土曜日の午後一時半。
午前中に部活を終わらせた私は電車で揺られ続くこと約二時間。
人であふれかえっている東京駅にいた。
今日はなぜここに一人で来たのかというと・・・
「優笑ちゃーん!
久しぶりー!」
とある人が私に手を振りながら走ってきた。
「歩ちゃん!久しぶりー!」
そう。”ある人”とは歩ちゃんのことだ。
実はこの間のメッセージは歩ちゃんからのもので、いろいろあって今日会うことになったのだ。
歩ちゃんと会って何をするのかというと、私のあの相談に乗ってもらうためだ。
ちなみになぜメッセージ内ではなくわざわざ会って話すことになったかというと歩ちゃんがお互いの場所から
中間くらいに位置する東京駅に集合しておいしいものを一緒に食べたいという要望と直接会ったほうが話がしやすいのでは
ないかという考えを聞いたからだ。
「東京やっぱすごいね。周りに人しかいないもん。
私たち、こんなにすんなり会えてよかったね。」
「確かに。こんなに人がいると、東京駅に初めて来る私達が出会うこと自体が大変そうだもんね。」
「そうそう!」
「じゃあとりあえず駅から出る?」
「うん。そーしよ!」
そう言って駅から外に出た。
四月の東京は熱気のせいもあって暖かかった。
あらかじめどこのお店に行くのか考えてくれていた場所にスマホの地図を頼りに進んでいく。
「目的地に到着しました。案内を終了します。」
そういわれ目線をスマホの地図から正面のお店へと移す。
薄いエメラルドグリーンの色と薄い空色を混ぜたような色の壁がおしゃれな感じを出しているカフェだった。
ここに来る途中に聞いた歩ちゃんの話によるとここのパンケーキが有名でものすごくおいしいらしい。
お店の名前をみて本当にこのお店であっているか確認した後、私たちはお店の扉を開けた。
”チャリン”という音とともにドアを閉め外の空気が入ってこなくなったとたん、ラベンダーのにおいが鼻をかすめた。
「すっごいいい香り・・・!」
隣の歩ちゃんもそう口にしていた。
すると奥から店員さんが来た。
「いらっしゃいませ!二名様でよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です。」
そうして案内されたのは窓際に位置する席だった。
窓の外にはさっきまでのにぎやかな東京らしい雰囲気とはかけ離れたきれいな庭園のようなものが広がっていた。
「ここ、いろいろすごいね。めっちゃおしゃれだし!」
「でしょでしょ!いつか来てみたいなーって思ってたところなんだ!
一緒に来てくれてありがとね!」
「うん!こちらこそ連れてきてくれてありがとう!」
そんな会話の後、テーブルの上に置いてあるメニュー表を広げてみた。
そこにはパンケーキ以外にもフレンチトーストやパフェなど様々な文字が並んでいた。
だけど私も歩ちゃんも有名でものすごくおいしいらしいパンケーキが気になって頼んだ。
数分待ってパンケーキが運ばれてきた。
テーブルの上のパンケーキからは蜂蜜の甘いにおいが漂ってきた。
そして、横にあるアイスとお皿全体にうまく散りばめられているブルーベリーやラズベリーがそのパンケーキを
さらにおいしそうにさせていた。
「「いただきます」」
そうして口に入れたパンケーキは思わず笑みがこぼれるほどおいしかった。
おいしすぎて夢中になってほおばっていると歩ちゃんが
「優笑ちゃんが気に入ってくれたみたいでよかった!
ところで、相談ってなに?」
と言ってきた。
そうだ・・・!
私は思いっきりパンケーキに夢中になりすぎて一番重要なことを忘れていた。
「あっ!そうだったね!ごめんごめん。
あのさ、実は友達関係のことでいろいろあって・・・・・。」
と、クラス替えのこと、広瀬君のこと、そして広瀬君に言われて悩んでることなど歩ちゃんが転校した後のことを片っ端から
詳しく説明した。
歩ちゃんは
「なるほどね・・・。
そっかそっか。大変だったね。」
と言ってくれた。そして、
「私のことは信頼してくれているの?」
と聞いてきた。
「そんなのあたりまえ!めっちゃ信用してるよ!
だからこうやって出かけてるんだもん!」
「そしたらさ、この”誰かに聞いて、頼ってみる”の『誰か』を私にしたら・・・?
それじゃ、やだ?」
その言葉を聞いた途端、
「なるほど・・・!」
と、声が出るほど納得した。
「もちろん学校がもう別々だから直接そこに行って何かをしてあげるっていうのはできないんだけどね。
だから考えとかなら出すけど、それを実行することになったらその時は優笑ちゃん一人だけど大丈夫?」
「うん。実行させられるかはわからないけどさ、いざ実行するってなったら頑張るつもり!
だから大丈夫!」
と、答えた。
するとさっそく
「じゃあさ提案なんだけど・・・いい?」
と何かを考えてくれた。
「うん。全然いいよ!なに?」
「まずはさ、少し勇気がいると思うけどその広瀬君って子に優笑ちゃんの昔のこととか自分の気持ちとかもまとめて
全部いったん話してみたら?」
そう提案してくれた。 が、
「そうすることに何の意味だあるかわからないんだけど・・・さ、どういう事?」
と私は聞いた。
「それはさ、私の偏見でもあるんだけど、優笑ちゃんの話を聞いてみて多分今、学校で一番本当のことを話したときに納得して
仲間になってくれそうなのは広瀬君だけだと思うんだよね。」
「なんで?」
「だって、広瀬君はいままで優笑ちゃんの悪口いってなさそうじゃん?」
私は思い返してみた。
すると確かに広瀬君が私の悪口を一回も言っていないことに気が付いた。
でも・・・
「でもさ、私の知らないところで言いふらしてるかもよ?」
「うーん、確かにそうかもしれないね。
だけどそれは優笑ちゃんの勝手な想像なだけであって、本当は悪口を言ってないかもしれないよ?」
「それは・・・たしかに。」
「ね!だから、多分広瀬君は悪い人じゃないから自分の気持ちを話して、そのあと広瀬君にどうすればいいか聞いてみたら?
そしたらまた私に連絡してよ!
もしも広瀬君が優笑ちゃんの悪口言ってたらその時すぐに連絡ちょうだい!」
「わかった。」
「うん!」
「ありがと!」
「どういたしまして!
力になれてよかった!」
「うん!」
そうして私は残りのパンケーキを”パクパクッ”と食べた。
少し冷めてたけどいい感じにアイスの甘さと冷たさがパンケーキをおいしくさせていて、本当においしかった。
東京駅に戻ってきて、私たちは
「本当に今日は相談に乗ってくれてありがとう!」
「ううん!全然!こちらこそ一緒にカフェにパンケーキ食べに行ってくれてありがとう!」
「うん!」
「そしたら気をつけて帰ってね!」
「歩ちゃんも気を付けてね!」
「うん!」
「それじゃ、またね!」
「うん!また!」
と言葉を交わして、それぞれの電車のホームに向かって歩き出した。
家に帰るまでの間私は、頭の中でいつどこでどんな風に広瀬君と話すかを考えた。
私は自分のやるべきものは基本はやく終わらせたい派の人なので明日ささっと話したいと思った。
でも明日は部活が休み。
広瀬君と会うのは無理そうだ。
となると、月曜日がよさそうだ。
でも、どこで話そう・・・。
朝授業が始まるまでの間。は、広瀬君の登校時間がぎりぎりだから絶対厳しい。
昼休み、・・・ううん。周りに人がいるから絶対ダメだ。
部活の時間はそもそも時間がないし・・・
そのとき私は、広瀬君に下校中話しかけられたことを思いだし、そこで通学路が途中まで同じことに気が付いた。
下校中なら部活後になるから周りにほとんど人がいないし、時間にもゆとりが持てそうだからぴったりだ。
そうして私は月曜日の部活後の下校中に話すことにした。
電車の外は薄明るい空が広がっていた。
前まではもう真っ暗だったのになと思いながら私は外の景色をぼんやり眺めて時間をつぶした。
そして迎えた月曜日。
私は不安を抱えながら学校についた。
学校にはやっぱりまだ広瀬君は来ていなかった。
「学校、休むとかないよね・・・。」
私は気づかないうちにそんなことをつぶやいていた。
いつもはそもそも広瀬君のことすら考えていないのに、なんでだろ。
こんな風にいつも思ってないことを考えてしまうことがうっとうしくなって私は小説を読み始めた。
だけど・・・
「だめだ。全く頭に入ってこない。」
何行も読んではいるものの、目で見た情報を理解しようとせずそのまま頭の中を通り過ぎて行っていく。
こんな感じで、内容が全く入ってこなかった。
『なんでこんなにいつもと違うことしようとすると変に緊張しちゃうんだろうな、』
と窓の外をぼんやりと眺めた。
そうして、あっという間に放課後になった。
時間は、『ゆっくり進んでほしいな』と思うとはやく進み、『早く時間が過ぎてほしい』と思うとゆっくり進む。
本当に嫌なことだ。
朝は、”まだ時間あるから焦ったり変に怖がらなくても大丈夫”って自分に言い聞かせていたけど、もう放課後になると
朝みたいに”大丈夫”と自分に言い聞かせるような余裕がなくなっていた。
そしてあたふたして、余裕のなさが消えることなく過ごしている間に部活は終わってしまった。
「気を付けー、礼!」
「「「「「・・ありがとうございましたー」」」」」
というあいさつでみんな家に方向に散っていく。
いつもはここでサッと一番に帰るけど今日は広瀬君率いる男バレー部のミーティングが終わるまで待たなければいけない。
私はその待っている間、何回もこれからのことをシュミレーションして、本番失敗しないようにしようと考え、
どうすればいいか、頭の中でこの前の歩ちゃんと東京駅であった日の夜に送られてきた歩ちゃんからのメッセージを
思い出した。
「ピロン」
「・・・・・!歩ちゃんからだ」
私はそんな声を出して、スマホを手に取った。
そして歩ちゃんとのトーク画面を開くと
【優笑ちゃん、今日は本当にありがとう!
それで、おせっかいだったらごめんなんだけど広瀬君と話すときの例というか、ひとつの参考として、
こんな感じでやればいいんじゃないかって私なりに考えたからさ、少し困ったときにに見てみて!】
と送られてきていた。
そしてすぐに次のメッセージが届いた。
【・話しかけるとき
”ねね、今大丈夫?”といきなり本題に入らないように気を付けて、広瀬君に今時間があるかどうかを聞いてみる。
・広瀬君から「ある」ということを表す言葉が返ってきた場合
”あのさ、いきなり本題にはいると”・・・みたいに始めて、優笑ちゃんの昔のことを話し始めちゃう。
・「ちょっと難しいかも」みたいに「時間がないこと」を表す言葉が返ってきた場合
しっかり、「そっか、わかった!そしたら今度話せそうなとき教えて!」って感じに言う。
・最後言い終わったとき
「こういう事だったんだよね、最後まで聞いてくれてありがとう。」とお礼を必ずいう。
・広瀬君に”こうすればいいんじゃない?”みたいなことを言われたとき
焦らず冷静に「分かった、ありがとう!家に帰ってもう少し考えてみるね」っていう。
だいたいこんな感じかな!
ほんとになんか命令してるみたいな書き方になっちゃってごめんね、】
という内容だった。
だから・・・
広瀬君を見つけたら、
「広瀬君、久しぶり!急に話しかけてごめんね。
今ちょっと時間ある?」
って聞いて、
「うん、あるよ!なに?」
みたいに言われたら、私の過去の話とか終業式近くの日にされたこと、あと先生のこととかを話す。
で、言い終わったら
「こんなことがあったんだ、だからこの間はきつい言い方してごめん。
聞いてくれてありがとう。」
と、前逃げたことについて謝り、話を聞いてくれたことに対してお礼を言う。
もしも
「ごめん、これからちょっと予定入ってて厳しいかも、」
みたいに言われたら、
「わかった!むしろ私のほうこそ急に話しかけてごめん!」
としっかり話す。そして、
「今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。
次は絶対に逃げないから!」
っていって、話を今度できるようにする!
そして、話が一通り終わったら
「そしたらまた明日ね!」
と笑顔でいって広瀬君とわかれる。
・・・という感じでやればいいんだろう。
「うん、私にしてはいいシュミレーションができた気がする!
きっとうまくいく!
もし焦ったら歩ちゃんのメッセージを思いだして冷静になろう!
大丈夫、大丈夫・・・!」
そう一人で自分のことを精一杯励まして、手のひらに
『きっと大丈夫!』
と文字を指で書いて、その書いた文字を食べるふりをして少しだけ緊張を和らげた。
そして、気づくと男バレー部のミーティングはもう終わっていてみんなは、ばらけ始めていた。
私は急いで広瀬君が学校にいないことを確認して正門を通った。
そして、
『まだ男バレー部のほとんどの人が残っていたはずだから、きっと広瀬君もまだ近くにいるはず!』
と思い、通学路を走った。
少しだけ走っていると、広瀬君が見えてきた。
『あれが広瀬君でありますように・・・!』
そして走り続け私は前の人影が広瀬君であることを確認した。
運よく広瀬君が信号で止まったので私は一気に距離を詰め
「広瀬君、」
と呼んだ。
すると広瀬君の目線は動いた。
だけど私と目はあわなかった。
「お、萩原ー!
久しぶり!」
そう。
広瀬君の目線は少なくとも私のクラスではない人に向けられたのだ。
でも、そのあと私のほうに目線がいき、目と目が合った。
「・・・っ!!」
私は驚きすぎて、声が出なかった。
広瀬君は私の声も聞こえたのだろうか。
なにを言ったほうがいいのか困っていると、広瀬君は何も見ていないかのようにスッと目線を「萩原」と名前を
呼んでいた人のほうに戻ってしまった。
きっと、なにかほかのことがあってこっちに目線がいって、たまたま私と目が合っただけなのだろう。
なのに、”なにを言ったほうがいいのか”と勝手に困っていた自分を恥ずかしく思った。
そして私は本当は広瀬君とまだ通学路が同じだけれど、わざと別の道を走って進んだ。
せっかく勇気を出して話しかけて相談しようとするところまで行ったのに、うまくいかなかったことが悔しくて
泣いてしまった。
私は、泣き顔が見られたくなくて途中にあった公園に入っていき、ベンチがやや汚れているとかということを全く気にせずに
座りそのままずっと気が済むまで泣いた。
そして、私は泣き疲れ、家に帰ることにした。
空を見上げると、もう夕焼けのオレンジ色が夜の闇色にのまれ始めていた。
自分の部屋の明かりをつける。
全身鏡に顔をのぞかせると目が腫れていた。
「こんなに泣くなんて、ダサいよ。」
私は鏡に映る自分にそういって背を向けた。
でも、あんなに頑張ってシュミレーションして、自分がもう一度変わろうとする第一歩だったのにこんな風になってしまって
悔しかった。
そして私は部屋に転がっていたスマホを手に取り、歩ちゃんに電話した。
「プルルルル・・・プルルルル・・・」
ニコール、サンコールと呼び出し音が続き、
『またかけ直そうかな。』
と思ったとき、
「もしもし?電話に出るの遅くなってごめん。」
と声がした。
「歩ちゃん・・・!」
私は泣くつもりは全くなかったのに泣いてしまった。
「ど、どうしたの!?
何かあった?」
歩ちゃんは驚いたような心配するような声で電話の向こうから話してくれる。
「急に泣いたりしてごめん、
わたし・・・私さ・・・」
「優笑ちゃんのペースでゆっくり話していいよ?」
「うん、ありがとう。」
私は深呼吸をしてもう一度話し始めた。
「あのさ、私実は今日の放課後に広瀬君にあの事を話そうとしてたんだ。
だけど、話しかけようとして”広瀬君、”って呼んだら、ちょうどおんなじタイミングで広瀬君の友達がでてきて、
広瀬君はそっちに行っちゃって、話せなくて、勇気出したのにこんなことになって悔しくて・・・」
深呼吸した割にはカタコトなしゃべり方になってしまったが、歩ちゃんは
「そっか、そっか。
せっかく頑張ったのにうまくいかないと嫌な感じになるのは私も良くわかるよ。。
もしかして、優笑ちゃんのことだから、一回失敗してもう無理だなんて思ってるんじゃない?」
と、しっかり聞いて話してくれた。
私は、”もう無理だなんて思ってるんじゃない?”と言われてはっとした。
だって、悔しいと思いながらも同時にやっぱり一度”もう関わらないで”みたいなことを言っちゃったから話しかけても
聞いてくれないだろうって心のどこかで思ってたから。
だから、白状した。
「うん。そうかもしれない。
きっと話しかけてもどうせ・・・みたいに思ってた。」
「やっぱりか。優笑ちゃんのことだからそうなんじゃないかって思ってたよ。
でも、本当にそう思って、そんな簡単に諦めちゃうの?
もっと頑張ってみたら?
