「~~~~~っぁぁああああああああア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!?!?」
意識が戻ると同時に頭が割れるような激痛が俺を襲った。身体的な痛みなど何十年ぶりやろうか。しかもこんな激痛がくるとは。
今俺を襲っているこの激痛の正体は、この時代で生きている俺自身に関する記憶と情報の膨大な量の奔流によるものだ。ただの楽しい・嬉しい・幸せな感情を含んだ記憶ならまだ良かった。だがこの時代の俺の記憶はそんな温いものじゃなかった。
たくさんの怒りと苦しみ、数えきれないくらい味わった悔恨と辛酸、身を焦がす程の憎悪と殺意などの暗い負の感情が、激しい波のように一気に俺の脳内に流れ込んできた。
あまりの量と激しさで、脳の回線が焼き切れるかの様な拷問がしばらく続く。ついには体が耐えきれず、俺は目覚めて早々に気絶してしまった...。
「―――!ここ、は......?」
目を開けるとそこは赤黒い景色が広がる謎の場所だった。ここが現実の世界ではないとすぐに分かった。ここは......夢の中か何かだろうか。
「自分の記憶の中...精神世界とかか?じゃあ現実の俺は...今気絶中ってわけか...」
そう勝手に納得した俺は、この殺伐とした世界を歩き回る。どこまで行っても赤黒い色の景色が続き、さっき流れてきた最悪な記憶を思い出させられる。
「あの頃から俺の色は...こんなんやったんか。まぁ確かにそうやったよなぁ...完全に荒んでたし」
自嘲していると景色がぐにゃりとしたかと思うと、いくつものモニターが現れる。そこには中学生だった自分が虐げられている様子が映し出されていた。ほとんどが虐げられている時のものばかりで、楽しかった思い出など全く映されていなかった(せいぜいアニメや漫画、ゲームに現を抜かしていた時だけが俺の楽しい思い出やったわ)。
「あの三年間で救いの手が伸ばされたことは結局一度もなかった...。“何とかする”っつって言葉だけの連中もいれば、そもそも相手にしようともしなかった連中もいて、しまいには虐め自体を捻じ曲げて隠そうとした連中しかおらへんかった...。あの学校を含めて、この国は、この世は救いようがないくらいに汚れきってしまっているんだなと、15才だった俺は世の中に見切りをつけるようになったんだ」
谷里が俺を締めている場面が映っている。
中村が嬉々として俺を甚振る。
本山が俺の私物を汚している、前原も一緒にだ。
板敷と吉原が俺をパシらせようとしている。で、それを断ったら俺のことを悪く喧伝して虐めを助長させていく...。
中林が狡猾に甚振りやがる。
教師陣から虐めが完全にバレないように調整してやがる。
小西と清水と青山と井村などが俺を嗤っている。俺の不幸が面白く愉快でたまらないといった様子で楽しそうに汚い面でゲラゲラ嗤ってやがる...。
それらの様子が多数のモニター画面で再生されている。
「......鮮明に憶えてる...昨日のこと同然に覚えてる...。そうや、今日も俺はあいつら全員に虐げられて、教師らも全くあてにならん。俺は無様に地面に伏しているだけやったんや...」
モニターをしばらく観たことで俺の体感と記憶が完全に中学生だった俺のとシンクロして一体化した。昨日はああだった、先週は下級生のイキりどもにも見物させてたなあいつら、先月は奥歯が抜けたんだっけ...。その前は、その前の前は.........。
少し前までの俺にとっては数十年前の出来事だったのが、完全に虐められていたあの時のことが昨日・一昨日のこととして捉えている自分がいる。
どれも耐えがたい恥辱と屈辱と悔しさと憎悪に塗れた出来事だった。あいつらは絶対に赦してはいけない...この3年間で受けた苦痛と屈辱全てを、何倍もの地獄にして返さねーとダメだ。
「正規ルートでは結局報われずに中学を終えて高校でも苦しむことになったが、今回からはそうは行かねぇ...!
安心しろよ“あの時の俺”…。 “これからの俺”はこれからあいつらに復讐できるんや。これで俺は解放される、救われるんや!俺を救ってくれるのは俺しかおらん。これが結論や」
けど結局、誰もがそうなんやろうな。他人なんかはそのきっかけに過ぎへんねや。ま俺の場合は、きっかけすらも自分自身やったんやけどな。
「お前ら......今のうちにそうやってへらへら笑ってのうのうとスクールライフ送ってろよ?俺が次に学校に来た時には......お前らを地獄に突き落としたるからなァ!!」
モニターを見ながら俺は強い口調でそう宣言した。今度はお前らが地に這って、無様に甚振られて、情けなく泣いて喚いていることになる...。そう思うと自然に笑いがこみ上げてくる。
しばらく笑っていると、景色の色が綺麗な赤色に変化していく。まるで鮮やかに燃ゆる炎のようで、見惚れるくらいに綺麗な色をしていた。これから起きることに対する祝福かのように思えた。
「さって...そろそろ目覚める時間になってきたか?楽しみや!この復讐は間違いなく俺の心を完全に満たしてくれる!当時のあいつらに復讐するとか最高過ぎる!さぁ...始めようっ!!」
カッと眩しい光が世界を包み、俺と世界は溶けるように消えていった――。
*
「―――」(ぱち...)
最初に目に映ったものは、真っ白な天井だった。知らないところだ。次いでピッ...ピッ...と、機械音が聞こえてきてきて、目を向けるとドラマとかでよく見る心拍数?を測る機械があった。
「......病院」
俺は病院に運ばれてここで寝かされてたってわけか。気絶した俺を発見した母が通報してここに運んだゆーわけやな。
長めの欠伸をして体を伸ばしているとガラリと戸を開ける音がして、見ると看護師だった。
「あ...!杉山君目が覚めたんですね!?ちょっとお医者さん呼んできますからっ」
目が覚めた俺を見るなり慌てて踵を返して部屋を出て行くのを見ながら俺は思案する。今すぐ出て行くのも良いが、ここは医師からある程度情報を聞き出す方が良いかもな。それに試したいこともあるし。
数分後、初老の医師がやって来ておはようと声をかけてくる。
「目が覚めて何よりや。身体的に目立つ傷が無くて、内臓や脳にも異常がなかったものやったから何が原因で昏睡していたのかが分からんくてお手上げやったんやけどな......ってああスマン。杉山君、調子はどうや?」
「ああ......頗る元気で、良い気分です。すぐにでも運動できるくらい調子良いですよ」
ニヤリと笑みを浮かべてそう答える俺を、医師は穏やかに諫める。
「元気なのは何よりや。肝心なこと聞き忘れてたけど、自分のこと分かるか?」
「はい...。ところで今日って何日ですか?――」
ある程度の質問をして、それら全部答えてもらったことで、現在の状況を大体分かることができた。
今の「俺」になる前の自分が気絶してから三日が経っていて、今日は土曜日だ。学校は少なくとも二日欠席していたことになる。次に登校する日は明後日だ。年月については俺の記憶を見たことで分かっている。
俺は中学3年の15才で、今月は10月だ。
いくつか問答をした後、退院したいと言ってみたが首を横に振られる。なので――
「一応検査とかしなあかんから今日一日はここで安静にし――」
「 “いえ大丈夫なんで。今すぐ俺を退院させて下さい”」
医師と看護師を凝視して、二度目の人生でよく使っていた催眠魔術を発動してみる。
「.........せやな。何も問題無いようやし。この後退院手続きを――」
「“もう手続きも終わったんで、帰らせてもらうで?”」
「.........ああそうやった。もう終わったんや。じゃあ、気ぃつけて帰りや」
実験は成功。以前と同じ、催眠術が使えているってことは“引継ぎ”は成功している!体内で力を込めると魔力も感じられることから、魔力と魔術ともにしっかり宿しているし使えもするようだ!
