「この魔術の名前は……そうだなぁ。
“神による選別” とかかな。これだと厨二感が出てるか」
自嘲しながら全てを教えてくれる魔術本を使って、日本が今どうなっているのか、様子を見てみる。
まずは…政治家。日本在住の政治家の大半が消えていた。日本の政治家の大半が高給取りの無能どもって聞いたことあったけど、本当だったようだ。なら消えてしまっても全然困らないな!俺の生活を豊かにするのに全く貢献していない愚物どもなんか要らない。死んでオーケー。
次に……警察も全滅しているな。あんな偽善者が集う無能組織も、俺の役に立つわけがない。何が国民の安全と平和を守るだよ、笑わせんな。
守れてなかっただろうが、俺の安全と平和をよぉ。
その次は…学校関連。
どの学校にも一定数存在する虐めグループのクソガキども。そんなドが付くクズどもをよいしょと持ち上げて助囃し立てている、長い物に巻かれてるだけの質悪いガキども。さらには虐めを見て見ぬフリをして助けようとしない、クソ傍観者ども。
そして何より、虐めの事実をもみ消して、被害者たちを冷酷に切り捨てる、腐りきった教育者ども。
全て塵となって消え失せたようだ
どの学校も、虐めに遭っている被害者たちを除くほとんどの生徒・教育者どもが消えて無くなったようだ。ははは、一気に少子化を進めてしまったな。
最後にその他。今まで何度も直接殺してきたヤニカスどもや交通ルールとマナーの違反者ども。
さらに今回は、今挙げた連中になり得る予備軍も、この世から消し去ってやった!本の力で将来俺の前に現れるとされてるヤニカス・違反者予備軍を炙り出して、同じように消してやった。
そして喫煙や車以外の要素で、将来俺に不快感を与えるであろう人間をも殺してくれていた。
言うなればこれは予防接種のようなもの。将来この身を脅かす可能性があるウイルスに蝕まれない為の予防と同じことをしたまでだ。
どんな小さな火種も、早いうちに消しておかないとな。
ちなみに、俺の母と姉も、今のレーザーの犠牲となっていた。
家族を殺したことに、何の感情も湧いてないこない。あいつら二人も死んでほしいと、生前何度も思っていたからな。本当に死んだと知っても「ふーん、そう」としか言葉が出てこない。
反対に、「神による選別」を免れたのは、どれだけいて、どういう奴らが生存を許されたのか。
「神による選別」を免れた人間は、まず……食い物を生産・管理している連中、水と電気とガスと薬などを管理している連中など。
要は、生活必需品の生産と管理、生活基盤を管理して制御…といった、人間の基本的で一般的な生活の維持に欠かせない仕事をしている人間を、第一の生存対象としている。
そういう仕事をしている人間をたくさん消してしまうと俺の生活がだいぶ不便なことになり得る。ヤニカスとかじゃない限りは、基本生かしてやっている。
次に挙げるのは……俺の趣味であるアニメ、漫画、小説(ラノベ)、ゲーム制作に関わっている人間である。
彼らも当然生かさなければならない。特に俺が好きな漫画やゲームといった作品の制作者たちを殺してしまったら、今後の人生が一気につまらなくなってしまう。
日本の文化…特に二次元は世界トップクラスだ。それを廃れさせることはあってはならない。よって俺にとって害悪になりかねない奴らだけ消して、残りはほとんど生かしてある。
あとは、アニメや面白い番組を流す媒体...テレビ局に勤めてる人間もある程度は生かしてある。食品、薬品、完成した書籍やゲームなどをも全国各地へ届ける運輸する人間もある程度は必要だ。生かして大丈夫な奴だけ生かしておいてやろう。
ああそうだ、まだ一つあった。それは“エロ”だ。
エロも人生には欠かせない要素だ。俺はもちろん、人間誰しにも《《性》》活は不可欠だ。それを糧に生きている奴だっているくらいだし。
というわけで外見が俺好みで、さらに性格などの中身も無害できれいな女だけ、職業問わず生かしておこう。
それにしてもスゲーな。俺の今後の人生において不必要な人間をどれだけ消しておくべきとか、欠かせない人間をどれだけ生かしておくべきとか全て、この魔本に記載されてやがる…。有能過ぎて怖いくらいだ。
「……!おお、凄いことになってるな!」
魔術を行使してからまあまあ時間が経った。気が付けば1億数千万人はいた日本の今の人口がなんと、3割も減っていた。3000万人以上死んだのかー、凄いな。
ドローンカメラを大量に飛ばしてやって、各地の様子を見てみる。
悲鳴、怒号、絶望、怯え、パニックなど負の感情をまき散らす者もいれば...
「ははは...僕を虐めてたから殺されたんだよ、ざまーみろ!あはははははは!誰だか知らないけどありがとうっ!!」
「うはははははっ!やったぜ!!俺の大切な同僚を過労死させたクソ上司が死んだ!人を道具のように扱って、命を粗末にしたことに対する当然の報いだっ!!」
「アスリートである私にとってタバコの煙は本当に迷惑で害だったのよね。清々したわ!」
などといった、かつての俺と同じような人間の歓喜の声も聞こえる。ただそういった人間は比較的少なく、混乱、恐怖、絶望といった感情の方がほとんどだった。
ふざけたことに、ほとんどの日本人が、今の日本に満足してたようだ。日本だけじゃない、世界中そうかもしれない。俺には微塵も理解できないが。
何はともあれ、これで“選別”は完了。日本国内限定で俺にとって害にしかなりかねな不要な人間どもは全てこの世から消してやった。
この日本だけ、俺を不快にさせる人間はもう一人として存在していない!!
「理想の日本が、見えてきた...!」
残すことは、この国の制度の改造や...。
『消費税を撤廃することを決定。明日から消費税は無くなります』
『自家用車とバイクの撤廃により、電車とバスの運転数を増加させることを決定』
『学校や職場で起こる虐めやパワハラに大して刑罰を科すことに......即死罪と決定』
『残業を1秒でも行った場合、それを強制した者は懲戒免職もしくは死罪が科されることを決定』
『警察組織と自衛隊を解体。新たな組織を代わりに結成する方針だ』
などと、色々好き勝手に書き換えてやった。宣言したのは俺の傀儡と化した感情の無い大臣どもだ。俺が考える、国民に優しい法を新たにつくってやったぜ。
さて……「神による選別」を行使したことで、日本の人口がもの凄く減ってしまったな。これでは人手不足で国が機能しなくなってしまう。
ではどうするか?
「“錬成”.....アバター作成」
無人の広い荒野に移動して、そこで俺は錬成魔術を行使した。
すると地面から幾万ものアバター人間が這い出てきた。こいつらも俺に忠実な人形、しかも一般の日本人より頑丈で強い。
食い物も水も摂らなくても消えない、動力源は定期的な魔力の注入で良い。大体月に1回でオーケーだったはず。
「お前らの仕事は単純だ。俺がこの世から消してしまった人間どもがやっていた仕事をするんだ。
人手が不足してしまっている地域に行って、死んだ連中に代わってお前らが働いて、国を支えるんだ。
お前らが俺が改造したこの日本を機能させていけ。いいな」
命令をとばすと同時にアバターどもは各地へ移動した。これなら労働不足に悩むこともない。人がいくら死のうが、俺の魔術でいくらでも補填できる。これで日本が破綻しないで済むはずだ。
「理想の日本が、完成したぞ...!」
感激して少し泣いてしまった。これからは幸せで楽しい人生が待っている。復讐を終え、粛清と改造も終えた後は、楽しく生きるだけだ!!
*
あれから数年――。
「ん......ぁはあ♪楽しかった...気持ち良かった♪また私と遊んで下さいね、友聖君♡」
「おーう。今日も良かったで。またよろしく」
今日も行きつけの風俗で色々発散してから帰宅。
新作ゲームをプレイ。
美味い物を食う。
毎日娯楽尽くしの最高の日々を過ごしている。
「神の選別」を行使した日、アバターたちが死んだ奴らになり代わって働くようになった日から数日間の間。
やっぱりというか、選別を免れた人間のほとんどはしばらく働こうとはしなかった。
大量殺戮を行った俺に対する不満や憎悪を露わにしていて、中には暴動を企ててる奴らもいた。
しかし本当に暴動に移すことは、誰もしなかった。誰もが俺を憎むだけに止めていて、徒党を組んで俺を抹殺しようといった不穏な事態は全く怒らなかった。
だから俺もこれ以上は誰も消すことはしなかったが、俺が残した爪痕は思った以上に生き残りの奴らを傷つけてしまっていたようだ。このままでは国が機能しなくなる可能性が出てくる。
だから、国民全てに“催眠”をかけることにした。アバターたちを媒体にして催眠魔術を各地の人間たちに放って、こう念じた。
「俺が今まで行ってきた殺戮と粛清に関すること全て忘却する 今の日本に何の違和感も不満も抱かなくなる」
しばらくして、全ての人間が以前と同じ生活に戻っていった。
はいこれで今度こそ全てやり終えた。
俺は幸せやし、他の国民らも嫌な気持ちにならない、丸く治まったね!
という感じで国を運営して楽しい生活を送っている。海外諸国の目も何やかんやで誤魔化して平常通となっている。
むしろ先進国の中で経済レベルがアメリカや中国に比肩するくらいにまで成長して、大躍進している。
何の害も不快感も無い生活。美味い食い物と娯楽に溢れた家。外に出ても敵はいない、障害も無い。楽しい、楽しくて仕方がない!幸せ過ぎる!!
楽しい、幸せだ!この気持ちに間違いは無い。嘘じゃない。食い物もアニメもゲームも漫画も小説もその他番組もエロも、全てが充実している。そこには不満は無い。あるわけがない。理想が叶って毎日が最高の一日だ!