広瀬君にも、”もう一回違う方法で頑張ってみたら?”みたいなこと言われたんじゃないの?」
「・・・そうだね、そんなこと言われた。
でも、次もまた何かが起きて話せなかったらどうすればいいの?」
「そしたらその時は私が優笑ちゃんのこと支えて、電話越しになっちゃうけど話聞くよ!」
「そっか、そっかそっか、
私歩ちゃんっていう味方がいるんだね。
そんな味方が支えてくれてるって思ったらもう一回頑張れるかも。」
「味方がいるって・・・、
いままでも、これからも変わらないことだよ?」
「そうだね、そんなことを忘れちゃってごめん。」
「うん。
これからもしっかり覚えておいてね!」
「分かった。」
「よし!
それじゃ、もう一回頑張って話せそうだね・・・?」
「うん。話せそう!
話、聞いてくれてありがとう。」
「うん。こちらこそ!
優笑ちゃんが頑張っているなら私も何か頑張らないとだね!
気合い入れてくれてありがとう!」
歩ちゃんがそんなことを急に言ったから私たちは笑った。
お腹を抱えて笑った。
周りから見たら、全く面白くないと思うと私でさえ思ったけど、今はなぜか面白かった。
そんな笑いと一緒に、
”もう一回広瀬君と話すことはできないかもしれない”という思いは飛んで行った。
今日は火曜日。
昨日は広瀬君に話しかけようとして失敗しちゃって、夕方はいろいろあったけど、歩ちゃんとの電話のお陰で私は今日の朝は
昨日のことを引きずらないで気持ちよく起きられた。
そして、私は今日、”もう一回頑張って話しかけよう”という気持ちが消えないうちにまた広瀬君に話しかけようと決めた。
でも今日は昨日とは違って少し落ち着いて居られている気がする。
それは昨日思いっきり緊張して、私はその緊張になれたからだろうか。
まあ、何にしても焦らないでいられると自分自身もしっかりやりこなせそうで安心した。
いつも通りの感じで学校に着き教室に行くと、今日は珍しくもう広瀬君は学校に来ていた。
私が机にリュックを置くと、なぜか広瀬君はこっちに向かって歩いてきた。
いきなりだったし、シュミレーションになかったことだったから朝までの安心な気持ちは一気に消え、驚きと緊張と恐怖で
私は完全にパニック状態になってしまった。
一方、広瀬君は私が戸惑っている間もどんどん近づいてきている。
『いっそのこと前のように逃げてしまおうか』
私がついにそんなことを思い始めたとき、広瀬君が
「優笑、ちょっといいか?」
と声をかけてきた。
「え、あ、うん。」
自分がこの場から逃げないためであり、広瀬君とも話すチャンスができるように私は願いながら答えた。
すると、広瀬君からの言葉は予想外だった。
「昨日のことなんだけど・・・、ごめん。」
私はてっきり、
『”もうあんまり関わりに来ないで”みたいなことを自分から言いに来たくせに、なんで昨日俺の子と呼んだの?
おかしくない!?』
とか、
『昨日なんかいようとしたよね?
どしたの?』
みたいに言われると思っていたから、「ごめん。」と謝られたのだ。
『本当は、口が少し悪いだけで歩ちゃんの言っていたように優しい人なのかもしれないな。』
と思い、”まだ心の中のどこかに広瀬君も私の悪口を陰で言っているかもしれない。”という気持ちが消えた。
私は
「えっと・・・、
私の声に気づいてないのかと思ってた。」
そう広瀬君に行った。
広瀬君は眉を少し下げて、
「そんなわけないじゃん。
しっかり聞こえてたよ!
でもあの時、俺の友達がいて声かけたらたまたま優笑とかぶっちゃって、俺が友達に声かけたから”やっぱ何でもない!”
って取り消せなくて、友達のほう行っちゃったんだよね、ほんとごめん。
嫌な思いさせちゃったよね・・・?」
「ううん、大丈夫。私にとっては謝ってくれただけでうれしいからさ。
私のほうこそ、心のどこかで広瀬君のことを勝手に解釈して悪く言ってたから、ごめん。」
「ううん。そう解釈するのは当たり前だよ。
だからもう謝らないで?」
「分かった。」
「うん。それで・・・あの時、何を言おうとしてたの?」
「あーーー、えっと・・・」
そんな話になるだろうと途中から思ってきていたものの、いざそのことを聞いて、シュミレーションと違った状況だから
なんと答えればいいのかわからない。
・・・でも、少なくともこの場では話せない。
話の内容が大事なこと過ぎるから。
クラスの人に聞かれたら終わり。
絶対にどんどん広まっていく。
だから、”今はちょっと難しいので・・・”と言おうとした、でもなんていえばいい?
困っていると、 広瀬君は
「大丈夫?」
と首を傾けて私のほうを見ていた。
やばい・・・、待たせてる。
そう思うと余計に”急いで答えないと”と焦ってしまう。
すると、シュミレーションしていた中に今使えそうな言葉を見つけた。
―――――もしも、
『ごめん、これからちょっと予定入ってて厳しいかも、』
みたいに言われたら、
『わかった!むしろ私のほうこそ急に話しかけてごめん!』
としっかり話す。そして、
『今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。
次は絶対に逃げないから!』
っていって、話を今度できるようにする!
という、『今時間ある?』と聞いて無理そうだった時のシュミレーションだ。
私が今使えそうだと感じたのは、その中の
『今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。』
という部分。
うん。きっとこの場に適してる!
そう考え、私は広瀬君に
「今度、周りに人がいなくて話す時間ありそうなとき、話しかけてもらってもいいかな。」
と、シュミレーション通りに話した。
すると、しっかりわかってくれたみたいで、
「おう。分かった。
そしたらまた今度な。」
と言って去って行ってくれた。
自分のピンチがこんな風に救われるとは思ってもなかったから、あの時、本当にシュミレーションをしっかりしておいて
よかったなと過去の自分をほめた。
そして今回のことで
『自分のシュミレーションの中のことが別の場合にも活用することができる』
ということを知り、新たな自信になった。
だから、今のことに関しては本当に、話しかけてくれた広瀬君のおかげだし、私自身も逃げずに頑張って残ったことで
いい経験につながったから、よかったと思った。
「また、いつかは分からないけど、広瀬君が話しかけてきたら今みたいに頑張ろう!」
私はそう口にし、気合を入れた。
部活動の時間になった。
相変わらず、今までは周りにずっと人がいる感じだったけど、さっきよりかは人が少ない。
だけど、広瀬君は来そうにない。
・・・きっと、私の時のように帰りの時に話そうとしているのだろう。
そう思い、部活に集中した。
―――――はずだった。
私は、集中してたのにもかかわらず、先輩のボールを頭の斜めの位置にぶつけてしまった。
「イタッ・・・。」
打った瞬間、当たったところに激痛が走り倒れてしまった。
なにこれ・・・、ものすごく頭が痛い。
だけど、同学年みんなは私のことが嫌いだからだと思う。
誰も「大丈夫?」と言ってくれなかった。
でも、私は心底どうでもよかった。
だけど、先輩は気遣ってくれて、
「ごめん、ボール当てちゃった、、
頭、どう?くらくらする?」
と色々聞いてくれた。
私は
「大丈夫なんですけど、ちょっと頭が痛いので保健室に行きます。
先輩は気にしないで部活やっててください。」
と返し、体育館を後にした。
”コンコンッ”とドアをたたいてから開け
「失礼します。バレー部の七香です。」
といった。
「あら、どうしたの?」
「先輩のスパイクが頭に当たっちゃって、そのあと一瞬倒れて、起き上がったんですけど頭が痛かったので
一応保健室に来ました。」
「あらあら。ここにきて見せてみなさい。」
「分かりました。」
そうして私は先生に診てもらった。
「うん。病院に行くほど悪くはなさそうだけど、頭が痛いのよね?」
「はい。ものすごくひどいわけではないですが、」
「それなら、ここで頭の痛みが引くまで横になっていなさい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「はい。お大事にね。」
そして案内されたベッドに横になった。
・・・・・広瀬君と今日は話せそうにないな。
少し広瀬君への罪悪感を抱えつつ、頭の痛みが引くのを待った。
だけど、少しづつ痛くなってきたので、先に家に帰ることになった。
顧問の先生の所に行き、詳しいことを話し家に向かって歩き出した。
すごく情けなく思うし、広瀬君にも申し訳ないなと思った。
そして家に着き、ベッドに横になった。
私はそのまま寝てしまった。
「プルルルル・・・プルルルル・・・」
そんな音がして目が覚めた。
ふと部屋の時計を見ると午後七時半を回ったくらいだった。
なっているスマホに目を移すと・・・
「広瀬君!?」
そう、電話の相手は広瀬君だったのだ。
広瀬君とはLAINを繋いでない。
だけどスマホの画面を見る限りLAINの方で電話をかけているみたいだった。
私はスマホとじっとにらめっこをしていた。
すると急に静かになった。
「電話、切れた。」
すると、今度はメッセージが
「ピロン、ピロン、ピロン・・・」
と何通も来た。
電話に出なかったこともあり少し、見るのが気まずかったので、わざとメッセージの来た十分後に既読を付けた。
「えっ、、九個・・・。」
メッセージは九個も来ていた。
文字をを見ると
【優笑、ボール頭にぶつけたんだって!?】
【大丈夫??】
【頭の痛み収まった?】
【俺のことは何も考えなくていいからね!】
【明日これそう?】
【無理してこなくていいからね!】
【しっかり休んでる?】
【たくさんLAIN送っちゃってごめん。】
【あと、LAIN勝手に登録したこと、許して!】
というものだった。
すごい・・・めっちゃ心配してくれてたんだ。
私は、
【LAINのことは大丈夫だよ。】
【心配してくれてありがとう。】
【もう元気になったよ!】
と三通で返した。
すると、すぐに既読が付いた。
・・・と思ったらもう返信が来た。
【そっか、そしたらよかった。】
【でも、無理はしないでね!】
【また学校で!】
そんな内容だった。
【うん。わかった。】
そう簡単に返して、スマホを閉じた。
「”また学校で”か。」
本当に広瀬君は良い人なんだな。
そう思い、私はお風呂に入り夜ご飯は食べずまた私は眠りについた。
次の日、頭の痛みは完全に消え元気になったので学校に向かった。
教室に行くと、また今日も広瀬君は学校に来ていた。
私が机にリュックを置いて準備をしていると、昨日のように私のところに歩いてきた。
でも、今日は少し早歩きな気もする・・・。
すると広瀬君は
「優笑!もう大丈夫なんだな!
本当に良かった!」
と教室に響くような声で話したので、一気にクラスのみんなの視線が集まった。
すると一気にクラスがざわつき始め、
「優笑、昨日何かあったの?」
「いや、きっと空君に気を向けてほしくてわざと何かしただけでしょ。」
「あ、なるほどね。
優笑やばー!」
そんな声が聞こえた。
すると、
「本当にひどい奴らだな。」
と広瀬君はつぶやいた。
でも私は
「ううん、いいよ。」
といった。
そして、
「うん。もう大丈夫。」
と広瀬君に行った。
「そっか、そしたらまたどこかで一昨日の話聞かせてね。」
といってまた自分の席に戻っていった。
そうして、私は一人になった。
だけど、まだ広瀬君に話していないのに味方がいるように感じて心強かった。
そして放課後。
今日は部活が休みだ。
だから、帰りはまあまあ人がいる。
『広瀬君、どうするのかな。
今日は話さないのかな・・・。』
そう思いつつ、いつも通り家に帰ろうとした。
すると・・・
「優笑、今日一緒に帰ろ?」
「え、あ、わかった!」
そうして、私たちは一緒に帰ることになった。
でも、会話が全くない。
私は何か話さないとと思いつつも、何を話せばいいのか良いかわからず時間だけが過ぎていってしまう。
横目で広瀬君を見てみた。
でも、広瀬君は私と違って”何を話かを話さなければ”のように焦っていなく、そして広瀬君が何を考えているのかは心の中が読めるとかなんとかって言ってお金を稼いでる人もわからないような喜怒哀楽のどれでもない表情だった。
すると急に広瀬君は私のほうを見た。
正面から見た広瀬君の顔はさっきの喜怒哀楽のどれでもない表情ではなく、ものすごくきれいな笑い顔だった。
「ずっと俺のことみてるけど、どーしたの?」
私はそれを聞いて顔の熱が上がっていくのを感じた。
やばい・・・、いろいろ考えてて、つい見ちゃってた。
「あ・・・、えっと、何でもないよ!
でも、ごめん。」
「え?なんで謝るの?
謝るようなことしてないから大丈夫だよ!」
「そっか、」
そしてまた沈黙が流れた。
そろそろ広瀬君と通学路が変わってくるという場所まで来た。
『今日、何のために一緒に帰ったんだろ。
あのことを話すためじゃなかったのかな。』
私はついにそんなことを思ってしまった。
でも、ここまで来て何も話さないなんて、どういう事?
そう考え、頭がごちゃごちゃしてきそうになった私は耐えきれず
「ね、今日の帰りにあのこと話そうとしたんじゃないの?」
と聞いた。
「あー、うん。ごめん。
あのさ、沈黙流れて、なんて言いだせばいいかわかんなくなっちゃって、言い出せなかったんだ・・・。」
なんか、私が攻めたみたいな感じになって不思議な感覚がした。
広瀬君は
「ほんと、沈黙とか気にせずに言い出せばよかったよね。
許してもらえる?ほんとにごめん。」
と、架空の犬耳がシュンと垂れているように見えた。
「ううん、私のほうこそ話題をふれなくてごめん。
今のことは広瀬君悪くないから、もう謝らないで、
私のほうこそほんとにごめん。」
今回はどっちも悪くない。
私はそう思った。
どうにかこの空気を変えようとして、
「それで、今話しちゃっていい?」
と、次の話に進むようにした。
「うん、でもこんな感じの雰囲気で話せそう?
大事な話なんだよね?」
うっ・・・、それはそうかもしれない。
だって、このままあんな重い話をしたらもっと暗い雰囲気になると思ったから。
だけど今はなさないと、もう私自身が話せなくなるような出来事が起こっちゃう可能性もなくはないし、もう周りに人がいないときに話せるタイミングもそこまで多くないと思ったから、
「私は大丈夫!
広瀬君が良ければいいからね!」
と”大丈夫!”と強気な顔をできるだけして話した。
「そっか、
俺も優笑が話せそうならいいよ。
でも、こんなところで立って話したら疲れるし、知らない人も通るからちょっと気まずいでしょ?」
「まぁ、そうかもだけど・・・」
”どうしようっていうの?”
という感じで広瀬君を見た。
広瀬君は、
「まあ、こっち、ついてきて!」
と何かあるような目でニヤッと笑って歩き始めた。
・・・・・・どこ行くんだろう。
そうしてついていった。
約二、三分歩いていくと
「ここ、入って!」
とある場所を指さされた。
「・・・・・・、家?
ってまさか、広瀬君の家!?」
「反応めっちゃ面白いね!
そう、俺の家!」
爆笑しながら私の問いに答えてくれた。
え・・・、広瀬君、私を自分の家に入れようとしてるってこと!?
「鍵開けるから、入って!」
私の予想は的中した。
でも、人の家に入るなんて・・・。
しかも、男子の!
