俺は杉山友聖《すぎやまゆうせい》。24歳の男、職業は無職で独り暮らし。そして―


 (腹減った......喉も乾いた......というか、寒い...ねむ、い......)


 絶飲食をして30日くらいだろうか、俺の瞼は今にも閉じようとしている。窓から日差しが入っているにも関わらずだ。
 望んで絶飲食を実施しているわけではない。破産して食い物が買えず、水道も止められてしまって、飲み食いしたくてもできない状況だ。飢餓によって立ち上がることができず家から出ることも出来ない。
 そんな日々が続いていくうちに、ついに俺の生命活動が終わろうとしていた。

 (マジで、死ぬのか......。まぁこれだけ絶飲食してれば当たり前だよなぁ。このご時世で餓死だなんて、珍しい死に方、だよな...)

 転落死、刃物による失血死、服毒死、溺死、焼死...どれも嫌なので自然死ともいえる飢えを選んだわけだが...断言するぞ?
 

 俺は、望んでこんな結末を選んだわけじゃない。
 もっと、生きていたかった。もっと人生を楽しんでいきたかった...。


 (けど......こんな糞社会で、ゴミクズばかり...生きる価値無いカスばかりの人間だらけの世の中で、どうやっていけって言うんだよ?どうしようもないじゃないか...。こんな世の中、こんな社会は、俺には不適応だったんだ。
 最初から、人生詰んでたんだよ......)

 小中高と、学生時代は酷い虐めに遭ってきた。今でも俺を虐めた最低クズカスどもの名前は憶えている。殺したくて堪らない。
 どうせ死ぬならあいつらの住所を突き留めて復讐してやろうと思ったのだが、何も出来ないまま今に至ってしまった。

 虐めが原因で、大学へ進学することが出来ず、高卒のまま社会に出た。そこからも、俺を待っていたのは、またも理不尽でクソッタレな仕打ちばかりだった。
 学歴はもちろん、声とか挙動に問題があるとかでいくつもの会社に断られて、浪人生活がしばらく続いた。やっとのことで採用してくれた雇用先がいくつもあったが、どれも人格が腐ってる人間ばかりが蔓延るブラック企業だらけだった。新人の俺をハブって職場での人間関係は最悪、上司も最初はまともに思えたが数か月経つと糞な同僚どもに混じって俺をハブるようになった。俺ばかり残業を押し付けられて、教えられていないことを出来なかったことに叱責をぶつけてきて、後から入ってきた社員には何故か贔屓する始末だ。
 引っ越し、宅急便、清掃...転々と勤め先を変えてもそんな超劣悪労働環境なところばかりだった。ある時、過去の鬱憤と現在進行形で溜まっていたストレスに耐え切れずとうとうブチ切れた俺が同僚と諍いを起こした結果、俺だけが厳罰をくらう羽目に遭って、心身に限界がきた俺は会社を辞めて、そこから無職の引きこもりになった。

 なお、家族とは高校を卒業したと同時に絶縁している。虐めが原因で家庭内で荒れた俺は親に八つ当たり気味に暴言を吐いたりして、それを聞いたクソッタレの叔父がしゃしゃり出てきて、そいつと争って殴った結果、制裁をくらった後に親から手切れ金(50万くらい)を渡されて高校卒業と同時に家を出て行った。住まい先はあいつらから遠く離れた地域にした。

 勘当をくらったあの日から、俺は完全に自分の味方がいなくなった。孤独......それには慣れているのだが支援してくれる奴さえいなくなるのはそれなりにキツかった。というか、最初から俺には味方などいなかったのだ。だからこんな目に遭ってるのだから。

 独り暮らしを始めてからの私生活でも、俺に害を為す存在はいた。安いアパート暮らし、隣人はこれまた糞野郎だ。死にかけている今だって、彼女か何か知らんが二人分の喧しい声が聞こえてくる。壁が薄いってんのに全くマナーを守らない。そのことを注意したら逆ギレされて水かけられた時はマジで殺してやろうかと思った。一度でもいいから思い切りぶん殴っておけば良かった...。

 学生時代の暴行等の虐めと職場での陰湿な虐めで鬱病になり、精神疾患に陥った俺は全てが厭になって全てを投げ捨てて、ニートになって引きこもり生活を始めてしまった。
 食って漫画読んでゲームしてシ〇って糞して寝るだけの生活だった。誰とも会話しない、他人と社会との関わりを、完全に絶ってやった。
 そんな消費だけの生活を1年以上続けた結果......ついに資産が尽きてしまい、今の状態に至っている。生活保護すら貰えなかったから破産したのはあっという間だった。

 (どこで、間違えたんだろう......こんなはずじゃなかった。もっと、マシな人生を送られたはずだった......)

 別に悪いこと......犯罪になるようなことはしなかった。俺が根暗で気弱だったわけじゃない。嫌なことは嫌と言える子どもだった。それが気に障ったクラスのカースト上位の糞野郎とクズ不良に目を付けられて虐められた。
 会社でも同じような理由でハブられて酷い扱いを受けた。労基に訴えても不発に終わったし。
 家族に対してだって、俺の虐められ事情を把握していたにも関わらずたった一回の暴走で俺を切り捨てやがった。もっとも、そう仕向けたのは割り込んできたあの糞叔父だったから憎むべきはそいつなのだが。
 とにかく、非があるのはあいつらばかりだ。悪いことをしたのは、あいつらの方だ!