だが......俺はどこまでも欲深い人間だったのだと、ここにきて改めて気付かされた。
「.........足りない」
まだ、満出来ていない―――
*次回 第一部最終話
―――足りない...。俺は満足出来ていない...。
いつからこの感情を抱いてたか?それはたぶん……今の日本国を完成させた日の、翌日くらいだったか。
何度も確認するが、俺はこの生活に不満は無い。むしろ快適と思っているし幸せに思ってもいる。では何が足りないというのか?
女...にも不自由は無い。行きつけの風俗があるし、何ならそこで贔屓してくれている風俗嬢が最近俺にあからさまな恋愛的アプローチをしてくるくらいだ。
友達が欲しい?いやナイナイ。今の俺はもはやそんなものを求めない。他人に友情など微塵も湧かなくなった俺に親しい奴は要らない。一生独り身で良い。
生活そのものは良い。食い物も娯楽もエロも充実しているからな...不満や不足なんてあるわけがない。
ではいったい何が足りないというのか?物理的なものではない。何かこう、心が欲しているのだ......《《あいつら》》がより多くの血を流している様を...《《あいつら》》がより不幸や絶望のどん底に落ちることを...。
要するに俺は、自分の復讐にまだ満足出来ていないというわけか。
じゃあ、あの時復讐対象どもをぶち殺したことは、本当は俺にとっては為にならなかったのか......いや、為にはなった。あの復讐の日々は今思い出しても俺を最高の気分にしてくれる。何ならその様子を録っておいた映像をダビングしているくらいだ。今も定期的に再生して楽しんでいる。
復讐したことに後悔はしていないし虚しく思ってもいない。
だけどまだ足りないんだ...!
俺はまだ《《あいつら》》をとことん嬲ってやりたいと考えている。復讐対象どもはもう俺が殺していなくなったというのに、連中をまだ甚振って苦痛を与えまくりたいと求めている。
......いったい何故満足出来ていないのか。しばらく考えた末に、一つの答えにたどり着いた...!
「《《この時代のあいつら》》を殺すだけじゃあ、満足出来てないからか……!?」
確かに殺してきたあいつらは全て、紛れもない本人だった。偽物じゃない、当時俺を虐げて排除した連中と同一人物だった。
ただ……一つだけ違っている点を挙げるとするならば、それは俺が憎んだ当時の奴らと今の時代の奴らの「見た目」だ。
そう、見た目だ。何十年も経ってしまえば誰でも見た目は変わってしまう。顔が老けたりして変わってしまったせいで、数十年前の同一人物を殺したっていう達成感が、俺は今一つしか得られてなかったんだ。
俺が殺したいのは、数十年前…俺を虐げて、理不尽な扱いをしていた当時のあいつらだったんだ…!
だからまだ“足りない”と感じちゃってるのか……。
「っはははは...!つくづく俺って奴は、欲張りやなァ。
そうか。俺が殺したかったのは……今の時代のあいつらじゃない。当時中学生だったあいつら、高校生だったあいつら、30代のオッサンだったあいつら、まだ還暦迎えたばかりのあいつらこそが、本当に殺したいんだった。
それこそがいちばんスカッと出来るに決まっている!それこそが本当の意味での復讐になるはずなんだ……!」
俺を虐げてゴミのように扱い続けていた当時のあいつらを殺すことが、俺が一番やりたがっていた復讐なんだ。
それを成し遂げることこそが、俺の救いとなってくれるはずだ!!
「戻りてぇ...あの頃に。俺の心を完全に満たす為の復讐がしてぇ...!まだ若かった頃のあいつらをぶち殺してぇ...!!」
俺は、決意した。
―――俺が虐められていた時代へ行く!!
しかしそれを実行するには、難関過ぎる壁が立ちはだかってくる...“時空”というデカすぎる壁が。
言わば時間遡行《タイムトラベル》をすることと同義だ。空間魔術を用いたことで俺は異世界からここへ帰って来られたが...“時間魔術”というものは異世界でも存在しない。もうこの時点で詰んだ気持ちになったが、諦めずに検索魔術を起動して時間遡行の方法を探してみた結果......
「あった...!が、この方法は......」
あるにはあった。
だがこの方法で時間遡行を行うと......俺は―――
―――死ぬことになる...。
「魂の引継ぎ」
おそらくこの世で唯一の時間遡行する為の手段だ。目に見えない情報…つまりは自身の「中身」のみを過去の自分に引き継がせるという手段だ。
だが魂(=心)と思念体(=精神)をこの肉体から離すということは、ある意味死と同義だ。脳や心臓には一切負担が無いから肉体は死なないが当然身動きが出来ない以上、絶食状態に陥る...つまり餓死する。
アバターどもも俺を動力源としている為いつかは消えてしまう。俺以外の人間に世話を頼む?まぁそれも有りやけど......。
今の時代で暮らす日本もいいけど、中学生だった数十年前のあの時代へ遡って、そこで「全て」をやり直す…なんてのも凄く面白い事だと思う。
あの時代に遡ったらまた今と同じように、日本を改造すればいいんだ…!
というより一度「引継ぎ」をしたら、果たして元に戻れるか分からんしな。だからこの肉体はここで朽ち果てさせても良いと考えられる。
「それに...あの時代だったら、あいつら以外にも殺したいと思ってた奴らも気持ちよく殺せるやろーしなァ」
虐めの主犯格どもはもちろん、あいつらの罪を許したあの場所そのものに復讐が出来る...考えただけでもワクワクしてきた!
「そうと決まれば...この時代で楽しめることを全部、満喫して堪能するぞっ!」
新たなる目標を立てたその日からは、「引継ぎ」魔術の習得とやり残していることの消化の日々に漬かり、毎日を過ごして...気が付けば十年は経っていた。
「完成した...!あとは魔術を発動するだけや」
俺(推定40才)は色々書き記した魔術本を開いてそこに魔力を込める。同時に自身の中身...心・魂と精神・思念体と、このスペック(魔力や魔術、身体能力の全て)を本に移行するイメージを思い描く。
「......楽しかった。楽し過ぎたわ、この二度目の人生は。生前のクソ人生を塗り潰すくらいの濃くて最高で幸せな人生が送れた...まぁ最初は酷い扱いと裏切りに遭ったが、それを強いた連中はぶち殺したし気分は晴れた」
今にすれば懐かしい。クソ国王とゴミ貴族どもとカス冒険者どもとクソッタレ孤児院の連中を残酷にぶち殺したあの日から始まった。
......ああ、俺の想いを裏切ったクズ王女もいたっけ。最後まで嘘を言って俺から逃げようとしてたっけ?ざまぁねーぜ。
そしてここに来てからは、生前の復讐の日々!心は浄化された。最高だ。
けどまだ終わりではない、もう一回遊べるドンッ!なんてな。
「ああ......意識が遠のいていく。中身が本に吸い込まれていくような感覚だ。この本を媒体にしてあの時代へ遡っていくのか...。
あー眠い。この時代の俺は、ここで終わる...。
まさか、三度目の人生を送ることになるなんてな...面白いわホンマ」
「......あの頃の自分を救うのは誰でもない、俺自身だ。ガキだったあの頃の俺を、この俺が幸せにしてやるんだ...」
「最っ高の人生にしてやるからな、過去の俺...!ははははははははははぁ!!」
その決意込めた叫びを最後に、俺の意識は途切れ、永遠の眠りについていく...。
力無く倒れた男の傍にある本が眩い光を放って.....物体をすり抜けて遥か上空へ飛び立つ。より一層強い光を放って、やがて消えた―――
『スギヤマユウセイノ魂オヨビ思念体ヲ預リマシタ』
『コレヨリ預カッタモノヲ過去ノ時代ニイルスギヤマユウセイニ引継ガセマス』
『遡行可能ナ行キ先ノ時代ヲ検索中......行キ先ガ決定シマシタ』
『西暦2010年...対象ノ人物ノ年齢ハジュウゴニナリマス』
『引継ギ実行中............引継ギニ成功シマシタ。時間ニ若干ノラグガ発生シタ為、引継ギガ反映サレルノ二少シ時間ヲ要シマス』
『デハ......良イ人生ヲオ過ゴシ下サイ、主様―――』
――――ブツン...ッ
そして、俺の三度目の人生が...さらなる復讐が始まるのである―――
第一部 完
あの世にあると言われ、清い心を持った女性しか住めないと言われている世界——「女神界」。
そこに住む者たちは“女神族”と呼ばれている。
「ようやく......見つけました...!けどまさか......こんなことになっていたなんて......!」
女神族の長を務めている女性...大女神は、やや憔悴した様子で彼女の手にある水晶玉を見つめている。その玉には、一人の少年が映し出されていた。
「戦闘可能な女神たち全員を私のところへ集合させて下さい。 “あの者”の潜伏先がついに特定できましたと伝えることも忘れずに」
十分後、戦える女神戦士数十人が大女神のもとに集った。
「伝令係が言ったこと、本当なのですか...!?」
「間違いありません。この水晶玉に偽りを示すことはありませんから...。この私の捜索スキルを持ってしても“あの者”を見つけ出すのにここまで時間を要したのは想定外でした...。そのせいであなた方には大変負担をかけてしまい、申し訳ないです...。既に犠牲になった女神戦士もいると、聞いてます...」
大女神の悲痛に満ちた言葉に誰もが痛みを堪えるような表情をする。
「そんなことは...大女神様こそがいちばん無理をしている身ではありませんか。自身を責めないで下さい...。それよりも、 “奴”はいったいどこへ...?」
「ええ、それは.........《《人間界》》です」
大女神の答えに女神全員が驚愕する。標的がまさか次元を破ってあの世界...人間界へ潜伏するなど考えもしていなかったからだ。
「人間側にとってはここは“あの世”と呼ばれている次元。そして人間界は“この世”という次元。本来どちらにも別の次元へ渡ることは不可能であり、たとえ出来たとしてもそれは禁忌とされていることです。