怖くて震えてくる。
こんなの絶対―――――
「む、無理っ、」
絞り出すような声で言った。
でも、引き下がってはくれなかった。
「そんなの、ダメ。」
といって。
・・・・・・だから、だから他人は、思考の読めない人は嫌いなんだ。
なんて言ってくるかわかんないし、それによって思考が追い付かないし。
私は、どう答えてどうしたら家に入らなくて済むか考えた。
「ね、ねぇ、あのさ公園のベンチとかじゃダメかな」
広瀬君は考え込んでしまった。
すると、
「まぁ、それも悪くないね。
優笑がそこがいいなら俺も全然いいよ!」
と言ってくれた。
いつもみたいな笑顔を浮かべている広瀬君。
・・・でもどこか、心から笑っている感じではなかった。
まるで、私のように作り笑いしているみたいに―――――。
公園に移動するときは何も話さなかった。
でも、さっきのように”何か話題を出さないと”みたいに慌てはしなかった。
それが逆に、私にとっては違和感があった。
これまでは沈黙が流れると怖かったから。
だけど今は、話さないで、静かであってほしいように思うくらいで、いつもと違う気持ちになれていないからだと思った。
そんな感じで何も話さないまま公園に着き、近くのベンチに座った。
私はいつ話し始めればいいのかわからず、顔を広瀬君の方に向けると目が合った。
すると”コクン”と広瀬君の首が縦に動いた。
私の目はいつの間にか広瀬君の目に吸い込まれていた。
その目からは
『優笑が話せそうなタイミングで話し始めて良いからね。俺は優笑が話し始めるまでずっと待ってるから。』
ということが読み取れた。
私は深呼吸を一度し、”シュミレーション通りしっかり話したいことを話そう。”と心で気合を入れて話し始めた。
「今から話し始めるね。」
「うん。ゆっくりでいいからね。」
「分かった。ありがとう。
―――――あのね、私小学校の時にすごく仲が良かったグループに、悪口を言われているところを聞いたことがあって、
それまでは、私はそのグループの子たちといろいろ遊んだりして来てて・・・
グループの子たちはそうやって楽しく遊んでた時の笑顔とか言葉とかが全部作り物の、偽物だったってことを知っちゃって、
人は何考えてるか分からないから、その出来事のせいで周りの人も本当は私のことを悪く思っているのかもしれないと思い始めちゃったんだ。
しかも広瀬君がこの学校に来る前少し前に、小学校の時私の悪口を言ってたグループの子が先生とか学年の子に”優笑がいじめてきた”なんていう、その子たちから避けるようにしている私がするはずもない嘘の情報を流してきたんだ。
だけど、それが嘘のことなんて思ってもないみんなは束になって私のことを悪いモノ扱いしてきて、私はそれがものすごく怖くて仕方がなかった。
そんな時に唯一信用していた歩ちゃんっていう女の子が私のことをかばってくれたんだ。
そしたら今度はその子も私と一緒に悪いモノ扱いされちゃって、
その時私、
『こんな大切な友達は私のせいですごくつらい目にあたんだ。
私のせいで・・・』
って後悔して、ものすごく自分を責めてた。
そんなことが学校で起きている時に今度は家族の方から”女の子だから”とか”あなたのために・・・”とかって言って私のことを勝手に決めつけられてもう心がずたずたに引き裂かれたり押しつぶされたりして、もう私はどうしていけばいいか分からなくなってて、困ってたんだけど、どうにか友達を頑張って作ろうとしてたんだ。」
話してたら我慢しようとしていた涙があふれてきてしまった。
でも私は構わず話を進めた。
「だけど、どんな方法を使ってもうまくいかなくて。
しかも私は、上手くいかないだけじゃなくって、頑張ってるのに昔のこととか相手の気持ちのこととかいろいろ考えて怖くなって逃げたりもしちゃって。
そしたら急に頑張って変わろうとして張ってた糸が切れちゃって、無理にやるのは辞めようってなったんだ。
そんな時に広瀬君が話しかけてきた。
びっくりしたのもそうだけど、一番はやっぱりそうやって友達を無理に作らないって決めた後だったから頭の中がぐちゃぐちゃになって、朝の時は逃げちゃったし、帰りにまた話したときは、きつい言葉になっちゃったんだ。
私の感情に巻き込んじゃってごめん。
でも、最後の広瀬君の言葉がものすごく頭に残ってて、歩ちゃんにも相談して、広瀬君に相談することにしたんだ。
広瀬君は今、話を聞いて私はどうすればいいと思う?」
そう話し終えた。
私は涙を手で拭いながら広瀬君を見た。
私が言いたかったことを話し終え、広瀬君の方を見上げた。
すると、
「話してくれてありがとう。辛かったよな。」
とまるで自分のことのように辛そうにしてくれていた。
・・・やばい。
今でさえ泣いてしまっているのにも関わらず、もっと泣きそうになってきた。
腫れている目を見られるのが嫌で手で覆って顔を隠して、公園だからとか広瀬君の前だからとか関係なく泣いた。
広瀬君は私が落ち着くのを待ってくれた。
「もう、話しても大丈夫?」
「うん。待っててくれてありがと。」
「ううん。そんなことないよ。
しかも、俺に話してくれて嬉しい。
だから俺のほうこそありがとう。
それでなんだけど、まず、俺の方こそ七香がどんな気持ちでいるかも知らなかったのにむやみやたらに話しかけちゃってごめん。
七香の話聞いて、俺もそういう状態の時にはなしかけられたらきれちゃうと思うから七香はそのことに関しては”自分が悪かった”みたいに考えないで?」
「うん。分かった。
でも、はたから見たら私がどんな状態かなんてわからなくて当たり前だから、広瀬君もそんなに自分を責めないでね。」
「了解。
で、そのほかのことについてなんだけど、
俺は七香のために何をしてあげればいい?
・・・というか、どうしてほしい?」
「あ・・・、えっと、どうしたらそのグループとの問題が解決できるのかって言うことと、あとは、どうしたらみんなから”悪い人”って思われなくなるかを教えてほしいんだ。
無理にはお願いしないけど、広瀬君が前に言ってくれた、
『 ”何をしてもうまくいかない”って言うのは自分一人でどうにかしようとしたからじゃないの?
誰かに聞いて頼ってみればいいんじゃない?』
っていう言葉がどうしても頭から抜けなくて、それですごく頑張って踏み出した一歩みたいなものだからさ、お願いを聞いてくれると嬉しい。」
自分で言っておきながら、最後の方の言葉はものすごく勝手な言葉だなと思った。
『お願いを聞いてくれると嬉しい。』
なんて、言われた側はお願いを聞かないといけない感じになっちゃうから。
でも広瀬君は私の言葉に対して、
「”お願いを聞いてくれると嬉しい。”って?
そんなの聞くにきまってるでしょ!
優笑にあった方法はもっとしっかり考えないと良い考えが浮かばなさそうだから、明日まで待ってくれるかな?
すぐ答えられなくてごめん。
あと、これからはできるだけ優笑を守れるようにする。
だからそんなにみんなを怖がらなくていいよ。
―――――あ、そうだった。
勝手に七香のこと下の名前で呼んじゃった。
ごめん。
許してもらえる?」
「うん。許すよ。
なんか、本当に広瀬君にしっかり話してよかったなって思った。
今までは周りの人がものすごく怖かったけど、広瀬君なら絶対に人の悪ぐちをいわないと思ったし大丈夫だし、話したらめっちゃいい人だったから良かった。
本当に私のために考えようとしてくれて嬉しい。
ありがとう。」
「うん。
七香のその勇気というか頑張った一歩を無駄にしないようにするから。」
そういって、話は終わった。
もう周りは暗くなっていた。
もう春なのに夜は少し肌寒い。
だけど、心は温かかった。
「送ってく。」
「ううん、大丈夫。
家すぐそこだから。
心配してくれてありがとう。」
「そっか。分かった。
そしたら、気を付けて。
またね。」
「うん。また。」
家に帰った私は本当に頑張ってよかったなと心からそう思った。
そして、久しぶりに早く学校に行って、人と話がしたいと思った。
だって、広瀬君の考えがどんなものか知りたかったから。
―――――ちなみに、歩ちゃんにはまだ広瀬君に話したことを伝えていない。
それは、考えをまだ聞けてなかったから。
今私が”広瀬君の考えを聞きたい”と思っているのは私が勝手に良い考えを教えてくれるはずだと妄想してしまっているから。
本当に良い考えを教えてくれるとは限らないから。
だから、しっかりと話を聞き終えてから話そうと考えた。
◇
教室について時計を見る。
長い針がいつも私が見る位置じゃなかった。
「早く着きすぎちゃったな・・・。」
そう。
私は勝手に広瀬君の考えがいいもだと妄想していることをわかっているのにも関わらず、話を聞くのが楽しみすぎて朝はものすごく”パッ”とすぐ起きられたし、朝ごはんのスープも調子に乗っていつもと違うものを作ったり、学校に行くのが待てずいつもよりだいぶ早い時間に家を出てしまったり・・・。
本当に大変なことになっていた。
そしてうずうずしながら広瀬君が来るのを待っていた。
今日は遅めに来た広瀬君。
一瞬私は広瀬君の顔が見えた。
「っ・・・・・・!」
見えたのは一瞬だったけど、目の下にクマができていたことがはっきり分かった。
『昨日、”明日まで待ってくれるかな?”っていったから広瀬君一生懸命考えてくれたのだろう。』
そう考えた途端、申し訳ないという気持ちがものすごく頭の中を埋め尽くしていった。
そのあとも広瀬君に話しかけられはしてないものの、体調が心配で私はずっと目で広瀬君を追ってしまっていた。
そして、部活の時間。
いつもはしっかり活動している広瀬君が、今日は何度も端のほうに行っては休憩していた。
ううん。休憩というよりも”ぐったりしていた”といったほうが正しいと思う。
本当に無理をしているようにしか見えなかった。
帰り道。
広瀬君は私に
「七香。昨日の続きの話をしたいんだけどいい?
俺なりの案を考えてきたからさ。」
と言ってきた。
でも、今の広瀬君にそんなに話せそうな気力と体力は残っていないように見えた。
「あのさ・・・、私はいいんだけど、その前に!
広瀬君、大丈夫?
朝、登校してきた時から顔色悪いし、ぐったりしてる感じがするよ?
昨日の私の話のこと考えてくれてて、夜遅くまで起きてたとか?
それともなにか別もことがあって寝れなかった?」
そこまで聞いて、私はハッとした。
『あー、私のバカ。
こんなに疲れてて、体調が悪そうな人に一気に話したら逆に疲れさせちゃうじゃん。』
そして、
「・・・、ごめん。
こんなに一気に言ったら大変だよね。
広瀬君、大丈夫?」
と言い直した。
「うん。大丈夫だよ。」
そう返してくれたけど、広瀬君のことだ。
きっと、”心配させちゃいけない”みたいなことを思って口に出さないのだろう。
実際、今は笑おうとしているのかもしれないけど疲れのせいか目が笑っていない。
「ううん。絶対無理しようとしてるでしょ?
ダメだよ。しっかり休んだほうがいいよ。」
と言い方を少し変えていってみた。
でも、
「ううん。本当に大丈夫だよ!」
と元気そうにして返してくる。
でも、本当に心配だ・・・。
私は”仕方ないか。”とあまり使いたくなかったことを言った。
「広瀬君。
私、もう一つ相談したいことがあるんだ。
それは、本当に昨日話したことくらい大事な相談だからさ、しっかり話すためにも今日はちょっとやめておかない?」
実は昨日、これくらい真剣に考えてくれるなら、家族とのことも話して、どうすればいいか聞いてみようと考えてた。
だけど、私の心の準備もシュミレーションもなにもできていなかったから、もう少し後になって話そうと思っていた。
だから広瀬君に”大事なことを話すなら・・・”といって、体調が悪いことを認めてもらって、しっかり休んでもらおうという作戦でもあったけど、自分にとってはまだ準備のできていないことだから、デメリットがあった。
でも、広瀬君は
「・・・、そっか、それなら仕方がないね。
俺、昨日の夜いろいろ考えて案はいくつか思いついたんだけど、優笑に合っていない気がしてさ。
七香に合ったものを考えてるうちに寝るのが遅くなって・・・みたいな感じだったんだ。
本当にごめん。
こんなことにさせるつもりはなかったし、話したい気持ちも山々なんだけど、体が思った以上に悲鳴上げてるみたいなんだよね、今日の夜しっかり休んで、明日元気になるから、絶対に明日はなそ!」
「うん。そうしよ。
でも、本当にこういう時は、私のことより自分のことを優先して体調が悪かったり予定があったりしたらすぐにはなしてね?
そうじゃないと逆に心配になるし申し訳なくなるからさ。」
「そっか。そうだよね。
わかった、今度からしっかり隠さないで言うよ。」
「うん。
それじゃ、またね。お大事に」
そう、納得してくれて無事に解散になった。
あとは私がシュミレーションをしっかりして焦って広瀬君に迷惑がかかるなんてことがないようにするだけだ。
そうして私はLAINを開き、歩ちゃんにメッセージを送ることにした。
【歩ちゃん、元気??
私は大丈夫です!
それでなんだけど、実は昨日広瀬君に話をしたんだ。
そしたら、思ってた以上に真剣に聞いてくれて、しっかり考えたいからっていって、自分が体調崩しちゃうくらい頑張って考えてくれたんだよね、
それで、歩ちゃんに話したかわからないけど、私の家ちょっと居心地が悪いというかすこし大変な感じですごく困ってるからそのことも話してみようかなって、この人ならきっとまた聞いてくれるんじゃないかって思ったんだ。
で、実はいろいろあって明日話すことになりそうなんだ。
だから、申し訳ないんだけど、またシュミレーションのアドバイスもらったりすることってできる?
無理そうだったら大丈夫なんだけど、】
そうやって、文字を打ち込みあとは送るだけだった。
だけど、もしシュミレーションのアドバイスを教えてもらえなかったら・・・とか、『なんで昨日のうちに広瀬君に話したこと言ってくれなかったの?』みたいに思われたら、と思うと怖くて手が動かなかった。
でも、何分もの時間がたってくると、『きっと歩ちゃんのことだから大丈夫なのであろう』と思ってきた。
そして、
「絶対大丈夫なはずっ!」
と言って、送信ボタンを押した。
数分間歩ちゃんとのLAIN画面を見て、既読が付くのを待った。
・・・、当たり前かもしれないけれど、そんなすぐには既読がつくことがなかった。
うずうずしながら待ってると、”ピコン”と音が鳴った。
私はスマホに飛びつくようにして通知を開いた。
【よく頑張ったね!優笑ちゃん!
ほんとにすごいよ。
家族のことは私もあんまりよく分からないから、何とも言えないけど、私は優笑ちゃんがそうしたいなら賛成だよ!
シュミレーションは、今回はあんまりしなくても大丈夫そうだなっていうのが本音かな。
あえて、いくつかポイントがあるとすれば
・ 最初話始める前
「少し長くなるかもしれないけど・・・」みたいに言う。
・最後言い終わったとき
「こういう事だったんだよね、最後まで聞いてくれてありがとう。」とお礼を必ずいう。
・広瀬君に”こうすればいいんじゃない?”みたいなことを言われたとき
焦らず冷静に答える。
(焦っちゃったら深呼吸してみるのがおすすめだよ!)
っていうくらいかな。
こういうのができたらあとはもう普通に自分のペースで話せばいいと思うよ!
こんな感じで大丈夫かな??】
という内容だった。
私は、すぐに文字を打ち始めた。
【うん!全然大丈夫だよ!
本当にありがとう。
歩ちゃんの書いてくれたポイント、頭に入れて明日頑張ってみるね!】
そして今度は、すぐに送信ボタンを押した。
すると三十秒もしないうちに”ピコン”と通知が来た。
送られてきたのは『がんばれ!』という文字の入ったうちわを持っているウサギのスタンプだった。
私もそれに『ありがとう』の文字の入った女の子のスタンプを返して、スマホを置いた。
「どんな風に家族のこと話そうかな・・・。」
広瀬君にどうせ聞いてもらうならばしっかりと朝ごはんを作り始めるきっかけになった出来事とかから一つずつ話すのがいいのかな。
それとも、言いたいことをはっきりさせて、『家族との間に境界線があるような感じがする』っていって思ってることを話すのがいいのかな。
私は頭が痛くなりそうなほど考えたすえ、話したいこととか、聞きたいこととかがごちゃごちゃにならないように
”『家族との間に境界線があるような感じがする』っていって思ってることを話す”
という方法でいくことにした。
うまくいくかはわからない。
だけど、やってみるということ以外の選択肢は今の私にはないと思ったから最後の勇気を出して私のすべてのことを話してみたかった。
◇
「七香!遅れてごめんな。」
そういって広瀬君が現れた。
今日の朝私に『放課後、一昨日話した公園のあのベンチで待ち合わせな。』と言ってきたので、私は一度家に帰り、私服をきて、最低限必要な貴重品を入れたバッグを持って、言われるがまま待っていたのだ。
もう広瀬君の体調のほうは、戻ったみたいで朝から本当に元気が良かったから安心だ。
「うん。私も今来たばっかりだったから大丈夫。」
そうして話始めた。
「俺の提案は、七香の話が終わってからがよさそうだよな。」
「私はどっちでもいいけど・・・、そうしよっか。」
「うん。じゃ、七香の話聞かせて?」
「分かった。
―――――あのね、私、家の中で家族との境界線があるように感じるんだ。
なんか、私だけ家族とは別の世界にいる・・・みたいな。」
「どうしてそう思ったの?」
「だって、お母さんも弟も、私と話すときと私抜きで話してる時とで全然態度も、顔の表情も何もかもが違うから。
あと・・・。」
「七香?」
話していて、急になんていえばいいのかわからなくなった。
詳しく言えば、私と家族の間にある”何か”を何と言い表せばいいのかわからなくなった。
横を見ると「大丈夫?」といって心配そうにする広瀬君が見えた。
本当なら「大丈夫だよ。」って返したかったけど、そのあとに話を繋いでいく自信がなかった。
だから、目線を下に向けて黙ってしまった。
「なんか、俺も少しわかるかも。
家族との見えない境界線。
なんか、言い表すことはできないんだけど、なんか・・・、なんか壁があるよね。」
なにも言っていないのに思ってることを隣で言われて一瞬心の声が漏れたのかと思った。
また目線を広瀬君に向けると、ここにはないどこかに向けられているようだった。
―――――と思ったら、急にこっちを向いた。
その顔は複雑そうだった。そして
「七香と俺、性格は全然違うけどなんか心は分かり合えるかもな。」
と言った。
そのとたん、私が広瀬君との間に立てていた壁が壊れたような気がした。
「私も。
私も広瀬君にならわかってもらえる気が・・・、する。」
「そっか。
それならよかった。
そしたらさ、もっとわかり合っていけるようにお互い名前で呼んでいかない?
