パチパチパチパチパチパチパチパチ。観客席から盛大な拍手がとぶ。
「お次は、新曲の笑い空です!曲名に込められた思いは、空を見上げると笑顔になる。空はいつも笑っている、どんな天気の日だって、いつの時間だって。という感じです!
 この曲は美空のある思い出から生まれた作品で、私達の今できるすべてを注いだ曲です!だから、楽しんで聴いてもらええると嬉しいです!では、新曲の、笑い空。」

♪ラララ自転車に乗って 風を感じ進んでる

青い空に碧い海 フワッと潮の香りがする
朝日を浴びて きらきら輝く
だんだん 遠ざかる香り 
街へ行く道進んでく 空とともに 
快晴の空に 笑み一つ

ラララ椅子に座って 鮭おにぎりを食べている 

緑の木の葉に翠のカワセミ 自然の声に耳済ます
白光照り付け ぴかぴか煌めく
さらさら 優しい音がする
湖眺めつつ座る 空とともに
晴れた空に 笑み一つ 

ラララ楽しむようにゆっくりと 静かな世界を歩いてる

広がる夜空に瞬く星 世界の広さを確かめる
月と星の明かり ひろびろ並ぶ
きらきらぴかぴか 光ってる
微笑み浮かべる 空とともに
静かな空に 笑み一つ

ラララ空を見上げれば いつも笑みが浮かびだす
さぁ 空を見上げよう
あなたの笑みが 待っている

 パチパチパチパチパチパチパチパチ。いい曲だ。さっき心七ちゃんが言ってた思い出って、自意識過剰かもしれないけど、私が写真をあげた時のことかな。そう思ったら泣けてきた。聴き始めから涙ぐんでたけど。歌に泣くのって、はじめてだ。

 二 過去

 どうしよう。もう嫌。なんでこんなことになるの。私はただ頑張ってるだけなのに。学校、行きたくない。もうあんな目で見られたくない。
 涙が止まらない。悲しい気持ちや悔しい気持ち、恥ずかしい気持ちがぐるぐるとごちゃ混ぜだ。頭では早く手を洗ったり給食セットを洗いに出したりしないといけないのは分かっている。でも、なかなか足が動かず、地べたに座り込んだまま。
 どうせ、このまま一階へ降りたら泣いてるのがお母さんにばれてしまうし、このままでいいか。
「笑美、どうしたの?」
 お母さんが大きな声で一階から呼んでいる。私がなかなか二階から降りてこないから心配になったのだろう。もう泣いたままでもいいか。お母さんならきっと分かってくれる。明日学校行きたくないって、部活でも教室でも一部の人にいいように使われてるって。
「今降りるー。」
 着ていたままだったブレザーを脱ぎ、ハンガーにかけてラックにかける。給食セットを持って階段を降り、洗い場に置き、手を洗う。涙がいつの間にか引いていた。それなら泣いていたのがばれないようにと、顔も洗っておく。
「お母さん、話があるんだけど、今いい?結構時間かかるかも。」
「どうしたの?もちろん大丈夫。」
 あのね、と、話し始める。
 
 私は今年、中学生になってから、(約一年と少し)一部の人から人として扱われていないと感じている。
 部活では、何か発表する時や、部室の掃除では絶対と言っていいほど私に押し付けられる。クラスでは、代表委員をやらされ、何かと雑用を頼まれる。そしてテスト前には毎回私のノートがクラス中に回され、私はなかなか勉強できない。それどころか、「青山さんは頭いいから勉強しなくていいでしょ。って言うかされたら平均点上がっちゃうからしないでー。」なんて言われたこともある。「なにそれ、私が勉強するとみんなの迷惑になるの?そんなこと言われたら勉強しづらいじゃん。」と正直思った。そんな自分も嫌で、でも素直に言うこと聞いてるなんてできなくて。結局心の中で悪態をつくに終わった。
 部活の発表や掃除、雑用については心七が手伝ってくれるため、だいぶマシだ。それでもマシと言ってしまうのが私の悪いところだ。心七がせっかく手伝ってくれるのに、それでも文句を言うなんて。私は性格が悪い。
 ざっくりまとめるとこんな感じで、私は学校に行くのが嫌になってしまったのだ。