しかし彼......《《悪魔族》》の長は、私たちの予想をはるかに上回る進化を遂げていました。彼はあろうことか、異なる次元にまで手を出すまでの存在になってしまったのです...。
もし、彼が率いる戦士までもが人間界に侵略したとしたら――」
―――人間界は確実に滅ぼされる
大女神の言葉に誰もが戦慄した。
女神族と対立している族...「悪魔族」とは、数百年前から戦争を続けている関係である。悪魔族の長があの世を支配すべく女神族の領域に侵略をし始めたのが事の発端だ。
争いは女神族が押していたと思われていたが、五十年程前に悪魔族の長が突然自身の数を増やして戦力を強化させたことで、戦争はさらに混乱を招いた。
しかし戦いの最中で悪魔本人の口から、「自分は残り一人をどこかに避難させている。そいつを倒さない限りは自分は殺せない、死なない」という厄介な事実を聞かされた。
それ以降、大女神は最後の悪魔の行方を捜し続けていたのだ。その間彼女も体力を削って分身体を使って戦いに参加しながらだ。
そしてようやく最後の一体を発見した...という流れである。
「悪魔族の長...“サタン”は、人間界にいるある少年の中に潜伏していることが分かりました。その少年も、普通の人間ではありません...。サタンが潜伏しているという理由もありますが、その少年は......一度死んで別の世界へ転生した者で、その後空間をわたって元の世界へ帰ってきた人間なのです」
「―――」
大女神の言葉に誰かが大きく狼狽した気配がしたが、誰もそれを指摘することはしなかった。他の彼女らもそれなりに驚愕しているからだ。
男が死んだ場合、心が清い者ならば「天界」と呼ばれるところへ送られるのが普通だったからだ。因みに天界の反対は「涅槃《ねはん》」という場所である。
何故そのようなイレギュラーがあったのか......その原因は、大女神の次の言葉で分かることになり、さらに驚愕することになる。
「その少年を別の人間界へ転生させたのは...私なのです。事情があってそうさせてしまいました。結果、彼は天界でも涅槃でもなく、再び人の生を受けてしまっているのです...。
そしていつどういう経緯でそうなったのか分かりませんが、今彼の中には、あのサタンが潜伏しているのです...」
大女神の衝撃的な告白に、一人を除く女神全員が騒然とする。
「その少年の名は―――杉山友聖。彼を討伐すれば、悪魔族との戦争にようやく終止符をつけることができます―――」
「彼」が来たのは、私が16才になったばかりのこと。
兵士たちに連れられて来た「彼」はずっと不満そうにしていた。それもそのはず。まるで罪人を連行するような扱いを受けていたのだから。
しかも私以外のみんな、「彼」が抵抗しようものなら痛い目に遭わせるぞ…って感じを出していたのだから、酷いことこの上ない。
後で父親でもある国王に文句言ったのだけれど聞く耳持たずだった。せめて、勇者として連れて来られた「彼」の名前だけでも、と聞き出した。そして「彼」の名前をようやく知る。
――名前は友聖という。私たちとは違う感じがする男の人だった。
友聖が魔王軍の討伐隊に入隊させられて以降、討伐任務には毎回、彼が出陣させられていた。
任務から帰ってくる友聖の体には、いつも傷が見られた。他の兵士たちと比べても彼程の傷だらけの人はいなかった。
「こんなに傷ついて......じっとしてて!応急処置程度しかできないけど治療魔術かけるから」
「...っ!」
そんな友聖を見かねて、ある日私は彼を治療してあげた。その日は腕や大腿部の傷を治してあげた。
その時の友聖は、いきなり私が治療してきたことに驚いていた。よくよく考えてみれば、私たちがちゃんと顔を合わせるのはこの時が初めてだった。
「あ......私はリリナ。国王様の娘、です...」
「勇者の友聖です...。治療、ありがとうございます...」
低い声音で自己紹介と礼を述べた友聖の顔は、何というか根暗で幸が薄い感じだった。せっかく良く整っている顔を、台無しにしちゃってるわね...。
だけど私はこの時、彼にそういった指摘がしてはいけないと思ってしまった。今ここでそれを言ってしまったら、目の前にいる勇者を深く傷つけてしまう......そんな予感がしたから。
だって、彼の目は......
「じゃあ、俺はこれで...「待って」......え?」
暗く、とても暗い…絶望に沈んでいたように見えたから。
「この後、暇...?」
このまま彼を帰してはいけないって思った私は、この日初めて友聖とお話をした。
「孤児だったんだ...。冒険者になる前から魔物と...?弱い魔物でもそんな年から戦ってたんだ!凄いね...!」
まずは、友聖のことを知りたくて、たくさん彼に質問しちゃった。
友聖は一つ一つ丁寧に答えてくれた。
大臣たちがいつも友聖のことを悪く言っていたけど、それは彼らに見る目がなかっただけだわ。
平民とか外見とかで人をあんな風に悪く言うなんて...!友聖は実はとてもいい子なんだから!
ただ、一つだけ物申すことがあるとすれば…それは友聖の方から、一度も私に何か質問してこなかったことかしら。
私に興味が無いのかな?まぁ良いわ、これからもこうして会話を重ねて、私への興味を持たせてあげる!
「友聖、頑張って。私は戦えないけど、こうやってお話したり治療するくらいならいくらでもしてあげられるから!みんなから蔑まれても気にしないで!」
「はぁ......ありがとうございます」
最初の半年くらいは、まだぎこちなさを見せていた友聖だった。
一年経つと彼の目に変化が見られた。私と会う時だけ、明るくなって見えたのだ。そのことを指摘すると、恥ずかしそうに照れたあの友聖は、可愛かった。
顔色も良くなって、カッコ良くもなった気もした。私とこうして会話していたお陰かもね。
「リリナ様だけが、王国で親しくしてくれているから。それがどれだけ助けられていることか。今後も、こうして関わってくれると嬉しいです...」
少し笑った友聖からそんな言葉を聞けて、私はすごく心が躍った。お喋りな私に辟易するどころか、感謝されてとても嬉しかった。
私にとって友聖が友達以上の存在となった瞬間だった。
初めて出会ってから二年が経った頃。
友聖は国中のどの兵士でも敵わないくらい強くなっていた。魔王軍幹部をも一人で倒せるくらいにもなっていた。
私のほうも治療魔法の方で成長した。深い傷も治せるようになった。
けれど私が王女であることと、討伐軍に入るだけの実力が無かった私は、彼と一緒に魔王軍と戦うことはできなかった。
「その気持ちだけで十分力になります。リリナ様がいてくれたお陰で今の俺がいるから...。その治療魔術も、俺以外に困ってる人たちにも使って下さい。温厚で優しいリリナ様なら、多くの人を救える。国民からの信頼を多く得ているあなただからできることですから」
そんな私に友聖は、優しい言葉をかけてくれた。私のことをそう評価していたなんて、この時まで気付かなかった。意外に私のことしっかり見てくれてたんだ…。私が夢中になって友聖を見てばかりいたせいで、私が彼にどう見られていたかを分かってなかったわ。
でも、凄く嬉しい…!
そして――魔王を討伐したこと、友聖は無事でいるとの報せを聞いた時は、すごく喜んだ。きっとすごく頑張って、頑張って...戦ってたんだろうなぁ。
ただ普通に労うだけじゃ足りないよね...。だから、少しサプライズをしよう...!
そう。この時点で私は……いいえ。
最初から私は気付くことが出来てなかったのだ。だからこんなことを考え付いてしまった。
取り返しのつかない、大きな過ちを犯してしまっていたことに、この時の私は気付けないでいた。
討伐軍が帰ってきて、勲章や褒賞など色々やっているうちに、私は密かにサプライズパーティーの準備を進めていた。友聖の村へ行って、村全体で彼を祝おうと村人たちに呼びかけた。みんな全員私の頼みを受け入れてくれた。
――本当はそんな気など全く無かったということに最期まで気付くことはできなかったが...。
いちおう王国にもサプライズパーティーのことを伝えたのだが、お父様も大臣たちも渋い顔をするだけで、協力は得られなかった。ただ、友聖と一緒に戦ってきた兵士数人が私の計画に賛同してくれたのは嬉しかった。
サプライズパーティーの計画していくうちに、私以外にも友聖には親しい人がいたということが知れた。それが何より嬉しかった。
しばらく準備で忙しくなるから、王国に近付けないようするべく、私は心を痛めつつも久々に再会した友聖に冷たい態度をとってしまった...
――友聖、魔王を討伐してくれてありがとう縁があれば......また会いましょう。
冒険者稼業なり孤児院への貢献なり、今後も頑張ってね......さようなら――
我ながら呆れるくらいに、冷たい王女様を演じてみせた。ただ――
「な.........なん、で......あんた、まで...!」
......別れ際に見た友聖の悲痛な表情を浮かべた顔を見て、思わず本音が漏れそうになった。嘘だとすぐにバラしたかった。
この時に、最初に会ったばかりの頃と同じように止めるべきだった。ちゃんと、支えるべきだった。
体も心もしっかり成長したと思っていた友聖の心は、まだまだ不安定だったのだ。
親しいと思っていた人に冷たく突き放されることに、友聖がどれだけ傷ついていたのかを、もっとちゃんとわかってあげられなかった。
私のせいで友聖の心が完全に壊れてしまったことを知るのは、何もかも全てが手遅れになってからになる………。
友聖を演技で冷たく突き放した後も、私は王国で一人、サプライズパーティーの準備を整えていった。
シナリオは次の通り…まず最初に私と兵士たちが友聖がいる村に突然訪問(友聖以外の村人には告知済)して、そこで全て種明かしをした後に、パーティーを開いて、友聖を盛大に労う…こんなところかしら!
