「化け物......に、なってしまったのね」
リリナは顔を悲痛に歪ませながら、俺にそう言った。
「友聖...あなたの行動をもう言葉で止めさせるのは、もう無理なのね...」
「ンなもん最初から分かったんやろお前は。俺の心はとっくに腐りきって壊れた。もう誰も信用できひんつって、手遅れや分かってても心を鎖《とざ》しもした。
そして俺は選んだんや、世界の全てに対して復讐するって。自分以外は全てゴミクズやと認識して、俺の害となる連中全てをこの世から消してやって、俺にとって住み心地の良い世界に変えてやるって」
ええか?とリリナに向き合って俺は改めて俺の行動理念を説く。
「簡単な話、俺は自分に正直になっただけや。自分の快に従って動いてる。二度目の人生でお前らに良いように利用されて何の礼も無く突き放されて孤立させられたことで、お前らからそう教えられたんやで?下手に出てばかりやとただ自分を無為に削るだけやって。
なら俺の思うままに何もかも滅ぼして俺色に染めてやればええんやって、俺はそう学んだし、それが俺にとって正しいことやと確信もしてる!!他人なんかどうでもよかった!!
リリナ、お前に突き放されたことでそう教えてもらったんやっ!!」
「違う...違う!!私のあの突き放しは本音じゃなく演技で...!私が友をちゃんと分かってあげられなかったせいで、あんな愚かなことをしてしまったからで。心から友聖を捨てようなんて思ってない!!
お願い信じて...!私はあなたを都合の良い道具だとか思ってないって…っ」
「ああ今なら信じられるよ?お前が俺にああいう接し方をしたんは、お前の低脳な思慮のせいやってことも。最初から、心からの“ありがとう”の声と一生一人遊んで暮らせる分の報酬だけでもポイってくれてたらこんなことにならんかったのにな!!こうなったのはお前や他の異世界の連中の馬鹿な行いのせいや!!!」
俺がこうなったのはリリナたちのせいだと声高にして叫ぶ。こじつけや責任転嫁甚だしい主張に過ぎない。
けど事実やろ。はじめから相応の報酬を寄越しさえしてれば後でどれだけ冷たくされようがどうでもいい。今後は二度と関わらなきゃええだけなんやし。
だが払うべき恩をロクに払わずに理不尽に追い出したもんやから、俺はあんなにぶち切れたんや。
俺はいくらでも異世界のせいやって叫ぶで。悪いんは全部あのクソッタレな王や貴族ども、そしてリリナクソ王女なんやからな!!
「それは......確かに私のせい。私の思慮や配慮が浅かったせいで、何も考えずに友聖を深く深く傷つけてしまった...!
化け物って言ったけど、友聖をそうさせてしまったのは、私と私の国の人々のせいでもあるって思ってる。悔やんでも悔やみきれない!
本当にごめんなさい!!あなたの心をちゃんと分かってあげられなかった私が憎く思うくらいに後悔してるわ。今もそう。私が女神に転生したのは、友聖にそのことを伝えたかったという理由の方が強かったから」
かなり無茶苦茶言ってる俺に対し、それでもリリナは頭を下げて本気の謝罪をする。嘘をついて傷つけたことを本気で悔い、生まれ変わってまでして俺にそのことを謝りに来た。これほど律義な奴はいるまい。
「サタンを狩る為だけじゃなく、俺に“あの時はあんなことしてごめんなさい”を言うという私用の為にわざわざ女神に転生したくらいやもんな?お前のその謝罪と真意だけは取りあえず受け入れたるわ。かといってお前を赦すなんてことはならへんけどな。
それに、お前の真意を知ったことで、お前に対する憎悪が余計膨らんだわ...。
だってそやろ?ホンマに最初からサプライズとか下らん小細工を考えずに気持ちを素直に伝えてればよかっただけやのに。お前ときたら...。壊れかけてたこの俺に、よりにもよって冷たく突き放すって...。
人の気持ちを考えない身勝手な糞女がお前や!結局はお前も学校のあいつらと同じ!俺を虐げる存在に変わりないんや!!」
ビクリとリリナは肩を震わせて、下げていた頭を上げて反論する。
「虐げるなんて...!私が友聖をそんなことするわけない!したいなんて考えたことなんて一度も無いわ!!私は...私は、友聖に喜んで欲しくて、友聖を支えてあげたいって思って...!やり方は間違ってたのは認める......でもね友聖、これだけは分かって!?
私は友聖のことを本気で考えて、想って行動してたってこと!!この気持ちに嘘は無いわ!!」
涙を滲ませて悲痛に叫ぶ奴からは、嘘は見えなかった。見えなかった...それだけや。ほんまかどうかまでは知らん。知る必要も今やもう無いけどな。どうでもいい。
「俺のこと考えて俺を想ってたって、それが本気の本気なんやったら...何で俺の心が分からへんかったん?なァ、お前は...お前だけは......あの異世界の中ではお前だけが俺を分かってたんやろ?
じゃあさ...お前あの時はさァ?俺に対してどういう行動をとるのが最適なんか、分からへんかったん?俺がどんなことされたら嫌がって傷ついて壊れてしまうのかって、ほんまは何も考えてへんかったんとちゃうんか?
何が俺のこと考えてた、や?何が俺を想ってた、や...?」
「それは...!私の考えが甘かったせいで、思慮が浅かったせいで...!でも私は本気で――」
「そんなん......そんなんさァ!?“本気”やったんならあんな...ッ、俺がされたくないあんなやり方思いつく普通!?“本気”なんやったら、あの時の俺に対してなら真っすぐに気持ち伝えるっていうやり方がいちばん優先されるんとちゃいませんでしたかぁ!?!?」
「っ!そ、その通りよ...!友聖の言う通り、あなたを本気で想ってるのなら、あの時真っすぐに私の気持ちを...感謝を伝えるべきだった!間違ってた!!」
「ああそうやな?お前は間違ってた。そして俺も間違ってた。所詮俺のことを本気の本気で考えてない女のことなんかに本気になるべきやなかったんや!そのせいで俺も自分で余計に傷つけて、ついにはここまで壊れてしまったんやからなァ!
あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~もう!!最っ悪や!!!」
言い訳は許さへん。俺はコイツに認めさせたる。
お前も結局俺の味方やあらへんかったって。俺の心をきちんと把握して本気なんやったら、最初から素直に正直な気持ちを伝えるというのがベストアンサーのはずやろ?
けど実際はリリナはそうはしなかった。じゃああいつも俺のことを救う人間やあらへん。虐め連中やクソ会社の連中とゴミカス異世界連中と何ら変わらへんわ。
いくら言葉を飾ってもなぁんも俺に響かへん。ただ憎悪を昂らせるだけや!!
で?俺に散々ネチネチ言われて糾弾されまくったリリナは......
「うん、そうだよね。ここで私がいくら言葉を出しても、友聖には信じられないよね...。
これは私のただの......自己満足に過ぎない」
何か傷ついた顔...被害者面して自嘲するようにポツリと言う。それがまた癪に障った俺はリリナを責める。
「開き直りかよ?ハッ。そうやそうや...。お前は結局俺のことなんか大して想ってへんかったんや。下らん、お前の俺に対する......」
「それは違うよ?私は、友聖が好き」
「............何なんや、何なんやお前はぁ!?お前は間違いを認めた。ならお前は俺のこと全然見てなくて考えてへんかったんと同義やろ!?やのにまだそうやって他の奴らと違う、俺が好きやなんて言えるんか!?
じゃあ何で、何であの時......ほんま何で.........っ!」
途端に言葉が詰まる。
「ちゃうねん......俺はただ...っ!単純な正直な優しさだけで良かったんや。嘘の無いありがとうとか、救われたよとか、お前のお陰やとか.........居てくれて良かったとかっ、そんなありきたりで単純なもんで良かったんや!!
あの時の俺が欲しかったんは、そんな簡単なことだけやったんやっっっ!!!」
「っ!ゆう、せい......」
あれ?俺は今何でこんなこと言うたんや...?今更そんなもん要求したって何もならんのに...。
何故か涙を流しているリリナを睨み、殺意を向ける。リリナだけやない......この国全てに対して...!
「下らん無駄話はもう終いや。予定変えて俺はこれから社会人時代の復讐対象どもをまた殺しに行く。お前がいると時間かけられへんからな、しゃーなしやけど、こっからはもう一瞬で残りの復讐対象どもぶち殺すことにするわ...」
それを聞いたリリナは、涙を拭いて杖を構えてこちらをキリっとした目で見据える。
「そうはさせない...。もう決心ついたわ。友聖......あなたを殺します。サタンがどうとかも関係無い。あなたはもうここで生きてはいけない。私が......あなたをあの世へ送ります」
「そうかい、邪魔するんは変わらんねんな...?やれるもんなら―――」
地を蹴って空を駆ける―――
「やってみろ」
どちらかの終わりが近づいてきている。当然、俺が全部ぶち殺して勝つけどな!!
超音速で駆ける。ジェット機の何十倍もの速さで空を切って行く。後ろからリリナも同じくらいの速さで追ってくる。
「肉体レベルは...俺が上回ってるようやな――」
さらに加速する。街や森を使って攪乱して追手を引きはがす。視界から消えさせすればすぐに瞬間移動でワープや。
...にしてもこの力はどっから来たのか。やはりサタンとやらの力か?そいつに呼びかけようにもやり方は知らねーし、サタンからの干渉も全く無いし。つーかほんまにいるんかサタン?同化しかかってるとか言ってたけどそのせいか?
まぁ何にしろ、この力には感謝してる。少し前まではあの女神にマジで打つ手なしやったからな。今なら後で奴も殺せるかもな...。
「...っと。よしここやな...!」
リリナの目を撒いて着いた場所は、今から3~4年後に勤めることになってる糞会社...ア〇ト引越センター大東支店や。
時間的にまだ現場移動はしてへんやろうし、全員揃ってる。
「全員ぶち殺しまーす!!未来の俺の健康と心は護る為にっ!!」
建物の真上に移動して超巨大鉄球をそこから高速で落下させる。
グシャアと建物は空き缶のようにぺしゃんこに潰れる。中にいたであろう社員どもも圧死したやろうな!
