜日になる確率が高いけど大丈夫ですか?」
「はい。
大丈夫です。
よろしくお願いします。」
と私は返す。
先生はその言葉を聞くとこっちを見て、
「それでは、このくらいで話は終わりかな?」
といった。
「はい。
先生本当にありがとうございました。
よろしくお願いします。」
「先生、優笑のことよろしくお願いします。」
「はいはい。
それでは今回も速やかに帰りなさいね。」
「「分かりました。」」
そういうと先生は会議室から出ていった。
今日は前と違い、言いたかったことがしっかり自分の口からいうことができてよかった。
だから、私はこの作戦が本当にうまくいくと確信に近いものを感じた。
次の日―――――。
今日は金曜日だ。
私は昨日、家に帰ると速攻で土日の部活の予定を確認した。
理由は、金曜日・・・つまり今日先生があのことを話して、土日に緑ちゃんたちに遭遇するとまずいからだ。
でも、部活の予定は幸運なことに土曜日は休みで日曜日は高校生との合同練習だった。
だから、緑ちゃんたちに合う心配はほとんどの確率出ないため、安心した。
広瀬君も部活のことで、『緑ちゃんたちに会うと危ないと危険だ。』と心配してくれていた。
なので、私は今日広瀬君が学校に来たら言おうと考えていた。
でも・・・・・・。
なぜか広瀬君は学校に来なかった。
不安な気持ちのままいるとたまたま緑ちゃんたちとすれ違った。
何も先生からは聞いていないみたいでなにもされなかったけど、すれ違ったとき『空』という単語が聞こえた。
多分、雲とかがある空のことだと思った。
だけど、もし広瀬君のことだったら・・・と思うと広瀬君のことが心配になってきた。
家に帰り広瀬君からメッセージが来ていないか確認する。
すると、画面には
【メッセージ 二件】
と表示されていた。
私は弾かれたようにスマホを素早く操作し、誰からのメッセージか確認すると・・・
広瀬君からのメッセージだった。
【優笑、今日は学校行けなくてごめん。
俺、昨日すごく根を詰めていた・・・?感じで、家に帰ったらその疲れが急にきて熱出しちゃってさ。
情けないし、カッコ悪いね。
ほんとごめん。
でも、もう熱下がったから大丈夫だよ!
心配しないでね!】
【緑ちゃんたちにはなにもされなかったか?】
ということが送られてきた。
私は「ふう・・・。」と安どの息を吐きだす。
緑ちゃんたちの言っていた『空』という単語は少なくとも広瀬君のことではなかったみたいだ。
【そうだったんだね。
でも、無理はしないで今日と明日はゆっくり休んでね。
その・・・こんなこと言うと私こそ情けないけど、広瀬君が月曜日にいないと私やばいからさ。
だから、本当に安静にしてね。】
【緑ちゃんたちにはなにもされてないよ。
安心して!】
と私はすぐに返信した。
そして―――――
いよいよ月曜日を迎えた。
昨日の夜は不安でしかなかったけど、案外今日起きてみると全然大丈夫だった。
学校に着いた。
『どうか緑ちゃんたちに会いませんように・・・。』
そう心の中で願いながら教室に向かう。
今日は緑ちゃんたちに会わぬよう、いつもよりだいぶ早く学校に来た。
そのおかげか、なんとか会わずに教室に着いた。
あとは広瀬君が来るのを待つだけだ。
本を読んで待っていようと思い数分間、時間をつぶしていた。
すると、広瀬君が
「よっ!
今日は嵐のようになるであろう日だな!
がんばろぜ!」
といってきた。
私は本から顔を上げた。
本に夢中になっていたみたいで、いつの間にかだいぶ人が来ていた。
「おはよう!
うん!
今日は頑張ろうね!」
そういうと、広瀬君は何も言わず笑顔を浮かべて去っていった。
昼休み・・・。
木曜日話していたように元担任の福永先生は教室に来てくれた。
クラスのみんなは”何事か。”というように私たちを見ていた。
すると―――――
「七香さん、緑ちゃんが呼んでるよ!」
と言われた。
私は広瀬君と目を合わせ二人で首を縦に振ると廊下に向かって歩き出した。
途中まで広瀬君が隣にいたけど、もう少しで教室から出るというところで
「頑張れ。」
と言って背中を押して送ってくれた。
廊下に出ると、緑ちゃんたちがいた。
「急いでついてきなさい。」
そういわれ何かを考える余裕もなく連れていかれた。
途中、私は
『広瀬君と先生はついてきているだろうか。』
と心配になったけど、広瀬君を信じて緑ちゃんたちにそのままついていった。
今回は物置場のようになっている空き教室に連れていかれた。
私が中に入るなり、「ピシャン」と音を立ててドアが閉まった。
すると、いきなり緑ちゃんが怒りを爆発させた。
「・・・・・・あんた、なんであんなに言ったのに先生に言ったの!?
本当にむかつく!
もう、学校に来るな!
死ねっ・・・!
そして二度と私たちのことを話さないで!
私達が悪者になっちゃうじゃん!」
私は、
今までで一番ひどいことを言われ、心にグサッと何かを刺されたような痛みを感じた。
そして、
『は・・・?
もともとそっちが悪者だよ?
馬鹿じゃない?』
と言ってしまいそうになったが、頑張ってこらえた。
すると、
「なんとか言えよ!
このバカ者が・・・!」
そう言って誰かに後ろから腕をつかまれ身動きできなくなると、緑ちゃんにすねを蹴られた。
痛くて、手で蹴られたところを抑えようとする。
でも、つかまれていてできない。
心の中で、
『広瀬君っ・・・!
