僕は今日、高校の卒業式に来ている。今、体育館の中で他の卒業生たちと共にイスに座っている。父兄は参加しておらず、卒業生たちは皆私服である。体育館の中にいるのは、教員数名と卒業生だけ。その教員のうちの一人が司会をしている。この高校の卒業式は卒業証書の授与などは何もなく、校長先生などが適当な挨拶をするだけで、すぐに終わった。そんな高校なのである。さて、これで終わり。後は帰るだけ。のはずなのだが……。

「それでは、続いて、スペシャルゲストの登場です」

 司会者はこう告げると、他の教員たちと共に体育館の外に出てしまった。すると、舞台袖から怪しげな空気を醸し出すオッサンが現れた。会場が少しざわついた。この男が誰なのか、政治に疎い人でも知っている。内閣総理大臣の鬼木紋太(おにきもんた)だ。通称「オニキモン」。いつもの通り、スーツにネクタイではなくラフな格好をしている。
 かつて上場企業の社長だった時、メディアでの派手な言動で脚光を浴びていた。しかし、その絶頂のさなかに、「もう金はいくらでもあるんで」と言って自ら会社を去った。以降は金持ちの無職として、動画共有サイトなどでリッチで自堕落な生活を見せつけ、見る者の眉をひそめさせていた。そうこうしているうちに、どういうわけか選挙に出て当選。そして、謎の力が働いているとしか思えない驚異的なスピードで内閣総理大臣にまでなってしまった。
 このオニキモンは社長時代からだらしがない見た目と、とんでもなく奇怪な言動で有名だ。それ故、すこぶる評判が悪い。しかし、なぜかそんな人物が総理大臣になり、偉そうに振るまっている。日本の恥だとか、日本の七不思議の一つだとか言われている。
 そんなオニキモンは歩きながらチラチラとこちらに視線を送る。遠めに見ても明らかに軽蔑の眼差しを卒業生たちに向けていた。まるで俺とお前らは違う世界の人間なんだと言わんばかりだ。普通なら拍手が出るところだろうが、オニキモンの憮然とした表情に気圧されたのか、先陣を切って手を叩く者はいなかった。
 ノロノロと壇上の中央まで歩き、演台に設置されたマイクの前に顔を持っていく。一体何をしゃべりだすのかと卒業生たちが固唾をのんで見守る中、オニキモンはなかなかしゃべり出さない。こちらを馬鹿にしたような表情のまま、会場全体をジロリと眺め回している。

「ふんっ」
 やっとマイクの音が聞こえたと思ったら、鼻息だった。
「ふんふんふーーーーんっ」
 お次は3連発だ。ふざけているのだろうか。

 ここでまた、しばし沈黙の時間が流れた。オニキモンは依然として憮然とした表情を浮かべている。卒業生たちへの嫌悪感が丸出しである。
「あー、えーと。えーー」
 オニキモンがようやくしゃべり始めた。
「皆さん、俺様が誰だか当然知ってますよね?」
 挑発するような表情と口調だ。
「俺様が誰だか知ってる人、手を上げてみてください」
 会場の大半が手を上げた。
「何だよ、お前ら、俺様が誰なのかちゃんと分かってんじゃねーかよ。ま、一応言っておくと、俺様が日本の総理大臣です。つまり、俺様が日本で一番偉い人ってことです。ふははははっ」
 オニキモンの不気味な笑い声が響く。オニキモンの表情がようやく和らいだものの、薄気味悪い笑みを浮かべている。
「君たちが今、何を考えているのか、俺様はお見通しですよ。当ててやろーか。何で総理大臣がこの学校の卒業式に来てるんだろう。そう思ってんだろ? ふへへへへへっ」
 笑い声の不気味さが凄みを増す。
「でもさー、総理大臣が来てるんだぜ。そんなこと、どうでもよくね? つーかさ、俺様が出てきた時に、何でお前らはスタンディングオベーションをしなかったわけ? 出来ねー奴らだなー、まったく」
 オニキモンが顔をしかめた。
「お前らさ、総理大臣っつーか、俺様が登場したんだぜ。なのに黙ってるってどういうことよ。拍手喝采が普通だろ? おめーらさ、もうちょっと俺様に敬意を払った方がいいんじゃねーの? だって、総理大臣だよ? まったく、どうしようもねーな」
 今度は呆れ果てた表情を見せた。

