「・・・・・・そしたら次俺の考えてきた案を出してもいいか?」
「あ、うん。」
広瀬君は少し間をおいてから話し始めた。
「俺、いろいろ考えたんだけど、多分、グループにやられたっていう方のことは先生に直接もう一回行って説得するのが一番早いかなって思うんだ。」
「え・・・でも、」
「うん。もちろん優笑一人だと前・・・俺がいなかった時と変わらないから今度は優笑と俺の二人で行くんだ。
優笑のサポートもしつつ、先生が納得するように手助けする。
こういうのはどうかな・・・」
私は返事に困ってしまった。
正直、先生に言ってもまたあの時のように言われてしまう気がする。
また傷ついてしまうかもしれないという思いから、恐怖で『その方法でやりたい。』という思いが薄れてしまう。
でも、心の端の方では『広瀬君と一緒ならどうにかして乗り越えられるかもしれない。』という思いもあった。
少し前のこういう状況の時は必ず逃げる方の道を選んでいた。
だけど今は、
「俺と一緒に頑張って先生に言ってみない?
二人なら納得してくれるかもよ?」
という広瀬君の言葉と存在が私の心の中の気持ちを揺らす。
「優笑?挑戦しないとうまくいくか、失敗するかなんて分からないよ?
次の一歩を踏み出さないと、俺にこのことを話したときの第一歩が水の泡になっちゃうよ?」
・・・確かにそうだ。
ここでまた逃げたら本当に、何のために私は広瀬君に話したのかわからなくなる。
そして広瀬君に話したときの勇気が無駄になってしまう。
だんだんと私の心の中は『広瀬君と一緒ならどうにかして乗り越えられるかもしれない。』という思いが強くなってきた。
私は・・・私は、
「うん。ちょっと怖いけど広瀬君とならもう一回勇気を出して先生に立ち向かえそう。」
「ほんと・・・⁉よかった!
そしたらこれからまた話し合っていつ先生に話すかみたいな詳しいこと、決めないとだね!
だけど、その前に・・・広瀬君って言ってたよー?」
「あ・・・空、くん」
やっぱりまだ言えるようにはなっていなかった。
しかも、まだカタコトに名前を呼ぶことしかできない。
もっと練習しないとだ。
「あの・・・空、くん。」
「ん?どうしたの?」
「あの、せっかく少し友達になれた記念とかその・・・先生にいつ話に行くとか決めるためにってことで、どこか行かない?」
広瀬君の目は大きく見開かれた。
私も・・・自分の言ったことに対して本当に驚いていた。
私、何言ってるんだろ。
絶対広瀬君には迷惑でしかないじゃん。
「あ・・・ごめん、やっぱ嘘!」
「大丈夫だよ?”迷惑だ”とか思ったんでしょ?
そんなことないよ。
しかも・・・俺も行きたいし。」
私は広瀬君が嫌がってなかったことに対して喜びの気持ちがあった。
「優笑。時間も遅いから夜ご飯の代わり・・・で、いい?」
「うん・・・!」
なんか、本当に広瀬君には心を開いたんだなと感じた。
だって、だんだんと歩ちゃんのように心を許している人としかしないことを広瀬君としているから。
だからそういう風に信用できる人が近くにいてくれると心強かった。
◇
「なんか不思議な感じがするね・・・!」
私たちは近くのファミレスに行った。
今は料理を注文をして待っているところだ。
「確かに、なんか不思議だね。」
「うん。」
「そしたら、どうしよっか。」
「本題の話する?」
「そうだね、話そ!」
そして、話始めることにした。
「先生に前話した時のことと、グループにされた時のことをもう少し話してもらってもいい?」
「うん。分かった。」
「えっとね・・・
―――――っていう感じかな、」
そうして私はグループとの出来事を小学校の時のことを含めて一つ一つ細かく話した。
やっぱりそのことは本当に思い出してしまうと目の前にその光景が広がって、本当に今そういわれたかのようにリアルに
フラッシュバックしてしまう。
だから今回も途中で言葉が出なくなってしまったり、涙が出てきてしまったりしたけどそのたびに
