私の最初の回復能力は「治す」つまり「治癒」が主体だった。鍛錬と戦闘を積んでいくにつれて、そこから「再生・戻す」...つまり「回帰」へとレベルアップさせた。
それが開花したばかりの頃は、回帰の究極要素についてまだ気付けないでいた。気付いたのは連合国軍が結成された後、戦争に向けての修行期間に入る直前のことだった。
きっかけは、甲斐田君との学校でのあの何気ない雑談をふと思い出した時だ。彼が読んでいるライトノベル作品についてこんな話を聞かせてもらった。
その世界では最弱職業と言われている回復術士になってしまった主人公が、機転を利かせて無双化すというストーリーだった。主人公は、自身の十八番である回復魔術を応用させて、ラスボスのステータスと年齢をも再生(=巻き戻し)して弱体化に成功、そのままラスボスを討ったとか。
甲斐田君が教えてくれた回復術士モノの作品に凄く興味を持った私は、その後早速そのライトノベルの全巻を大人買いしたんだっけ...。とにかく、甲斐田君との貴重な会話内容をふと思い出した私は、あの主人公が使った魔術と同じ技を習得しようと思いついたのだ。
そして半年間...修行のほとんどは、回帰を応用したオリジナル魔術の習得することに費やした。
結果完成させることには成功した。その効力は絶大なものだった...!
「な...なんだ、よ?その魔法、はよぉ...??そんな魔法って、ナシだろぉが...!!」
“時間回復” 私だけが使える究極のオリジナル魔術だ。この魔術で、魔人族の肉体状態を魔石で大幅に強化した前の時間にまで回帰させて、大幅に弱体化させた。
ただ、強過ぎる魔術には当然大きな代償がつく。魔人族の時間を大幅に巻き戻した私は......
「......ッ!......ッ!...ァ、ッ.........」
己の体力と魔力、そして生命をも大きく削ることを強いられた...。
戦争で戦ったあの魔人族に対して巻き戻した時間は、約10年。巻き戻す時間幅が大きい程、体力と魔力を大きく削ってしまう。1年程度の巻き戻しなら体力と魔力がごっそり削られる程度で済んでいた。
けれど10年という時間は、流石にそれらだけではあの大きな代償を埋められなかった。寿命を削ったような感覚...それはまるで死神の鎌にかけられるが如く。
あの時私は...死んでもおかしくないくらいまで追い込まれた。しかも削られたもの全ては、自身の回復では戻すことが出来ない。自然回復...長期的に休まないことには全て元に戻せなくなっている。
事実、甲斐田君との決戦日になっても、私は万全にはなれてなかった。この状態で彼にあの魔術を使えば、その時点で私は戦闘不能になるだろう...。
だけどそんなこと気にしている場合ではない。甲斐田君との戦争に敗ければ全て終わる。私も、ミーシャ様もクィンちゃんも、そして大切な生徒たちも全員彼に殺されて終わりになる。絶対にさせない。私の命削ってでもこの魔法で甲斐田君を無力化させる...!!
*
~回想~
(――と、回復の最上級魔法には、時間をも再生...過去の状態に回帰させる力があるのかもしれません)
昨日の軍略会議で藤原美羽対策を題にした時、カミラはそう予測した。
(回帰能力...俺が読んだ作品にそういう能力者がいくつも出てきたが、そうか...いたなぁ、ラスボスをチート化する前の状態に巻き戻して倒したっていうやつが。やっぱ“回復”って怖いな...)
(もし、コウガも同様に肉体・ステータスが過去の状態に回帰されるのだとしたら、その時点で詰みですね。彼女の動作には常に警戒しなければなりません。いえ、できれば真っ先に殺さなければならない敵になるでしょう)
(だったら...藤原美羽が出てきたら、復讐対象を後回しにしてでも真っ先に殺しに行った方が良いってことか...)
(――そう考えたコウガさんが真っ先にミワさんを殺しにかかると考えられます)
対する連合国軍も、皇雅の行動予測を立てていた。主に話し合っているのは、ミーシャと縁佳、そして切り札の美羽だ。他も参加しているが、せいぜい情報の共有くらいしかすることない。
(ミワさん、危険なのは承知ですが、初めから囮として前衛に出ていただけませんか?真っ先に消したいと考えている彼ならば、ミワさんを無視するはずがありません。ミワさんに気を取られている隙に、ドウマルさんの射撃とヨネダさんの死霊魔術で彼の不意を突く。そしてできれば早い段階で彼を無力化させましょう!)