“この病院内に勤めている人間全員、俺に関すること全ての記憶が消える”
パンッと手を鳴らして俺がここで入院されたことはなかったことに書き換えて病院を出た。ここは河内総合病院。ここから自宅まで歩くと40分はかかる距離だ。
試したいことはまだある...身体能力検査だ。
人払い結界を大きめに張って誰もいなくなってから運動を始める。まずはダッシュ......した瞬間、もの凄いスピードが出てそのまま建物に勢いよく突っ込んだ!壁に思い切り激突したにも関わらず体には傷一つついていない。砕けた壁の大きめの厚い破片を握ると砂粒状に砕けた。
結果、スピード・耐久性・筋力全てが引き継がれていることが判明。
「強くてニューゲーム」に成功したことを理解したぜ...!
さらに手を空に掲げて、炎、風、水、雷など様々な属性の魔術を放ってみた。全て以前と同じ出力だった。これも問題無し。
「完全に二度目の人生で死ぬ前の時と同じスペックや!違うのは顔と身長と体重...この体の器くらいか。それ以外は全て引き継がれてる!大成功や。俺はあの力を持ったままこの時代にやって来れたぞっ!!」
両手を上げて快哉を上げる。中学生になってから久々に笑顔になった気がする。
「そういえば、今の俺は......二度目の人生の俺の人格が中学生の俺を完全に乗っ取ってる状態なんか、この時代通りの俺なんか、どっちなんやろ...?」
生前の俺か、15才当時の俺か。まぁどっちも俺だ。俺は俺や。どっちでも良い。意思は同じ、意志も同じなら問題無いやろ。
試運転を終えて俺は瞬間移動で自宅へ戻った。夜時間になっているから中には二人とも在宅している。インターホンを押して母を呼んで開けてもらう。俺を見た母が驚いた顔をして俺に質問をする。
「いきなり倒れてビックリしたけど...もう体は平気なん?」
「ああ平気や。騒がせてしまったみたいでごめんやで」
感情の無い声でそう返してズカズカと玄関に入り自室へ籠った。医師から聞いたが、俺が入院した以降、一度も家族は訪れなかったそうだ。分かってはいたがここまで無関心だったとは笑えるわホンマ。
お陰で何の躊躇いなく「実行」できるわ...。
「決行日は明後日か。明日は復讐のプラン編成と魔術の試し撃ちをやろうか。身長が縮んだ分、筋力は少し衰えているからそんなにデバフをかけないで良いかもな。どれくらいの加減が丁度良くあいつらを長く甚振れるかの調整と、どうすればあいつらにいっぱい地獄を見せられるかのプラン練りを早速するかぁ、くくく...」
異世界で復讐の準備をしていた頃のワクワク感を滾らせながら俺は準備に取りかかった。
日曜日は予定通り丸一日復讐の準備活動にいそしんだ。
その一方で、俺が死ぬほど嫌っている行為…路上喫煙をしていたゴミクズどもの「粛清」を、ノリノリで行ったりもした。やり直し人生初めての粛清…殺人だ!
「「「っぎゃあああああ”あ”あ”あ”あ”っ!?」」」
「るせーんだよこのクズどもが。ヤニカス行為だけじゃなく騒音も起こすつもりか?クソゴミが」
路上喫煙していたヤニカスどもを実験台にして色々試し撃ちを実行した。
標的は三人。一人は50代くらいのサングラスかけたオッサン。一人は短髪で眼鏡をかけた30代の小太り男。一人は同じく眼鏡をかけた白髪頭の60代老人。どれも面識は無いのだが、こいつらの顔を見ると何故だかもの凄く苛つく、殺したい衝動に駆られる。前世で会ったことがあり、こいつらに不快なことをさせられたのかもしれない。だったらこれは復讐にもなる。存分に地獄の苦痛を与えてから殺そう。
さてまずは実験だ。どれくらいの濃度の酸が丁度良いか、どれくらいの圧力と重力で丁度良く苦しめられるか、どれくらいの強度の闇魔術がより長くあいつらに地獄を体験させられるか等々...このヤニカス三人を使ってしっかり調節してみた。
「お、お”れだぢが、何じだっでんや!?だのむ”やめでぐれっ!!し、死ぬ...っ!!」
「臭い口で言葉を発するな、この世の害悪が。喋れる元気がある以上はまだ大丈夫そうやな。なら少し強度上げて続けてみよか...ほいっ」
「~~~~ヂオfんれ得GpgrpFvbkdfdふぃづ...!!」
慈悲をかけることなく、泣き叫ぶヤニカスどもをたっぷり拷問して実験をした。途中から実験のことを忘れて、復讐をただ楽しんでいた。
ゴッ「ぐげぁ!」ガスッ「っべぇ!」ドガッ「や、べで………!」
小太りの眼鏡男をぶん殴って地面に這いつくばらせたのち、その顔面に拳と蹴りをさらに打ち付けまくる。泣き叫ぼうが無慈悲に、楽しみながら暴力を続けた。
ゴン!×3「……っ!!」ドギャ!「ご…………ぇ」
サングラスのオッサンの全身をオリハルコン製のバッドで滅多打ちにする。一振りごとに骨が砕ける音がした。頭を殴ると即死するのでそれ以外の部位を殴りまくった。途中うっかり睾丸をぐちゃりと潰したがギリギリ死ななかった。面白いくらい顔を歪めて絶叫してたので爆笑した。
グサドスザク!「いぎあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!痛いいだいいだ――――ッ!!」
白髪頭の老人には痛覚を倍増させてから食器のナイフとフォークで全身を刺しまくった。刺す度に断末魔の叫びを上げるその声は汚くて耳障りだった。喫煙なんてするからそんな汚い声になるんや……なんてな。
最後はヤニカス三人を汚い花火に変えて跡形も残らず消去してやった。
「いずれはこの世界でもお前らみたいなクソゴミクズどもを皆殺しにしてやるからな―――」
夜は部屋で明日のプランをずっと練っていた。あーでもないこうすべきかとしっかり考えて、悪魔をも震え上がらせるような地獄コースを練った!
そして夜が明け、最高な日になるであろう月曜日は訪れる――
「そうだ。まずはあいつらからにしようか」
虐めの主犯連中の前に、復讐って程じゃないがどうしても「落とし前」をつけないといけない奴らがいるので、まずはそこから始めることにした...
「お前らは俺なんか家族とも思ってへんのやろ?無関心だけかと思えば俺を内心見下して蔑んでいるクソ姉。俺が虐められているというのにロクに対応しようとしなかったクソ母。お前らなんかもう家族じゃねーよ。俺に無関心でいるなら、その感情もう要らんやろ、なァ」
「ぐ、ぅ...!?」
「ゆ、う、せい...!?」
クソ母とクソ姉を、壁にめり込むくらいに押し付けて拘束して締め上げる。死なないレベルでミシミシと音を立てて締め付けながら俺は自ら家族の縁を切ることを二人に宣言する。同時に二人からある物を奪うことも告げる。
「何、何なん...!?ごほっ、苦し...ッ」
「友聖、止めてっ!どうして家族に、こんな...酷いこと、を...!?」
「か、そ、くぅ??どの口がそう言ってんだよ?俺は今までずっと苦しんでいたのに親のお前は何一つ俺を気に掛けることをせずに、それどころか俺が悪いだのと突き放して、助けることはしなかった!
お前なんか親じゃねぇ!!今日から赤の他人や。同時に、お前らから人としての感情を全部消したるわ...。
我が子や弟にさえ感心を持たないようなお前らには、感情なんか必要無いやろ?身内を見捨てるような血も涙もないクズには無感情がお似合いやっ!!」
俺の顔を見た母は、俺が本気だと分かったのだろう。必死に俺に制止の声をかける。
「友聖!あなたがそんなに思いつめていたなんて...!私が間違ってた!お願い!これからはちゃんと友聖と向き合うって約束するから!だから家族の私たちをこんな目に遭わすのは止めてっ!!」
「ゆう、せい...!早く、ほどい、て...!!」
「あなたの母親を、あなたの姉をこんな目に遭わすように育てた覚えはないよ!?止めて、目を覚まして!!お互いきちんと向き合って――」
「お前らが、今の俺にしたんやろーが。何が家族や......“消えろ”」
そして俺は無慈悲に二人の中身を消してやった。心と感情を無に書き換えて、感情が無い蛇のような人格に作り替えた。
「俺にはお前らから優しくされたこととか、愛情を向けてくれたこととかの経験と記憶がもう無いんやわ。何も思い出されへん。せやからお前らを蛇みたいに変えることに何の躊躇もなかったわ。家族って言っても所詮は他・人・や...。我が子を自分のことのように想う親なんて全然存在せえへんのやろうな...。じゃあな、最低のクソ家族ども」
未練も後悔も感じてはいなかった。俺は正しいことをした。もう迷いは無い。
前座は終わった。いよいよ本番だ...!!
