ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる


 辺り一面に、獣人どもの血や肉片が転がっている。全部俺の仕業だ。

 「ひ、ひぃぃぃ...ガッ!」
 「嫌だ、嫌だぁぁ...」
 「こんな、化け物、勝てるわけないって、ぇゲッ...!」

 一人とまた一人、殺して回る。興味深い固有技能持つ奴は噛み殺して奪っていった。
 後半になると普通に殺戮しまくって、気付けば敵は全滅していた。
 泣き叫ぶ様、命乞いをする様、絶望する者怒りや悔しさに震える者などを見ているとやっぱり気持ちが良い。

 結局俺ははムカつく奴らを虐げて遊ぶのが好きらしい。アレン、こんな俺でゴメンなホント。
 けど楽しくて仕方ないんだ。気に入らないムカつく雑魚やクズどもを一方的に痛めつけて苦しめて残酷に殺すのが快感でたまらないんだ!

 この世界でゾンビになってから、そういった気持ちが一層強くなった。ま、今回はそれだけが理由で殺しまくっているわけじゃないのだけど。
 数ある獣人どもの中から珍しい固有技能を手に入れたり、既存の固有技能をさらに強化したりすることが、目的の一つ。

 「狂ってやがる...!こんな残酷なことを、無表情で淡々とやりやがってぇ!これだけ同胞たちを殺して、何とも思っていないのかお前は!?」

 少し離れたところから怒声がした。見れば頭から血を流してふらつきながら立ち上がって俺を非難する虎戦士...ロンブスといった奴だったか?何やら俺がやったことに対してひどくお怒りのようだな。

 「お前にとって獣人族は特に恨みや憎しみなど無いはず。言わば無関係の人族だろ!?なんでここまでのことが出来る!?なんでそんなに淡々と俺たちを殺せるのだ!?」

 フラフラよろめいて俺に近づきながら怒りの形相で疑問をぶつけてくる。あー分かってねーのかコイツは。それこそがもう一つの、簡単な理由だってのに。

 「アレンは俺の“大切な仲間”だ。そんな彼女を害したクズどもは俺の敵だ。だから慈悲も無く当たり前に痛めつけて苦しめてぶっ殺す...シンプルで分かりやすい答えだろ。
 つーかテメーらも鬼族に対して散々虐げて辱めて、殺してきただろうが。
 同じだよ。俺はアレンたちに変わって死んだ鬼族たちの無念や恨みをこうやって晴らしてやってるだけ」

 単純な理由だ。アレンは俺にとっていつの間にか大事な人間...鬼になっていた。同じ復讐者として意気投合した。色々自分のことを話し合って友情が芽生えた。共に行動していくうちに親密な関係となった。彼女を失いたくない人として認識するようになってた。
 そんな彼女が傷ついているところは見たくない。彼女を傷つけるクソゴミカスどもは一人たりとて赦さない。自分が害されたと捉えて存分に復讐して殺す!

 「ぐ...!?く、そぉ......」

 俺の言葉に反論できない虎戦士は悔しさに歯噛みして、力尽きたのか俺のところまであと数歩のところで倒れた。そんな虎野郎を、俺は無表情に止めとして首を噛み千切った。

 「がっ!くぞぉゴプッ...!また...鬼どもに、敗け、たか...」

 そうこぼして虎の獣人戦士は死んだ。それからも俺の殺戮は続く。

 「ギャイン!?」
 「アぎゃあ!!」
 「助け―ギャウン!!」
 「ふぅはははははははは!!死ねぇ犬ッカスどもがあああああ!!このクソ害獣が目障りなんだよ犬が二足歩行してんじゃねぇ犬が人語話してんじゃねぇ!!」

 迫りくる獣兵の中で犬種を積極的に殺して回った。俺は犬がクソ嫌いだ。
 犬は害獣だ。不快な生物だ。以上から積極的にこいつらを根絶やしにする。向かって来る以上はこいつらを積極的に殺す!!

 数分後、俺に向かって来る獣兵はもう現れなかった。辺り一面死体だらけだ。こんなところ現実の動物愛護団体が目にしたら俺は確実に訴えられるだろうなぁ。

 殺戮をしておきながらそんな呑気なことを考えてながら、カミラのところに行く。「魔力防障壁」を解いて終わったぞと声をかける。

 「お疲れ様ですコウガさん。あの軍勢をあっという間に壊滅させるなんて、さすが災害レベルモンストールの群れを潰しただけありますね」
 「いや、今回の敵の総合戦闘力は、Sランクモンストールを倒せるくらはあったぞ。魔族のトップクラスの戦士が集まればそれくらいのレベルにまで達するみたいだな。それなりに遊べたよ。使える固有技能も手に入れたしな」

 労いの言葉をかけてきたカミラにそう返す。獣人族...魔族全ての実力は人族を凌駕している。故ドラグニア王国でザイートの肉を喰っていなかったら、今回はけっこう苦戦していただろうな。
 さっき殺した虎の戦士なんかは能力値平均5000を超えていた。他の奴らも2000~3000はあった。そんなのが数十匹もいたんだ。普通の軍勢だったらあっという間に敗北しているだろうよ。

 ま、今の俺は魔人族以外なら誰が相手だろうが余裕だ。雑魚だ。
 
 「行こうか、アレンたちのもとへ」

 カミラが死体を踏んで転ばないよう彼女の手を引いて歩いた。カミラは嬉しそうに俺の手をギュッと握って、引かれるまま後に続いた。

 破壊された王宮のところまで行くと、傷だらけでボロボロの3人の鬼と、疲れ切って大の字になりながらも、こっちを見てやってやったぞと笑みを浮かべているアレンがいた。
 しゃがんで彼女に手を伸ばすと、掴んでそのまま俺を彼女自身に引き込んだ。当然俺はアレンの胸元に倒れる形になる。カミラやスーロンたちが驚く中、アレンは幸せそうに俺に話しかけてくる。

 「コウガ、これで私も...復讐できたよ。今私凄く満足してる。充実した気分になってる。私自身の憎悪を消しただけじゃなくて、死んでいった仲間たちの無念も晴らせたような気がして、とっても気分が良いの。
 やっぱり間違ってなかった!復讐することは人として間違ってない感情であり気持ちだってこと。コウガも、こんな気持ちになれたんだよね?私やっとコウガのこと全部理解できたんだって思ってる。お互い復讐を果たせたから...」

 ギュッと抱きしめたまま、自分の想いを全て吐露する。復讐達成の余韻にだいぶ浸っているようでよく喋る。それだけ嬉しかったのだろう。

 「アレンも俺と同じ、復讐できてスカッとしたんだな。それで良いんだ。間違ってなんかねーさ。正しいことなんだ。自分と自分のように想っている人を不快にさせ害するクズども・悪は滅ぶべきなんだ、殺されて当然なんだ。生きてちゃいけねーんだ。
 とにかく、よくやったな。格上相手に、よく復讐を果たした」
 「スーロンと、キシリト、ソーンがいたお陰。そしてコウガが他の獣人を相手してくれたから、集中してあいつと戦えた。ありがとうコウガ...!」

 頭を撫でながらアレンを褒めるとお礼を言って俺の髪に顔をうずめた。少し湿り気を感じることから、泣いているのだろう。そんなアレンを、俺は愛しく思うのであった...。

 っていつまでもこの状態でいるわけにもいかないよなぁ。後ろからいくつも視線感じるし。タップして離してもらって振り向くと、カミラが凄く羨ましそうに見つめていて、スーロンたちはややビックリ顔をしていた。

 「やっぱり二人は、そういう関係に...!?」
 「人族と親密関係...興味深い」

 スーロンが興奮して、キシリトが興味津々に、ソーンは目をキラキラさせていた。さっきまで彼らは死闘を繰り広げていただろうに、オンオフしっかりしてやがる。

 「敵の頭を潰したのは良いが、これでまだ終わりってわけじゃないんだよな?リアルタイムモニターで映っていた鬼たちがまだ残っている。あいつらを保護してやっとこちら側の勝利ってことになる」

 俺の言葉にみんながそうだと頷く。俺たちが来たことであいつらを殺すことはしないにしても、人質とか取ってくる可能性は否定できない。
 そこで、生き残りの鬼たちの保護はスーロンたちに任せることに。残りの獣人族どもは今の彼らでも十分殺せるくらいの雑魚だ。非戦闘員しかいないだろうからな。
 3人ともやる気満々に民家の方へ駆けだした。それを見送った後、アレンとカミラを連れてある場所へ向かった。

 そこには、おそらくアレンによってそうなったのだろう、首が無い獣人の王ガンツの死骸があった。
 話があると言って付いてきた先がここだということにアレンが不思議そうに俺に視線を寄越す。

 「話っていうか...まぁコイツを見れば分かると思うんだ...ほら」
 そう言って死骸に指をさすアレンたちもそれを見て...しばらくして二人とも驚愕に目を見開いた。

 
 「え...!?そんな!」
 「まさか、こんな状態だというのに!?」

 驚くのも無理無いだろう。何故なら《《ソレ》》はまだ死体ではなかったのだから。
 切断された首の断面から、新たにその上の部分が生えようとしているのだから。

 「首が、生えようとしている!?」
 「さっき、完全に死んだことを確認したのに...!」

 カミラが恐怖に震えて、アレンがあり得ないと言いたげに戦慄している。

 「タフさが売りだとカミラはそう言ってたな?けど、まさかここまでタフだってことは流石に思っていなかったみたいだな」
 「は、はい...こんな状態になればどんな生物だろうと普通生命活動は終わるはずです。こんなの、初めて見ます」
 「ならコイツが普通じゃないってことだ。この現象の答えが、こいつの固有技能にある」

 「鑑定」した内容を二人に説明する。ついでこいつのステータスの全容も。


ガンツ 80才 獣人族(獅子種) レベル125
職業 戦士
体力 100/10000
攻撃 7500
防御 9990
魔力 1000
魔防 5000
速さ 2500
固有技能 獣人格闘術皆伝 炎鎧《フレイム・アーマー》 咆哮 怪力 神速 魔力光線(炎熱) 超生命体力 限定進化 瘴気耐性 不死レベル1

超生命体力...「生命体力」の上位互換。身体が頑丈になり強靭な肉体となる。生命力も通常の生物に比べて非常に高い。

不死レベル...屍族の肉を喰らうことで得られる属性。最大レベルは3まで。対象の不死レベルは1。



 これが、ガンツの正体だ。体力と攻撃、防御値がとても高い。格闘戦特化の戦士だな...いや獣どもはみんなそうか。だがアレンとカミラが注目したのは、能力値よりもとある二つの固有技能だ。

 「 “瘴気耐性”?それに... “不死レベル”!?」

 どの獣人族にも、いや全ての魔族や人族にも無いだろう、あり得ない技能があることに、二人は信じられないものを見ている顔をした。

 「まるで、モンストールじゃないですか...これって...!」

 落ち着きを戻したカミラが的確な指摘をする。その言葉にアレンがあっと声を上げる。

 「その通りだ。この二つの技能を持っているってことは、こいつはモンストールの力を得ているということになる。さらにこいつ自身の固有技能である“超生命体力”が合わさったことで、今のこの状況が起きている、ってことになるんだろーな。ある意味不死身の肉体を得たってことだ...俺のようにな」
 「それってまさか...!」

 俺の言葉にアレンが何かに気付き思わず叫ぶ。俺と同じ考えにたどり着いたみたいだな...。

 
 「こいつも俺と同じ、《《モンストールの肉を喰ってきた》》クチだ。それで不死性の力を手に入れやがったんだ」

 「「...!?」」

 もっとも、俺程に頻繁に喰ってきたわけじゃないのだろう。3回程度かそれ未満ってところだろう。まさか、俺以外にあいつらを喰って生きていられた生物がいたとは俺も驚いた。

