眠っていた。目が覚めたら午後4時をまわっていた。未希もそばで眠っていた。未希にはそうとう堪えたみたいだった。まだ、痛みを訴えていた。
腹が減った。夕食はどうしよう。弁当にも飽きているので何か作るか? 二人居ることだし、カレーでも作ろう。材料があるか確かめる。
人参、ジャガイモ、玉ねぎが冷蔵庫の中に転がっていた。何とか使える。丁度、鶏肉が冷凍保存してあった。足りないものはカレールーと福神漬けだと分かったので、すぐに下のコンビニへ買い出しに行く。
部屋の戻ると、未希は起きていた。もう服を着ている。
「夕食にチキンカレーをつくることにした。食べるか?」
未希は黙って頷く。
炊飯機でご飯を炊く。2合もあれば十分だろう。俺が準備するのを未希は黙って見ている。小一時間でカレーはできた。ご飯も炊けた。6時には食べられるだろう。
大きめの皿と中くらいの皿にご飯とカレーを盛り付ける。未希に「食べるぞ」と声をかけてテーブルの椅子に腰かけた。「食べてみてくれ」というと、すぐに黙々と食べている。「おいしいか?」と聞くと、頷く。確かにうまくできた。
このごろ、弁当ばかりだったので、作ったカレーは新鮮味があっておいしい。レトルトよりもずっとうまい。俺はすぐに平らげた。未希も平らげている。「おかわりするか? まだあるぞ」と言うと、頷いてお皿を前に出した。残してもしかたないので、残りのごはんとカレーを二人に分けた。また、食べ始める。
「ごちそうさん。うまかったか?」
「おいしかった」
「それはよかった。たまには料理をつくるとするか」
未希は頷いた。それから、未希は立ち上がって食器を流しに運んで洗い始めた。
「洗ってくれるのか?」
「はい」
口数が少ないが、意思表示はしている。もっと笑ったりしてほしいけど、しょうがないか? 俺が未希にしていることは相当にひどいことだと分かっている。当たり前だ。それよりやらせてもらえるだけやらせてもらおう。元を取らないと!
休日だから、食事を終えてもまだ7時、寝るには早すぎる。真ん中の6畳の部屋のソファーに腰かけてテレビを見る。
一緒に見ようと言うと未希がソファーに腰かける。すぐに抱き寄せて身体の感触を確かめる。未希は黙って動かずに身を任せている。まるでラブドールを抱いているみたいだ。反応がない。
9時になったのでお風呂に入る。二人で入るが、もうそれにも飽きてきた。未希に背中を洗わせてすぐに上がった。未希には上がったら、今日買った下着とパジャマを着てくるように言っておいた。
ベッドで待っていると、未希は上がったみたいで、隣の部屋で俺が言ったように下着とパジャマを着ているようだった。そして奥の部屋に入ってきた。
見違えるように可愛い。髪と眉がすっきりしたせいで顔が整っていてきれいなのが分かる。パジャマ姿もとても可愛い。なかなか着るものを選ぶセンスがいいと感心した。こんなに可愛い子だったのか。
「とっても可愛いね。パジャマも似合っている」というと、少し嬉しそうに笑った。その笑顔がまた可愛かった。初めて見る笑顔だった。
手招きしてベッドに座らせる。折角着てきた可愛いパジャマや下着を楽しみながら脱がせにかかる。あとはおきまりのやりたい放題。
やっぱり可愛くなった娘を弄ぶのはいいと満足感に浸っている。未希はもうぐったりして眠ったみたいだ。寝顔を覗いてみる。あんなにいやなことをされていたのに安らかに眠っている。信じられないが、苦痛の表情など全くない。とっても可愛い寝顔だと思った。
それにいつまで見ていても飽きがこない。いつまでも見ていたい寝顔だ。見ているとこちらも心が安らかになる。起こしてもう一度とも思ったが止めた。こちらも限界だ。また、明日の朝の楽しみにとっておこう。
朝、目が覚めたら8時だった。昨晩はやり過ぎた。それに目が冴えてなかなか寝付けなかった。未希はまだ眠っていると思ったら、起上ってトイレに行って戻ってきた。すぐに押さえつけて朝の楽しみをする。明るい中での行為はまたそそるものだ。やりたい放題で終えたが、痛みをそれほど訴えなかった。もう未希は痛がらなくなって来ている。
10時になると、さすがにもう寝ていられないし、お腹も空いて来た。起きて遅い朝食の準備をする。未希はまだぐったりして寝ている。起き掛けに相当にいじめてやったから、疲れているんだろう。
朝食の準備が出来てから、起こしに行く。
「起きてくれ、朝食の準備ができたから」
返事がない。
「おい、起きて食べてくれないと困る。身体に悪いぞ。こちらも身体を壊されたら元が取れないから」
ベッドでかすかに頷く。しばらくして起上ってバスルームへ入って行った。そして着替えてテーブルに着いたときは昨日とは別の部屋着を着ていた。
「それも結構かわいいじゃないか。センスがいいね」
未希が笑ったように見えた。椅子に座って朝食を食べ始めた。
「今日も天気がいいから、公園に散歩にでもいくか? ここでずっとしてばかりでもしょうがないだろう。運動不足にならないようにね」
未希は頷くだけだった。
「食べたら出かけるぞ、今着ているのがいい」
未希は食べ終わると食器を洗ってくれる。それから、二人で散歩に出かけた。