感情を失った母と姉は、俺を素通りしてそれぞれ仕事と学校へ行く仕度をして家を出て行った。
俺とあの二人には、もう本当の意味で何も無くなった。二人の中には無しか広がっていない。何も感じないし何も思わない。
ただこれまで通りの生活を無感情でするだけの存在となった。クソ母はこれまで通り、俺に食事と学費を提供して、仕事へ向かう。クソ姉もただ学校に通って勉強しるだけのマシーンと化した。
冷蔵庫を適当に漁って朝食を摂り、昼食代を財布に入れて準備を整えたところで、俺も家を出る。
空は雲一つない青空。俺にとって幸せな何かが訪れる吉兆すら感じられる。お天道様もこれから俺がやろうとしていることに対するエールを送ってくれてるのかも……なーんて。
いつ以来や...通学路でこんなに明るい気分になったのは。
足取りは軽く、顔色も良好。いつもは予鈴ギリギリの時間で登校していたのが、今日はその十分も早く登校していた。
教室へ入るといつものようにクラスの連中が俺を見やる...が、いつもよりもリアクションが大きかった。あれだけ長い間酷い虐めに遭っていたことと三日休んだことで、俺がついに不登校にでもなったんだと思ってたのか。揃いも揃って面白い面してやがる...。
俺は自分の席に向かって、足を止めてしまう。自分の机の上には、花瓶が置かれていた。今にも枯れ落ちそうな一本の萎びた花だけ挿されている花瓶だ。
これがどういう意味なのかは、俺にも分かる。度が過ぎた侮辱行為であることくらい。
(ハッ...。随分ベタな嫌がらせをしてきたな。これ明日以降もずっと、置いたままになってるんやろーな...)
無表情で花を手にしたその時、前と後ろから失笑が漏れる音を拾う。前は清水、後ろは小西やったな確か...。取りあえず後ろを振り返り、案の定悪意含んだキモい笑みを浮かべている小西に目を向ける。
「何やねん、チ〇デカ鼻くそマンw てっきりもう学校来んくなったんやと思ってたわ!自殺でもしてこの世からもいなくなったんやと思ったからさー、優しい俺がお前の机に花供えといたんやけどなー?
何やふつーに登校して来たわ!ぷははっ!」
「.........」
「ああけどその花やけどな、それちゃんとした花やないから。道端で拾ったものやから。誰がお前なんかの為にガチなやつ買うかよ、ボ~~ケぇ!ww」
ぎゃはははと声を上げて俺を嘲笑う小西に釣られ、清水を始めとするクラスのカースト上位(=イキりども)の連中も、嘲り含んだ笑い声を上げる。
今一緒になって嗤いやがった連中を確認していく。ガチで嗤ってるクズが5人くらい。小西たちに強制されて嗤ってるモブカスが十数人、関わるまいと無関心を装ってるモブが半数ってところか。
誰一人として小西らの虐め行為を咎めようとする奴はいない。
度が過ぎてるな...もう我慢ならんわこれ。
もう、ここで良いか...。
始めよう―――
「......せっかく、昼休みまで待ってやろうって思ってたけど。もうええわ。お前らがそのつもりやゆーんなら、ここで始めることに決めたわ」
「はぁ?何を始めるってー?鼻く―――」
スパ......ッ
「お前らと、この学校全て対する、復讐《処刑》をや――」
「............え??」
「「「「「............っ!?」」」」」
小西を含むクラスの連中全員が、俺を見て絶句していた。全員、俺が素手で真っ二つにした机を凝視している。
「あーあ!なぁ小西。俺を虐めていたお前を含む主犯連中だけを、いつものあの場所で復讐して殺そうって考えてたんやけど……。
朝からこんなモン見せつけたり、俺を皆の前で侮辱して嗤いやがるもんやから、俺もつい気が変わってもうたわ...」
「は......は...?」
「あとお前らも...。そうやって小西どもに合わせて俺を嗤いやがる...。虐めを止めようとせず無視するどころか、一緒んなって俺を嗤いやがる...。
お前らにも、容赦も情けをかける余地は無しでええゆーわけやな?そうなんやろ、なァ?」
「お、おい...」
「あーあ、ホンマに気が変わったわ!もう始めたるわ!たった今オモロいこと思いついたし、そっちの方がオモロそうやろうし、早速始めたるわっ!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ......ッ!!
復讐計画を若干変更することにした俺は、この学校そのものを地盤ごと浮かび上がらせた!
まるで天空の城のように、校舎を空に浮かばせていく。建物全体に迷彩処置を施しているから、外からは見えていない。外の連中からはいつも通りの中学校が見えてることになっている。こういった便利な魔術とスキルも相変わらずだな!
「わあああああ!?教室が...いや、学校自体が浮いてるぅ!?」
「なんやなんやなんやぁ!?何がどうなって...!!」
非現実的な現象を目にしてパニックを起こす有象無象どもを無視して、俺は舞台を用意する。一瞬で体育館に移動して邪魔な物を消してスペースをいっぱい確保しておく。
さらに俺が在籍している三年五組の教室だけを校舎から切り離して体育館の隣に設置させる。今回の復讐回の主役は、前回殺して回った虐め主犯の連中と、俺のクラスの奴ら全員や...!VIPを丁重に扱うのは当たり前だよなぁ?
「お前らはそこでこれから始まる地獄を見てろ。お前らは最後に全員...ぶち殺すから......二人だけ、先に殺すけどな」
混乱している三年五組の連中にそう予告して教室を閉鎖して監獄化させた。そして舞台の準備が整ったところで、俺は校舎全体に渡って声を届かせる。
『盾浦東中学校に在籍している生徒および同様の教師どもに告ぐー!ただいまより俺、杉山友聖による特別全校集会を行います。速やかに体育館に、 “集まりやがれ”』
連絡を終えて数分後、規則正しい動きと順番で生徒と教師どもが険しく、苦しそうな顔をして体育館に入ってくる。全員どこか足取りがおかしい。まるで無理矢理動かされているかのような動作となっている。まぁ俺が魔術で強制的にここに連れて来るように細工しておいたんやけどな!
ここに集まったのは登校している生徒と教師だけではない。
「「「「「うわあああああああああっ!?」」」」」
体育館の窓から私服や寝間着姿の中学生どもが入場(?)して来て無理矢理座らせる。
“この学校に在籍している生徒と教師は全員集合”って言うたから、今日欠席している奴らももちろんここに参加しないとアカンよなぁ?
訳も分からないまま空飛ばされて無理矢理学校に来させられたもんやから、今来た奴ら全員が酷く狼狽している。好きなだけ騒いどけ、退出は許さんけどな。
お、窓から入ってきた奴の中に前原や他のイキり不良どもも入ってきた。遅刻かサボりの連中やろな。あいつらだけは絶対に逃がさねー。お前らを残酷に殺す為に開いたショーなんやからな!
「ちくしょー!外に出られねー!!扉開いてるのに何で出られへんねん!?」
「何やねんコレ!何で勝手に体育館に移動したんや!?」
「誰がこんなわけ分からんことを!?何とかしてくれっ!!」
あちこちから困惑と怒りの声が上がって騒いでいるのを眺めながら、自動に数をカウントする機械を出してここにいる数を確認する。全生徒と全教師を合わせた数になっていれば全員集合なんやけど......おっ、もう揃ってたか!
ほな......始めますか!最高の復讐回を...!!
ドン!と館内全域に響くくらいの音が出る程に地面を強く踏み鳴らして、同時に上に向かって銃を発砲する。
突然の大きな音に騒いでいた連中が全員音がした方へ...俺の方に目を向ける。
『―――お待たせしましたー!!全員揃ったところで始めましょうかぁ!!