 「初めてこいつと会ってから、ずっと妙な気配がしてたんだ。モンストールと似た死の臭いが...。だから俺だけこの状態に気づけたんだ。ある意味同類だからな...
 なぁそうなんだろ?いつまで狸寝入りコいてるつもりだ?反論があるなら聞くぞ?」

 二人に俺がコイツに気付いた訳を話してから、ずっと死体のふりしているデカ物に声をかける。アレンもそいつに目をやると、その体が...少し動いた。
 あっと声を出してたじろぐカミラに、油断なく構えるアレン。それらをよそに、低い声がデカブツから響いてきた。

 「まさか、俺の正体が見破られるとはな...。よりによって、人族のお前が、俺と同じことをしていたとは、な...。それも、かなり重度に摂取して、あいつらに近づいてやがる...!」

 さすがに致命傷を負ったばかりだからか、身じろぎすら困難な様子で声も途切れ途切れだ。瀕死状態で辛うじて生きながらえているってところだ。

 「俺はテメー以上に特殊だからな。ま、俺のことはいい。今回のことは無関係だからな。だがテメーの固有技能は非常に使い勝手が良い。テメーの肉を喰らう為にここに来た。だがその前に、テメーに用があるだろう人も一緒に連れてきた...アレン」

 そう言ってアレンの肩を軽くたたく。俺の意図に気付いたらしくアレンは小さくありがとうと言ってガンツの前に立つ。

 「悪いが最後は俺に回してくれ。死体になると奪えないからな」
 
 俺の忠告に頷いてから、アレンはガンツの胸倉を掴み上げる。首部分は不気味に蠕動している。生えるまでまだかかるみたいだ。

 「鬼族は、領地は奪っても、お前たちと違って人権まで奪うことはしなかった。知性ある生き物を食糧にしたりしなかった。命を奪うことは、しなかった...!父さんも母さんもそうはしなかった、そうさせなかった。魔族を統一して平和な暮らしを築くことも考えてきた。
 なのにお前たちは、弱った私たちを見て、奴隷にしたり殺したりした!戦争で殺されるのは仕方ない。もし仲間が殺されてもあの時の私は復讐しようとは考えなかった。
 だけどお前たちは戦争していないに関わらず私たちを攻撃して、鬼族を絶滅に追い込んだ!しかもあんな風に虐げたり、辱めて!挙句殺した!!だからこうやって復讐しに来た!今度は私がお前を虐げる番だ!!そして...殺す!!」

 ガンツに恨み言をたくさん述べて、持ち上げた腕をその場で一気に振り下ろしてガンツを地面に思い切り叩きつけた。

 「ぐがっ...!」

 肺の中の空気が全て漏れ出し同時にあばら骨も折れて吐血した。それだけでもちろん終わらず、胴体を何度もクローで引き裂いた。肉を断つ音が静かな空間に何度も響く。同時にガンツの苦悶に満ちた声も響いた。
 地面に叩きつける、引き裂く、殴る、蹴る、連打...色んな攻撃手段を以て動けないガンツを徹底的に痛めつけて虐げている。

 「がっ、ぎゃあ!お、前ぇ...ぐはっ!この痛み、屈辱はぁ!あ”あ”!!絶対にぃぃ!!があああああ!!」

 これだけやられてもガンツは尚もアレンに憎悪に満ちた目を向けていた。肝は据わっているみたいだ。だから獣の王になれたのだろうな。性根はクズだが。

 「お前が鬼族を恨む資格なんて無い。戦争に敗れたからといってただその鬱憤を晴らしてるだけのお前に、復讐する資格なんて無い!理不尽を強いたお前ら獣どもは滅べばいい!!」

 さらに過激にガンツを痛めつける。腕が欠損し、脚も潰れて、血まみれになっていく。その凄惨な光景にカミラは顔を青くする。刺激が強かったらしく目を背けていた。

 やがてガンツに限界がきたらしく、呼吸音が聞こえなくなってきた。潮時だ。
 アレンに触れて交代の合図を送る。血走った目をこちらに向けて、小さく頷いて引き下がった。ギリギリ理性が働いてくれてよかった。本当に殺すかもって思ったしな。

 「もらうぞ、その特殊な技能」

 ガンツにかけられた最期の言葉は、感情が一切無い俺の声だった。
 一瞬でガンツの全身が、俺に喰われてきれいさっぱり無くなった。

 今度こそ、アレンの復讐相手・獣人族のトップが消えた瞬間だった...。


 王宮地帯を抜けてスーロンたちが向かったとされる民家地帯へ移動する。よく見ればあちこちで家が燃えている。キシリトが燃やして回っているみたいだ。その際に仲間の鬼たちを保護していってる。

 思った通り、この辺りの獣人どもは戦士兵レベルまでは戦えない。手負いの彼らでも余裕でひれ伏させられるだろう。
 4人の鬼の襲撃により獣人たちは逃げだしていった。同時に隷属されていた鬼も次第に増えていった。といっても、死んだ数の方が多かったらしく、保護できたのはせいぜい10人程度だった。それだけ食糧や虐待なので殺されてきたのだろう。スーロンたちに怒りや憎しみが混じった表情が見てとれる。

 彼らの救助活動は、俺たちが合流してから5分経ったところで終了した。獣人一人に尋問したところ、今いる鬼たちが全員だそうだからだ。これで本当に鬼族たちの勝利となったな。まずはひと段落だ。

 保護した鬼たちのほとんどが非戦闘員だった。中には戦士だった奴もいたのだが、虐待によって戦士廃業となってしまっていた。それだけ酷いことされてきたと思うと残酷な獣どもだなぁと言わざるを得ないな。
 女鬼なんか日々獣どもの慰み物扱いされていたらしく、目がやや虚ろとなっている。スーロンたちに保護されたことで安堵の涙を流していた。

 「みんな酷い仕打ちを受けてきたってことは、こっちには痛いほど伝わった。まったくロクでもない種族だなぁ。復讐のつもりで虐げたのか知らんが、こいつらのやってることは復讐じゃないと、これだけは言える」

 俺の言葉にアレン、カミラ、スーロンたちも耳を傾けて聞く。

 「復讐ってのは、主に自分が害された時や傷つけられた時、その憎悪を晴らすべくする行為だ。単に自分が傷つけられる、大切な人が殺されるといったのが動機の代表例だな。ま、あいつらが家族や大事な所持品が殺され奪われ壊された、っていうのなら復讐として虐げるのはまだ分かる。
 けど違うんだろ?あいつらはただ領地を奪われただけ。鬼族たちは戦の中で仕方なしに戦闘兵たちを殺しただけ。生きる為に殺した。そこに復讐もクソも無いはずだ。ならあの獣どもがやっていたことは、ただの悦楽による虐待だ。正当性など微塵も無い」

 俺の話にみんな真剣に聞いていた。保護された鬼たちもいつの間にか聞いていた。俺の言葉にいくつかがこいつらの心に沁みたようだ。

 「だから...もしお前らが獣人族に憎悪を抱いているなら、あいつらを殺したいと考えてるなら、それは正当な復讐行為だ。蹂躙して虐げて犯して殺すも、全て赦される。あいつらにはそうされる資格があるから。
 と、いうわけで...お前らはどうしたい?」

 言いたいこと言って、最後に鬼族たちに判断を委ねた。最後に全てを決めるのはこいつらだ。そうするべきだ。これは俺の復讐ではないのだから。
 俺の問いかけにしばらくしてから一人の男鬼が声を上げた。

 「殺したい...復讐してやりたい。ああそうさ!あの獣どものせいで俺はもう戦士としての生命が断たれた!誰も獣人を傷つけていない俺が!こんな目に!!俺はやるぞ!絶対に赦さない!!」

 怨嗟満ちた目を燃えている家に向けながらそう叫んだ。男の決断をきっかけに次々武装蜂起を唱える鬼たちが出てきた。
 穢された屈辱、虐げられた恨み、身内を殺された憎しみなど、色んな動機を聞いた。気が付くと、俺たちの空間には、どす黒い感情の渦が見える錯覚が起きるくらいに、空気が凄くなっていた。復讐を望む者がこんなに集まるとこうなるのか、と俺は驚嘆した。

 「お前らの気持ちはよく分かった。これより、今回お前らを救った鬼族の代表であるアレンが、少し前にこのカイドウ王国を滅ぼすと宣言した。この国の頭と主戦力どもはもう死んだ。残りは雑魚だけ、駆除活動だ。復讐したい奴らは全員アレンに続いて、存分に恨みを晴らしてこい」

 アレンを紹介して俺は復讐を煽った。全員金角鬼は知っているようで、アレンを崇めるように見ている。アレンは少し恥ずかしそうに身を捩るもすぐにとりなして、号令をかける。

 「後はこの国全てに総攻撃をしかけるだけ。土地や民家建物、そして何よりも獣人たちを滅ぼしに行く!その気がある人は、みんな私たちについてきて!」

 その言葉に鬼たちは全員雄たけびを上げて賛同した。全員一致で、獣人族どもに復讐する方針が決まった。ああ...!面白くなってきた!今まで害されまくってきたこいつらが、一致団結して悪の根源どもを根絶やしに行く。なんて面白い展開だ!これこそ復讐の醍醐味!こうじゃなくっちゃ!

 「じゃあコウガ、カミラ。私たち行って来るね。獣人族を、完全に滅ぼしてくる」

 俺とカミラに手を振ると、スーロンをはじめとする鬼族たちを率いて再び町や森へ侵攻した。

 「なんだかアレンが族長みたいに見えました。もう立派に鬼族のリーダーできてますね」
 「ああ。アレンの目標...鬼族の復興もそう遠くないなきっと...」

 二人してアレンの成長に嬉しく思い、彼女を眺めていた。

 そして鬼族たちの逆襲が始まった...!




 獣人族どもは一方的にアレンたちによって蹂躙されていった。抵抗するもスーロンやソーンの圧倒的膂力の前に為す術なくひれ伏し、そんな奴らを他の鬼たちがリンチして痛めつけた。
 悲鳴と助けを呼ぶ声を上げる獣人族たちを、鬼族たちは実にいい顔して虐げて苦しめて、そして殺していった。少し前までは、お互い逆の立場だったのが、今はすっかり逆転している。獣人族たちも、以前はああいう顔をして鬼族たちを虐げていたのだろうか。いや、そうに違いない。じゃなきゃ鬼たちがああまで復讐に走ったりはしないからな。


 「あははははは!!こうしたいとずっと思っていた!俺をあんな風に虐げて苦しめてくれたツケ全部払ってもらうぞぉ!!」
 「あんたが!愛人を殺してくれやがったな!?だからあんたの大事な人を殺してからあんたも殺す!!」
 「悪魔の族め!お前ら最低魔族はここで滅べばいい、死ねぇ!!」
 「おらっ!やるならこいよ!!獣が鬼に勝てると思うなぁ!俺たちを害したこと後悔しながら死ねよおおお!!」
 「あっははははははは!気持ちいい!!復讐ってこんなにも気分が良いものなんて!今まで耐えた甲斐があったよ、こうやって憎い獣どもをぶっ殺せるのだからぁ!!」

 「ひぎぃ!?悪かった!今までのこと全部謝罪するから、赦し...あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”...!!!」
 「来るなぁ!やめ、ひ!?ひいいいいいいいいいいい!!」
 「ぎゃああああああああああああああああああ!?」


 あちこちから鬼族たちの怒号と獣人族どもの悲鳴が聞こえる。実に愉快だ。
 家や森、草原が燃えていく中獣人族どもが殺されていく様を、俺は面白がって眺めていた。飽きることなくずっと...。