広瀬君がドリンクバーのジュースを「席は離れるけどすぐに戻って来るからね。」と言ってから急いで取ってきてくれたり、
「優笑が話せそうなだけでいいからね。」といって気を使ってくれたり、
「ご飯来たけど、食べて気が落ち着いてからまた話す?」と提案してくれたりした。
その広瀬君のお陰でご飯もやや食べつつ、話し終えることができた。
「そっか・・・やっぱり何度聞いてもその緑ちゃんたちはひどいね、
聞いてるこっちまで悲しくなってくる、
先生も、優笑がするはずないって思わないのかな。
―――――っていうのが今話を聞いたことの率直な気持ち・・・かな。
今話してくれたことをされたら、誰だって人間不信になると思うし、もう一回立ち向かおうとする人はそこまでいないと思うから、本当に優笑はすごいね。
俺も、そんな頑張っている優笑の役に立てるように頑張るね。
それで、なんだけど。
優笑は話し終えたばっかりで疲れてると思うからご飯を食べつつ考えてもらって、帰り際に教えてくれればいいんだけどさ
俺のことは考えなくていいから、優笑の気持ち的にはいつ先生と話したい?」
「うーん・・・、」
「あ、さっきも言ったけど帰り際に教えてくれればいいから、じっくり考えて!」
そう言われて、とりあえずドリアを一口食べた。
もう半分くらい冷めていて、出来立てはものすごく熱々だったから、
”広瀬君がこれだけの時間、真剣に話を聞いていてくれたんだよ”
って言うことを物語っているような気がした。
そして私は、もう一度思考を回転させた。
先生にいつ話すのか・・・か。
なんか、考え始めたものの、どういったタイミングで先生に話せばいいのかよくわからなかった。
そこで私は広瀬君に助け舟を出した。
「あのさ、私のちょっとした疑問なんだけど・・・」
「うん、なに?」
「先生に言うタイミングって、どういう時が良いのかな?」
「・・・・・・あー、たしかに、」
どうやら広瀬君もいまいちわからないらしい。
私はもう一人の頼れる人に聞いてみることにした。
【歩ちゃん!
急で申し訳ないんだけど、あの緑ちゃんたちのグループのことをもう一度先生と話し合うとしたらどういうタイミングがいいと思う??】
すると、助かることにすぐに既読が付いた。
そして数分後”ピコン”と通知音が聞こえた。
「ごめん、私のスマホ。」
そう広瀬君に言ってから通知を開く。
私はすぐに歩ちゃんからのメッセージを読み始めた。
【本当に急だね。
私、よくわからなかったから返信が遅れちゃったけど、少し思ったのは実際にどういうことを話して先生を納得させるかっていうのを考えて、それをまとめてから話さないと本番大変なんじゃないかなって、
でも私は優笑ちゃんがどんな経路でこの質問をしたか分からないから、あってるかはわからない!
だから、参考程度でどうぞ!
優笑ちゃんのためにできるだけ力を貸したいから何かあったらまた連絡してね!】
私はすぐに文字を打ち込んだ。
【歩ちゃんありがとう!
すごく参考になったよ!
また何かあったら連絡させてもらうね!】
そして送信ボタンを押すと私は広瀬君に顔を向けた。
「ねぇねぇ、今もう一人の信用できる子・・・というか、私のことを緑ちゃんたちからかばってくれたあの歩ちゃんにいつ、
どんなタイミングで先生に話せばいいのか聞いたんだ。
そしたら、”実際にどういうことを話して先生を納得させるかっていうのを考えて、それをまとめてから話さないと本番
大変なんじゃないかな”って返ってきたんだ!
私もたしかにどういう内容を話して先生を納得させるか考えないとだなって思った。
広瀬君は・・・どう思う?」
「うん、確かにそうだね。
実際どうやって納得させるか考えておかないと俺もテンパってうまく言葉が出ない気がする。」
「そっか、そしたら先生にどうやって話して納得させるか考えてからまた決めてもいい・・・?」
「うん。もちろん!