パーティーが終わった後は、友聖を王国…私の部屋に招き入れてみようかしら。
そこで二人きりで夜を......な、なんてね!
そして、サプライズパーティー当日。いざ村へ行こうとした私は――
「う…そ?
友聖……あなたはなんて、ことを……っ」
この世の地獄を目の当たりにした。
その地獄の中心に立っている友聖の変わり果てた姿をを見て、私は愕然とした。
同時に後悔もした。
あの時、あんなことを言って、友聖を冷たく突き放すことを止めておけば良かった、と......。
必死に説得しようと呼びかけた私だったが、何かの魔術で声が出ない……!?次第に息することさえ出来なくなってしまう……。
苦しい。
苦しいよ友聖……。
痛い。
心が痛い…。
「異世界でお利口さんでいたのが間違いだったんだ。こんな世界でそういう性格をしていても結局は損をする。初めからこうしていれば良かったんだ......お前らから学ばせてもらったよ」
(そんなことない!友聖はあの頃のあなたのままで良かったのよ?
あの頃からずっと、友聖のこと、私は好きだったの…!!)
「じゃあな...嘘でも今まで俺を励まして労ってくれて、嬉しかったよ」
(嘘じゃない!あの楽しかった時間は全部本物だった!
会話を楽しんだ時も、その時に見せた明るい感情も、偽りなんかじゃなかった!
全部全部、本心だったの...!!)
「さようなら......リリナ様」
(待って!友聖!!私は―――――)
―――――
「残りのゴミもとっとと処刑していくかぁ...くははははははっ...!!」
狂気が混じった笑い声が聞こえる……。私は友聖が背を向けて去っていくのを、ただ見ることしかできないでいた。
お腹から夥しい量の血が流れているけど、構わず声を上げることを試みる。話を、しないと……。
だけど、呼吸すらまともに出来なくなっているこんな状態じゃあ、友聖を呼び止めることすら叶えられない。ここから立ち去っていく彼を、ただ見ることしかできない。
(友......せ、い......)
涙で濡れた目を向ける。友聖の名前を心の中で何度も言い続ける。
(寒い……眠く、なってきた……。視界も、暗くなってきてる…。
寒いよ、怖いよぉ、友聖……)
やがて痛みが感じ無くなり、寒さと眠気に襲われ、目も霞んでしまう。
もう私は助からない......ここで死ぬんだ。
死ぬのはもちろん嫌だ。だけど……友聖をこのまま行かせてしまうのは、あのままにしておくことの方が、何よりも嫌だ。
友聖は今、この世に自分の味方なんて誰一人いない…って思ってしまってるんだと思う。自分がこの世でたった一人になったのだと、思ってしまっている。
私にすら裏切られてしまっていると、思ってしまっている…!
そんな悲しい誤解をさせたまま、あなたとお別れするなんて、絶対に嫌...!!
だけど……何もかも全て手遅れになってしまった今…。もうすぐ死んでしまう私に出来ることは、もう無い…。
声さえ失った私に、友聖を引き留めることなんてことはもう―――――
「......ぁ!」
友聖の姿が見えなくなりかけたその時、彼の魔術が解けたからか(それとも奇跡が起きたのか)声が出せるようになった。
最後の力を振り絞って、遠ざかっていく彼の背に向けて、声を精一杯———
「ち...がうの...。そんなつもりじゃ......なかったの...。友聖.........ごめん、なさい......」
ポロポロと涙を零し、縋るように手を伸ばす。
この気持ちを必死に伝えないと…!お願い…!!
「友聖ぇ......やだぁ、いかない、で...!私、いつも見てた、よ...!好きだった、今も、好きでいて......これからだって、思ってて...!」
ちゃんと話し合おう。それで友聖の誤解を解いてあげれば、また……あの頃の関係に……。
行かせてはいけない。友聖は今も苦しくて辛いはず...!
だって、私見てしまったから。
私に背を向ける直前の友聖は――
「行かないで......私のところ、から...いなくならないで...!!」
――泣いていたから...!
「友聖...っ!!」
王女である少女の最期の言葉がその少年に届いたかどうかは、彼女にも分からなかった。
そして彼女は悲しみと絶望の淵で、自分の血と涙でその身を濡らして、その生涯を終えた……。
*間章はこれで終わり。次回から第二部になります。これが一応最終章になります。復讐いっぱいします。
第二部(=最終章)です。
起床。時刻は午前7時。洗面を済ませて制服に着替えてリビングで朝食を摂る。
「.........」
「.........」
2年前からこのクソ母とはロクに会話などしていない。
俺が何度虐めの相談をしても、一緒にどうにかするどころか俺を非難してきやがった。自分が傷つけられてるのは俺に問題があるからだとかで、まともに俺の虐めの件には向き合わない始末だ。
せやから俺はもう親に頼らないことにしている。
そりゃさ?俺も小学校では色々行き過ぎたことしてしまったことあったよ?特に小六の時...あれは傷害事件になるくらいのことをやらかしたけどさ。
だからと言って自分の子どもが実際に怪我した面と体を見せて虐められてるんだって言ってるのに、俺が悪いってのはどうよ?意味分かんねーだろクソが。事実上のネグレクトじゃねーか。
こんな奴を親として慕う気はもう失せている。未だにこうしてこのマンション部屋に住んではいるが、今やルームシェアの同居人も同然、いやそれよりも酷い距離感、他人に近い関係だ。どうせ向こうもそう思ってるんやろうな。ただ義務で俺をここに住まわせているようなもの、そこに家族としての愛情などありはしない。
何も事情を知らない世の親どもは「そんなことはない」「子のことを何とも思わない親などいない」などとほざくんだろうが、だったら実際に俺らの家族の生活を見てみろと言ってやりたい。すぐにでも嫌でも分かるやろうよ、俺が下した評価が正しいってことを。
因みに家族構成は俺と母ともう一人...。俺を見下しているクソ姉、今年で高3の受験生だったか。俺が朝食摂る頃には大体家を出ている。たまにすれ違うこともあるが、俺に対して家族に向けるような目じゃない視線を飛ばして...くることすらしない。
「無関心」...嫌悪とか不仲とか通り越して、もはや俺に対する情は何も感じられない。興味も無し。いない者扱いしている。奴との会話などもちろん皆無。小学生時代では一緒に遊んだ仲だったのが、嘘みたいだ。
まぁ俺自身もあいつについて何も思わなくなった。居なくなれもしくは死んでしまえ、という感情しかもう抱いていない。
以上が俺と俺の家族(笑)との関係性についてだ。どうでもいい下らない回想をしてしまった。
7時50分には俺も家を出る......もはや行きたくもなくなったあのクソッタレなところへ...。
玄関を通る際にリビングを通るのだが、今日はテーブルに千円札が数枚おいてあった......俺の一週間分の昼食代だ。中学はじめのうちは弁当を作っていたが、今となってはもうそういうのは無くなった。
皺が入るくらいにお札を握りしめて鞄に仕舞うと何も言わずに家を出た。
玄関から出る寸前、小さく何か声がした気がしたが、気のせいだと断定してドアを閉めた。
「......いってらっしゃい」
*
予鈴がなる手前に登校。来たくもない場所......盾浦東《たてうらひがし》中学校の正門をくぐる。後ろから顔見知りの男子が追い越していく...同じクラスの奴だった。ソイツは俺を見るとどこか気まずそうな顔をして無言で過ぎ去って行った。
何それ?それは何に対しての気まずさなん?俺の一昨年からずっと続いているこのクソッタレな境遇に対してか?
今までの一度だって俺の助けに応じなかったくせに、何哀れむような目向けてきてんだよ、カス野郎。
下駄箱を開ける......ことはせず、鞄から上履きを取り出して履き替える(登校靴は鞄にしまう)。これに関してはもう習慣と化したことだ。俺は学習する人間やからな。
こんな場所に私物を置いたりなんかしたら確実に盗られるか汚されるか壊されるかの仕打ちを受けることになる。だからここにはいつも何も残さずに家に持ち帰っている。
そのせいで毎日重い鞄を背負った登下校を強いられている。
教室に入る。クラスメイト全員が会話などを中断して俺を見やる。僅か1秒以内の沈黙の後すぐにいつも通りに戻っていく。俺が教室に入る時だけいつもこの儀式めいたリアクションをするのはいったい何なのか。この時点で軽く虐めなんじゃねーかって思うのは俺だけか?なぁおい。
けど...こいつらがやってることが如何に小さくて軽い行為だったのかが、教室に入ってすぐに思い知ることになる。
「......邪魔や、後ろに下がれや」
真ん中の列の後ろから二番目が俺の席になっているのだが、現在椅子が引けず座れない状況になっている。理由は単純、俺の後ろの席の奴が机を俺の椅子にくっつくくらい前に出している。さらには俺の前の席の奴がこれまた椅子を俺の机にくっつくくらい後ろに引いている。これでは俺は着席することが出来ないでいる。
「はぁ?聞こえませーんwwこの鼻くそ野郎www」
俺の抗議に対し俺を侮辱してそう返す低身長の短髪で猿みたいなキモい面しているゴミカス野郎......小西陽介《こにしようすけ》を睨む。それを見た小西が一瞬不快気に顔を歪ませる(こっちはもっと不快なんじゃクソチビが!)が、すぐにキモい笑みを浮かべて前方へ顎をしゃくる。
「座れへんねやったら前に言えや」
振り返れば俺の机に椅子をくっつけて、足を机に乗せながらクラスメイトと談笑している男子生徒...やや坊主頭のニキビ面をしている、これもゴミカス野郎の...清水博樹《しみずひろき》がいる。いや正確には、時々こちらを一瞥しては悪意含む笑みを漏らしてやがる。二人はグルになって俺を辱めているんやとすぐに確信する。
「小西、清水...お前らはそうやって気に入らない俺に嫌がらせをまだするんか?こんなくだらない幼稚じみた嫌がらせをよ...。はよどかせや。座るのに邪魔やっ!」
二人を交互に睨みながら低い声でそう告げるも二人は依然としてキモいニヤニヤ面を浮かべているだけだ。清水に至っては俺の方を見てすらいない。完全に馬鹿にして舐めくさり、俺に悪意ある工作をしてやがる..!
