俺は杉山友聖《すぎやまゆうせい》。24歳の男、職業は無職で独り暮らし。そして―
(腹減った......喉も乾いた......というか、寒い...ねむ、い......)
絶飲食をして30日くらいだろうか、俺の瞼は今にも閉じようとしている。窓から日差しが入っているにも関わらずだ。
望んで絶飲食を実施しているわけではない。破産して食い物が買えず、水道も止められてしまって、飲み食いしたくてもできない状況だ。飢餓によって立ち上がることができず家から出ることも出来ない。
そんな日々が続いていくうちに、ついに俺の生命活動が終わろうとしていた。
(マジで、死ぬのか......。まぁこれだけ絶飲食してれば当たり前だよなぁ。このご時世で餓死だなんて、珍しい死に方、だよな...)
転落死、刃物による失血死、服毒死、溺死、焼死...どれも嫌なので自然死ともいえる飢えを選んだわけだが...断言するぞ?
俺は、望んでこんな結末を選んだわけじゃない。
もっと、生きていたかった。もっと人生を楽しんでいきたかった...。
(けど......こんな糞社会で、ゴミクズばかり...生きる価値無いカスばかりの人間だらけの世の中で、どうやっていけって言うんだよ?どうしようもないじゃないか...。こんな世の中、こんな社会は、俺には不適応だったんだ。
最初から、人生詰んでたんだよ......)
小中高と、学生時代は酷い虐めに遭ってきた。今でも俺を虐めた最低クズカスどもの名前は憶えている。殺したくて堪らない。
どうせ死ぬならあいつらの住所を突き留めて復讐してやろうと思ったのだが、何も出来ないまま今に至ってしまった。
虐めが原因で、大学へ進学することが出来ず、高卒のまま社会に出た。そこからも、俺を待っていたのは、またも理不尽でクソッタレな仕打ちばかりだった。
学歴はもちろん、声とか挙動に問題があるとかでいくつもの会社に断られて、浪人生活がしばらく続いた。やっとのことで採用してくれた雇用先がいくつもあったが、どれも人格が腐ってる人間ばかりが蔓延るブラック企業だらけだった。新人の俺をハブって職場での人間関係は最悪、上司も最初はまともに思えたが数か月経つと糞な同僚どもに混じって俺をハブるようになった。俺ばかり残業を押し付けられて、教えられていないことを出来なかったことに叱責をぶつけてきて、後から入ってきた社員には何故か贔屓する始末だ。
引っ越し、宅急便、清掃...転々と勤め先を変えてもそんな超劣悪労働環境なところばかりだった。ある時、過去の鬱憤と現在進行形で溜まっていたストレスに耐え切れずとうとうブチ切れた俺が同僚と諍いを起こした結果、俺だけが厳罰をくらう羽目に遭って、心身に限界がきた俺は会社を辞めて、そこから無職の引きこもりになった。
なお、家族とは高校を卒業したと同時に絶縁している。虐めが原因で家庭内で荒れた俺は親に八つ当たり気味に暴言を吐いたりして、それを聞いたクソッタレの叔父がしゃしゃり出てきて、そいつと争って殴った結果、制裁をくらった後に親から手切れ金(50万くらい)を渡されて高校卒業と同時に家を出て行った。住まい先はあいつらから遠く離れた地域にした。
勘当をくらったあの日から、俺は完全に自分の味方がいなくなった。孤独......それには慣れているのだが支援してくれる奴さえいなくなるのはそれなりにキツかった。というか、最初から俺には味方などいなかったのだ。だからこんな目に遭ってるのだから。
独り暮らしを始めてからの私生活でも、俺に害を為す存在はいた。安いアパート暮らし、隣人はこれまた糞野郎だ。死にかけている今だって、彼女か何か知らんが二人分の喧しい声が聞こえてくる。壁が薄いってんのに全くマナーを守らない。そのことを注意したら逆ギレされて水かけられた時はマジで殺してやろうかと思った。一度でもいいから思い切りぶん殴っておけば良かった...。
学生時代の暴行等の虐めと職場での陰湿な虐めで鬱病になり、精神疾患に陥った俺は全てが厭になって全てを投げ捨てて、ニートになって引きこもり生活を始めてしまった。
食って漫画読んでゲームしてシ〇って糞して寝るだけの生活だった。誰とも会話しない、他人と社会との関わりを、完全に絶ってやった。
そんな消費だけの生活を1年以上続けた結果......ついに資産が尽きてしまい、今の状態に至っている。生活保護すら貰えなかったから破産したのはあっという間だった。
(どこで、間違えたんだろう......こんなはずじゃなかった。もっと、マシな人生を送られたはずだった......)