で、外にいて無事な連中どもをマシンガンで撃ちまくる。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!!」
復讐対象・他の社員・アルバイト全て無差別に殺して行く。あっという間に死体の山が積まれていく。
「柿本、土井、大庵、森本、そして瓜屋も...っははは!前に俺を虐げたクソゴミども全員死んでるわ!ざまぁ!!」
復讐対象の皆殺し完了!ホンマはもっともっと地獄を見せてから殺したかったが、残念ながらそんな時間は無い。奴が追いついてきたから、
「友聖!!」
リリナが俺に追いつく。ギリギリ抹殺できて良かったー。
俺がつくった死体の山を見て悲痛な面持ちを一瞬浮かべるも、すぐに俺を捉えて水属性の魔術を放つ。対する俺は風魔術を放って水をある程度吹き飛ばす。魔術の威力もリリナのと同等以上に上がっている。良いぞ...!
「一歩遅かったなー?んじゃ次行くぜぇ!!」
ダンッと地を蹴って空へ跳んでそのまま飛行して再び移動する。その直後俺がいた場所がカッと光り、次いで大爆発する。
「な......!?」
奴が追いついてそこに来ることは事前に予測してたから、マシンガン連射中に爆弾を仕掛けておいた。で、俺が移動すると同時に起爆。完全に奴の意表を突いてやった。
あの女神はこういう不意打ち系に簡単に引っかかるよな?あの世ではそういう戦い方をしてくる奴らとは無縁やったのかねー?
とりま今ので目くらましと手負いに成功させた。その隙に次の復讐へ急行や!
「佐〇急便東大阪市営業所......潰れろぉ!!」
隕石群を落として建物はもちろんその周囲も焦土と化してやった。もはやただの虐殺...自他ともに認めることだ。
「関係無いわっ!こんな国にいる連中の糞な命なんか知るか!!全員死ねェ!ひゃはははははははははははぁ!!」
俺は狂っている。まぁ元からのことやけども、ここに来てからさらにその狂い度が増していっている。あの王女と再会してあんなふざけたことを言われたりさらなる力を得たことが原因かもしれない。特に前者が酷いやろうな。今の俺にとってはあんな奴も毒物以外何者でもないわマジで。
「――!ちっ......」
一息ついたところに、魔力を纏ったナイフが俺の頭に飛んで来て咄嗟に頭を傾けて躱す。次いで雷属性の魔術が俺を襲う。
「ぐぅおお...っ!!強化したとはいえ、やっぱ効くもんやな...」
「また間に合わなかった...!こんなに、無関係で罪の無い人をまた......っ!」
またも悲痛な面持ちをしながら営業所の跡地を見てそう呟くリリナ。感電と火傷に怯んだ俺はどうにか奴から距離を取って火の魔術を放つ。
対するリリナも火の魔術を放って応戦。何回か撃ち合って応戦した後、今度は剣を錬成して斬りかかる。リリナも魔法杖で防ぎ振るってくる。杖に魔力を纏っている為、杖は杖でも剣では斬れない強度を誇っている。
「どいつもこいつも!!お前らは結局そうやって俺を排除しようとしやがる!!はじめはいつも...いつも、お前らからちょっかいかけて理不尽を強いてくるくせに!こっちが反抗したりやり返したり正論で反撃したらいつも俺が叩かれて非難されて罵られる!俺ばっかりが!いつも損をしてきた!!お前らが間違ってるくせに!!」
怒りと憎悪に任せて剣を振るう。ただし精細な動きは乱さずでだ。剣に憎しみの言葉を乗せて敵に振り下ろす。一撃一撃に殺意を込めて剣を振るう!
「虐めをすることは間違ってる!職場で除け者扱いするのは間違ってる!悪くない人間をハブるのは間違ってる!ありもしない事を信じて加害者どもと一緒に貶めるのは間違ってる!嫌がることをする・言うのは間違ってる!理不尽に人を虐げるのは間違ってる!!
俺は!最初から悪くもない俺は、そうやっていつもお前らから傷つけられたところから始まった!俺から理不尽を強いて傷つけたことなんかなかったのに!悪くなかった俺はずっとずっといきなり虐げつづけられてきた!!」
剣を思い切り投げる。直後新しい剣を錬成して再度斬りかかる。リリナはシールドで飛んでくる剣を防ぎ、次いで雷撃を放って俺を吹っ飛ばす。口から煙を吐きながらも俺は心の叫びを止めない。
「こっちでは理不尽な虐げを!異世界では理不尽な扱いと侮蔑と差別を!
どこの世界でも俺に優しくしてくれることはなかった!味方はおらんかった!俺を分かってくれる奴もおらんかった!―――」
「違うっ!私がいた!!私は友聖の味方よ!いつもいつも、私はあなたと......っ!!」
さらに何か言おうとしたらリリナが口を挟んでそんなことをほざく。
「私は友聖がどこか壊れそうに見えてた。だからいつも友聖の傍にいようって思った。けど次第に私は友聖に惹かれていって...気付けば私の方が友聖を求めてた!!恥ずかしいから何度も言うのは躊躇うけど......私は本当は心が綺麗な友聖が大好きっ!!」
「さっきから恥ずかしいことをベラベラとよぉ!?心が綺麗?なら今はどないやねん?心が壊れて邪悪か何かで穢れ切ったこの俺はもう好きではいられへんのとちゃうかぁ!?」
確かにあの時の俺はまだ良心を捨てられないでいた。まだ心を寄せていたリリナの存在が、俺をそうさせていた。それでもギリギリな状態やったが今と比べればあの頃の俺は綺麗やったと言えるやろうな。
けど今はどうや?清い心を持つあの女にしてみれば、今の俺なんか―――
「今も好きよ。私は友聖が好き」
「―――――」
ゴッッ!!
隙を見せてしまった。そのせいで俺は思い切り魔法杖でぶん殴られた。頭が割れるかと思った。意識が朦朧としている。吹っ飛ばされながら治療をしてどうにか意識を繋げる。
「く、そ......がっ!」
そしてそのまま瞬間移動してこの場から退場する。今は奴と殺し合う時じゃない。復讐が先や。
大阪から山形県へ一気に飛ぶ。
「何が今も好き...や。そう言っておいて結局は俺を排除しようとしてるくせに...!」
苛立ちを零しながら全速力で駆けて、住宅街に着く。ここにはあのクソ隣人がいる地域や。年齢的には今大学生らしく、未来とは別のアパートにいる。どこにいるかとか知らねーしめんどくせーから一気に消そう!
「塵になぁれ!!瀬藤欽也ァ!!!」
巨大な炎球を放って大爆発を起こす...その直前――、
「させないっ!!」
リリナの魔術の介入でギリギリ相殺される。今回は足止め攻撃をしてなかったせいですぐに追いつかれてしまった。
「クソがぁ!せやけど......そこかァ!!」
ズガン! 「ぁ.........な”!?」
煙の中でもはっきり見える俺の眼は瀬藤を捉えて、短銃でその頭を撃ち抜いて復讐した。
「よっしゃあ、やりぃ!ざまあああああ!!」
そう歓声を上げて瞬間移動をしようとしたが―――
「もうあなたの好きにさせないっっ!!!」
「――っ!?な、お前、放せ―――」
リリナに組み付かれて拘束される。そしてリリナが何か魔術を発動したかと思うと二人の体が光り出し......景色が変わった!
“ワープ”
「っぐ!?ここは......」
さっきまで山形にいた俺たちは知らない林の中にいる。検索魔術でここがどこなのかを明らかにする。
「知床《しれとこ》...?北海道か」
どうやら北海道の端地域に移動させられたらしい。4月とはいえさすがは北国といったところか、まだ寒さを感じられる。
「まぁええわ。すぐに飛んでくだけやか――っ!?」
改めて瞬間移動を発動しようとするも、またリリナに妨害される。飛んでくる雷球を咄嗟に剣で弾く...が少し感電してスタンした。
「ぐが......っ!どうしても俺の復讐を邪魔したいようやな?」
「もう止て…そんな悲しいこともう止めてちょうだい」
「るせー。これは俺自身の救済活動なんや...。将来俺を害してたあんなゴミクズどもなんか!!死んで当然やああああああ!!」
“神による選別”
二度目の人生で使った大規模殺戮破壊魔術。レーザーの数が多い程長く溜める必要がある為、この世の要らない人間全てを消すのは無理だ。という訳で今回は復讐したい奴らの数だけに絞る。
数は......5人やから、5本のレーザーを撃つ!!
「あれは!?国の人間をたくさん殺した魔術...!させないっ!!」
「死ねぇゴミクズども――――ぉ!?」
魔術を発動して1秒も経たない内に復讐の追尾レーザーを発射する......が、その直後リリナも何か追尾系の魔術を放った!
「好きにはさせないって、言ってるでしょおおおっ!!」
魔法杖からは強い魔力を感じる。属性は雷。幾条の雷が枝分かれをして飛んでいく。
「邪魔しまくってぇ!!ウゼーんだよっ!!」
「きゃあ!?」
苛立ちをぶつけるように風の刃を飛ばして奴を斬りつける。胸から腹を切り裂いてそれなりのダメージを負わせる。だが奴の魔術を止めることはできず、雷線は......俺のレーザーに干渉しやがった。
そして数秒後、検索して結果を見ると......、
「二人...失敗した、やと!?」
5人のうち復讐に成功したのは遅川たけし、池谷隼《いけたにじゅん》、説田義一《せったよしかず》の3人...だけ。残りの復讐対象...杉浦俊哉《すぎうらとしや》と平塚大輔《ひらつかだいすけ》の殺害は......失敗した!