助けて!もう無理・・・!』
と懸命に叫んだ。
すると、それが伝わったかのように「ガラガラガラッ」と勢いよくドアが開き、
「優笑!」
「七香!大丈夫か!?」
と、広瀬君と先生が入ってきた。
緑ちゃんたちは
「「「噓でしょ・・・!」」」
と言って動かなくなると急に逆のドアに向かって走り出した。
でも、広瀬君が廊下のほうからドアが開かないようにし、先生が教室の中から緑ちゃんたちを追い詰めた。
すると、もう無理だと思ったのかすぐにおとなしくなった。
そして、先生に連れられてどこかに連れていかれた・・・。
教室に広瀬君が入ってきて、広瀬君と私だけが教室に残っている状態になった。
広瀬君に
「優笑、大丈夫か?」
と心配された。
ふと、蹴られたところに意識を向けると急に痛くなってきた。
多分、今までは痛みどころではないことが目の前で起きていたからだろう。
思わず、
「イタッ」
というと広瀬君が
「大丈夫か?」
と言って、私たちはそのまま保健室に向かった―――――。
保健室で、氷をもらい冷やしていると福永先生が
「七香!大丈夫か・・・!」
といって、登場した。
急いできてくれたようで、いつもの髪型が崩れていた。
私は、
「すねを蹴られただけなので全然大丈夫です。」
と言って答えた。
すると、
「そうか・・・。
本当に良かった。
今日は大変だったから今日の話は明日しよう。
ちなみに、緑たちは今、生徒指導室にいる。
だからもう何かしたりしてこないから、昼休みが終わったら安心して五、六時間目を受けなさい。」
と言ってくれた。
様子からして、先生は私たちのことを信じてくれたみたいだ。
私は色々な感謝の気持ちを込めて
「ありがとうございます・・・!」
といった。
広瀬君も、
「本当に色々とありがとうございました。」
といって先生に頭を下げていた。
先生は、
「いやいや・・・。
本当に今まで悪かったな。
明日の放課後、いつも話している会議室Aでまた話そう。
それじゃな。」
いうと出て行ってしまった。
そのあと、私は教室に戻るため蹴られたところに湿布を貼ってもらい、広瀬君とそのまま教室に向かった。
そのまま何事もなく、嵐の一日を終えた。
夕方から寝るまで、先生から明日何を言われるのだろうと気になったが、”まだ信じられない”と言われる心配がほぼないので、大丈夫だろうと思い安心して眠りについた。
そして、朝、目が覚め学校に行くと教室の前に緑ちゃんたちがいた。
私は何かされるのではないかと身構える。
するとそのまま緑ちゃんたちが近づいてきた。
「な・・・なに?」
すると、
「緑ちゃんたち、優笑に何か用でもあんの?」
と、少し切れ気味の広瀬君が急に後ろから来た。
私は広瀬君に驚きながらも、緑ちゃんたちのほうに集中する。
・・・と、
「優笑、いままでごめん、」
「俺たちも・・・ほんとに悪かった。」
「ごめんね、」
などと次々に謝ってきた。
思ってもなかったことが目の前で始まり、驚きのあまりフリーズしてしまった。
だけど、私はすぐに自我を取り戻し
「ど、どうしたの急に?」
と怖くなって聞いた。
そうしたら、
「えっと・・・」
と気まずそうにすると
「うちらさ、昨日先生に生徒指導室に行って、生徒指導の先生と色々話したんだ。
優笑、少し傷つくかもしれないけど、私たちの気持ちとかこれからのこととか言ってもいい?」
と聞いてきた。
私は、”ここだと人がいるからちょっとやだな・・・”と思いつつ広瀬君とどうするか考えていると、
「緑ちゃんたち、申し訳ないんだけど、廊下だと人が多いしもう少しで授業とかなんとか色々あるからさ、昼休みに昨日の空き教室みたいなところに行ってしっかり話さない?」
と広瀬君が提案してくれた。
私の心の中の気持ちが広瀬君には見えているんじゃないかと思うほど私の心配していたことをカバーするように言ってくれて本当に驚いた。
私がそう考えていると、緑ちゃんたちは
「うん。そうしたほうがいいかもね。
じゃ、昼休み、昨日の空き教室で待ち合わせね。」
といって自分の教室へと戻ってしまった。
取り残された私たちは
「・・・・・・びっくりしたね、」
と思わず言ってしまった。
でも、本当に驚いた。
昨日から今日にかけて何があったのだろう。
だけど、こんなに変われるんだなと思い私も・・・私も家族のこともこんな風に解決できればいいなとひそかに思った。
そして、昼休み。
私は広瀬君とともにあの空き教室に向かった。
まだ、緑ちゃんたちは来ていなくてがらんとしていた。
そして待っていると緑ちゃんたちが「遅れてごめん、」といって入ってきた。
「大丈夫だよ!対して待ってないし。」
私はそう答え、本題に入っていった。
「それで、緑ちゃんたちが話したいこと、話していいよ。
私のことは気にしないで全部話してほしい。」
「わかった。
全部話す。
あのね―――――私たち、優笑が『昨日ね、こんなことがあってね、それでね・・・』みたいに話してくるのがすごく嫌で、優笑ちゃんのこと自身は嫌いなわけじゃなかったんだけど、かげでちょっと嫌味みたいなのを言っちゃってたんだ。
だから・・・本当にいつの間にか小学校の時傷つけちゃってごめん。
今回の変な噂を流したのは、私たちのグループから優笑が離れて、なんか嫌だったし、なんかそうやって嫌だな、嫌だなって思ってたらだんだん優笑が成績が良くて先生に信頼されてて・・・みたいなところがなんかムカついてきちゃって。
今思えば、本当に勝手だったし、『は?』って思うほどおかしいことをしてたし、私のほうがバカだったなって思った。
だけど、そういう”私は間違ったことをしちゃった”っていうのはうすうす気づいてた。
でも、それを先生にばれたら・・・とかって思ったら、なんかどうしてもばれないようにしないとって思って自分でもびっくりするくらいひどいこと言って、口止めしようとしちゃった。
本当にごめん・・・。
っていう事に先生と話しててようやく気付いたの。
だから、しっかり謝らないとって思って、言ったんだ。
許す、許さないの問題じゃないのは分かってるんだけど・・・許してもらえる、かな、」
そういってきた。
許してもらえるかな・・・か。
私は確かにものすごく傷ついた。
それは、そういうことを言った緑ちゃんたちが悪いかもしれない。
でも、私も緑ちゃんたちが”嫌だな”と感じるようなことをいってしまったのも問題だ。
だから、緑ちゃんたちだけが悪いわけではない。
そう感じた。