別に悪いこと......犯罪になるようなことはしなかった。俺が根暗で気弱だったわけじゃない。嫌なことは嫌と言える子どもだった。それが気に障ったクラスのカースト上位の糞野郎とクズ不良に目を付けられて虐められた。
会社でも同じような理由でハブられて酷い扱いを受けた。労基に訴えても不発に終わったし。
家族に対してだって、俺の虐められ事情を把握していたにも関わらずたった一回の暴走で俺を切り捨てやがった。もっとも、そう仕向けたのは割り込んできたあの糞叔父だったから憎むべきはそいつなのだが。
とにかく、非があるのはあいつらばかりだ。悪いことをしたのは、あいつらの方だ!
何で、俺がこんな目に遭わなければならなかったんだ?虐げてきたあいつらが庇われてのうのうと過ごして幸せを得ている。
嫌なことは嫌と言って間違いを指摘しただけの俺が、虐げられて疎外されて損をする。
被害者である俺が救われない、助けの手さえ差し伸べないこの世の中自体が腐ってやがる。
俺は、生まれてきた世界を間違えたんだ。
そう思わずにはいられなかった。
かといって死にたいとは思わなかった。望んで死にたいとか思うわけないじゃないか。ニートになってからの俺は、自分を害した連中に復讐したいと毎日思い続けていた。
けれど実行には移れなかった。俺にそんな力が無かったのと、標的が多すぎて達成が困難過ぎたから。
殺してやりたい。
何で俺が死のうとしてるのに俺を害した連中は生きているんだ?死ぬべきなのはあいつらだろうが。人の...俺の人生をこんなにしておいて、あいつらにはなんの罰が、裁きが無いのかよ。
そんなことが、許されて良いわけがないはずだ...!!あいつらには、俺を害したことだけじゃない、生まれたことさえ後悔するくらいの罰を受けるべきだ!!
(学校の同級生ども、会社の上司に同僚、アパートの隣人、叔父...。どいつもこいつも憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい八つ裂きにして細切れにして潰して腐らせて燃やして消してやりたい...!!)
あいつらが今も五体満足で人生を謳歌しているのかと思うと狂うくらいの怒りがこみ上げる。幸せに暮らしているのかと思うと絶望と地獄の淵に叩き落としたくなる。
(もし、悪霊になれるのなら、俺をこんな風になった諸悪の根源どもを祟り殺しにいってやる!この一生は、失敗だった...。もし“次”があるなら、今度は、
俺が 虐げる 番 だ!!!)
「ふ......ふふ。ふ、へへへへへへへ.........」
死を前にしてとうとう心が折れておかしくなってしまった俺は、乾いた笑い声を漏らし一筋の涙を流した。だけどその目には憎悪の念に満ちた渦が巻いていた。
「いい、さ。俺は死ぬ......。けどあいつらへの憎悪と復讐心も抱いて死んでやる......こんな世の中にしてくれたクソッタレな大人どもにも、なぁ...!」
さようなら 俺に優しくしてくれなかったクソ世界。
こうしてこの世界の負け組の俺は、孤独死して消えていった―