 1時間は経った頃、彼らの復讐タイムは終了した。獣人族が暮らす地帯は焼け野原と化し、人も全員死んだ。獣人族は、今日を以て絶滅した。ドラグニア、ハーベスタンに続き、今度は魔族の国が滅ぶとは思ってなかったが、これはこれで面白いから良いや。
 復讐が終わって余韻に浸っている鬼族たちだが、その中でアレンだけは俺のところにやってきて、これからのことを聞いてきた。彼女もみんなのところに混ざって喜びを分かち合いたいだろうに、しっかり族の長としての自覚を持ってるなぁ、感心。

 「ここを鬼族の領地として大丈夫かな?移動無しで楽だし、ここは自然に囲まれて悪くないと思うのだけど...」
 
 アレンはここを鬼族の村...土地の規模的に里?を興すことを提案した。彼女の言うことは間違ってはいないが、この大陸にはあの王国があることに問題がある。

 「確かにここは鬼族が暮らすには申し分無い環境だし住みやすいだろう。ただ、このベーサ大陸には、サント王国が存在してて、まぁそのなんだ?ちょっと厄介になりそうで...」
 
 途中言葉を濁してしまったが、それでも伝わってくれたらしく、アレンはあっと気づいて少しシュンとする。可愛い。

 「そうだったね...あそこには、あの人がいるもんね?近いところにいるのはダメだよね?」
 「まぁそうなるな。悪いがここで暮らすのは諦めよう。この土地は別の使い道として利用するよ。で、鬼族たちの暫くの住むところなんだけど...」

 そこまで言ってどこにするか思案する。とここで、カミラがあのーと提案持ちかけてきたので話を聞く。

 「私の故国...ハーベスタンはどうでしょうか?私の家もあるし、今は国民はほとんどパルケ王国に移住しています。仮に人がいたとしても、亜人族と共生していた彼らは鬼族がいても気にならないだろうし、生活物資もまだ豊富だと思います」

 故ハーベスタン。カミラの家もあるし、モンストールに攻められたとはいえ民家などに被害はほぼ無い。色々便利だろうし良いかもしれない。けど気になることが。

 「それこそ、ここと同じ問題が浮上しないか?あそこの隣国にはそのパルケ王国があるんだ。鬼族を良く思っていないあの国の隣に移住させて、大丈夫なのか?」
 「それに関しては問題ありません。以前私は、ディウル国王に故ハーベスタン王国に保護した鬼族たちを移住させることを伝えて、それを承知したと言質も取りました!パルケ王国に干渉しないことを条件に、鬼族が故ハーベスタン王国に住まうことは前以て納得してもらっています!」

 「え...マジ?いつの間に」

 そんな約束いつ...あ、そういえば、カミラだけ謁見部屋に残って少し話があるって言ってたな。あの時にそのことの相談をしてたのか。こうなることを予想しての行動だったのか...流石は世界トップの軍略家、頭のキレは俺なんか軽く上回ってる。

 「ドラグニアは?あそこは人一人完全にいない無法地帯だから使えると思うのだが」
 「無法地帯だからこそ危険です。あそこはもうモンストールが支配していると考えた方が良いと思います。戦えない鬼族が暮らすには過酷かと。あとハーベスタンと違ってドラグニアが滅んだことはいち早く世界中に知れ渡っています。ならば既にサントやイード王国の兵士たちの駐屯地として占領されている可能性があります。今は人族たちに遭遇するのはまずい、ですよね?」
 「...ハイ。仰る通りです。よし、全部カミラの言う通りに動こう!」
 「ふふっ、ありがとうございます。これで目的地は決まりましたね」

 完璧な理論・予測に脱帽してカミラの提案に乗った。了承してくれたことにカミラは満足気に笑った。作戦練るにおいてもう彼女の右に出る者はいないねこりゃ。

 「...ということだアレン、みんなをハーベスタンに連れてくぞ?ひとまずはそこで暮らしてもらおう」
 「うん!文句無いよ。じゃあみんなをまとめて行くから待ってて」

 アレンも了承して、早速鬼たちをまとめに行った。今はもう急がなくて良いのだが。まぁとにかくここはさっさと出るのが吉か。もしかしたらサントかイードの人間が監視とかで来る可能性あるかもしれないし。
 それに、俺にはここでまだやることがある。この死体の山をこのままにしておくのとすぐバレるだろうし。それを誤魔化す為のカモフラージュを今から行う。

 “屍族転生の種(アンデッド・シード)”。これを死んだ獣人族全員に埋め込んで、ゾンビとして動かす。

 「こいつらを、俺のゾンビ兵として使役する。念の為の戦力確保だ。あと獣人族が滅んだことを隠す為のカモフラージュも兼ねて、だ」

 念じた数だけの量の種がその場に現れる。それら全部を自動で死体に埋め込ませる。俺のゾンビ兵軍団の完成!

 「そんなアイテムがあったのですね...。コウガと同じ種族がいくつも出てきている」
 「こいつらは俺と違って自我が無い。俺の命令に従うだけの道具だ。今はあのまま寝かせたままにしておこう。鬼族たちの為に」

 やや戦慄して呟くカミラに返事しながら、這いつくばったまま待機せよと思念を飛ばして命じる。鬼族たちにとって獣人なんてもう見たくねーだろうし。

 用事は済んだ。アレンたちも準備できたみたいだし、そろそろ出るとするか。


 こうして、アレンと仲間の鬼族たちによる復讐は一旦幕を閉じる。彼女の笑顔が見れてよかったよ、ホント。

 俺たち一行は港で船をもう一隻買って、それですぐに出航した。
 今人族の中でいちばん大きな勢力はサント王国だ。イードとも連携取るようになってからいっそう勢力増しているそうだ。そんな国がある大陸に長居するのは面倒だ。
 俺を危険人物として手配したのもサント王国だ。だからこそ今すぐベーサ大陸を離れるのが最善だ!というカミラのありがたい助言に従い、さっさと大陸を出た。

 日付が変わった朝、オリバー大陸に着き、故ハーベスタン王国に戻ってきた。カミラの家と王宮には誰もいないので、そこに鬼族たちを住まわせることに。
 といってもここに住まわせるのは、非戦闘員の鬼たちだけだ。俺・アレン・カミラに加え、スーロンたち3人は休養摂ってからまたここを出ることに。
 別に俺一人で良かったのだが、より強くなるにはアレンの協力が必要だし、カミラはついて行きたいと頼んできて、スーロンたちも強くなりたいとのことで、そういうメンツになった。

 「カミラは何でついて行こうと?」
 「え、と...単純にコウガと一緒にいたいと思って!あと、色々サポートもしてあげたいとも思って!ダメでしょうか...?」
 「いや?何か援助してくれるのはありがたいし。じゃあ頼むな?」
 「はい!任せて下さい!」

 という感じでカミラも同行することに。それにしても不思議なもんだ。俺みたいな男に好意を寄せてくれる女がいるなんて、世界は一つだけじゃない、いくつもあるのだとすれば、こんな俺を好きになってくれる女は意外といるのかもしれない。復活して良かったと思うよこの時ばかりは。

 丸一日休養を摂った翌日。俺たちは再びハーベスタンを出る。昨日は鬼たちの住むところは彼ら自身で決めてもらって、その後は全員で祝勝会的な飲み会を開いた。保護鬼たちは久しぶりのまともな食事や酒に感極まって泣きながら飲み食いしていた。全員夜が明けるまでずっと宴会タイムを愉しんだ。
 だから出発したのは昼前だった。当分の間は鬼たちで好きに生活させることに。現族長となっているアレンが戻るまではまとめ役は無しということにした。リーダーがいなくても彼らならしっかり生活できるだろうと思ってのこと。
 長くて3ヶ月は空ける予定だと伝えて彼らとしばらくお別れした。

 で、これから俺たちはどこへ行くのかというわけだが...


 「よぉ、そんなに久しぶりではない再会だな?また来るとは思ってなかったが」
 「色々理由があって、また厄介になる。よろしく頼む」

 陽が沈みかけの頃、サラマンドラ王国のいちばん大きな家というか屋敷前、竜人族の族長・エルザレスと今挨拶している。
 復讐前にアレンの仲間と会うべく訪れたこの国に、再び訪問して彼のもとへ来た。複数の鬼族の戦気を感知した竜の戦士たちがこうして出迎えてくれた。ドリュウが俺とアレンに手を上げて挨拶してきたので、俺は会釈し、アレンは軽く手を振った。

 「アレン!仲間をまた保護できたんだね!それも凄く強い人たちを!また来てくれて、会えて嬉しい!」

 そう大きな声でアレンに近寄ってきたのは、この国の中での最年長のピンク髪で、堕鬼種の女鬼・センだ。堕鬼種とは、幻術類の魔法の扱いに長けた鬼で、敵を惑わす攻撃を得意とする。妹のガーデルも幻術を扱える。
 センたちとの再会にアレンも満面の笑みだ。とここでセンが今気づいたのか、アレンをまじまじと見て大変感心したと言いた気なリアクションをとる。

 「アレン、ちょっと見ないうちにまた凄く強くなったね?戦気が段違いだよ」
 「うん、かなり強い敵といっぱい戦ってきたから。私もう一人で災害レベルの敵ともまともに戦えるし、勝てるよ!」
 「えっ本当に!?あの化け物たちと戦えるの?うーん、アレンがまた遠くなっていってるぅ...」
 「そう気を落とさないで、セン。みんな協力すればあの人型にだって勝てるよ!」
 「あ...スーロン!?あなたも生き残ってくれてたのね…!」

 と、スーロンたちとの再会にセンたちが喜び合って会話に花咲かせている間、俺はエルザレスに今まで起きたことを簡単に話す。

 「亜人族の国ではやはり派閥争いが起こってたか。だがそれは病等の原因も関係していたことだったのだな。
 何より驚いたのが、獣人族が滅んだ...いや滅ぼしただと?あの大国を潰すとか、お前ら想像以上にぶっ飛んでるなぁ」
 
 エルザレスをはじめこの場にいる竜人族全員が驚きに染まっていた。

 「相手がどんな規模だろうが関係無い、それが言えるだけの力が俺にはあるのでね。ま、俺の敵にならない以上は潰すことはしないさ」
 「誰もお前の敵になると考える愚者はいねーよ、少なくとも竜人族はお前と同盟関係としてやっていくつもりだ...で?そんなキチガイに強いお前が何しにここへ来た?鬼族たちの引き渡しならいつでも構わないぞ。最近鬼族を住まわせる土地を手に入れたんだろ?」
 「それもあるが別に急ぎじゃない。あいつら5人がそこに行きたいってんならすぐ案内するが、それはあいつらの意思次第だ。今回は、主に俺の都合でまた来たんだ。ここでしばらく修行したい」

 用件を問うたことに対する俺の答え、それは修行だ。王道バトル漫画で必ず出るあの修行だ。これから修行編に入るのだ。
 が、俺の答えがよほど意外だったのか、エルザレスもドリュウも、いつの間にか話を聞いていたセンやスーロンたちも呆けた顔をしていた。

 「は...?修行?お前にとってはるか格下にあたる俺たちと修行なんかしたって何の糧にもならないだろう?というか俺たちが殺されるオチだろう。お前の相手なんか御免だぞ」