アパートから3分、大通りを歩道橋で渡ると公園だ。池の周りを1周する遊歩道がある。池にはボートがある。「ボートに載せてやろう」と言ってボートの乗り場に行く。
オールで漕ぐタイプと脚でパドルを廻すタイプがあったが、オールを漕ぐのは疲れそうなので、脚でパドルを廻すタイプにした。これだと二人で漕げる。
初めて乗ったが意外に進まない。「もっと漕いで」と未希を促す。未希も一生懸命に漕いでいる。ようやく池の真ん中まで来た。景色がいい。二人とも疲れて漕ぐのを止めている。
「気分転換になっただろう。俺とやりっぱなしじゃかわいそうだからな」
未希は黙っている。
「何とか言えよ、黙っていないで」
未希は「はい」と答えるだけだった。
「もう、いいか? そろそろ戻ろう。池の周りを歩こう」
未希は頷くだけ。まあいいか、拒絶はしていないから。
ボートを降りて、二人で池の周りをゆっくり歩く。未希が手を繋いで来た。驚いて顔を見ると笑ったような気がした。まあいいか、手をつなぐのも悪くない。ゆっくり歩く。
2周したところで神社に寄ってお参りをする。俺が鈴を鳴らして二礼二拍一礼をすると未希も同じようにまねる。
「何をお祈りしたと思う?」
未希は黙っている。
「未希と毎日楽しく過ごせるようにと祈った」
未希はほっとしたような表情を見せた。
「おみくじを引いてみないか? 俺は引かないから」
俺は代金を箱に入れて未希に引かせた。
未希はどれがいいか迷っていたが、真ん中の一つを選んだ。
「読んでみて」
「末吉《すえきち》?」
「末吉は後から良くなるということだ。そうかもしれないな。俺のおもちゃになっていて、今の未希は最低だ。でもあとから良くなって終わりよしということかな」
未希は黙って聞いていた。
「そろそろ帰るか。スーパーで夕食の材料を買って帰ろう。夕食はお好み焼きにする。コンビニでお昼に食べるパンか、おにぎりか、お菓子も買うか。好きなものを買っていいから」
商店街にあるスーパーでお好み焼の材料を買った。卵と豚肉、半分のキャベツ、紅ショウガの千切り、長芋を買った。ソース、小麦粉、鰹節、青のりは買い置きがある。
1階のコンビニでお昼ご飯を買う。未希に何でも何個でもいいからと好きなものを選ばせた。未希はおにぎりを3個、おかか、こんぶ、鳥ごはんを選んだ。俺はカツサンドと卵サンドを買った。それにあとから二人で食べるつもりでエクレアのパックを買った。
部屋に戻ると丁度1時だった。すぐに買ってきた昼食を食べる。
「おにぎりが好きか?」
未希は頷いて、おいしそうに食べている。
「お湯を沸かすからお茶を入れてあげよう。俺もコーヒーを入れるから。そういえば、未希の分の食器がいるな、カップやお皿が俺一人分しかないから、後で買いに行こう」
未希が俺の食べるサンドイッチを見ている。
「サンドイッチも食べてみるか?」
未希が頷くのでカツサンドを1切れ渡す。「ありがとう」といってすぐ食べた。そして「おいしい」と言った。可愛い奴だ。
それから、食後のデザートにエクレアのパックを分けて食べた。7個入りだったので未希に4個、俺が3個食べた。未希は「ありがとう」と言った。
3時になったので、買い忘れていた未希の分の食器を近くの総合スーパーへ買いに行った。食器は値段が安いものが多いので、必要になりそうな皿2枚、カップ、茶碗、ごはん茶椀、お椀などを買った。これで二人ゆっくり食事ができる。未希は「ありがとう」と言った。
「いいか、同居させるということは生活を保障するということだ。つまり衣食住をね。それと引き換えに俺は未希を自由にする。そういうことだ。難しく言えば、俺と未希との契約だ。そういう約束だから礼はいらない」
アパートに帰ってから、買ってきた食器を洗って食器棚に片付けるように未希に言った。未希はすぐにそれらを洗って片付けた。今日は2回も外出したので疲れた。ソファーに座ってしばらく休む。
未希が来て隣に腰かける。身体を抱き寄せて身体を確かめる。未希はじっとして動かない。身体を預けている未希はラブドールのように無表情だ。もうこういうことには慣れてきている。もうこれが当たり前と思っているみたいだ。でも今は抱く気にはなれない。
いつの間にか眠ってしまっていた。未希も俺に寄り掛かって眠っている。もう5時か? 夕食を作るとするか。隣の未希を揺り起こす。
「夕食のお好み焼の準備をするから手伝ってくれ」
二人は立ち上がってキッチンへ向かう。
「俺が材料を準備するから、未希は皿や箸をテーブルの上に並べてくれないか?」
「分かった」
俺はキャベツを切って、長芋をすりおろす。これが味を良くする。学生のころ、お好み焼屋でアルバイトしていた時に知った。豚肉を適当な大きさに切る。材料が揃ったところで、ボールに小麦粉、卵、ほかの材料を入れてかき混ぜる。かき混ぜ過ぎないのがこつだ。
そばで未希が興味深そうに覗き込んでいる。フライパンに油を引いて1枚分の材料を入れて焼き上げる。2枚焼いて二人で食べ始める。
「おいしいか?」