そしたらさ、いつでも話せるようにってことと、何か優笑にあった時のために連絡先交換してくれない・・・?
楽だと思うからさ・・・。
あ、いやだったら別にいいんだけど!」
「え・・・、ううん。嫌じゃない。
交換・・・していいよ。
はいっ」
急なことだったからびっくりしたけど、今回はしっかり答えられた。
「マジで!?
ありがとう!
うん。俺登録できた!
そしたら、なんかあったら連絡してくれていいからな。」
「わかった!ありがとう。」
そうして私のLAINの画面を見ると”友達”の人数は七人と表示されていた。
上の方には”sora★”という名前の欄ができていた。
そして私たちはそのあと残りのご飯を食べて、解散した。
私の服のポケットに入っているスマホがお守りのように感じた。
きっとそれは空君の連絡先が新しく追加されたからだろう。
私は安心した気持ちのまま家に帰った。
部屋に入って、今日の宿題をすることにした。
数学のプリント、英語の復習・・・と一つ一つかたずけていると”ピコン”とスマホが鳴った。
そのとたん集中がプツリと途切れた。
なんだろう・・・歩ちゃんかなと思いながらスマホのロックを解除した。
そして誰からの通知か確認すると
「え、広瀬君・・・?」
思わず声が出てしまった。
見間違いかもしれないと思い、もう一度確認したけどやっぱり見間違いではなかった。
「何かあったのかな」
そうしてメッセージをみた。
【優笑、さっきは話してくれてありがとう。
それでなんだけど、今どうすれば先生を納得させられるか考えてて、思ったんだけどさ先生には小学校の時のこと話したの?
もし話してなかったら、先生にも小学校であったことを話して、俺にも言ってくれたように
「そうやっていじめられたことがあって、それ以来近づかないようにしているのでそんなことできないです。」みたいに
言えば先生も『それなら、確かに優笑が本当にいじめたとは考えにくいな。』みたいに思ってくれるんじゃないかな?
急に送っちゃってごめんね。
優笑の意見を教えてくれると嬉しいな。】
と書かれていた。
メッセージは目の前に相手がいるわけじゃないから、”どう思ってるんだろう。”とか”うまく伝わったかな。”とかと、不安になることもあるものの、すぐに返信しなくても相手がトーク画面を開いていて既読マークを見ていなければいつ返しても問題がない・・・つまり落ちついてよく考えてから返事をすることができるということだ。
あとは、やっぱりこう返すべきじゃないと思ったら送信を取り消すこともできるから心にゆとりができる。
私は心を落ち着かせ、私は広瀬君のメッセージに対してどう返すかを考え始めた。
『・・・・・・、先生に小学校の話をすれば理解してくれるのだろうか。
私が先生だったら、理解して”優笑がいじめたわけじゃないのかもしれない”と思う。
だけどそれは私だけの考えだ。
広瀬君は、先生だったらどう思うだろう。』
そうして私は文字を打ち込んだ。
【広瀬君が先生だったら、私の小学校の時の話を聞いたらどう思う?】
送信ボタンを押して、返信を待つ・・・。
すると、すぐに返信が来た。
【俺だったら、信用するしかないなって思うかな。
だって、いじめられたっていう人の話を”嘘なのだろう”と思って信用しないのは先生としておかしいんじゃないかなって思うから。
だから、よほどの先生じゃない限り信じてくれると思うよ。】
そっか。
”よほどの先生じゃない限り”というところが気になったけれども、私は
『それなら先生に小学校の時の話をする価値はあるんじゃないか』と考えた。
【なるほど・・・!
教えてくれてありがとう!