友達になっていくための第一歩・・・みたいな。」
友達になるための第一歩、か。
私は、ついこの間までは名前で呼ばれたくなかったから・・・距離を置きたかったから名字で呼んでもらっていた。
でも、今からは名前で呼ばれても大丈夫な気がする。
でも・・・
「名前で呼ばれるのは大丈夫かもしれないけど、私が広瀬君のことを名前で呼んでいける気がしない・・・」
「それなら、練習しながらでいいよ。
少しずつ練習して言えるようにしていこう?
いつかきっと自然に言えるようになるからさ。」
そっか・・・、そっか。
やっぱり広瀬君は優しい。
私のやりやすいペースを考えてくれる。
私に進むべき道をいつも導いてくれる。
「ありがとう・・・!
少しずつ広瀬君のことを名前で呼べるように頑張ってみる!」
「広瀬君・・・?」
「あ・・・・・・
空、くん」
「うん。俺のこと名前で呼んだの一回目!
頑張ったね優笑。」
「うん、ありがとう。」
そして私は正面を向いた。
思った以上に名前で呼ぶのが怖くて、緊張して小さい声で言った気しかしなかった。
だけど、それでも広瀬君・・・ううん。
空君が褒めてくれたから嬉しかった。
―――――もう、中二にもなったのに昔の私のように純粋に嬉しかった。
「・・・・・・そしたら次俺の考えてきた案を出してもいいか?」
「あ、うん。」
広瀬君は少し間をおいてから話し始めた。
「俺、いろいろ考えたんだけど、多分、グループにやられたっていう方のことは先生に直接もう一回行って説得するのが一番早いかなって思うんだ。」
「え・・・でも、」
「うん。もちろん優笑一人だと前・・・俺がいなかった時と変わらないから今度は優笑と俺の二人で行くんだ。
優笑のサポートもしつつ、先生が納得するように手助けする。
こういうのはどうかな・・・」
私は返事に困ってしまった。
正直、先生に言ってもまたあの時のように言われてしまう気がする。
また傷ついてしまうかもしれないという思いから、恐怖で『その方法でやりたい。』という思いが薄れてしまう。
でも、心の端の方では『広瀬君と一緒ならどうにかして乗り越えられるかもしれない。』という思いもあった。
少し前のこういう状況の時は必ず逃げる方の道を選んでいた。
だけど今は、
「俺と一緒に頑張って先生に言ってみない?
二人なら納得してくれるかもよ?」
という広瀬君の言葉と存在が私の心の中の気持ちを揺らす。
「優笑?挑戦しないとうまくいくか、失敗するかなんて分からないよ?
次の一歩を踏み出さないと、俺にこのことを話したときの第一歩が水の泡になっちゃうよ?」
・・・確かにそうだ。
ここでまた逃げたら本当に、何のために私は広瀬君に話したのかわからなくなる。
そして広瀬君に話したときの勇気が無駄になってしまう。
だんだんと私の心の中は『広瀬君と一緒ならどうにかして乗り越えられるかもしれない。』という思いが強くなってきた。
私は・・・私は、
「うん。ちょっと怖いけど広瀬君とならもう一回勇気を出して先生に立ち向かえそう。」
「ほんと・・・⁉よかった!
そしたらこれからまた話し合っていつ先生に話すかみたいな詳しいこと、決めないとだね!
だけど、その前に・・・広瀬君って言ってたよー?」
「あ・・・空、くん」
やっぱりまだ言えるようにはなっていなかった。
しかも、まだカタコトに名前を呼ぶことしかできない。
もっと練習しないとだ。
「あの・・・空、くん。」
「ん?どうしたの?」
「あの、せっかく少し友達になれた記念とかその・・・先生にいつ話に行くとか決めるためにってことで、どこか行かない?」
広瀬君の目は大きく見開かれた。
私も・・・自分の言ったことに対して本当に驚いていた。
私、何言ってるんだろ。
絶対広瀬君には迷惑でしかないじゃん。
「あ・・・ごめん、やっぱ嘘!」
「大丈夫だよ?”迷惑だ”とか思ったんでしょ?
そんなことないよ。
しかも・・・俺も行きたいし。」
私は広瀬君が嫌がってなかったことに対して喜びの気持ちがあった。
「優笑。時間も遅いから夜ご飯の代わり・・・で、いい?」
「うん・・・!」
なんか、本当に広瀬君には心を開いたんだなと感じた。
だって、だんだんと歩ちゃんのように心を許している人としかしないことを広瀬君としているから。
だからそういう風に信用できる人が近くにいてくれると心強かった。
◇
「なんか不思議な感じがするね・・・!」
私たちは近くのファミレスに行った。
今は料理を注文をして待っているところだ。
「確かに、なんか不思議だね。」
「うん。」
「そしたら、どうしよっか。」
「本題の話する?」
「そうだね、話そ!」
そして、話始めることにした。
「先生に前話した時のことと、グループにされた時のことをもう少し話してもらってもいい?」
「うん。分かった。」
「えっとね・・・
―――――っていう感じかな、」
そうして私はグループとの出来事を小学校の時のことを含めて一つ一つ細かく話した。
やっぱりそのことは本当に思い出してしまうと目の前にその光景が広がって、本当に今そういわれたかのようにリアルに
フラッシュバックしてしまう。
だから今回も途中で言葉が出なくなってしまったり、涙が出てきてしまったりしたけどそのたびに
広瀬君がドリンクバーのジュースを「席は離れるけどすぐに戻って来るからね。」と言ってから急いで取ってきてくれたり、
「優笑が話せそうなだけでいいからね。」といって気を使ってくれたり、
「ご飯来たけど、食べて気が落ち着いてからまた話す?」と提案してくれたりした。
その広瀬君のお陰でご飯もやや食べつつ、話し終えることができた。
「そっか・・・やっぱり何度聞いてもその緑ちゃんたちはひどいね、
聞いてるこっちまで悲しくなってくる、
先生も、優笑がするはずないって思わないのかな。
―――――っていうのが今話を聞いたことの率直な気持ち・・・かな。
今話してくれたことをされたら、誰だって人間不信になると思うし、もう一回立ち向かおうとする人はそこまでいないと思うから、本当に優笑はすごいね。
俺も、そんな頑張っている優笑の役に立てるように頑張るね。
それで、なんだけど。
優笑は話し終えたばっかりで疲れてると思うからご飯を食べつつ考えてもらって、帰り際に教えてくれればいいんだけどさ
俺のことは考えなくていいから、優笑の気持ち的にはいつ先生と話したい?」
「うーん・・・、」
「あ、さっきも言ったけど帰り際に教えてくれればいいから、じっくり考えて!」
そう言われて、とりあえずドリアを一口食べた。
もう半分くらい冷めていて、出来立てはものすごく熱々だったから、
”広瀬君がこれだけの時間、真剣に話を聞いていてくれたんだよ”
って言うことを物語っているような気がした。
そして私は、もう一度思考を回転させた。
先生にいつ話すのか・・・か。
なんか、考え始めたものの、どういったタイミングで先生に話せばいいのかよくわからなかった。
そこで私は広瀬君に助け舟を出した。
「あのさ、私のちょっとした疑問なんだけど・・・」
「うん、なに?」
「先生に言うタイミングって、どういう時が良いのかな?」
「・・・・・・あー、たしかに、」
どうやら広瀬君もいまいちわからないらしい。
私はもう一人の頼れる人に聞いてみることにした。
【歩ちゃん!
急で申し訳ないんだけど、あの緑ちゃんたちのグループのことをもう一度先生と話し合うとしたらどういうタイミングがいいと思う??】
すると、助かることにすぐに既読が付いた。
そして数分後”ピコン”と通知音が聞こえた。
「ごめん、私のスマホ。」
そう広瀬君に言ってから通知を開く。
私はすぐに歩ちゃんからのメッセージを読み始めた。
【本当に急だね。
私、よくわからなかったから返信が遅れちゃったけど、少し思ったのは実際にどういうことを話して先生を納得させるかっていうのを考えて、それをまとめてから話さないと本番大変なんじゃないかなって、
でも私は優笑ちゃんがどんな経路でこの質問をしたか分からないから、あってるかはわからない!
だから、参考程度でどうぞ!
優笑ちゃんのためにできるだけ力を貸したいから何かあったらまた連絡してね!】
私はすぐに文字を打ち込んだ。
【歩ちゃんありがとう!
すごく参考になったよ!
また何かあったら連絡させてもらうね!】
そして送信ボタンを押すと私は広瀬君に顔を向けた。
「ねぇねぇ、今もう一人の信用できる子・・・というか、私のことを緑ちゃんたちからかばってくれたあの歩ちゃんにいつ、
どんなタイミングで先生に話せばいいのか聞いたんだ。
そしたら、”実際にどういうことを話して先生を納得させるかっていうのを考えて、それをまとめてから話さないと本番
大変なんじゃないかな”って返ってきたんだ!
私もたしかにどういう内容を話して先生を納得させるか考えないとだなって思った。
広瀬君は・・・どう思う?」
「うん、確かにそうだね。
実際どうやって納得させるか考えておかないと俺もテンパってうまく言葉が出ない気がする。」
「そっか、そしたら先生にどうやって話して納得させるか考えてからまた決めてもいい・・・?」
「うん。もちろん!
そしたらさ、いつでも話せるようにってことと、何か優笑にあった時のために連絡先交換してくれない・・・?
楽だと思うからさ・・・。
あ、いやだったら別にいいんだけど!」
「え・・・、ううん。嫌じゃない。
交換・・・していいよ。
はいっ」
急なことだったからびっくりしたけど、今回はしっかり答えられた。
「マジで!?
ありがとう!
うん。俺登録できた!
そしたら、なんかあったら連絡してくれていいからな。」
「わかった!ありがとう。」
そうして私のLAINの画面を見ると”友達”の人数は七人と表示されていた。
上の方には”sora★”という名前の欄ができていた。
そして私たちはそのあと残りのご飯を食べて、解散した。
私の服のポケットに入っているスマホがお守りのように感じた。
きっとそれは空君の連絡先が新しく追加されたからだろう。
私は安心した気持ちのまま家に帰った。
部屋に入って、今日の宿題をすることにした。
数学のプリント、英語の復習・・・と一つ一つかたずけていると”ピコン”とスマホが鳴った。
そのとたん集中がプツリと途切れた。
なんだろう・・・歩ちゃんかなと思いながらスマホのロックを解除した。
そして誰からの通知か確認すると
「え、広瀬君・・・?」
思わず声が出てしまった。
見間違いかもしれないと思い、もう一度確認したけどやっぱり見間違いではなかった。
「何かあったのかな」
そうしてメッセージをみた。
【優笑、さっきは話してくれてありがとう。
それでなんだけど、今どうすれば先生を納得させられるか考えてて、思ったんだけどさ先生には小学校の時のこと話したの?
もし話してなかったら、先生にも小学校であったことを話して、俺にも言ってくれたように
「そうやっていじめられたことがあって、それ以来近づかないようにしているのでそんなことできないです。」みたいに
言えば先生も『それなら、確かに優笑が本当にいじめたとは考えにくいな。』みたいに思ってくれるんじゃないかな?
急に送っちゃってごめんね。
優笑の意見を教えてくれると嬉しいな。】
と書かれていた。
メッセージは目の前に相手がいるわけじゃないから、”どう思ってるんだろう。”とか”うまく伝わったかな。”とかと、不安になることもあるものの、すぐに返信しなくても相手がトーク画面を開いていて既読マークを見ていなければいつ返しても問題がない・・・つまり落ちついてよく考えてから返事をすることができるということだ。
あとは、やっぱりこう返すべきじゃないと思ったら送信を取り消すこともできるから心にゆとりができる。
私は心を落ち着かせ、私は広瀬君のメッセージに対してどう返すかを考え始めた。
『・・・・・・、先生に小学校の話をすれば理解してくれるのだろうか。
私が先生だったら、理解して”優笑がいじめたわけじゃないのかもしれない”と思う。
だけどそれは私だけの考えだ。
広瀬君は、先生だったらどう思うだろう。』
そうして私は文字を打ち込んだ。
【広瀬君が先生だったら、私の小学校の時の話を聞いたらどう思う?】
送信ボタンを押して、返信を待つ・・・。
すると、すぐに返信が来た。
【俺だったら、信用するしかないなって思うかな。
だって、いじめられたっていう人の話を”嘘なのだろう”と思って信用しないのは先生としておかしいんじゃないかなって思うから。
だから、よほどの先生じゃない限り信じてくれると思うよ。】
そっか。
”よほどの先生じゃない限り”というところが気になったけれども、私は
『それなら先生に小学校の時の話をする価値はあるんじゃないか』と考えた。
【なるほど・・・!
教えてくれてありがとう!
それなら私、先生に小学校の話してみようかなって思った。
ちょっと覚悟がいるから先生に話すのは早くても明後日くらいになりそうなんだけど、大丈夫?】
私はそう返信した。
広瀬君は・・・このメッセージを見てどう思ったのか心配だった。
だって、『明後日か・・・』って思われてるかもしれないなって思ったから。
”信用していてもやっぱり不安になることもあるんだな”そう思いつつ返信を待った。
すると・・・
【わかった。明後日以降ね。
でも無理して急がなくていいからね。
優笑の準備ができたら言って。
待ってるね。】
というメッセージがきた。
内容からして『明後日か・・・』って思われてる可能性は少なさそうで安心した。
【うん。分かった!
ありがとう。】
そう返した。
そして私は残りの宿題を片付け、疲れ切った頭を睡眠で休めた。
そして二日間、シュミレーションを重ね少しずつ先生を納得させる自信が出てきた。
もう今日であの日から三日たち、そろそろ広瀬君に”もう大丈夫。先生に話に行こう。”と言った方がよさそうだ。
学校が終わり、部活を終え帰り道たまたま広瀬君を見つけた。
私は「広瀬君、お疲れ様。」と声をかけた。
ふと、いつの間にか勇気を出さなくても話しかけられるようになっていることに気が付き、嬉しくなった。
すると、広瀬君が振り返り
「お、優笑!お疲れ様!
どしたの?」
と返してくれた。
「あ・・・、あの先生の件なんだけど、待っててくれてありがとう。
そろそろ先生に話せそうになったから、今度言いに行けそうだよって伝えたかったんだ。
広瀬君、私にばっか合わせてくれているけど大丈夫?」
「うん。俺はいつでも大丈夫だから、優笑が大丈夫ならいいよ!
明日、放課後、部活ないから、昼休みとかに先生に放課後時間があるか聞いてみて、大丈夫そうだったら話す?」
「わかった。そうしよ!
うまくいくかな・・・。」
「先生を信じよ。
多分、わかってくれるよ。」
そうして話しているうちに私たちの帰る方向が別々になるところまできた。
「そしたら、また明日。」
「うん。明日、がんばろ。」
「だな!」
私たちはそんな言葉を交わしてそれぞれの道へ進んだ。
そして、今日はとうとう先生に話す日。
まだ、先生が放課後空いているか分からないから今日話すかは決まったわけではない。
でも、少し朝から落ち着かなかった。
広瀬君にも、「大丈夫?」と言われてしまうほどで・・・。
でも、私の心には『不安』の二文字が並んでいた。
昼休み、広瀬君は私のことを気にして、一人で先生に放課後時間があるか聞きに行ってくれた。
答えは「大丈夫だよ。そしたら放課後会議室Aで待ってるな」だったそうだ。
―――――迎えた放課後。
広瀬君と私は今、先生に指定された会議室Aの前にいた。
多分私の顔はやや青くなっていると思う。
隣の広瀬君も普段とは違い緊張しているのが私にもわかった。
「行くか。」
「う、うん。」
そうして私たちは扉を一気に開いた。
「おお、広瀬、七香。
待ってたぞ。
ここに座りなさい。」
そこには前と同じように机が置いてあり、先生に向かい合って二つのパイプいすが置かれていた。
「わたりました」
広瀬君がそう言い、歩き始めたので私はそれに続いて歩いた。
先生の前の椅子に座り、先生を見てみた。
ほんの二か月ぶりの先生は何も変わっていないはずなのに迫力がさらに増して大きく感じた。
「先生、わざわざ時間を取ってくださりありがとうございます。」
広瀬君が先に何か言ってくれるのでありがたかった。
わたしも急いでそれに続いて
「ありがとうございます。」
という。
先生は
「うん。
それで・・・話したいことというのは何かね?」
そう私たちに返した。
「優笑。」
広瀬君に名前を呼ばれ、「あ、わかった。」と返し一度深呼吸をしてから話し始めた。
―――――「そんなことがあったんだな。」
先生は私が話し終えるとそう言い放った。
でも、先生は「でもな・・・」と続けた。
嫌な予感がした。
急に太陽が雲に覆われ暗くなっていった・・・。
そんな中、先生は言葉を続けた―――――。
周りが暗くなり、怖さが一気に増した。
そして先生は口を開いた―――――。
「でもな・・・
いじめたかどうかは相手も基準で、いじめられた側は今話してくれた優笑のようにものすごく鮮明に覚えているんだ。
それは、傷ついたから・・・、心に深い傷を負ったから。
そうだろう・・・?