未希は頷いて、黙って食べている。おいしかったと見えてすぐに平らげた。「もう1枚食べるか?」と聞くと頷くので、また2枚焼いた。これも二人ですぐに食べ終えた。結局、3枚ずつ食べた。材料が余ったので、焼いたら3枚分あった。ラップで包んで冷凍保存することにした。
「お腹が空いたら、レンジでチンして食べたらいい」と言うと、未希はうれしそうに頷いていた。
お腹が落ち着いたので、しばらくソファーで休む。未希がお皿などを洗ってくれている。この後どうしようかと考えていると、面白いことを思いついた。
後片付けを終えて未希がソファーのところに来た。昨日、新しい部屋着や下着を買ったので今まで着ていたものは不要だから、それを今晩着るように言った。未希は怪訝な顔をしていた。
お風呂にお湯を入れて先に入った。後から未希が入ってきた。もうお風呂でどうするか分かっている。背中を洗ってくれる。こちらも身体を洗ってやる。ベッドで待っていると言って先に上った。
未希は言っておいたとおり、今までの服を着てからベッドに来た。
「今夜はこれからレイプごっこをする。俺はこれから未希に襲い掛かるから、未希はできるだけ抵抗するんだ。俺は未希を力づくで俺のものにする。いいね」
未希は言っていることが分かったと見えて頷いた。
「ごっこだから、大きな声を出したらダメだ。殴ったり乱暴したりはしないから心配しなくていい。でも力ずくでやるから覚悟して」
すぐに立っている未希に襲いかかる。未希は身体を丸めて抵抗を見せる。時間がかかったが、力ではもう勝負はついている。しばらくして決着がついた。
未希はベッドの上でぐったりしている。そこらに破かれた服と下着が散らばっている。やはり抵抗されると力が入ったし、いつもよりずっと興奮した。また、何とも言えない征服感がある。これはまさに犯罪行為だと思う。
新しい衣料に投資した甲斐があったし、元は十分に取れた。俺の言うことを聞いてくれる未希はいい娘だ。もう手放せない。
朝、未希が俺を揺り起こすので目が覚めた。シーツが血で汚れている。昨日乱暴したのでどこか怪我をさせてしまったかと思った。
「出血しているけど大丈夫か? 昨日のことが原因か? 悪かったな」
「生理になったみたいです」
「ええ!」
「それじゃあ、どうすればいいんだ」
「ナプキンがいります」
「そんなものここにある訳ないから、すぐに下へ行って買っておいで」
すぐさま起上って、財布から1000円を渡す。それから押入れからぼろきれを渡す。未希はすぐに身繕いをして下へ買いに行った。すぐに戻って来て、バスルームに入ると、しばらく出てこない。
まあいいかと朝食の準備をする。準備ができたところで未希がテーブルのところへ来た。二人座って朝食を摂る。
「俺は会社へ出かけるから、シーツを洗っておいてくれるか? 新しいシーツは整理ダンスの中にあるから交換して。それとパジャマや下着もよく洗っておいた方がいい」
「分かった」
「それから、今日は3000円あげるからナプキンを多めに買っておいた方が良い。ドラッグストアの方が安いと思う」
「ありがとう」
俺は会社へ出かけた。生理になろうとは、こういうことはありえるが考えていなかった。折角、痛がらなくなって馴染んできたのにしばらくお預けか? いや、下はだめでも上の口がある。いいことを思いついた。しばらくは上で楽しむか? 今日帰ったら早速仕込んでみよう。楽しみだ。仕事に張り合いが出てきた。
今日は早めに帰ってきた。いつものように1階のコンビニで弁当を買う。玄関を入ると、未希が迎えに出てくる。
「おかえり。洗濯をしておきました」
「そうか、きれいになったか?」
「分からない位にきれいになったから」
「食事は?」
「食べました。昨日のお好み焼」
「そうか、よかったな。お金を使わずに済んで」
すぐに、未希はお金を返そうとする。
「取っとけ、好きなお菓子でも買ったらいい。未希の当然の取り分だから」
未希は嬉しそうに財布に戻した。
「それより、今日は下の口はできないが、上の口を使ってもらうぞ、覚悟しておいて」
未希は頷く。いままでもさせたことがあるから意味が分かったようだった。
風呂から上がってベッドで待っているとパジャマ姿の未希がやってきた。ベッドの脇に座らせて始めるが、要領を得ないので、未希の指をなめて教えてやる。
あっけなく終わった。未希は驚いて吐き出した。それを見てまた悪い考えが浮かんだ。明日は吐き出させないようにしよう。未希は意外とこれが楽だったと見えて、しばらくじっとしていたが、ベッドに上がって俺の後ろに横たわった。
しばらくして寝息が聞こえた。顔を覗き込むと安らかな顔で眠っている。あんなことをさせられたのに安らかな寝顔だ。しばらく見ていたが、可愛くて思わずキスをしてしまった。未希は目を覚まさなかった。
次の晩も同じことをさせたが、今度は吐き出させなかった。最初は抵抗があったみたいだが、観念して飲み込んだ。一度してしまえば抵抗がなくなる。それからは吐き出さなくなった。
やりかたの形も変えて、寝かせたり、座らせたり、やりたい放題だった。未希は慣れてうまくなって早く行かせるようになった。そうすることが楽だと分かったみたいだ。するとこちらも徐々に新鮮味と面白味が無くなってきた。