 エルザレスが見た目とのギャップ違和感全開の崩れた口調で俺の修行発言を否定しやがった。他の奴らも拒否反応している。失礼な。俺だって必要だと思ったから言ってるのに。

 「あのなぁ。さっきは誰が相手でも余裕だってこと言ったけど、それは人族と魔族に限定した話。この世界には俺と同じかそれ以上に理から外れた勢力がいるだろ?...魔人族だ。そいつらのトップと一度やり合ったんだが、本気じゃない状態のあいつと引き分けて終わった。こっちは本気だったのに、だ。
 もし万全になったあいつと今のままの俺が戦ったところで、簡単に負ける。そうなればこの世界は今度こそ終わる。魔人族は他に数人いると聞いた。Ⅹランクの軍勢が、遠くない未来この世界を潰しにくる」

 魔人族の話を聞いた全員が、茶化すことなく受け止めて、戦慄して真剣な表情になる。

 「俺は以前魔人族の長...ザイートに手酷くやられて殺すことができずに逃げられた。しかも俺の復讐相手を数人殺してくやがったしな。奴にはかなりの恨みを持っている。復讐するつもりだ。が、今のままではそれは叶えられないだろう。
 だからしばらくの間、ここや色んなところで俺自身を強化させるつもりだ。奴をぶっ殺せるくらいにな...」

 そこまで話して深呼吸する。なんかここまで真剣に話すのは珍しいなと自分で思った。今の話を聞いたエルザレスは、尚も難しい表情を浮かべたままだ。

 「お前が言いたいこと、考えていることは全て理解した。だがどう強くなるつもりだ?能力値の向上を図るなら、俺たちと戦ったって僅かなレベルアップしか期待できないぞ?さっきも言ったが俺たち全員はお前と比べてはるか格下なんだからな...ったく自分で言ってて惨めになってくるぜ」
 
 途中卑屈になりながら俺に修行の方法を問う。ま、そこが今回の重要点なんだが...。と、ここで突然アレンに向き直って姿勢を正す。いきなりの行動にアレン本人はもちろん、カミラもギョッとした。気にすることなく、日本人式の頼み事をする姿勢(頭を45度下げる)で、俺はこう言った。


 「アレン、俺に拳闘術を教えて下さい!!少しの間、武術の師匠になって下さい!!」

 「.........ほへぇ??」


 声を大にして言った頼み事に対するアレンのお返事は、可愛らしい声だった...!

 「えーと...?だから、俺にアレンが持ってる武術の知識を教えて欲しい、ってことなんだけど...頼めないか?」
 何か謎の沈黙が続いたので慌てて付け加えて言った。

 「え?...あ、うん。教えるのは良いのだけど。私の拳闘術覚えて、コウガは強くなれるの?」
 アレンは特に嫌そうな反応は見せず、単に疑問を呈した。

 「ああ、なれる。俺は以前ザイートにオリジナルの格闘技をいくつかぶつけたんだが、どうも当たりが悪くて、決まらなかったんだ。あんな技術じゃあ次戦う時めちゃくちゃ苦戦する。能力値のことは自分で何とかする。けど技に関しては俺一人には限界がある。だから一族秘伝の拳闘術を皆伝したアレン、他にスーロンやソーンにも教えを乞いたいと考えてたんだ。相手の急所を正確に突く技、身体をより自在に正しく扱って繰り出す技、型がしっかり取れるようになることなど...。
 とにかく俺にはそういう技に関する経験が圧倒的に乏しいんだ。元いた世界では格闘技を習ってはいたんだけど、あそこまでのは習得できなかったしな。
 だから強くなるには技が必要だ!そしてそれを習得するにはそういう道に精通しているアレンたちが必要だ!頼む!」

 さらに言い募って、再度頭を下げてスーロンたちにも教えを乞う。するとアレンが俺の頭を上げさせて目線を合わせる。頬を染めて笑顔で返事した。

 「畏まらないで。コウガの為ならいっぱい教えてあげる!それで強くなってくれるなら協力するよ」

 快諾してくれたと分かり、ほっとしながらありがとうと言う。とそこに、センがアレンに何か耳打ちをする。話し終えるとアレンがにゃあ!と可愛い声を上げて頬をまた染める。そしてそのまま俺に近づいて何か言い足してきた。

 「...そ、その代わり!技を教える日には、何か私の言うことを何でも聞くこと!それが条件!いい?」

 照れながらそんなことを言いだした。端でセンがニマニマとアレンと俺を交互に見つめてやがった。あの鬼女、策士やなぁ...。けどゾンビの俺なら、どんな内容だろうが叶えてやれるか。まして相手がアレンなら、な。

 「ああ、その条件飲もう。言うこと聞いて強くなれるなら安いもんだ」
 「!...うん!約束ねっ!...えへへぇ」

 契約成立したことにアレンがあどけない仕草をしながら喜びの意思を示した。うーん、アレンのことだから無茶な要望はそうないと思いたいが、R18な内容だとこのお話に載せられることができなく...やめとこう。
 要求が叶って喜び合うアレンとセン。そして...

 「ああそんな!?アレンとコウガが上下の関係に!?なら私がコウガの下になってたくさん尽くしてあげなければ...!」
 「大丈夫だよ。カミラだってちゃんと頼めばきっと構ってくれるよぉ」
 「!そ、そうでしょうか?じゃあ私もコウガに何か―」

 困った様子でいたカミラにスーロンが俺に聞こえる音量で助言してカミラをその気にさせていた。まったく、これからは遊びで過ごすんじゃないんだぞ?息抜きの時間だけなんだからな!?
 
 「......まぁというわけだ。あと竜人族のお前らにも何か技を教えてもらえれば、と思ってんだけど―」
 「「「「「何か教えるごとに、1つ何でも言うこと聞いてくれるなら是非引き受けよう」」」」」
 「......この野郎どもめ」

 いつリハーサルしたのか、竜人全員が声揃えてアレンと同じことを言いやがった。
まぁいい、俺を怒らせるようなことはしないだろうから多少はこいつらのパシリとかにだってなったるわい!

 こうして修行の算段はついた。今日は鬼族たち、スーロンたちの歓迎会という形で締めて、修行は明日からとなった。
 これからの修行で、俺は俺の技をさらに強くさせて戦力を上げまくる。魔人族など敵じゃないと思えるくらいに...!!

 ベーサ大陸に位置する大国…サント王国。
 ドラグニア王国・ハーベスタン王国が滅んだ今、人族を代表するのは最近イード王国を傘下に入れて勢力を増したサントと、人族最強の戦力を有するラインハルツ王国の二大国だ。なおイードは、同国王が自ら傘下に入ることを志願してのこと、強制ではない。サント王国はこれを快諾。

 サントには最近、故ドラグニア王国の王女ミーシャ・ドラグニアと、故ハーベスタン王国に滞在していた異世界人の藤原美羽、そしてラインハルツ王国に滞在していた高園縁佳をはじめとする同じく異世界人5名が加わり、盤石な体勢が整えられている。


 「――あんな奴に仲間...?どうせ脅しか何かで同行させているんだろ!?」
 「堂丸君抑えて…!すみません皆さん」

 全員が揃うまでの間、暇つぶしとして親しい者同士で簡単な情報共有が行われていた。その際に美羽とクィンが皇雅のことで話をしたのだが、それがいけなかった。
 皇雅に仲間がいるという内容を耳にした堂丸が怒りだして、彼を悪く言ったので、縁佳が彼を諫めた。残りの救世団3人も皇雅のことを良く思っていない様子だった。

 (彼らが、コウガさんのかつて同じ学び舎の生徒方。ミワさんとヨリカさん以外は彼に対してかなり敵意を持っている...とても同志とは思えないくらいに)

 クィンは皇雅とクラスメイトたちとの関係をまだ全く知らないでいる。いずれ彼らの誰かから皇雅の過去を聞くつもりでいるようだ。
 雑談が始まって10分経った頃――

 「待たせてすまない!全員揃っているようだから早速話を始めよう!」

 扉を開くと同時によく通る声を出して入ってきたのは、やや強面の筋肉質の老人だ。老人と言っても顔年齢は40代と言われても違和感無いくらいの見た目で、歴戦の戦士の風格を帯びている。

 彼こそが、サント王国の国王、ガビル・ローガンだ。御年60でありながら現役戦士でもある。
 彼は出身が王族ではなくある武家の出の人間だ。妻...王妃が王族であることで国王に任命されたのだが、武力だけでなく頭も非常にキレてもの凄い統治力が国民たちに認められてこの座に就いたのだ。

 (おじい様...)

 そして、クィンの実の祖父でもある。幼少期からガビルとともに鍛錬してきて、彼の戦歴をいくつも教えられたクィンにとって彼は尊敬できるかつ大好きな祖父である。だがこういう公の場では、身を弁えて主従関係をしっかりしている。

 今彼らがいるのは、30人は座れる円卓机がある会議部屋で、ここには各国の要人や主戦力の人間のみがいる。特に重要な会議や話し合いの場はここですることになっている。
 この話し合いの場に参加しているのは、ガビル国王とクィンと兵士団長のコザ。国外からはミーシャ元王女にイード王国国王ルイム・イード、同国の兵士団長のハンス。そして元の世界の人間6名が主なメンバーだ。

 「各国の要人方にまで来てもらった理由は他でも無い。この世界を脅かす者たちの対処についてだ!
 今この世界の脅威となっているものは、約5年前から侵略を続けているモンストール、そいつらを率いている魔人族!これはミーシャ殿からの貴重な情報だったな、感謝する。
 そして、同盟である大国を二つも滅ぼしたとされる異世界人・カイダコウガだ!」

 最後の一言にミーシャ、クィン、美羽、縁佳が反応する。彼が世界の脅威として認識されていることに、4人とも複雑な心境でいる。仲間だった者、家族を殺され国を滅ぼされたが命を救ってくれた者、大事なクラスメイトだった者、大事な生徒であった者、それぞれ悪い関係ではなかったが、世界は彼を完全に敵とみなしている。

 「まず魔人族についてだが、奴と遭遇したミーシャ殿と我が国の副兵団長のクィンの証言によれば――」

 と魔人族の詳細を簡単に話して、次の皇雅についても証言内容通りに説明した。

 「カイダコウガはゾンビという未発見の種族らしい。特徴は不死身であること、それに限られる!だが奴は特殊な固有技能によって災害レベルの魔物・モンストールを圧倒し、推定Ⅹランクとされる魔人族と互角に戦える程の強さらしい!
 そんな彼の行動目的だが、今のところは全くもって不明!完全に個人の勝手で思うがままに行動している模様。いつこちらに牙を向けるかも分からない、モンストールどもと何ら変わらない危険性を帯びている」

 ガビルは皇雅がどう動くのかが全く分からないと言ったが、彼と関わった彼女らはある程度察しがついていた。皇雅の目的、それは――

 (復讐...!)

 彼は自分を見捨てて嘲笑ったクラスメイトたちと王族を復讐して殺した。だがそれはまだ終わっていない。ここに縁佳たちがいる限り、彼が止まることはない。そしておそらく魔人族をも殺す気でもいる。皇雅の今の実力ならいつでも自分たちを殺せる。その事実を理解している彼女らは焦ってもいた。

 (ヨリカさんたちを殺す気でいるのなら、私は彼を止められるくらいに強くならなければならない。少なくとも彼女たち以上には...!いつまでに?それすら不明である現状だからやっぱり焦ってしまう...)

