あの後、すぐに教師がやってきて……
俺は、そのまま学院長室に連れて行かれた。
「やれやれ……君はなにをしているのじゃ?」
6歳くらいの幼女が、60歳くらいのような感じで肩をすくめてみせた。
人形のように愛らしい幼女だ。
将来が期待されるのだけど……
あいにく、彼女はずっとこのまま。
『時の魔女』。
不老不死を成功させたらしいが、代償として、肉体年齢が8歳で固定されてしまったとか。
ソファーに座っているものの足が届かなくて、ぷらぷらと遊ばせている。
精神年齢も幼いのかもしれない。
あるいは、肉体年齢が幼いから、それ故の無自覚の行動なのか。
まあ、本人は楽しんでいると聞いている。
「教員との待ち合わせをすっぽかして、勝手に学院内を歩く」
「散歩だ。それくらい、いいだろう?」
「貴族を相手にケンカを売る」
「任務のためだ」
「挙げ句、校庭に大穴を開ける」
「もっと結界を強固にした方がいいぞ?」
「だぁあああああ! 誰のせいじゃと思っているのじゃ!?」
学院長……リーゼロッテ・エンプレスが怒り、ばしばしと机を叩いた。
しかし、その外見のせいで微笑ましい印象しかしない。
「ジークよ。お主、任務のことを忘れたのか?」
ちなみに、彼女は俺の正体や任務を知る、学院で唯一の人間だ。
サポートがいないと困るので、彼女だけは全てを明かされている。
「もちろんだ」
「そう、お主の任務は密かに王女の護衛を……」
「魔法学院で技術と知識を学び、さらなる魔法の高みへ……」
「ちっがーーーう!!!」
ばしばしと再び机が叩かれた。
「お主の任務は、第三王女の護衛じゃ! 密かに護衛するのじゃ! あと、周囲に正体がバレるような行動は慎め! もっと、おとなしくするのじゃ!!!」
「了解」
「はぁ、本当にわかっているのやらいないのやら……とにかく、決闘の件はなんとかもみ消してやろう。じゃから、これ以上騒ぎを起こすでないぞ?」
「努力しよう」
「では、教室へ向かうがよい。もちろん、第三王女と一緒のクラスじゃ」
「わかった。色々と手を回してくれて、ありがとう」
学院長室を後にしようとして、
「ああ、そうそう」
軽い調子で言葉をかけられた。
「我がアカデミーへようこそ」
――――――――――
「「「……」」」
教室の壇上に立つと、たくさんの視線が集まるのを感じた。
教室へ移動して、遅れた新入生である俺の紹介がされた。
そして、自己紹介をするように言われたのだけど……
なぜだろう?
やたら注目されているな?
「……あいつだよな? ドグ様にケンカを売った無謀者は」
「……校庭の大穴、彼の仕業だって聞いているけど、本当かしら?」
「……腕が六本足が四本、目が三つの化け物って言ってたの誰だよ」
「ふむ」
どうやら、今朝の決闘が注目されてしまい、噂が広まっているみたいだ。
目立たないように、と言われていたのだけど……
でも、仕方ないか。
ネコネを守る、という任務のためだ。
相手がドグのような貴族であっても、排除の対象になるだろう。
とはいえ、このままだとまずい。
人間、第一印象が大事と聞く。
最初の挨拶をうまいことやれば、ある程度のリカバリーは可能だろう。
「はじめまして、ジーク・スノーフィールドです」
あらかじめ考えておいた挨拶を口にする。
「病気の療養をしていたため、入学が一ヶ月遅れてしまいました。一ヶ月分、みなさんの後輩ということになります。そのため知らないことが多いと思うので、色々と良くしてもらえると幸いです」
うん。
ほどほどに良い挨拶ができたのでは?
ついつい自画自賛してしまう。
「よろしくお願いします」
ぱちぱちと拍手が響いた。
それを見て、担任はほっとした顔に。
「えっと……スノーフィールド君の席は、レガリアさんの隣ですね」
「はい」
第三王女のことだ。
「ただ、せっかくなので親交を深めるために、少しだけ質問タイムを設けましょうか。誰か、彼に聞きたいことがある人はいませんか?」
「「「はーい!」」」
たくさんの生徒が手を挙げた。
目立つな、と言われているが……
これはクラスメイトとの親交になるから、特に問題ないだろう。
「定番の質問だけど、趣味はなに?」
「魔法の研究だ。魔法がすごく好きだから、いつも魔法のことばかり考えている」
「へー、だからここに?」
「なら、とんでもない魔法を使う、っていう噂は本当のことなのか? なんか、校庭の大穴はノースフィールドの仕業、って聞いているけど」
「ただの偶然だ」
偶然。
それで片付けてしまえば、なんとなく相手は納得してしまう、とても便利な言葉だ。
「そっか、偶然か」
「なーんだ、つまらないの」
「でも、そうだよな。常識的に考えて、あんな大穴、ありえないし……」
良い方向に話が流れていく。
うん。
これなら目立つことなく、普通の生徒として潜入することができそうだ。
「あ。そういえば、病気って?」
「正確に言うと怪我だ」
「怪我?」
「ちょっと失敗して、腹が半分吹き飛ぶような怪我をしたんだ。さすがに治療に時間がかかってしまった」
嘘を吐くには適度なリアルを混ぜるといい。
そんなことを誰かが言っていたような気がする。
なので、過去の経験を交えた話をしてみたのだけど……
「「「……」」」
クラスメイト達は顔をひきつらせて、ドン引きしていた。
……なぜだ?