 何で、俺がこんな目に遭わなければならなかったんだ?虐げてきたあいつらが庇われてのうのうと過ごして幸せを得ている。
 嫌なことは嫌と言って間違いを指摘しただけの俺が、虐げられて疎外されて損をする。
 被害者である俺が救われない、助けの手さえ差し伸べないこの世の中自体が腐ってやがる。
 俺は、生まれてきた世界を間違えたんだ。
 そう思わずにはいられなかった。
 かといって死にたいとは思わなかった。望んで死にたいとか思うわけないじゃないか。ニートになってからの俺は、自分を害した連中に復讐したいと毎日思い続けていた。
 けれど実行には移れなかった。俺にそんな力が無かったのと、標的が多すぎて達成が困難過ぎたから。

 殺してやりたい。
 何で俺が死のうとしてるのに俺を害した連中は生きているんだ?死ぬべきなのはあいつらだろうが。人の...俺の人生をこんなにしておいて、あいつらにはなんの罰が、裁きが無いのかよ。
 
 そんなことが、許されて良いわけがないはずだ...!!あいつらには、俺を害したことだけじゃない、生まれたことさえ後悔するくらいの罰を受けるべきだ!!


 (学校の同級生ども、会社の上司に同僚、アパートの隣人、叔父...。どいつもこいつも憎い。
 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい八つ裂きにして細切れにして潰して腐らせて燃やして消してやりたい...!!)


 あいつらが今も五体満足で人生を謳歌しているのかと思うと狂うくらいの怒りがこみ上げる。幸せに暮らしているのかと思うと絶望と地獄の淵に叩き落としたくなる。

 (もし、悪霊になれるのなら、俺をこんな風になった諸悪の根源どもを祟り殺しにいってやる!この一生は、失敗だった...。もし“次”があるなら、今度は、
 俺が 虐げる 番 だ!!!)


 「ふ......ふふ。ふ、へへへへへへへ.........」

 死を前にしてとうとう心が折れておかしくなってしまった俺は、乾いた笑い声を漏らし一筋の涙を流した。だけどその目には憎悪の念に満ちた渦が巻いていた。

 「いい、さ。俺は死ぬ......。けどあいつらへの憎悪と復讐心も抱いて死んでやる......こんな世の中にしてくれたクソッタレな大人どもにも、なぁ...!」



 さようなら 俺に優しくしてくれなかったクソ世界。
 こうしてこの世界の負け組の俺は、孤独死して消えていった―


 気がつくと、俺の目の前には無機質な空間があり、そこに金髪の妙齢の女性が一人いた。何だか神々しく感じられるその女性は大女神《おおめがみ》と名乗り、これから俺は異世界に転生すると説明された。そこの世界には魔王の脅威にさらされていて、いずれ俺は魔王軍と戦うことになるだろうと予言した。
 転生先の世界は、魔王軍がいる世界以外へは行けないとのことで、仕方なくそのハズレ枠の異世界に転生することを承諾した。転生する際にこれまでの知識・知恵・経験を引き継ぐこと、戦闘における特別な才能と能力を授けられて、俺は生まれ変わった。俺の想いがそうさせたのかどうかは知らないが。

 転生した俺はは3才児のガキとして生まれ変わり、森をうろついていたら保護されて近くの村が運営している孤児院に引き取られて、そこで二度目の人生を歩み始めた。容姿は、前世の幼少期の自分と同じだった。黒髪黒目の黄色肌の...幸薄い雰囲気を醸し出している、純日本人男児だ。
 俺は早速自身の能力を確認するべく行動に移った。武術と魔術の両方に秀でているというバリバリの戦闘系の才能に恵まれていると分かった俺は、そこからずっと己の戦闘技術を磨き続けた。

 10歳から原則では冒険者稼業が認められているこの異世界のルールに従い、その年になった俺は早速冒険者になって、村近辺に出現する魔物を討伐したり、ギルドが出す依頼をこなしたりして過ごした。

 そこから5年後、俺に勇者の素質があることが発覚され、それを知った孤児院の人間や村人が、噂を流して喧伝しやがった。俺は望んではなかったのに。やがて噂を聞きつけた国王が、半ば強制に俺を王国に連れて、いきなり魔王軍と魔王の討伐に力を貸せと命令してきた。
 その時の国王の命令口調が、前世のブラック企業のクソ上司を彷彿とさせてとても嫌な気分になった。断ることを許さないという圧力が大臣たちや兵士たちからもかかってきて、更には可憐な王女様からもお願いされた俺は、渋々命令に従って王国の魔王討伐軍に入隊した。
 そこから勇者としての異世界生活が始まったわけだが......ここでも俺に対する扱いはクソッタレなものだった。

 「勇者の素質があると聞いて呆れる。あの程度の魔物を容易に討伐できないのか?あまり失望させてくれるなよ」

 討伐任務から帰ってくる度にネチネチと偉そうな口を常に叩いてくる大臣ども。俺はチート主人公なんかじゃない。最初からハイレベルの魔物なんか倒せるわけないのに、いつも強い兵士たちと比較して俺にそんなことを言ってくる。前世の嫌味ばかり言ってくるパワハラ上司みたいに。



 「勇者のお前の為に沢山出資しているんだ!私たちの為にもっと魔王軍を討伐してもらわないと困るよ君!」
 「そもそも下賤な身分が勇者だというのがおかしいのだ!しかも大して強くもい、せいぜい王国の兵士10人分程度の実力しかない。おまけに体も貧相で幸薄い顔をしている。これだから平民は...!」

 出資しているからといって俺が身を粉にして魔族討伐するのは当たり前だとか、身分などを理由に俺を貶す言動を浴びせてくる貴族ども。だから俺は素質があるだけで、チート無双できるスペックなんてないってんだろが。しかも外見と身分も馬鹿にしてきやがる。これも前世と同じ、外見を貶してくるクソ同僚みたいで最悪だった。



 「こんなガキが勇者だと?どうせイカサマか何かで討伐軍に入れてもらえたクソガキだろうが!弱そうな形のくせに調子こいてんじゃねーぞ!」
 「お前なんかが魔王軍の猛者と戦っただぁ?ホラを吹くのも大概にしろぉ!」

  これまた外見でしか判断ができない性格クソ野郎の冒険者ども。ギルドに入る度にイカサマ野郎だの偽勇者だのと罵ってきてたくさん悪口を浴びせられた。こっちが何か言ったら逆ギレしてきて暴力振るってくるクソ野郎もいた。安アパートのあの隣のクズ野郎と同じ人間ばかりだ。



 ほんっっっと、異世界でもロクな人間しかいない。前世とほとんど変わらない、クズどもばっかりだ。勇者だからといって過度の期待をしてきて、平民だから貴族や王族の言うことを聞くのは当たり前だみたいなことを言ってくる。ブラック企業となんの変わりもない最低の日々だった。前世のとある小説での造語で...異世界は良い世界...などとあったが、ふざけたことほざいてんじゃねーぞバカルテットが。


 だけど......