 クィンは心の中で頭を抱えて唸っている。そうこうしているうちにガビルが話の佳境に入っていた。続く言葉にクィンも、ミーシャも大いに驚かされた。

 「これより我らサント王国・イード王国並びに、ラインハルツ王国は、連合国として新たに団結し直して『連合国軍』をつくる!!この連合国軍をつくる目的は、世界で最も脅威となるであろう魔人族を再び殲滅することだ!!」

 全世界の人族による連合国軍結成。それは百数年前…魔人族と世界規模で戦った時も同じようにつくったそうだ。これはその百数年前以来、二度目の結成となる。
 世界を滅ぼし得る強大過ぎる敵を前にすると、皆で力を合わせなければ、という結論に自然と達したということで、連合国を興すことになった。
 しかし連合国軍結成の動機は、魔人族の殲滅だけに終わらなかった。

 「そしてもう一つの目的として、救世団である異世界人の戦士たちをカイダコウガから守ること!これも重要な使命だ!この世界の最強の切り札である彼らを失うことは、人族たちの負けにつながると理解して欲しい!」

 「「「「「――!?」」」」」

 縁佳たちは今の宣言に驚かずにはいられなかった。まさか自分らを守る為でもあったなんて全く予想していなかったのだから。だが彼らは同時に嬉しくも思っていた。これだけ頼もしい人たちがついているのだから、魔人族や皇雅など怖くない、と思っていた。特に堂丸や中西はそんな気持ちが強くでていた。

 「以上を以てここに人族連合国軍の結成をここに宣言する。
 ...という話になったが異論はありますかな?フミル国王殿」

 結成宣言をした直後、円卓の右端にあるノートパソコン大のモニター台に映っている男にそう問いかけた。彼はラインハルツ王国の王、フミル・ラインハルツだ。ここに来られないとのことでこうしてモニター越しで話し合いに参加している。彼の背後には、最強の戦士、ラインハートが護衛するように立っていた。

 「反対などしないさ。むしろその連合国軍に是非入らせてくれ。サント・イード、そして救世団の彼らに加えてこのラインハートを中心とした我が軍がいれば、魔人族にモンストール、それにカイダとかいう危険男など恐るに足らずだ!」

 背後のラインハートを紹介しながら自身満々に連合国軍の加盟に賛成した。このフミルという男は小心者であり、最近までは縁佳たちがサントへ行ったことにかなり不安がっていた。そこに連合国軍の話が来て、今のように安心していた。彼女たちがまた戻ってくるのだろうと思っているのか。 
 それを見たラインハートは呆れ顔だった。

 「...最後に、カイダコウガだが」

 とガビルは再び皇雅の話に戻した。

 「奴には近づくな。もし接触しかけた場合は、決して手は出さずに離れることを専念するように。クィンやミーシャ殿の話が本当ならば、今は奴をも相手するのは得策ではない。当面は魔人族と戦うことを優先とする!以上!!」

 最後にそう締めくくって話し合いは終わった。



                   *

 名も無き陸地のはるか地下深く…地底。
 その地帯には瘴気という人と魔族にとって猛毒同然の気体が充満しており、誰も住めるようなところではない。
 しかしその地帯には、人らしき生物が興したであろう里か集落のような住処が存在する。こんな危険地帯で住処をつくって暮らしている生物など限られている。瘴気に対する耐性が十分な種族だ。

 それは――魔人族。彼らはこの地帯に彼らの根城を築いていた。
 
 「ったく、今度は絶対に勝手してくれるなよ?あんたがああやって消えられると何が起きるかって肝冷やすんだからな――父上」
 「はっはっは。すまんと言ってるだろ?もうしないさ。だが以前言ったように、今回の散策は価値あるものだった。俺たちに近い人族と遭遇したのだからな」
 「...カイダコウガとかいう人族の男か。分裂体とはいえ父上をあそこまで痛めつけ傷つけた人族など100年ぶりでは?いや今の父上に傷をつける者など俺たち魔人以外にいたなんて未だに信じられないな」

 療養ポッド越しでそんな会話をしているのは、傷を癒している最中の魔人族の長・ザイート。
 その実子であるヴェルド。彼は魔人族の中で序列2位の実力を持っている。ザイートが不在の間は、ヴェルドが魔人族をまとめていた。

 「あいつは危険だ。実際に戦ったから言えることだ。正直お前でさえも勝てるか分からない力を秘めている。おそらく今も強化し続けていることだろう。
 前にも言ったが、今は屍族たちを下手に地上に出すな。この前もオリバー大陸に災害レベルの同胞を地上に寄越したらしいが未だ帰ってきてないそうだな?あいつらでもカイダにとってはただの餌同然だ」

 「俺はそいつとは一度も会ったことないから本当に強いか疑わしいが、父上がそこまで言うのなら肝に銘じる。他の同胞にも改めて言っておく...ところで父上はいつ“成体”に戻れる?」

 「ああ......ざっと半年ってところかな?100年待つ経験をしたお前たちならどうってことない時間だろ?」

 「......そうだな。あんたが戻ったその時こそが、世界が俺たちのモノになる時だ...!」

 そこまで言って親子の会話は終わり、ヴェルドは自室へ帰った。しばらく経ってから入れ替わるように女性の魔人がザイートのもとにやって来た。

 「調子はいかがですか?私の魔力をたくさん込めて作った療養装置です。今すぐに全快まではさすがに無理ですが、後遺症が残らない程度には回復できます」
 「ああ問題ない。今は焦らずじっくりとここで準備することにした。お前も俺の為に魔力を随分消費したことだろう。しばらく安静にしていろ...ベロニカ」
 「はい、でも定期的に療養液は取り換えさせていただきますからね...では」

 ベロニカと呼ばれた彼女はそう言って退室した。魔人族の序列3位に位置する彼女は、魔人族の中で魔力が最も高い。今のザイートさえも凌ぐ程だ。現在彼女は、ザイ―トの医師係りを務めていて、自身の魔力を削って今ザイートが入っている療養装置をつくりあげた。それにより彼女もザイート同様に安静に過ごしている。無論戦闘も超一級だ。
 彼女がいなくなってからさらに少し経ってから、ザイートは特定のある人物に思念を飛ばして呼び出した。

 『ネルギガルド、近くにいるなら来い』

 数秒して、巨漢の魔人が入室してきた。

 「あらぁザイート様?療養中の割には血色が良いじゃない~!何か良いことあったぁ?」
 「......お前のその喋りを聞いて一気に気分が悪くなったよ、ったく」
 「もぉう~意地悪ぅ☆でも嫌いじゃないわぁ」

 見た目は巨漢のガチムチな男なのだが、それに似合わずのオカマ口調のこの男はネルギガルド。序列は5位に位置し、昔鬼族を滅ぼした張本人である。この男こそが、アレンのいちばんの復讐相手である。

 「はぁ...まぁいい。お前を呼び出したのは、戦力の増加を頼みたいとのことでだ。まだ屍族になっていない魔物どもを今のうちに手懐けておけ。抵抗するなら殺してここに持ってこい。“屍族化”させる。魔物は本来俺たちの使い魔のようなものだからな」
 「それって、世界支配の為の準備ってことかしら?この世界で私たちに反抗する魔物なんていないと思うのだけどぉ?」
 「低レベルならそうだろうな。だが知能が高い...人族で言うSランクの同胞レベルの魔物はそうではあるまい。死体になっても構わんから連れてこい。しばらくは同胞・魔物どもをなるべくこちらの領地で匿わせる。あの人族の強化を阻止する為にもな」
 「あー。カイダちゃんって子かしら?ザイート様がここまで警戒するくらいだからさぞ強いのかしらねぇ?」
 「ふん、強いなんてものじゃないぞ?遊び半分でけしかけると、死ぬぞ。それだけは頭に入れておけ。それと...お前が最近滅ぼした鬼族だがな?金角鬼の生き残りがいたぞ。家族を殺されたと言って復讐するつもりらしい。注意しておけ」
 「金角鬼...?ああ、あのやたら強かった鬼たちのことぉ!?全員殺したと思ってたのにまだ生きてる子がいたなんて...!ふふふ、楽しみねぇ♪貴重な情報ありがとうねザイート様!魔物の件了解よ!」
 「忠告はした。任せたぞ。あと魔物どもの回収手間ならもう一人寄越してもいいぞ?クロックあたりを連れていけ」

 最後のザイートの助言に間延びした返事を返して巨漢は退室した。

 (こんなところか。俺たち魔人族は、お前たちとは違ってこれ以上自身を強化できない。俺が全快次第、すぐに地上へ出て、世界に総攻撃を仕掛ける。そしてカイダがあれ以上強くなる前に、俺の全力を以て消し去ってやろう...!!)
 「いよいよだ。今度は俺たち魔人族が勝利する。魔人族と屍族、そして魔物どもが揃えば俺たちに敗北は無い...。待っていろ人族ども、魔族ども。そして、カイダコウガ...!」

 皇雅の知らないところで、それぞれの勢力が動き出していた――。




5章 完

カミラのステータスと見た目

カミラ・グレッド 19才 人族 レベル30
職業 軍略家
体力 100
攻撃 30
防御 55 
魔力 30
魔防 55
速さ 30
固有技能 未来完全予測 剛力 堅牢 加速 遠見

補足:武家生まれということで、基本の強化技能は生まれつき備わっている。
カミラの見た目 身長157㎝でロリ眼鏡巨乳体型(FとGの間)。髪は緑色セミロングの二つ結び。伊達眼鏡。黒いローブ着用。
幼少時代の名残から、毎朝ランニングと剣の素振りをしている。下の子が欲しいと思っていたから、主人公のことを弟扱いすることがある。


鬼族
スーロン 長めの灰色髪 身長177㎝ 胸C~Ⅾカップ 
幼少期アレンとセンと格闘技でよく競い合っていた。 アレンの恋をいちばん応援している。センとルマンドが来てからは、それをさらに拍車をかける。


キシリト 薄いピンク髪 筋肉質の身長2メートル 
背中に鬼神が宿っている体型、でも吸血鬼である。ギルスとは幼い頃からともに修行してきた仲で、弟のように思っている。


ソーン 薄いピンク髪 150㎝ 胸Bカップ
武術に秀でた吸血鬼。
兄のキシリトのように魔法が上手く使えるようになりたいと思っている。また、身長も兄のように伸ばしたいと思い、スーロンのように胸も成長してほしいとも思い続けている。戦闘においてギルスをライバル視している。キシリトのことは「兄ちゃん」と呼んでいる。

*ステータスは本編参照 センたちの見た目詳細とステータスもそのうち書きます!