「どけって、言ってるやろォがっっ!!」
ドガっと小西の机を蹴り倒して椅子を下げる。次いで清水の椅子を強く蹴りつけて武力行使手段で席を移動しろと訴える。
こんなやり方は褒められるものではない。俺の立場と俺に対する心象を悪くする要因になりかねない。そんなことは分かっている。
だけど俺には味方と呼べる奴がこの教室には存在しない。担任教師もまだ来ないし、俺自身で解決しなければならない。
そして、俺はこんな乱暴なやり方しか出来ない。口で言っても直さない馬鹿どもには力を行使していいと考えている俺だ。
そんな自分も程度が低い人間だってことは分かっている。だけどこんないたずらに悪意を持った嫌がらせを集団で仕掛けてくるこのクズどもよりかは、はるかにマシなはずや...!
「おい杉山...テメェ陽介に何してるわけ?」
金髪でピアスをしていて服装はカッターシャツを着ておらずカラーシャツだけで下はボンタンズボンを穿いてイキった格好をしている男子生徒が、ガムを噛みながら胸倉を掴んで睨みつけてくる。
「お前こそ、予鈴が鳴ってんのに何でまだよその教室に居るわけ?中村一輝《なかむらかずき》...はよここから消えろや」
「ンだと、この陰キャ野郎の分際が!いつも俺らにボコられてる雑魚がっ!!」
俺の不遜な物言いに逆上した中村が俺を貶しながら拳を振るおうとした時、担任の教師が教室に入ってきた。俺らの状況を目にした中年ババアの教師...江藤《えとう》は「またか...」と言いたげな顔をしながら俺らを注意する。
「中村、早く自分の教室に戻りなさい。杉山も席に着きなさい」
江藤の言葉になおも食い下がろうとする中村をシッシッと追い払う仕草をしてこの険悪だった雰囲気を霧消させた。だが中村は去り際に俺を睨んで何か呟いた。
「...後で締めるからなテメェ」
何の迫力も無い脅し文句を吐き捨てて教室から出て行く中村に俺も内心で悪態を吐く。あんなイキり不良など、一人なら俺の力でどうにでもできるが、ああいう手合いには必ず同じレベルの仲間がいるわけで、今日も俺は徒党を組んだあいつらに勝つことはないんやろうなと嫌な気持ちに苛まれながら席に着く。
後ろから小西が小声で「後で潰したるわ」と言ってくる。このゴミカス野郎も中村同様一人では俺にロクに何も出来ない雑魚だが、他の不良どもとつるんで俺を攻撃しにきやがる最低小物クズだ。今月の席替えしてからずっとこの調子でマジで鬱に陥っている。
前を見ると清水が悪意含んだ笑みを浮かべて俺をチラ見している。コイツも小西ら程ではないが、常に悪意あるちょっかいをかけて俺を辱めてきやがる小悪党のクズだ。
(......休み時間になったら俺はまた...。マジでこのクソ学校辞めたい......)
先のことを思いながら俺は虚ろな目で授業の準備をした......教科書とノートが汚されている。後ろから嘲り含んだ笑い声が聞こえた。
もう何回目か分からない汚された勉強道具を眺めながら、後ろのゴミカス含む全ての生徒《ゴミクズ》どもへの殺意が芽生えさせた。
ドス…ッ「ぐお………っ!」
「オラッ!朝はよくも俺に舐めた態度取りやがったなぁ、杉山のくせに!テメェはまだああやって俺らに反抗する気かよなァ!?クソ陰キャが!!」
昼休み。体育館裏にて俺は中村とその仲間らによって集団暴行を受けている。
参加者は中村と小西、二人と仲が良い前原優《まえはらゆたか》。去年まで眼鏡だったがモテたいとか何かでコンタクトにしたみたいやけど、ただの雰囲気イケメンや。あと香水が臭い。
さらに去年同じクラスだったこともあって俺を酷く敵視して虐めに加わった本山純二《もとやまじゅんじ》。元野球部でその名残か坊主に近い髪型だ。部活を辞めたからか腹はだらしなく出ていてデブ体型だ。
その本山と仲が良く、一年の時に下らない因縁を理由に俺を締めやがった谷里優人《たにさとゆうと》と中林大毅《なかばやしだいき》。二人ともサッカー部で、谷里は筋トレに励んでいたせいで無駄にガタイが良い体型の剃り込みいれた短髪イキり野郎だ。反対に中林は身長は小西より背が少し高い程度でそんなにがっしりはしていない茶髪がかった黒髪の男子生徒だ。
暴行には参加していないが俺のやられようを見世物にして嗤っている見物勢の清水と野球部の青山祐輝《あおやまゆうき》と同じ部の井村遼《いむらりょう》。二人ともくせ毛髪で前者は谷里並みのガタイで後者は運動部のくせにだらしない体型をしている。
時々現れる板敷《いたしき》ななと吉原蒔帆《よしはらしほ》らも今日は参加していて、俺を嘲笑いながら見物している。二人とも茶髪に染めて無駄にスカートを短くしている。
板敷は(認めたくない)が美少女に分類されるルックスで体つきもそこそこだから(認めたくないが)エロく感じるが、吉原は顔はブスやわ丸太みたいな脂肪だらけの脚してるわで、ただ気持ち悪くて不快だ。
今日は運悪く、虐めの主犯格が全員揃って俺を虐げにきた...。
「お前いい加減にしろよ杉山よォ?お前がそうやって生意気に反抗してくるから俺らを怒らせてこんな痛い目と恥ずかしい目に遭ってるんやろが。俺らの下僕になるか学校来るの止めるかどっちかにしろや!
お前みたいなゴミなんか誰も必要としてねーんだよ!ぎゃははははははっ!!」
谷里が俺の頭を踏みつけながら嫌と言う程に俺を貶して侮辱しながら嗤いやがる。谷里の足に爪を立ててに掴みながら反論する。
「お、前らが...学校辞めろや...!人をこんな風に寄ってたかって虐げるような人間のクズのお前らこそ、死ねばええんやっ!!腐ったゴミども――」
「何足掴んでんねん!!クソが痛ぇじゃねーかごらぁ!!」
ガスッッ!「...っつ!」
反論しても反撃しても奴らには大して効かなかった。いつも3~5人以上の徒党を組んで俺を甚振り辱めて理不尽な虐めを強いてくる。人の尊厳をこれ以上ない程に汚しやがる最低のクズどもだ。
それなのにいつまで経ってもコイツらが裁かれることはない。大したお咎めは無し。
それどころか俺まで悪者扱い。小学校時代で起こした件を引き合いに出して俺を危ない人間判定を下して俺を助けようとしやがらない。
進行形で被害をいちばん受けている俺が、現時点では弱者の立場にいる俺が何一つ救われないでいる。加害者どもは今も俺を嗤いながら虐げている。のうのうと生きている...。
「はっはっは!面白っ!俺もう戻るわー」
シャッター音鳴らして俺のやられ様を撮ってから立ち去る見物人どもと主犯格どもが去った後は、ただ惨めな俺が悔しさに地面を殴る光景しか残っていなかった...。
「そろそろ問題として取り上げてくれよ江藤先生!!ホンマは知ってるんやろ?俺があいつらに虐められてるってことを!何で世間に明るみに出さへんのですか!?早くあのクズどもの蛮行を止めてくれよっ!!」
「......私も教頭先生や校長先生に言ったんやけどな?先生らはできれば虐めが明るみに出るのを避けたいゆーてるから、私ら学年の担任でどうにかしようって話になってるんやけどな。
それに前に杉山は私らを君が虐められてる場所に数回連れて来てたけど何も起こらんかったやろ?それもあって中々な...」
「何で...何で俺だけ損してるんや...。担任でさえソレって。世間体を優先にして俺はどうでもええやと...!?ふざけんな...!!」
「......ごめんな。私らが今度彼らを呼んで話するから、もう少しだけ我慢しててな」
もう何度目か分からない教師への説得は、今日も虚しく失敗して終わる...。
学校の同級生と大人どもは当てにならない、俺を助けて救ってはくれないと確信した。
家族も駄目、警察も相手にしてくれない、その他の相談所も論外...。
誰一人として俺の味方になってくれる奴は存在しない...。
当然、俺の心は荒んでいくばかり。こんな世界滅べば良いと、いつも思うようにもなっていった。
勉強の方も底辺まっしぐらとなっている。
井村遼のせいで成績をどうにかする為に入った学習塾を辞めさせられて、成績は落ちる一方だ。
もう発狂してもおかしくない精神状態だ。いや、以前外で実際に発狂して補導されたことあったっけ。
その時に虐めの事情を説明したけどまともに取り合ってくれなかったよな...。
今日も惨めな気持ちのまま下校する。俺を知ってる同級生どもは俺を避けていく。クラスカースト上位を気取ってるイキり不良集団に意見も出来ない、俺以下の弱者どもは、俺に関わると自分にも飛び火がかかることを恐れてか、俺から離れる・関わらないことを選びやがった。中学の最初の頃仲良くしていた奴らも今や他人同然だ...。
「あ、杉山ー。なな喉乾いたからさー。レモンティー買って来てやー」
惨めな気分に浸りながらの帰り途中で、板敷とその仲間ども(今日は全員女子)と遭遇してしまう。第一声がパシリに行けとは、どこまで俺を下に見やがるんやこのクソ女は...!