 ここでオニキモンは、しばし黙ったまま気怠そうに会場を眺めた。
 会場全体がオニキモンはいつまで無言でいるのだろうかといぶかしく思い始めたところで、ようやく言葉が出た。
「くせーーー、なーんかくせーーー。あーくさいくさい」
 オニキモンはそう言いながら手で鼻の前をあおった。
「なんかよー、オメーらを見てると、なーんかくせーんだよなー」
 一体、何がどう臭いのか?
「何でだろうなー。うーん。分かんねーなー。いやなんかもうくせーんだよとにかく。何とかしろよ」
 そう言われても困るんだが。
「つーかよ、何でここは共学なんだよ。ここじゃなくて女子だけの学校がよかったよなー。くせーのは男子のせいかやっぱり。あー女子だけだったらなー」
 そこかよ。
「女子だったら、俺様の愛人になる可能性もあるからな。だからまだいいんだが、男子はイラネーっつーの」
 オニキモンはそう言うと、「男子はシッシッ」と言いながら追い払うジェスチャーをした。
「まあでもしょうがねー。あ、ついでだからちょっと教えてやるけど、俺は今、4人の愛人がいて、その4人で回してるっつー感じなんだけど、10代の子はいないんだよなー。だからもうそろそろ10代の子もいいかなーと思ってるところなんだよな。はっはっはっ」
 オニキモンに愛人が何人もいるのは、社長時代から有名な話だ。しかし、よくも高校の卒業式でこんなことを言えるもんだ。

 オニキモンは少し間を開けた後、唐突に変顔をしながら不気味な声を発した。
「あうーーーーーーーー」

 これが今の日本の総理大臣なのである。そのことは他の卒業生たちも重々承知しているようで、会場全体が失笑し、呆れているようだった。オニキモンが記者会見や国会答弁で奇声を上げるのは日常の風景である。誰も大して気にしていない。

「うへっへっへっへっ」
 オニキモンは気味の悪い下品な笑みを浮かべた。今の「あうー」が会心の出来だったのだろう。たいそうご満悦のようである。
 そう思った直後、オニキモンはカッと目を見開き、
「うりゃうりゃうりゃりゃりゃ、ウホホホーーーーーーーーイッ!!」
とバカでかい奇声を上げた。その様はまるで獣の咆哮である。
 一体このオッサンは何をしに来たのだ。そして、この学校は何でこんな奴を、よりによって卒業式に呼んでしまったのか。会場がそんな空気に包まれている気がした。総理大臣が来たというのに、誰も喜んでいない。オニキモンの不人気ぶりが如実に表れていた。

 続いてオニキモンはゴリラのように自分の胸を叩きながら、
「うおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!」
と絶叫した。これはオニキモンの得意中の得意のまさに十八番のゴリラのモノマネである。
オニキモンはこのゴリラのモノマネが気に入っているようで、オニキモンの奇怪な言動の中で一番頻度が高いというデータがある。もちろん、そんなデータなどどうでもいいのだが、わざわざ数えて報道している連中がいるということだ。

「ウホッ、ウホホッ!! ウッホッホーーーーイッ!!」
 オニキモンは恍惚の表情を浮かべながらゴリラのモノマネを続けている。ゴリラのような動きで左右に動き回り、胸を叩いたり、ウホウホ言っている。
 オニキモンのことを全く知らない人が見れば、精神異常者に見えるだろうが、これが奴の通常運転なのである。卒業生たちも呆れて見ているだけである。

 オニキモンはひとしきりゴリラのモノマネをし、満足したのか、動きが止まった。そしてまた、会場全体をジロリと見渡し、気怠そうにしている。
「この学校は制服が無いんすかね。お前ら、いろんな服着てるけどさ、こっからぱっと見る限り、なーんかつまんねーんだよなー。どうせなら俺様がスゲーと思うような服着てくりゃーいいのに」
 また挑発してきた。
「そんなもん脱いじゃえよ。あ、男子は別に脱がなくていいです。つーかどうでもいいです。女子は脱いじゃっていいですよ。ふはははははっ」
 下品な笑い声が会場に響く。
「しょうがねーなー、代わりに俺が脱いでやるよ。ふへへへへ」
 オニキモンはそう言うと、上半身だけ脱いでいき、白い袖なしのシャツ一枚のみになった。つまり、上半身だけ下着である。さすがのオニキモンでもこの場で下は脱がない分別はあるらしい。

 オニキモンは自分の上半身に自信があるのか、ボディービルダーのように腕っぷしを見せつけるポーズをとっている。ウットリとした表情を浮かべているので、完全に自己陶酔に陥っているのが分かる。
 しばらくすると、オニキモンはボディービルダーの真似に飽きたようで、今度は急に腕立て伏せをし始めた。
「いーーーっち!! にーーーっ!! さーーーんっ!! しーーーっ!! ごおおおーーーっ!!」と大声で叫びながら続ける。
「じゅうきゅうーーーっ!! にじゅうーーーーーーーーーっ!!!!」
 20回目に一際大きな声で叫ぶと、オニキモンはゆっくりと立ち上がり、力こぶを見せつけるポーズをとった。目を燦然と輝かせ、充実感に満ちた表情をしている。
「どうですか、今の俺様の腕立て伏せは。女子の皆さんは、俺様に惚れちまったんじゃねーの? はっはっはっはっ!!」
 オニキモンはしばらくの間、無言で立っていたが、ズボンのポケットから恐らくスマホを取り出し、チラリと画面を見た。時刻を確認したのだろう。

