「薬を飲ませる前に動けないように拘束をしてください、それからじゃないとまた戦うことになります」

 そうかとムツヤは『貼り付けると自分では剥がせなくなる札』を男の腕と足に貼り付け、薬を飲ませた。

「ピイイイエエエエエエ!!!!! ポッポポイポッポポイ!!!!」

 ヒレーに呼ばれて駆けつけたオークの戦士達が聞いたのは別種族の男から放たれた奇声だ。

 斬られ、倒れていたバラも本来であれば致死量の出血だったが薬が間に合い命を取り留める。

 その後、キエーウという組織の男は昼頃にやってきた治安維持部隊のオークと人間に引き渡された。

 モモはオークの村の出来事だからと軽視されることを心配していたが、それは半分正解で半分間違いだったのだ。

 治安維持部隊内部の上の判断では辺境の村まで割ける人員が居ないので、この件は本部から応援を呼び、もう少し調査をしてからという、やる気の無いものだった。

 だが、調査とは名ばかりでどうせ結局の所は放置して後回し、ということを見抜いた治安維持部隊に所属するオークが、同胞の危険を見過ごせないと半ば強引にこの村まで来てくれたらしい。

 仮面の男は目撃証言と、何より開き直った男が亜人を殺すことの素晴らしさ、正当性を語り始めた為に証拠は充分だった。

「多分あの男はこの村から二人死人を出して、他の者にも深手を負わせました。余罪もあるでしょうし、死刑になるでしょう。私達の同胞の敵を討てました」

 ムツヤはその言葉を聞いて何と言って良いのかわからなかった。それより自分の感情に整理が付かない。

「ムツヤ殿?」

「あ、いえ、何でいうが俺……」

 きっと自分は変な考えをしているかもしれない。

 モモさんにも失礼なことを言ってしまうかもしれないと一度はその言葉を飲み込もうとしたが、堪えきれずに吐き出す。

「なんていうか、人を殺しかけちゃっで、それを一度は助げだけど結局は死刑になるって考えるどなんで言っていいか……」

 ムツヤはたどたどしく言った後、そこでハッとしてモモを見て続ける。

「あ、いや、もちろんアイツは罪もないオーグの人達を殺した悪人ですがらそうなるのは当然だと思います」

 死刑がどういう事かは本で知っていた。モモもなんと言えば良いのかわからない。

 ただ一言目を閉じて思いついた言葉を出す。

「お優しいのですねムツヤ殿は」

 そんなしんみりとしてしまった空気の中で、今まで散々ムツヤに突っかかってきたバラが気まずそうに近付いてきた。

「えーっとあんた、改めて俺は礼を言うよ。それと今まで悪く言って本当にすまなかった。だけど、あんたに恩義を感じるから、これはあんたを心配して言いたいんだが」

 バツが悪そうに頭をかいた後、言葉を続けた。

「あんたのそれは優しいっていうんじゃなくて『甘い』って言うんだ。世の中には情けをかける必要もないどうしようもない悪人もいるんだ」

 ムツヤは黙ってバラの言葉に頷く。次はモモに対しての詫びの言葉だった。

「モモも散々悪く言って本当に悪かった、言い訳だがおふくろ殺された怒りを俺はどうしたら良いのかわからなかったんだ」

「バラわかっている」

 モモは笑ってバラの事を許した。仕方がない。

 あのような事が起きてしまったのであれば誰だって乱心してしまうと。

 その後もオーク達はちらほらとムツヤに礼を言いに来る。

 大体は村の脅威を捕まえてくれてありがとう、薬で助けてくれてありがとうという内容だったが、何故かムツヤはそれら全ての言葉を喜んで受け取ることが出来なかった。

 そこから一段落して、葬儀が始まることになった。遺体の腐敗が進んで来ているために慌ただしいがやむを得ずだ。

「本当に良いのですか?」

 モモは犯人が捕まり、約束通りムツヤを街まで案内すると提案したが、ムツヤはそれを辞退する。

「お葬式が終わっでがらにしましょう、俺も参加しまず」

 モモは一言ありがとうございますと言う。そのありがとうには実に色々な意味が込められていた。

 村の中心で棺に入れられた二人が並んでいる、バラの母親ともう一人の犠牲者のオーク。オーク達は花を入れ、涙を流し、祈りを捧げる。

「オーク達は死後に良き戦士とそれを支えた者はロトントという楽園に行けると言われている。あの二人ならばきっと大丈夫でしょう」

「そうですか」