それなら私、先生に小学校の話してみようかなって思った。
ちょっと覚悟がいるから先生に話すのは早くても明後日くらいになりそうなんだけど、大丈夫?】
私はそう返信した。
広瀬君は・・・このメッセージを見てどう思ったのか心配だった。
だって、『明後日か・・・』って思われてるかもしれないなって思ったから。
”信用していてもやっぱり不安になることもあるんだな”そう思いつつ返信を待った。
すると・・・
【わかった。明後日以降ね。
でも無理して急がなくていいからね。
優笑の準備ができたら言って。
待ってるね。】
というメッセージがきた。
内容からして『明後日か・・・』って思われてる可能性は少なさそうで安心した。
【うん。分かった!
ありがとう。】
そう返した。
そして私は残りの宿題を片付け、疲れ切った頭を睡眠で休めた。
そして二日間、シュミレーションを重ね少しずつ先生を納得させる自信が出てきた。
もう今日であの日から三日たち、そろそろ広瀬君に”もう大丈夫。先生に話に行こう。”と言った方がよさそうだ。
学校が終わり、部活を終え帰り道たまたま広瀬君を見つけた。
私は「広瀬君、お疲れ様。」と声をかけた。
ふと、いつの間にか勇気を出さなくても話しかけられるようになっていることに気が付き、嬉しくなった。
すると、広瀬君が振り返り
「お、優笑!お疲れ様!
どしたの?」
と返してくれた。
「あ・・・、あの先生の件なんだけど、待っててくれてありがとう。
そろそろ先生に話せそうになったから、今度言いに行けそうだよって伝えたかったんだ。
広瀬君、私にばっか合わせてくれているけど大丈夫?」
「うん。俺はいつでも大丈夫だから、優笑が大丈夫ならいいよ!
明日、放課後、部活ないから、昼休みとかに先生に放課後時間があるか聞いてみて、大丈夫そうだったら話す?」
「わかった。そうしよ!
うまくいくかな・・・。」
「先生を信じよ。
多分、わかってくれるよ。」
そうして話しているうちに私たちの帰る方向が別々になるところまできた。
「そしたら、また明日。」
「うん。明日、がんばろ。」
「だな!」
私たちはそんな言葉を交わしてそれぞれの道へ進んだ。
そして、今日はとうとう先生に話す日。
まだ、先生が放課後空いているか分からないから今日話すかは決まったわけではない。
でも、少し朝から落ち着かなかった。
広瀬君にも、「大丈夫?」と言われてしまうほどで・・・。
でも、私の心には『不安』の二文字が並んでいた。
昼休み、広瀬君は私のことを気にして、一人で先生に放課後時間があるか聞きに行ってくれた。
答えは「大丈夫だよ。そしたら放課後会議室Aで待ってるな」だったそうだ。
―――――迎えた放課後。
広瀬君と私は今、先生に指定された会議室Aの前にいた。
多分私の顔はやや青くなっていると思う。
隣の広瀬君も普段とは違い緊張しているのが私にもわかった。
「行くか。」
「う、うん。」
そうして私たちは扉を一気に開いた。
「おお、広瀬、七香。
待ってたぞ。
ここに座りなさい。」
そこには前と同じように机が置いてあり、先生に向かい合って二つのパイプいすが置かれていた。
「わたりました」
広瀬君がそう言い、歩き始めたので私はそれに続いて歩いた。
先生の前の椅子に座り、先生を見てみた。
ほんの二か月ぶりの先生は何も変わっていないはずなのに迫力がさらに増して大きく感じた。
「先生、わざわざ時間を取ってくださりありがとうございます。」
広瀬君が先に何か言ってくれるのでありがたかった。
わたしも急いでそれに続いて
「ありがとうございます。」
という。
先生は
「うん。
それで・・・話したいことというのは何かね?」
そう私たちに返した。
「優笑。」
広瀬君に名前を呼ばれ、「あ、わかった。」と返し一度深呼吸をしてから話し始めた。
―――――「そんなことがあったんだな。」
先生は私が話し終えるとそう言い放った。
でも、先生は「でもな・・・」と続けた。
嫌な予感がした。
急に太陽が雲に覆われ暗くなっていった・・・。
そんな中、先生は言葉を続けた―――――。
「あ、うん。」
広瀬君は少し間をおいてから話し始めた。
「俺、いろいろ考えたんだけど、多分、グループにやられたっていう方のことは先生に直接もう一回行って説得するのが一番早いかなって思うんだ。」
「え・・・でも、」
「うん。もちろん優笑一人だと前・・・俺がいなかった時と変わらないから今度は優笑と俺の二人で行くんだ。
優笑のサポートもしつつ、先生が納得するように手助けする。
こういうのはどうかな・・・」
私は返事に困ってしまった。
正直、先生に言ってもまたあの時のように言われてしまう気がする。
また傷ついてしまうかもしれないという思いから、恐怖で『その方法でやりたい。』という思いが薄れてしまう。
でも、心の端の方では『広瀬君と一緒ならどうにかして乗り越えられるかもしれない。』という思いもあった。
少し前のこういう状況の時は必ず逃げる方の道を選んでいた。
だけど今は、
「俺と一緒に頑張って先生に言ってみない?