 「友聖、討伐任務ご苦労様です。今回はいつもよりレベルが高い魔物と戦ったと聞いたわ。ケガは...平気?」


 唯一、俺のことを気にかけてくれて労いの言葉をかけてくれる人もいた。
 王女のリリナ様。艶やかな青い髪を肩にかかるくらいまで伸ばして、笑うと可愛い少女を思わせるこの彼女だけが、戦いから戻ってくる俺に優しい声をかけてくれた。年が近いこともあって、親しい同級生のように接してくれて、俺の唯一の味方だった。
 
 「友聖はどんどん強くなってるよ。勇者っていわれるだけあって成長が早いのかな。でも、無理はしないでね?無事に帰ってくれるのが良いから...」
 「ありがとう......リリナ様」

 人の心を潤してくれるようなその綺麗な声に俺は癒された。リリナ様の支えがあったお陰で、なんとか腐らずに勇者としての責務を負って、魔王軍と戦った。次第にチートレベルに強くもなっていき、魔王軍をたくさん討伐できるようになった。

 成果をたくさん上げても、俺に対する国王や大臣、貴族どもの見る目は変わらずで、王国...いや、世界の為に粉骨砕身の精神で魔王軍と戦っているのに俺を戦いの道具としか見ていない。自分らの為に汗と血と心を流して削るのは当然だと言いそうな態度の野郎ばかりだ。
 討伐隊の兵どもやギルド登録の冒険者どもも、実力をつけた俺に対して直接的な干渉はしてこなくなったものの、陰で嫌味や嫉妬の類の醜い言葉を遠くから浴びせられるようになった。さらには王国の民や村の人間までもが、俺に対して嫌味を言うようになった。さっさと魔王を倒せだの何だのと、こっちはいつも全力で戦っているのに...そもそも元はこの世界の人間じゃないっていうのにだ。
 そういう目や言葉が向けられる度に、前世でのクソッタレな出来事が掘り返されて胸糞な気分になった。何でこんな奴らの為に頑張らなければならないのか?嫌味や侮蔑の目や言葉しか浴びせてこないクズどもを守らなければならないというのか、マジで心が病みそうになった。

 けれどリリナ様だけは、そんな俺を支えてくれた。前世で肉親以外...他人で俺に優しくしてくれた人は一人もいなかったので彼女には本当に助けられた。少し、恋慕の情を抱いた自覚もあった。が、身分を重視する旧時代の人間が蔓延るこの異世界では、俺のこの儚い恋心は成就しないだろうと思い込み、早々に彼女との恋は諦めた。あくまで、親しい友人止まりで良いと割り切った。それだけでも、嬉しく思えたから。
 
 そして、勇者として戦うことが決まってから約2年後、ついに俺は死闘の末に魔王を討伐して、魔王軍の殲滅を成し遂げた。
 五体ズタズタにされながらも、魔王との一対一《サシ》勝負を制して辛勝、魔王城を陥落させた。最終決戦前の俺は、武術と魔術、さらには剣術を、右に出る奴はいないくらいに極めたチート勇者と化していた。どうやら俺は大器晩成型のチート主人公だったらしい。
 ともあれ大女神の予言通り魔王と戦うことになり、最終的には魔王を倒して俺は異世界の人間たちの平和を守ることに成功したのであった。

 「ぐ......勇者よ、我を討った褒美に一つ助言をしてやろう。
 お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...。見限るなら今のうちだ。人間は醜い...。
 では、さらばだ勇者―――」

 魔王が死に際に何か言っていたが、特に聞く耳を持たなかった。
 とにかくこれで少しは俺を見る目が変わるだろう。蔑んできた俺への態度の改正、そして今回の魔王討伐に対する褒賞・地位の確立等等......もう俺を蔑視することは無いはずだ。俺に嫌味を垂れることは無くなるはずだ。

 (みんな......俺のことを大事にしようと、思うはずだ!地位を得られれば、リリナ様と正式に付き合うことも...!)

 魔王を討伐した直後の俺は、王国やギルド、村のみんな全員が俺に対する態度を改めると、唯一心の支えとしていたあの人と真正面から接することができると。


 ――そう思っていた......。



 現実は、またも俺を裏切りって――
 俺を失望させて――
 俺の心を、壊しにきた――


 「此度の活躍、大儀であった。では.........お前を軍から除隊させる。村へ帰るなり好きにすると良い。こちらからの用件は以上だ、早くこの場から去れ」

 「..................は?」


 満身創痍の体でどうにか帰って来た俺に対する国王は、俺だけには他の兵士たちよりも少ない褒賞・報酬金しか与えず、地位あるいは名誉も何も与えず......冷たくそう言って俺を追放したのだ...。
 他の大臣や貴族どもも、同じく冷たく見下した目で俺を見るだけ...いや、侮蔑も含んだ目を向けるだけだった。

 こいつらはなおも、俺をただの道具としか見ていなかった。勇者とは名ばかりの、王国の奴隷同然の人間扱いだった。
 納得がいかず国王たちに直訴しても...皆、口を揃えて―