亜人族
ディウル 90才 身長2メートル 白髪混じった黒短髪 
超人種 レベル100
職業 戦士
体力 7500
攻撃 5000
防御 8000
魔力 5000
魔防 8000
速さ 3000
固有技能 擬態看破 限定進化 他未定


ダンク 80才 身長220㎝ 坊主頭
超人種 レベル150
職業 大剣使い
体力 12000 
攻撃 10000
防御 7000
魔力 8000
魔防 7000
速さ 6000
固有技能 気配感知 怪力 絶壁 限定進化 他未定


アンスリール 25才 身長185㎝ 金髪碧眼 パルケ王国王子および兵士団長
超人種 レベル75
職業 戦士
体力 7000
攻撃 10000
防御 3000
魔力 10000
魔防 2000
速さ 5000
固有技能 限定進化 他未定


魔人族 
ヴェルド 年齢不詳(見た目は主人公と同じ年齢に見える) 身長175㎝ 黒髪 序列2位 ザイートの実子
赤い瞳に黒い眼窩。目の下から薄い線が走っている。口調が「七つの〇罪」のゼ〇ドリス と似た感じ。
暗黒魔法のエキスパート。剣や槍に長けている。


ネルギガルド 年齢100~ 身長210㎝ 銀髪 序列5位 
紫瞳に黒い眼窩。 全身に薄い線が走っている。かなりの筋肉質(ワン〇ンマンのゴウ〇ツと似たビジュアル)だがオカマ口調。
鬼族を滅亡寸前に追い込んだ魔人。ザイートに比肩する武術のエキスパート。


ベロニカ 年齢不詳(見た目年齢は20後半)紫セミショートヘア 序列3位
褐色肌 胸美乳(Ⅾカップ)身長170㎝ 碧眼で黒い眼窩。
ザイ―トを除けば魔力がいちばん高い。超サイコ能力を使う。ザイートに対して最も厚い忠義心を抱いている。


魔人族のステータスは本編で公開予定

 翌日から俺はアレンや他の鬼族たちから拳闘や蹴り技、急所の突き方などの格闘術を学ぶ生活を始めた。
 小学生の頃ある程度格闘技を修めていた俺だったが、アレンたちが教える技は全てそんなものを軽く凌駕するレベルだった。今まで身につけてきた技術は一旦忘れて、完全な初心者として取り組むことにした。

 「そこで腕はこう...そうそれで正解。で、下半身はこういう感じに――」

 アレンは教えが上手だった。俺自身も飲み込みと要領は良い方なので、教えられたことを次々吸収していった。まぁ飲み込み早い理由は、俺の固有技能「武芸百般」のお陰もあるが。技を習得する度に強くなっていく気がして、楽しくさえ感じられた。
 俺は教えられるばかりではなく、アレンたちの修行の相手もしてあげた。といっても俺の修行も兼ねている。彼女たちが色んな技を繰り出して俺はそれを委細しっかり観察して実際にくらってみたりして、試合を通して彼女たちの技を習っていった。

 時には、竜人族たちにも技を見せてもらい、試合を通して習わせてもらった。
 鬼族は激しくも的確に急所を突く要領の良い技。
 竜人族は俺と似た要素があり、自身の筋肉を自在に伸縮・肥大化させて、必要な部分に集中して魔力を集めて攻撃させるという己の身体を完全にコントロールする技。
 それぞれ異なる技だがどれも俺にとって強化には必要不可欠要素であったので、全力で集中して技を物にしようと日々修行に励んだ。

 竜人族たちだが、「限定進化」で姿が漫画やアニメで見た通りの竜になっても、彼らが繰り出す武術のキレは洗練されたもので、きれいだった。彼らの動きを1ミリたりとも見逃さず記憶し、分析して真似をして、学びまくった。
 竜人族たちの進化した姿だが、それはもう“カッコいい”の感想に尽きるものだった。某モンスター狩りゲームに出てくる竜種のモンスターを画面から引っ張り出してきたような感じで、“ああ、異世界に来たなぁ”という想いが強く出た瞬間だった。

 特に族長のエルザレスとナンバー2・カブリアスの二人が竜人族の中でずば抜けていた。あいつらでSランクモンストール数体と渡り合えるレベルだ。


エルザレス 150才 竜人族(蛇種) レベル150
職業 戦士
体力 100000
攻撃 50000
防御 60000
魔力 30000
魔防 60000
速さ 20000
固有技能 蛇竜武術皆伝 魔力光線(炎熱 嵐 光) 大地魔法レベル8 
炎熱魔法レベル8 嵐魔法レベル8 光魔法レベル8 大咆哮 瞬足 気配感知 隠密 限定進化



カブリアス 85才 竜人族(蛇種) レベル120
職業 戦士
体力 75000
攻撃 55000
防御 37000
魔力 39900
魔防 35000
速さ 30000
固有技能 蛇竜武術皆伝 水魔法レベルⅩ 雷電魔法レベルⅩ 嵐魔法レベル9 暗黒魔法レベル8 魔力光線(水 嵐 雷電 暗黒) 大咆哮 魔力防障壁 
気配感知 限定進化



 これらは限定進化した状態の時に「鑑定」したステータスだ。アレンを大きく上回る強さを持っている。俺やザイート以外で魔法レベルⅩを習得してる奴なんて初めて見た。二人とも蛇とは言うが見た目が完全に龍だ。蛇って先祖が龍だったのかもな。
 特にカブリアスは蛇種でもさらに珍しいとされている“白蛇”...空を舞う蛇竜だ。このフォルム、ゲームに出てきた嵐を呼ぶ白い龍にそっくりだ。素質は歴代戦士最強らしい。時期族長はこいつに違いない。
 この二人とは割とガチ目に実戦修行を行った。お陰でレベルが上がった。

 「コウガの奴...他の竜人戦士や鬼族の奴らよりも修行に精を出しているな。あれだけ強いというのに尚も満足せず上を目指すあの姿勢には、見習うところがある」
 「それだけ魔人族が脅威ってことか...親父は、魔人族のこと知っていたんだったな?あいつらの強さは知ってたのか?」
 
 俺の修行に対する姿勢に評価するエルザレスに、カブリアスが魔人族のことを聞いていた。エルザレスは確か150才...あの年齢ならザイートたちのことも知っていたかもしれないな。俺も少し聞いてみるか。

 「......ああ。かつて俺もあいつらと戦ったことがある。殺されかけた経験もあった。あいつらは強い。それは紛れもない事実だ。...そうだな、俺の知ってる範囲で少し奴らについて話すか」

 そう言って俺とカブリアスに魔人族について教えてもらい、奴らについて色々知った。そして、先代異世界召喚組についても教えてもらった。

 それは、俺にとって価値ある話だった。


 「魔人族と、コウガと同じ世界から来た人たちのことを、教えてくれたの?」
 「ああ、エルザレスは100年前から戦士として生きていた男。ザイートのことも少し知っていた。先代の召喚された人間のことも、なっ。ところで...加減はどうだ?」
 「んっ♪良い!それ好きぃ。もっと♪」

 夜は3人用の寝室部屋で(何でか、寝る時は3人部屋となっている)色々お話をして過ごしている。たいていこの時間は、アレンと約束した“何でも言うこと聞く”を叶える時間に使っている。最初の時に、疲れが和らぐようなことをして欲しい、という要望だったので、トレーニング後のマッサージケアを施した。
 それがアレンにはたいそうお気に召したようで、毎回これをやることになっている。脚に軽い手圧を加え、全体を擦り、トントンと優しくたたく。スポーツやっている身としてはこういう技術も必要になってくるので、一通り身にはつけている。
 アレンが気持ちよさそうに顔を緩めている様を、カミラはいと羨まし気に見つめている。
 
 「カミラも、コウガにやってもらえば良い。とってもいいよコレ」
 「で、ですが、二人と違って私はマネージャーのような立ち位置で...むしろ私がコレをする身であるべきなのですが...!コウガみたいに上手くできなくて、うう」

 アレンに勧められるも修行していない身であることを理由に遠慮してしまいやや奥手になっている。そんなカミラに俺は苦笑しながら、

 「カミラもみんなのサポートに回りまくって少し疲れてるだろ?後でやってやるよ。遠慮無しな」
 と言ってあげた。
 「じ、じゃあ...お願いします//」

 照れながらも俺におねだりした。その仕草に少し照れたのは秘密だ。

 「...一緒に強くなろうな。魔人族を倒して、鬼族を完全復興して、復讐を完遂して、俺たちが楽しく暮らせる世界にするんだ...」
 「うん...!そうだね」
 「ついていきます。どこまでも」

 俺の言葉に二人とも快く答えてくれた。強くなる。ここで、これから数日、数か月間でさらに上へ...!俺の復讐はまだ終わってはいない。

 この後カミラにもマッサージを施した。艶めかしい、可愛い声を出して良い反応をしてくれた。以降カミラも毎晩マッサージをねだるようになったとさ。



 「明日も強い技を身につけて、俺自身の質を上げてやる。ザイート...テメーなんかすぐに追い越してやるからな...!」

 




――そして、修行を完了した頃には、半年もの時間が経過していた。
 ここから全てが再び動き出す...!!

 人族の同盟国による連合国軍が結成されて以降、サント・イード・ラインハルツの3国間で互いの戦力や保有兵器の詳細などの情報を共有し合ってきた。
 それらを基にして、どの戦場にどの兵士・戦士を配置するかの軍略、誰と誰とを汲ませるかの軍編成についても軍議に挙げられた。

 軍略担当を務める主な人物は、連合国軍の総大将に任命されたガビル・ローガン。彼はサント王国の国王でもある。
 そして主な軍略担当のもう一人は―――

 「フミル様の強い推薦があったので、デルス大陸に滞在させる最高戦力枠の戦闘員は、ラインハートさんのみで決定。他の組み合わせについてですが、救世団の例の5名・ミワさんとクィンさんの2名とそれぞれ組ませることを考えてます」
 「異論は無い。私自身も戦場へ出るが、この軍の司令塔の役目も担っている。各地へ指示をすぐにとばせる特殊道具がこの地にしか無い以上、私は自国の兵とともにここで配属ということにさせていただこう。
 あなたもこの場で各地へ指示を出せるるよう、よろしく頼むぞ。ミーシャ姫」
 「はい...!(私はもう王女じゃなくなったのに、まだ姫って呼ばれてるなぁ...言ってもまだ呼ばれてるし、もうそのままで良いか...)」

 故ドラグニア王国の王女のミーシャ・ドラグニア。
 彼女はこの半年間で軍略家としての才能が覚醒して、この連合国軍のブレーンとして活躍するようになった。その手腕は、現在行方不明とされているカミラ・グレッドに並ぶ程と評価されている。
 さらに彼女はこの半年間であることを実現させることに成功したのだが、そのことを知ってるのは彼女自身にしか知られていない。

 二人による最後の作戦会議が終わった後、ミーシャはサント王国内にある優待部屋を使っている美羽や縁佳たちのもとを訪れる。異世界召喚組の彼ら全員は同じ部屋にいて談笑している最中だった。

 「ミーシャさん」

 ミーシャに最初に気付いた縁佳が会話を
中断して声をかける。彼女たちには王女様呼びを止めさせて名前呼びを定着させている。

 「陣地配置について最終確認をしてきました。ヨリカさん、ユウヤさん、ハルナさん、ミキさん、サヤさんのメンバーで組んで戦いに臨んでもらいます。ミワさんはクィンさんと一緒です。やっぱり意思疎通がしやすい者同士で組めば力を発揮しやすいだろう、とのことでこの組み合わせとなりました。これなら魔人族にも負けないだろうと見越してのことです」
 「うんうん、私たちのチームワーク・コンビネーションは完璧だしね!もうどんな災害レベルの怪物が出たって、私たちがいれば怖くない、ってね!」
 「そうだよね...!みんな強いし、私も、みんなの足引っ張らなくなれたし、きっと勝てる...!」
 「モンストールも魔人族も、そしてあの野郎も俺の最強ガンでぶっ飛ばしてやる!誰も心配させねー!!」
 
 中西晴美が5人の仲の良さを主張して団体戦で負ける気はないと言って。
 半年間の時を経て実力と自信を大きく身につけて成長した米田小夜が、勝利を信じて。
 堂丸勇也が自分がついていると自信満々にアピールする。彼の“あの野郎”という単語に縁佳とミーシャ、美羽が少し反応したが他のクラスメイトたちは気付かない。
 が、縁佳の傍にいた曽根美紀はその反応に気付いて、縁佳の手を握る。

 「大丈夫、私もいる!」
 「......うん、ありがとう」

 この時曽根は何かを根拠にしたわけも無しに、単に気休めでそう言ったに過ぎなかった。それを何となく察した縁佳も、意味の無い感謝を口に出した。

 「......私とクィンはアルマー大陸の、ドラグニア駐屯地に配属でしたっけ?あそこには既に兵が整えられていると聞いてますが」

 年齢が同じということもあってか、美羽とクィンはすっかり打ち解けて一緒にいる機会が増え、戦闘も息が合って組んで戦うことが多くなった。奇しくも一人の男を共通の話題となって会話が弾み、仲良くなれた、という経路だ。そこにミーシャや縁佳もよく入り、4人はかなり仲が良いと話題になっている。
 美羽の確認にミーシャは肯定して、そのまま部屋でみんなとお話することにした。クラスメイトたちと色々話している中、ミーシャ・縁佳・美羽は様々な想いを抱いて心の中で呟いていた。

 ミーシャ――
 (この半年もの間、モンストールが各国に侵攻したという事例が激減していた。さらにはGランク以上のレベルの魔物の出現報告も全く入ってこなかった。恐らく魔人族は次の対戦に備えて力を蓄えるべく世界中のモンストールと魔物を集めていると考えられる…。彼らが動き出すならそろそろ……この数日中に…!
 それに、あの人も、動くなら今かもしれない...!)