お前ら全員と、この学校全ての処刑をっ!!!』
体育館にいる俺以外の全員が、コイツ何言ってんだって言いたげな視線を向けてくる。実際に「何言ってんだお前」と言ってくる奴もいれば、ふざけるなだの頭おかしいだのいますぐ元に戻せだのと、たくさんの非難と怒号をぶつけてきている。
「おい君、三年五組の杉山やな?いったいこれはなんや?この奇妙な現象は全部君の仕業なんか?しかも処刑って言ったんか?悪ふざけにしては度が過ぎとるぞ!今すぐ全部元に戻しなさい!」
怒りの声を上げて俺に近づいて来るのは、生活指導担当の教師か...。虐めの件についてあいつにも相談したことあったが、あいつがしたことと言えばせいぜい口頭での厳重注意程度だ...。無能...いや俺のことを真剣に見ていないクソ教師あいつも...ぶち殺したいなァ...!
というわけで――
「...見せしめは、お前でええか。無能の偽善クソ教師」
「?何を言――」
グオォ...ッ
生活指導教師を空中に浮かび上がらせていく。同時に頭を徐々に膨張させてやる。
「ぐ、ぅおおおおオオオオオ...ッ!!」
頭を赤く変色させて奇声を上げながらどんどん頭が膨らんでいく。眼球は飛び出し、苦しいのか首を掻き毟って空中でバタバタ藻掻いている。
「おいあれ、なんかヤバくね?」
「え、演出...なんじゃないの...?」
「あ、あああ...!」
だんだん異形へと変化していく生活指導を生徒や教師どもが青い顔をして見つめている。これは演出か、ガチなのかが分からずにいる生徒どもと、嫌な予感がしたのか制止の言葉を吐く教師どもと、反応は色々だ。
『よぉく見とけ。今の俺はなァ、こうやって人の頭を―――
パァンッッ!
―――って簡単に破裂させる力があります』
パフォーマンスで生活指導の頭を風船のように破裂させる。音が響くとともに血や脳漿などが飛び散って壇上を汚した。首が無くなった死体は力なく床にどさりと落ちて血だまりをつくった。
一拍置いて、体育館内から大勢の悲鳴が上がった。悲鳴が上がる中飛び散った汚物を焼却して掃除する。しかしあまりにもうるさいので全員の口を閉じさせて黙らせる。
『見せしめは以上や。まぁ見せしめって言っても今のクソ教師は初めから殺すつもりやったけどな。このクズ教師は、俺が喧嘩っ早い粗暴な生徒だって決めつけて、俺が今も酷い虐めに遭っているって主張しても真剣に聞こうともせず。いつも加害者どもに口頭注意をするだけやった。
俺以上に粗暴で人として最低のクズがいっぱいおるのに、俺が悪者扱いしてばかりだったなぁ……!
せやから殺そうって決めた。それだけや』
一方的に告げてから、これから主に復讐する連中を宙に浮かせてこの舞台に引っ張り出した。
谷里優人、小西陽介、中村一輝、前原優、本山純二、中林大毅、清水博樹、青山祐輝、井村遼、板敷なな、吉原蒔帆...の以上11人を大勢の前で晒して動きを止めたままにする。
「「「「「...!!...!!」」」」」
「は?何て?ああ、口閉じさせたままやったな。ちょっと待ってろや。未だに事情を知らんままでいる有象無象どもに説明するから、その間はそこで大人しく待機してろや。まぁ動きたくても動けないやろーけど」
さっき見せしめを披露したにも関わらず未だ俺を血走った目で睨む谷里や中村を鼻で嗤ってやる。この期に及んで俺を締められるとか本気で思ってるらしい。
本物の馬鹿やんやろうな。さっきの生活指導教師と同じ目に遭わないと分からないようだな。
『今ここに引っ張り出した連中は、二年半にわたって俺を理不尽に虐げてきたクズども...虐めの主犯連中や!
昼休み…誰もいない体育館裏で大勢で俺をリンチしたり、教科書やノートを汚したり、名誉棄損にあたる侮辱発言を浴びせたり、大勢の前で俺を不名誉極まりない呼称で呼んで辱めたり、俺に関するデタラメでありもしない悪評を広めて虐めを助長させたりなど!
この11人の最低なゴミクズどもはずっと俺を虐げてきた!!』
舞台上にいる11人を指さして、声を大にしてそう告げる。怒りと悔しさをしっかり滲んだ声で言ってやった。
谷里らは尚も俺を睨みつけている。クズ呼ばわりが気に入らなかったのか、下らない。
『俺は一年生の頃からこの最低なゴミクズどもにずっと苦しめられ続けてきた!
止めろといくら叫んで抵抗しても虐めの手は止むことなく俺を理不尽に痛めつけて辱めるばかり!常に集団で俺に暴行するという卑劣極まりないクソッタレどもや!!
お前らも、知ってるはずや。何人かは見てるはずや。俺が今までどれだけ酷い虐めに遭っていたかを』
再度11人の悪事を声高に明かした次は有象無象どもに話を振る。何人かが俯く様子が見られた。三年五組の連中は誰もが苦い顔をしていた。
『まぁお前ら有象無象には期待してへんかったし?まだションベン臭いクソガキどもに助け求めたって無駄やゆーことは分かり切ってたし。ましてや俺と親しくもない奴らなんか尚更やろうし。
けど...大人は別やんなァ?ええ、教師の皆々様よォ?』
生徒どもを見回してから急に話題を教師どもに変える。先程の見せしめがショックだったのか、未だ震えている教師もいる。三年の各クラスの担任どもと校長あたりは俺に目を合わせようともしない。完全に自分らは確信犯ですと認めてると同義や。
『お前ら学校での教師ってさァ?ただ勉強教えればそれで良いやって考えてるクチなん?
悪いことは悪いと言って止めさせる。人生の正しい道を説く存在であること、人として正しい姿を見せること、生徒をなるべく正しい道へ導くこと、そして...助けを求めている生徒に手を差し伸べる存在であること!
ベタやけど教師ってそういうモンやないんですか、ねェ!?』
教師どもは依然として苦い顔で俯くばかりだ。
『俺は何度も虐めを止めて欲しい、助けて欲しい、あいつらをどうにかして欲しいと、何度も担任とか生活指導とか保健医とかに訴えてきたよな?
で、お前らはどう対処したんやっけ?なァ校長先生?
虐めを世間に明るみに出すことを良しとせず隠蔽しやがったんだっけなァ!?』
「...っ!!」
俺の殺気を当てられた校長は腰を抜かしてその場で崩れ落ちる。顔は真っ青だ。
『学校に瑕がつくのを良く思わなかったお前は、生徒の保護者ども、特にPTA連中に虐めという事実を隠蔽した......そう俺の担任の先生から聞いたで?そうやんな、江藤先生ェ?』
ここで江藤に目を向ける。同時に口を解放して喋らせるようにもしてやった。荒く息を吐いている江藤に俺は命令を飛ばす。
「 “ここで全て正直に話せ。嘘は許さない。この学校は俺の虐めに対してどう処分することにしたのかを全て暴露しろ”」
江藤を無理矢理歩かせて全員が見える位置に立たせる。やがて江藤が喋り始める。
「......杉山が今言った通り、校長先生が杉山が訴えていた虐めの件を公表しないことを決めて、私を含む三年のクラスの担任の先生たちに虐めの解決を命じてきました。我が校の名誉を汚すのを防ぐ為だとも言ってました...。担任を持つ私らも、杉山は谷里や本山、中村らと同様喧嘩をするという理由で、彼自身の虐め相談を無碍にしてしまいました。
全て事実、です...!」
最後は涙ながらに告白する江藤。
「...っ!!」
さっきまで怯えていた校長が今度は江藤に非難の目を向ける。完全に自分の体裁のことしか考えていないクズを晒してやがる。
青い顔をして嘘偽りない事実を全て暴露した江藤を下がらせて、再び全員に話しかける。
『...という理由があったから、俺はさっき学校を処刑するって宣言したんや!比喩表現でもない、そのままの通りや。
俺を理不尽に虐げた連中も。俺を侮辱したり私物を汚したりして辱めた連中も。それらの光景を笑って見物してた連中も。同様のものを見ておきながら無関心を装っていた有象無象も。助けに応じなかった教師どもも。俺の虐め事情を公表せず隠すことを命じた校長も!
