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 それから私たちの騙し合いの日々が始まった。
 あるときは部室である視聴覚室で。

長窪(ながくぼ)、外見てみろ! ヤバいぞ! UFOだ!」

 興奮した様子で窓の外を指差す郡山先輩。
 騙し合いと言えばもはや定番のそれだが、無視するのも可哀想なのでわざと引っ掛かることにした。

 でも、願い事の件がある以上ただでという訳にはいかない。
 私は先輩が座っていた椅子にある物を仕込むことにした。

「えっ、どこですか?」

 窓際に寄り、先輩の指の先を見る。

「あっ、よく見たら飛行機だったわ」

「むっ、また騙したんですか?」

「騙される方が悪いんだよ。俺たちはそういう勝負をしてるんだからさ」

 楽しそうに笑う先輩が何の疑いもなく、元いた席に座った。
 そこで私が先輩を驚かすべく大きな声を出す。

「あっ、先輩! さっきそこの席に大きな蜘蛛が死んでましたよ!」

「うっ、マジか! 最悪。そういうことは座る前に教えてくれよ」

 私の渾身の演技にすっかり騙されている郡山先輩。
 ばっと立ち上がり、お尻を手で払う。
 すると、おもちゃの蜘蛛が地面に落ちた。

「うお!?」

 郡山先輩はそれを見て再び驚きの声を上げた。
 私はその様子がおかしくておかしくて、お腹を抱えて笑っていた。

「やりやがったな長窪。悔しいけど今のは完璧に引っ掛かったわ。っておい、そんなに笑うなって」

 いつまでも笑っていた私のことが気に入らなかったのか、郡山先輩が私の肩を指先で優しくつついてきた。

 あー、楽しい。もう毎日が楽しくて楽しくて仕方がない。
 こんな日がいつまでも続けばいいのにな。

 いつからか私はそんなことを思うようになっていた。