「.........お前の魔術の仕業やな?」
「.........」
血を流して倒れているリリナを睨みつけて恨み言を吐く。俺が放ったレーザーが二人に当たる直前、奴は雷の光線でレーザーの軌道をずらしてギリギリ外させた...!!二人とも普通に生きてやがる。
「あのクソゴミ清掃員3人...特に遅川を殺せたのは良かったけど、全員殺せなかったんはショックやなァ。やってくれたな女神さんよォ」
「守り、きれなかった......。でも辛うじて、二人は救えた...」
腹に手を添えて治療しながらリリナはふらふら立ち上がる。奴が立つ地面に爆破系の火魔術を撃つ。
「あ......っ」
「これ以上邪魔させるかよ。遠距離でミスったなら、やはり直接殺すしかないなよな!?さぁて、二人のうち誰から殺そうかなァ!?」
瞬間移動を今度こそ発動して現地殺害を再び敢行することに。
しかし動こうとした瞬間、俺は眩暈を起こした。
「ぐ...っ!?魔力もそうやけど、体力も残りヤバいな......っ」
この瞬間移動も楽ではない。それなりに体力を消費する。魔術は魔力を消費して、移動系のスキルは体力を特に消費する。当然多用すれば疲労も激しくなる。二人に復讐する分、残り二回分。それ以上使うとあの女神を殺すのに支障をきたしてまいそうやし、無駄撃ちはできねー。また邪魔されたらそれ以上はスキルの使用は難しくなる...。
まぁさっき奴にけっこうダメージ与えたし、足止めも出来とる。これなら邪魔は入らねー!
ここからやと山形へ戻って杉浦を殺すのがいちばん効率的やけど...リリナはそれを見越してこっちにすぐ来るやろうから......
「あえて遠い方を選ぶ!!」
行き先は...数日前なら埼玉の入間市やったけど、肝心の奴はそこにはいない。今奴がいるのは......、
「まさか実家だったとは!」
最近俺も暮らしていたマンション、杉山宅だ...!概ね、感情が抜けておかしくなった二人のことを聞いたあのクソ叔父が二人の様子を見にここを訪ねたってところか。奴はあのクソ母のこととなるとすぐ駆けつけるからな......あの時の、近所トラブルの時みたいに......っ
このマンションにはそのトラブルの原因となったクソ犬を飼ってる奴も住んでる。よし、このマンション全部破壊したろ。クソ叔父も家族もクソ隣人も、全部全部消してやる。
ここが俺にとってクソッタレな世の中である以上、この世の中、社会で生きている人間の命は全て無価値!俺に理不尽を強いる世の中をつくったのは結局は人間。
ならそいつらを全て消せばこの世が良くなると同義!
「そうや...俺は間違ってへん。自身を害するクソ人間どもを殺すことは正しい!」
両手に魔力を込める...。その状態で日本刀を構えて、刀身にも魔力を渡らせる。
「ぶった切ってやんよ...。何もかも細切れにして殺す...!」
全身に力を溜めて...溜め切った瞬間と同時に刀を振り上げて―――
「やっぱりここだったね。友聖なら、ここに来るって思ってた」
―――斬撃を飛ばすはずだった刀は...突如現れた女神の手によって跡形無く霧散した。同時に俺の今まで溜めていた魔力・気力も全部散って消えてしまった...。
「.........」
俺は呆然と、自身の手とリリナの顔を交互に見やり、絶句していた。すぐに動くべきところを、俺は思考を放棄して固まってしまった。それほど今のは、ショックだった。
「もう、離さない――」
ショックのあまり、一瞬で間を詰められて体にしがみつかれても、俺は咄嗟に反応できずにいて......
“ワープ”
また彼女による妨害を許してしまった――
*
マンション内...杉山宅。
「ん......?何だ、気のせい、か?」
平塚大輔は外に違和感を察知してベランダに出てみる。が、特に変わったものは確認できなかった為気のせいと決めてリビングに戻る。
「どうやったらお前たちを元の人間らしい状態に戻せるのか...」
リビングには彼の妹で友聖の母と姉が、一言も喋らず無表情で鎮座している。二人の様子がおかしいとそれぞれの職場と学校から連絡を受けた大輔は急遽杉山宅を訪れ、ふたりを病院へ連れた。
しかし病状すら全く判明できず、脳にも異常は見当たらない結果。なのに人としての感情・心が抜け落ちている...まるで爬虫類のようだと診断される。心の問題かと思われ専門医を何人も呼んだが何も分からず。自宅療養で様子を見るという結論に。
大輔は会社からしばらくの休みの許可をもらってこの家に住むことにした。
(自分の身の回りのことは出来る...。妹に至っては家事全てもできる...。二人とも要介護人間ではないが...社会で生きていくには困難とされている)
二人はある日から突然言葉すら話さなくなったと聞く。大輔がそれを実際に目の当たりにしてからも一度も二人の声を聞いていない。
失語症を患っては当然日常生活にも支障をきたす。しばらくは自分が二人の面倒を見なければならないと大輔は二人をそう評価している。
「友聖は......どこで何をしている?家族がこんなことになっているのに...あの薄情者は...!」
大輔は一人...甥である少年に憤りを感じている。彼がここに来た時には甥はどこにもいなかった。連絡しようにも彼を知っている人は家族以外誰もいず、捜索のしようがなく、諦めた。もはや彼が帰ってくるのを待つしか方法がなく、二人の状態を治す方法の模索と同時に彼の帰宅も待っているのが現状だ。
「昔は、昔は...みんなでよく一緒に出掛けて、遊んで...。よく笑う子だった...。だが中学生になってから...おかしくなったと俺の妹…お前の母さんから聞いてた。虐めとか何とか...。友聖。お前にも何か悩みや問題があるのなら......ここに帰ってきて俺に全部話してくれ...。早く、帰ってきてくれ...!お前の家族は...たった一つしかないんだぞ...!!」
大輔はリビングから離れて一人呻くように甥......杉山友聖の帰りを呼んだ。彼が今どうなっているのか...彼がついさっきまで自分らのところに来てあまつさえ殺そうとしていたことなど、気付かないまま。
そして.........友聖の母が、ベランダに目を向けて――
「............友聖」
――僅かに悲し気な顔を浮かべて彼の名を小さく発したことにも、気づくことはなかった......。
また......知らない地にワープされた。
さっきよりも深い林。林というよりも森と言っていい。開拓されてる場所は一切無く、潮の匂いがする......まさか無人島!?
検索するとどうやらその通りで、南にある無人島だ。今度は随分遠くに飛ばされてしまった。
で、俺をこんなところに連れてきた諸悪の根源は......、
「いつまでくっついてんねん。はよ放せや」
「だめ、絶対に離さない。もう離してあげない...!」
ワープが終わった後もずっと俺にしがみついたまま離れようとしない。光の輪のようなもので二人密着させた状態で拘束していて、その中からリリナは俺の腰に腕を回してしがみついている状態だ。
強く、力強く...何があっても離さないといった様子でだ。マジで鬱陶しい。
「友聖...もういいでしょう?いえ、もう止めてちょうだい。これ以上こんな悲しい罪を積み重ねないで」
「はぁ?言ったよな、俺はお前らのことなんかもう知るかって。どう思おうが何を言われようが...死すらも何の躊躇いも無くなったって。お前らからどれだけ失望とか裏切られた感とか向けられても俺には何も感じねー。
俺にとってそんな奴はもういねー。そもそも最初からそんな奴はいねーんだったっけな?ああそうや、俺を大切にしてくれる奴なんかこの世には一人もいねー!
俺には 何も無い 何も無かった人生だった!!!」
リリナにしがみつかれたままの俺は、また...堰が切れたかのように心のままに言葉を散らしていく。散らしてしまっている......
「金も学歴も青春も、尊厳も名誉も居場所も温かみも、
愛さえも!!何も持ってなかった!何もかも零れ落ちて、腐って失って、消えて無くなっちまった!
何も無い、何も持ってねぇ.........、
俺には 《《大切な奴は》》 《《一人もいない》》っ!!!」
「......っ!!」
俺の最後の一言に、リリナはこれ以上ないくらいにビクリと身を震わせる。
「俺に残ってるのは、他人に対する嫌悪と憎悪、そして自分の快に対するどす黒い欲望だけや!!!」
そう叫でから、リリナを振り解くべく、自分の魔力を熾して光の輪っかにぶつける
「あづあ”っ...!くそっ、輪っかが消えねぇ...!邪魔やねんこの害物がああああああああああ!!!」
標的と密着している為、自身の魔力に俺も焼かれて肌が爛れる。これ以上強く熾すと俺もただでは済まねー。けど光の輪はまだ健在。鬱陶しい...!
「解け、解けや...!くそ、どいつもこいつも俺の平穏を侵しやがって...!!
今まで散々苦汁を舐めさせられ、理不尽と無常に涙を流されて、残酷で不遇過ぎる運命に弄ばれたまま一度目の人生を終えてしまった俺やから...!!空虚で世界の理不尽に苛まれ続けてきた俺なんやから、これくらいの事したって許されるはずや!!!今までが理不尽過ぎた分、好き勝手やらせろや!!!
お前らが理不尽して俺だけ理不尽が許されへんとか認められるかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
激昂し激怒し憤怒し激しく憎む俺は、発狂して叫んで、魔力を最大限まで熾す。光の輪っかは溶けて無くなり、俺とリリナも俺の魔力で体に大火傷を負う。
「ぐああぁ!!」
「っうぐ......っ」
背中が焼き爛れて腕が炭になりかけている俺はどうにか意識を保って...剣でリリナの腹を突き刺した...!
「ぁ.........こふっ」
「あ”、はぁ...!お前邪魔するならもう死ねや。要らねーんだよお前なんか。目障りや。早よ死ね」
盛大に吐血するリリナを俺は嘲笑う。そういえば前にもこんな場面があった気がスる......あレ?いつダ...?
まぁイいヤ......モウドウデモイイヤ......。
「友聖......」
ソレヨリモ、サッサト コノ女ニ 止メヲ 刺スゾ......
「そん、な......」
コイツヲブチ殺シテ、コノ国ヲ......世界ヲブッ壊シテ―――
「 そんな悲しいこと 言わないで 」
―――ギチィ......!!
アレ......?マタ動ケナクナッテル...。マタ、アノウゼー輪ッカガ、俺ヲ邪魔シテヤガル...!!
「ウオオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”......っ!!!」
「自分に大切な人がいないなんて......人を嫌って憎むことしかできないなんて......そんな、悲しくて寂しいこと、言わないで...!」
コノオンナガ ナニカイッテイル
「どんな人間にも、その人を想う人は必ずいるわ...!友聖もその、一人!だって――」
ウソヤ、ソンナモン!!オレニハモウダレモ―――
「 私が 友聖のことこんなにも好いていて 友聖のこと愛してるのだから!!! 」
―――。
――――。
―――――。
「――――――は......?」
思考が、意識が戻ってきた感じ。
同時に背中と腕の激痛が襲い、光の輪っかに再び拘束されてることを認知する。目の前には血を吐きながらも......優しい目を俺に向けて微笑んでいるリリナがいる。
腹に剣が刺さった状態で自分ごとまた俺を捕まえて、密着させている。ふくよかな胸を俺の腹に押し付けて、頭を俺の胸において、上目遣いで俺を見るリリナに......俺は不覚にも動揺する。
「お前は......この期に及んでまだ自分が俺の味方やと、ほざくんか?」
「そうよ」
「ここまで俺を追いこんで...殺すと明言しておきながら、まだ味方のつもりと?」
「そうよ」
「好きやと?」
「好き」
「愛してると??」
「愛してる...!」
俺の問いに全て肯定を示して、俺の胸部に触れる。妙な感覚がしてむず痒い。何故か...背中や腕の火傷よりも痛く感じた...。
「異世界で勇者やってた頃......まだこの世に幻想を抱いてた頃の俺は、お前だけが俺にとって最後の居場所やと思ってた。お前やからこそ、最後に賭ける価値があったと考えてた。
せやけどそれは儚く馬鹿げた夢やった。思い上がった考えやった...。お前に冷たく突き放されて、そう勘違いしたことで俺は壊れて、全て壊そうって決めて...」
そこで言葉を途切れさせ、声を詰まらせる。リリナが続けて?と言わんばかりに胸を撫でてくる。
「......分かっとったわ。お前がここで色々事情を説明してから。ほんまは本気で俺を突き放してはなかったって。じゃなきゃ転生してまでこんなところへ来れるかって。心の底では分かってた...!
けど同時に憎んだ。最初からあの優しい言葉で迎えて欲しかったって...。サプライズとかそんな飾りは要らんから、俺に優しくしてくれって、思ってたんや...。
けどお前はそんな俺に対して嘘の拒絶を突きつけた...。せやから憎んだ。何で最初から優しくしてくれへんかったんやって...!お前さえからも突き放されたと思って俺は......こうなったんや...!!」
感情が乱れて色々叫ぶ俺を、リリナは血を吐きながらも俺を撫で続ける。
「うんそうだよね...。私は間違ったことをしてしまった。さっきも言ったけど......軽率だったってずっと悔やんでいたわ。
だから決めたの......もう間違えないって。自分の気持ちのままに、友聖と接するって...!」
リリナの言葉に俺は眉をひそめる。コイツは何が言いたいんや...?
「友聖」
リリナは俺を真っすぐ見つめて―――
「あなたを涅槃にも地獄にも逝かせはしない。私と一緒に、二人だけの、二人が生きられる世界へ逝きましょう―――」
「は……?」
リリナの言葉に俺は思わず間が抜けた声を漏らす。
「今の友聖をあの世へ連れて行ったら......あなたは確実に涅槃《ねはん》へ送られることになるわ。しかもあなたの場合、涅槃の最下層...地獄へ落とされることになる。あれだけたくさん人を殺したもの......その判定は絶対に覆らない」
「...まぁな。俺が今まで殺してきた人間は全員、死んで良いい殺すべき害虫のクソ人間やった。
けどそう思ってるのは俺だけで、お前ら他人にとってはほとんどが“罪無き”民どもなんやもんな?お前らにとってのそんな奴らを大量に殺した俺は、やっぱり極悪大罪人に値する人間なんやろうな...」
というか地獄ってマジであるんか。ならやっぱり俺は地獄行きやろうな...理由とか価値観とかどうあれ俺は人を何人も殺したという罪を犯している。この世とあの世ともにその認識は共通してる。俺は人類史上稀に見る凶悪で狂った殺人鬼...そう判断されるんやろうな...。
俺にとっては粛清のつもりでも、俺以外はそうは思ってはくれねぇ、結局やってることはただの人殺しやからな...。
「...ンなもん初めっから分かっとることやボケ」
愚痴を漏らすように小声でぽつりと呟く。リリナはまた血を吐きながらも話を続けようとする。コイツまだ死なへんのか。女神に転生したことで生命力が前世より強化されてるとかか?あの時はすぐに死んだくせに、しつこい...。
けど...瀕死のコイツを、俺は何故か止めを刺せないでいる...。光の輪による拘束もあるけど、なんか...手が出せないっていうか......俺にも分からへんなぁコレ。
「けど、ね......私は今の友聖をこのまま......かふっ!こ、のまま...地獄へ逝かせたくないの。あんな悲しくて寂しいことを言って、今も人を嫌って憎んでいる友聖を......。まだ本当の意味で救うことが出来てないあなたを、このままあの世へ連れて行くのは......本当は反対、なの」
「はぁ?俺が...救われてへんやと?ざけんな!俺は救われてるわっ!あいつらへの復讐とこの国の独善的な粛清と改造をしたことで俺は幸せになれた!憎い奴も不快感を抱く奴も一人としていねぇ理想の国を創った俺の生活は最高やった!嘘やない、この感情は本物や!!」
本音や、間違いやない。復讐は心に溜まっていた汚れや澱《おり》を洗い流した。
要らん人間の抹殺は生活を気持ちよくしてくれた。俺がやってきたことは全部意味ある行動やった!何もかもから解放された感じ。我慢や柵が一切無い日々。
これだけ充実しているはずの俺がどうして救われていないとか言えるんやコイツは!?
そんな俺を、リリナは苦痛を感じてるにも関わらず優しく微笑んだままでいる。
「確かに......友聖のしたいがままに行動して、全部成功して、理想をつかみ取れて...。それは確かに満足できるものでしょう、ね。すごく快感だと思う、幸せに思えるかも、ね...」
でもね...と続くリリナの言葉は――
「 孤独は 《《誰も》》 《《何も》》 《《救わない》》 」
「―――――」
何故か俺の心を抉った...。
「確かに人によっては独りの時間は好ましく思ったりはするわ。けど...それは自由や楽しいって気持ちになるだけ。独りきりだと楽しいや嬉しい、幸せといった気持ちを...誰かと共有することができない。辛い・悲しい気持ちも...独りきりだと誰にも打ち明けたり分かち合うことも出来ずに背負い込んでしまって、酷いといつかはそれらに押しつぶされてしまう...。それらがずっと続くと、いつかは心が閉ざされていく...死んでしまう...。
ずっと孤独のままでいるのは、心を完全に救うことにはならないのよ......っ!」
リリナの言葉にしばし絶句してしまう。何とか言葉を紡ごうとするも上手く出てこない。
「誰もがってわけじゃねーやろ...?俺はそいつらとはちゃう...孤独でも俺は救われてる。満たされていてずっと幸せで......っ!」
「本当にそうかな...?」
「ああホンマや!!俺だけ特別に、幸福を感じさせて......っ」
「それなら......」
リリナの手が......俺の目の方へ伸びてきて.........、
「どうしてそんな悲しそうに泣いてるの?」
「―――――あ...?」
自分でも気づかず出ていた涙を拭ってきた...。そこで俺は初めて自分が涙を流していて、顔を変に歪ませていることい気付いた。
「え...は?何やコレ、何でこんなもんが...。何で俺こんな顔をして......はぁ?意味分からん。何で今さら......」
「友聖。私はあなたを救いたいって思ってる。私が、あなたの傍にいるわ...それであなたを救ってみせるから...」
腕が不自由なせいで目をこすることも出来ない俺は目をギュッと瞑ることしか出来ない。リリナはそんな俺の頭を優しく撫でて、そんなことをほざきやがった。
「救う?お前が?俺の傍にいることが救い?ざけんなやおい...。殺したい女なんかと傍にいて、俺が救われるわけないやろが...!」
頭を撫でている手を振り払うことが出来ずされるがままということに屈辱を感じながら、ただそう反論する。
「俺に味方なんかおらへんかった...家族すらも。せやから俺は孤独を選んだ!誰一人として俺に優しくせず味方をせず、ただ理不尽を強いて虐げるだけの世界やから俺は全部壊して殺して理想を創ってそこへ入り浸った。それの何が悪いねん!お前なんかいなくても、俺はこの先毎日幸せな日々を送ってやる......っ」
「悪いとは言ってないわ。けどね友聖、その幸せは...きっと長くは続かない。本当に満たされることはないわ」
「たとえそうやとしてもや!俺はそれでもええ!!こんなクソッタレな世界なんかよりもマシや!!孤独?ハッ、喜んで受け入れようやないか!憎悪や嫌悪、不快感を抱くより永遠の孤独の檻の中にいる方が、よっぽどマシや!!」
未だ優しい眼差しを向けるリリナを睨みつけながら、俺はリリナを突き放すかのように猛然と叫ぶ。蔑みも哀れみもない奴の目が、俺を苛つかせる...。ここまで俺の自己中まみれの本音を聞いて、何でまだそんな目ができるんや?
好きやから?愛してるから?こいつはマジでそんな理由で俺を救おうとしてるのか?
「ねぇ友聖。あなたは家族すらも味方じゃなかったって言ったけど、家族の皆があなたのことを何とも思ってるわけじゃないんだよ」
「あ?家族?今更何やねん。つーか何でそう言えるわけ?」
する必要の無い会話を、何故かしてしまう。
「私ね、天界から友聖とあなたがいた世界のことをずっと見てたの。その時にあなたの家族のことを見てみたの」
ストーカーか。
「母は...あなたの母だけは、友聖の遺影に毎日向き合って合掌して。お供え物を置いたり、何か話をしたり...。彼女はあなたが死んでからずっとあなたの死を嘆き悲しんでいたわ。後悔もしていた。ちゃんとあなたの声を聞いておけばって。信じてあげていればって」
は?
「母は友聖のこと大切に想ってた。心配もしていた。ただ...あなたとの接し方、付き合い方を間違ってしまった。友聖が喧嘩早くて実際同級生に怪我させてきたからそれを引き合いに出してあなたの虐めことをあなたが悪いと言って遠ざけてたのは知ってるわ。
それは私から見ても間違いだったことよ。接し方は褒められるべきじゃなかったけど、友聖の母は友聖のことちゃんと大切に想ってはいた...本当よ」
...こいつはどこまで俺の心をかき乱せば気が済む?