 「薄汚い平民がどれだけ貢献しようと知ったことか」
 「身分相応の褒賞しか与えない。位が低いお前にはそれくらいの報酬で十分だ...これは覆らない」
 「そもそもお前のような幸薄い顔と身なりをした男が勇者など無理があるのだ!何故お前のような卑しい平民が勇者の素質を持っているのだ...!」
 「魔王がいなくなった以上、勇者の役目は終わった。ここは用済みのお前がいて良い場所ではない!もう関わることは無い、早く去れ!!」


 ―俺の容姿・身分を理由に拒絶して追放して、否定した...。

 「なんで...何で...!平民だから?貧相な面だから?そんな理由だけで俺は、ただの都合の良い奴隷扱いかよ?元はあんたらが半ば強制に戦わせたんだろうが...!」

 国王も大臣も貴族も皆、俺をただの道具としかみていなかった...。どれだけ懸命に尽くしても、底辺扱いは改めることはしなかった。一度も、“杉山友聖”を見ることをしなかった...。

 そして俺に対する仕打ちは、これだけじゃなかった。


 「元勇者様ぁ?魔王を討伐したあんたと組めば、最難関クエストも余裕ってわけだぁ!俺らと付き合えよ!まぁ報酬は俺らがほとんどもらうがな?ぎゃはははは!!」
 「お前みたいな幸薄いガキは、今度は俺らの飯代稼ぎに貢献しろってんだ、元勇者様がぁ!」

 ギルドへ行けば俺をこき使おうと近づいてまたも俺の見た目や身分を馬鹿にするクソ冒険者ども...


 「王国からこれだけしかくれなかったの!?ちっ、お前を利用して大儲けしようとしてたのに、これっぽっちの金しか入らないのかよ。おい元勇者、今後もこの孤児院に投資し続けろよ!?孤児のお前を面倒見た恩をお前は一生返し続けるんだよ!!」

 俺を都合の良いATMとしか見ていない孤児院の連中...


 俺を待っていたのはちっとも優しくない世界だった。
 そして何よりも俺を深く傷つけたのが―


 「友聖、魔王を討伐してくれてありがとう縁があれば......また会いましょう」
 「そ、そんな!リリナ様!どうして...!?」
 「どうしてって...軍から追放されて王国との関係が無くなった以上、あなたと関わる機会は今後ほぼ無くなるわけじゃない?冒険者稼業なり孤児院への貢献なり、今後も頑張ってね......さようなら―」
 「な.........なん、で......あんた、まで...!」


 唯一俺を見てくれていたはずだった...これからも親しくしてくれると思っていた彼女までもが、俺を冷たく突き放したことだった......。


 「何だよこれ......転生しても俺は、こんな扱いなのか?は、はは...俺だからか?杉山友聖という存在だから、誰も優しくしてくれない、道具扱いの人間で、蔑まれることしか許されないのか俺は!?何なんだよ......?
 俺は!何の為に存在しているんだよ!!!」

 誰もいない森で一人、慟哭して叫ぶ。当然誰も応えてくれない。
 前世では不遇な人生に不満たらたらのまま死んで、この異世界に転生されて。必死に頑張って、強大な敵を倒してきて......これからやっと、少しはマシになっていくはずと思って期待していたのに。なんで...何でこんなに理不尽なんだ? 
 多くの人の為にあれだけ懸命に尽くしたんだ、それならどんなに苦労しても、悲しい事があっても、最後はさ、幸せになれるのでは?俺は報われるべきじゃないのかよ?

 (お前は後悔することになる...。お前が守った者たちに価値など微塵もなかったと、やがて気付くだろう...)

 今になって魔王の最後の言葉を思い出す。そして今ならその言葉の意味が良く分かる。魔王は見抜いていたのか。俺がここまで不遇な扱いをされていたということを。



 .....わかっていた。予感していた。
 前世で味方がいなくなったあの日から転生後の今日までの日々で、吐き気がするくらい分かっていたさ。俺にはその時は来ないってことが。俺にとって世の中はそんなに甘く設定されていないって予感していた。
 どうしようもない理不尽があって、抗いようもない絶望しか辿れないこと...そういうレールしか進むことが許されない、そういう設定づけられていること。そういう人間としてつくられたのだから当然の扱いなんだって。
 それが偶々、俺...杉山友聖だったということ、それだけの話だったんだ。
 俺は――決して幸せになれない人間として設定づけられたに過ぎないのだ。
 虐められ続けたのも、ハブられたのも蔑まれたのも道具扱いされたのも用済みだと追放されたのも......親しいと思ってた人にさえも冷たくされたのも、起こるべくして起こったことだったんだ。
 転生しても同じ......変えることができない、レールから降りることもできない、変更・抗い不可能の運命だったんだ―。


 「そう、か......俺は、どう頑張っても...足掻いても......幸せになれない。誰も、優しくしてくれない......俺を、見てくれない......!」

 そうなるように仕向けられているから。見えない悪意か何かによって俺は常に報われない、損をする。
 虐められて辱しめられてハブられて奪われて押し付けられて蔑まされてこき使われて差別されて道具扱いされて縁を切られて捨てられて追放されて裏切られて無視されて利用されて冷たくあしらわれて否定されて―
 幸せが 許されない―

 「は、ははは......あははは、は...」

 いつしか前世の死ぬ寸前と同じ、乾いた笑い声を漏らして、涙を流していた。
 杉山友聖は幸せになれない。杉山友聖には誰も優しくしてくれない。杉山友聖の味方は一人もいない。
 そういう人間としてつくられた存在だから...。何やっても覆らない、変えられない定義だから。
 もう、何やっても無駄なのだ。


 ――――ブツ、ン...