人間の欲望なんてその程度のものかもしれない。やるほうもやらされる方もすぐに慣れる。慣れてしてしまうとすぐに飽きてしまう。そして、また新しいことを考える。際限がない。未希が来てから、もう1週間が過ぎようとしている。
今週もようやく金曜日。今日も帰りが遅くなった。9時過ぎにアパートに着くと、未希が玄関まで迎えに出てくる。
「おかえり」と言うので「ただいま」と答える。このごろは帰ってくると必ず迎えに出てくる。未希の顔をみるとなぜかほっとする。
「夕飯は食ったのか?」
「食べた」
「俺は弁当を食べる。お湯を沸かしてくれないか?」
未希はお湯を沸かしにキッチンへ行った。冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。テーブルに座って、レンジで温めた弁当を食べる。弁当はどれを食っても同じ味だ。いい加減に飽きる。俺の食べるのを未希が見ている。
「未希は毎日弁当で飽きないか?」
「パンも買って食べている」
「そうか」
「おじさん、アルバイトをしてもいい?」
「アルバイト?」
「下のお店で」
「どうして?」
「お店のオジサンに人手が足りないから、時間があるのならアルバイトをしないかと言われた」
「どう答えた?」
「おじさんと相談してみると言っておいた」
「やりたいのか?」
「うん。前にしたことがあるから」
「俺の帰りは毎晩遅いから一人で居ても退屈だろう。寝る時に居ればいいから、あとの時間は自由にしたらいい」
「分かった」
「明日、オーナーのところへ一緒に行こう。時給などの条件を確認しておこう。その時、二人の関係を聞かれるだろうから、そうだな、俺の姪つまり俺の姉さんの娘ということにしないか? 事情があって預かっているということにする。いいね」
「言うとおりにする」
食事を終えるともう10時になっていた。今日は疲れたので、すぐに風呂に入って寝る。未希は生理が終わっていたので、久しぶりにぐったりするほど可愛がってやった。仕事の疲れもあって、すぐに深い眠りに落ちた。
目が覚めるともう9時だった。今日は土曜日だから、ゆっくり寝ていた。朝食を終えると二人で下のコンビニに行った。丁度オーナーがいたので、未希のアルバイトについて相談した。
時給800円、一日5~8時間、週5日、シフト制、夜は8時まで、給与は毎月25日に銀行振込と言うことになった。1か月10万円以上は稼げる計算になる。
部屋に戻ってから未希に聞いた。
「未希は銀行口座を持っているのか?」
「持ってない」
「そうかやっぱりないか、作らないといけないなあ。それじゃ聞くけど健康保険証は?」
「持ってない」
「健康保険に入っていないのか?」
「分からない。お母さんとお医者さんへ行ったときに見せていたように思うけど」
「じゃあ、こっそり家へ行って持ってこられる?」
「ないと思う。お母さんが死んでから見たことないから」
「 お母さんはいつ亡くなったんだ?」
「今年の4月、急に。それから、お父さんがおかしくなって」
「それが家出の理由か?」
未希は頷いた。
「それじゃあ聞くが、家に帰る気はないのか?」
「ここにいたい。お父さんとはもう暮らしたくないから」
「俺にやりたい放題されてもか?」
未希は頷く。
「分かった。このままじゃ、何かと差しさわりが出てくる。病気になったら健康保険証が必要だし、これからアルバイトをするにしても銀行口座は必要だろう。キャッシュカードもあったら便利だ。どうしたらいいか考えてみる」
すぐにネットで銀行口座の作り方を調べると健康保険証でOKらしいが、未成年者は親の承諾が必要とされていた。これが問題だ。保険証は家にある可能性がある。
それに18歳でも未成年者だからこのまま同居するにしても親の承諾は得ておいた方が無難だろう。せっかく手なずけた未希をいま手放したくない。
これはめんどうだが、父親に会う必要があると思った。父親の携帯番号を聞くが分からないと言う。
「未希の家はどこにあるんだ?」
「青物横丁」
「ええ、どこだ?」
「京浜急行の青物横丁です」
「そうか、ここから遠くないから、これから未希の親父さんに会いに行く」
「会ってどうするの?」
「同居を取り付けてくる。そして必要なものを貰ってくる」
「私も一緒に行くの? お父さんには会いたくない」
「家の前まで連れて行ってくれればいい。親父さんとは俺が話を付ける。どこかで待っていればいい」
未希は父親が家に居るかどうか分からないと言ったが、俺を家に連れて行くことを承諾した。
俺は未成年の未希が親から離れて同居生活する場合に必要になるものを考えた。とりあえず、銀行口座と印鑑とキャッシュカード、健康保険証、住所変更のための転出証明書、親の同居の承諾書、あと父親の携帯の番号くらいかなと思う。バッグに筆記用具、コピー用紙などを入れる。
青物横丁の駅から10分ほどで古い2階建てのアパートに着いた。未希の家は2階の左端だという。未希は近くの公園で待っている。ドアを恐る恐るノックする。返事がない。もう一度ノックする。返事があった。ドアが開く。
「何か用か?」
「私は山内といますが、美崎さんですか? 娘の未希さんのことで相談があって参りました。中に入ってもいいですか」