二人なら納得してくれるかもよ?」
という広瀬君の言葉と存在が私の心の中の気持ちを揺らす。
「優笑?挑戦しないとうまくいくか、失敗するかなんて分からないよ?
次の一歩を踏み出さないと、俺にこのことを話したときの第一歩が水の泡になっちゃうよ?」
・・・確かにそうだ。
ここでまた逃げたら本当に、何のために私は広瀬君に話したのかわからなくなる。
そして広瀬君に話したときの勇気が無駄になってしまう。
だんだんと私の心の中は『広瀬君と一緒ならどうにかして乗り越えられるかもしれない。』という思いが強くなってきた。
私は・・・私は、
「うん。ちょっと怖いけど広瀬君とならもう一回勇気を出して先生に立ち向かえそう。」
「ほんと・・・⁉よかった!
そしたらこれからまた話し合っていつ先生に話すかみたいな詳しいこと、決めないとだね!
だけど、その前に・・・広瀬君って言ってたよー?」
「あ・・・空、くん」
やっぱりまだ言えるようにはなっていなかった。
しかも、まだカタコトに名前を呼ぶことしかできない。
もっと練習しないとだ。
「あの・・・空、くん。」
「ん?どうしたの?」
「あの、せっかく少し友達になれた記念とかその・・・先生にいつ話に行くとか決めるためにってことで、どこか行かない?」
広瀬君の目は大きく見開かれた。
私も・・・自分の言ったことに対して本当に驚いていた。
私、何言ってるんだろ。
絶対広瀬君には迷惑でしかないじゃん。
「あ・・・ごめん、やっぱ嘘!」
「大丈夫だよ?”迷惑だ”とか思ったんでしょ?
そんなことないよ。
しかも・・・俺も行きたいし。」
私は広瀬君が嫌がってなかったことに対して喜びの気持ちがあった。
「優笑。時間も遅いから夜ご飯の代わり・・・で、いい?」
「うん・・・!」
なんか、本当に広瀬君には心を開いたんだなと感じた。
だって、だんだんと歩ちゃんのように心を許している人としかしないことを広瀬君としているから。
だからそういう風に信用できる人が近くにいてくれると心強かった。
◇
「なんか不思議な感じがするね・・・!」
私たちは近くのファミレスに行った。
今は料理を注文をして待っているところだ。
「確かに、なんか不思議だね。」
「うん。」
「そしたら、どうしよっか。」
「本題の話する?」
「そうだね、話そ!」
そして、話始めることにした。
「先生に前話した時のことと、グループにされた時のことをもう少し話してもらってもいい?」
「うん。分かった。」
「えっとね・・・
―――――っていう感じかな、」
そうして私はグループとの出来事を小学校の時のことを含めて一つ一つ細かく話した。
やっぱりそのことは本当に思い出してしまうと目の前にその光景が広がって、本当に今そういわれたかのようにリアルに
フラッシュバックしてしまう。
だから今回も途中で言葉が出なくなってしまったり、涙が出てきてしまったりしたけどそのたびに
広瀬君がドリンクバーのジュースを「席は離れるけどすぐに戻って来るからね。」と言ってから急いで取ってきてくれたり、
「優笑が話せそうなだけでいいからね。」といって気を使ってくれたり、
「ご飯来たけど、食べて気が落ち着いてからまた話す?」と提案してくれたりした。
その広瀬君のお陰でご飯もやや食べつつ、話し終えることができた。
「そっか・・・やっぱり何度聞いてもその緑ちゃんたちはひどいね、
聞いてるこっちまで悲しくなってくる、