しかも、しっかり謝ってくれたし、こうやって反省して私以外の人が同じ目に合うようなことは今回こうやって
”こういうことはしてはいけない。
私達は間違ったことをした。”
みたいに考えてくれたから、きっと起きないと思う。
だから・・・私は許すべきだと思う。
私がたとえどれだけ許したくないと思っても、相手の反省してくれたという気持ちを尊重してあげるためにも許さないといけないと思う。
それに・・・私はもっといろんなこと仲良くしていきたい。
本当に、今回の緑ちゃんたちのように変わっていきたい。
だからそのためにも・・・
「うん。許すよ。」
そう言った。
すると緑ちゃんたちは許してもらえないと思っていたのか、
「え・・・。」
といって固まってしまった。
すると、緑ちゃんが
「私達、こんなに悪いことしたのに・・・取り返しのない、謝っても簡単には許されないようなことをしたのに・・・?」
といった。
だから私はさっき自分の中で考えていたことを正直に話した。
「うん・・・。たしかに私はすごく傷ついた。
でも、私も緑ちゃんをそういう風にさせてしまうようなことをした。
だから緑ちゃんたちが一方的に悪いわけじゃない。
それに、せっかく謝ってくれたのにその気持ちを尊重しないで、
『私は許さない。』っていったらそれこそなんかおかしいなって思うから。
あと・・・これは単なる私の気持ちなんだけど、私またみんなと仲良くなりたいし、あの小学校の時のことがトラウマで人とうまくかかわれてなかったから、今回こうやって緑ちゃんたちのことが解決できたから、私もそのトラウマをずっと抱えてないで変わっていって、どんどんいろんな人と仲良くなっていかないといけないって思うんだ。
だから、そのためにも私は許すよ。
私は、もうこんなことを緑ちゃんたちが私以外の人にもやらないって信じてるし!」
すると、緑ちゃんが抱き着いてきた。
「優笑、本当にごめん。
許してくれてありがとう。
また前みたいに仲良くなれるように一からまた頑張るから、その時はまた仲良くしてくれたらうれしい。」
「うん。私のほうこそ、今度はみんなにいやだって思われるようなことはしないようにする。
それでも、やっちゃってたら直接教えてほしい。
そうしたほうがこんなことにならないと思うから!」
「そうだね。
たしかに、私たちが『こういうのは嫌だな』ってしっかり言ってたらまた違ったかもしれないもんね。」
「うん。」
そうして、無事に問題が解決した。
私は緑ちゃんと抱き着きながら広瀬君のほうを見ると、目が合った。
すると、『グット!』の形をした手を私のほうに向けて笑ってくれた。
そのあとはみんなで仲良く各教室に戻った。
あの嘘の噂については緑ちゃんたち自身がどうにかして解決してくれるらしい。
本当に、解決できたことにほっとして私は教室に入った。
そして、放課後。
先生と待ち合わせをしている会議室Aに広瀬君と向かった。
「ガラガラガラッ・・・」
ドアを開くと先生がもういて、「どうぞ座りなさい」と手招きしてくれた。
「ありがとうございます。」
そう答え、座るとさっそく話が始まった。
すると、
「優笑、本当に今回はすまなかった。
許してくれ。
先生は、まさか本当に緑が嘘の話をしていたとは思わなくて、信じることができなかったんだ。
だから、優笑のことを信じていないわけじゃないんだ。
本当にすまん。」
と急に先生がそんなことを言った。
さっきも一瞬思ったけど、やっぱり謝られると困るし、なんかあまりいい気がしない。
だって、私はただただこのすれ違いというか、勘違いをなくしたいというだけだった。
だから、”こんな風に謝らるのはな、”と思う。
でも、緑ちゃんたちの時も同じだけど、謝ってもらって”許す”ということ以外をするのはおかしいと思う。
そう思い、私は先生にこういった。
「いえ・・・、
今日の昼休みに緑ちゃんたちと話して、私も悪かったなと思うところがあったりしたので、お互い悪かったし・・・。
あと、先生のおかげでまた緑ちゃんたちと仲良くなれたので、本当にありがとうございます。
だから、先生もう大丈夫なので気にしないでください!」
そう言っておきながら私もいまいち、この答え方で合っているのかわからない。
だけど、
「本当か、それならよかった。
でも、本当にごめんな。」
と返してくれたので良かった。
「はい。
本当に今回はお世話になりました。」
そういって、このあと色々話すと、先生は「それじゃな!」といってここから出て行ってしまった。
これで、まず一つの壁を乗り越えられた。
なんか、本当に嬉しかった。
だって今まで全然うまくいかなかったことが、ついにうまくいったから。
それに変わることができて、一歩踏み出して新しい未来に進めたと思えたから。
今まで・・・今まで頑張ってきたからここまでこれたんだって感じて急に涙が出てきた。
まだ少し残っていた怖さが一気に壊れたように、ふっと心が軽くなった。
空君が
「大丈夫・・・?」
と聞いてきてくれる。
「うん。
なんかすごく重かった心が一気に軽くなって・・・楽になったら涙出てきちゃった。
本当にいままでたくさん助けてくれてありがとう、空君!
あの日、話しかけてくれなかったらこんなことにならなかったかもだし、いままで心が折れかけたときもずっと支えてくれて助けてくれたからこんなに私が変われたと思うんだ。
だから、本当にありがとう!」
そう自然と言葉があふれてきた。
空君も笑って、
「そっか・・・!
優笑がそんな風に思ってくれてたって思うと嬉しかった!
それに優笑、今俺のこと普通に”空君”って言ってくれた!
だから、本当にありがとう!
あと俺もこのおかげで、お母さんのように辛い気持ちになってる人を助けられるんだって思えた。
俺の壁を一緒に乗り越えてくれてありがとう。」
と言ってくれた。
「うん。
お互い成長できたんだね。
私も嬉しい!
これからもよろしく。」
「おう!
それじゃあさ、なんかこれからお疲れ様会みたいなのしない?
一歩を踏み出せた記念というか・・・」
「あ!いいねそれ!
私もやりたい!
でも、その前に私もう一つ家族とのすれ違いで起きているであろう壁を乗り越えてからでもいい?
今なら頑張ってまた乗り越えられると思うんだ!
だから、お疲れ様会の時間が遅くなっちゃうと思うんだけど・・・」
「うん。俺、待ってるよ!
しっかり解決させてきな!
優笑なら絶対にしっかり乗り越えられるから!
頑張れよ!」
「空君、ありがとう!