 切れた...そして消えた...。大切な何かを繋いでいた糸が...良心が。何もかもが消えて無くなった、そんな音が聞こえた気がした、そんな気がした...。  

 「そうか、俺には味方がいない。俺は幸せになんかなれない。誰も俺を見てくれない。
 どの世界でも、杉山友聖に優しくはしてくれない...!」


 壊れた...


 「そうだ...ああそうだったんだ。そんなわけないって、耐えて生きてきたんだけど......その結論は間違ってなかったんだ。それが全てだったんだ。ずっと、自分のネガティブ思考を抑え込んでいたのが、馬鹿みたいだ...」


 壊れたと同時に生まれ出てきたのは、どす黒い感情で...


 「優しくしてくれないなら、否定するというのなら、貶すばかりだっていうのなら、こんな世界―」


 でも、それが今の俺にはすごく心地好くて―


 「こ、ん、な......せ、かい...!!」


 そいつだけは、俺を肯定してくれてる。だから―



 「壊す潰す汚す滅ぼす消す奪う殺す!!」



 ―どっぷりと、浸かってやる。
 もう、知るか。何もかもどうでもいいし、何もかもが憎い。
 目に見えるもの全てが敵で、目障りで、邪魔で、壊すべき、消すべきで!


 「全部、ぶっ壊す!全員殺す!このクソ異世界も、あのクソ現実も!俺が!!全部滅ぼす!!」


 この日から杉山友聖という元無職の引きこもり兼元勇者だった男は、新しい人格をつくった。

 冷酷残虐非道、何もかもを殺し壊して滅ぼす、殺戮を好む復讐者として。


 ――杉山友聖の 二度目の人生はここから始まる...!
 

 全てに憎悪し、何もかも殺して壊して滅ぼそうと決心したあの日から3日後――
 全てをぶち壊してぶっ潰す為の準備を終えた俺は、手始めに孤児院ごと村を潰してやった。


 「な、何をする!?ガキのお前を育てた恩を仇で返す気か――」
 「――孤児を引き取って飯を食わせて寝る場所を提供するなんて誰でもできることだろうが。勇者だと分かった途端、俺を都合の良いATMとしてしか見ていないお前らなんかに、恩もクソもあるかよ。俺を見てくれないなら、死ね」

 「ま、待て―――ぎゃああああああああああああああ!!!」

 俺を王国に売り出した全ての原因であった、孤児院の責任者を、院の人間ごと孤児院を魔術で焼き滅ぼした。
 情けなどかける価値など、こんなクソ異世界にはもう無いのだから。

 「いやあああああああ”あ”あ”!!」
 「あづいいいいいいいい”い”い”い”!!」
 「なんで!?どおしでえええええええええ!!?」

 どうして?知るか、こっちが聞きたいよ。こんなにも優しくしてくれない理由は何なのか。まぁ今となってはもうどうでもいいが。

 村を潰した。次は、俺を外見で馬鹿にして蔑んできて、実力を示して活躍が知れ渡った途端に手のひら返しの態度を取って媚びり出したり、挙句俺を利用しようとしたクソ冒険者どもだ。
 いや......あんな人格性格が腐ったゴミばかりの人間どもを冒険者として生かしているのを認めているギルド自体がダメだ。よし、ギルドごと全て破壊する!


 王国の近くに建っているギルドに入ると、特に俺のヘイトを溜めたゴミクズ冒険者どもが運良く全員いたので、有無を言わさずに処刑を始めた。わずか数秒でギルド内が凄惨な殺害現場と化した。

 「ゆ、勇者がこんなことして許されると思ってんのか!?この犯罪者ぁ!!」
 「“元”勇者だ...お前らが言ったことだろ?それに今さら何言ってんだよ、10才のガキだったあの頃からずっと俺を馬鹿にして時には暴力も振るってきた糞野郎が...。俺が何しに来たか、ケダモノ以下の知能しか無いお前でも分かるはずだぞ?
 今までの恨み全部晴らしにきた......ぶち殺すことでなぁ」

 「ひぃ!?わ、悪かった...!全部俺の悪ふざけだ!も、もう二度と馬鹿にしないから!カモにしようだなんて絶対にしないから!落ち着いて剣を引いて――
 「喋るな、たくさん苦しんでから死ね」――ぁぁぁあああああああ”あ”あ”あ”あ”ァ...!!!」

 いちばん俺を貶して乱暴もしてくれやがった中年のクズ冒険者をできるだけ苦しめてから殺した。急所を外しさえすれば人はそう容易に死にはしない。わざと致命傷負わせないように注意して、甚振ってから殺した。
 顔を不細工に歪ませて血と涙を流して赦しを乞うてくる様は、キモ過ぎて笑えなかった、むしろ怒りが増長されたから徹底的に甚振ってやった。

 連中の処刑の途中で他の冒険者どもが何度か襲い掛かってくるが無駄無駄。全員を動けなくしてやる。魔王軍の幹部ですら倒せなかったこいつらが束になってかかろうが、今の俺にとって虫けら同然だ。討伐隊の中でいちばん多くの修羅場をくぐってきた俺の成長は、それは凄まじかった。この世界でレベルが3桁に達した人間は、歴代含めて俺が三人目。残りの二人はもうこの世にいない。

 つまりこの異世界で俺に敵う奴は、誰もいない!


 「そーいうのを知っておきながら、俺にあんな態度ばかり取りやがって!挙句用済みの道具扱い!ほっっっっっんと、みんな馬鹿だよなぁ!?世界最強の俺をブチ切れさせちゃってさぁ!俺が聖人君子か何かと思ってたわけぇ!?俺は人形でもロボットでも無い!ちゃんと感情がついてる人間なんだよおおおおおおおおおおおおお!!!」

 「ひっひいぃ...!!助け...!!」
 「に、逃げ......あれ?何で、何で外に出られないんだ!?」

 はっはっはー逃がすわけないじゃん。扉の裏側と窓には雑魚程度の炎魔術でも解かせない氷を張っておいたから、完全にここは密室部屋でーす!誰も逃がしません、一人残さず処刑だクソども!!