先生も、優笑がするはずないって思わないのかな。
―――――っていうのが今話を聞いたことの率直な気持ち・・・かな。
今話してくれたことをされたら、誰だって人間不信になると思うし、もう一回立ち向かおうとする人はそこまでいないと思うから、本当に優笑はすごいね。
俺も、そんな頑張っている優笑の役に立てるように頑張るね。
それで、なんだけど。
優笑は話し終えたばっかりで疲れてると思うからご飯を食べつつ考えてもらって、帰り際に教えてくれればいいんだけどさ
俺のことは考えなくていいから、優笑の気持ち的にはいつ先生と話したい?」
「うーん・・・、」
「あ、さっきも言ったけど帰り際に教えてくれればいいから、じっくり考えて!」
そう言われて、とりあえずドリアを一口食べた。
もう半分くらい冷めていて、出来立てはものすごく熱々だったから、
”広瀬君がこれだけの時間、真剣に話を聞いていてくれたんだよ”
って言うことを物語っているような気がした。
そして私は、もう一度思考を回転させた。
先生にいつ話すのか・・・か。
なんか、考え始めたものの、どういったタイミングで先生に話せばいいのかよくわからなかった。
そこで私は広瀬君に助け舟を出した。
「あのさ、私のちょっとした疑問なんだけど・・・」
「うん、なに?」
「先生に言うタイミングって、どういう時が良いのかな?」
「・・・・・・あー、たしかに、」
どうやら広瀬君もいまいちわからないらしい。
私はもう一人の頼れる人に聞いてみることにした。
【歩ちゃん!
急で申し訳ないんだけど、あの緑ちゃんたちのグループのことをもう一度先生と話し合うとしたらどういうタイミングがいいと思う??】
すると、助かることにすぐに既読が付いた。
そして数分後”ピコン”と通知音が聞こえた。
「ごめん、私のスマホ。」
そう広瀬君に言ってから通知を開く。
私はすぐに歩ちゃんからのメッセージを読み始めた。
【本当に急だね。
私、よくわからなかったから返信が遅れちゃったけど、少し思ったのは実際にどういうことを話して先生を納得させるかっていうのを考えて、それをまとめてから話さないと本番大変なんじゃないかなって、
でも私は優笑ちゃんがどんな経路でこの質問をしたか分からないから、あってるかはわからない!
だから、参考程度でどうぞ!
優笑ちゃんのためにできるだけ力を貸したいから何かあったらまた連絡してね!】
私はすぐに文字を打ち込んだ。
【歩ちゃんありがとう!
すごく参考になったよ!
また何かあったら連絡させてもらうね!】
そして送信ボタンを押すと私は広瀬君に顔を向けた。
「ねぇねぇ、今もう一人の信用できる子・・・というか、私のことを緑ちゃんたちからかばってくれたあの歩ちゃんにいつ、
どんなタイミングで先生に話せばいいのか聞いたんだ。
そしたら、”実際にどういうことを話して先生を納得させるかっていうのを考えて、それをまとめてから話さないと本番
大変なんじゃないかな”って返ってきたんだ!
私もたしかにどういう内容を話して先生を納得させるか考えないとだなって思った。
広瀬君は・・・どう思う?」
「うん、確かにそうだね。
実際どうやって納得させるか考えておかないと俺もテンパってうまく言葉が出ない気がする。」
「そっか、そしたら先生にどうやって話して納得させるか考えてからまた決めてもいい・・・?」
「うん。もちろん!