私、絶対成功させる!」
そう言葉を交わし、家に帰る。
お母さんと碧唯はまだ帰っていなかった。
いつものことなのになぜか落ち着かなかった。
そして、日が落ちてきて空が濃いオレンジ色に染まったころ「ガチャッ」と玄関のドアが開く音がした。
お母さんと碧唯が返ってきたのだ。
「おかえりなさい!」
私は玄関まで行きお出迎えをした。
「優笑・・・?」
お母さんは目を丸めていて驚いていた。
そりゃそうだよね・・・私は今までお母さんたちのことをお出迎えしたことが一度もなかったから。
「話があるんだけど、いいかな?」
意を決して私は言った。
―――――「話があるんだけど、いいかな?」
私がそういうとお母さんは丸かった目を一層丸くさせ、
「え・・・ええ、いいわよ。」
と答えてくれた。
「ありがとう!」
リビングのテーブルに向き合って座った。
こうやって真剣に話をするのは何年ぶりだろう・・・。
ずっと、話していなかったから家族でいつも同じ家にいるはずなのに緊張してくる。
そんな中、私は口を開き話始めた。
「お母さん、この間はごめん。
覚えているか分からないけど、少し前に夜ご飯作れるのかって言うことできれちゃって、今は本当に悪かったって思ってる。
碧唯も・・・怖い思いさせてごめん。
私、今まで何にも話してこなかったけど、家族なんだししっかり仲良くしていきたいからしっかり話すね。
今から一年とちょっと前のことなんだけど、小学校の卒業式の少し前の日に仲が良かったグループにかげで悪口というか嫌味みたいなのを言われて、なんか人って外側はかりそめの姿だから本当はみんなして私のことを悪く言ってるんじゃないかって
思ったりで何を考えてるか分からないからっていって怖くなって、ずっと人間恐怖症みたいになってたんだ。
それで、ほとんど人と関わらなくなって、いつの間にか家族とか友達との間に分厚い壁を作ってた。
だから、あの時も”なんでわかってくれないんだ”って、本当は今の私が人とのことでどれだけ苦しい思いをしているのにそんなことも知らないのに”あなたのため”って言われたくなくて・・・
本当は・・・本当はずっと当たり前のように朝ごはんを作ったりするのも嫌だった。
私にとってはいつもの”あたりまえ”がすごく苦しかった。」
「優笑・・・。」
お母さんは唇をかんで何か言いたそうにしていた。
でも、私は言葉を続ける。
「だけどね、私しっかりそのこととは向き合わないといけないって思って、一人で頑張ってた。
そしたら味方だって言ってくれる人が二人も現れてくれたんだ。
久しぶりに一人で悩んでいたことが周りに相談できて嬉しかった。
でね、そのうちの一人に”自分と向き合ってみることもいいよ”みたいに言ってもらって・・・。
それで、一日だけ自分と向き合って考えてみたの。
どうして私はこうなってるのか・・・みたいな。
そしたら、今まで私が心の中で見て見ぬふりをしていた本当の気持ちがわかってきて、その私の気持ちに押されて、私の味方と一緒に一歩進んでみようって強く思い始めた。
で、いままでいろいろあって心が折れかけたけど助け合って頑張っていたらちょうど今日解決できたんだ。
私、本当に嬉しかった。
”自分が苦労して頑張ってきてよかった”って思えたから。
だから、今の私なら家族ともしっかり話せるかもしれないって思ったの。
実は味方のうちの一人の子に”家族とはすれ違いが起きてしまっているのかもしれない”って言われてたから、そのすれ違いを今日ならしっかり話し合って見つけて、解決できるって思った。
だから、お母さん、碧唯、私について思ってること話してくれない?
前に言い合っちゃったとき、私は途中で自分の部屋に逃げちゃったけど今度は最後までしっかり聞くから。
それで、すれ違いをなくしてしっかりまた仲良くしたいから―――――。」
私が話し終えても、お母さんはずっと下を向いていた。
だけど、しばらくすると顔を上げた。
「―――――ええ、そうね。
話し合って、相手と向き合わないと何も変われないわね。
私はあの優笑がすごく怒った日、”優笑に嫌われていたのかもしれない”思ったの。
あと、”私の子供なのに本当は何も知らないのかもしれない”って思って自分自身を恨めしく思った。
しかも、優笑があんなに苦しそうな顔をしてるのを今まで見たことがなかったから、”私は優笑と関わらない方が・・・距離を取った方がいいのかもしれない”って考えて、できるだけ会わないようにしてた。
でも、今の優笑の話を聞いて思ったわ。
私はしっかり優笑の気持ちを聞いてあげるべきだった。
私も優笑と同じように逃げちゃっていたのかもしれないわ。
本当にごめんなさいね。
お母さんなのに何もしてあげられず、逆に苦しめてしまっていて・・・。」
「・・・僕も、ごめん。
僕、お姉ちゃんがなんか困ってるみたいだなって思ったけど、あの時すごくお姉ちゃんが怒ってるのを見て怖かったから話しかけられなかったし、お姉ちゃんに何か話しかけられてもうまく話せなかった。
お姉ちゃんごめん・・・。
ごめんなさい・・・。
本当は、もっとお話ししたい。
お姉ちゃんの話聞きたい。
サッカーの話もしたい。
う、うえーん・・・!」
お母さんも碧唯も泣き方は全然違うけど二人して泣いてしまった。
私も本当にいろんなすれ違いがあったんだってわかって、いろんな後悔のせいの悔し涙と、家族とようやく本音で話し合うことができた喜びや嬉しさで泣いてしまう。
すると碧唯が私の方に駆け寄ってきて”ギュー”っと抱き着いてきた。
まだ、学校から帰って制服のままで制服に涙がついてしまう。
でもそんなのどうでもよかった。
私はただただ泣きながらも笑顔で抱き着き返す。
お母さんも後からきて私たちをまとめて抱きしめてくれた。
大人、中学生、小学生関係なく泣いて抱きしめ合う。
すごく心が温かかった。
やっぱり、家族はかけがえのないものだなと改めて思った。
・・・・・・というか、今まで忘れていたその家族に対しての気持ちがよみがえってきた。
『お母さん、碧唯、本当に今までごめん。
これからはもう一生こんなことが起きないようにする。
そして二人と楽しい時間をたくさん、今までの分まで楽しもうね。
本当は・・・、本当は私お母さんや碧唯とうまく関われなくて、お母さんと仲良く歩いてる子とか兄弟で一緒に遊んだりしている子を見るとうらやましくて仕方がなかったから。
私にとってのお母さん、弟、お父さんはたった一つの家族。
大好きな家族だから。
これからは、また改めてよろしくね。』
恥ずかしくて口にはできなかったけど、心の中でしっかりと言った。
◇
一通り泣いて、少しずつ涙が収まってから私は顔をまたお母さんと碧唯の方に向けた。
「お母さん、碧唯。
また、これからよろしくね!」
「ええ、もちろんよ!
これからはすれ違いがないようにしましょう!」
「うん!
お姉ちゃん、大好き!」
そうして、壁が消え新しくなった世界で私は心からの笑みをこぼした。
◇
「私、実はこの後、私と一緒にいて支えてくれてた人とお疲れ様会するんだ。
行ってきても、いい・・・かな?」
私はこんな時に言うのが少し気まずかったけど、しっかり話した。
すると、
「もちろんよ!
しっかりお礼、言いなさいね!
あと、しっかり楽しんできなさい!」
そういってくれた。
こんな風に笑顔で素直に話すのは普通の家族にとっては当たり前かもしれない。
でも私はそんな当たり前なことができてすごく嬉しかった。
「分かった!
ありがとう。
服、着替えたら行くね!」
そう返事をして私は軽い足取りで部屋に向かった。
すぐに着替えを済ませ、空君にメッセージを送る。
【お待たせ!