「嫌に決まってるやろ。虐めに加わってる最低のクズが...!」
「はぁ?なながクズとかあり得へんし!なならは別に杉山をボコってもないのに何で虐めてることになってんのー?ホンマ性格悪いわー!」
仲間に聞こえるように俺の評価を下げる発言をして俺を悪者扱いする。一緒にいる吉原に加え、一緒にいる佐藤や嶋田とかいう女子らも俺を酷いだの最低だのと詰ってくる。鬱陶しいから足早に彼女らから去った。
「中村たちに言ったるからー。杉山に酷いこと言われたってー」
板敷はそうやってあいつらに俺のことを悪く言って虐めを助長させることをいつもしやがる。これも虐め行為と呼ぶべき最低行為だ...!
「クソ女どもが...っ」
俺はただ悪態を吐くことしか出来なかった...。
「なァ、いつになったらこのクソッタレな生活は終わるんや?死んだら終わるんか?死んだら異世界にでも転生させてもらってそこで幸せライフ送れるんかな...?」
帰宅後、自室で俺は誰に向けることなくそう呟いてしまう。
いっそ死んでみようかとも考えた...が踏みとどまる。自殺なんかしてやるもんか。ここで死んだらあいつらに負けたことになる。俺がここで死んでもあいつらは少々の罰を受けるだけで、解放された後はのうのうと生きていくに違いない。あるいはその罰すら免れるかもしれない。俺が死んだって何にも報われない。不名誉の犬死と何ら変わらん...。
では学校を辞めるか?これも自殺と同じ負けを認めることになる。悪いのはあいつらで、あいつらが断罪されて裁かれるべきなんや。あいつらが退学にでもなれば俺が勝つんや。けどその道もほぼ無いやろな...義務教育制度がそれを邪魔するから。
ならどうすれば、この理不尽なスクールライフを終わらせられるのか?これしかない......あいつらをこの世から消す、抹殺や!
あいつらが死ねば俺を虐げる人間は消える。たとえ新しく俺にちょっかいかけてくる奴が出てきても今の加害者ども程ではないやろうから何なと対処できる。
ではどやって殺す...?一軒一軒回ってあいつらの家に火をつけて、出てきたところを刺して殺すか?それをやったとして、警察の目を誤魔化せるか?バレれば少年院もしくは刑務所にぶちこまれてそれで俺の青春は終わることになる...。
けど俺に残された手段は、もうそれしか無い...。味方がいない以上自分で何とかす。即ち...敵を排除すること、これに限られる。殺す、それしかない...!
「そうや、あいつらが悪いんや...。理不尽に虐げてくるあの最低糞蛆カスゴミクズどもが死んだって誰も傷つかへんやろ...。俺は被害者やった。だから殺した。罪は軽いはずや、絶対…っ」
...果たしてそやろか?現状味方がいないこの世の中は、虐めの加害者どもを殺した俺に情状酌量を汲むやろうか?下手すれば俺はもう二度と日を見ることが出来なくなってしまうのでは...?
「......ははは。虐めのせいで、心弱なったんやろうか?それともまだ理性がきちんと働いてるんか?」
だとしたら今ばかりは理性を憎く思う。あいつらを殺したい気持ちは本物やのにいざ実行しようとなると先を恐れて凶器を持つ気が失せてしまう。
「アカン...詰んでるわ自分。何なんやこの人生!どうせえゆうねん!?俺を助けてくれやぁ、神か何かよォ...!!」
己の無力さと心の弱さを嘆きながら俺は布団で唸るように叫んだ。
―――本来ならこのまましばらく慟哭をあげて、やがて虚しくなって漫画か何かを読み始める。それが正規ルートだった......
はずだった。
「――――あ?」
――――カッッッッッ
突然視界が真っ白になった。同時に頭の中まで真っ白になるという錯覚が起こった。
「―――っへ?」
まるで頭の中が、何かに取り憑かれたような感覚だ。
俺はしばらく奇声を上げた後、意識を失ってしまった......。
『杉山友聖ジュウゴ才ニ35才ノ時ノ同一人物ノ全テヲ“引継ギ”完了致シマシタ。』
『アップデート終了致シマシタ。コレデ“引継ギ”作業ヲ終了シマス―――』
―――ブツン...ッ
「~~~~~っぁぁああああああああア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!?!?」
意識が戻ると同時に頭が割れるような激痛が俺を襲った。身体的な痛みなど何十年ぶりやろうか。しかもこんな激痛がくるとは。
今俺を襲っているこの激痛の正体は、この時代で生きている俺自身に関する記憶と情報の膨大な量の奔流によるものだ。ただの楽しい・嬉しい・幸せな感情を含んだ記憶ならまだ良かった。だがこの時代の俺の記憶はそんな温いものじゃなかった。
たくさんの怒りと苦しみ、数えきれないくらい味わった悔恨と辛酸、身を焦がす程の憎悪と殺意などの暗い負の感情が、激しい波のように一気に俺の脳内に流れ込んできた。
あまりの量と激しさで、脳の回線が焼き切れるかの様な拷問がしばらく続く。ついには体が耐えきれず、俺は目覚めて早々に気絶してしまった...。
「―――!ここ、は......?」
目を開けるとそこは赤黒い景色が広がる謎の場所だった。ここが現実の世界ではないとすぐに分かった。ここは......夢の中か何かだろうか。
「自分の記憶の中...精神世界とかか?じゃあ現実の俺は...今気絶中ってわけか...」
そう勝手に納得した俺は、この殺伐とした世界を歩き回る。どこまで行っても赤黒い色の景色が続き、さっき流れてきた最悪な記憶を思い出させられる。
「あの頃から俺の色は...こんなんやったんか。まぁ確かにそうやったよなぁ...完全に荒んでたし」
自嘲していると景色がぐにゃりとしたかと思うと、いくつものモニターが現れる。そこには中学生だった自分が虐げられている様子が映し出されていた。ほとんどが虐げられている時のものばかりで、楽しかった思い出など全く映されていなかった(せいぜいアニメや漫画、ゲームに現を抜かしていた時だけが俺の楽しい思い出やったわ)。
「あの三年間で救いの手が伸ばされたことは結局一度もなかった...。“何とかする”っつって言葉だけの連中もいれば、そもそも相手にしようともしなかった連中もいて、しまいには虐め自体を捻じ曲げて隠そうとした連中しかおらへんかった...。あの学校を含めて、この国は、この世は救いようがないくらいに汚れきってしまっているんだなと、15才だった俺は世の中に見切りをつけるようになったんだ」
谷里が俺を締めている場面が映っている。
中村が嬉々として俺を甚振る。
本山が俺の私物を汚している、前原も一緒にだ。
板敷と吉原が俺をパシらせようとしている。で、それを断ったら俺のことを悪く喧伝して虐めを助長させていく...。
中林が狡猾に甚振りやがる。
教師陣から虐めが完全にバレないように調整してやがる。
小西と清水と青山と井村などが俺を嗤っている。俺の不幸が面白く愉快でたまらないといった様子で楽しそうに汚い面でゲラゲラ嗤ってやがる...。
それらの様子が多数のモニター画面で再生されている。
「......鮮明に憶えてる...昨日のこと同然に覚えてる...。そうや、今日も俺はあいつら全員に虐げられて、教師らも全くあてにならん。俺は無様に地面に伏しているだけやったんや...」
モニターをしばらく観たことで俺の体感と記憶が完全に中学生だった俺のとシンクロして一体化した。昨日はああだった、先週は下級生のイキりどもにも見物させてたなあいつら、先月は奥歯が抜けたんだっけ...。その前は、その前の前は.........。
少し前までの俺にとっては数十年前の出来事だったのが、完全に虐められていたあの時のことが昨日・一昨日のこととして捉えている自分がいる。
どれも耐えがたい恥辱と屈辱と悔しさと憎悪に塗れた出来事だった。あいつらは絶対に赦してはいけない...この3年間で受けた苦痛と屈辱全てを、何倍もの地獄にして返さねーとダメだ。
「正規ルートでは結局報われずに中学を終えて高校でも苦しむことになったが、今回からはそうは行かねぇ...!
安心しろよ“あの時の俺”…。 “これからの俺”はこれからあいつらに復讐できるんや。これで俺は解放される、救われるんや!俺を救ってくれるのは俺しかおらん。これが結論や」
けど結局、誰もがそうなんやろうな。他人なんかはそのきっかけに過ぎへんねや。ま俺の場合は、きっかけすらも自分自身やったんやけどな。
「お前ら......今のうちにそうやってへらへら笑ってのうのうとスクールライフ送ってろよ?俺が次に学校に来た時には......お前らを地獄に突き落としたるからなァ!!」
モニターを見ながら俺は強い口調でそう宣言した。今度はお前らが地に這って、無様に甚振られて、情けなく泣いて喚いていることになる...。そう思うと自然に笑いがこみ上げてくる。
しばらく笑っていると、景色の色が綺麗な赤色に変化していく。まるで鮮やかに燃ゆる炎のようで、見惚れるくらいに綺麗な色をしていた。これから起きることに対する祝福かのように思えた。
「さって...そろそろ目覚める時間になってきたか?楽しみや!この復讐は間違いなく俺の心を完全に満たしてくれる!当時のあいつらに復讐するとか最高過ぎる!さぁ...始めようっ!!」
カッと眩しい光が世界を包み、俺と世界は溶けるように消えていった――。
*
「―――」(ぱち...)