そしたらさ、いつでも話せるようにってことと、何か優笑にあった時のために連絡先交換してくれない・・・?
楽だと思うからさ・・・。
あ、いやだったら別にいいんだけど!」
「え・・・、ううん。嫌じゃない。
交換・・・していいよ。
はいっ」
急なことだったからびっくりしたけど、今回はしっかり答えられた。
「マジで!?
ありがとう!
うん。俺登録できた!
そしたら、なんかあったら連絡してくれていいからな。」
「わかった!ありがとう。」
そうして私のLAINの画面を見ると”友達”の人数は七人と表示されていた。
上の方には”sora★”という名前の欄ができていた。
そして私たちはそのあと残りのご飯を食べて、解散した。
私の服のポケットに入っているスマホがお守りのように感じた。
きっとそれは空君の連絡先が新しく追加されたからだろう。
私は安心した気持ちのまま家に帰った。
部屋に入って、今日の宿題をすることにした。
数学のプリント、英語の復習・・・と一つ一つかたずけていると”ピコン”とスマホが鳴った。
そのとたん集中がプツリと途切れた。
なんだろう・・・歩ちゃんかなと思いながらスマホのロックを解除した。
そして誰からの通知か確認すると
「え、広瀬君・・・?」
思わず声が出てしまった。
見間違いかもしれないと思い、もう一度確認したけどやっぱり見間違いではなかった。
「何かあったのかな」
そうしてメッセージをみた。
【優笑、さっきは話してくれてありがとう。
それでなんだけど、今どうすれば先生を納得させられるか考えてて、思ったんだけどさ先生には小学校の時のこと話したの?
もし話してなかったら、先生にも小学校であったことを話して、俺にも言ってくれたように
「そうやっていじめられたことがあって、それ以来近づかないようにしているのでそんなことできないです。」みたいに
言えば先生も『それなら、確かに優笑が本当にいじめたとは考えにくいな。』みたいに思ってくれるんじゃないかな?
急に送っちゃってごめんね。
優笑の意見を教えてくれると嬉しいな。】
と書かれていた。
メッセージは目の前に相手がいるわけじゃないから、”どう思ってるんだろう。”とか”うまく伝わったかな。”とかと、不安になることもあるものの、すぐに返信しなくても相手がトーク画面を開いていて既読マークを見ていなければいつ返しても問題がない・・・つまり落ちついてよく考えてから返事をすることができるということだ。
あとは、やっぱりこう返すべきじゃないと思ったら送信を取り消すこともできるから心にゆとりができる。
私は心を落ち着かせ、私は広瀬君のメッセージに対してどう返すかを考え始めた。
『・・・・・・、先生に小学校の話をすれば理解してくれるのだろうか。
私が先生だったら、理解して”優笑がいじめたわけじゃないのかもしれない”と思う。
だけどそれは私だけの考えだ。
広瀬君は、先生だったらどう思うだろう。』
そうして私は文字を打ち込んだ。
【広瀬君が先生だったら、私の小学校の時の話を聞いたらどう思う?】
送信ボタンを押して、返信を待つ・・・。
すると、すぐに返信が来た。
【俺だったら、信用するしかないなって思うかな。
だって、いじめられたっていう人の話を”嘘なのだろう”と思って信用しないのは先生としておかしいんじゃないかなって思うから。
だから、よほどの先生じゃない限り信じてくれると思うよ。】
そっか。
”よほどの先生じゃない限り”というところが気になったけれども、私は
『それなら先生に小学校の時の話をする価値はあるんじゃないか』と考えた。
【なるほど・・・!
教えてくれてありがとう!