「いいけど、未希はいないよ、家出した」
部屋に入れてもらったが、布団が敷いてあり、酒くさい。
「その家出した未希さんを私が保護しています」
「そうか、それで未希はどうしている」
「なんとか元気に暮らしています。今度コンビニでアルバイトをしたいというので相談にきました」
「アルバイト? おまえが保護して食わせているのではないのか? それにおまえは未希とやったのか?」
「保護しているだけです」
「未希はまだ17歳だ、もし変なことでもしたら、淫行で警察に訴えるぞ」
「未希さんは家へ帰りたくないと言っています。そして、アルバイトをして自立したいとも言っています」
「おまえは俺と同じ匂いがする。おまえは未希をどうしたいんだ? ほしければくれてやってもいいが」
「それなら、私が娘さんと同居する承諾書を書いていただきたい。それから、銀行口座が必要なので未希さんの預金通帳と健康保険証もいただきたい」
「未希の口座なんかない。保険証もない。未払いで停止されている」
「娘のためにわざわざここへ来るなんて、おまえは娘に惚れているのか? それとももうやっちまったからか? 100万円出すなら考えてやってもいいぞ。娘を100万円で売ってやろう」
「俺は生活がやっとで、とても100万円なんか払えない」
娘を売ろうなんて、とんでもない親父だ。でも考えてみれば安い買い物かもしれない。このまま金を払って父親の承諾を得ておけば、未希は完全に俺のものになる。まるで人身売買みたいだが。
「50万円位ならなんとかなる。それ以上はとても無理だ」
父親にしめた! と言う表情が見てとれた。
「いいだろう。すぐに払ってくれ」
「その代わり、娘さんがほしがっているから、銀行口座を作ってくれ。印鑑とキャッシュカードも必要だ。それに娘さん一人だけの国民健康保険証と住所変更のための転出証明書。親ならすぐに作れる。それと俺と同居する承諾書を書いてくれ。それらと引き換えに金を渡す。とりあえず今手持ちの5万円を手付金として払う」
「いいだろう」
「5万円の領収書を書いてくれ。領収書には住所と氏名も。それと携帯の番号を書いてくれ」
それから、父親に分かりやすいように頼んだもののメモを残してきた。俺の名前と携帯の番号も書いて、分からないことがあったら連絡をくれるように言ってその場を離れた。
とんでもない父親だった。それに未希は17歳だと言っていた。やはりそうか、ひょっとするとそうじゃないかと思っていた。やはり未希は嘘を言っていた。迂闊だった。これは本当にまずい。父親の出方次第で下手をすると淫行で逮捕もあり得る。公園のベンチで未希が待っていた。
「未希、17歳と言うのは本当か?」
未希は頷く。
「18歳と聞いて信じた俺も迂闊だったが、親父さんに淫行で警察に訴えると脅された」
「ごめんなさい」
「まあいい。親父さんは未希を金で売ると言うので、俺は未希を50万円で買うことにした。その代り、銀行口座や保険証などを作ってもらう約束をしてきた。50万円は未希に身体で返してもらう」
未希は黙っていた。
それから未希は立ち上がって俺の手を引いて歩き出した。未希にはショックな話だったに違いない。私は父親にこの男に売られたと!
月曜日の午後、携帯に未希の父親から連絡が入った。国民健康保険料が未払いなので未払い分を払わないと新しく未希の保険証を作れないと言われたとのこと。未払い分はと聞くと10万円あればいいという。未払いはこちらの責任ではないから、50万円から差し引くがいいかというと、しぶしぶ承諾した。
それでその日の午後8時に品川駅で未払い分を渡す約束をした。お金を渡す時に10万円の領収書をもらったのと、銀行口座の催促をした。通帳はすぐに出来たが、カードが届くのを待っていると言っていた。また、転出届を出して書類を貰って来ているとも言っていた。
その週の金曜日の夜遅く、未希の父親から携帯に頼まれていたものがすべて揃ったとの連絡が入った。土曜日の朝10時に品川駅で落ち合うことにした。そして、コーヒーショップで約束した銀行口座、健康保険証、転出届、同居承諾書などを受け取った。
受け取ったものの内容を確認して、キャシュカードの暗証番号も聞いた。未希の生年月日0320だという。保険証の生年月日は3月20日となっていた。その代わりにキャッシュコーナーで引き出してきた残金35万円を渡して領収書を受け取った。
「これで未希はお前のものだ。せいぜい娘を可愛がってやってくれ」
「もう、未希とは会わないでもらいたい。連絡したいことがあれば俺の携帯へ入れてくれ。こちらも何かあればあんたの携帯に連絡する。それから未希の荷物を引き取りたいので、引越し屋を手配するからまとめておいてくれ」
「分かった。まとめておく」
コーヒーショップの前で父親と別れた。後を付けられては困るので、改札口から駅に入るのを見届けた。俺の後はつけられなかったと思う。乗り換える駅でも何回も見まわして確認した。あの父親ならアパートまで押しかけて来ないとも限らない。