最初に目に映ったものは、真っ白な天井だった。知らないところだ。次いでピッ...ピッ...と、機械音が聞こえてきてきて、目を向けるとドラマとかでよく見る心拍数?を測る機械があった。
「......病院」
俺は病院に運ばれてここで寝かされてたってわけか。気絶した俺を発見した母が通報してここに運んだゆーわけやな。
長めの欠伸をして体を伸ばしているとガラリと戸を開ける音がして、見ると看護師だった。
「あ...!杉山君目が覚めたんですね!?ちょっとお医者さん呼んできますからっ」
目が覚めた俺を見るなり慌てて踵を返して部屋を出て行くのを見ながら俺は思案する。今すぐ出て行くのも良いが、ここは医師からある程度情報を聞き出す方が良いかもな。それに試したいこともあるし。
数分後、初老の医師がやって来ておはようと声をかけてくる。
「目が覚めて何よりや。身体的に目立つ傷が無くて、内臓や脳にも異常がなかったものやったから何が原因で昏睡していたのかが分からんくてお手上げやったんやけどな......ってああスマン。杉山君、調子はどうや?」
「ああ......頗る元気で、良い気分です。すぐにでも運動できるくらい調子良いですよ」
ニヤリと笑みを浮かべてそう答える俺を、医師は穏やかに諫める。
「元気なのは何よりや。肝心なこと聞き忘れてたけど、自分のこと分かるか?」
「はい...。ところで今日って何日ですか?――」
ある程度の質問をして、それら全部答えてもらったことで、現在の状況を大体分かることができた。
今の「俺」になる前の自分が気絶してから三日が経っていて、今日は土曜日だ。学校は少なくとも二日欠席していたことになる。次に登校する日は明後日だ。年月については俺の記憶を見たことで分かっている。
俺は中学3年の15才で、今月は10月だ。
いくつか問答をした後、退院したいと言ってみたが首を横に振られる。なので――
「一応検査とかしなあかんから今日一日はここで安静にし――」
「 “いえ大丈夫なんで。今すぐ俺を退院させて下さい”」
医師と看護師を凝視して、二度目の人生でよく使っていた催眠魔術を発動してみる。
「.........せやな。何も問題無いようやし。この後退院手続きを――」
「“もう手続きも終わったんで、帰らせてもらうで?”」
「.........ああそうやった。もう終わったんや。じゃあ、気ぃつけて帰りや」
実験は成功。以前と同じ、催眠術が使えているってことは“引継ぎ”は成功している!体内で力を込めると魔力も感じられることから、魔力と魔術ともにしっかり宿しているし使えもするようだ!
“この病院内に勤めている人間全員、俺に関すること全ての記憶が消える”
パンッと手を鳴らして俺がここで入院されたことはなかったことに書き換えて病院を出た。ここは河内総合病院。ここから自宅まで歩くと40分はかかる距離だ。
試したいことはまだある...身体能力検査だ。
人払い結界を大きめに張って誰もいなくなってから運動を始める。まずはダッシュ......した瞬間、もの凄いスピードが出てそのまま建物に勢いよく突っ込んだ!壁に思い切り激突したにも関わらず体には傷一つついていない。砕けた壁の大きめの厚い破片を握ると砂粒状に砕けた。
結果、スピード・耐久性・筋力全てが引き継がれていることが判明。
「強くてニューゲーム」に成功したことを理解したぜ...!
さらに手を空に掲げて、炎、風、水、雷など様々な属性の魔術を放ってみた。全て以前と同じ出力だった。これも問題無し。
「完全に二度目の人生で死ぬ前の時と同じスペックや!違うのは顔と身長と体重...この体の器くらいか。それ以外は全て引き継がれてる!大成功や。俺はあの力を持ったままこの時代にやって来れたぞっ!!」
両手を上げて快哉を上げる。中学生になってから久々に笑顔になった気がする。
「そういえば、今の俺は......二度目の人生の俺の人格が中学生の俺を完全に乗っ取ってる状態なんか、この時代通りの俺なんか、どっちなんやろ...?」
生前の俺か、15才当時の俺か。まぁどっちも俺だ。俺は俺や。どっちでも良い。意思は同じ、意志も同じなら問題無いやろ。
試運転を終えて俺は瞬間移動で自宅へ戻った。夜時間になっているから中には二人とも在宅している。インターホンを押して母を呼んで開けてもらう。俺を見た母が驚いた顔をして俺に質問をする。
「いきなり倒れてビックリしたけど...もう体は平気なん?」
「ああ平気や。騒がせてしまったみたいでごめんやで」
感情の無い声でそう返してズカズカと玄関に入り自室へ籠った。医師から聞いたが、俺が入院した以降、一度も家族は訪れなかったそうだ。分かってはいたがここまで無関心だったとは笑えるわホンマ。
お陰で何の躊躇いなく「実行」できるわ...。
「決行日は明後日か。明日は復讐のプラン編成と魔術の試し撃ちをやろうか。身長が縮んだ分、筋力は少し衰えているからそんなにデバフをかけないで良いかもな。どれくらいの加減が丁度良くあいつらを長く甚振れるかの調整と、どうすればあいつらにいっぱい地獄を見せられるかのプラン練りを早速するかぁ、くくく...」
異世界で復讐の準備をしていた頃のワクワク感を滾らせながら俺は準備に取りかかった。
日曜日は予定通り丸一日復讐の準備活動にいそしんだ。
その一方で、俺が死ぬほど嫌っている行為…路上喫煙をしていたゴミクズどもの「粛清」を、ノリノリで行ったりもした。やり直し人生初めての粛清…殺人だ!
「「「っぎゃあああああ”あ”あ”あ”あ”っ!?」」」
「るせーんだよこのクズどもが。ヤニカス行為だけじゃなく騒音も起こすつもりか?クソゴミが」
路上喫煙していたヤニカスどもを実験台にして色々試し撃ちを実行した。
標的は三人。一人は50代くらいのサングラスかけたオッサン。一人は短髪で眼鏡をかけた30代の小太り男。一人は同じく眼鏡をかけた白髪頭の60代老人。どれも面識は無いのだが、こいつらの顔を見ると何故だかもの凄く苛つく、殺したい衝動に駆られる。前世で会ったことがあり、こいつらに不快なことをさせられたのかもしれない。だったらこれは復讐にもなる。存分に地獄の苦痛を与えてから殺そう。
さてまずは実験だ。どれくらいの濃度の酸が丁度良いか、どれくらいの圧力と重力で丁度良く苦しめられるか、どれくらいの強度の闇魔術がより長くあいつらに地獄を体験させられるか等々...このヤニカス三人を使ってしっかり調節してみた。
「お、お”れだぢが、何じだっでんや!?だのむ”やめでぐれっ!!し、死ぬ...っ!!」
「臭い口で言葉を発するな、この世の害悪が。喋れる元気がある以上はまだ大丈夫そうやな。なら少し強度上げて続けてみよか...ほいっ」
「~~~~ヂオfんれ得GpgrpFvbkdfdふぃづ...!!」
慈悲をかけることなく、泣き叫ぶヤニカスどもをたっぷり拷問して実験をした。途中から実験のことを忘れて、復讐をただ楽しんでいた。
ゴッ「ぐげぁ!」ガスッ「っべぇ!」ドガッ「や、べで………!」
小太りの眼鏡男をぶん殴って地面に這いつくばらせたのち、その顔面に拳と蹴りをさらに打ち付けまくる。泣き叫ぼうが無慈悲に、楽しみながら暴力を続けた。
ゴン!×3「……っ!!」ドギャ!「ご…………ぇ」
サングラスのオッサンの全身をオリハルコン製のバッドで滅多打ちにする。一振りごとに骨が砕ける音がした。頭を殴ると即死するのでそれ以外の部位を殴りまくった。途中うっかり睾丸をぐちゃりと潰したがギリギリ死ななかった。面白いくらい顔を歪めて絶叫してたので爆笑した。
グサドスザク!「いぎあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!痛いいだいいだ――――ッ!!」
白髪頭の老人には痛覚を倍増させてから食器のナイフとフォークで全身を刺しまくった。刺す度に断末魔の叫びを上げるその声は汚くて耳障りだった。喫煙なんてするからそんな汚い声になるんや……なんてな。
最後はヤニカス三人を汚い花火に変えて跡形も残らず消去してやった。
「いずれはこの世界でもお前らみたいなクソゴミクズどもを皆殺しにしてやるからな―――」
夜は部屋で明日のプランをずっと練っていた。あーでもないこうすべきかとしっかり考えて、悪魔をも震え上がらせるような地獄コースを練った!
そして夜が明け、最高な日になるであろう月曜日は訪れる――
「そうだ。まずはあいつらからにしようか」
虐めの主犯連中の前に、復讐って程じゃないがどうしても「落とし前」をつけないといけない奴らがいるので、まずはそこから始めることにした...
「お前らは俺なんか家族とも思ってへんのやろ?無関心だけかと思えば俺を内心見下して蔑んでいるクソ姉。俺が虐められているというのにロクに対応しようとしなかったクソ母。お前らなんかもう家族じゃねーよ。俺に無関心でいるなら、その感情もう要らんやろ、なァ」
「ぐ、ぅ...!?」
「ゆ、う、せい...!?」
クソ母とクソ姉を、壁にめり込むくらいに押し付けて拘束して締め上げる。死なないレベルでミシミシと音を立てて締め付けながら俺は自ら家族の縁を切ることを二人に宣言する。同時に二人からある物を奪うことも告げる。
「何、何なん...!?ごほっ、苦し...ッ」
「友聖、止めてっ!どうして家族に、こんな...酷いこと、を...!?」
「か、そ、くぅ??どの口がそう言ってんだよ?俺は今までずっと苦しんでいたのに親のお前は何一つ俺を気に掛けることをせずに、それどころか俺が悪いだのと突き放して、助けることはしなかった!