「......俺のこと大切やった?ふざけんな...っ!虐めをどうにかしなかったくせに何が大切や。クソみたいなこと聞かせやがって――」
「友聖、あなたは知らないはずがない...。最近のあなたの母のこと思い出して...!」
最近のあのくだりも見てたのか...。それに......「最近」のあのクソ母――
「作るな」と言ってもいつも必ず俺の食事を作る――
食卓から去ろうとすると母がこっちをじっと見つめてきた――
独立しようとする俺を見送るかのように玄関に立って俺をいつまでも見つめ続けていた――
まるで、俺を気に掛けるように―――
「......そうやとしてもや...っ!実の子の悲痛な助けを求める言葉は素直に聞くべきやろ...!死んでからじゃあ、遅いやろうが...!」
(友聖!あなたがそんなに思いつめていたなんて...!私が間違ってた!お願い!これからはちゃんと友聖と向き合うって約束するから―――)
「全部、遅過ぎや、クソボケが......っ」
遅い、もっと早くから向き合うべきだった。俺はずっと呼びかけていた。なのにあの母は、親やのに俺を断罪した。でも俺のことは大切ですって...。ふざけた家族愛や。
要らねー。そんな愛は要らねー。ゴミや、んなもん。そんな愛を受けるくらいなら俺は孤独を選ぶ...!
俺の心を読んだかのように、リリナが再び話しかける。
「友聖は......本気で孤独を肯定しているのね...?誰もいない孤独な人生を、自分の理想の中に独り閉じこもることを...本気で気に入っていて、幸せでいて、救われてるのね...?
本当に...あなたは孤独を好いているの、ね...」
「ああそうや...。涙が出たんは予想外やったけど、俺はそれでええんや!永遠に孤独で良い!人がおるから俺は不快感を与えられる。人がいっぱいおるから必ず誰かに憎しみを抱く。それならそんな奴ら俺の周りから消してしまえばそんなもん感じないで済む!
代償が孤独だけや言うなら俺はそれでええわ!お前が傍につくとか、そんなもん要らん!お前の救いなんか要らんわ!ていうか、救いですらねぇ!」
「もう......覆ることは、ないか.........」
「なァもうええやろ?俺の心もう分かったやろ?俺は孤独でも良い。救われなくても良い。理想さえあればもうそれで満足できる...。
もう邪魔すんなや。逝くんならお前一人で逝けや」
最後はもう懇願するように言った。ここまで言ったことで、リリナも俺の本音をようやく理解できた様子だ。
そう、俺は誰も必要としてへん。この世も...どうせあの世にも俺の味方はおらへん。俺はどうやらそういう星の下で生まれた生物みたいやからな。期待するだけ無駄なんや。
この女がどれだけ言葉並べようが、俺は信じられへん。いつか味方や無くなるやろうし、もう期待することは止めた...。
どこにも味方はおらへん。俺に優しくしてくれる世界はどこにも存在してへん。現実は俺にとって地獄や。
それなら自分で理想を創って、そこへ籠ればええやろ。孤独という檻やけど、そこへ行けば俺に理不尽を強いることは無い。虐げる奴も存在せーへん。
孤独と引き換えに永遠の快楽と安寧を得られるなら安いはずや。
救われない...心が?独りでいるのは......寂しい。
否定はせーへんよ。事実や。一度目の人生でそれは痛いくらい思い知ってる。虐められてる時も、社会人の時も、破産した時も。
独りがどれだけ寂しいかを、俺は痛いくらいに知ってる。
孤独の寂しさ、心細さは誰よりも理解しとるつもりや。
けどええやん孤独。俺の平穏を乱すゴミクズどもがいなくなってせいせいするやん。
孤独でも楽しいことはある。悪いことはほとんど無い。
そう、俺は今後も...未来永劫独りで――――
「でも私は友聖と一緒にいたい!孤独にさせたくない。このままにさせたくないって思ってる!
だから私は...友聖と一緒に私たちだけの世界に……!!」
「............」
開いた口が塞がらないとはまさに今の俺のことを指すんやろうな。
半開き状態の口を俺は閉ざせないでいる。それほどリリナの今発した言葉に衝撃を受けている。
「私決めたの......私も我を通そうって。私がしたいことを、友聖にしてあげたいって思うことをしようって。
私は本当の意味で友聖を救いたい。あなたが嫌だと言っても、救いたいの...!」
「おい......なんやそれ? 俺を孤独から救う?俺と一緒にいたいから心中を強制やと...?
お前、とうとう俺みたいにイカれたか?」
「違うよ?これは私の“わがまま”...。私が友聖とこのまま永遠のお別れなんてしたくないってだけ。完全に私の願望よ...」
今まで散々好き勝手に暴れて理不尽を強いた俺が言うのも何やけど、そんな身勝手が許せるかよ!?
俺の意思に関係無しに孤独にさせない、一緒にいさせると主張してやがる。
「ざけんな。そんなもん許せるかよ...!俺はもう誰ともいたくねぇ!!味方なんかいないこんな世界に、俺の周りに人一人も視界に――」
「私は 友聖の味方よっ!!」
その力強い発言に、俺は思わず言葉を途切れさせる。血を吐いて苦しいはずなのに、その言葉に強い想いが込められているのが分かる。分かってしまう...。
「この世界...誰も友聖の味方じゃなくても、私は...私だけは友聖の味方、よ...!ずっと好きだった。愛したいと思ってる...。側にいたいって思ってる。私がそうしたい」
「.........」
「友聖が地獄へ逝くなんて、私耐えられない。心が救われていないまま地獄へ逝くなんて嫌。
友聖を救いたい...私なら、友聖を癒してあげられる...。絶対に友聖の心を癒してみせる...」
「.........」
「このままお別れなんて嫌、絶対に嫌...!あの時と同じような終わりにはさせない。女神にここに来る時からずっと......決めてたから、友聖を止めてそして......側について友聖を癒すって、救うって...」
「そんな......お前に、お前なんかに俺を......っ!第一、俺は今もお前なんか......」
「うん、分かってる...。それでも私は友聖と一緒にいたい。前世からずっと決めてたことだから。あれから今まで何十年間ずっと変わらないこの気持ちに嘘は無い。だから......友聖が何と言っても、私の側にいてもらうから...!」
いくら言っても...もう覆らない。コイツは本気で俺と一緒に...!
するとリリナから青白い魔力が吹き出てくる。それは俺をも包み込んで......球体となっていく...。
「これは禁忌の魔術。対象と死ぬ心中魔術。対象とともに魂を別の次元......この世からもあの世からも干渉できない...“無次元”へ永遠に封印する魔術よ...。
これで私と友聖...二人きりになれる...わ」
もう...発動してやがる...。今すぐこの光の輪を解かねぇと...!
「ぉおおおおおおおおお......っ!!」
「ダメよ友聖......逃がさない」
パァン!!「あ......え?」
全力を振り絞って熾した魔力が霧となって消え失せた...!もう、魔力が切れてしまった...。
「何で...何で魔力が...!?」
「私は、魔力を消すことができるの...。あの世で会得できるスキルよ。この時にまで残しておいた、私の切り札」
「は......は...。この、チート女、が......っ」
掠れた声を漏らす俺だがすぐに次の攻撃手段...力ずくを敢行する...が、
「あ...力、が......?」
「ごめんね...友聖の体力なんだけど、実はさっきからずっと吸い取らせてもらってたの。
“エナジードレイン” そのお陰で私はこうしてまだ生きていられる。もう力ずくでもこれを破るのは無理よ」
「......この状況になるまでずっと、隠してたんか......っ!?お前、《《最初から》》――」
「うん。言ったでしょ?あなたを救うって」
青白い光がさらに強まる。魔術が発動しようとしている。取り返しのつかない終わりが...迫って来る...!
「くそ...ざけんな!お前の勝手に、巻き込まれてたまるか…!俺まで死んで...消えてたまるかっ!!俺は、俺はぁ!!」
怒りのままに叫ぶ。その時リリナが俺をギュッと抱きしめてくる。
「ねぇ友聖...。さっきあなたは、自分には大切な人は一人もいないなんて言ってたけど...。だったら――
私を 友聖の大切な人にして欲しい!! 」
「―――――」
また...こいつは......っ!言葉が、出てこねぇ。
「友聖をそんな寂しい人間にしたくないから...。誰もいないなら、私が友聖の大切な人になるわ!もう、友聖を...独りにさせたくない!
