卒業まで、あと一ヶ月の時だった。

 眠ったふりをしていると、隣で座っていた和真が席を立つ気配がした。

 私は薄目を開けて彼をそっと見た。
 彼は、教卓の方に向かって行く。


「頼むから、僕の好きな子を連れていかないでくれ……」

 和真は確かにそう呟いていた。

 呟くと同時に、音を立てないようにしてガムテープを剥がしていた。でも微かにビリビリと音が聞こえてくる。

 思わず顔を上げそうになったけれどぐっと堪えた。


 次の日も、眠ってみた。
 夢の中の彼は現れなかった。

 やっぱり先生が言っていた、あのシロクマが原因だったのかな。

 もう夢を見る事はなくなったけれど、私は放課後、いつもの席に着く事が癖になっていた。

 そして、もう私が夢の中の彼に連れていかれる事はないのに、和真も毎日一緒に隣の席に座っていた。

 眠る事はなくなったから、ずっとふたりで話をしている。それが私達の当たり前になっていた。

 その日の出来事を話したり、時にはただぼんやりと一緒に夕陽を眺めたり。

 和真と教室で過ごすこの時間が、ひとつひとつの事が、宝物のように感じる。
 卒業式まであと一ヶ月しかない。一緒にここで過ごせるのは残りわずかしかない。
 
 この時間が、ずっと続けばいいのに。