お前なんか親じゃねぇ!!今日から赤の他人や。同時に、お前らから人としての感情を全部消したるわ...。
我が子や弟にさえ感心を持たないようなお前らには、感情なんか必要無いやろ?身内を見捨てるような血も涙もないクズには無感情がお似合いやっ!!」
俺の顔を見た母は、俺が本気だと分かったのだろう。必死に俺に制止の声をかける。
「友聖!あなたがそんなに思いつめていたなんて...!私が間違ってた!お願い!これからはちゃんと友聖と向き合うって約束するから!だから家族の私たちをこんな目に遭わすのは止めてっ!!」
「ゆう、せい...!早く、ほどい、て...!!」
「あなたの母親を、あなたの姉をこんな目に遭わすように育てた覚えはないよ!?止めて、目を覚まして!!お互いきちんと向き合って――」
「お前らが、今の俺にしたんやろーが。何が家族や......“消えろ”」
そして俺は無慈悲に二人の中身を消してやった。心と感情を無に書き換えて、感情が無い蛇のような人格に作り替えた。
「俺にはお前らから優しくされたこととか、愛情を向けてくれたこととかの経験と記憶がもう無いんやわ。何も思い出されへん。せやからお前らを蛇みたいに変えることに何の躊躇もなかったわ。家族って言っても所詮は他・人・や...。我が子を自分のことのように想う親なんて全然存在せえへんのやろうな...。じゃあな、最低のクソ家族ども」
未練も後悔も感じてはいなかった。俺は正しいことをした。もう迷いは無い。
前座は終わった。いよいよ本番だ...!!
感情を失った母と姉は、俺を素通りしてそれぞれ仕事と学校へ行く仕度をして家を出て行った。
俺とあの二人には、もう本当の意味で何も無くなった。二人の中には無しか広がっていない。何も感じないし何も思わない。
ただこれまで通りの生活を無感情でするだけの存在となった。クソ母はこれまで通り、俺に食事と学費を提供して、仕事へ向かう。クソ姉もただ学校に通って勉強しるだけのマシーンと化した。
冷蔵庫を適当に漁って朝食を摂り、昼食代を財布に入れて準備を整えたところで、俺も家を出る。
空は雲一つない青空。俺にとって幸せな何かが訪れる吉兆すら感じられる。お天道様もこれから俺がやろうとしていることに対するエールを送ってくれてるのかも……なーんて。
いつ以来や...通学路でこんなに明るい気分になったのは。
足取りは軽く、顔色も良好。いつもは予鈴ギリギリの時間で登校していたのが、今日はその十分も早く登校していた。
教室へ入るといつものようにクラスの連中が俺を見やる...が、いつもよりもリアクションが大きかった。あれだけ長い間酷い虐めに遭っていたことと三日休んだことで、俺がついに不登校にでもなったんだと思ってたのか。揃いも揃って面白い面してやがる...。
俺は自分の席に向かって、足を止めてしまう。自分の机の上には、花瓶が置かれていた。今にも枯れ落ちそうな一本の萎びた花だけ挿されている花瓶だ。
これがどういう意味なのかは、俺にも分かる。度が過ぎた侮辱行為であることくらい。
(ハッ...。随分ベタな嫌がらせをしてきたな。これ明日以降もずっと、置いたままになってるんやろーな...)
無表情で花を手にしたその時、前と後ろから失笑が漏れる音を拾う。前は清水、後ろは小西やったな確か...。取りあえず後ろを振り返り、案の定悪意含んだキモい笑みを浮かべている小西に目を向ける。
「何やねん、チ〇デカ鼻くそマンw てっきりもう学校来んくなったんやと思ってたわ!自殺でもしてこの世からもいなくなったんやと思ったからさー、優しい俺がお前の机に花供えといたんやけどなー?
何やふつーに登校して来たわ!ぷははっ!」
「.........」
「ああけどその花やけどな、それちゃんとした花やないから。道端で拾ったものやから。誰がお前なんかの為にガチなやつ買うかよ、ボ~~ケぇ!ww」
ぎゃはははと声を上げて俺を嘲笑う小西に釣られ、清水を始めとするクラスのカースト上位(=イキりども)の連中も、嘲り含んだ笑い声を上げる。
今一緒になって嗤いやがった連中を確認していく。ガチで嗤ってるクズが5人くらい。小西たちに強制されて嗤ってるモブカスが十数人、関わるまいと無関心を装ってるモブが半数ってところか。
誰一人として小西らの虐め行為を咎めようとする奴はいない。
度が過ぎてるな...もう我慢ならんわこれ。
もう、ここで良いか...。
始めよう―――
「......せっかく、昼休みまで待ってやろうって思ってたけど。もうええわ。お前らがそのつもりやゆーんなら、ここで始めることに決めたわ」
「はぁ?何を始めるってー?鼻く―――」
スパ......ッ
「お前らと、この学校全て対する、復讐《処刑》をや――」
「............え??」
「「「「「............っ!?」」」」」
小西を含むクラスの連中全員が、俺を見て絶句していた。全員、俺が素手で真っ二つにした机を凝視している。
「あーあ!なぁ小西。俺を虐めていたお前を含む主犯連中だけを、いつものあの場所で復讐して殺そうって考えてたんやけど……。
朝からこんなモン見せつけたり、俺を皆の前で侮辱して嗤いやがるもんやから、俺もつい気が変わってもうたわ...」
「は......は...?」
「あとお前らも...。そうやって小西どもに合わせて俺を嗤いやがる...。虐めを止めようとせず無視するどころか、一緒んなって俺を嗤いやがる...。
お前らにも、容赦も情けをかける余地は無しでええゆーわけやな?そうなんやろ、なァ?」
「お、おい...」
「あーあ、ホンマに気が変わったわ!もう始めたるわ!たった今オモロいこと思いついたし、そっちの方がオモロそうやろうし、早速始めたるわっ!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ......ッ!!
復讐計画を若干変更することにした俺は、この学校そのものを地盤ごと浮かび上がらせた!
まるで天空の城のように、校舎を空に浮かばせていく。建物全体に迷彩処置を施しているから、外からは見えていない。外の連中からはいつも通りの中学校が見えてることになっている。こういった便利な魔術とスキルも相変わらずだな!
「わあああああ!?教室が...いや、学校自体が浮いてるぅ!?」
「なんやなんやなんやぁ!?何がどうなって...!!」
非現実的な現象を目にしてパニックを起こす有象無象どもを無視して、俺は舞台を用意する。一瞬で体育館に移動して邪魔な物を消してスペースをいっぱい確保しておく。
さらに俺が在籍している三年五組の教室だけを校舎から切り離して体育館の隣に設置させる。今回の復讐回の主役は、前回殺して回った虐め主犯の連中と、俺のクラスの奴ら全員や...!VIPを丁重に扱うのは当たり前だよなぁ?
「お前らはそこでこれから始まる地獄を見てろ。お前らは最後に全員...ぶち殺すから......二人だけ、先に殺すけどな」
混乱している三年五組の連中にそう予告して教室を閉鎖して監獄化させた。そして舞台の準備が整ったところで、俺は校舎全体に渡って声を届かせる。
『盾浦東中学校に在籍している生徒および同様の教師どもに告ぐー!ただいまより俺、杉山友聖による特別全校集会を行います。速やかに体育館に、 “集まりやがれ”』
連絡を終えて数分後、規則正しい動きと順番で生徒と教師どもが険しく、苦しそうな顔をして体育館に入ってくる。全員どこか足取りがおかしい。まるで無理矢理動かされているかのような動作となっている。まぁ俺が魔術で強制的にここに連れて来るように細工しておいたんやけどな!
ここに集まったのは登校している生徒と教師だけではない。
「「「「「うわあああああああああっ!?」」」」」
体育館の窓から私服や寝間着姿の中学生どもが入場(?)して来て無理矢理座らせる。
“この学校に在籍している生徒と教師は全員集合”って言うたから、今日欠席している奴らももちろんここに参加しないとアカンよなぁ?
訳も分からないまま空飛ばされて無理矢理学校に来させられたもんやから、今来た奴ら全員が酷く狼狽している。好きなだけ騒いどけ、退出は許さんけどな。
お、窓から入ってきた奴の中に前原や他のイキり不良どもも入ってきた。遅刻かサボりの連中やろな。あいつらだけは絶対に逃がさねー。お前らを残酷に殺す為に開いたショーなんやからな!
「ちくしょー!外に出られねー!!扉開いてるのに何で出られへんねん!?」
「何やねんコレ!何で勝手に体育館に移動したんや!?」
「誰がこんなわけ分からんことを!?何とかしてくれっ!!」
あちこちから困惑と怒りの声が上がって騒いでいるのを眺めながら、自動に数をカウントする機械を出してここにいる数を確認する。全生徒と全教師を合わせた数になっていれば全員集合なんやけど......おっ、もう揃ってたか!
ほな......始めますか!最高の復讐回を...!!
ドン!と館内全域に響くくらいの音が出る程に地面を強く踏み鳴らして、同時に上に向かって銃を発砲する。
突然の大きな音に騒いでいた連中が全員音がした方へ...俺の方に目を向ける。
『―――お待たせしましたー!!全員揃ったところで始めましょうかぁ!!
お前ら全員と、この学校全ての処刑をっ!!!』