全員ここでぶち殺しまーすっ!!」
俺の「全員ぶっ殺宣言」に、全員困惑し混乱している。
虐めの事情は分かった。学校側が虐めを隠していたことも分かった。それらについて俺が大層ご立腹だということも分かった。けど自分らをこの場で殺すって、ハァ?……といったところやろうか。
この学校に在籍している生徒と教師の総数は、ざっと六百と数十人。それらをたった一人の男子生徒が全員殺す言うもんやから、本当に何言ってんだこいつって思ってるんやろうな。さっき人を一人殺したのを目にしたとはいえ、多数に無勢に変わりないと思ってるんやろうな。
あちこちで俺をコイツ馬鹿かって感じの視線を向けられてるのが分かる。中にはさっきの見せしめと今自分らの身動きが利かないことからコイツ...マジなのかもって震えている奴もいるが。
「というわけや。俺はこれからお前らに復讐する」
虐め主犯の11人の前に立って再度指を突きつける。
「この二年半、よくも俺を理不尽に虐げ辱めてくれたなァ。人として終わってる、腐りきったゴミクズどもが...!
ただ殺すだけじゃ足りひん。お前らには“地獄”というもんをたっぷり体験させて、今までの行いを後悔させるまでは、絶対に楽に殺したりはしねぇ...!
今度は俺がお前らに理不尽を強いる番やっ!」
そう言ってからパチンと指を鳴らす。直後11人の拘束を完全に解除させる。突然の自由に全員その場で躓く。
「無抵抗のお前らを甚振るのはおもんないからなァ。ほら、俺もお前らに甚振られる際はしっかり抵抗してたやろ?まぁ押さえられて蹴られまくったのが大半やったけど。
だからお前らも自由に俺に抵抗してみろや。通報しに行くのも良し、また俺を囲って押さえつけて、リンチするも良し。お前らにとっての“いつも通り”をまたやってみろよゴミクズどもっ!」
中指を突き立ててその指をクイクイと曲げて挑発する。案の定沸点が比較的低い奴ら、主に谷里と中村と本山が殺気立って俺を囲むようにして立ち塞がる。
「さっきから杉山の分際でふざけたこと言いやがって...!」
「お前が虐められるのはお前が悪いからやろうが!」
「人のことを悪く言ったり、何か気に入らんこと言われたら暴力振るいやがって!」
「雑魚だのクズだの好き勝手言いやがったな、陰キャのくせによ...!」
「さっきまで俺らを縛ってた意味不明な力とかあの先生破裂させたのもどうせくだらない手品か何かやろ!?お前なんか雑魚のままや!!」
三人以外の連中も口々に俺を罵倒する。俺が見せた力の一端は全部、手品演出だと決めつけて、俺は以前と同じ雑魚だと思い込んでやがる。自分らが完全に有利であるとまだそう思い込んでいる。
ここまで馬鹿だと笑えるどころか、怒りすらこみ上げてくる...。
「ここまで低脳で馬鹿のクズどもに俺はずっと虐げられてたのかって思うと、自分が恥ずかしくて情けなくて、もの凄い憤りを感じるわ。お前ら雑魚のクズどもなんかに蹂躙されてたって事実が忌々しく思うわほんま」
「「「うるせえんだよ死ねぇ!!!」」」
二回目の罵倒にぶちキレた三人が一斉にかかってくる。俺はあえて棒立ちのままでいて反撃態勢に入らないでいた。そして谷里の拳が顔面に入る。次いで中村のアッパーが腹に入る。最後に本山の蹴りが横腹に入った。以前の俺だったら、ここで痛みに蹲ってダウンしてたやろーけど……。
が、今回はそうはならんけどな!
三人の攻撃が入ったのを見た残りの連中は愉快気に嗤う。だがそのキモい笑みは三人のリアクションですぐに崩れていく。
「いだああああ!?」
「何や!?こいつの体どうなってんねん!?指が折れて...!」
「つまっ!爪先が...!痛いいいっ!!」
俺を攻撃した三人が拳や足を押さえて激痛を訴えているのに対し、思い切り殴られ蹴られた俺は痛がるどころか余裕浮かべた顔をしている。
この光景を見た有象無象どもは大いに困惑する。
「おい、今何かしたんか?顔に蠅でもとまったんかなァ~?腹も何か変な感触したわ~。痛くはなかったけど......あれ?あれあれ~?お前らどしたのォ??さっき殴りかかってきたやんなァ?何でお前らが痛そうにしてるわけェ??
ねェ大丈夫ー?立てまちゅかぁ~?」
蹲《うずくま》って無様を晒してる三人を煽って嗤ってやる。他の有象無象どもの見世物にするように、かつて俺がそうさせられていたように...!
「これからお前らのプライド、尊厳、自信とか全部を惨たらしく破壊したるからな。まずは...お前らの余裕とクソみたいな傲慢さを潰したるからなァ...!」
怒りと憎しみと殺意を乗せた声で虐めの主犯どもにそう宣言する。俺の声に誰もが震え上がる。
しかしそんな自分を恥じたのか、すぐに顔を怒らせて今度は残りの連中も(女子二人は隅へ逃げた)俺に攻撃してくる。
今回は青山や清水ら観衆組も参加している。俺を押さえようと二人が左右からタックルしてくる。15才にしてはそこそこ体重がある男子二人にタックルされれば普通の人間はその場で押し倒されるはずだろう。
だが俺はいくら押されようともビクともしない。こいつらにとってはまるで数十mもの太い巨木相手に相撲をとっているようなもの。
「く...そ!?どうなって!?」
「ぐ、おおおおおお...っ!!」
青山と清水がいくら力を込めようとビクともしていない様子の俺を見た小西が痺れを切らして俺に向かって走ってくる。
「何二人してもたついてんねん!あんな鼻くそ野郎なんか早よ倒せやっ!」
俺に迫る直前で跳び上がって、ドロップキックをかまそうとする。つーかこのクソチビさぁ、教室で机を真っ二つにしたこと覚えてないんか?さっき人を殺したところも見たはずやのに、まだ俺を今まで通りどうにでも出来るとか思ってるんか。低脳にも程があるやろ。
それより、そろそろ殴られっぱなしのままは飽きてきた。そろそろこっちも攻撃するとしよう...。俺の理不尽な力を見せたるか...!
未だ俺を倒そうとしてる青山と清水を片手で引きはがして、こっちに向かって来る小西目がけて二人を思い切り投げつけた!
ゴッッ!「「ぐああっ!!」」
空中で三人が激突してその場で落下する。俺は落下した小西の両足を片手で掴み、そのまま持ち上げる。
「は...え...?」
「お前さァ、俺が机を素手で真っ二つにしてたの忘れてたんか?それやのに突っ込んでくるとか、低脳も度が過ぎてんなお前、はァ!!」
「う、うわあああ―――」
――ドゴォンッッ!!
両足を掴んだまま持ち上げた小西を、その場で地面に思い切り叩きつけた。もの凄い衝撃音が体育館中に響き渡る。小西はまだ息はしている...が、全身を痙攣させている。今ので内臓にも多少ダメージが入ったようだ。激突した床には亀裂が入っている。
「は......な.........」
今の光景を目の当たりにした復讐対象どもも、有象無象どもも、誰もが絶句している。それだけ衝撃的だったのだろう。
そしてようやく誰もが確信したようだった。これは演出ではないと、本当に起こっていると...。
「う、あああ...!嘘や、何かの間違いや...!ふざけんなああああああ!!!」
前原がヤケを起こして俺に殴りかかってくる。次いで谷里や中村とかもまた攻撃してきた。こういう頭の悪いイキり不良どもは、とことん痛めつけないと分からへんのかねェ?
まぁいいや、俺とお前らとの力の差をとことん思い知らせたろ。お前らの下らないプライドや驕り、自信を徹底的に破壊してやろう...!