 「ゆ、勇者様!無礼ばかりやらかして本当にすみませんでした!!金輪際あなたを侮辱することは致しません!!どうか...どうかご慈悲をぉ!!」
 土下座して無様に赦しを乞う筋肉質体型の男の頭を踏んづけて圧力をかける。

 「お前さぁ、今そうやって俺に謝ってるのは、俺がクソ強い人間だからだろ?俺があの時のまだ弱いガキだったら、そうやって真剣に謝ったりしないんだろどうせ!今俺が非力化したらまた乱暴して汚く罵って俺を利用しようとする。どうせ心の底から反省してなくて、ごめんなさいなんて毛程も思ってねーんだろ!?この嘘つき野郎!!」
 「アガッ!そ...そんなこと思ってません!ほ、本当に反省してます!こ、これからはどんな人に対しても罵ったり乱暴したりはしません!絶対に誓います!」

 「あー!あー!!聞こえない聞こえない!!嘘つきの言葉なんて聞こえませーん!惨たらしく死ね!!」
 「こ...この鬼畜があああああああ―」


 うるさいのでサクッと殺した。言うだけなら簡単だよな。心から言える奴なんて、いるわけないだろ。この異世界は尚更な!

 さて、残りのゴミもさっさと処分するか。


 「「「「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ...!!!」」」」」

 何十人もの冒険者やギルド運営者ども全員処刑して、最後は建物に火をつけて全て灰にしてやった。目映る人間全てが汚らわしい。目障りだ。跡形も無く消していく。

 冒険者どもを処刑した次は...いよいよ王国内に入る、貴族ども大臣ども、そして王族ども全員ぶち殺してやる...!

 ギルド内での惨劇は、魔術で防音と人払いをかけておいたので外にいる人間たちには誰も気付かれない。これから殺されるあいつらは、俺の存在に気付くことはない。全員が突然俺に惨たらしく殺されるんだ...!

 まず門番を焼き消して、門をくぐると同時に色んな魔術を滅茶苦茶に放って無差別に殺しまくった。
 突然の出来事に皆が悲鳴を上げてパニックを起こして逃げ惑う。唯一の出入り口である門にはバリアーを張っておき、またも逃げられないようにした。王国にいる人間全員は、俺に殺される為にいるんだ...!

 火・風・氷・岩・錬金物...あらゆる属性の魔術攻撃を駆使してみんなを消していく。一方的に蹂躙していくのは、実に心地良い気分だ。しばらく進むとようやくお目当ての殺すべき害虫ども......貴族の人間どもと遭遇した。

 「おい、元勇者!!これはどういうつもりだ!?街中で魔術を乱発するなど、気が狂ったかぁ!!」

 醜い体型のクソ貴族が数人、うるさい声で俺に怒鳴り散らしてくる。未だに自分が偉くて、俺より位が上の人間だと思い込んでいるらしい。権力だけ見れば確かにそうだけどな...

 「俺は何で、こんな汚い豚どもの平穏までをも守ってしまったのか......俺をただの道具としか見ていないこんな奴らなんか、俺にとって何の価値も無いただのゴミ豚だと言うのに...!!」

 そして――


 「「「ひぎゃあああああああああああ!!?」」」


 再び殺戮を行い、死体の山を築き上げていく。醜い面で泣いていようが、権威を主張してこようが、金をちらつかせて命乞いをしてこようが、関係無い。
 全員ぶっ殺してやった!

 そしてそのまま、俺をいちばん見下して俺を最も失望させて殺意を抱かせてくれた奴らがたくさんいるところへ入っていく...。

 王宮内に入ろうとしたら、兵士たちに囲まれて剣や弓矢を向けられる。派手に暴れていたから流石にバレていたようで、既に事情を把握している様子の兵士たちは全員俺を魔王軍を見る目で睨んでいる。その中にはかつて共に戦ってきた討伐隊の兵もいた。
 こいつらも......俺を見ようとしなかったただのゴミだ。かつて共闘してきた者だろうともはや何の情も無い。ただそこにいるから...ぶち殺すだけだ。

 「―――」
 「――――」
 「―――――」

 息をするように兵士どもの命を消していく。魔王を倒した頃には、討伐隊の中で俺に敵う奴はいなかった。ギルド同様に圧倒的な力の差がある俺は、傷を負うことも無い。


 「勇者ぁ!お前はどうして...!?」
 「何で仲間を殺すんだぁ!?狂人め!!」
 「君はそんな人間じゃないはずだ...!!」
 「正気に戻れぇ勇者!!」
 「これ以上仲間を殺すな!!止まれ!!」


 同い年の兵が、おじさん兵が、少し年上の副隊長が、いつも隣で戦っていた女兵が、孫が生まれたとか言っていた隊長が...俺を止めようと、言葉を投げかけてくる。
 全て無視、無視無視無視無視...耳を貸す事無く、斬って燃やして殴って消し飛ばして潰して、彼らの命を奪っていった。


 「仲間...?心からそう思っていないクセによく言えたね?結局は都合の良い道具としか見ていなかったくせに。俺がいちばん貢献したのにお前らばかりが褒賞たくさんもらっちゃってさぁ!家庭が裕福な坊ちゃんお嬢ちゃんオジサンたちはそうやって優遇されてるけど、俺はそうじゃない!みんなみんな俺をハブって除け者にして美味い汁すすってさぁ!!」

 
 絶望や恐怖、怒りなどが混ざった目を向けるかつての同胞どもを、怒りと嫉妬と怨嗟の念がこめられた言葉をぶつける。
 しばらく経つと、俺に立ち向かってくる兵士が現れなくなった。どうやらみんないなくなってしまったらしい。だったら次だ。