それなら私、先生に小学校の話してみようかなって思った。
ちょっと覚悟がいるから先生に話すのは早くても明後日くらいになりそうなんだけど、大丈夫?】
私はそう返信した。
広瀬君は・・・このメッセージを見てどう思ったのか心配だった。
だって、『明後日か・・・』って思われてるかもしれないなって思ったから。
”信用していてもやっぱり不安になることもあるんだな”そう思いつつ返信を待った。
すると・・・
【わかった。明後日以降ね。
でも無理して急がなくていいからね。
優笑の準備ができたら言って。
待ってるね。】
というメッセージがきた。
内容からして『明後日か・・・』って思われてる可能性は少なさそうで安心した。
【うん。分かった!
ありがとう。】
そう返した。
そして私は残りの宿題を片付け、疲れ切った頭を睡眠で休めた。
そして二日間、シュミレーションを重ね少しずつ先生を納得させる自信が出てきた。
もう今日であの日から三日たち、そろそろ広瀬君に”もう大丈夫。先生に話に行こう。”と言った方がよさそうだ。
学校が終わり、部活を終え帰り道たまたま広瀬君を見つけた。
私は「広瀬君、お疲れ様。」と声をかけた。
ふと、いつの間にか勇気を出さなくても話しかけられるようになっていることに気が付き、嬉しくなった。
すると、広瀬君が振り返り
「お、優笑!お疲れ様!
どしたの?」
と返してくれた。
「あ・・・、あの先生の件なんだけど、待っててくれてありがとう。
そろそろ先生に話せそうになったから、今度言いに行けそうだよって伝えたかったんだ。
広瀬君、私にばっか合わせてくれているけど大丈夫?」
「うん。俺はいつでも大丈夫だから、優笑が大丈夫ならいいよ!
明日、放課後、部活ないから、昼休みとかに先生に放課後時間があるか聞いてみて、大丈夫そうだったら話す?」
「わかった。そうしよ!
うまくいくかな・・・。」
「先生を信じよ。
多分、わかってくれるよ。」
そうして話しているうちに私たちの帰る方向が別々になるところまできた。
「そしたら、また明日。」
「うん。明日、がんばろ。」
「だな!」
私たちはそんな言葉を交わしてそれぞれの道へ進んだ。
そして、今日はとうとう先生に話す日。
まだ、先生が放課後空いているか分からないから今日話すかは決まったわけではない。
でも、少し朝から落ち着かなかった。
広瀬君にも、「大丈夫?」と言われてしまうほどで・・・。
でも、私の心には『不安』の二文字が並んでいた。
昼休み、広瀬君は私のことを気にして、一人で先生に放課後時間があるか聞きに行ってくれた。
答えは「大丈夫だよ。そしたら放課後会議室Aで待ってるな」だったそうだ。
―――――迎えた放課後。
広瀬君と私は今、先生に指定された会議室Aの前にいた。
多分私の顔はやや青くなっていると思う。
隣の広瀬君も普段とは違い緊張しているのが私にもわかった。
「行くか。」
「う、うん。」
そうして私たちは扉を一気に開いた。
「おお、広瀬、七香。
待ってたぞ。
ここに座りなさい。」
そこには前と同じように机が置いてあり、先生に向かい合って二つのパイプいすが置かれていた。
「わたりました」
広瀬君がそう言い、歩き始めたので私はそれに続いて歩いた。
先生の前の椅子に座り、先生を見てみた。
ほんの二か月ぶりの先生は何も変わっていないはずなのに迫力がさらに増して大きく感じた。
「先生、わざわざ時間を取ってくださりありがとうございます。」
広瀬君が先に何か言ってくれるのでありがたかった。
わたしも急いでそれに続いて
「ありがとうございます。」
という。
先生は
「うん。
それで・・・話したいことというのは何かね?」
そう私たちに返した。
「優笑。」
広瀬君に名前を呼ばれ、「あ、わかった。」と返し一度深呼吸をしてから話し始めた。
―――――「そんなことがあったんだな。」
先生は私が話し終えるとそう言い放った。
でも、先生は「でもな・・・」と続けた。
嫌な予感がした。
急に太陽が雲に覆われ暗くなっていった・・・。
そんな中、先生は言葉を続けた―――――。