私が絶対に...友聖の味方になる。ずっと優しくする。心だって癒してみせるから......っ!!」
そんな都合の良い展開への期待は、とっくの昔に捨てた。あるわけないと。
進学できず、クソッタレな会社で勤めてハブられて家族を縁を切られて...たぶんそんくらいで俺は何もかもに見切りをつけた。
もう俺に救いの手は差し伸べられない......優しい世界は訪れない......味方なんて現れねない......。
捨てた......期待なんて捨てた。もう俺は現実で夢を見ることは諦めて止めて――
「友聖......ずっと言いたかったことがあるの」
もう要らない。誰も要らない。必要無い。必要とされてない。世界が俺を拒むなら...俺かてお前らを否定して――
「前世で魔王軍を討伐してくれて......魔王を討ってくれて......世界を救ってくれて―――」
否定 し、て―――
「 ありがとう 」
「あ............」
あの時―――壊れかけていた勇者だった時の俺が。
魔王を討って帰って来て、いちばん欲していたその言葉―――
「......ざけんな......ッ 今になってそんな、そん...な――ぁ」
「本当に今さらでごめんね。でも分かって欲しい。この気持ちと言葉に...嘘は無いって。これが私の偽り無い本音...。
言えた......やっと言えたわ.........っ」
リリナも、たぶん俺も、泣いている。俺に関しては何の涙かは知らねーけど、リリナのはたぶん...嬉しいって意味の涙なんやろうな...。
認めたくはなかった...。けどここまでくればもう認めるしかねぇ...。
青白い光が強まり、球体が小さくなっていく...。俺はここで終わる...。後で転生することもない、文字通りの「終わり」。
もう好き勝手は出来ない......その代わりに、
「友聖―――」
俺は...孤独ではなくなる。俺のことを好いている...愛している女と二人きりになる。
その女は、最後の力を振り絞って俺の頭を彼女の顔に持っていき――
「 愛してる 」
俺にとって人生最初で最後の...想いがこもった優しい口付けをしてきた――。
そして
俺は リリナとともに この世から消えて無くなった―――。
「最後の分身が、やられたか………」
ここは「あの世」といわれている次元。天界から遠く遠く離れたところにある世界でのとある場所にて、大悪魔………サタンは、力無くそう呟く。
先の戦いで複数の女神戦士と一戦交えたことで相当消耗してしまった彼は、満身創痍の身を引きずってこの地に着いた以降ずっと身を潜めていた。分身体さえいれば自分は消滅することはなかったが、最後の分身が消えたことで今の彼は簡単に滅ぼされる状況にある。
分身体には個体差が大きく異なっており、個体によっては意思を持たない無力な個体もいる。ついさっき消えた最後の分身体が恐らくそれに当たるのだろう。
「せっかく禁忌を犯してまで人間界の次元へ送ったというのに、奴らもまさか禁忌を犯すとは......考えが甘かったか」
ここももうじき特定されるだろうと悟り、こうなったら自分自身もこの世へ転移しようとしたその時、
「やっと見つけた......サタン」
「.........大女神か」
サタンのもとに一人の女神が降り立つ。白い装束の上に紺碧《こんぺき》の甲冑《かっちゅう》を纏った格好で、長い金髪をまとめてその頭にはティアラのような兜を装着している。それはただの飾りではなく魔力を高める効果を持つ。
女神の長を務める大女神...プルメリは戦いに赴く時はいつもそれを着けて出る。
彼女はさっきまで多くの悪魔を撃退して、探知魔術でサタンを懸命に捜索して、ようやく彼を見つけることに成功して今に至る。その顔には疲労が見えると同時にどこか哀愁も漂っているように見える。
「名前では...もう呼んではくれないのね」
「俺とお前の間にはもうどうしようもないくらいの深く長い溝が出来ている。仲を修復するのは無理なくらいにな...。俺は今もお前を......殺したいと思っているしな...っ」
サタンはそう言って口から魔術を発動してプルメリに放つが、
「ぐおっ!」
「もうそこまで弱っていたのね......分身はもういないって分かってるわ...。ここまでね」
満身創痍のサタンが、女神でいちばん強い者かつまだまだ余力を残しているプルメリに敵うはずもなく、返り討ちに遭う。
「もう......終わりか。この世だけでもなく、この次元でも...お前とこんな関係で終わるとは」
「私たちは......こうすることしかなかったのかな...?私は今でも、あの頃……私たちがこんな悲しい争いをする前の世界、あの時代から、やり直せればなぁ...って思ってる。もちろん、あなたと一緒によ」
指一本動かすことも出来ずにいるサタンを見下ろしながら、プルメリは悲哀を湛えた眼差しでそんな悔言《くやみごと》を漏らす。
「お前が...そんな後ろ振り返るような発言をするとは...。確かに......あの時俺も、お前も......間違いと勘違いが無かったら、こうはならなかった...かもな」
プルメリは何かに堪えるように目を瞑る。が、すぐに切り替えて光輝く短剣を取り出してサタンのもとで膝立ちになる。
「さようならサタン。やり直しができない私たちは...こうやって終わらせることしかできない」
「分かってるさそんなことは...。悪魔の長でお前は女神の長。どちらかが滅ぶのは必然だ。それが......俺だっただけの話、だ」
「もう逢うことはないでしょうね。最期にあなたの顔を見られて、本当に良かった......っ」
「フン。俺は.........まぁ嫌でもないな。
じゃあな プルメリ 」
「っ!!馬鹿.........こんな時に、ズルいよ...!
さようなら―――愛してる」
大悪魔サタンは討たれた。これにより長く続いた女神族と悪魔族との戦争は幕を閉じて、天界とあの世に平和が戻った。
サタンがいた場所をしばらく見つめながら独り言を呟く。
「さて......リリナさん。あなたは......想い人と、遠い遠いどこかへ二人ともにゆく道を、選んだのですね。私とは違う道を歩んだあなたの方法を否定しません。後は......あなたの頑張り次第です。
けどリリナさんなら......きっと大丈夫」
サタンを浄化して誰もいなくなった世界で、プルメリは一人天を仰いで、「この世」にも「あの世」にもいない、一人の少年のもとへ行った女神に言葉を贈る。
「想い人と……杉山友聖さんとどうか安らかに。彼のことはあなたに任せます――」
天に向かって、そう祈りを奉げるのであった―――
この世でもないあの世でもない、人も女神も悪魔も賢者も干渉することが出来ないと言われている「無」の次元。そこに二つの魂が現界した。やがて二つの魂は人の形をとっていく。
一人は黒髪の整った顔立ちの少年。
もう一人は肩にかかるくらいの長さの艶やかな青い髪の、華麗なドレスを着た少女。
少女は隣にいる少年の腕を取ってどこかへ駆けていく。
しばらくして立ち止まると少女は魔術を使い、無しかないこの空間に豪華な部屋を創り出した。それからさらに大きなテーブル、豪勢な料理などを次々用意して、最後にふかふかのソファーを出現させると、そこに二人で座る。
「お前......ほんまに凄いな...。まさかこんなことまで」
少年...杉山友聖は呆れが含まれた声を漏らしながら部屋を見回す。そんな彼にどやと胸を張る少女...リリナは自慢気に応える。
「今の私ならこれくらい簡単よ。たとえこんな次元に来ても......これくらいは、させて欲しいもの...!」
次第に声が震えていく。感動している様子に見える。
実際リリナは感動して歓喜している。
「あなたとこうして過ごしたいってずっとずっと......想ってた。焦がれてた。やっと、叶った...!!」
感動のあまりに彼女は涙を零す。が、すぐに拭って深呼吸をすると...可憐な笑みを湛えて友聖と向き合う。
「さぁ友聖!あの時出来なかったことをしましょう!そしていつまでも私と...幸せを探して、見つけて……一緒に幸せになりましょう!!」
「嫌や......って言っても無駄みたいやな」
前世では実現できなかったパーティー......魔王を討伐して世界を平和にした勇者友聖の感謝と労いのパーティーを開く。
可愛らしい笑顔を浮かべて幸福に浸っているいるリリナに対し、友聖は楽しそうにも嬉しそうにも幸せそうにもせず、ただ不貞腐れているだけだった。
「お前なんかと永遠に一緒とか、クソが......ッ」
「うん……今はそれでいいわ。けどいつかはあの世界で生きていた頃のように、友聖を心から笑わせてみせる!
何年かけてもいい、私と一緒にいることが幸せって思わせてみせる。それで初めて、二人一緒に幸せに…!
パーティーが終わってからも、リリナは友聖の傍にずっとい続けた。
持てる限りの知恵と力で彼に愛情を注ぎ続けていた。
それは友聖の中に未だ溜まり続けているどす黒い感情、孤独に囚われてしまった悲しい考えを全て取り除くまで、ずっと。
何十年、何百年もかけてずっと。
友聖がリリナと心から笑い合い、愛が芽生えるまで永遠に―――
「いつか必ずあなたを癒してみせる。
あなたと和解してみせる。
あなたを救ってみせる――」
リリナは太陽のような温かい笑みを浮かべて、今日も友聖にたくさんの愛情を注ぐ―――
第二部 完
NEXT↓ アナザーエンド
【はじめに】
本サイトのTwitterアカウントによるログイン機能が利用出来なくなった障害により、本アカウントのログインが出来ず、今まで投稿が出来ない状態が続いてしまいました。
更新をお待ちしていた方々には大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
サイド 友聖
ここは異世界。俺は一度死んで、ここに転生したらしい。そして俺には魔王軍と戦う勇者としての素質があるそうだ。
前世の俺は真っ当な人間だなんてとてもとても言えないものだった。
学校で酷い虐めを受けるわ。その際周りの人間は誰も助けてはくれねーわ。家族さえも俺が悪いからやと言ってくるわ、その家族と絶縁するわ。
さらには虐めが原因で進学できず。クソな上司や同僚しかいねー会社へしか勤められず、そこで不当な扱いを受けて挙句心を病んで壊して社会人辞めるわ。働かなくなって破産するわ。
そして孤独死するわで…マジでロクな人生じゃなかったな。
そんなくそったれな一度目の人生を終えて、異世界にて二度目の人生を送ることになったわけやけど。
勇者となった俺に対する扱いは、前の人生とほとんど変わらなかった。
俺を戦いの道具として扱うばかりで、身分が無い村の孤児だと見下してばかりの国王と国の大臣どもと貴族ども。
村の出身のくせに勇者の素質がある俺に嫉妬して、徒党を組んで汚く罵ったり貶めたりしにくるギルドの冒険者ども、等。
二度目の人生…異世界でも、俺のもとにはロクな人間しか現れない。前とほとんど変わらない。俺に優しくしれくれない、クズどもばっかりだと、俺は絶望に追いやられようとしていた。
けど、ぎりぎり踏み止まることが出来た。
「こんなに傷ついて......じっとしてて!応急処置程度しかできないけど治療魔術かけるから」
最初の魔王軍討伐の任務から帰ってきた、すぐ後のことだった。今まで会ったことが無いような、青い髪の美少女が、無償で俺の傷を治してくれたのだ。
「あ......私はリリナ。これでも王女です...」
リリナと名乗った王女様は俺を熱心に治療してくれて、その後も会話に誘ってきた。
「孤児だったんだ...。冒険者になる前から魔物と...?弱い魔物でもそんな年から戦ってたんだ!凄いね...!」
リリナ様だけは、あいつらと違って俺を見下したり道具扱いもせず、嫌悪したりもせずにいた。
「友聖、頑張ってね!私は戦えないけれど、こうやってお話したり治療するくらいならいくらでもしてあげられるから!みんなあなたへの当たりが酷いけれど、私だけは友聖のこと応援してるから!」
リリナ様だけが俺を支えてくれた。前の人生では彼女のような俺に親身になって易しくしてくれる他人なんて、一人もいなかった。だかた彼女には本当に助けられた。
人間関係がマジで終わっていた前の人生だった為、恋愛経験など当然皆無だったわけで。こんなにも優しくしてくれる美少女に惚れてしまうのに、時間はそうかからなかった。
とはいえ、俺のこの初恋は成就しないだろうとなと、この時そう思い込んでいた。だから早々にリリナ様との恋は諦めることにした。
あくまで、親しい友人止まりで良いと割り切ることにした。それだけでも、嬉しく思えたから。
17才になった頃、ついに魔王を討伐して、国と世界の平和を守った。
「ぐ......勇者よ…。我を討った褒美に、一つ助言をしてやろう。
お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...。見限るなら今のうちだ。人間は醜い...。
では、さらばだ勇者―――」
魔王が死に際に何か言っていたが、特に聞く耳を持たなかった。
満身創痍の体でどうにか帰って来た俺は、国王に謁見して形だけの労いと褒賞と報酬を受け取ることに。
しかしこの国の平和を守ってやったにも関わらず俺に対してだけ不当な扱いをまた強いろうとしたその時、
「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ――」
「国王様――いえ、お父様!!それはおかしいのでは!?」
後方の扉をバンと開けて怒声が上がった。振り向くろそこには、
「な...リリナ!?何故ここへ?今は魔王軍討伐を成した兵士たちへの褒賞式の最中である……………」
「そんなの見れば分かります。それよりも今の、友聖に対しての報酬に異議を唱えます!