無事お母さんたちとしっかり話せたよ!】
【どこで待ち合わせする?】
すると、すぐに返信が来る。
・・・やっぱり早い。
なんでこんなにもメッセージを見るのが早く、返信も早いんだろうと不思議に思いながらも、メッセージを読んだ。
【ほんと!?
頑張ったね!
ほんとに優笑はすごいね・・・!】
【前にいろいろ話したあの公園のベンチとかはどうかな・・・?】
【了解!
すぐに行くね!】
私はそう返信すると玄関に行き靴を履き、
「行ってくるねー!」
といってみた。
すると、
「行ってらっしゃい!
気を付けてね!」
と言ってわざわざ玄関まで来てくれた。
なんだかすごく幼くなった気がする。
でも、嫌な気持ちはせず、素直に嬉しかった。
「ありがとう!
行ってきます!」
そう言ってドアを開けた。
外はまだ肌寒かった。
”空君にこんな寒い中待たせると悪いな”と思い歩くスピードを速めた。
約束のベンチが見えるとそこにはもう人影があった。
「空君、待たせてごめんね。」
私は駆け足でそこに向かうとそう言った。
「ううん。
俺も今来たところ。
寒かったでしょ?・・・はい!
ココア・・・好き?」
そう言ってココアを手渡ししてくれた。
きっとここに来る途中買ってきてくれたんだろう。
空君がなんか紳士に見えてきた。
「うん!大好きだよ!
ありがとう空君!」
そう言って受け取った。
そういえば・・・
「空君の飲み物は・・・?」
「あー、買ってない。
でも、俺は厚めの服着てるから大丈夫!」
と言った。
でも、どう見てもそこまで厚い服を着ているようには見えなかった。
きっと”気を使わせないように・・・”とかって考えてくれているんだろう。
私は、「ちょっと待ってて!」と言ってきた道をほんの少し引き返した。
「あった・・・!」
そう言って私はあるものを買って公園に走って戻った。
「ごめん待たせちゃって、」
「ううん。全然俺は大丈夫!
それより大丈夫?どうしたの?」
そういってくれる。
「空君、本当に優しいね。
はい!これ!
空君が好きだと良いな!」
私はさっき買ってきたものを渡した。
「うわぁ!
ありがとう!
俺のために・・・?
すっごく嬉しい!」
私が空君に渡したのは空君にさっき私がもらったものと同じココアだ。
「喜んでくれて良かった!」
そういうと、急に
「あっ・・・!」
と空君が声を上げた。
「どうしたの?」
「見てみて!」
空君が見せてくれたのはココアのパッケージの一部だった。
そして、私の手を指している・・・?
そこには茶色のくまさんが違う色の手を握っている絵だった。
でも、その手より先は描かれていない。
つまりなにかと合わせると一つの絵になる・・・みたいなやつのはずだ。
まっ、まさか・・・!
指された方の手に持っているココアのパッケージを見てみた。
そこには、
「すごい!
空君の絵と繋がる!」
そう。
私の絵の続きの絵が描いてあった。
なんだか、それを見て喜んでいる空君を見ると紳士な空君が無邪気なかわいい空君に見えた。
そして私は空君の歩いていく方に合わせて歩いて行った。
すると、ファミレスに到着した。
ここはたしか、普通のファミレスだけど最近できたからなんか少し変わっていると評判なところだった。
なにが変わっているのかは知らないけど・・・。
「優笑の意見も聞かないで勝手につれてきてごめん。
俺ら中学生だからあんまお金が高い所は行けないけど、ここならいいかなって思って。
どう??」
「うん!めっちゃいい!
ありがとう。
私もここ、言ってみたいなって思ってたから嬉しいよ!」
「そっか!それならよかった!」
そういうと私たちは中に入っていった。
本当に店内はいろいろすごかった。
大人っぽい感じで、料理の種類は多くて・・・本当にみんなが”変わっている”と言っていた意味が分かった。
料理とかドリンクとかが一通りそろうと静かに
「「お疲れさま!」」
といって、二人だけのお疲れ様会が始まった。
時間が過ぎるのはあっという間で、すぐ遅い時間になってしまった。
「美味しかったね!」
「ね!」
テーブルには空になったお皿が二つ並んでいる。
お会計を済ませ、外に出る。
店内が料理のこってりしたようなにおいだったからか、すっきりとした空気が気持ちよく感じられる。
本当に、楽しかった。
もう少しでお別れというのが寂しくなってくるくらいだ。
そんなことは今まで歩ちゃん意外ではそんな気持ちになったことがなかったから、それも新鮮で甘酸っぱい気持ちになった。
すると不意に、どこからか音楽が聞こえてきた。
「―――――君以外にも、おんなじ思いの人はたくさんいるんだよ。
心は見えないから何もわからないけど、絶対におんなじ思いをしている人はたくさんいる。
みんなで頑張ろうよ!前を向いて一歩ずつ―――――。」
そんな歌詞の曲だった。
・・・おんなじ思いの人はたくさんいる。
その言葉が耳に残ってしまう。
私のようにいじめられたり、周りの人とのすれ違いが合ったりして苦しんでいる子はほかにもいるのかな?
もしかしたら、私のように一歩を踏み出せずにいるかもしれない。
私は一つ”やってみたいな”と思うことができた。
「私・・・自分の好きな小説で前の私のように苦しんでる人を救いたい!
笑顔にしたい。自分だけじゃないって伝えたい!
そして、そういう子に希望をもってほしい!」
そう言葉にしていた。
空君は、『急にどうしたの?』とも、『どういうこと?』とも言わずに
「うん。すごくいいと思う。
優笑にしかできないことだね!
絶対うまくいくよ!本当にやってみたら?
もし、その小説が売り出されたら俺が一番に買うよ!
楽しみにしてるな!」
と笑って言ってくれた。
「うん!」
私には初めて夢ができた―――――。
あれから三年―――――。
私、七香優笑は小説家になるための高校に言ったりして、夢を追って日々努力している。
空君は、精神科医という職業に就くために別の高校で頑張っているみたいだ。
なぜその職業に就きたいのか聞いてみたことがあった。
その時広瀬君は、こう言ったのを鮮明に覚えている。
『俺な、いろんな理由があって苦しんだり学校に行けなかったりしてる人がいるって言うことを優笑と過ごしていく中で感じてきたんだ。
だから、俺も優笑みたいにそういう子を救いたくなったんだ。
でも、俺は”本が好き”とか”歌が好き”とかっていうことがなかった。
それで、どうすればいいんだろうって思っていた時にこの職業を知ったんだ!
