7月9日(土)朝10時に部屋を出てロビーに向かう。11階でエレベーターに乗ったら進がいた。私はもう彼とは目を合わさなかった。
1階に着くと私を先に降ろしてくれた。その後を彼は歩いてきた。私はフロントでキーを返して駅の方へ歩いた。途中、後ろを見ると彼も駅に向かって歩いていた。
もうすぐ特急が到着する時間だった。私は在来線の改札口で待っていた。そこへ黒い服を着た夫と亮が下りてきた。時間どおりに落ち合えた。
「うまく落ち合えてよかった」
「昨日の契約はうまくいった?」
「ええ、口座への入金も確認できたから」
「すぐにタクシーに乗ってお参りに行こうか?」
私は駅のコンビニでお花と線香とろうそくを買い求めた。この時期にはそれらをコンビニで扱っている。私たちのようなお墓参りも少なくないのだろう。
まず、中川家の両親の墓参りをする。お墓は卯辰山のお寺にある。中川家の本家のお墓も同じお寺にあるのでお参りをした。タクシーに待っていてもらい、また駅まで帰ってきた。
駅にもどると在来線で津幡駅まで向かう。駅前のタクシーに乗って小高い丘にある墓地へと向かう。そこには田代家の墓があった。そこでもタクシーに待ってもらってお参りをすませるとすぐに駅にもどった。在来線の発車時間に間に合った。
金沢駅に戻って、遅めの昼食を3人で摂った。それからいつものようにお土産物のお菓子とお弁当3個を買って、14時20分発の特急列車に乗り込んだ。
「お家も売ってしまったから、もうここへ帰ってくることができなくなってしまいました。故郷がなくなってしまって、寂しい」
「僕も同じ思いを何年か前にしていた。でも大阪に僕たちの家があるじゃないか。僕は直美と亮が一緒にいてくれればそれでいい。亮にはあそこが故郷になる」
勉は私の肩を抱いて慰めてくれた。亮はそんな私たちを上目遣いで見ていた。
◆ ◆ ◆
ようやく家に着いた。今日はいつもより時間がかかった気がした。
「調子はどう? 今日はいろんなところを回ったら、二人とも疲れただろう。お弁当でも食べるか?」
いつもの生活がもう始まっている。進はどうしているだろう。
◆ ◆ ◆
勉が手を握ってきたので目が覚めた。部屋の時計は11時を指していた。私は後ろから抱かれて眠っていた。私の手を彼が無意識で握ったみたいだった。勉は寝息を立てて眠っている。
帰省の後の夜は必ず愛し合っている。私の後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。私からいつも求めている。彼はどう思っているのだろう。
今日は進と会えなくなった鬱憤を無意識で晴らしていたのかもしれない。いつも以上に何度も上り詰めていたように思う。腕をつかんだり、手を握ったりして、それを彼に伝えた。私はめったに快感の声を出さない。亮を意識しているからだ。
勉はひょっとすると薄々気が付いていたのかもしれない。いやそんなことは絶対にない。いつかの夜、私の裸の背中をじっと見ていたことがあった。でも何も言わなかった。彼と愛し合った痕跡が背中に残っていた? いやそんなはずはない。進は細心の注意を払って私を愛してくれていた。
進とのことはまた勉とのことを深く考える良い機会となった。私と勉との間には、私と進と間になかったものがあったし、今も確かにある。進と彼女の間にも私と彼と間になかったものがあるに違いない。それが連れ添った夫婦というものなのだろう。
はじめから勉とは運命の出会いではなかったかと思っていた。一緒に過ごすようになってからますますそう思うようになった。
進と私のように、勉と私とは前世で同じように添い遂げられなかったのかもしれない。そんな思いを前世で残していたのかもしれない、そういう考えがふと頭をよぎった。
これでそれぞれの「不倫ごっこ」のお話はおしまいです。
なお、余談になりますが、3か月後に進にメールを入れました。[11月12日(土)13日(日)帰省予定]さあ、どうなったでしょうか?