そこからは俺がただ理不尽な暴力を振るうばかりだった。
そして11人全員が、俺が自分らよりも圧倒的に強いと...絶対に勝てない、そう理解したのだった。
雑魚の杉山が。陰キャでボッチのこいつが。俺らにボコられるだけの弱者のこいつが。
俺らを集めていったい何をするのかと思えば、壇上に上がってデカい声でこの学校を処刑だとか意味分かんねーことをほざいてやがる。
けど何より聞き捨てならなかったんは、俺らを殺すだとか復讐するだとか言ったことや。
今まで俺らに勝てずにただ痛めつけられてただけの雑魚のクズが、俺らを殺す?何訳分からんこと言ってんねん。
そもそも先週から休み出して、やっと学校から消えたかって良い気分やったのに。学校来るだけでも目障りなアイツが、調子に乗って俺らを殺すって。
こうなったら、俺らもあのクズを殺すつもりで締めた方がええよな?本人が俺らを殺すって言ってるんやし、正当防衛ってやつや。
というわけで、死ねや杉山...!!
――この時はいつもの様に俺たちが杉山を一斉に殴って蹴って倒して、順番に甚振って。あいつがボロ雑巾になるまで面白がってリンチして遊ぶ...。
今回は息の根が止まるまで暴行し続けてやる......その意気やったのに―――
「え......あ”...!ぁにが、どうなって...っ!?」
いつもだったら一斉攻撃ですぐに沈むはずやった杉山は、どこにもいなかった。
殴ったこっちの拳だけが、激痛を訴えていた。あいつの体はまるで鋼の硬さだった。骨にヒビが入って血が出てきた。
やられたのは俺だけじゃなかった。中村も本山も、小西も中林も前原も、みんな...あいつに何のダメージも与えられずに返り討ちにされていく...。
反対に、杉山が拳を振るった瞬間―――
「ぐあっ!」「ごえぇ...っ」「いだぁ!!」
あり得ないくらい吹き飛んでいったり、骨が折れる音が響いたり、えげつない量の血が出たり...まるで悪い夢でも見ているかのようだった...!
「おい、嘘やろ...」
「何やねんアイツ!?先週までは俺らにただボコられてただけのはずやったやろ...?」
「ひ、ひぃいいいっ!!」
俺らがいつも見下していた杉山は...教室で孤立して味方もいない陰キャやった杉山は...一方的にボコられて無様に這いつくばるだけやった杉山は...そこにはいなかった。
俺らが今目にしてる杉山友聖は......まるでバケモンや――
そして気が付けば、先週と違って俺らが這いつくばっていて、あいつが俺らをゴミを見る目で見下していた。
(アカン......あいつには絶対に敵わへん。殺される...!!)
俺らの命は、あいつの気まぐれ次第で簡単に潰されると、あいつが壇上で言ってたことは本気やったってことを、ようやく理解した瞬間やった――
*
顔面を殴って頬と鼻をグチャリと潰し、歯を砕く。
腹を蹴って胃液を吐かせて内臓に深刻なダメージを与える。
肋骨にもヒビを入れてやる。倒れたところを、腕や脚を踏みつけることで追い討ちをかける。
踏みつける度に骨が砕く音がして、どいつもこいつも面白いくらい悲鳴を上げてくれた。
予定通り、まずはコイツらに俺がどういう存在なのかをはっきり理解させ、プライド・尊厳・自信などを粉々に打ち砕いてやって這いつくばらせてやった。
そしてこいつらに命の危機にさらされているということを自覚させることにも成功した。
『あれあれ~~ねェどしたのー?死ねぇっつってイキって飛び出してきたあの勢いはどしたんですかーって聞いてんねんけどー?もう終わりなん?あれだけ殺気立ってかかってきたくせに、無様に倒れちゃってやんの!!
ざっこ!数人でかかってきといて俺にかすり傷一つもつけられないままそうやって這いつくばってるとか、お前らマジでざっこぉ~~!www』
倒れている男子どもを順番に踏みつけて指さしながら、全員に聞こえるような声で、全員の前でディスってやった。
床にはあいつらの血や胃液、欠けた歯が飛び散っている。汚いので即洗浄して場を整える。
近くで這いつくばっている中村の髪を掴んで目線を合わさせて、11人に聞こえる声量で話しかける。
「今の俺が、先週までのと同じ俺やと思ったか?同じやったらこんなとこに全員集合させたりも、お前ら全員集めてお前らを殺すなんて言ったりもせーへんわ低脳どもが...。
俺はチート能力であり得へんくらいに強くなったんや。お前らを圧倒的に潰せるくらいの力を手に入れたんや。
で、これから俺がすることはさっきも言った通り、お前らへの復讐や。このチート級に強い力を使ってなァ!
お前らは手を出してはいけなかった男に手を出してしまったことを後悔して絶望しながら俺に殺されるんや。分かったかコラ」
髪を乱暴に掴まれているという痛みと屈辱の仕打ちにも関わらず、中村は厳格な親に叱られてビビっているガキのような面をするばかりだった。
谷里も、本山も、前原も、全員同じような表情をしていた。恐怖、怯え、苦痛、そして絶望が11人の顔を歪ませている。
「警察にお前らのこれまでの悪事を暴露してお前らを突き出して社会的に潰す……そんな生易しい手段での復讐もできるにはできるけどなァ。俺の感情がそれじゃあ満足できねぇと言っている。
俺のこの手で物理的にぐちゃぐちゃにしてから殺す、そうしたいって叫んでるんだ……!この気持ちが分かるか、お前らにはよォ!?」
「ひぃ…!?」「うぅ!?」「ぐ、ぅ…!」
(ああこれや。今のコイツらがこういう面になるところを、俺は見たかったんや...!生前では見られなかったこの面を、俺は見たくて堪らんかったんや!!)
俺は甘美な刺激を受けていた。気持ち良すぎる。憎んでいた連中が恐怖と絶望で歪んだ面を晒してるのは快感過ぎる!
けどこれはまだ始まりに過ぎない...。もっと面白くしてやろう...!
今度は谷里の前に立って見下しながら質問をする。
「俺に何か言いたいことは?」
「ひ、ぃ...!ふざけんな...何やねんその力!?ズルいやろ...卑怯やっ!!」
「ハッ!そらチート使ってるからなァ。ズルいのは当然や。
けど...卑怯?お前がそれを言うか?お前らはいつも集団で独りの俺を寄ってたかってリンチしていた。卑怯なんはどっちやろーなァ!?」
ゴキャッ!「っがご...っ!!」
苛立ち混じりに反論しながら谷里の顎を蹴り上げて谷里を空中に打ち上げる。瞬時に奴の真上へ移動して、谷里の顔面を掴んだまま、床に急降下する。ゴンとした大きな落下音を響かせて床に亀裂を入れる。
痙攣している谷里を軽く治療して死なさないようにする。ここで殺すのはナンセンス。因みに板敷と吉原は隅でずっと震えている。逃げようとはしているようだが、そういう動きをすると自動で縛るように細工しておいたから壇上から降りられないでいる。
さて...前座はこれくらいにしとくか。
『今までのはこのクズ11人とお前ら全員に改めて俺という人物を教えてやる為の茶番や。こっからが本番や...。俺がやりたいこと、それは―――復讐を兼ねた大規模殺戮やっ!』
俺が完全に本気であることを理解したのだろう、誰もが青い顔をして震えていた。泣き出す奴、逃げようと必死に足掻く奴、全員に余裕というものは無くなっていた。
隔離した五組の連中も全員戦慄してやがる。あいつらもここにいる有象無象も全員連帯責任で殺すことは確定している。
しかしすぐに殺すのは面白くないので、面白い余興をやろうか。
有象無象どもを存分に焚きつけて、揺さぶらせてやろう...!!
『そもそもの話、俺が何でこんなことをしているのかやけど…。まぁ当然この11人のクズどもが俺を理不尽に痛めつけて辱めてきたっていうのが一番の理由や』
演説のように語りだす俺を、全員が緊張と怯えが混じった顔で注視している。
『それなら、ただこの11人だけが悪いのでは?ってそう思う奴はおるんとちゃうか?
自分らは関係無い、そもそも知らなかった…って言いたくてしゃーない連中はそれなりにおるやろうな。特に一年生どもなんかはそう思ってるやろ。
だけどそんなの俺にとってはどうでもいいことやねん!悪いけどお前らにもな、この虐めの件に関しては連帯責任として処刑されてもらうで!