 美羽――
 (この半年間、私たちは地下の最深部まで潜ることができて、そこでいくつもの修羅場を超えてきた。それによって派遣され始めたあの時よりも格段に強くなれた!今ならあの子の面と向かって話し合える、止められるかもしれない...いいえ、止めてみせる!!)

 縁佳――
 (やっと、ここまで来れた...。災害レベル相手に臆することなく単独でも倒せるくらいのレベルにまで上って来られた...!魔人族の力は未知数だけど、一人じゃない皆がいるからきっと彼らにも負けない!だから、もの凄く強くなったと聞いてる彼とも向き合える!
 あの実戦訓練で落ちてしまって以降会えなくて、生きていると知ったと同時にクラスのみんなを殺したことも知って悲しく思った。だからちゃんと向き合ってちゃんと話し合う!もう失敗はしない...!)

 強く決心をした彼女たちの準備は整っている。あとはその時を待つだけであった。

 同国、国王の執務室。仕事時間で二人がこうして向き合って話すのは珍しかった。

 「明日にはここを発ってドラグニア駐屯地に滞在だったな。ミワ殿と一緒なら安心できる。あの回復能力には最初は度肝を抜かれたものだ」
 「はい、今ではミワとは信頼し合える仲です。大切な、友です...」
 「...そうか。クィンにそこまで言ってもらえる彼女なら、もう心配は不要だな、相手が未だ謎に満ちた魔人族であろうとも、だ」

 ガビルと、その実孫でサント王国副兵士団長であるクィンがちょっとした団らんを築いていた。友と発言してからクィンはやや照れくさそうに俯いた。顔が少し赤くなったのを隠している。

 「今のクィンとミワ殿が揃えば、どんなモンストール・魔物は勿論、魔人族一人なら確実に勝てるだろう。だが無理だと悟れば、駐屯地を捨ててでもこの地へ戻るのだぞ?死んでしまえばそこで全て終わりだ。そして、例のあの男だが...分かっていると思うがくれぐれも注意するのだぞ」
 「......はい。心得ております」

 やや間を空けてしまうも、クィンはその場で敬礼ポーズをとって了解の返事をした。
 「国王様も戦う場合は、無茶をして倒れないで下さいね?あなたが落ちてしまえば、軍は総崩れしてしまいますから」
 「ああ、私も心得ている。というより、ここは私たち二人だけだ。今だけは立場を忘れて家族として接してくれないかクィン?必ず、帰って来るのだぞ...!」
 「...!!はい、必ず、おじい様!!」

 ガビルにそう指摘されて、かしこまっていた態度を解き、彼と軽い抱擁を交わして再び元気のまま帰って来ると誓う。かつてのモンストールによる侵攻で実の両親を亡くしたクィンにとって、このガビルだけが最後の家族なのだ。少し涙を流しながらも再会を強く誓って、執務室を出た。美羽がいるであろう部屋に向かう途中、クィンは家族のことを考えつつも、別の人のことも考えていた。

 (あなたには、もう誰にも殺させません!救世団の方たちも、ミーシャ様も...!あなたの復讐はもう終わるべきなのです。あなたを止める為には、実力を見せなければならない!次の戦いで、全て終わらせてみせる!!)

 もう誰一人とも復讐の凶刃に倒れることは許さない。悲しき犠牲者を絶対に増やさせない。そういった決意をクィンはしていた...。



 デルス大陸にあるラインハルツ王国。ここでは既に次の戦いへの準備ができており、いつでも出陣できる状態にある。が、それは一般の兵たちだけであって、戦闘員がピリピリしている中、 “彼”だけはいつも通りの、日常と変わらない姿勢でいた。
 平常心を保って過ごすのは大切だとは言うが、この時期になって尚も戦の準備をしないでいるのは、誰が見ても大丈夫か?と問いかけずにはいられなかった。
 現にフミル国王はほぼ毎日彼...ラインハートに対してあれこれ言っている。が、国王の言葉通りにすることは一度もなかった。
 小心者で心配性のフミルなどお構いなしに通常運転でいるラインハートに、一人の女性が話しかける。

 「兵のみんなも国王様もあなたのこと気になっているみたいよ?形だけでも良いから戦準備したらどうなの?」
 「だから前にも言っただろ?コレが俺の戦に対する姿勢だって。いつ敵が襲い掛かっても良いようにしていること。何でもないようにしているが、俺は既に戦闘態勢に入っているんだぜ?これでも」
 「へぇ―」

 ラインハートの返答に軽く相槌した刹那、女は彼の頸動脈目がけて氷を纏った手刀を放った。
 が、

 「!?」

 ラインハートの首に触れる直前、彼が音も無く目の前から消えた。と思ったら、うなじにチクリとした感触がして、しばらく呆然としたのち、女は降参の意を表した。目に見えない速さで、ラインハートは攻撃してきた女の背後に回り、刃物を彼女の首に当てた、という形だ。

 「まぁこういうこった。いつ如何なる時でも同じようにやってのけるぜ?お前らと違ってな。
 ...ちったぁ勉強になったか?マリス」
 「はぁ...。本当に人間離れ、いえ魔族でもあんな反応・動きが出来る戦士いなかったわ。複数人で攻めてもきっと同じ結果になったのでしょうね?流石は人族最強ってところね。勉強になったわ。もう何も言わないわ...」

 マリスと呼ばれたこの女兵士、人族ではなく絶滅したと言われていた海棲族である。
 国を滅ぼされて逃げた先にこの国に着き、そこでラインハートに救われて以来、彼女は兵士団長でもあるラインハートの側近に任命された。他でも無いラインハートの名指しによってだ。類稀なる戦闘能力を彼に見いだされてのことである。
 その身体には、エラがあり、腹部分には鱗があって、背びれもついている。髪は青みがかった黒髪で背もラインハートと変わらない。

 「というより、どうしていつもそんな姿勢でいるの?疲れない?」

 武器を収めたラインハートに改めて単純な疑問をぶつけると、彼はどこか遠くを見据えながら呟くように答える。

 「こういう技術を身につけていないと、いつどこでどんなタイミングかで敵に不意を突かれて命を落とす。こういう何でもない時を狙って突然刃を突き立ててくる...魔人族にはそんな攻撃手段を用いてくる奴がいるかもしれない。その対策としてこういう技を身につけた。それだけだ」

 そう答えて、ラインハートは王宮へ帰りだした。それについて行きながらマリスは胸中で呟く。

 (......何それ?意味が分からなすぎる。この男は時々こういうことを口に出すことあるのよね...ついていけないわ)

 心中でそう毒づきながらも彼の元を離れないのは、命を救ってくれた恩があるのと、その謎のカリスマ性もある。実際この国の兵士たちは皆彼を慕っている。

 「......この戦いが、俺にとって最後になるだろうなぁ」

 マリスに聞こえない声量でそう呟く彼の脳裏には、とある異世界人の男が浮かんでいた。

 (復讐を望んでいる屍族人間...。その男も異世界から来た人間。同じく召喚された人間たちを殺した、復讐として。理由はどうあれ、そいつは人族も魔人族も敵に回した。どう動くのか、見物だな...)

 まだ見ぬ異世界人に興味を湧かしながら、彼もまた来る戦に備える。


三大勢力その1、人族連国合軍。
主戦力
異世界人(救世団):藤原美羽、高園縁佳、堂丸勇也、中西晴美、米田小夜、曽根美紀
サント王国:ガビル・ローガン(連合国軍総大将)、クィン・ローガン(副兵士団長)、コザ・イアイアン(兵士団長)
ラインハルツ王国:ラインハート(兵士団長)、マリス(副兵士団長)
連合国軍参謀:ミーシャ・ドラグニア
その他兵士総勢10万


 とある地底につくられた、魔人族の本拠地。現在そこには全ての魔人族が集結していた。
 たった9人しかいないが、その一人一人が世界を脅かす力を持つ者が集っている。Ⅹランクすら上回る測定不可レベルの彼らが揃えば、世界は何度滅ぶことか。

 そんな彼らが今こうして全員揃っている理由は1つ。彼らをまとめている族長による呼び出しを受けたからだ。
 その張本人である魔人族の長...ザイートは、以前よりゴツくなった体躯をほぐして赤黒い色をした髪を軽く整えて、どこかご機嫌そうに同胞を眺めてから口を開いた。

 「たかが半年と思っていたが、随分長く感じられた半年だった。それだけにこの時を待ちわびていたということになる。今は最高に気分が良い。これから世界に復讐を、そして全てを俺たち魔人族の支配下におくことが実現されようとしてるからだ!」

 開口一番のその言葉に、彼の実子である序列2位ヴェルド、3位ベロニカ、5位ネルギガルドらはニヤリと笑う。ザイートが無意識に放っている悪のカリスマ性があるからこそ、皆ザイートを慕って彼についていくのだ。

 「ベロニカも全快したようだし、俺も“成体”になれた。いつでも全力を出せる。いよいよだ!俺たちはこれより世界に再び戦争を仕掛ける。そして全てを俺たちのモノにするぞ!!」
 ザイートの言葉に魔人族全員が賛同の意を示した。彼らの士気は高い。彼ら自身も、長い間この時を待っていたからだ。

 「手始めに各王国を滅ぼすところから始めようか。地上に俺たちの拠点をつくりたい。まずはいちばん弱い勢力を潰す。この場合だと、イード王国が適格か?なぁクロック?」
 「はい、ここ半年間で人族の情勢を観察した結果、その国がいちばん脆いことでしょう。人族の最高戦力がいるのは、サント・旧ドラグニア・ラインハルツの三つです」

 ザイートに振られてそう答えたのは、序列4位のクロック。灰色の髪が肩に届く程の長髪細身の男だ。

 「そうか。ならその3地域には魔人族それぞれ一人ずつ向かえ。クロックがラインハルツへ、サントにはジースが、旧ドラグニアにはリュドルが、それぞれ向かえ。全て殲滅しろ」
 「「「仰せのままに」」」
 
 3人の魔人族がザイートの命令に同意する中、彼は次に魔族について考えだす。

 「クロックの情報によれば、今存在する魔族は、亜人族と竜人族だけらしいな?鬼族も生き残りがいるそうだが、今は放っておこう。獣人族はいつの間にか滅んだって?まどうでもいいか」
 「その獣人族ですが、滅ぼしたのは鬼族だという情報が上がってます。鬼どもは侮れないかと」
 「ほう?面白いな?まぁいずれ相手することだし、邪魔するなら殺しておけ。とにかく魔族にも侵攻するぞ。ネルギガルド、お前は亜人族を滅ぼせ。お前なら余裕だろう?」
 「任せてちょうだい!亜人なんてまがい物生物の集まりよん!すぐ滅ぼしてあげる!」
 
 鬼族に特にふれることなく、ネルギガルドに指示を出す。そしてヴェルドに顔を向けて彼にも指示を出す。

 「お前には竜人族...サラマンドラ王国を頼もう。奴らは手強いが、今のお前なら容易いだろう。任せるぞヴェルド」
 「引き受けた...」
 快諾したヴェルドに頷いて、残りの魔人族たちに告げる。

 「残りの同胞たちは待機だ。戦争が終わるまではこの拠点は潰されないようにしておきたい。俺の貴重なサンプルや研究データがあるのでな。それに...奴がここに攻めてくる可能性もあるから、その迎撃に当てたい」

 二言目から声のトーンを低くしたことにヴェルドやベロニカが反応する。ザイートが警戒していることにいち早く察知したのだ。

 「屍族に近づいたまだ見ぬ異世界人か。俺たちの動向を知ったらここに直接向かってくるってことか。そういえば奴は今どこを拠点としてるんだ?」
 「例の異世界人は、現在故ハーベスタン王国を根城にしています。そこには鬼族の残党もいるようです」
 
 ヴェルドの質問にクロックが答える。その内容にネルギガルドが反応したが、何か言う前にザイートが指示を出す。

 「そこにも同胞どもに攻めさせるか。ただし、お前たちではなく屍族たちに、だ。全て最高ランクの同胞たちを使え。奴らと同じ数の同胞を入れれば簡単に殲滅できるだろう」
 ベロニカに向けてそう指示してから、一旦深呼吸をする。

 「...と、指示はこんなものか。あとは状況に合わせてお前たちが勝手に動け。以上だ、これより世界に俺たちが復活したことを知らしめるぞ...!!」

 そう締めくくって、魔人族たちの侵攻が始まろうとしていた。

 (この時の為に、お前に餌をほとんど与えないでおいた。お前の思うようにはさせない。最後に立っているのは、俺だ...!!)