まあ、ああいう怪しいやからには今の仕事で慣れている。お客様相談室にいるが、いわゆるクレーム対応だ。本当に真面目なクレームもあるが、クレーマーからや因縁をつけるためのクレームもある。もう3年もやっていると大抵の対応はできるし、交渉のポイントもわきまえている。
今回の交渉ではそれが役に立った。俺の会社名も明かさなかったし、住所への郵送もさせなかった。万全の対応はしたと思った。下手をすると淫行をネタにゆすられかねない。相手が父親だからなおさら面倒だ。後々のために会話もすべてレコーダーに隠し撮りをしておいた。
クレーム対応のために社外で人と会う場合は必ず二人で会うし、会話を今後の商品開発のために使うと断って会話を録音する。すると先方も言い方が慎重になる。今回は隠し撮りだが、内容が内容だからもろ刃の剣だ。
アパートに帰ったのが丁度お昼だった。1階のコンビニでは未希が月曜日からアルバイトを始めていた。
アルバイトを始めたころから、未希は化粧をするようになった、眉の手入れを教わった時にひととおりのものを買い与えたがそれを使っている。薄化粧にして大事に使っているとのことで、化粧をするととても可愛くなったと褒めたらとても喜んでいた。意外と単純な気のいいやつだ。でも化粧のセンスが良くて本当にとても可愛くなった。
買ってきた弁当を部屋で食べていると、未希も弁当を持って入ってきた。お昼ごはんは期限切れのものを安くしてもらって食べていると言っていた。1日1000円の弁当代は今も未希に渡している。1時まで休憩時間だという。
「一緒に食うか? お湯を沸かしたらお茶を入れてくれ。うまくいった。まずは飯を喰ってからだ」
未希はお茶を入れると黙って弁当を食べ始めた。食べ終わると俺の容器も片付けてくれる。
「これで同居するのに必要なものはそろった」と預金通帳や保険証などを並べて見せて、通帳、カード、印鑑、保険証を未希に渡した。未希はそれらを整理ダンスの自分の引出しにしまった。
「親父さんに未希の荷物をまとめておくように頼んでおいた。後で引越し屋に頼んで取ってきてもらうようにするから」
「ありがとう。お金がたくさんかかったでしょう」
「締めて50万円だ」
「私の身体で返せばいいんでしょうか?」
「そうだな、それでいい。ただし、絶対に誰にも話すな! 未希は17歳だ。これがばれると俺は捕まって刑務所行になるかもしれない。そうすれば同居もできなくなる」
未希はそれを聞いて2度も頷いた。同居を続けたければ誰にも話さないだろう。俺はこれで未希を当分やりたい放題できる。ラブドールを買ったと思えば安いものだ。ラブドールも結構高価だ。
「近くの区の特別出張所があるから、転入届と保険証の住所変更などの手続きをしよう。シフトは土日以外ではいつが空いている?」
「20日火曜日の午後が開いています」
「それなら、火曜の午後に休暇を取るから、一緒に行こう」
「分かった」
「今日の夕飯は俺が作るから一緒に食べよう。弁当は買わなくていいから。何時に終わる?」
「8時」
「準備しておくから」
未希は頷いて下へ降りて行った。顔を見ると微笑んでいるように見えた。まあ、手続きもできそうで同居はなんとかなりそうだ。先週、未希の父親と話を付けてきてから、未希の俺に対する態度が変わったような気がする。
そういえば、寝る時も今までは手招きしないと来なかったが、このごろは未希の方からそばに来るようになっている。それから、いままでは終わった後に背中を向けて寝ることが多かったが、このごろはこちらを向いて眠ることが多くなってきた。抱きついたりはしないが身体を近づけて眠っている。
そうすると未希の寝顔が見えるが、以前よりも安らかな顔をして眠っている。それが可愛くてじっとみていたこともある。結構お金がかかったのでこれくらいはいいだろう。
夕食の献立は野菜炒めにした。ここのところ、野菜を食べていない。冷蔵庫に野菜がないのでスーパーへ買い出しに行った。6時にご飯を炊いておく。7時半ごろから作り始める。
丁度8時に未希が帰ってきたころに出来上がった。これじゃあまるで主婦だ。未希は帰ってくるとすぐにテーブルに腰かけた。アルバイトで疲れているようだ。
「疲れたか? 無理するなよ」
「うん、少し疲れた。夕飯ありがとう」
「すぐに食べよう」
未希はお腹が空いているのか、すぐに食べ始めた。二人共、無言で食べ終わる。あとかたづけは未希がしてくれた。疲れているなら俺がするからと言ってもさっさと洗いを終えた。
明日のシフトは昼からだというので、今夜はゆっくりできると言うと、未希は頷いた。こんな反応は初めてだった。それにこのごろは少し会話が増えてきた。今までは頷くだけだった。
風呂から上がってベッドで未希を待っていると、バスタオルを身体に巻いて未希がやってきて、横に座った。俺に身体を寄せてくる。「どうしたんだ今日は?」と言うと抱きついてきた。こんなことは初めてだった。
未希はぐったりして寝ているが、こちらを向いて俺を見ている。抱きつくほどには力が残っていないようだ。でも俺の手を掴んでいる。
「どうした」
「ありがとう」
「良いんだ、気にするな、このとおり身体で返してもらっている」
