「次、ジーク・スノーフィールドの番なのじゃ!」

 リーゼロッテの合図で前に出る。

「スノーフィールド君、がんばってください!」
「ああ」

 きちんと応援してくれるネコネに頷きつつ、魔法人形と向き合う。
 すると、リーゼロッテが近寄ってきて、小声で言う。

「……お主、ちゃんと手加減をするのじゃぞ? この前みたいに、校庭に大きな穴を開けるでないぞ?」
「……努力はする」
「……おい、確約せぬか」
「……アリンの実力は相当なものだ。下手に加減をしたら負けるかもしれない。そうなると任務失敗だ」
「……むう」
「……気をつけるが、調整が難しい。いざという時は諦めてくれ」
「……うぅ、上からどやされるのが辛いのじゃ。胃が痛いのじゃ。でも、ちゃんと努力はするように」

 リーゼロッテは諦めた様子で戻っていった。
 管理職というのも大変だな。
 いくらか同情してしまう。

 とはいえ、手を抜くことはしないのだが。

「さて」

 使う魔法はすでに決めている。
 アリンが召喚魔法を使ったのなら……

「トランス」

 魔力を増幅。
 そして、構造式を練り上げる。

「サモン、バハムート!」

 漆黒の竜が降臨した。

 その瞳は全てを見通す。
 その牙は全てを噛み砕く。
 その翼は空を支配する。

 最強の名を持つ召喚獣。
 神獣バハムート。

「なっ……!? これは、もしかして伝説の……!?」

 ネコネは驚愕して、

「あぁ……こんなものを呼び出すなんて。もう、妾、始末書確定ではないか……」

 リーゼロッテは嘆いて、

「そ、そんな……こんなことが……あ、ありえない……」

 アリンは全身を震わせて、目を大きくして驚いていた。
 目の前の光景が信じられない様子で、意味をなさない言葉を繰り返している。
 それだけ衝撃が大きいのだろう。

「あんた、どうして!?」

 我に返った様子で、アリンが鋭い声を飛ばしてきた。

 ただ、震えは止まっていない。
 むしろ、さきほどよりも大きくなっているようだ。

 警戒するように。
 そして、怯えを含ませつつ、こちらをじっと見る。

「召喚獣の頂点に立つバハムート……単騎で軍を退けるだけじゃなくて、国を滅ぼすこともできる。圧倒的な力を持つ、まさに神のような存在……」
「詳しいな」
「それなのに、どうして……どうして、あんたなんかがバハムートを使役しているのよ!?」

 餌をあげる。
 友好的に接する。
 力を示す。

 召喚獣と契約する方法は色々とあるが……
 上位の存在になるほど、その方法は絞られていく。

 力を示し、従うにふさわしい相手と教えること。
 大抵、その一択となる。

 もちろん、バハムートも例外ではない。
 ヤツと契約を交わすには、戦い、勝利をもぎとらないといけない。

 シンプルな方法ではあるが、それ故に、成し遂げた者は数えるほどしかいない。
 バハムートに力で勝つ。
 それは、神を打ち負かすのと同意義なのだ。

「いったい、どうやって……!!!?」
「決まっているだろう」

 アリンがそうしたように、俺は笑いつつ応える。

「力を示したんだ」
「なっ……」

 バハムートを力で従えた。
 つまり、俺はバハムートよりも上だ。

 その意味を理解したらしく、アリンは顔を青くして震えた。

「よし。バハムート、あの魔法人形を……」
「待て待て待てぇえええええーーーいっ!!!」

 慌てた様子でリーゼロッテが割り込んできた。

「お主、正気か!? 戦場でもないのに、バハムートに攻撃命令を出すでない!」
「俺、使える召喚魔法はこれだけなんだよ」
「極端すぎるわ!」
「不器用なんで」
「不器用すぎるわ!」

 ぜいぜい、と肩で息をするリーゼロッテ。

 はて?
 なにをそんなに疲れているのやら。

「とにかく、バハムートを引っ込めるのじゃ。バハムートが攻撃なんぞしたら、魔法人形だけではなくて、この訓練場……いや。学院がまとめて吹き飛んでしまう」
「しかし、それでは勝負が……」
「お主の勝ちじゃ! 妾が認める!」
「ふむ……アリンは、それで納得できるのか?」
「……ええ」

 問いかけると、非常に苦い顔をしつつも、アリンは小さく頷くのだった。