これなら俺にもできるって思って今も頑張っているんだ!』
そう、目を輝かせながら言っていた。
素直にかっこよかった。
広瀬君は、絶対に叶えるんだろうな・・・私はその時思わず成長した空君のことを考えてしまった―――――。
そうして、お互い似ているような目標をもって夢を追いかけている。
それに最近でも仲良くしてて、お互いの空いている日を見つけては良く遊んでる。
あと、今でも私はたくさん空君に励ましてもらったり、勇気をもらっている。
この間も・・・
「私、小説家には向いてないのかもしれない。」
って、つい弱音を吐いてしまったときだった。
「優笑。
これは、家族だったり緑ちゃんとのことみたいなあんな経験をした人にしかできないことだよ。
だから、その経験を活かして優笑が頑張らないと何も変わらないよ。
それに俺は優笑が小説家になれないなんて思ってない!
優笑にはきっと才能がある!」
「じゃあ、才能があるならなんでうまくいかないの?」
「そりゃあ、才能がある人でも、誰にだって基本をしっかり学んで才能を発揮させるための準備の時期があるんだよ。
だからきっと今の優笑はその準備の真っ最中なんじゃないかな?
きっと、これを乗り越えればすごい小説家になれると思う。
そしてその本でたくさんの人を救えると思うよ!
だから、優笑は自信を持って!
大丈夫だから!
それに、俺はもう優笑のファン第一号だ!
”小説家の才能がないかもしれない。”とか言って、ファンの俺を悲しませないようにしてくれよ!」
と言って私に頑張ろうって思わせてくれた。
そんなこんなで、ここまで来たけどやっぱりあれからも人に嫌なことを言われたりした。
でも、そんな時も
「今だけじゃなく、これからもまだ優笑のことを悪く言う人が出てくるかもしれない。
だけど、本当に自分が正しいと思うことは周りの人の言葉とか気にせず、前を向いてやり切ってみな。
だって、一人ひとり考えなんて違うんだから悪く言うのは当たり前だもん。
だから、大丈夫だよ。
これからも頑張れ。」
と言ってくれたのだった。
私にはそれが頭に残り続けずっと心を支えてくれている。
本当に、君のどの言葉も私にとってはどれも一番の名言だ。
その名言一つ一つにに私は何度救われただろう。
きっと・・・ううん。絶対に何十回、何百回。下手したら何千回も救われているかもしれない。
今までの君の言葉がどれか一つでも欠けていたら私がどうなっていたのか分からない。
それほど大切だった。
私も、君を助ける言葉を言ってあげたい。
言っているつもりだけど・・・伝わっているか分からない。
だって、伝えたい気持ちはたくさんあるのに正直に言えないから。
でも、これだけはいつまでたっても胸を張って言える。
―――――「空君の言葉は誰に何と言われようがいつまでも私の中の”名言”だよ。」
俺のお母さんの名前は広瀬心笑(ひろせ ここえ)という名前だ。
お母さんは本当に名前の通りいつも心から笑っていた。
―――――そう、思っていた。
なのに、お母さんは急に死んでしまった。
・・・自殺、だった。
それをお父さんからはお母さんが自殺した理由だと思われることも知らされた。
あんなに優しい人を悪く言う人がいるんだって思うとものすごく悲しく、そして虚しくなった。
するとそのとたん頭をハンマーで思いっきり殴られたような感覚がした。
いつも笑っていて、いつも一緒だったお母さんが自殺なんて、最初は信じられなかった。
でも、俺だって幼いわけじゃなかったからすぐに『本当のことなんだな・・・』と理解した。
昨日まであんなに楽しくお話してたのに。あんなに美味しいご飯を食べさせてくれていたのに。
こんなに急に身近な人がいなくなるなんてドラマだけだって思ってた。
だけど、こんな身近にそんなことが起こってしまった。
そして・・・状況を把握してくるとだんだんのどがキリキリと痛んで、手が、足がぶるぶると震えてきた。
涙も止めようとしても全く止まらないほどに流れて来た。
「お、かあ、さん・・・。おかあさ、ん・・・。お母さん!」
みっともないほどに泣き崩れていき、私は誰もいない真っ暗な穴の底に突き落とされた。
もう立ち直れないほど、手や足に力が入らなくなるほどそのまま弱っていった。
もちろん学校になど行く余裕も気力も筋力でさえなかった。
お父さんも同じだった。
お母さんの写真を見てただただひたすらに泣き続けていた。
そして俺もお父さんも涙が枯れてしまい流れてこなくなると次はボロボロになった貝殻のようになった。
身体も汚れ、いろんな人から心配された。
「空くん、大丈夫だよ。」
とか
「私たちがお母さんの代わりみたいに思ってくれていいからね。」
と言ってくれた。
だけど俺にはただの場しのぎでしかなかった。
でも、あるとき急にお父さんが
「ここにいるとお母さんのことをずっと思い出してしまう。
だから、全く違うところに行こう。」
っていって遠く離れた県に引っ越そうと言い出した。
俺は嫌だった。
お母さんを忘れたくなかったし、何しろ俺のたった一人のお母さんとの思い出がものすごく詰まっているこの家を離れるのが嫌だった。
だけど、お父さんは何を言っても聞いてくれなくて、そのまま引っ越すことになってしまった。
◇
「お母さん、俺は明日どうすればいい?」
俺は明日から始まる新しい学校生活の前で、お母さんの写真を持ち、写真の中で優しく心から笑っているお母さんの目見ながらつぶやいた。
まだ、ほとんどと言っていいほど全然お母さんのことの悲しみが消えていない。
学校でそんな自分がうまくふるまう自信がなかった。
するとどこからかお母さんの声が聞こえてきた。
「―――――空・・・?
お母さん、勝手に死んじゃってごめんね。
でも、お母さんはずっと空から見ているしずっと味方だよ。
それに、お母さんは空の笑顔が好きなんだよ!