未希は頷いて、すぐに眠ってしまった。コンビニのアルバイトで疲れているところにやりたい放題されたからだと思う。死んだように眠っているが、安らかな顔をしている。それを見ていると罪悪感が少し薄れる。
日曜日の午後になってすぐに、引越し屋に引取りを頼んであった未希の荷物が届いた。机、椅子、本箱とダンボール10個だった。思っていたより多かった。
引越し屋には父親の携帯の番号を教えて、都合を聞いて荷物を引取るように頼んでおいた。そして届け先のここの住所は絶対に教えないように何度も念を押しておいた。
アルバイトを終えた未希がダンボールを開けて整理している。横目でそれを見ている。1個には本が入っている、教科書だ。1個は食器、1個はぬいぐるみと雑貨、衣類、高校の制服などで3個、あと1個には靴、スニーカーなど、アルバムが入っている箱もあった。
「未希の荷物はそれで全部か?」
「そう、全部を搔き集めてくれたみたい。衣類はお母さんのものも入っている」
「とりあえず整理して、しまうところがないものはそこに積んでおいたらいい」
「少しずつ整理しますが、時間がかかります」
「未希に整理ダンスを買ってやろう」
「アルバイト代で買います」
「いいから、あとで近くの家具屋に行こう。安いものにするけど、段ボールだと出し入れがしにくいだろう」
「大丈夫です」
「遠慮するな、同居させるには家具も必要だ。積んでおかれると邪魔になるから」
注文した整理ダンスがすぐに届いた。未希の荷物は整理ダンス、机、本箱に大方収まって、ほとんど整理ができた。残りはダンボール一つに片付いた。机と本箱は真ん中の部屋に、整理ダンスは一番奥のベッドのある部屋に俺のものと並べて置いた。丁度高さが同じだった。未希が本箱の教科書を整理している。
「未希、学校はどうするつもりだ?」
「もう行かないつもりです」
「勉強はしたくないのか?」
「お勉強は嫌いではなかったけど、成績はあまり良くなかった。でももう無理だから」
「そうか、なんとかしてやりたいけど、いい考えが思い浮かばないな」
「もう諦めています」
「高校中退じゃあ、これから困るぞ」
「コンビニでアルバイトくらいはできますから」
「それでいいのか?」
未希は頷いた。
「何とかならないものかな」
「私のことを心配してくれてありがとう」
今夜は終わってから、未希は眠る時に俺の腕を掴んでいる。どうしてか分からないが、しっかり掴んで眠っている。
親父さんに会ってから未希のことが気にかかっている。金を払ってではあるが、保護者を引き継いだのだから当然かもしれない。できることなら、なんとかしてやりたい。未希の手が気になってしばらく眠れなかった。
火曜日、俺は午後休暇を取った。午後1時前にはアパートに戻ってきた。それからすぐに転出の書類、印鑑、保険証などを持って、二人で近くの区の特別出張所へ歩いていく。
まず、転入届をした。住所は同じでも世帯は別にできる。次に保険証の住所を今の俺の住所に変更した。
もう父親の世帯とは別にしたので父親が滞納しても関係ない。未希は自分の分の保険料だけ月5000円位を支払えばいい。アルバイトで十分に支払える。これで未希は父親から自立できたことになる。
帰りに公園の遊歩道を散歩する。池には越冬のための鳥が群れて泳いでいる。いろいろな種類がいる。誰かが餌をやっているのか、鳥が群がっている。未希はそれをじっと見ている。
「健康保険の払い込みは銀行振込にしたらいい。そうすれば未希の銀行口座から自動的に引き落とされて、滞納の心配がないから便利だ。あとで手続きを教える。近くに銀行の支店があるからそこへ書類を持っていけばいい」
「そうします」
「今日は会社を休んでくれてありがとう」
「気にするな。これで未希は親父さんから自立できたし、俺もその方が好都合だ」
「アルバイトのお給料が出たら、お父さんに払ったお金を少しずつ返します」
「アルバイトの給料は未希のものだから返す必要はない。親父さんに渡した金の分は少しずつ返してもらっている。身体で」
「それでも返したいです。あんな大金」
「いいから、俺は身体で返してもらった方が良い」
「分かりました」
「いいか、自立したんだから、これからはお金だけが頼りになる。アルバイト代は無駄遣いしないで貯めておいた方が良い」
未希は頷いた。
「それから、土日を除いて1日1000円はこれまでどおり食事代として支払う。毎日は面倒だからまとめて月2万円支払う。ウィークデイの昼と夜はそれでなんとか食ってくれ。朝食と土日は自炊するからいいだろう」
「そんなにしてもらっていいんですか?」
「気にするなら、掃除と洗濯くらいはしてもらってもいい。未希のものを洗う時に一緒にしてくれればいいから」
「それでいいのならそうさせてください」
「俺も掃除と洗濯をしてもらえると助かるから」
「よかった、少しはおじさんの役に立てると思う」
はじめて未希が笑ったのを見た。未希が手を繋いできた。手を繋いで歩くなんて戸惑いながらも悪い気はしない。
今日の内に保険料の銀行振込の手続きも済ませておいた方が良いと思ったので、二人でアパートに帰って書類に書き込んで、銀行の支店へ行くことにした。幸い支店が雪谷大塚にあることが分かったので二人で歩いていって手続きを済ませた。これですべて終了した。
