また......知らない地にワープされた。
さっきよりも深い林。林というよりも森と言っていい。開拓されてる場所は一切無く、潮の匂いがする......まさか無人島!?
検索するとどうやらその通りで、南にある無人島だ。今度は随分遠くに飛ばされてしまった。
で、俺をこんなところに連れてきた諸悪の根源は......、
「いつまでくっついてんねん。はよ放せや」
「だめ、絶対に離さない。もう離してあげない...!」
ワープが終わった後もずっと俺にしがみついたまま離れようとしない。光の輪のようなもので二人密着させた状態で拘束していて、その中からリリナは俺の腰に腕を回してしがみついている状態だ。
強く、力強く...何があっても離さないといった様子でだ。マジで鬱陶しい。
「友聖...もういいでしょう?いえ、もう止めてちょうだい。これ以上こんな悲しい罪を積み重ねないで」
「はぁ?言ったよな、俺はお前らのことなんかもう知るかって。どう思おうが何を言われようが...死すらも何の躊躇いも無くなったって。お前らからどれだけ失望とか裏切られた感とか向けられても俺には何も感じねー。
俺にとってそんな奴はもういねー。そもそも最初からそんな奴はいねーんだったっけな?ああそうや、俺を大切にしてくれる奴なんかこの世には一人もいねー!
俺には 何も無い 何も無かった人生だった!!!」
リリナにしがみつかれたままの俺は、また...堰が切れたかのように心のままに言葉を散らしていく。散らしてしまっている......
「金も学歴も青春も、尊厳も名誉も居場所も温かみも、
愛さえも!!何も持ってなかった!何もかも零れ落ちて、腐って失って、消えて無くなっちまった!
何も無い、何も持ってねぇ.........、
俺には 《《大切な奴は》》 《《一人もいない》》っ!!!」
「......っ!!」
俺の最後の一言に、リリナはこれ以上ないくらいにビクリと身を震わせる。
「俺に残ってるのは、他人に対する嫌悪と憎悪、そして自分の快に対するどす黒い欲望だけや!!!」
そう叫でから、リリナを振り解くべく、自分の魔力を熾して光の輪っかにぶつける
「あづあ”っ...!くそっ、輪っかが消えねぇ...!邪魔やねんこの害物がああああああああああ!!!」
標的と密着している為、自身の魔力に俺も焼かれて肌が爛れる。これ以上強く熾すと俺もただでは済まねー。けど光の輪はまだ健在。鬱陶しい...!
「解け、解けや...!くそ、どいつもこいつも俺の平穏を侵しやがって...!!
今まで散々苦汁を舐めさせられ、理不尽と無常に涙を流されて、残酷で不遇過ぎる運命に弄ばれたまま一度目の人生を終えてしまった俺やから...!!空虚で世界の理不尽に苛まれ続けてきた俺なんやから、これくらいの事したって許されるはずや!!!今までが理不尽過ぎた分、好き勝手やらせろや!!!
お前らが理不尽して俺だけ理不尽が許されへんとか認められるかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
激昂し激怒し憤怒し激しく憎む俺は、発狂して叫んで、魔力を最大限まで熾す。光の輪っかは溶けて無くなり、俺とリリナも俺の魔力で体に大火傷を負う。
「ぐああぁ!!」
「っうぐ......っ」
背中が焼き爛れて腕が炭になりかけている俺はどうにか意識を保って...剣でリリナの腹を突き刺した...!
「ぁ.........こふっ」
「あ”、はぁ...!お前邪魔するならもう死ねや。要らねーんだよお前なんか。目障りや。早よ死ね」
盛大に吐血するリリナを俺は嘲笑う。そういえば前にもこんな場面があった気がスる......あレ?いつダ...?
まぁイいヤ......モウドウデモイイヤ......。
「友聖......」
ソレヨリモ、サッサト コノ女ニ 止メヲ 刺スゾ......
「そん、な......」
コイツヲブチ殺シテ、コノ国ヲ......世界ヲブッ壊シテ―――
「 そんな悲しいこと 言わないで 」
―――ギチィ......!!
アレ......?マタ動ケナクナッテル...。マタ、アノウゼー輪ッカガ、俺ヲ邪魔シテヤガル...!!
「ウオオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”......っ!!!」
「自分に大切な人がいないなんて......人を嫌って憎むことしかできないなんて......そんな、悲しくて寂しいこと、言わないで...!」
コノオンナガ ナニカイッテイル
「どんな人間にも、その人を想う人は必ずいるわ...!友聖もその、一人!だって――」
ウソヤ、ソンナモン!!オレニハモウダレモ―――
「 私が 友聖のことこんなにも好いていて 友聖のこと愛してるのだから!!! 」
―――。
――――。
―――――。
「――――――は......?」
思考が、意識が戻ってきた感じ。
同時に背中と腕の激痛が襲い、光の輪っかに再び拘束されてることを認知する。目の前には血を吐きながらも......優しい目を俺に向けて微笑んでいるリリナがいる。
腹に剣が刺さった状態で自分ごとまた俺を捕まえて、密着させている。ふくよかな胸を俺の腹に押し付けて、頭を俺の胸において、上目遣いで俺を見るリリナに......俺は不覚にも動揺する。
「お前は......この期に及んでまだ自分が俺の味方やと、ほざくんか?」
「そうよ」
「ここまで俺を追いこんで...殺すと明言しておきながら、まだ味方のつもりと?」
「そうよ」
「好きやと?」
「好き」
「愛してると??」
「愛してる...!」
俺の問いに全て肯定を示して、俺の胸部に触れる。妙な感覚がしてむず痒い。何故か...背中や腕の火傷よりも痛く感じた...。
「異世界で勇者やってた頃......まだこの世に幻想を抱いてた頃の俺は、お前だけが俺にとって最後の居場所やと思ってた。お前やからこそ、最後に賭ける価値があったと考えてた。
せやけどそれは儚く馬鹿げた夢やった。思い上がった考えやった...。お前に冷たく突き放されて、そう勘違いしたことで俺は壊れて、全て壊そうって決めて...」
そこで言葉を途切れさせ、声を詰まらせる。リリナが続けて?と言わんばかりに胸を撫でてくる。
「......分かっとったわ。お前がここで色々事情を説明してから。ほんまは本気で俺を突き放してはなかったって。じゃなきゃ転生してまでこんなところへ来れるかって。心の底では分かってた...!
けど同時に憎んだ。最初からあの優しい言葉で迎えて欲しかったって...。サプライズとかそんな飾りは要らんから、俺に優しくしてくれって、思ってたんや...。
けどお前はそんな俺に対して嘘の拒絶を突きつけた...。せやから憎んだ。何で最初から優しくしてくれへんかったんやって...!お前さえからも突き放されたと思って俺は......こうなったんや...!!」
感情が乱れて色々叫ぶ俺を、リリナは血を吐きながらも俺を撫で続ける。
「うんそうだよね...。私は間違ったことをしてしまった。さっきも言ったけど......軽率だったってずっと悔やんでいたわ。
だから決めたの......もう間違えないって。自分の気持ちのままに、友聖と接するって...!」
リリナの言葉に俺は眉をひそめる。コイツは何が言いたいんや...?
「友聖」
リリナは俺を真っすぐ見つめて―――
「あなたを涅槃にも地獄にも逝かせはしない。私と一緒に、二人だけの、二人が生きられる世界へ逝きましょう―――」