普通の生活の中で起こったことはそこまで覚えてない。
だけど、そうやって傷ついたことは鮮明に覚えてしまうんだよ。」
私の中の心の傷がズキッと痛み付けられる。
やばい・・・泣いてしまいそうだ。
でも、先生の前ではしっかり者。
だから泣いてはいけない。
みじめな姿を見せられない・・・。
私は先生にばれないように口を固く閉じ、歯を食いしばって涙をこらえた。
そうしている間も
先生の口は止まらない。
「ただね、相手を傷つけた方。
―――――つまりいじめた方の人は、相手が傷ついたかもわからないときがあるくらいのことだからすぐに忘れてしまうんだ。
だから優笑は傷つけたつもりはなくても相手は傷ついてしまっていたのかもしれないよ?」
「でも・・・私は緑ちゃんたちと会ってないんです。」
「・・・そうなんですよ先生!
優笑は、緑ちゃんたちにもういじめられたくなかったから近づかないようにしていたんです。
そんな優笑が緑ちゃんたちをいじめる時がないじゃないですか!」
「広瀬君の言っていることは本当なんです!
私は緑ちゃんのグループと関わらないようにしていました。
だから、いじめようがないんです。」
「いじめる方法はいろいろあるだろう・・・?
例えば、会わなくったって靴を隠したり、悪口を書いた紙を机に置いて相手に読ませたり・・・みたいなね。
つまり、会っていなくてもいじめる方法はたくさんあるから信用できないんだよ。」
私は前に先生に”優笑にいじめられたという人がいる”という話を聞いたときのように怒りと先生への問いがたくさん出てきた。
・・・なんで?何で先生は私の言っていることを信用してくれないの?
私の”いじめられたからその人たちに関わりたくない”っていう気持ち、わからないの?
先生は必ずやられた方の味方をする。
だけどそれが作られた話かもしれないって思わないのかな?
私がどれだけつらい思いでここまで来たのか、
私が先生に信用してほしくてどれだけの勇気を出して小学校の時の話をしたのかわからないのかな・・・?
私は、何のために勇気を出したの?
少しは優笑のことを信じてみようかなって気持ちがないの?
おかしいよ。なんで・・・なんでよ。
「そんなのひどいですよっ・・・!」
思わず声に出してしまった。
手にポタポタッと涙が落ちてきた。
あーあ、泣いちゃった。
先生の前では泣かないようにしようって思ってたのに、泣いちゃった。
先生はどう思うだろう。
先生も人間なんだから、”本当は優笑は弱虫だ”って思うのかな。
小学校のとき、学校で泣いてしまっていた女の子のことを周りの子が悪く言っていたのを見た。
だから私も先生の心の中で悪くいわれるのかな。
最悪の場合広瀬君にも・・・と思ってしまった。
すると心の痛みがさっきよりも大きくなっていく。
悲しさと怒りがだんだんと大きくなって抑えきれなくなってくる。
「先生は私のことを少しぐらい信用してみようって気はないんですか?
私は先生に信用してもらいたくって勇気を出して話したのにっ・・・。」
「先生!優笑のことをもう少し信用してあげてくれませんか?
優笑は本当にすごく勇気を出して先生に話そうと決めたんですよ。」
先生は驚きの顔をして、「七香、広瀬・・・!」とつぶやいた。
そして、
「そうだったんだな。
あんなことを言ってすまなかった。
でも、先生の言ったことも少しは理解してほしい。
ただ、七香と広瀬の言いたいこともよく分かった。
だから、こんなのはどうかな?
緑たちに一回、”七香はやっていないと言っているんだが”と、”緑たちにはかかわってないんだ。”というようなことを言って話を聞いてみる方法は?
あと、ついでに小学校の時優笑をいじめたそうだなと言って、少し注意しておこう。
そうすれば、何かしらまたあの子たちから話が出てくるかもしれないからな!
どうだ?名案じゃないか?
七香、広瀬、君たちもそう思わないか?」
私は率直に言うと名案とは思わなかった。
むしろ、嫌だった。
だって、先生に”緑ちゃんたちにいじめられた”という話をしたってばれるから。
ばれてしまうと何が起こるか分からない。
だから怖かった。
だけど先生の目をみると、”先生の言っていることは正しいだろう”と否定するのを許さないようなことを物語っているようで口が開かなかった。
心の中で私自身に向かって叫んだ。
『優笑!こんなところで勇気を出さないでどうするの?
また逃げるの?
こんなんじゃまた何も変わらないままだよ?
本当は嫌って言いたいんだからしっかりいわないと!
そうでもしないと伝わらないよ?』
すると、『そうだよな。しっかり伝えないと!』という気持ちが強くなってきた。
頑張っていってみよう。
そうして口を開いた。
でも・・・
「よし。それじゃ、そういうことで!
緑たちの方は任せなさい。
部活があるなら急いで向かい、ないのであれば速やかに下校するように。
またな。」
といって先生は席を立ち、勝手に出ていってしまった。
「そんな・・・」
私はそう声を上げた。
せっかく頑張って言おうとしたのに、言えなかった。
こんなに悔しいことは今までに存在するだろうか。
悔しくて、これからのことが不安で、悲しくて・・・そして、先生に向かってのいら立ちが混ざり合い唇を思いっきり噛んで泣いた。
先生に聞こえそうなくらい、この部屋に響き渡るくらい泣いた。
隣の広瀬君も「くっそ・・・!」と悔しそうにしていた。
結局・・・思い通りの結果は出なかった。
そして、先生のこれから行おうとしていることがいい方に進むとは思えなかった。
太陽にはまだ雲がかかったままで、より一層心を重くさせる。
私たちは最後、先生に言われたことを破って、完全下校の予鈴がなるまで会議室Aに残っていた。
下校時は広瀬君と一緒だったけど何も話さなかった。
知らない人に見られていることも気にせず泣きながら帰った。
そして、途中で涙が少しずつ減ってきた。
・・・だけど、広瀬君と別れると一気に心細くなってまた泣き出してしまった。
今の私は絶望のどん底に突き落とされ、体中痛くて起き上がれなくて泣いているような感じだと思う。
本当に心の中では『もう立ち直れないだろう。』と、『もう何をやっても私はダメなんだ』とあきらめていた。
私はもうボロボロだった。
心は形の原型をとどめていないほど崩れていて、外見も顔は涙でぐしゃぐしゃ、筋肉にうまく力が入らないせいでよろよろと歩いている。
はたから見たら”暴力を振るわれた子”のように思われるだろう。
でも、人間は口で暴力を振るわれてもこうなることが今わかった。
『もういやだ・・・。
私は無力なんだ。
死んでもきっと誰も何とも思わない。
だって、みんな私を嫌っているから。
歩ちゃんや広瀬君はどうか分からない。
でも、こんな嫌われている人と一緒にいると何もしていないのに遠ざけられることもあるだろう。
だからきっと私がいなくなったら身が楽になるはずだ。
私は誰にも必要とされていない。
むしろ、消えてほしいって・・・いなくなってほしいって思われてる。
私だって、こんな世界で生きていく自信がない。
いつか必ず死ぬんだから、別に・・・別にどおってことない。
―――――楽になりたい。
一人になりたい。
気を遣わずに過ごしたい。
自由になりたい。
辛い思いをしたくない。
もう傷つきたくない。
裏切られたくない。
安心していきたい。
心地よい場所にいきたい。
もう、こんなこと考えたくない・・・。』
私はそう思って・・・自分の望む場所、この世ではない場所を目指して歩いた。
周りはもう暗くなっていた。
冷たい風が私の顔をかすめる。
夜の街は、きれいだった。
裏の顔を持つ人間がそれぞれの家の明かりをつけている。
”こんなに人っているんだな”と思い、怖かった。
でももう、そんな世界とはお別れできる。
下を見ると離れたところにコンクリートの地面が見える。
怖い・・・けど、自由になるには多少に痛みを我慢する必要がある。
私は前に体重を集め、前かがみになる。
小さな柵が「ギギギ・・・」と音を立てる。
「さようなら、最後まで逃げてごめんなさい。
許してね・・・・・・。」
そして足を浮かせた―――――。
「優笑ーーーー!
やめろーーーーー。」
一瞬手に力が入り、体がさかさまになってく速度が遅くなった。
だけどもう、きっと間に合わない。
諦めればいいのに、広瀬君は全力で走って来る。
「またね。」
そういった。
でも・・・落ちなかった。
死ななかった。
私は広瀬君に両手で肩を引っ張られ、引き寄せられたのだ。
「優笑、何やってるんだ・・・!」
そんな広瀬君の声は怒っている声色をしていた。
「だって・・・」
「だってじゃないよ!
優笑が死んだってなにも変わらない。
悲しむ人が出るだけだ。
何でこんなことをしようとしたの?
俺に話して!
そうじゃないと、許さない。」
「だって・・・だって、私がいても何の価値もない。
むしろ、迷惑をかけているだけ。
みんなに不快感を持たせているだけ・・・!
私は必要ないよ。
悲しむ人もきっといないよ!!」
「俺がいる!
俺がものすごく悲しむ。
それに優笑には生きているだけでものすごく価値がある!
生きていたいのになくなってしまう人だって大勢いる!
優笑。俺たちはそういう人たちの分までしっかり生きるんだよ。
せっかくこの世界で生きさせてもらっているんだもん。
辛くても、苦しくても、逃げたくなっても頑張らないと!
それに、優笑には俺と歩ちゃんって子もいるんだろ?
味方はしっかりいるよ。
きっと優笑のお母さんも本当は優笑を頼ってしまっているだけ。
それに、家族との境界線は何かしらのすれ違いを解消すれば、きっと消えるはずだよ。
死ななければ・・・生きていればなんだってどうにかできるんだよ!
だから、もうそうやって死のうとするな!
絶対だぞ!」
私は今までにないくらい泣いた。
こんなに・・・こんなに私のことを考えて怒ってくれた人は今までいなかったから。
私のことをわかってくれる人がいて安心したから。
だから私は泣いてしまった。
広瀬君は私の背中をさすってくれている。
「私・・・私、なんでこんなに物事がうまく進まないんだろう。
こんなに努力して勇気を出してもうまくいかないで私がまた傷つくはめになるんだろう。
私だけ、・・・なんでっ。
この先もずっとこんな感じで私がむくわれることなんてないのかな。
こんなの不平等すぎるよ・・・。
努力したらむくわれるなんて、いろんなところでよく耳にしたけど嘘じゃん。
でたらめじゃん。」
そんな風に言った私を広瀬君は、
「そうだな・・・
本当にこの世の中は不平等だ。
全くむくわれないよ。
でも、きっとむくわれなくても少しぐらいはいいこと、ラッキーなこと、幸運なことが一つや二つはやってくると思うよ。
俺はそう信じてる。
だから、大丈夫。
次のいいことがやってくるまでもう少し一緒に辛抱しよう。」
「うん・・・。」
そういってくれた。
この優しい言葉が今の私の心の傷をいやしてくれる。
「あり、がとう。
もう絶対今日みたいなことはしない・・・。」
「分かったてくれたなら、許す。
でも、次はないからな。」
そういう風に広瀬君は言った。
「分かった。」
私は広瀬君に向かってそう返事をした。
さっきまで、真っ暗で何もない方に進んでいたトンネルの先に光がうっすら見えた気がした。
でもやっぱり、そんなにすぐ私の心の中で何かが変わるはずがなかった。
家に帰っても心は少しズキズキしていて、頭は少し『無』の状態だった。
これからどうすればいいんだろう・・・。
私は、しばらく考えていた。
ずっと考えている間、何回もさっきの広瀬君の言葉が頭の中で再生された。
『―――――それに、優笑には俺と歩ちゃんって子もいるんだろ?
味方はしっかりいるよ。』
私はハッとした。
そうだ・・・。
そうだった。
歩ちゃんに聞いてみればいいんだ。
これからどうすればいいのかを・・・。
そして私は歩ちゃんにメッセージを送るためLAINを開き、文字を打ち込んだ。
【歩ちゃん、私今日先生に話したんだ。
だけど、先生は全然わかってくれなくて、それで私が
「そんなのひどいですよっ・・・!」
みたいに言ったんだ。
そしたら隣にいた広瀬君もね
「先生!優笑のことをもう少し信用してあげてくれませんか?
優笑は本当にすごく勇気を出して先生に話そうと決めたんですよ。」
って言ってくれたんだ。
だけど先生は、なんか
「緑たちに一回、”七香はやっていないと言っているんだが”と、”緑たちにはかかわってないんだ。”というようなことを言って話を聞いてみる方法は?
あと、ついでに小学校の時優笑をいじめたそうだなと言って、少し注意しておこう。
そうすれば、何かしらまたあの子たちから話が出てくるかもしれないからな!
どうだ?名案じゃないか?
七香、広瀬、君たちもそう思わないか?」
って言いだしてさ、もうほんとにそうしてほしくなかったから頑張って”やめてください”って言おうとしたんだ。
なのに、先生は私が話す前に私たちの前から
「よし。それじゃ、そういうことで!
緑たちの方は任せなさい。」
みたいにいっていなくなっちゃって・・・。
私、どうすればいい?
もう誰と何をしても変わらない気がしてきた。
歩ちゃん、助けて、
もう私、情けなくなってくるくらい何も考えられないや。。
返信、待ってる。】
そうして、私が死のうとして広瀬君に止められた時のことは避けて書き、送った。
そのあと私はスマホを置き、ベッドにダイブして誰にも聞こえない声で、
「明日はどうなっちゃうんだろ・・・」
といって、そのまま眠ってしまった。
「ドドドドドッ、ガタン・・・」
そんな音がして私は飛び起き何事かと思い窓の外を見た。
すると、近くの電柱の工事が始まっていた。
「そういえば、
”電柱柱の工事をするため大きな音が出てしまいます。
ご協力のほどご協力お願いします。”
みたいな手紙、この間届いてたな・・・。」
そんなことをつぶやいて目をこすった。
そして足元に目を移すと
「―――――やっば!
なんか今日はのんびりしてるなって思ったら、学校じゃん!