恨むなら俺を虐めたこの11人と、虐めを放置してた教師どもにするんやな!十割そいつらが悪いんやからさぁ!』
残酷な死刑宣言を告げられた大半の生徒らは、ここからでも分かるくらいに顔色を悪くさせているな。中には首をやたら振ったり口を必死に動かして叫ぼうとしてるのもいる。
『あーあー、お前らが理不尽だって文句言いたい気持ちは伝わってきたわ。そらそうやな、関係無い・知らない自分らが殺されるとか納得いかへんわな?何でお前らを殺すのか、連帯責任なんて言ったのか』
そこで俺は苛立たしげに床を思い切り踏みつける。全員ビクっとして静まり返る。
『俺はこの二年半で!この学校に対して心底憎悪を抱くようになった!
虐めの主犯ども、教師ども、クラスメイトども!それらをひっくるめてこの学校が憎くて仕方がない!!
俺を虐めるわ辱めるわ、そんな俺を助けようともせーへんわ助け呼んでも反応してくれへんわ、虐めの件どうにかせーへんわ隠そうとするわ!
この学校は俺の“敵”になったんや!
だから全部潰す。全部滅ぼすことにしたんや......当然お前ら全員殺すというやり方で...!』
言葉に怒りと憎しみ、狂気を乗せてここにいる全ての生徒・教師に聞かせる。クラスメイトや教師陣は俯き、他は震えているだけ。
『そうや。ここらでちょっと、お前らに質問するで?
《《誰のせいで》》俺をこんな人間にしたんやと思う?《《どいつらのせいで》》お前らまでこんな事態に巻き込まれたんやと、思いますかー?』
途端、体育館内の空気が変わった。主に関係の無い生徒どもが顔色を変えて俺を注視している。良い傾向や...。
『いったい何が原因で、自分らは今こんな目に遭ってるんやろうなァ?俺がこんなになるまで追い詰められて、凶暴化して、みんな殺すーとか言うようになってしまったんは...どこのどいつらが原因なんやろ...?
はい、ここでお前らに答えを言う権利を上げます!挙手せんで良いから答えてみ?あ、ちなみに質問の答え以外のどうでもいい発言した馬鹿は、ぶち殺すから』
そう告げてから、全員の口枷を解いてやる。教師どもも解放してやったが、脅しが効いたのか誰も意見する奴はいない。この学校の教師どもは肝が小さい小物ばかりやな。
と、やがてどこからかポツリと声が上がった。
「............壇上の上にいる人たちの、せい?」
「全く止めようとしなかった先生たちとか...」
「あの人のクラスメイトらも止められたのに何もせーへんかったよな?」
―――十分や。今ので良い答えが聞けた。ほな、話進めよか...!
『―――そうやっ!!原因は、このクズ11人と、コイツらに対し何のお咎めもしなかったクソ教師ども、さらには虐めを傍観していたこことは別のとこへ隔離させてる俺のクラス連中や!!
コイツらが俺に対して散々で理不尽な仕打ちと無視をしたせいでなァ!
それで俺はこんな人格・性格になってしまって、無関係なはずのお前らまでここに連れて来られてきたんや!
この低脳なゴミクズどもと、あの無能教師どもと、傍観者を決め込んだ薄情なクラスメイトどもが全部悪いんやっ!!
こいつら全員が俺に理不尽を強いた結果がこの状況や!!
全部全部っ、主にこの11人と学校を運営している大人どもが悪いんやっっ!!!』
俺の感情的な訴えで、空気が変わった。有象無象どもの視線が俺から今指定した連中に移る。だがそれらの視線には先程の恐怖や怯えは無く、非難や憤りの感情が込められていた。
「お、おい...何やねんお前ら......」
「な、何睨んでん、ねん......」
クズ11人は荒い言葉で脅しているが、数百人からの非難めいた視線に気圧されたのか迫力が全く無かった。
教師らも奴らの異様な雰囲気に呑まれてやや萎縮し出している。生徒にナメられまいと必死に威厳を保とうとしている奴もいるが、この状況下ではただの虚勢だ。教室内にいる五組の連中もこの空気に恐怖している。
無関係な生徒どもは皆、俺が指定した連中に「お前らのせいで……!」って感じの目で睨んでいる。
そうや、俺はコレがやりたかったんや。理不尽な目に遭ったからこうするんやってどれだけ叫ぼうが、俺に無関心で無関係な奴らは心から俺に共感することはないやろう。
けど人間ってのは所詮、数が多い方に傾く生き物や。それも自分の利益が多い方にな。だから俺は有象無象どもをに敵をつくらせた。俺が憎い憎いと思っているあいつらを敵にさせた!
あいつらのせいで自分らは巻き込まれた、殺されそうになってる。俺は言葉に魔力を込めて、有象無象にそう思わせることに成功した。どう考えても俺の暴走のせい、俺が悪いとか思うのがまぁ普通だ。
けどその普通を指摘したら、自分らは殺される。
そこで理不尽の権化と化した俺…圧倒的力を持ってるこの俺がしきりにあいつらを非難するとどうなるか?みんなは諸悪の根源をあいつらにしようって考えに傾くことを選ぶようになる。
何の力も無いただの人間のあいつらならいくら非難してもこちらが殺されることはないからな。
いわばこれは誘導された「責任転嫁」。俺は一部を除く全校生徒どもに、ヘイトをあいつらに向けさせた!
数百人もの負の視線を受けた連中は俺の時とは違う色の怯えを見せ始めている。この状況をつくったのは自分らのせいだという流れが形成されていくのを感じて、恐怖している。
「そ、んな...滅茶苦茶な...!あいつは、人を殺したキチ野郎なんやぞ?なのに俺らが悪いやと...!?」
中林が青い顔をして自身に向けられてる視線を呆然と見て呟く。
「どうや?お前らと、クソ教師ども。これが《《理不尽》》ってやつや。数の暴力って理不尽みたいなもんやな。たとえ悪いことでも皆がええよって言ってしまえばそれは許されてしまうんやから......俺が受けてきた虐めと同じようになァ」
「「「「「っ......!」」」」」
怒りと非難、さらには侮蔑の視線に、11人全員が戦慄する。数の暴力=理不尽の恐ろしさが少しは理解したみたいやな。
「ざ、戯言を...!結局は君の幼稚な暴走に過ぎない!全員この生徒の戯言に悪影響され過ぎだっ!!正気に戻れ!!ここで断罪されるべき悪人は、我々でも彼らでもない、人を殺して彼らをあんな風にしたこの生徒ただ一人だっ!!」
校長がしゃしゃり出てきて、それらしい反論を叫んで全校生徒に訴えかける。しばらくして連中に向けていた非難の視線の数が減り出した。校長の反論が正しいと思ってるようだ。
まぁ進行形で罪を犯してるのは俺やから、そうなるわな。正論としてはあいつらに利がある。
当然だ。この時点で俺は大罪人と化しているからな...。
が、それがどうした?
これは俺の復讐だ。正しいとか間違ってるとか悪人とか、そんなもの知ったこっちゃねー。
ただ俺が満たされれば、幸せになれればそれで良い。いくら流れを変えられようが、最後にはコイツも無様に死ぬことになるんやから...!
じゃあ、ここで一石投入するか!
『ところで俺はお前らをも殺すって言ってたけどさ......気が変わったわ』
ざわりと騒然する生徒どもを見て笑いながら続ける。
『お前ら全員が、このクズ11人とクソ無能教師ども、その後に俺のクラス連中への処刑を望んでくれれば、さらに俺がこいつらに復讐してる様を盛り上がってくれるなら。
俺の虐めに無関係だった奴ら、知らなかった奴らは殺さずにしといたるわ!!
死が免除される条件は、この場で無関係の生徒全員が俺が指定した連中の死を望む声を上げること。このあと連中が理不尽に拷問されてるところを嗤ってやること。今言ったこと全てその通りに実行するのなら、無関係のお前らだけは殺さんと約束するでぇ!』
体育館が一段とやかましくなる。殺されないということを聞いた希望と、その代わりとして人でなしな行為をすることへの躊躇で、だいぶ揺らいでいる。
『俺はどっちでもええけど、ここで俺の案に乗らんかったら後で全員連帯責任で殺されるだけやで?確実に助かる方法があるなら、そっち選んだ方がええと思うけどなァ?
