すぐ隣で久恵ちゃんがもぞもぞ動いているので目が覚めた。まだ、薄暗い。腕を伸ばして抱き寄せる。もう目を覚ましていた。

「パパのいびきすごい。時々夜中にそれで目が覚める。明け方もそうだった。でもパパのいびき好きよ。とても気持ちよさそうだし、仕事を頑張って、私を可愛がってくれて、疲れているんだなと思うと、嬉しくなって抱きつくの」

「ごめん、気が付かなかった。気を付けると言っても気の付けようがないけど」

「でもね、抱き付いたらいびきが止まるの」

「うるさい時はいつでもそうしてくれた方がいい」

「そのいびきが突然聞こえなくなる時があるの。驚いて、死んじゃったんじゃないかしらと、息をしているか確かめてしまうの。息をしているのが分かると安心する。だから、いびきは生きている証拠。聞いているうちに、また自然と眠ってしまうし、もう慣れた」

「久恵ちゃんもいびきをかくんだよ。そんなに大きな音ではないけど、いびきだと分かる。それが聞こえると、やっぱり仕事や家事で疲れてるんだなあと思う。すると、可愛くてしかたなくなって、抱き寄せる。すると大体治まる」

「二人とも同じことをしていたなんて、やっぱり気が合うんだ」

「でも二人ともいびきをかくのはやっぱり疲れているのだと思う」

「いびきのかきっこをしていればお互いに気にならないかも」

「久恵ちゃんの寝顔も好きだよ。夜中に目が覚めることがあるけれど、薄明りの中で寝顔を見ていると自然に時間が経って、また眠りに落ちてしまう」

「どんな顔して寝てる?」。

「いつもは、安心しきった穏やかな顔をしているけど、ときどき眉をひそめて、困ったような顔をする時があるけど、頬や髪をなでてやったりすると、穏やかな顔になる」

「撫でてくれているんだ」

「また、疲れているのか、チョットだらしなく、口を開けて寝ているときもある。そういうときは、大概、よだれをたらしている。それを口で吸いとる。これが甘くておいしい」

「ええ、おいしい? 変態じゃない?」

「そうかもしれない。近頃だんだんおかしくなってきている」

「そんな寝顔も見られているんだ。ちょっと恥ずかしいけど、いつも見守ってくれていていると思うと嬉しい」

「昨夜は、困ったような顔をしたので、いつものように髪をなでてやっていると、寝言をいった」

「何て言った」

「『もっとして』と言っていた。きっと途中で『おしまい』と止められた夢でも見ているのかと思った」

「はじめのころ、すごく痛かったので途中でやめてくれたけど、本当は最後までしてほしかったから、そうだと思う」

「そうだったの?」

「私ね、中学3年生のころだったと思うけど、ママの手頸に赤い痕があるのを見つけて、それどうしたのって聞いたの。そうしたら、ママは真っ赤になって恥ずかしそうに、買い物で重い荷物を手に掛けたから痕がついたみたいといって隠していた。高校生になってある時、パパの本棚に女の人が縛られている写真が載っている本を偶然に見つけたの。それでママはきっとパパに縛られていたんだと思った。それを思うと身体が熱くなった。だから今でも縄を見るとゾクッとするの。どうして愛し合っているのに、そんなことするのだろう」

「男と言うのは愛する女を自分のものにしたい、そして服従させたい、やりたいことをしたいと思っている。縛るというのは相手の自由を奪うことで、服従しかない状況におく。そして自分のものとして思い通りに、やりたいことをすることによって、その所有感、満足感に浸る。一方、女というのは、誰かに愛されたい、独占されたいという願望があるのではないのかな? だから服従を迫られると、それは独占されることになると思い、その満足感に浸れるのではないのかな?」

「私は、よく分からない」

「パパ、今度、縛ってみて」

「うん。無理やり奪ってみてと言われて試したとき、抵抗されてとても大変だった。はじめに縛っておくと随分楽だろうと思った」

早朝からこんなとりとめのない話が楽しくてしかたない。これもピロートークというのか? いや、起きがけトーク? いや、早朝トーク? ラジオのトーク番組みたいだ。

もうこんな時間になった。すぐに起きよう!