忘れてた!」
中学校のバッグが置かれていた。
そういえば、昨日は歩ちゃんに連絡をして、アラームも何もかけずに寝てしまった。
急いで床に置いてあったスマホを取り上げ、時間を確認した。
「っ・・・・・・!」
もう、たいした声が出なかった。
スマホの画面には一〇二四と数字が並んでいる。
もう、十時二十四分だ。
学校はもう二時間目が始まっている。
私は急がなければと思い、制服を着て朝ご飯を食べたり、髪の毛を結ぶために一回に降りた。
台所には、お母さんや弟の碧唯、そしてお父さんまでもが朝ごはんを食べた痕跡が残っていた。
今日は私はスープを作っていない。
なのによく見ると、スープのお皿がお盆の上に乗っかっていた。
きっと誰かが作ってくれたのだろう。
私は不思議に思いながらも鍋を温めその後、お皿にスープをいれ自分の朝ご飯の支度をした。
一人で「いただきます。」といい、食べ始める。
そして誰かがつくったのであろうスープを口にした瞬間、今まで忘れていた何かが思い起こされたような感覚になった。
小さいころよく食べた懐かしい味。
お母さんの作ったスープだとすぐに分かった。
なぜか、涙が出てきた。
最近はずっと泣いてばかりだ。
だけどこの涙は今までの涙とはどこか、違う気がした。
言葉にできないような感情が広まっていく・・・。
そして私はいつの間にか
「お母さんっ。」
と絞り出すような声で言っていた。
収拾のつかない気持ちがあふれていて、もうずっと泣いていた。
ふと正面を見ると窓ガラスに目の腫れたみっともない顔が映った。
今日は先生が何をして、どうなっているかもわからないし、この顔で学校には行きたくなかったので休むことにした。
下を見るといつの間にか空になっている食器が並んでいた。
何となく見ていると不意に
「私、本当は昔のようになりたいって思ってるのかな。」
とよく自分でもわからないことを思った。
でも、心になぜか引っかかった。
食器を片付けてソファに座りさっき思ったことをもう一度よう考えてみた。
目をつぶり、私の気持ちと向き合ってみる。
『私は、今まで本当はどう思っていたんだろう。
今まで私は・・・逃げてきた。
それは、小学校の時に言われた言葉が怖かったから。
もうあんなことを聞きたくなかったから。
だから逃げてきた。
今まですごく信用してきた人に裏切られたから。
全部、今までのことがあの人たちによってつくられていたお話・・・、作り話だったっていうことが信じられなかったから。
笑顔も、言葉も私に向けて作られた演技だったから。
信用するまではものすごく時間がかかったはずなのに、信用するために時間をかけてきたはずだったのに、裏切るときは本当に一瞬で、本当にいくつかの言葉で跡形もなく壊れていくこと、目の前が真っ暗になっていくことがわかって人間の怖さが分かったから。
人は何を考えているかわからなくて、信用しても裏切られるかもしれないからもうなにもかもが敵のように思えてきて、人の言葉全てが全くの嘘のように聞こえて怖くて仕方がなかったから。
逃げるしかなかった。
でも・・・。本当に逃げるしかなかったのだろうか。
―――――私は、怖いといって逃げているだけで何も向き合っていない。
そうだ。逃げるのは仕方がないと自分で自分の周りにバリアをつくって守っていた。
本当は・・・本当はものすごく弱いのに強くなろうとせず逃げていた。
弱い気持ち・・・もうあんな言葉を聞きたくないと、
もう人に裏切られたくないと、
そんな気持ちを最優先にしてきた。
心のどこかでは、”変わらないといけない”って、”いつまでの守りに入っていてはいけない”ってわかっていたはずなのにそんな気持ちを私は見て見ぬふりをしては心の奥底にしまいこんで隠していた。
今思ってみれば、そうやって隠していたらいつまでたっても逃げているだけで、過去のことから身を守り続け、何も変わることができず、新しい自分に一歩も踏み出すことができずに最後まで困ってしまうのは結局自分なのに・・・。
本当に、馬鹿だ。
もうあんなことを経験したくないのなら、まずはその経験に対して意地でもけりをつけて、相手のことより、自分が直すべきことを考えていかないと行かないはずだ。
きっと・・・きっとそうやって毎日少しずつ、一歩ずつ進んでいけばやがて百歩になり、千歩へと増えていき積み重ねていくうちに成長していくことができるはずだ。
逃げていても何も始まらない。
そして今は、広瀬君に・・・、歩ちゃんに信用できる人は必ずいるんだよって、あの時は出会えていなかっただけであって、必ずどこかで信用できる大切な仲間に出会えるんだよって教えてもらい、そんな仲間とともに進んでいけるんだから。
もう一人じゃなく、相談できる人、つらいときに手を差し伸べてくれる人がいるんだから、大丈夫なはずだ。
そしてあとは、家族とのことだ。
広瀬君は私に対して、ヒントをくれたと思う。
”家族との境界線は何かしらのすれ違いを解消すれば、きっと消えるはずだよ。
死ななければ・・・生きていればなんだってどうにかできるんだよ!”
―――――と。
確かに死んでしまったらもう何もできない。
やり直したくてもできない。
きっと、今考えれば、あの時死んでしまっていたらきっと今私は後悔している。
あのあと、こんなことをしてあんなことをして問題を解決していって・・・
挫折したって頑張って根気強く立ち上がって頑張っていつか成功したときにまた一からやり直せば、変われていたかもしれないのに・・・って、あの時目の前の苦しみから逃れて、最後まで逃げたことを悔しんでいたと思う。
だから、生きて、頑張って命の終わりの最後まで生きる。
そして、広瀬君の言葉のうちの”何かしらのすれ違い”が何かを見つけ、向き合い、解消していく。
で、問題が解決した後、また小さいときのように心から笑い合って、たくさん話をしていきたい。
見えない境界線を消していきたい。
だから、どうにか話し合おう。
誰にも話していない心のうちを話し合ってみよう。』
そうして私は今。
・・・・・・たった今、ようやく自分という私自身が一番理解しないといけない人を理解できた。
ううん。まだ理解しきれていない部分もたくさんあるかもしれない。
だけど、とりあえずは今私に必要な、私が今理解しておくべき部分は理解できたと思う。
だから大丈夫なはずだ。
私は、「あと・・・」といって
【もう誰と何をしても変わらない気がしてきた。
歩ちゃん、助けて、
もう私、情けなくなってくるくらい何も考えられないや。。
返信、待ってる。】
などと、先生に話に行った時のことを話し、どうすればいいのか聞いた時の答えを知るために部屋に行き、スマホを開いた。
スマホを見ると、歩ちゃんからのメッセージが二件、そして広瀬君からの着信がなんと十件近く来ていた。
電話をくれた時間を見てみると、十分おきに着信してくれていたことが分かった。
『どうしたのかな・・・。』
と広瀬君のことも心配になったが、私は今学校をさぼっている。
つまり、広瀬君も歩ちゃんも今は学校だから電話をかけなおしても応じることはできない。
ということで歩ちゃんからきているメッセージのほうを確認した。
【優笑ちゃん頑張ったんだね。
本当にすごいよ!
もう、先生に話すことができた時点で何かが変わろうとしていて、今回だって結果が良くなかっただけであって、先生は優笑の話を一応って感じだけど知ることができて、また緑ちゃん達に話を聞くことになった。
これは、優笑ちゃんが先生に話さなかったら起きていない出来事でしょ?
だから、何かしら変わっているんだよ!
今は事が良くない方向に進んでいるみたいで、何をどうしていけばいいのかわからなくなってパニックになってるかもだけど、前にも言ったように一回深呼吸してみて!
そして、優笑ちゃんは全く情けなくなんかないから、一回自分が本当にどんなことを考えているのかを思い返してみな!
そうしたら、本当に自分がどうするべきなのかわかると思うよ!
優笑ちゃんはずっと頑張ってるから、きっともう少しで光が見えてきて、だんだんいい方向に向かってくるよ!
だから、いい方向に向かっていくチャンスを逃さないように一つ一つのことに向き合って頑張れ。
また何かあったら話してね!】
という事だった。
「歩ちゃん・・・。」
本当に歩ちゃんに聞いてよかったなと思った。
今のメッセージで、さっき私が考えていたことは間違ってないんだって、自分自身と向き合ってみて正解だったんだっていう事が分かった。
そして、勇気が出てきた。
私は歩ちゃんに、
【確かにそうだね・・・!
私、今日先生が緑ちゃん達に話しただろうなって思って・・・なんか怖くなって学校に行かなかったんだ。
ずる休み、しちゃった。
でも、その分しっかり自分と向き合ってみたんだ。
そしたら、”家族のことも、友達とのことも色々、逃げていてもいいことないんだ。”とか、
”なんで今まで逃げてしまっていたのか、”とかっていう事の答えが分かってきて、なんか少し自分のことが理解できてきて、
これからどうにかして前向きにまた頑張ってけるような気がしたんだ。
だから、本当にありがとう。
私、また頑張るね。
また何かあったらメッセージするかもしれない。
その時はまたよろしくお願いします。
〈家族のことについて〉
今まで、話せてなかったから話しておくね。
私、なんか気づかない間に家族との間に境界線みたいなのができちゃててさ、そのせいでなんかあ母さんとか弟の碧唯とかの間に変な壁がある感じで、うまく話せてないんだ。
広瀬君には、”家族との境界線は何かしらのすれ違いを解消すれば、きっと消えるはずだよ。”って言われて、歩ちゃんに言われて今日考えてみて、
『広瀬君の言葉の”何かしらのすれ違い”が何かを見つけ、向き合い、解消していく。
そして、問題が解決した後、また小さいときのように心から笑い合って、たくさん話をしていきたい。
見えない境界線を消していきたい。
だから、どうにか話し合おう。
誰にも話していない心のうちを話し合ってみよう。』
っていう考えにたどり着けたんだ。
まだ、私的に緑ちゃんのことも残ってるし、頭の中で具体的にどんなことをするのかも何も考えていないから実践していくのは先のことになりそうなんだけど・・・。
とにかく、こんな感じのことがあったんだ。
ちょっと内容がごちゃごちゃしちゃって分かりにくいかも。
ごめん。】
と返した。
そのあとは何となく、といった感じで時間を過ごしていた。
すると夕方、スマホから「プルルルル・・・プルルルル・・・」と電話の音がした。
まさかと思って画面を見てみると案の定”sora★”と書かれていた。
私は、今日のことを話したかったこともあり、通話ボタンを押した。
「―――――、もしもし広瀬君?
電話、今まで気づいてなくて、出れなかった。
ごめん。」
「あ、優笑?
ううん。大丈夫だよ。
気にしないで!
・・・・・・それより、今日学校来てなかったんだけど、大丈夫?
俺、心配で、めっちゃ電話かけちゃった。アハハ・・・。」
「そうだったんだ・・・。
心配かけてごめん。
大丈夫だよ。
今日は、先生が緑ちゃん達に話しただろうなって思って・・・なんか怖くなって学校に行けなかったんだ。
だけどね、私一回自分ともう一回本音で向き合ってみようと思って考えてたんだ。
そしたら、なんか自分がなんで怖くなるのかとか、なんで逃げちゃうのかとかっていう本当の気持ちが多分だけど分かったんだ。
私、また頑張って、最後まであの緑ちゃんたちのことに向き合おうって思った。
あと、広瀬君が言ってくれたように家族と心のうちのことを話し合って、何かしらのすれ違いを見つけて解決していきたいなって思った。
だから、本当にありがとう。
これからもよろしくお願いします。」
「そっか・・・!
良かった。
優笑の力になれてたんだったら、俺も嬉しい。
またなんかあったら、すぐ頼ってくれていいからね。
俺も、優笑の手伝いもするから、家族のことも緑ちゃんたちのことも頑張って!」
「うん。ありがとう!
頑張るね!
明日は絶対学校に行くから。
緑ちゃんたちのことできっと何かしらあると思うから、その時はまた話すね。」
「了解。
じゃまた明日ね。
学校で待ってる!」
「うん。また明日。」
そして、”プツリ”と音を立てて電話が切れた。
『明日は何があるか分からないけど、広瀬君が学校にいる。
しかも、私も少し変われたからきっと大丈夫なはず。
何かあっても私には味方が少なからずついてくれている。
だから、頑張って学校に行く。』
私はそう心の中でつぶやいた。
もうすぐで夜ご飯だ。
まだ、すぐには何かをすることはできないけど、家族としっかりご飯を食べよう。
そう決めて私はリビングに向かった。
やっぱりもう怖さはほとんどなかった。
学校に行かなかったのは悪いことだけど、私にとってはいい機会になったと思う。
今日の出来事のおかげで、私は一歩明るい未来へと続いている道に踏み出せたと思った。
途中で鏡を見た。
私の顔はもう今までとは少し違って明るい顔になっていた気がした―――――。
次の日。
私は今、学校の正門をもう少しで通り過ぎるというところを歩いていた。
もう目の前にどんどんと近づいている正門。
あれを通り過ぎるともう別世界だ。
「でも、もう大丈夫。」
そう言って私は正門を通り過ぎていった。
そして、下駄箱で上履きに履き替え教室に向かった。
幸い、教室に着くまでの廊下では緑ちゃんたちに会わなかった。
そして、教室に入った。
当たり前なことだけど、もちろん、
『私が少し変われたからと言って周りも少し変わっていた・・・』
なんていう都合のいいことは全くなく、みんないつものように私を変な目で見てきて私と目が合えばスッと違うの方向を見ていた。
私も私で、少し変われたものの、やっぱりこういうことをされると少し悲しかった。
でも、そんな気持ちは長く続かなかった。
「優笑、おはよう!
本当に元気そうでよかった!」
「うん。おはよう!
元気そうでよかったって・・・。」
私は心の中で
『昨日、”大丈夫”って言ったはずなんだけどな。』
とつぶやいた。
だけど、広瀬君には言わないで、
「でも、昨日は本当に心配してくれてありがとう。」
と返した。
「ううん。全然だよ!
でも、もう本当にあんな無茶なことはしないでくれよ?」
「無茶なこと・・・?」
私は一瞬、何のことかわからなかった。
でもすぐに、何のことか理解し、
「あ、あのことね。
うん。もう絶対しない。
だから安心して。」
「おう!
それじゃな」
そう言って去って行ってしまった。
広瀬君が転校してきたのはつい最近で、あの時は想像できないくらい広瀬君との関係も、自分のことも少しずつ変わったなと思った。
心の中でもう一度「ありがとう」と広瀬君の方を見てお礼を言った。
だけど・・・
「あれっ・・・?」
広瀬君は友達の方に行ったのだと思っていた。
だけど、彼は自分の席に座って頭を抱え込んでいた。
『どうしたんだろう・・・?』
急に心配になってきた。
『私のせい、かな?
それとも頭が痛い・・・とか?』
と、いろいろ考えたけど、”これだ!”という考えは思いつかなかった。
『いっそのこと話しかけてみようかな・・・』
そう思ったものの、
『やっぱりやめとくか』
と思い、やめた。
だって、近づかないでほしいオーラというか、何というか・・・・・・。
とにかくあまり話しかけないでおいた方がいい気がした。
だけど私は広瀬君のことが何となく心配で、自分の席から様子を見ていた。
すると・・・
「空!大丈夫か?
体調悪い?頭痛いの?」
とクラスの人が話しかけてきていた。
席は近くないけど、その子の声が大きくて聞こえたのだ。
そのまま聞き耳を立てて聞いていると、
「ううん。全然。
痛くも何ともないよ!
むしろめっちゃ元気!」
そう広瀬君は言っていた。
おまけに手を丸め、腕を上下に動かして
「元気!元気!」
と元気なことを証明するかのようにしていた。
だけど私は、ほんとかな・・・と心配が残っていた。
そして友達がいなくなると広瀬君はさっきのように頭を抱え込んでしまった。
『やっぱり、絶対元気じゃないじゃん。』
私はそう思った。
だけど、ここではなしかけられる自信がない。
でも、心配・・・。
そうして困っていると授業開始のチャイムが鳴ってしまった。
『あーあ、私本当に馬鹿だ。
ろくにまだ決断できないなんて・・・。』
そうやって自分のことを攻めた。
だけど、攻めたところで何も変わらない。
『よし。昼休み頑張って話してみよう。』
私は覚悟を決めた。
「キーンコーンカーンコーン・・・」
昼休み開始のチャイムが鳴った。
私は広瀬君と話すために教室で待ってたが一向に来なかった。
「外に遊びに行っちゃったのかな・・・」
そう思って窓から校庭を見てみた。
でも、
「いないか・・・。」
多分、いなかった。
校庭には人がたくさんいてあまりよくはわからなかったから、絶対にいないとは言えなかったのだ。
そして、仕方なく教室で本を読むことにした。
しばらく本を読んでいると、
「七香さん、誰か呼んでるよ?」
という声がした。
一瞬、『気のせいだろう。』と思ったが、やっぱり近くから
「七香さーん。」
と誰かに呼ばれていた。
その声のする方を向くと、
「ども・・・。」
といって、私のことを呼んでいた子は下を向いて気まずそうにしていた。
そりゃそうだよね、一匹オオカミだもん。
私は自分でそう言い聞かせた。
でもしばらくの間、その読び名を聞いていなかったからだろうか、違和感があった。
『一匹オオカミ、か。』
少しそう思ったが、誰かに呼ばれていることを考え、その人を待たせないよう廊下に向かった。
すると・・・
「優笑ー元気?」
と目の前の人に言われた。
顔を見てみると・・・
「え、、緑・・・ちゃん。」
そう。
緑ちゃんがいたのだ。
そして私は、今、一つの嫌な予感がした。
私はその予感が的中していないことを願いつつ、
「私、人に呼ばれたから・・・」
と言った。
すると、
「ばっかじゃないの!?
・・・というかもとからバカだったね。
呼んだのは私たちよ?」
と言われた。
それを言われたのと同時に、
「そうだぞ!」
「呼んだのは俺たちだよ?」
とグループの緑ちゃん以外の人が一斉に周りに来た。
やっぱり、か。
私の嫌な予感が当たってしまった。
今は広瀬君も、先生もいない。
相当まずい状況だった。
嫌な、変な汗が頬や背中をつたっているのがわかった。
冷や汗だ。
手がだんだん震えていく・・・。
「やっぱりこの人たちは危険だ!」
と体の警報が鳴っているようだった。
そんな私を見て、
「ほんとお前は怖がりだな。」
といって、あざ笑い私に近づき、
「お前はこっちだよ?」
と、私の手首をつかみ歩き出した。
とっさに、私は
「やっ、やめて!」
と小さい声だったけど、そういった。
そしてつかまれている手を振り払おうとした。
でも、その私をつかんでいる手は力が増してしまっただけで、私が振り払おうとしてもびくともしなかった。
「離すとでも思ったのか?
つくづくお前は馬鹿だな。」
そういわれ、
「なっ・・・!」
と言ってしまった。
本当にひどい人だ。
私の体の中で鳴り響いている警報音がもっとました気がした。
そうしてなすすべなく、ずるずるとひきずられ、学校か分からなくなるほど真っ暗で誰もいない場所に連れていかれてしまった。
「なに、ここ・・・。」
私がそういうと、
「ははっ、どこだと思う?
ま、お前に分かるはずがないか。
ここはな、お前と話をするためにわざわざ、探してあげた場所なんだよ?