彼は今回の討伐任務であの魔王を討伐したという、莫大な実績を上げてます。なのにロクに恩賞・報酬を与えないというのは、あまりにも不遇が過ぎます!ちゃんと彼の実績に合った、公正な褒美を与えなさいっ!」
国王のもとへ肩を怒らせながら歩を進めるリリナ様の姿があった。見るからに怒っているぞと分かるくらいに怒っている。俺に対する今のふざけた扱いに対して怒っているみたいだ...。
「し、しかしだな。この男は勇者とはいえ身分が――」
「それが何よ!?前からずっと言い続けてきてるけど、お父様も大臣たちもみんな、友聖に対する態度や扱いがおかし過ぎるわ!!彼が魔王を討ってくれたお陰で魔王軍の脅威にもう怯える必要がなくなったのよ!?彼が私たちの平和を守ってくれたのよ!?命を懸けて!!
なのにあなたたちはいつまでも友聖を見下して蔑んでばかり!自分たちは安全なところでいるばかりのくせに!恥ずかしいと思わないの!?私は恥ずかしいわ!こんな人たちが国の要人としているのだから!!
今すぐ友聖に対する報酬を正しなさい!!たとえ国王でも許さないから!!」
国王に食って掛かり、激しい雨のように国王と大臣どもを糾弾して責めるリリナ様。その激しさと彼女の剣幕に俺も国王全員が口を挟めず啞然としてしまった。
そして彼女の糾弾が終わると同時に、後ろから数名誰かが入ってきた。
「恐れながら国王様、友聖殿に対する今の報酬について我々も納得しかねます」
「あんたらは...」
彼らはいつも俺の傍で共に戦って来た兵士たちだ。同い年の男兵、少し年上の副隊長、姉的な存在の女兵、中年の隊長。
彼らは国王の前まで来ると、頭を垂れて嘆願しはじめる。
「どうか彼に相応の褒美を。ここにいる我々だけでなく、今回の魔王軍討伐に参加した他の兵士たちも同じ気持ちです!彼がいなければ私たちは今こうして無事にいられてなかったことでしょう!
どうか手厚い御恩を!!」
隊長が声を大にして俺へのちゃんとした褒美を与えるよう請求している。他の3人も同じ姿勢だ。
というか、こいつらが俺の為に頭を下げること自体が驚愕だ。俺は討伐軍の連中とほとんど上手くやれてなかったのに。こいつらとも距離をとってたのに。どうせこのクズどもと同じように俺を蔑んでハブにするんだと思ってこっちから避けてたのに...。
リリナ様と隊長たちの圧に屈した国王どもは、その場で俺に対する報酬を改正して、勲章や栄誉も与え、そして今までの数々の非礼を詫びた。大臣どもも、さらには謁見の後も貴族どもやギルドの連中からにも礼と謝罪がきた。
俺はというと。国王や大臣ども、さらにはギルドの連中など。
今まで俺に対して罵倒や侮蔑、色んな理不尽を強いて胸糞な気分にさせた奴ら一人一人に、顔面に殴りや蹴りを百発くらい全力で入れるという、落とし前をつけた。それで今までの禍根を全て無くすことにした。
全員、半死半生のダメージを負ってたっけ。その様が見れたことでようやく長年の鬱憤が晴らすことができた気がした。
それにしても、初めてだった。
他人が俺の為に怒ってくれる奴、俺のことであんなにも必死に頼み込む奴ら。
本当に、初めてだった...。
「だからその、何て礼を言ったら良いか...」
「礼なんて要らないわ。むしろ、今まで友聖に辛い思いばかりさせたことを謝らせてほしいわ。
本当にごめんなさい。もっと早くこういうことをさせていれば...」
謁見とケジメという名の制裁を終えた後、庭園でリリナ様と二人で会話をしていた。
「それでね友聖。ここからが大事なんだけど......三日後にあなたの為のパーティーを開こうと思ってるの!あなたが育った村で皆で盛大に!
今までの辛かった日々をが忘れるくらいに最高のパーティーにしてみせるから、楽しみにしててね!」
「パーティー...俺の、為に......」
普通こういうのは本人には黙って裏で準備して、当日何も知らない俺を招いて、サプライズだよと告げて一気にパァーっと明かすものだけど。
この時の俺はこういうのでも凄く......もの凄く嬉しく思えた。
「パーティー......凄く楽しみに待ってますね、リリナ様」
「うんっ!絶対に、満足させてあげるんだからっ」
庭園で二人、互いに嬉しそうに笑い合う。こうなることが正解だったと心からそう思える、そんな気がした。
そして三日後、俺は自分が育った村へ行く。そこで魔王軍討伐を果たした俺や俺と親しい兵士たちに対する、慰労及び感謝及び癒し目的のパーティーが催された。
共に戦った兵士たち、村の一部の連中、そしてリリナ様。皆が俺にありがとう、お疲れ様と声をかけてもてなしてくれた。
(......前の人生では、頑張っても何一つ褒められたことなかった人生だった。成人してからは更に酷いものだった。役立たずとか目障りとか言われてばかりで、どこへ行っても自分だけ腫れもの扱いされてハブにされてばかり...。
どこへ行っても俺に居場所なんて一つも無かった...。
それが、今はこんな――)
「友聖」
一人感慨に浸っているとジュースを手にしているリリナ様がこっちに来る。俺の隣に座って頭を俺の肩に乗せてくる。そんな仕草に俺はドキリとする。
「まだ、ちゃんと言ってなかったからここで言うね...。友聖、
私たちの平和を守ってくれて ありがとう 」
こっちを見て、可愛くて綺麗な笑顔で、真っすぐに感謝の言葉を告げたリリナ様に、俺は心を奪われる。
「あなたが元気で楽しそうでいるその顔が見れて、良かったです。
あなたがそう言ってくれたお陰で俺は......生まれて初めて報われたと実感できました。
こちらこそ、ありがとうございます リリナ様...!」
俺の心からの感謝の言葉を聞いたリリナ様は、ただ黙って俺の頭を撫でるという行動で返事した。その手つきは優しくて、安心するものだった。
「 あなたが好きよ 友聖 」
ポツリと、リリナ様は突然告白する。
いきなり好きと言われてもちろん驚いてはいる。けどそれ以上に嬉しいという気持ちが、俺の心を満たしていた。
「俺も...リリナ様が好きです」
だから俺はこの気持ちを素直に伝える。好きだ、恋している、傍にいてほしい。俺はそれらを心の中で言ったのか、声に出して彼女へ伝えたのか、分からない。
けどリリナ様の、その嬉しそうな様子から、俺の告白は成功したのだと、そう思えた。
相思相愛...これ以上ない最高の形で俺の初恋は叶った。前世では全く成し得なかった恋愛成就。まさかここで叶うなんて夢にも思わなかった。
俺は今、幸せだ...!
「友聖、これからは私と楽しく幸せな日々をすごしましょう。辛く嫌なことがあっても私が癒してあげるから。何があっても私は友聖の味方になるから。
だからこれからずっと、私の傍にいて下さい」
もちろん喜んで―――ちゃんと言葉にできたのか、またも分からずじまいだったが、返事と同時に俺はリリナ様の手を離すまいとしっかり握った。これが答えだと言わんばかりに。だから、俺のこの気持ちはしっかり伝えられたはずだ。
「良かった...!」
告白に成功したことに対してか、リリナ様はそう零して目にうっすら涙を浮かべていた。今度は俺が彼女の頭を撫でてやる。
正直、この世界へ転生してから俺はずっと、前の人生とこの世界の害悪どもを殺してやりたいって考えていた。いつかは残酷に甚振って復讐してやろうって考えていた。
けど今は...俺を好きだと言ってくれる人がいる。傍にいてくれる人がいる。味方になってくれるひとがいる。
たった一人だけど、それだけで俺は救われた気持ちになれた。心が浄化された。復讐とかもういいやと思うようになれた。
日和ったとも言えるかもしれない。もし今この場で俺を虐めた連中や、俺を排除したクソ上司や同僚なんかが現れたら、すぐにこの手でズタボロにしてしまうかもしれない。
でもそれだけだ。殺したりは多分もうしない。
なぜなら、自分の傍には好きな人がいるから。
俺を好いてくれて支えてくれる人がいる限り、俺は人としての道を踏み外さないでいられると思ってる。
(せめてこの人の信頼を裏切らない自分でいよう。今だけを見て、幸せにいよう。俺は、幸せになって良い人間だ!)