 無理矢理討伐隊に引き入れて魔王軍と戦えとか命令して、そのくせ偉そうに見下して、道具扱いして、こっちは命懸けて頑張って働いているのに、労いの言葉さえかけずでいてそれどころか蔑みの言葉しかかけない。
 そんな腐った人格をした、ゴミ溜めを、処分しに行こう。

 大臣、使用人..みんな殺していった。特に大臣どもは、この期に及んで俺を口汚く罵るものだから、誰よりも惨い殺しをした。

 「下賤な者が、こんなことが許され――」
 「この犯罪者が――」
 「やっぱりお前など勇者にふさわしくなか――」

 「俺がこうなったのは全部お前らのせいだ。死ね」

 罵声も命乞いも全てどうでもいい。ただこのどす黒い感情のままに、俺が今いちばんしたいことを叶える為に動く。

 そして――



 「な......んて、ことを...!!」


 次は......俺をいちばん最悪な形でどん底に突き落としてくれた王女、リリナ様だ。

 「友聖、自分が何をしたのか―」
 「もちろん自覚してるし理解している。でもさぁ、俺をこんな風に変えてしまったのは、リリナ様たちじゃないか。お前たちが選んだことじゃないか。
 優しくしておいて......結局はお前もあいつら汚い豚どもと同じ、俺のことはただの道具としか見ていなくて、魔王を倒して平和が確立したと知った途端に用済みだって冷たく突き放してさよならかよ」
 
 「な、何を...!?」

 「まだ惚けるんだ、さすがだな!?数年間、表面は優しい顔を向けてきて、役目が終わった瞬間あんな風に冷たくしてくれて!まんまと騙されたよ!お前も、心の中では俺のこと平民だからと蔑んで、幸薄い貧相な男だと見下していたんだろ!?」

 「そんなこと思ってない!私は―「もうお前の嘘しか無い言葉なんて聞きたくねー」
 ――ぁ......!!」

 風魔術で空気を操り、リリナ様の周囲の酸素を無くして呼吸を奪ってやる。もう彼女の耳障りな声を聞かないで済む。あとは、その命を奪うだけだ...。

 「異世界でお利口さんでいたのが間違いだったんだ。こんな世界でそういう性格をしていても結局は損をする。初めからこうしていれば良かったんだ......お前らから学ばせてもらったよ。
 じゃあな...今まで嘘でも俺を励まして労ってくれて嬉しかったよ......そうやって人を騙してどん底に突き落とすという最低な詐術を教えてくれてどうもありがとうな!!!
 さようなら......リリナ様」


 ドシュ......「ぁ......あ」


 お別れの言葉をかけ終わると同時に、リリナ様の腹に剣を突き刺して終わらせた。窒息死か失血死かなんてどうでもいい。ゆっくりと苦しんでもらえるよう心臓は外した。嘘つきには当然の報いだ...!



 そしてその後も俺は殺戮を行い、残虐の限りを尽くして―――王国を滅ぼした。
 残っていた貴族や国民どもを、老若男女関係無く殺して、殺し尽くした。

 俺を最初に捨ててくれた国王は、特に酷い目に遭わせた。娘であるリリナ様を殺してやったと言い、お前のせいで死んだんだと何度も言いまくって心を壊してやった後、イエスキリストのように十字架で磔にして手足を杭で刺して固定させてからそのまま国中引きずり回しを行って、最後は火炙り刑に処して殺した。
 国王の苦悶に満ちた声は、俺のこの怒りを少しは鎮火させてくれた。


 「まだだ。俺に優しくしてくれないこんな世界は要らない......全部、滅ぼしてやる...!」



 王国だけでは飽き足らなかった俺は、さらに三日三晩にわたって世界中を蹂躙して回り、このクソッタレな異世界を滅亡させた...!

 「は、はははははは...。へはははははははははははぁ!!!そうだ、俺以外の人間なんて要らない!どうせ見ようともしない優しい世界にならないのなら、全部滅ぼしてしまえば良い!!みんな死ねば良かったんだぁ!!
 ひゃあはははははははは...!!」



 俺以外の人間を絶滅させてからしばらく、声が枯れるまで嗤い続けた。こんなに心の底から笑ったのは、前世から含めて何十年振りだっただろうか。 
 他人を不幸と絶望のどん底に突き落とすことが、こんなにも愉しくて快感なことだなんて、初めて知った。


 「そうだ......《《あいつら》》も、ここにいた奴らと同じ目に遭わせたら、いったいどれだけ愉しめるのだろうか...」

 どうでもいい赤の他人でもこれだけ笑えたんだ、もしあいつら――前世で俺を虐めてハブって鬱になるまで追い込んでくれた、憎くて殺したくてしかたないあのクズどもをもああやって甚振って残虐の限りを尽くせるなら、復讐できるなら。

 俺はどれだけ救われるのだろう...。前世では果たせなかったあいつらへの復讐が、この力があれば簡単にできるはずだ!
 しかし、ここは異世界。前世のあの現実とはそもそも世界が...次元が全く異なっている。果たして元のあの現実世界に干渉など――


 「......いや。やるんだ。俺は今や何でも出来るようになった万能チート人間。普通の人間だったらできないことでも、俺ならできるはずだ。

 別の世界へ干渉する魔術を、俺が創るんだ!!」


 それは言わば次元魔術。ワープホールか何かを、こことあの世界とで繋げる。誰も実現したことが無いであろう幻の魔術を、俺が創り出してやる...!


 全ては 俺の復讐の為に!!!


 転生してから初めて、明確な目標ができた俺は、王国へ連行される前...冒険者を始めたばかりの時振りに、生き生きと行動した。誰かに強制されてやるのと自分の意思でやることがこんなにも違うなんて!忘れていた、この久しい感覚。
 何年経っても、俺は飽きることなく研究と開発の毎日を過ごした。

 その間も、前世でつけられた傷は癒えることはなく、その傷をつけたあいつらへの復讐心も消えないままでいた...!