あ、もう気付いてると思うけど、今この学校だいぶ空の上にあるから電波は圏外や。当然電話は繋がらへんから助けは来ねーから(実際は結界で遮断してるだけ)。
じゃあ、1分待ったるから早よ決めろ』
パンと手を叩いて声を出して1分数え始める。これまで以上に騒ぎが大きくなり困惑と怒号、悲鳴が飛び交っている。まぁ大半がクズ11人とクソ無能教師らのものやけど。別室で五組の連中も何か喚いている。
そして1分数え終わったところで再び全員の口を閉ざして、話を進める。
『で......答えは?』
口を開かせる。一拍おいて―――
「馬鹿な考えはや―――
《殺せぇ!!!そいつらが死んで解放されるんなら殺してくれェ!!!》
校長の制止の言葉を聞かずに、生徒全員があいつらの処刑を望んだ!本を見ると、全員が本当にそう叫んでいると出ていた。マジで満場一致の処刑願望が決まった!
「あ~~~~~っははははははははははははは!!皆がお前ら全員の死を望んでるわっ!!スゲー、数百人全員がそう言ってるとか!まぁ何にせよ、お前らの味方は消えたな...?」
振り返ると連中全員が、顔を引きつらせていた。五組も同様の反応や。絶望していると言って良い。何せ大勢の人間から自分らの死を望まれてるんやから、そうなるわ!
「「「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」」」
やがて大音量の殺せコールが形成された。場は完全に出来上がった。こいつらはこれ以上ない地獄を体験して殺され、他の奴らは無事解放―――
(―――《《しねーけどなァ》》!!!嘘に決まっとるやろボケ!
俺はこんな世界どうなろうがどうでもええ!どうでもいい人間らの約束なんかもどうでもええわアホが!!
とりま体育館内にいる復讐対象どもをぶち殺した後で残り全ても殺しまーす!!)
内心でこれ以上ない下衆発言をして、良しと叫ぶ。
「ではこれより、お楽しみの時間といきましょうか!
お前らクズどもには、地獄をたっぷり見せたるからな...!!」
復讐編
「が、あぁ...!?」
「まっずは~~。今朝も俺を侮辱しやがった、小西陽介君からいこっかぁ!」
力無くへたり込んでいた小西の首を掴んで軽々と持ち上げる。小西は苦しげに足をバタつかせて藻掻いている。
「ま”っで、待ってぐれ...!う、嘘やろ?す、ぎ山が怒っているんは分かったわ。
けど......殺すなんて、冗談、やろ...?本気なわけ、ない、よな...?」
半泣き状態の小西は引きつった笑顔で俺にそんな言葉を吐いてきた。
「はぁ?ここにきてまだそんな馬鹿なこと言うんか?さっきの俺のお喋り聞いてへんかったんか?あれが全部、冗談に聞こえとったんか?
あれのどこが、演技やと思ったんや?え?」
ドスッ!腹を殴る。小西は激しく咳き込む。
「ごふっ...!お、い......あんな”、悪ふざけで...俺らを、本気で殺すんか―――ぁぎゃああああ”あ”あ”あ”っ!?」
まだふざけたことをほざいたので右腕を握り潰してやった。掴んだ箇所が赤黒く変色して腕の形も歪に変形している。
「って言うと何や?お前らはあの二年半のアレが...悪ふざけの一言で済まそうってか?
あのさぁ~~~~~~~。お前らはさァ!?二年半ずぅっと、人を理不尽に甚振って辱めて陥れて孤立させておいて、ただの悪ふざけの一言で済ませるつもりか?
人の尊厳と健康と成績と青春と人生をズタボロに引き裂いて踏みにじってきた行為が、ただに悪ふざけだったって言いたいのかなぁ!?」
今度は左の脛を蹴り砕く。泣き喚く小西を床に押し付けてその背を踏みつける。
「ホンマに悪ふざけや言うんなら、俺がこれからすることもただの悪ふざけとしてやるけど、ええよな?」
「あああ、止せ、止めてくれ...っ!言い方が悪かった!ごめんなさい!俺らが悪ふざけ気分で杉山を虐めてしまいました!ち、調子に乗り過ぎました...!!」
「気分ねェ?気分がそうやったから俺をあんなに長い間虐めてたんか?
へ~~?随分勝手やなァお前?どういう腐った思考してたらそういう結果にたどり着くのかねェ!?」
「ああああ”あ”あ”あ”っ!!いだい”いだい”助けでえ”え”え”え”!!」
陸に上がった魚のように、いやそれ以上にみっともなくのたうち回る小西を見て、俺はゲラゲラ嗤う。
『あっはっはっはー!!どうや皆ァ!?お前らの敵がこんな無様を晒してるのは、実に滑稽で愉快やと思わんかァ!?』
マイクパフォーマンスじみた口調で、生徒らに語りかけて、あいつらの反応を見て見ることに。すると――
《ぎゃははははははっ!!ウケるーー!!》
《見てあの格好、キショく悪ー!》
《いいぞー!もっとやれぇ!!》
生徒らの反応は大ウケ!誰もが小西を指さして爆笑して、俺を囃し立ててくる。誰もが今の小西の惨状を愉快に思っているのが分かる。
「おい......おいっ!?お前ら、おかしいやろ...?陽介が、あんなになってるのを...。お前ら何笑ってんねん!?笑ってんじゃねーよっっ!!」
中村が怒りの形相で生徒どもに怒鳴る。前原も同じくキレている。五組の奴らも有象無象どもの反応にやや憤りを見せている。
しかしその有象無象どもは二人の剣幕を見ても嘲笑と罵声を止めなかった。さっきからずっと小西を嗤い続けている。
これはもちろん...俺が細工したことが原因や。
小西への復讐拷問と同時に、俺は他の虐め連中と教師ども、あと遠隔魔術で五組の連中にも、ある幻覚が見えてしまう催眠術をかけておいた。
内容は...生徒らが自分らを嗤ってるように見える、や!
俺が甚振る度にギャラリーのあいつらは笑い騒いで俺に拍手を送る。そんな狂ってる状況を見ている錯覚をあいつらにかけておいた!
実際の奴らも、実は笑ってはいる。笑ってはいるけど、顔が引きつってしまっている。明らかに無理して笑ってるのが分かる。
これではこれから処刑する連中に精神的なダメージを与えられないということで、俺の催眠術によって補正をかけている...というカラクリだ!
俺にとっては茶番と言えば茶番だが、今理不尽に甚振られている人間にとってはもの凄い心の傷となってるハズや!......というか、
「おかしい?お前らにソレ言う資格ある?俺を散々酷く痛めつけていてそれを可笑しそうにゲラゲラ笑ってたんはどいつやったっけー?」
俺の言葉に中村も前原も怯んで黙る。
「お前らが散々やってきたことを、今ここでやってるだけやろ?お前らが俺たちの行為を非難する権利があると思ってんのか?コレが、俺がかつて味わってきた痛みと屈辱やクソ野郎っっ!!」
「ひ、ひぃ...!?」
今度は俺が怒りの形相で怒鳴りつける。中村がまた情けなくチビった反応をして黙る。
「せ、先生っ!!お前ら動けるんやろ!?早よ、陽介助けろや!!先生やったら生徒助けろやぁ!!」
前原が教師どもに向かってそう怒鳴る。それを聞いて最初に動いたのは、体育の教師二人だ。なんか俺に向かっていい加減にしろだのもう止めろだのと連呼しながらゆっくり歩いてくる。止める素振りを見せるだけで俺に近づこうとはしていない。ただ無意味に制止の言葉をかけるだけの無能教師どもだ。
あまりにもうるさく呼びかけてくるので――
「お、おい!もうこんなことは――「うっさい」ズパパン!!
斬撃音がして少ししてからどさりと倒れる音が二つする。その正体は当然先程の二人のだ。
「いま良いところなんが分からへんのか。お前ら教師どもも黙ってそこで見とけや。生徒一人も助けられへん無能クズどもが」
俺の躊躇無い行動に教師どもも虐めグループも全員、沈黙してしまう。教師どもはもう誰も俺を止めようとはしなくなった。