 私が話し終えると、お母さんを見た。
 え、泣いてる……。
「そう、だったんだ……。ごめんね、気付けなくて。辛かったよね。本当にごめ」
 私はお母さんが言い切る前に、「ううん、謝らないで。」と話しかけた。
「私が言わなかったんだから、お母さんはなんにも悪くないよ。謝ってほしくて言ったわけじゃないの。ただ聞いてほしかっただけ。だから聞いてくれてありがとう。」
 お母さんは泣きながら、私をぎゅっと抱きしめてくれた。そして、ゆっくり、優しく、私の背中を撫でてくれる。小さい頃に戻ったような気分になり、声をあげて泣いてしまった。
「笑美はいい子。優しい子だよ。自分を責めなくていいんだよ。」
「私、最低だもん。いい子でも優しい子でもないもん。心七、手伝ってくれるのに、私ひどいこと考えてる。」
「お母さんは笑美がいい子じゃなくても、優しくなくても大好きだよ。でも、笑美が考えてること、そんなにひどいことじゃないよ。私だったらもーっとひどいこと考えちゃうよ。だから最低なんかじゃないよ。」
 お母さんの言葉に、涙が止まらない。お母さん、絶対私よりひどいことなんて考えないじゃん。優しすぎる。こんな私を大好きって言ってくれて。
 泣き止みたいのに、なかなか涙が止まらない。
「学校、休む?別に、お母さん無理して学校行かなくていいと思うよ。」
「ううん、来週期末テストあるから行く。テスト終わったら、休みたいかもしれない。そしたら休んでもいい?」
 うん、もちろん。と、お母さんは言ってくれる。私、恵まれてるな。お母さんから学校行かなくていいって言ってくれる家なんて、ほとんどないんじゃないかな。お父さんも、美空も優しくて明るくておもしろいし。


テスト


 私は、とりあえずテスト勉強をすることにした。勉強は嫌いじゃない。好きでもないけど。勉強は、やればやるほど成績が伸びる。だからか、やっていると勉強だけに集中できて、他のことを考えずに済む。


「笑美ー、ご飯の準備できたよ。」
 おお、いつの間にか6時になっている。急いで一階に降りて、手を洗う。そして、リビングへ行き、椅子に座る。
「いっただっきまーす!それにしても、お姉ちゃん遅いー。美空はご飯よそうの手伝ったのにいいな、手伝わなくて。」
「笑美は勉強してたんだから、そんなこと言わないの。しかもちゃっかり自分のお味噌汁からきのこ抜いたり、サラダのミニトマト多くしたりしてるの知ってるんだからね!まあ手伝ってくれるのはありがとう。でも笑美だけが手伝ってくれる時もあるんだから、お互い様だよ。いただきます。」
 美空とお母さんがそんな話をしている。私は「美空、遅くなってごめん。あとよそってくれてありがとう。お母さんもいつもありがとう。いただきます。」と言って、お味噌汁を食べる。うん、美味しい。次にサラダ、生姜焼き、ご飯を食べていく。お母さんと美空は時折学校や今日あったことの話をしている。私も相づちをしたり、頷いたりする。
 こんな感じが我が家の平日の日常だ。休みの日はお父さんが加わって、さらに賑やかになる。あまり喋らないのは私だけだ。でも家はやっぱり居心地がいい。私の性格を分かってくれているから、安心していられる。

  
 今日はテストだ。これが終わったら休むかもしれないと思うと、なんだか変な気持ちになる。まあ今はテストに集中しよう。一時間目は数学、二時間目は国語、三時間目は社会だ。明日は一時間目が英語、二時間目は理科で三時間目が保健体育に家庭技術。今日も明日も三時間授業になっている。私は理系科目が得意なので、今日のニ、三時間目は特に頑張る。ちなみに心七は私と反対で文系の方が得意。だからよく勉強会をして、教え合っている。
 

 テストが配られ、先生の「始め」と言う声とともにシャープペンのカリカリという音に教室が包まれる。うん、いける。覚えた公式が重要な問題ばかりだ。
 今回も数学は手ごたえがある。去年と数学の先生は同じなので、なんとなく山をかけられる。三上先生はワークのB問題をよく出す。あとは基礎的な問題だから、ワークをしっかりしておけばだいたい点が取れる。
 問題は次の国語。社会は暗記を頑張ったので、なんとかなるはずだ。国語は勉強の仕方があまり分かっていない。とりあえず漢字はたくさん書いて、教科書とワークに出ている問題は覚えた。でも、説明的文章や、文学的文章は習ったのと、ワークをしただけだ。不安もあるが、今自分にできるのは漢字の最終確認だけ。
「はい、五分前だから席つけー。」
 教科書をロッカーに戻し、席に座る。先生がテストを配り始め、しばし待つ。また、テストが始まると、やっぱりシャープペンの音。落ち着き、解き始めた。

「笑美ー!テストどうだった?」
 無事に三時間目が終わり、心七が駆けつけてくる。心七は何の含みもなく聞いてくれるので、私も素直に、正直に話せる。
「結構解けた方だと思う。国語の文章問題はあんまり自身ないけど。」
「おー、笑美が自信ありげって相当だなー?これは過去最高得点でちゃうかもだね!国語ね、あれは難しかった。私はちょうど読んだことある本の内容だったからよかったけど、テストの文章にしては長くなかった?あれ解き終わらない人多いと思うな。」
 なんだか心七、楽しそう。心七も手ごたえあるのかな。「たしかに。私もギリギリだったけど、文章長かったからか。」と、私は言って、改めて心七はよく本を読んでるなと思う。それからもテストの話や先生の話をして、盛り上がる。突然心七が「クレープ食べたい」と言い、トナ○エにあるクレープ屋さんに行くことになった。