 異世界を滅ぼしてから約7年後、ついに俺の夢が実現する時がきた。
 次元を超えて別の世界に干渉する究極魔術を、ついに完成させられた。今俺の目の前には、中で巨大な渦が巻いているワープホールがある。そこへ飛び込めば、俺はあのクソッタレな元の世界へ帰れるのだ。

 ワープのテストは既に成功済だ。昨日試しに錬金術で造ったドローンカメラをワープホールに投げ込んで、ワープ先の光景をカメラ越しで確認したところ、間違いなく俺が知っている日本だった。時間の流れはどうやらこの異世界とシンクロしていたようで、俺が転生してから約20年......向こうも同じ年月が経っていた。
 少なくとも、俺が死んでから20年は経過していると分かった。まぁ仕方ない、随分長く過ごしてしまったからな。あいつらが事故か何かで死んでいない限りは、20年後の姿をしたあいつらが、元の世界にいるというわけだ。
 
 「ワープ出来るようにはなれた...。あとは、向こうで復讐する為の必要な魔術とスキルを習得するだけだ...!」

 この7年間は主にワープ魔術の研究・開発に時間を費やしていたから、新しい魔術とスキルの習得が間に合っていない。だから今から残りの未習得のやつ全てを手に入れる...!
 さらに1週間後、必要魔術とスキルを全て会得した俺は、今度こそ準備を整えた。

 まずは錬金術。これは魔王軍と戦っている途中で会得した。この世界では主に武器の錬成に使っていたが、元の世界では主に金だ。あの世界は金が全てだ。一度死んだ俺だから言えることだ。
 金が無ければ、夢も家も水も食べ物も薬も快楽も健康も、人としての尊厳も何も手に入らない。あの世界はそういうところなのだ。金が無い奴は負け組に成り下がる......どんな奴でもな。
 で...あとは復讐で使える凶器を造ることくらいか。ワープした後でじゃんじゃんつくろう。

 次は精神魔術。あの世界......特に日本の治安はそれなりに良くされている。そんなところで異世界と同じ凶行をしてしまえば、あっという間に注目される。復讐はゆっくりじっくりしたいと思ってるから邪魔が入るのは遠慮したいところだ。だから周囲の人間たちの脳を操って、俺のどんな行いも気にならなくなるとか暗示をかけて邪魔をさせないようにするのだ。あとは、記憶を操作...出来事を忘れさせるとか、だな。

 “バレなければ犯罪じゃない” 誰にも気づかれず、憶えられることなく、忘れさせてしまえば、気兼ねなく復讐できるはずだ。というわけで精神魔術も必須魔術。

 スキルは、消音・気配察知(遮断)などなど...治安国の日本で必要になるであろうスキルを、魔物とかを倒して会得した。スキル取得がいちばん苦労した気がする。
  
 他にも、瞬間移動・検索魔術・治療魔術・空間魔術・擬態......本や修行、討伐で全て会得した。

 鏡で自分の姿を見てみる。偶然にも、元の世界で最後に見た時の自分と同じ見た目をしていた。24歳だったあの時の俺と...同じだ。
 違いがあるとすれば、高級そうなローブを纏っていること、そのローブの下には鍛え抜かれた肉体が備わっていること。何よりも違いが見られたのは、顔つきだった。造形は前世と変わっていないが、コンプレックスだったあの幸薄さが取れていて、ギラギラとした双眸、生き生きとした艶肌が、そこにあった。野望に燃えた男の顔が、鏡に映っていた。うん......悪くない。
 今の自分の方が、好きになれる!

 確認も終えた俺は、持てるだけの金を懐にしまって、再びあの魔術を発動する。

 
 「しかしあれだな......行動を起こすまでの計画立てとか準備活動とかのあの時間って、凄く楽しかったな!あの時間は俺にとて貴重なものだった」

 旅行をする時、本番よりも行き先を決めたり宿を探したりして準備する時の方が楽しいって思ったりするタイプのそれだな。今までの時間もまさにそれと同じだった。
 でも、やっぱり本番がいちばん楽しいに違いない、これから始める復讐の時が、最高な気分にさせてくれるに違いない!!


 「よし......これをくぐれば、俺は帰れるんだ。あのクソッタレな現実に...!

 みんな全員 悲惨な目に遭わせて 殺せるんだ...!」


 ニタァ...と俺は満面の笑みを浮かべながら、ゆっくりと――


 「バイバイ、クソ異世界。ここで学んだこと、得た物はたくさんあった。ありがとう......もう用済みだから―」


 渦の中に飛び込んで―
 ワープホールが消えると同時に、懐にあるボタンを押して―


 「―もう、完全に滅んで良いよ。さようなら」


 世界の至る所に仕掛けておいた大規模崩壊魔術を起動させて―

 何もかも...異世界という存在を完全に消滅させた―。



 (帰ろう。そして始めよう!二度目の人生は、復讐と殺戮と娯楽の日々を送ろう!
 何もかも、蹂躙して奪って踏みにじって、壊して潰して殺す...!)


 ――待ってろ クソ現実!!!
 

 長いプロローグは終わり、ここからがいよいよ本章となる。
 杉山友聖の 血と暴力と死に塗れた復讐の人生はこれからが本番だ――。
 





















 時は遡って......7年前。全てに失望して見限って、そして復讐に走った少年が世界を滅ぼしたあの始まりの日。

 彼女は、自身の血だまりの中で必死に声を振り絞って、遠ざかっていく少年の背を追うように見つめていた...。


 「ち...がうの...。そんなつもりじゃ......なかったの...。友聖.........ごめん、なさい......」


 やっとの思いで吐き出したその言葉は、少年の耳に届くことはなかった...。
 
 




プロローグ 完