銀行へ行った帰り道に洒落たイタリアレストランがあった。Openは6時と書いてあった。まだ3時を少し過ぎたばかりだが、未希に自立できたお祝いにここで夕食をごちそうしてやろうと言うと嬉しそうに頷いていた。店の電話番号を携帯に入れておいた。
ゆっくり歩いてアパートに着くともう4時になっていた。レストランに電話して料理の値段を聞いた。ディナー一人3000円というので、6時に2名予約した。未希が来てから二人での外食はマックを除けばしなかった。二人でゆっくり食事がしたい、今日はそういう気分だった。電車にのって洗足池の2駅向こうの雪谷大塚で降りた。
「今日は自立のお祝いだ。遠慮するな」
「ありがとう」
「礼はいらない。これで心おきなく未希を抱けるから」
小さな声で話す。幸い店にほかの客はいないし窓際の席だ。でも声を落として話をする。
「家出した訳は大体未希の父親から想像できるが、学校はどうして行かなくなったんだ?」
丁度、料理が運ばれて来た。食べながら話をする。
「行けなくなって、止めました」
「いつ止めた?」
「今年の7月ごろから」
「3年生になってからか?」
「4月にお母さんが急死したんです。疲れが溜まっていたんだと思います」
「今年亡くなったのは聞いたが」
「働いているところで倒れて救急車で運ばれたけどだめでした」
「収入がなくなった?」
「お母さんが一生懸命に働いて私を高校へ行かせてくれていました。お父さんは定職につかず仕事をいつも変わっていましたから」
「そんな感じだったな」
「お葬式をして暫くしたら、段々お金が無くなってきたみたいで、毎日の生活費が無くて、私はコンビニでアルバイトを始めました。それでなんとか食べることぐらいはできていました」
「それで」
「11月のお給料日にお父さんがお金を無理やり取り上げて遊びに行ってしまいました。それで」
「それで家出をした?」
未希は頷いたが、泣いていた。
「そういう事情だったのか。未希も苦労しているなあ。あんな親父さんと離れてよかったな」
「私にはどうすることもできませんでした」
「まあ、俺は未希との約束を果たしているだけだから、それより今日はお祝いだ。食べよう」
折角の飯がまずくなる。余計なことを聞いてしまった。未希も気を取りなおしたのか、料理をおいしそうに食べている。それを見ていると、未希がこちらを見て目があった。未希はニコッと笑った。笑った顔を初めて見た。
「学校のこと、差し出がましいようだけど、元の学校の先生に相談したらどうかな?」
「うーん、石田先生なら相談にのってくれるかもしれないけど」
「石田先生って?」
「私の2年生の時の担任で、3年生の時も担任になった」
「俺も付いて行ってやるから、一度会って相談してみたらいい。俺にはどうしたらいいか知恵がない」
「ずっと、行っていないから、相談にのってくれるか分からないけど」
「それなら、俺が頼んでやる。学校名は?」
「都立大田高校です」
「明日、会社から電話して都合を聞いてあげる」
未希は頷いた。可愛い子と外で食事をするのはいいもんだ。こんなことは今まで数えるほどだった。
俺も学生時代から金で苦労して来た。女の子と付き合うのは金がかかるから、付き合いもほどほどにしていた。それより、女が欲しくなれば手っ取り早く金を払えばすむところはいくらでもあった。これまでそうしてきた。
俺も歳をとったのかなと思う。こうして未希の安らかな寝顔を見ていると心が休まる。未希を離したくない。いつまでもそばに置いておきたい。だから、50万円の大金を払った。そして未希には身体で返せと言った。そういう言い方しか思い浮かばなかった。俺はずるい?
水曜日、会社に着くとすぐに未希の高校へ電話をかける。美崎未希の保護者だと言うと石田先生と話しができた。石田先生は女の先生だった。
未希の学業のことで相談にのってもらいたいと言うと、二人で来てくれとのことだった。年内ならば、25日(月)の午後4時なら1時間くらい時間が取れると言われたのでお願いした。
俺はなぜ未希のことがこんなに気になるのだろう。こんなおせっかいなことまでした。まあ、乗りかかった船だ。でもこれは未希を手元においておくこととは関係ない余分なことだ。俺はこのごろ未希のこととなると少し変だ。
8時過ぎにアパートに帰った。未希はテレビを見ていた。
「食事は済んだのか?」
「うん、おじさんは?」
「これから食べるところだ。お湯を沸かしてくれないか?」
「いいよ」
「石田先生と連絡が付いた。25日月曜日の午後4時に会って相談にのってくれるそうだ。行くだろう? 俺から後でオーナーに電話で理由を話して、来週の月曜日の3時以降は休ませてもらえるように頼んでやろう」
「分かった。一緒に行ってくれるの?」
「俺が付いて行って聞いてやるから、その方がいい」
「ありがとう」
「それから、大事なことだから言っておくが、俺と未希には身体の関係はないことにしておく。そういうことにしておかないと面倒なことになるから、いいね」
「分かっている。そんなことになったら私も困る」