感謝しないとだな。
ハハハハハ」
と言われた。
・・・・・・・前までは、というか小学校の時まではただ陰口を言われただけだったのに今はもうあの時とは全くの別人。
いや。もっと悪者らしさがでていた。
そして、迫力が先生ほどではないものの普通の人よりかは強い迫力が感じられた。
手首が離された。
『いまだっ!』
私はそう思い今来た道を全力で走って逃げた。
だけど、私はすぐにつかまってしまった。
「逃げようとするなんて、バカとかの以前の問題だな。」
連れ戻されると、そういわれた。
もう下を向くしかなかった。
おとなしく話を聞くことにし、黙ってまってる。
すると、
「優笑・・・」
と話が始まった。
「優笑、お前よくも先生にいじめられたことがあるなんてことを言ってくれたな!
そのせいで、ほんと俺たちが怒られたんじゃないか!
どうしていったんだよ。あ?
こたえろ。」
聞いたことがないくらいの低い声がしてさらに怖くなった。
相当怒ってるな・・・。
私はすぐにそう感じ取った。
多分ここまで怒らせると何を私がいってもどうなるか予想がついた。
だったら・・・だったら、せっかくなんだから私の本音ぶつけてみよう。
そうして私は勢い任せで思いっきり言い返した。
「は・・・?
そっちがおかしいんじゃないの?
私は何をしたっていうの?
あなたたちをいじめた・・・?
私は小学生の頃たまたまお前らが私の悪口言っているところを聞いて、それからは関わらないように過ごしてたのにそんなことするわけないじゃん。」
私は自分の口の悪さに思わず驚いてしまったけど、私の口は止まらなかった。
「ねぇ?
聞いてる?
バカなのはそっちだよ!
作り話を先生や生徒に広め、みんなして私をいじめて何が楽しいの?
何の意味があるの?
というか、そもそも私なんかした?
なんか、お前らは私の性格が気に食わなかったようだけど、そんなん私の個性じゃん。
私は悪気があってやってるわけじゃないし!」
「優笑、てめぇ・・・!」
今にもとびかかってきそうだったけど私は気にせず続ける。
「今私が話したこと、わかった?
バカだからわからないかもだけど、つまりはね、
”私の個性について勝手にそっちがムカついて、悪口とか作り話を流して私を遠くからいじめる”
みたいなことをしているそっちがバカなんだよ?
わかった?」
「はぁ・・・!?
んなの、知るかぁ!」
「そうだぞ!
そっちの勝手な理屈なんて知らねぇよ!」
「ほんとに、そんなおかしいことが言えるほど優笑っておかしいんだね。」
といって、まるで何にもわかっていなかった。
そうしていろいろ言われ、無視しているとたたかれて、「ぼろぼろじゃん」と笑われた。
「キーンコーンカーンコーン・・・」
と昼休みのチャイムが鳴った。
私はもう本当にボロボロだった。
そんな私を見て、
「うん。それじゃ保健室行って。
スッキリしたよ。
もうこんなことされたくなかったら素直に先生の言っていることを認めて、”私がやりました”って言うんだよ?
わかった?」
「保健室行って、”どうしたの”って聞かれたら、なんか校庭にいたら鳥のヒナみたいなのを見つけて、とりあえずって思って端にもっていったらなんかカラスにつつかれて、逃げてたら転んで・・・」
っていうんだよ?
あとは知らないからー。
自分で早退したりとかなんかよくわからないけど勝手にやって。」
「頑張れー。
緑も言ってたように、”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
わかったね?」
とグループの人たちで言ってきた。
すると私が何かを言うのを待つわけでもなくスタスタと言ってしまった。
『私も早く保健室に・・・』
そう思って立った。
すると、激痛が走った。
「いたっ・・・!」
さっきたたかれた所だろうか。
髪の毛もいつの間にかぐちゃぐちゃだ。
どうにか歩いて保健室に着いた。
「失礼します・・・」
そう私が言うと顔を上げた先生が
「あなた、大丈夫!?
とりあえずここに来なさい!」
そういって座らせてくれた。
痣のできてしまっているところに湿布を張って冷やしてもらった。
その冷たさが”スゥー”っと効いてしばらくすると痛みが引いてきた。
先生は最初に
「何があったの?」
と聞いてくれたけど、私は噓をつきたくなかったし、でもだからと言って本当のことを言うことはできなかったので、
「いえ、少しいろいろあって・・・」
というと「そっか。」といってそれ以上は聞こうとしてこなかった。
私はあまり聞いてほしくなかったから心の中で、”問い詰めないでいてくれてありがとうございます。”とお礼をつたえた。
そして、そういえば・・・。と広瀬君のことを思い出した。
『広瀬君に”大丈夫?”って言おうとしてたのに私がまた心配かけちゃうな。』
そう思うと罪悪感が募った。
私は人を心配させることしかできていない。
本当に悔しかった。
すると・・・
「優笑、大丈夫か!?」
と言って、私が今罪悪感をいだいていた広瀬君が現れた。
広瀬君は
「失礼します。」
といって、入室してきてくれた。
「広瀬君・・・。なんで・・・?」
いや、教室に入る直前で緑ちゃんたちが近くを通って、
『優笑ボロボロで保健室に行くとが面白すぎるよね』
って言ってるのを聞いて、すぐに保健室に行こうと思ったんだけど、たまたま先生がもう教室にいて、体の向きを変えた俺に対して、
『広瀬ー、どこ行くんだ?』
って言われちゃってさ、なかなかこれなかったんだ。
ほんと、ごめん。」
「いや、広瀬君が謝ることじゃないよ・・・!
私の方こそ心配かけてばっかりでごめん。
せっかく昨日いろいろ考えたばっかりなのに・・・。」
「そんな、大丈夫だよ。
優笑、それよりさ何があったの・・・?」
「あ、えっと・・・」
私が話始めようとした時、近くで「ドンッ」と音がした。
視野が一気に広くなって、音のした方を向くと先生が気まずそうにしてこっちを見ていた。
「「あ・・・」」
広瀬君と私の声が重なった。
そして私はあわてて、
「先生すみませんこんなところで話し始めてしまって・・・。
湿布ありがとうございました。
もう大丈夫そうなので、失礼します。」
「いえいえ。でも、無理はしちゃだめだからね?
また痛くなったら来なさいね。」
「分かりました。
ありがとうございます。」
そうして私たちは保健室を出た。
広瀬君が先を歩いてくれたのでそれについていく。
私のことを気遣ってくれたのか、歩くスピードがゆっくりに感じた。
そして、教室から離れた図書室に来た。
今は先生がいないらしく、ガランとしていた。
「優笑、大丈夫?
勝手につれてきてごめん。
でも、今日は図書の先生休みだから、大丈夫だよ。」
そういって説明してくれる。
「ありがとう・・・!」
そうして近くの席に座った。
しばらく沈黙が流れていたが、広瀬君が
「何があったか話せる・・・?」
と言った。
私は「うん。」といい、話始めた―――――。
「今日の昼休みの中盤で私、クラスの子に
”七香さん、誰か呼んでるよ?”って言われてさ、最初は気のせいだと思ったんだけど気のせいじゃなくて・・・。
でクラスから出たら緑ちゃんがいて、
私、緑ちゃんに呼ばれたのかもしれないと思ったけど、その私の考えは外れていてほしいって願って、
『私、人に呼ばれたから・・・』
と言ったの。
そしたら、
『ばっかじゃないの!?
・・・というかもとからバカだったね。
呼んだのは私たちだよ?』
みたいに言われて。
それを言われたのと同時に、
『そうだぞ!』
『呼んだのは俺たちだよ?』
とグループの緑ちゃん以外の人が一斉に周りに来てさ、つれていかれたんだ。
運が悪くて先生は誰もいないしみんなは見て見ぬふりして・・・
で、よくわからない真っ暗で人のいない場所にきて、
『どこだと思う?
ま、お前に分かるはずがないか。
ここはな、お前と話をするためにわざわざ、探してあげた場所なんだよ?
感謝しないとだな。
ハハハハハ』
っていう風に言われて、その後、
『優笑、お前よくも先生にいじめられたことがあるなんてことを言ってくれたな!
そのせいで、ほんと俺たちが怒られたんじゃないか!
どうしていったんだよ。あ?
こたえろ。』
って、聞いたことがないくらいの低い声でいわれて。
私はすぐに”相当怒ってるな・・・”って感じ取ったの。
でも、多分ここまで怒らせると何を私がいってもどうなるか予想がついて、
”だったら・・・だったら、せっかくなんだから私の本音ぶつけてみよう。”
って考えて、私、勢い任せで思いっきり言い返したんだ。
『は・・・?
そっちがおかしいんじゃないの?
私は何をしたっていうの?
あなたたちをいじめた・・・?
私は小学生の頃たまたまお前らが私の悪口言っているところを聞いて、それからは関わらないように過ごしてたのにそんなことするわけないじゃん。』
ってね。
私は自分の口の悪さに思わず驚いたけど、私の口は止まらなくて。
『ねぇ?
聞いてる?
バカなのはそっちだよ!
作り話を先生や生徒に広め、みんなして私をいじめて何が楽しいの?
何の意味があるの?
というか、そもそも私なんかした?
なんか、お前らは私の性格が気に食わなかったようだけど、そんなん私の個性じゃん。
私は悪気があってやってるわけじゃないし!』
っていっちゃったんだ。
そこから先はもう想像が着くかもだけど、散々いろいろ言われて、叩かれて・・・で、今の状況なんだ。
あの時、緑ちゃんたちは
『そっちの勝手な理屈なんて知らねぇよ!』
とか、
『ほんとに、そんなおかしいことが言えるほど優笑っておかしいんだね。』
とかっていって、とにかく私の言ったことを認めなかったから私、
”緑ちゃんたちには何を言っても通じなさそうだな”って思った。
しかも、最後に
『緑も言ってたように、
”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
わかったね?』
ってグループの人にいわれて・・・。
今回はもう、どうしようのないのかな・・・。」
私は心から漏れてしまった言葉にハッっとした。
『何を言ってるんだろう。最後まで向き合って解決するって決めたのに・・・。』
そう思っていると広瀬君が口を開いた。
「そう、だったんだね。
俺、そんなことが起きてるときに駆けつけられなくてごめん。
”力になるとか言っておきながら!”って感じだよね。
・・・・・・。」
そういって、また朝のように頭を抱えた。
「広瀬、くん?」
「ん?」
「いや、朝からそうやって頭抱えてたからさ、大丈夫かなって思って・・・。」
「あ、あー、そ、そうだね。
心配かけて、ごめん。
頭がちょっと痛くて、さ、ハハハ・・・。」
見るからに様子が変だ。
「なにか、あった?」
「え?ううん。何もないよ?
それより、これからどうする?
教室、戻る?」
―――――明らかにはぐらかされた。
絶対何か隠してる。
私はどうにかして広瀬君の力になりたかった。
だから、
「広瀬君、自分の心の内側のことを詳しく聞かれるのは嫌なこと私もよくわかるんだけど、今だけ許して・・・。
あのさ、広瀬君本当は何かあるんじゃない?
さっき私に聞かれて答える時、明らかに変だった・・・。
私、力になりたいんだ。
だから、話せそうだったら話してほしい。」
そういった。
「優笑・・・。」
広瀬君は下を向いてしまった。
『私、やっぱり言わない方が良かったかな・・・、』
今そう思っても遅いのに、私はそう思ってしまった。
すると、
「心配かけてごめん。
優笑の思ってる通りだよ。
本当はなにかある。
でも、優笑に言う自信がなかった・・・。
怖かった・・・。
だから言えなかった。ごめん。」
「そっか、無理に聞いてごめん。」
「ううん。大丈夫。
俺も話さないといけないとは思ってたから・・・今話しちゃってもいい、かな?」
「うん。いいよ。」
「ありがとう。
優笑にはいってないけど、俺いまお母さんがいないんだ。」
「えっ・・・。」
言葉を挟んだらいけないところなのについ口から出てしまった。
だって、広瀬君の話は私がいままで話していたことよりもはるかに重い話で、辛い話なんだってさっき聞いた一言でわかったから。
「俺のお母さん、ちょうど一年前くらいに死んじゃったんだ。
自殺・・・、でさ。
それでお父さんと俺はしばらく抜け殻みたいになって、ほとんど何も食べないで過ごしてたんだ。
だけど、ある時急にお父さんが
『ここにいると思い出してしまう。
だから、全く違うところに行こう。』
っていって遠く離れたこの県のこの場所に引っ越したんだ。
お母さんが自殺した理由は周りからの嫌がらせというか、言葉というか・・・そんな感じの理由みたいなんだよね。
なんか、職場の人から、
”仕事がうまくできてないくせに・・・”とか、”あなたじゃなくて、もっと仕事ができる人を呼びたいな”とかって言われてたらしく、それに耐えられなくなって・・・。
ってことがお母さんの部屋に置いてあった紙に書かれてたってお父さんが言ってた。
それでもお母さんは何回も、”仕事ができるようになろう”っていって努力してたんだ。
だけど、事態は一向に良くならなくて、だんだん心が傷ついて行っちゃったんだって。
そのお母さんと今の優笑がさ、なんか重なって見えちゃって・・・。
もう、目の前の人とか身近な人が死んでいなくなってほしくなかったから、一時優笑に
『もう頑張っても難しいかもしれないから、いっそのこと思いっきりキャラを変えるとか、別室登校にするとかしてみたら?』
って言おうとしたことがあった。
でも、
”優笑なら・・・優笑に俺がついてしっかりサポートしてあげれば乗り越えて、明るい未来を作っていくかもしれない”
って思って、他にも
”俺には止める権利なんてないな”とも思って、止められなかった。
だけど、やっぱりどうしても今みたいに辛いことを吹っ切ろうとして、気持ちを切り替えてまたスタートをきった優笑がまた次嫌なこと、傷つくようなことをされたら今度こそ本当にいなくなっちゃうんじゃないかと思って心配でたまらなかった。
で、俺はずっと考えてたんだ。
”俺のお母さんの話をして、優笑に
『頑張ったのに傷つくこともある。
だけど、そうなったときはまず自分で何かする前に俺に言って。』
みたいに言おうかなって。
でも、よく考えてみたら、俺にその話をされるとまた考えこんじゃうんじゃないかって思って話せなくなったんだ。
―――――優笑。
俺は優笑が頑張っていることについて否定はしない。
だけど、頼むから俺のお母さんのようになってほしくない。
俺の身近な人がいなくなったりしないでほしい。
だから、本当に何かあったら遠慮しないで、どんな時でも話して。」
話を聞き終わって、私は情報を整理するのに時間がかかった。
だって本当にびっくりしたから。
こんなことが広瀬君の身に起きていたなんて想像してなかったから。
そして、頭にようやく情報が整理されると今度は申し訳のない気持ちでいっぱいになった。
『広瀬君は私にいままでたくさん質問されたり、相談に乗ってくれたりしたけれども、本当はどうだったんだろう。
・・・きっと、相当苦しかったんだろう。
なのに私は、なにも知らず話してしまった。
しかも、私はついこの間広瀬君のお母さんと同じ終わり方をしようとした。
広瀬君があの時『すごく心配してくれるな』ってただただ思っていたけど、本当はそれだけ心配した理由があったんだ。
”もしあの時広瀬君が来なくてそのまま自殺しちゃってたら、今頃広瀬君はどれだけ落ち込んでいるのかな・・・”そう考えただけで辛くなる。
だってもし私のお母さんがなくなって、苦しくてそれで引っ越してきて・・・。
そこで知り合った友達が自殺したって聞いたり、目の前で死んでいくのを見てしまったら、私、立ち直れる自信がない。
だから本当にあの時死ななくてよかったと思った。
「そうだったんだね・・・。
私、そんなことも知らずに自分勝手に広瀬君を振り回しちゃててごめん。
私が死のうとした時も、絶対怖かったよね。
私だったら、
”私と知り合いの人は誰かしら苦しんでしまっているのかもしれない。
もしかしたらまた死んでしまう人が出てくるかもしれない”
って考えて相当怖かったと思う。
だから、本当にごめん。
でも・・・、でも!
こんなこと聞きたくないかもだけど、私はこのまま頑張っていろんな問題を乗り切っていく。」
「え・・・。」
「広瀬君の気持ちは十分わかった。
でも、私はもう逃げたくないの。
強くなりたい。変わりたい。
だから、このまま頑張る。
ただ、約束する。
なにがあっても死んだりしない。
必ず広瀬君に言う。
それに・・・これは私の勝手なことなんだけど、私のこの家族との問題と緑ちゃんたちとの問題をしっかり解決させて、
『私の今までの時とか広瀬君のお母さんのようにうまくいかない人もいるかもしれないけど、絶対にいつかは成功するんだよ』って広瀬君に言いたい。
そうすれば、なにか変わると思うんだ。
どう・・・かな。」
「俺はやっぱりまだお母さんのことがあったから、はっきり”賛成!”って言うことは難しいけど、
確かに優笑は成功させられると思う。
それに、優笑は今さっき
”約束する。なにがあっても死んだりしない。必ず広瀬君に言う。”
って言ってくれたから少しだけど安心した。
あと・・・」
「あと・・・?」
「たとえこういう感じで優笑に賛成できてなくても、絶対俺がついてるから、一人じゃないしな!