こうして 杉山友聖は救われ、幸せな人生がこれから始まる―――
サイド リリナ
《《それ》》は突然のお告げのようなものだったのか。
とにかく私の頭の中に語りかけるものがあった。
“国王たちによる不遇な対応・態度を正しなさい”
“《《偽る》》のは止めなさい”
“素直に、今抱いているその気持ちをそのまま伝えなさい”
“そうすれば 彼の心は救われます きっと―――”
友聖が魔王を討伐してここへ帰ってくるという報せを聞いて、私は彼の無事に安堵した後、彼を盛大に労ってあげよう思った。
どうすれば友聖にいちばん喜んでもらえるかを考えた末に、彼の村で感謝と労いを込めたサプライズパーティーを開こうと思いついた。
――そんな時のことだった。私の頭の中に語り掛けてくる声がしたのは。
私そっくりの声で、まるで私の考えなど全てお見通しかのような、そして私のこの考えを諫めるかのようなお告げだった。
“友聖の心は今も、壊れかけの状態です。これ以上彼を絶望させて、憎悪を抱かせたりしたら…あなたやこの世界は破滅することになります。
たとえ嘘でも彼を突き放して裏切るようなことをしてしまえば、彼は完全に壊れてしまいます。”
“ どうか 彼の心を救ってあげて――”
突然のそのお告げに、私は何故か聞き入ってしまっていた。頭に語り掛けてきたその声に切実さが込められていて、他人事とは思えなかったから。
確かに、出会った時の友聖はとても放っておけないような状態でだった。あと少しのところで絶望に飲み込まれてしまいそうで、いつもぎりぎりの状態に見えていた。
年月を重ねることでそれは改善されたのだと思っていたけど。
それが間違いだとしたら...勘違いだとしたら。嘘でも友聖に冷たく突き放す態度をとってしまったら。
それが友聖にとって最悪の裏切り・絶望となってしまうのなら……
「私、は―――」
――これから催される、魔王軍を討伐した国王軍を称える褒賞式のところへ、私は向かっていた。
本来は王女である私であっても、関係無い者の立ち入りは禁止されているが、緊急事態だと言って無理矢理通してもらう。
そして案の定、お父様たちは友聖にだけまたも不遇な扱いをしようとしていた。
命を懸けて魔王を倒したというのに。今までの魔王軍との戦いでいちばん酷い傷を負ってまで私たちの平和を守って帰ってきてくれた彼に対して!
あの薄情者たちはまたも...!
居ても立っても居られず、私は式典に乱入した。
「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ――」
「国王様――いえ、お父様!!それはおかしいのでは!?」
私の乱入に誰もが驚愕している。友聖もビックリした顔をしてる。サプライズは、これで成功ね...なんてね!
「な...リリナ!?何故ここへ?今は魔王軍討伐を成した兵士たちへの褒賞式の最中である……………」
「そんなの見れば分かります。それよりも今の、友聖に対しての報酬に異議を唱えます!
彼は今回の討伐任務であの魔王を討伐したという、莫大な実績を上げてます。なのにロクに恩賞・報酬を与えないというのは、あまりにも不遇が過ぎます!ちゃんと彼の実績に合った、公正な褒美を与えなさいっ!」
私は国王…お父様に反論させまいと、まくし立てて論破しにかかった。
「し、しかしだな。この男は勇者とはいえ身分が――」
この期に及んでまだふざけたことを言おうとしているお父様…いいえ、この男に、私はついに「キレる」――
「それが何よ!?前からずっと言い続けてきてるけど、お父様も大臣たちもみんな、友聖に対する態度や扱いがおかし過ぎるわ!!彼が魔王を討ってくれたお陰で魔王軍の脅威にもう怯える必要がなくなったのよ!?彼が私たちの平和を守ってくれたのよ!?命を懸けて!!
なのにあなたたちはいつまでも友聖を見下して蔑んでばかり!自分たちは安全なところでいるばかりのくせに!恥ずかしいと思わないの!?私は恥ずかしいわ!こんな人たちが国の要人としているのだから!!
今すぐ友聖に対する報酬を正しなさい!!たとえ国王でも許さないから!!」
この日私は今まで生きてきた中でいちばん怒ったんじゃないかって思う。顔が怒りで熱く真っ赤になっている自覚もある。
誰も私に反論してこなくなった。みんな友聖に対して日頃から不遇な扱いをし過ぎていると自覚していたからなのか。
ここまで言っても改心しないのなら、お父様も大臣たちも全員、王国から追放してやるわ!これ以上彼らには友聖を傷つけさせない!
友聖は私が守る...!!
さらにその後、私が呼んでおいた兵士たち…友聖と共に戦った彼らも入ってくる。そしてお父様の前で4人とも頭を下げて、友聖の扱いを正すよう嘆願してくれた。友聖の次に活躍した人たちだった彼らだから、発言力があり。
彼らの迫力に圧されて断る余地が無いと悟ったお父様は、この場で友聖の公正な褒賞・報酬を発表し直して直ちに贈呈した。
その後も私は彼らとともに国中を回って、こう告げた。
友聖が皆の為に命を懸けて魔王を倒したこと、私たちの平和を守ったこと、彼を邪険に扱うのはもう止めてほしい…などを声高に叫んで、国中の友聖に対する評価を覆してみせた。
今までがおかしかった。国中の皆も何故今まで彼を忌み嫌ってたのか分からなかったらしい。雰囲気に流されてたからか、私の一声で簡単に変わってくれた。友聖が皆から不当に嫌われることはもうなくなるはず。
これで友聖も少しは救われただろうか。友聖によるお父様たちへの“ケジメ”が終わった後、彼を城の庭園に呼び出して話をする。
「やっと、落ち着いて話せるね...」
パーティーのことを言う前に何か別の話をしてから…と考えていると、友聖の方から話をしれくれた。
「初めてだったんです。
身内を含む誰かが、俺の為に怒ってくれたことも。
俺に対する誤解を必死に解いてくれた人たちがいたことも。
本当に、初めてだった...。
だからその、何て礼を言ったら良いか...」
その発言内容は、聞くも不憫に思えるものだった。こんな彼にどうして今まであんな仕打ちを。そんな仕打ちを今までさせてしまっていた私なんかに、礼を言われる資格は無い...。
「礼なんて要らないわ。むしろ、今まで友聖に辛い思いばかりさせたことを謝らせてほしいわ。
本当にごめんなさい。もっと早くこういうことをさせていれば...」
だから彼のお礼に私は謝罪で返した。それきり無言が続く。
(伝えるなら、今しかない...!)
心の中でよし!と叫んでから、友聖の顔をしっかり見つめながら、私はあのことを言う――
「それでね友聖。ここからが大事なんだけど......三日後にあなたの為のパーティーを開こうと思ってるの!あなたが育った村で皆で盛大に!
今までの辛かった日々をが忘れるくらいに最高のパーティーにしてみせるから、楽しみにしててね!」
「パーティー...俺の、為に......」
言えた!包み隠さず全部言った!そして友聖は...何だか嬉しそう...!
「パーティー......凄く楽しみに待ってますね、リリナ様」
「うんっ!絶対に、満足させてあげるんだからっ」
庭園で私たちは互いに嬉しそうに笑い合った。
良かった…っ と、そんな声が聞こえた気がした。
(この行動は間違ってはいなかった。だって友聖すごく喜んでくれてるもの。これで良かったんだ...!友聖、凄く楽しみにしてるって言った。その期待に絶対応えなきゃ!)
それから二日間、私は友聖が育った村へ行って、一緒に来た兵士たちと村の人たちでパーティーの準備を取り組んだ。
贅を尽くすの今しかないと思い、国の予算など度外視でパーティーに心血とお金を注いだ。今まで友聖にロクに報酬を与えなかった分、これくらいは当たり前だ。
「皆も、ありがとうね。友聖の味方になってくれて」
式の時にも一緒にいた兵士たちに改めて礼を言う。
「彼には何度も助けられました。彼がいたからこそ私たちはこうして平和な世界で暮らすことが出来ている。これくらいはして当然のこと」
隊長が穏やかに笑って答える。
「リリナ様が羨ましいです。友聖君のこと狙ってたんだけど、私が入る隙は無いみたい」
女の兵士が少し、ふくれ面しながら呟く。この人友聖のこと好いてたんだ...。
そんな会話をしつつ、着々と準備を進めて、そして三日後に友聖を村に呼んでパーティーを催した。
皆が友聖に感謝と労いの言葉をかけて楽しく過ごしている。友聖もまんざらでもない様子だ。
友聖が一人になったタイミングを狙って、ジュースを片手に彼の隣に座る。思い切って彼の肩に頭を乗せてみた。少しビックリしたみたいだけど嫌じゃないみたいだからこのままでいよう。
それにまだ、友聖に言いたいことがあるし、これで少し緊張をほぐして......よし、言おう...!
「まだ、ちゃんと言ってなかったからここで言うね...。友聖、
私たちの平和を守ってくれて ありがとう 」
お礼を、想いを込めたお礼をしっかり伝える。正直に、思ったままに全部伝えた。
そして友聖は嬉しそうに、
「あなたが元気で楽しそうでいるその顔が見れて、良かったです。
あなたがそう言ってくれたお陰で俺は......生まれて初めて報われたと実感できました。
こちらこそ、ありがとうございます リリナ様...!」
私に感謝の気持ちを伝えてくれた。私はそんな友聖の頭をただ撫でてあげる。そうしたいとただ思っていた。そして気付けば―――
「 あなたが好きよ 友聖 」
この熱い気持ちを抑えきれないまま、私は友聖に愛の告白をしていた。顔が真っ赤だ。俯きたいけどぐっとこらえて友聖の顔をしっかりみつめる。
友聖は少し驚いていたけど、ちゃんと答えを言ってくれた――
「俺も...リリナ様が好きです 」
一瞬時が止まった。そう錯覚する程に、その一言が聞けて凄く嬉しかった!
好きって言ってくれた!相思相愛。初恋が叶うなんて、こんな幸せがあるだろうか!
嬉しい、嬉し過ぎる。こんな時が来るなんて、夢みたい...!
「友聖、これからは私と楽しく幸せな日々をすごしましょう。辛く嫌なことがあっても私が癒してあげるから。何があっても私は友聖の味方になるから。
だからこれからずっと、私の傍にいて下さい」
想いを全て伝える。友聖は「もちろん喜んで」と返事してくれてさらには私の手を握ってくれた。離さないと言わんばかりに、強く優しく――
「良かった...!」
想いを伝えて、相思相愛が叶ったから...だけではないのかもしれない、この感情は...。
誰かの、心からの安堵が伝わってくるような...でもまるで自分のことのように想えて、私も何だか感動してきて...いつの間にか涙を流していた。そんな私の頭を、友聖が撫でてくれた。さっきのお返しと言わんばかりに。それが心地好くて、しばらくされるがままだった。
(これからは友聖との時間、大切にしていこう。
二人で一緒に、幸せになろう!)
友聖を本当の意味で救うことが出来た、私と彼との幸せな時間は これからもずっと続く―――
アナザーエンド 完