空の笑顔はみんなを勇気づけてくれる。だから、空には笑っていてほしい。
たくさんの友達に囲まれて仲良く過ごしてほしい。
だから、そのお母さんの好きな笑顔を大切にしてね。」
俺は”バッ”っと声のした方を見た。
でもそこには新しい家の壁があるだけだった。
『幻・・・だったのかな。』
そう思いつつも、さっきのことだをもう一度思い出した。
お母さんは俺が笑っていたほうがいいって言っていた。
だから俺はその瞬間
『俺は新しいクラスで全員と仲良くしてたくさん笑っていよう。」
と、強く決意した。
迎えた新しい学校での一日目―――――。
俺はクラス新しいクラスに入るとすぐに仲良くなれた。
一人以外は・・・・・・。
その子は、先生によると七香優笑と言うらしい。
前の先生にはすごく尊敬されていて優等生だとのことだ。
でも、見るからに俺は避けられていると感じた。
それは俺だけではない。
このクラスの人の全員に対してだった。
でも俺はいろいろな理由で優笑のことが頭から離れなかった。
まず、名前だ。
”優笑”。
俺のお母さんにも”笑う”の漢字が入っていたから、不思議と覚えてしまった。
次に優笑の笑った顔だ。
優笑はほとんど固い登場を崩さなかったけど先生の前で一度だけ笑っていた。
その時の笑顔はすごく俺のお母さんに似ていた。
でも、何か違った。
それは多分本当に笑っていないからだお俺は思った。
勘違いかもしれないけど、優笑は頑張って笑っているように見えた。
最後はその”頑張って笑っているように見えた”と言うことだ。
クラスを避けようとしていることもそうだから、なにか彼女はあるのかもしれないと思った。
俺はそんな感じで優笑のことが気になってしまい本を読んでいる彼女に話しかけた。
「なぁなぁ、ちょっといいか?」
優笑はものすごく焦ったような表情をした。
すると周りから、
「みてみて、空君と一匹オオカミが話してる。」
「空君、一匹オオカミと仲良くなろうとしてるのかな。」
「かもね。でも、一匹オオカミはしゃべらないよね。・・・多分だけど。
それに話したとしても、いつもの愛想わらい浮かべて空君の話聞き流すんじゃない?」
「えーそんなのかわいそう!
空君のこと、一回止めてきて一匹オオカミのこと詳しく話したほうがいいかな⁉」
と言う声が聞こえてきた。
不意にお母さんのことを思い出した。
お母さんも、こんな風な感じだったのかな・・・。
次第に心が痛くなってくる。
でも俺はその声を振り切るように
「おおーい!聞いてんのか?
俺、空。このクラスに転入してきた人。
これで今お前に話しかけてきたのがだれか分かっただろ!
怖くないから、悪いこと何もしないから顔、上げてくれない?」
と言った。
すると、優笑の顔はみるみる嫌がっているような顔に代わっていった。
・・・と思うと今度は
「なに?どうしたの?」
と表情とは打って変わって優しく、答えてきた。
「お、ようやく目が合った!」
「は、はい・・・。
えと、私に話しかけてきた用はそれだけ?」
「んなわけないじゃん。
俺、クラスのみんなと仲良くなりたいんだ!
だから、少し話したいなと思って!」
「え・・・・・。」
俺は”話すなら今しかない、話したいことはできるだけ言っておこう。”と思ったからか一気にいろいろ話してしまった。
優笑はというと・・・固まっている。
やや沈黙が俺らの間に流れたあと、
「ごめん、朝の会が始まる前にトイレ行っときたいからまたね。」
といって席を立って動いだしてしまった。
「おい、待てよ!」
と俺は止めようとしたがそのままいなくなっていった。
そのあと、優笑は戻ってきた。
するとクラスの人が
「なんであんなことするの。」
「最低すぎるでしょ。」
「一匹オオカミだからって何でもしていいと思ってるの?
馬鹿じゃない?」
「調子乗りすぎ!」
と言い出した。
俺は怖くて”ゾッ”とした。
こんな感じなんだ。
俺はその一瞬にして優笑以外のクラスのみんなが嫌いになった。
そのあとは話す機会がなくて、話すことはできなかった。
そして、放課後。
実は前の学校でもバレー部だったのでバレー部に入ることにしていた俺は早速、活動場所に向かった。
先輩にいろいろ聞くと、体育館を女バレーと半々で使うそうだ。
ふと、その女バレーに目を向けてみる。
すると・・・そこには優笑の姿があった。
驚きのあまり固まっていると優笑の顔の向きがこっちに向きそうになる。
俺は慌てて顔をそらした―――――。
そのあとはもう最悪だった。
優笑を通学路で見つけたので教室の時の続きを話そうと試みるもいつの間にか嫌われているようだったのだ。
優笑に「名前で呼ばないでほしい」と言われ名字で呼ぶことに。
でも、優笑に
「だって結局何をしてもうまくいかないんだからもう、どうしようもないんだよ!
だからもう、そうやって私をおいかけないで!一人にさせて!
もう誰かと一緒に居たくないから。注目を集めず静かに過ごしたいから!
お願い!」
といわれ、お母さんのことがあった俺は
「でもこれだけは覚えておいて。
”何をしてもうまくいかない”って言うのは自分一人でどうにかしようとしたからじゃないの?
誰かに聞いて頼ってみればいいんじゃない?」
と思わず言ってしまった。
だって、お母さんは一人で抱え込んでいたみたいだったから。
優笑の姿がお母さんと重なったから―――――。
それから、何日かたった。
俺が友達を見つけてその友達を呼んだ時だった。
急に優笑と思われる声が俺を呼んだのだった。
でも、俺は先にその萩原という友達のことを呼んでしまったのでいまさら取り消しようがなかった。
俺は心の中で『七香、ごめん、』といって去っていった。
次の日、俺は昨日のことが気がかりだった。
だから、あまり話しかけないでほしいようなことを前に言われたけど話しかけてみた。
「優笑、ちょっといいか?」
「え、あ、うん。」
「昨日のことなんだけど・・・、ごめん。」
俺が素直に謝ると、七香は前のような驚いた顔を見せた。
すると、
「えっと・・・、
私の声に気づいてないのかと思ってた。」
と言ってきたのだ。
その七香の顔は悲しそうだった。
・・・やっぱり嫌な思いにさせていたんだな。
そうしてあの時の状況を話した。
すると七香は黙ってしまった。
俺は”また七香を嫌な気持ちにさせちゃったかな”と不安になり
「大丈夫?」
と聞いた。
すると七香はいろいろ言いだして、最後に
「今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。」
と言ってくれた。
俺は七香が俺と話そうとしてくれたのがシンプルに嬉しかった。
「おう。分かった。
そしたらまた今度な。」
そういって、七香が”やっぱり話しかけないで!”と気を変えてしまわないように離れた。
するとその日の部活で七香がボールを頭に当て保健室に行くのを見てしまった。
俺は心配で、嫌な思いさせるかな・・・とすごく悩みつつもクラスのグループLAINから七香を友達追加し、電話をかけたりしてしまった。
幸い、七香は大丈夫だったようだ。
俺は「よかった、」と安どの息をした。
次の日、学校に行くと七香が来た。
俺は七香に
「優笑!もう大丈夫なんだな!