あ、ちょっと今俺が言ったこと、つじつまが合わないかも。
えっと、つまりは”俺はとにかく優笑の味方だよ”ってことかな。」
「たとえ、はっきり”賛成!”って言えなくても?」
「そそ!俺がたとえ優笑に賛成してなくても一応優笑についてるよってこと。
だから、一人じゃない優笑はもう大丈夫だよ。」
「そっか。ありがとう。
私、頑張る。
今はとりあえず緑ちゃんたちのことを先に乗り越えようと思う。
だから、よろしくお願いします。」
「おう!俺も案どんどん出せるように頑張るな!」
「ありがとう!」
そういって私たちはそのまま図書室に残り、緑ちゃんたちのことを解決するにはどうすればいいのか考えることにした。
「―――――俺さ、思ったんだけど、言ってもいい?」
「うん。」
「あの、証拠動画・・・みたいなのを先生に見せるっていうのはどうかな・・・?」
「あー、いいね。
でもその証拠動画はどうするの?」
「・・・・・・!
たし、かに。
んー。」
広瀬君は考え込んでしまった。
私も一緒に考える。
癖でつい下に目線が言ってしまう。
すると、痣のできた自分の皮膚が目に映った。
「あ・・・!」
「なんか思いついたのか?」
「え、あ、いや、思いついた・・・けど。
ちょっと怖い・・・。」
「どういうこと・・・?
優笑が思いついた方法ってどんなの?」
「えっと、また私が緑ちゃんたちにいじめられて、それを広瀬君に撮ってもらうっていう・・・方法。」
「んー。確かに怖いな。
俺も目の前でいじめられてる人を見ながら撮り続けるのは無理そうだな・・・。」
「そっか・・・。
まあ、そうだよね。
私も怖いし。」
「うん。」
そして沈黙が流れた。
すると急に
「あ・・・!」
と広瀬君がさっきに私のように声を上げた。
と思ったら私に向かって、
「やっぱりさっきの方法でやろ!」
と言い出した。
「え・・・?」
それってつまり、また叩かれるってことか。
私が黙っていると、
「あ、ごめん。言い方がまずかったかも。
あの、俺が考えたのは、―――――。」
と、いろいろ話してくれた。
内容はこんな感じだった。
まず、今回最後に言われた、
『緑も言ってたように、”また、私たちのグループにいじめられました”みたいに言ったらほんと、今度はもっとひどいから。
わかったね?』
という言葉を利用して、わざと先生に”また、緑ちゃんたちのグループにいじめられました”といって、私のことを呼び出してもらう。
そして、つれていかれている私の後ろからばれないように先生と広瀬君でついていき、私に緑ちゃんたちが悪い言葉を言ったり叩かれたりしたところを先生にしっかり見てもらったら広瀬君がすぐに先生と登場する・・・。
という流れだった。
「こんな感じだったら、良いんじゃないかなって。
優笑が少しだけ傷つくのは確かだから、ごめん。
でも、これ以上思いつきそうになかったから口に出したんだ。
優笑はどう思う??」
「・・・・・・。
私は・・・。
私は、いい、よ。」
そう答えた。
だって、ここで頑張らないとどうにもならないと思ったし、第一、先生が直接見てくれるなら信じてもらえる確率が一番高い。
だから、私は”いいよ”と言った。
「本当に、いいの?」
「うん。大丈夫。
ちょっとくらいなら耐えられるし、広瀬君が見てくれているなら絶対大丈夫だって思えるから。
だから、それ、やってみよ!」
「そっか・・・。
ありがとう!
それで、頑張って先生に信じてもらおう!」
「だね!
今度こそ成功させよう!」
「おう!」
そういって、私たちは決意を固めた。
―――――キーンコーンカーンコーン・・・。
部活動開始のチャイムが鳴った。
私は真っ先に活動場所に行った。
すると・・・、緑ちゃんたちに遭遇してしまった。
「優笑・・・!?」
どうやら、私はけがのせいで帰ったと思っていたらしい。
私を見た瞬間、あからさまに驚きの声を上げ、みんなして目を丸くして固まっていた。
私は、あまり次の作戦までは関わりたくなかったため何も言わず通り過ぎた。
すると、うしろからグループの一人が
「優笑・・・!」
と今にもつかみかかってきそうなぐらいの勢いで追いかけてきた。
だけど、
「だめ・・・。
ここで変なことしたら誰かに先生に言われるよ。
だからやめて。」
そう緑ちゃんに言われると、その人はピタリと動きを止め”しぶしぶ・・・”と言った感じで戻っていった。
・・・・・・本当に緑ちゃんは悪い人だ。
人目に付くところでは普通に過ごして、誰にも見えないところでは思いっきり悪意をはたらかせる。
私は、緑ちゃんたちがいないことを確認し
「はぁー。」
と息をはいた。
すると広瀬君が
「優笑ー!」
といってきた。
「広瀬君・・・!
どうしたの?」
「いや、たまたま俺も活動場所に行こうとして通ったら、緑ちゃんたちと一緒にいるところを見てさ・・・。」
「そうだったんだ。
でも、少し絡まれただけだから大丈夫!
なにもされなかったし。」
「そっか、よかった。」
「うん。やっぱり緑ちゃんたちは悪い人だってわかった。」
「どうして・・・?
やっぱり何かあったの?」
「何もなかったって言ったらうそになるけど、ほんとに大したことじゃないよ。
ただそこで遭遇しちゃったの。
でも私は、無視して通りすぐたんだよね。
そしたら、グループの一人が追いかけてきたの。
だけど緑ちゃんが、”人目があるところでそんなことをしたらいけない。”みたいなことを言って、そのままどっかに行っちゃったってことがあっただけ。」
「そうだったんだ。」
「うん。」
そうして、その話は終わった。
部活を終えて今日も広瀬君と帰る。
すると、
「優笑、それでなんだけど、あの作戦いつどうやって実行する?」
と広瀬君に言われた。
私は考えてもなかったから答えられず、
「いつにしよっか・・・。」
と、あやふやな感じで返してしまった。
「というか、俺授業中考えたんだ。
優笑が”また、緑ちゃんたちのグループにいじめられました”みたいに言ったことをさ、どうやって緑ちゃんたちに伝えるかを。
で、思いついたのが先生にまず、
『優笑がこの間また緑ちゃんたちにいじめられて、すごく痣ができちゃったんです。』
っていう。
だけど先生はあまり信用してくれないと思うから、緑ちゃんたちに
『優笑がまた、緑ちゃんたちのグループにいじめられましたって言ったんだが、本当か?』
って聞いてもらう。
でも多分その時、緑ちゃんたちは『そんなことやってないです。』って否定すると思うんだ。
それでそのあと緑ちゃんたちにまた優笑を呼び出してもらって、そのことを俺が先生に言って作戦決行・・・。
みたいなのなんだ。
どう・・?」
「うん。私はいいと思う。
でも、先生にいつ話すの?
あと、私が呼び出されたとき先生がいなかったらどうするの?」
「えっと・・・んー。」
広瀬君は考えだしてしまった。
と思ったら、
「先生にはあらかじめ
”また呼び出されるかもしれないので、しばらくの間昼休みは教室にいてもらう事ってできますか?”
って聞くのはどうかな?
先生に話すのは、お互い部活がない日の放課後とか?」
と言ってきた。
本当にどうしたらそんなにすぐ案が思いつくのだろう・・・。
私は心底不思議に思いつつも、
「それならいいかもね。」
と返した。
でも、必ずうまくいくかなんてわからない。
もしかしたら、昼休みじゃないときに呼び出されるかもしれないし、そもそも呼び出さないで何かあった時にタイミングを見て急に攻撃してくるかもしれない。
私はそう考えて、やっぱり不安になってしまった。
それを正直に広瀬君に伝えてみた。
「私さ、正直うまくいくか心配なんだよね。
だって、必ずうまくいくかなんてわからないから。
それに、私たちが思ってもないときに攻撃してくるかもしれないから。
そう考えると、怖くって・・・。」
そして、広瀬君を見上げてみた。
広瀬君も
「まあ、そうだよね。
俺も実は少し不安なんだ。
これで失敗したら俺もどうすればいいかわからなくなるかもしれないって思ったから。
だけど、思ったんだ。
できないかもしれないって思ってたら本当にできないかもしれない。
でも、
”俺たちなら絶対に大丈夫。絶対成功させられる。”
って思ってたらきっと作戦通りじゃなくてもパッといいことが浮かんだりして乗り越えて、成功につなげられるかもしれないじゃん?
だから、怖がらないで”絶対に成功させられる”ってことだけを考えようってね。」
「そっか・・・。」
私は思った。
―――――確かにそうだ。
きっとうまく予定通りに進まないと慌ててしまうけど、”絶対に成功させるんだ”って思っていたらきっとその思いのおかげでいい考えが浮かぶかもしれないって。
そう素直に思えた。
すると、「それに・・・」と広瀬君が言葉をつづけた。
「俺はなんでお母さんのことに気づいてあげられなかったんだろうって思ってた。
俺が早く異変に気付いて、お母さんのことを支えてあげていたら何か変わっていたんじゃないかって思ってた。
それで、すごく後悔したんだ。
だから、今回しっかり優笑のことを支えて、成功に導けたら後悔がすべて消えるわけじゃないけど、少しはなんか和らぐというか何というか心の気持ち、自分を責めている気持ちが少なくなって、お母さんのようになってしまっている人を助けられるんだっていって、なにか変わるかもしれないから、何が何でも成功させようって思ったんだ。」
「そうなんだね・・・。」
「おう!
だから今回のことは優笑一人の壁じゃなくって、俺と優笑二人の乗り越えないといけない壁なんだ。」
「そっか・・・!
そうだね!
そしたら改めて、力を合わせてがんばろ!
もう私弱気にならないで成功させることだけを考える!」
「そうだな!
よろしく優笑!」
そういって、解散し家に戻った。
すると「ピコン」とタイミングよくスマホが鳴った。
送り主は広瀬君だった。
【俺、来週の木曜日が部活休みだった!】
【女バレーは休み??】
私はすぐに、今度先生に話す日を決めるのだろう思い急いで予定表を確認した。
「来週の木曜日は・・・!
休みだ!」
そして
【うん!女バレーも休みだったよ!】
と返信した。
するとすぐに
【マジか!よかった!
それじゃ来週の木曜日、先生に話す・・・?】
【うん!話そ!】
【了解。
できるだけ先生と話すときは俺が話を進められるようにするな。
でも、あの緑ちゃんたちにやられた時の状況説明を言うことになったりしたら、その時はよろしくな。】
【分かった!
ありがとう!
よろしくね!】
すると『グット!』と書いているスタンプが返ってきた。
私もそれに対して『ペコ』っと頭を下げている女の子のスタンプを返した。
そしてスマホを閉じ一人静かに
『頑張るぞっ!』
と気合を入れた。
次の日・・・。
私は、緑ちゃんたちに監視されつつ、後はいつものように過ごした。
「今日めっちゃ緑ちゃんたちを見かけるんだけど、優笑大丈夫?」
「うん。多分緑ちゃんたち、私が誰かに”緑ちゃんたちにいじめられました”みたいなことを言っていないか確認するために見てるんだよきっと。
だから多分何にもしてこない。」
「そういうことか。
相変わらずこういうことには敏感だよな。」
「ね。」
そう広瀬君と言葉を交わし、部活に向かう。
今でも、あのうその噂を流されてから同学年のことは部活でも避けられてしまう。
でも、もう前のように”なんで・・・”とかってことは思わないようにしている。
それに、何も知らない先輩が仲良くしてくれるようになって、一人ではないから。
だから何とかやっていけている。
「「―――――ありがとうございました!!」」
そう体育館にお辞儀をし、ミーティングをし、ここ最近の私のルーティーン通りに先輩に
「お疲れ様です!
今日もありがとうございました。
明日もよろしくお願いします。」
といって、すぐに学校を出た。
今日は、女バレの方が早く終わったので男バレの広瀬君は当然いない。
まあ、話すことも大してないので別に大丈夫だけど・・・。
でも、いつの間にかそんなことを考えている自分に驚いた。
家に帰って、宿題をかたずけ、お菓子を食べる。
そして明日の授業の予習をし、ご飯を食べにリビングに向かう。
すると・・・「ピコン」とスマホが鳴った。
『広瀬君・・・かな?
何か話すことあったっけ?』
そう思いながら画面を開き送り主を確認した。
【歩ちゃん メッセージ一件】
「えっ!歩ちゃん・・・!」
思わず声に出てしまった。
そういえばここ最近全く話していない。
私はメッセージを読み、返信するために部屋に引き返した。
そして、内容を確認した。
【優笑ちゃん元気?
最近何の報告もなかったから、大丈夫かなって心配になって連絡しちゃった。
急にごめんね。】
私は内容を読み終え、心配をかけてしまっていたことに罪悪感があった。
『・・・歩ちゃんにもたくさん迷惑かけて、助けてもらったりしてお世話になったのに連絡一つしないで心配かけるとか最低だ。』
そう思い、今までのことを話すため、前回は何のことを話して終わったのか確認した。
最後に話したのは私が学校を休んでしまったときのことだった。
「意外と最近だ・・・」
そう、私にとってはいろいろありすぎてだいぶ前に話したつもりだったけど日にちを確認すると一昨日くらいの話だった。
だけど、心配させてしまったことには変わりない。
そうして私は歩ちゃんに休んだ日の後のことを話した。
【歩ちゃんに心配かけちゃってごめん。
私は大丈夫!元気だよ!
あれからのこと、話すね!
次の日、しっかり学校に行ったんだ。
そしたら、案の定緑ちゃんたちに呼ばれて人のいないところに連れていかれた。
それでいろいろ言われたり、叩かれたりした。
で、昼休み終了のチャイムが鳴ったらさ、
『私たちにいじめられたみたいなことは誰にも言わないでね?
もし言ったら今度は今回よりももっとひどいことになるから。』
みたいに言って教室に戻っていったの。
でも、そのあと保健室に行った私のところに広瀬君がきてくれて、いろいろこの後どうするのか話した。
本当に広瀬君はいい人で、すごく心配してくれるんだ。
でも、逆に緑ちゃんたちは最低な悪い人だってわかった。
緑ちゃんたちに叩かれたりしたのが昼休みのことだったんだけど、そのあとの放課後の部活に行くときたまたま緑ちゃんたちに会っちゃったの。
私は何も言ってないんだけど、グループの一人がなんかこっちに向かってきて何かしようとしてきたんだ。
だけど、緑ちゃんが
『ここは人目に付くからダメ!』
みたいなことを言って、その人を連れてどっかにいちゃったんだ。
最低だと思わない!?
人目に付くところでは何もしていない普通の生徒を装って、で人目のつかない裏では人をたたいたり悪口言ったりって悪魔みたいなことしてるんだよ?
だから、私は改めて悪い人だって思ったの。
っていうことぐらい、かな。】
そうして、送った後に私は肝心なこれからやろうとしている作戦のことを言い忘れたことに気が付きまた文字を打った。
【あ!
それで、広瀬君と次にやろうとしてる作戦のことなんだけど、最後に言われた
『私たちにいじめられたみたいなことは誰にも言わないでね?
もし言ったら今度は今回よりももっとひどいことになるから。』
って言葉を利用して、またいじめてもらって、それを先生に直接見てもらうっていう作戦なんだ。
もちろん、昼休みの最後までやられてたら私も耐えられないから、広瀬君にすぐ止めてもらう事になってるんだけど。
それならさ、直接先生に見てもらうんだから、今度こそあの”私はいじめていなくて、逆に私がいじめられている”ってことを信じてもらえる気がするんだ。
歩ちゃんは・・・どう思う?】
送信ボタンを押すと返信が思ったより早く帰ってきた。
【そっかそっか・・・。
なんか本当に緑ちゃんたちの怖さは人知れないなって感じた。
作戦、私は反対しないけど、気を付けてね?
これでめっちゃケガしちゃったら大変だから。
なんかやばいかもって思ったらすぐにその近くにいる広瀬君呼ぶか、すぐに逃げてね?
あと、もしその作戦が成功したらきっと先生も信じてもらえると思う!
だから、がんばって!
いつそれ実行するの・・・?】
【来週の木曜日にしようって話してる。】
【そっか。約一週間後だね。
頑張って!】
【うん!ありがとう!
歩ちゃんも学校頑張ってね!】
【わかった!
ありがとう!】
そうして、やり取りは終わった。
つい最近までは『味方なんていない・・・。』って思っていたのに人間は何かのきっかけさえつかめば少しずつ変わっていけるんだなと思い、しっかりと光のある未来の方へ進んでいけている気がした。