 最大の障壁となるだろう異世界の男に、心の中でそう叫んだ。


三大勢力その2 魔人族軍
主戦力
ザイート(序列1位)、ヴェルド(序列2位)、ベロニカ(序列3位)、ネルギガルド(序列5位)、クロック(序列4位)他魔人族4名
モンストール・魔物
Sランク50体、Gランク100体、上位レベル500体、下位レベル2000体、使役魔物総勢約50000体


 そして、残る第3の勢力――


 「さぁて、そろそろか......!残りの元クラスメイトども、魔人族。全て俺がぶっ殺してやるよ...!!」


 長い間地下深くでの鍛錬を終えて、無人の荒野にて一人、そう声を出した俺――
 甲斐田皇雅はそう宣言した。俺の復讐劇、ただ今を以て再開する......!!


三大勢力その3 人族と屍族の間《はざま》の種族、イレギュラーの“ゾンビ” 
主戦力
甲斐田皇雅《かいだこうが》

 これより三勢力による、全大陸を巻き込む大規模戦争が、始まろうとしていた...!


 「え………コウガ一人で、二つの勢力と戦うの...?」
 
 アレンは驚いた顔で俺にそう問う。どうやら彼女は俺についていくつもりだったようだ。
 カミラも同じ気持ちだったらしく、本当ですかって言いたげにしていた。他の鬼族たちも以下同文。

 「魔人族の勢力に対抗するべく、世界中の大国が連合軍を編成して団結したらしい。対する魔人族側も、世界中のモンストールどもを従えて一気に蹂躙する気でいる。人族と魔人族による全面戦争が勃発されるそうだ。
 ちなみに魔族の大国は、その戦争に関わることは無いそうだと。少なくともサラマンドラ王国は不干渉を貫くつもりらしい。人族の大国との不可侵条約で、一方が敵国に侵略されそうになっても関わらないって決めているから…だったか?」

 カミラのほうを見て確認すると、彼女はその通りと頷いてくれた。

 「亜人族のパルケ王国も、戦争には参加しないと、ディウル国王から聞いてます」

 それからカミラはさらに、魔人族軍の勢力について補足説明してくれた。モンストールはもちろん、奴らは魔物をも軍の戦力として使うとのこと。
 魔族で唯一、魔物を従わせることが出来るのが魔人族の元々の認識だったことに気付かされた。
 世界中のモンストールと魔物を従えた魔人族軍、これもまた連合国軍に引けを取らないのは予想される。

 「そんな両軍と戦うんだったら、コウガ一人じゃ厳しいんじゃない?私も一緒に戦いたい…ダメ?」

 俺の力になりたいと言ってくれたアレンに、俺は嬉しく思う。だけどその申し出はやんわりと拒むことにする。
 
 「いや、やっぱり俺一人が良い。これから起こる戦争は、人族と魔人族との争いになる。アレンたち鬼族には無関係な争いだ。
 だけど魔人族はどうやら、人族だけでなく、この世界全てを滅ぼすつもりでいるそうだ。つまりは戦争中に魔族をも滅ぼしにくるだろうな。もちろん、鬼族もな」
 
 俺の予想にカミラも同意する。アレンと鬼たちは戦慄していた。

 「あの時と同じことを、また...!」
 「けど、今のアレンたちなら、魔人族軍が攻めに来ようが多少は大丈夫だ。その為に、この俺がいる。
 俺の考えはこうだ。俺は一人で戦場へ、アレンやカミラ、鬼族全員はここに残る。
 アレンたちは、魔人族軍がここに攻めに来たら徹底抗戦するんだ。
 今度は、全員団結してあいつらを返り討ちにしてやれ。復讐、してやれ...!」
 「復讐……」
 「そして俺は俺で、遊軍として戦場を駆け回ってやる。もちろん、復讐が第一の目的として。
 まずは、いちばんの脅威になり得る魔人族軍の本拠地を潰しに行こうと思う。あいつらも戦力を各地へ分散させるだろうから、本拠地に主戦力が勢揃い…ってことにはならないはずだ。そうだようなカミラ」
 「はい、その考え方で大丈夫かと。私が魔人族のトップならきっと戦力を分散させることでしょう」

 カミラに大丈夫と許しをもらえれば、この作戦は上手くいくだろう。

 「......分かった。ここでみんなを守る。みんなで戦って、魔人族たちを討つ...殺す!だから、コウガ。無事に帰って来て...!」

 納得してくれたアレンは、最後に俺がここにまた戻ってくるよう約束を求めた。
 当然、必ず戻るとしっかり約束して、カミラに再度確認する。

 「カミラはアレンたちの頭脳となってくれ。お前の戦略・知恵があればどんな状況にも対応できる。今度は頼もし過ぎる仲間がいっぱいいるからな」
 「はい...相手がかつてのコウガと同レベルの力を持つ集団が相手では、私の能力は使えそうにないでしょうから。悔しいですがコウガを一人にするのは正しい判断だと思います」
 
 俺の指示にカミラは悔しそうにするも、反対理由が無いため頷くこと以外できない。この半年で、カミラにも新しい固有技能が発現した。

 半年前に殺した元クラスメイトの鈴木保子と同じ特殊技能「叡智の眼」。
 あのクソ女と同じ能力が使えるようになったのだ。世界トップの軍略家であるカミラにこの固有技能。どんな敵でも丸裸同然に、情報が筒抜けに流れてくるってことだ。
 そして竜人族の精鋭たちと比肩するくらいまで強くなれた鬼族たち。ここに最強の武力に最高の頭脳が揃った。災害レベルの軍勢など恐るに足らず!

 「コウガ、私とも約束してください、必ず帰って来ると!」
 「ああもちろん。アレンたちのサポート頼む」
 
 俺の手を両手で強く握ったカミラに、残ってる方の手で軽く撫でて再会を誓った。センやスーロンたちにも激励の言葉をかけて士気を高めさせた。

 こうして俺とアレンたちとは一旦分かれて、それぞれの戦いへ赴いた。


 (半年...俺にとってはあっという間の時間だった。この時を楽しみにしていたのだから長く感じるものだと思っていた。自主トレ期間に入ってからは、ほぼ休み無しで修行していたからなー)

 修行期の最初の1~2ヵ月間は、アレンやエルザレスたちにそれぞれの武術を習って技を習得することに専念した。そのお陰で俺の格闘戦スキルが爆上がりした。どんな敵だろうと熟練された技で確定急所を突いて即殺。身体のあらゆる筋肉・関節・骨、さらには細胞の一つ一つまで自意識で思いのままコントロールして操れることも可能になった。

 これで以前は6000%くらいが身体の限界だった“リミッター”も、桁1つ以上解除しても耐えられるようになれた。身体のコントロールを知る知らないでここまで進化できるとは思わなかった。こればかりは竜人族たちに感謝せざるを得ない。

 その竜人族だが、いちばん成長したのがドリュウだ。以前は全戦士の中で10番目の実力だったのが、今では3番目...エルザレスとカブリアスに次ぐ強さを持つ戦士に格上げしていたのだ。
 実は伸びしろがいちばんデカかった彼は、一族間でのエースと的存在となっていた。あの尻尾使った斬術は凄かったなー。

 と、回想に耽りながら移動していく。なるべく各地の情勢を把握できる位置――めっちゃ高い場所へ。

 この世界でいちばん高いとされている山…「王山《おうざん》」の山頂(場所はパルケ王国付近、モンストールが棲息する危険地帯)で意識を集中させる。

 まずは近くのパルケ王国...亜人族どもだ。鬼族を迫害するのを良しとせず、憎みつつも不干渉を貫いた国王ディウル。
 “排斥派”として鬼族を連れて独立国を立ち上げようとしたダンク。
 両者相容れない思想を持っていたが、その実、国の為に動いていたことは同じだった。
 特にダンクは途中で鬼族に対する態度を変えて、虐げることを止めた。俺たちにスーロンたちを引き渡した後、国の為に、残り少ない命の火を燃やしてモンストールどもと戦いに出た...。

 あれから半年経った今、あいつらが生きている可能性は皆無だろう。病で死んだか、モンストールどもと戦って散ったか、結末はどうせ死に変わりない。
 ダンクたち主戦力が欠けた今の亜人族は、鬼・竜に大きく劣っている。魔人族に攻められれば、国は滅ぶだろう。

 「! あいつらもそう考えてか、一人パルケ王国に近づいてるな...」

 パルケ王国に接近する超濃密な魔力を持つ気配を感知した。間違いなく魔人族だ。他のモンストールの気配は無いところ、単独で攻めに来たみたいだ。ま、助ける義理は無いし、放っておこう。

 次は...アルマー大陸だ。あそこには2体の魔人族が向かっているな。サラマンドラ王国と、ドラグニア王国だったところに、か。後者の国には、人族の中で圧倒的な戦力を持つ奴が二人いる。
 恐らくどちらの方も魔人族と互角に戦えそうだ。あとは...はるか遠く、海洋国のところにも1体行ってるな。あの国には一人だけ突出した力を持つ気配がする。強いな......魔人族と互角に戦えるくらいに。あいつ本当に人族の兵士か?まぁ今はいいか。

 こうして各地に向かっていく魔人どもの動きを見たのだが、これにはもちろん意味がある。奴らの行き先が分かったところで、次は奴らがどこから出発したのかを探る作業に入るとする。
 レベルが上がったことで、固有技能「追跡」が「気配感知」に新たに追加された。これにより対象の移動の軌跡をも明らかにできる。対象の生息場所が丸分かりになるということだ。
 これがあれば、魔人族どもの本拠地が分かる、というわけだ。早速発動して、全員の移動履歴を調べる。数分かかって、全員の出発地点の共通場所を明かすことに成功。

 「そうか...あいつらはそこにいるのか。《《あいつ》》も、今はいるみたいだなぁ?いいぜ、今度はこっちから出向いてやるよ...すぐになっ!!」

 目的地を明確にした俺は、高く跳びあがってこれから向かう場所の方向へ滑空していった。

 その間で、ついに人族連合国軍と魔人族軍勢との戦争が各地で勃発した―――。