本当に良かった!」
と思わず言ってしまった。
すると・・・
「優笑、昨日何かあったの?」
「いや、きっと空君に気を向けてほしくてわざと何かしただけでしょ。」
「あ、なるほどね。
優笑やばー!」
そんな声が聞こえた。
俺はその声にイライラしてしまい
「本当にひどい奴らだな。」
と言ってしまった。
七香はその言葉に対して
「ううん、いいよ。
うん。もう大丈夫。」
そんなことを言ったのだ。
・・・・・・七香はお人よしすぎる。
俺はそう思った。
このまま七香と話しているといろいろ言ってしまいそうだったので
「そっか、そしたらまたどこかで一昨日の話聞かせてね。」
とだけ言って自席に戻った。
そして放課後。
俺は七香から驚きのことを言われた。
―――――優笑が仲の良かったというグループに裏切られたというような話だった。
俺はここまで七香が大変な目に遭って苦しんでいたとは思ってもいなかったから衝撃的だった。
でも、そんな時に俺に相談してくれたというので嬉しかった。
そして俺は、その時お母さんと七香が完全に重なって見えてしまった。
『俺のお母さんはこんな苦しかったんだ。
俺はお母さんを助けられなかったっていう悔しさがある。
でも、この七香を助けられたらお母さんのようになってしまう人がいなくなるかもしれない。
今回しっかり優笑のことを支えて、成功に導けたらお母さんのようになってしまっている人を助けられるんだっていって、なにか変わるかもしれないから、何が何でも成功させよう。
成功させてあげよう。』
そう思って俺は優笑を支えていくことに決めた。
でも、思ったよりもそれは大変なことだった。
だけど、七香がのことをまた優笑と呼んでも良くなったりと、進展はたくさんあった。
そうして、いろいろありつつも優笑と頑張っている時、事件が起きた。
その日は本当に優笑は辛そうだった。
今までもいろいろうまくいかなかったりしたけど、今回はよ余程のことだったから。
俺は優笑の様子がおかしかったから心配で一応後ろから様子を見ていた。
すると、優笑は前かがみになった。
前にある柵が「ギギギ・・・」と音を立てる。
すると、
「さようなら、最後まで逃げてごめんなさい。
許してね・・・・・・。」
といって優笑は足を浮かべ飛び降りようとしたのだ。
「優笑ーーーー!
やめろーーーーー。」
そういうと”ピクッ”と優笑の身体の落ちそうになるスピードが遅くなった。
俺は考えるよりも早く勝手に体が動いた。
優笑の肩を両手で引っ張り、引き寄せ、そのまま
「優笑、何やってるんだ・・・!」
と気づいたら怒っていた。
「だって・・・」
「だってじゃないよ!
優笑が死んだってなにも変わらない。
悲しむ人が出るだけだ。
何でこんなことをしようとしたの?
俺に話して!
そうじゃないと、許さない。」
「だって・・・だって、私がいても何の価値もない。
むしろ、迷惑をかけているだけ。
みんなに不快感を持たせているだけ・・・!
私は必要ないよ。
悲しむ人もきっといないよ!!」
「俺がいる!
俺がものすごく悲しむ。
それに優笑には生きているだけでものすごく価値がある!
生きていたいのになくなってしまう人だって大勢いる!
優笑。俺たちはそういう人たちの分までしっかり生きるんだよ。
せっかくこの世界で生きさせてもらっているんだもん。
辛くても、苦しくても、逃げたくなっても頑張らないと!
それに、優笑には俺と歩ちゃんって子もいるんだろ?
味方はしっかりいるよ。
きっと優笑のお母さんも本当は優笑を頼ってしまっているだけ。
それに、家族との境界線は何かしらのすれ違いを解消すれば、きっと消えるはずだよ。
死ななければ・・・生きていればなんだってどうにかできるんだよ!
だから、もうそうやって死のうとするな!
絶対だぞ!」
俺はそう言いたい言葉を並べていった。
だって、優笑もお母さんみたいになってほしくなかったから。
優笑も死んでしまったら今度こそ立ち上がれないから。
それほどいつの間にか優笑のことが大切になっていた。
優笑は泣いてしまった。
俺は何も言わず優笑の背中をさすった。
そして、
「分かったなら、許す。
でも、次はないからな。」
といった。
「分かった。」
優笑はしっかりそう言ってくれた。
その言葉を今聞くことができて本当に良かったと思った。
そして俺はもうこうやって優笑を一人で苦しめさせないと心に誓った。
その後も優笑は頑張り続け、ついに家族や緑ちゃんたちのことを解決させた。
優笑自信が気づいているかはわからないが、優笑は本当に俺が初めて会った時とは比べ物にならないほど変わっていた。
例えば、誰にでも作り笑いじゃない本当の笑顔をするようになったし、本音をもっと話すようになったり、そんな変化があったからか今は優笑がいきいきしている。
そんな優笑からのメッセージを俺はすごく大切にしていた。
優笑のメッセージを読むと心がなぜか踊ってしまう。
それは、優笑がお母さんに似ているからだろうか・・・。
でも、それはなんか違う気がする・・・。
まあそのことはおいといて、
そんな感じで優笑がどんどん変わってきていているから、だんだん俺が置いていかれている気がした。
俺は、優笑とこれからも仲良くしたい。
だから俺もお母さんがいたときのことを考えてご飯を作ったり、お父さんを支えたりしていき、もっと優笑みたいに変わっていかないといけないと思った。
今だからこそいえる話だけど、俺は優笑のことがあの初めて優笑の笑顔を見たときからお母さんのように思っていた。
だから、お母さんが身近に今もいる気がして何かとここまで頑張ってこれた。
そんな優笑に俺は何をしただろう。
結局今回のことは優笑を支えられなかった。
今回解決させられたのはただ単に優笑がものすごく苦しいことに耐え続け、そして一歩一歩前に進んでいったからこそのことだ。だから俺は何もできなかった。
俺がただ助けてもらっただけだ。
本当に、君の存在は俺にとっての一番の支えだった。
優笑の笑顔に俺は何度救われただろう。
きっと・・・ううん。絶対に何十回、何百回。下手したら何千回も救われているかもしれない。
今までの君の言葉がどれか一つでも欠けていたら俺がどうなっていたのか分からない。
それほど大切だった。
俺も、君を助けることのできるような存在になりたい。
頑張ってなろうとして努力しているつもりだけど・・・変われているか分からない。
だって、君はいつも頑張って毎日成長しているから。
だから君に追いつけないかもしれない。
君の横に立てないかもしれない。
でも絶対に立つ。・・・立って見せる。
そのために俺は君のことをこれからも支え続けたい。
暗い・・・お母さんを失ったときのように暗い俺ではなく、
明るい・・・お母さんが好きでいてくれたあの笑顔を絶やさず明るく元気な俺で、君のこれから進んでいく道を明るくさせて行きたい。
優笑。
―――――「優笑の言葉は誰に何と言われようがいつまでも俺の中の”必要な存在”だからな。」