俺は、そのまま学院長室に連れて行かれた。
「やれやれ……君はなにをしているのじゃ?」
6歳くらいの幼女が、60歳くらいのような感じで肩をすくめてみせた。
人形のように愛らしい幼女だ。
将来が期待されるのだけど……
あいにく、彼女はずっとこのまま。
『時の魔女』。
不老不死を成功させたらしいが、代償として、肉体年齢が8歳で固定されてしまったとか。
ソファーに座っているものの足が届かなくて、ぷらぷらと遊ばせている。
精神年齢も幼いのかもしれない。
あるいは、肉体年齢が幼いから、それ故の無自覚の行動なのか。
まあ、本人は楽しんでいると聞いている。
「教員との待ち合わせをすっぽかして、勝手に学院内を歩く」
「散歩だ。それくらい、いいだろう?」
「貴族を相手にケンカを売る」
「任務のためだ」
「挙げ句、校庭に大穴を開ける」
「もっと結界を強固にした方がいいぞ?」
「だぁあああああ! 誰のせいじゃと思っているのじゃ!?」
学院長……リーゼロッテ・エンプレスが怒り、ばしばしと机を叩いた。
しかし、その外見のせいで微笑ましい印象しかしない。
「ジークよ。お主、任務のことを忘れたのか?」
ちなみに、彼女は俺の正体や任務を知る、学院で唯一の人間だ。
サポートがいないと困るので、彼女だけは全てを明かされている。
「もちろんだ」
「そう、お主の任務は密かに王女の護衛を……」
「魔法学院で技術と知識を学び、さらなる魔法の高みへ……」
「ちっがーーーう!!!」
ばしばしと再び机が叩かれた。
「お主の任務は、第三王女の護衛じゃ! 密かに護衛するのじゃ! あと、周囲に正体がバレるような行動は慎め! もっと、おとなしくするのじゃ!!!」
「了解」
「はぁ、本当にわかっているのやらいないのやら……とにかく、決闘の件はなんとかもみ消してやろう。じゃから、これ以上騒ぎを起こすでないぞ?」
「努力しよう」
「では、教室へ向かうがよい。もちろん、第三王女と一緒のクラスじゃ」
「わかった。色々と手を回してくれて、ありがとう」
学院長室を後にしようとして、
「ああ、そうそう」
軽い調子で言葉をかけられた。
「我がアカデミーへようこそ」
――――――――――
「「「……」」」
教室の壇上に立つと、たくさんの視線が集まるのを感じた。
教室へ移動して、遅れた新入生である俺の紹介がされた。
そして、自己紹介をするように言われたのだけど……
なぜだろう?
やたら注目されているな?
「……あいつだよな? ドグ様にケンカを売った無謀者は」
「……校庭の大穴、彼の仕業だって聞いているけど、本当かしら?」
「……腕が六本足が四本、目が三つの化け物って言ってたの誰だよ」
「ふむ」
どうやら、今朝の決闘が注目されてしまい、噂が広まっているみたいだ。
目立たないように、と言われていたのだけど……
でも、仕方ないか。
ネコネを守る、という任務のためだ。
相手がドグのような貴族であっても、排除の対象になるだろう。
とはいえ、このままだとまずい。
人間、第一印象が大事と聞く。
最初の挨拶をうまいことやれば、ある程度のリカバリーは可能だろう。
「はじめまして、ジーク・スノーフィールドです」
あらかじめ考えておいた挨拶を口にする。
「病気の療養をしていたため、入学が一ヶ月遅れてしまいました。一ヶ月分、みなさんの後輩ということになります。そのため知らないことが多いと思うので、色々と良くしてもらえると幸いです」
うん。
ほどほどに良い挨拶ができたのでは?
ついつい自画自賛してしまう。
「よろしくお願いします」
ぱちぱちと拍手が響いた。
それを見て、担任はほっとした顔に。
「えっと……スノーフィールド君の席は、レガリアさんの隣ですね」
「はい」
第三王女のことだ。
「ただ、せっかくなので親交を深めるために、少しだけ質問タイムを設けましょうか。誰か、彼に聞きたいことがある人はいませんか?」
「「「はーい!」」」
たくさんの生徒が手を挙げた。
目立つな、と言われているが……
これはクラスメイトとの親交になるから、特に問題ないだろう。
「定番の質問だけど、趣味はなに?」
「魔法の研究だ。魔法がすごく好きだから、いつも魔法のことばかり考えている」
「へー、だからここに?」
「なら、とんでもない魔法を使う、っていう噂は本当のことなのか? なんか、校庭の大穴はノースフィールドの仕業、って聞いているけど」
「ただの偶然だ」
偶然。
それで片付けてしまえば、なんとなく相手は納得してしまう、とても便利な言葉だ。
「そっか、偶然か」
「なーんだ、つまらないの」
「でも、そうだよな。常識的に考えて、あんな大穴、ありえないし……」
良い方向に話が流れていく。
うん。
これなら目立つことなく、普通の生徒として潜入することができそうだ。
「あ。そういえば、病気って?」
「正確に言うと怪我だ」
「怪我?」
「ちょっと失敗して、腹が半分吹き飛ぶような怪我をしたんだ。さすがに治療に時間がかかってしまった」
嘘を吐くには適度なリアルを混ぜるといい。
そんなことを誰かが言っていたような気がする。
なので、過去の経験を交えた話をしてみたのだけど……
「「「……」」」
クラスメイト達は顔をひきつらせて、ドン引きしていた。
……なぜだ?