進から[同窓会以外ではもう会わないでおこう]と返信が入った。私は[了解]と答えておいた。
1階に着くと私を先に降ろしてくれた。その後を彼は歩いてきた。私はフロントでキーを返して駅の方へ歩いた。途中、後ろを見ると彼も駅に向かって歩いていた。
もうすぐ特急が到着する時間だった。私は在来線の改札口で待っていた。そこへ黒い服を着た夫と亮が下りてきた。時間どおりに落ち合えた。
「うまく落ち合えてよかった」
「昨日の契約はうまくいった?」
「ええ、口座への入金も確認できたから」
「すぐにタクシーに乗ってお参りに行こうか?」
私は駅のコンビニでお花と線香とろうそくを買い求めた。この時期にはそれらをコンビニで扱っている。私たちのようなお墓参りも少なくないのだろう。
まず、中川家の両親の墓参りをする。お墓は卯辰山のお寺にある。中川家の本家のお墓も同じお寺にあるのでお参りをした。タクシーに待っていてもらい、また駅まで帰ってきた。
駅にもどると在来線で津幡駅まで向かう。駅前のタクシーに乗って小高い丘にある墓地へと向かう。そこには田代家の墓があった。そこでもタクシーに待ってもらってお参りをすませるとすぐに駅にもどった。在来線の発車時間に間に合った。
金沢駅に戻って、遅めの昼食を3人で摂った。それからいつものようにお土産物のお菓子とお弁当3個を買って、14時20分発の特急列車に乗り込んだ。
「お家も売ってしまったから、もうここへ帰ってくることができなくなってしまいました。故郷がなくなってしまって、寂しい」
「僕も同じ思いを何年か前にしていた。でも大阪に僕たちの家があるじゃないか。僕は直美と亮が一緒にいてくれればそれでいい。亮にはあそこが故郷になる」
勉は私の肩を抱いて慰めてくれた。亮はそんな私たちを上目遣いで見ていた。
◆ ◆ ◆
ようやく家に着いた。今日はいつもより時間がかかった気がした。
「調子はどう? 今日はいろんなところを回ったら、二人とも疲れただろう。お弁当でも食べるか?」
いつもの生活がもう始まっている。進はどうしているだろう。
◆ ◆ ◆
勉が手を握ってきたので目が覚めた。部屋の時計は11時を指していた。私は後ろから抱かれて眠っていた。私の手を彼が無意識で握ったみたいだった。勉は寝息を立てて眠っている。
帰省の後の夜は必ず愛し合っている。私の後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。私からいつも求めている。彼はどう思っているのだろう。
今日は進と会えなくなった鬱憤を無意識で晴らしていたのかもしれない。いつも以上に何度も上り詰めていたように思う。腕をつかんだり、手を握ったりして、それを彼に伝えた。私はめったに快感の声を出さない。亮を意識しているからだ。
勉はひょっとすると薄々気が付いていたのかもしれない。いやそんなことは絶対にない。いつかの夜、私の裸の背中をじっと見ていたことがあった。でも何も言わなかった。彼と愛し合った痕跡が背中に残っていた? いやそんなはずはない。進は細心の注意を払って私を愛してくれていた。
進とのことはまた勉とのことを深く考える良い機会となった。私と勉との間には、私と進と間になかったものがあったし、今も確かにある。進と彼女の間にも私と彼と間になかったものがあるに違いない。それが連れ添った夫婦というものなのだろう。
はじめから勉とは運命の出会いではなかったかと思っていた。一緒に過ごすようになってからますますそう思うようになった。
進と私のように、勉と私とは前世で同じように添い遂げられなかったのかもしれない。そんな思いを前世で残していたのかもしれない、そういう考えがふと頭をよぎった。
これでそれぞれの「不倫ごっこ」のお話はおしまいです。
なお、余談になりますが、3か月後に進にメールを入れました。[11月12日(土)13日(日)帰省予定]さあ、どうなったでしょうか?
進から[同窓会以外ではもう会わないでおこう]と返信が入った。私は[了解]と答えておいた。