(――そういう布陣で、コウガを誘って搦め手で攻めてくると考えられます)
と、カミラがさらに敵の行動を予測してくれた。まるでその場で連合国軍の軍略を聞いていたかのような口ぶりだ。そこまで敵の行動を読んでいくとは恐れ入る。
(なら、俺がすべき行動は、やっぱり復讐優先で良いってことになるのか?)
(フジワラミワからある程度離れておけば、“回復”の範囲外にいられます。それならくらうことはありませんので、コウガを妨害に出てくる戦士たちを先に落とすのが効率が良いです。その役がコウガの復讐対象ならなおさら優先して大丈夫です。
彼女にとって異世界人が殺されるのは絶対に避けたいと思っているはず。そこを突いて彼女たちの陣営を崩すチャンスです...)
(...コウガさんにとって妨害役目の方々も復讐対象になってくるはず、ならば前衛のドウマルさんたちの命も非常に危うくなります。申し訳ないですが、お覚悟してください...。最後に、肝心の魔法をコウガさんに当てる手段ですが...)
(――現実的に、コウガに魔法を当てることなど不可能、と私は断言します)
(...おお、なんか自信満々に言ったな?根拠はどういうもんで?)
力強いセリフに惹かれて思わず聞いてみる。
(コウガのステータスは今や次元が違い過ぎています。この世界でコウガに敵う者はもう存在しません。何よりコウガなら絶対大丈夫、って私の贔屓も理由に入れています!)
(そ、そうか...珍しいな、お前がそういう理由で大丈夫って主張するのは。まぁ世界トップクラスの軍略家がそう言うのなら、大丈夫な気がしてきたな!)
(任せて下さい。ただ、一応気を付けておくべきことを最後に言っておきます...)
(――私の狙撃、ですか...?)
軍略の題に上がった自分の名を上げられ、縁佳は目を見開いた。
(ミワさんの固有技能には“回復付与”系があります。他人にはもちろん、無機物にも魔法を付与できる...そうですよね?)
(あ...はい、出来ます。聖水と同様に魔法や装備品にも回復魔法を付与させられます。けれどそれが何か...?)
疑問を浮かべている美羽たちを見まわして、ミーシャは力強く答える――
(高園の狙撃で俺に回帰魔法を...!?)
(無機物にも魔法を付与できる。それが可能なら、コウガを無力化させるのはフジワラミワ本人ではなく、タカゾノヨリカになる...可能性は低いですがあり得ることです...!)
(私が、甲斐田君に美羽先生の魔法を...!)
驚く縁佳に頷いくミーシャは最後に美羽に確認する。
(ミワさん、縁佳さんの弾に付与できる魔法は、どれくらい時間を巻き戻せそうですか?)
(せいぜい、数か月分ってところでしょうか?ごめんなさい、彼の不死性脳まで消滅させられるのは不可能です。それに付与できるのは弾1つ分だけです...)
(謝らないで下さい。十分です。後は縁佳さんの狙撃次第ですが...)
(任せて下さい!私なら、絶対に外しません。先生からいただく切り札は絶対に無駄にしません。私には、絶対に外さない自信がありますから!)
彼女のそんな力強い宣言を聞いた美羽は、縁佳に託して大丈夫だと確信した。
(私のオリジナル魔法は、対象の脳あるいは心臓に当てなければ効果無いわ。だから絶対的な隙をつくって、絶対に2か所を守れていない状況になった時に、私の魔法を使ってほしいの。その為に私たちが頑張ってチャンスをつくるから!―)
(――あいつの狙撃なんて恐るに足らずだ。躱してみせるし、必中技能だったとしても全部叩き落としてやるっての)
(私の切り札は、甲斐田君にも防げない。絶対に当ててみせる...!)
(コウガの専属軍略家として、敵の軍略は全て読み切ってみせます!敵の行動予測において、私に並ぶ軍略家は存在しません!)
(今は王女ではなく、軍略家として皆さんを勝利に導いてみせます。この読み合い戦で、負けるわけにはいきません!)
『『この戦争の勝者は俺たち(私たち)だ(です)!!』』
偶然にも、彼らは同時刻でこのハイレベルの読み合い戦を繰り広げ、勝利を強く誓っていた――