「さて、もうそろそろ、今日の本題に入りたいと思います」
 オニキモンが落ち着いた声で言った。
「えー、今日、俺様がなぜここにいるのか。それを今から話したいと思います」
 会場はだれも反応を示さない。
「おいおい、ここで拍手じゃねーの? まあいいや」
 オニキモンはやれやれといった表情をして、大きくため息をついてから語りだした。
「さて、皆さん、デスゲームって知ってますよね。今、流行ってますよね? 私も好きです。いや、大好きなんすよね。んでね、今日は皆さんにもデスゲームを体験してもらおうと思いましてね。用意してきました」
 会場は無言のままだ。さすがに言葉通りの意味ではないだろうという空気である。
「と言っても、俺様が考えたわけでもないし、やりたいと言ったわけでもない。誰かっつーと上の人たちです。上の人たちってーのは誰かっつーと、日本よりも上にアメリカ様がいますよね? そんで、そのアメリカ様よりもさらに上の人たちっつーことね。その上の人たちが本物のデスゲームを見たいと。映画やドラマでは満足できないと。まあ、そういうことになったらしくってさ。そんで、まずはアメリカ政府に掛け合ったっつーことなんだが、アメリカ政府はあれこれ検討したうえで、まずは日本にやらせようとなったってことだ。なんたって、日本の総理大臣は俺様だからな。俺様は常日頃からアメリカ様の為にご奉仕しているので、アメリカ様の俺様への信頼はすごいわけ。まあ、俺様はアメリカ様の言うことは何でも聞いてるんでね。なんせ、アメリカ様の言うことを聞いていさえすれば、なぜか俺様の地位はますます盤石になり、なぜか俺様の資産がどんどん増えていくんだぜ? 最高だろ? はははっ。まあそういうわけで、日本に白羽の矢が立ったっつーこと。これは光栄なことだぜ? 今回のリアルデスゲームシリーズの栄えある最初の開催地に選ばれたんだぜ? しかもそのゲームのメンバーが今ここにいる君たちだ。嬉しいだろ?」
 会場が少しだけ不穏な空気になってきた。まさか、本当じゃないだろうな。卒業生たちのそんな声が聞こえてきそうだ。オニキモンの頭がいかれているだけにも見えるが、オニキモンの普段の外交政策を見ていれば、リアリティーを感じられる話でもある。
「まあ、アメリカ様からすれば、デスゲームなんて日本人にでもやらせとけばいいだろっつーことだ。で、それをサポートするのが俺様の役目なんだな。いやー、誇らしいぜ。ふははははっ」
 オニキモンは嬉しそうに笑った。アメリカの命令を実行することが、本当に誇らしいと思っているようだ。
「今回が最初っつーことで、我々もまだ手探りなんでね。今回に関してはこっちとしても練習っつーか、パイロット版っつーかね。まあ、とりあえず1回やってみましょうって感じなわけよ。だから、今回はまだそんなに面白くなくてもいいっつーか、視聴率取れなくてもいっかみたいな、そんなテンションでやっております。これから皆さんにゲームをやってもらうわけだが、このゲームあんまり面白くねーじゃねーかみたいに思っても、まあ勘弁してくれよっつーことです」
 会場はまだ半信半疑といったところだが、オニキモンはその空気を察したようで、ニヤリとしてから話を続けた。
「えー、皆さん、君たちがこれから殺し合いをするということが、まだよく分かっておられないようですねー。俺様がこんなに一生懸命分かりやすく説明しているというのに、残念ですよ。へっへっへっ」
 ここでオニキモンは再びスマホと思われる物の画面を見た。
「まあいいでしょう。さて、オメーらも、早くゲームしてみたいだろ? ということで、予定していた時間になりましたので、これから準備に入りたいと思います」
 オニキモンがそう言うと、体育館にゾロゾロと人が入ってきた。一見して業務用と分かる大きなビデオカメラ、それに照明や音声などの機材が多数運び込まれている。舞台上や2階部分も含め、体育館の様々な場所に機材が設置されていく。
「えー、ここで一つ注意事項があります。体育館の外に出たら死にます。正確に言ってあげると、射殺されます。なので、そこから動かないように。撮影の準備ができるまで、しばらく待ってて下さい」

 機材の搬入と設置を行っている連中は特に急ぐこともなく、淡々とやっている。ただ、そのスタッフ全員がサングラスをしていたり、お面をかぶっていたり、着ぐるみの頭の部分だけを着ていたりして顔を隠しているので、かなり不気味な光景だ。
 舞台上の演台が片付けられ、代わりに大型モニターが設置された。電源が入り、画面には大きく『3:00:00』と表示されている。その下には『72』。オニキモンはマイクを手に持ち、適当にうろついている。しばらくの間、連中の作業する音だけが体育館に響いた。
 撮影の準備が整ったところで、今度はライフルを構えた軍人たちが体育館の中に入ってきた。戦闘服を着ており、全員がサングラスをかけている。顔ははっきりと分からないものの、日本人ではなく、おそらくアメリカ人であろうことは見れば明らかだ。卒業生たちが座っている四方を取り囲むように配置している。一辺に3人ずつ、合計12人。2階部分を見ると、左右と後方に1人ずつ、合計3人。1階と2階を合わせると全部で15人。全員がライフルの銃口を卒業生たちに向けている。オニキモンの話は本当だった。ようやく卒業生たちも悟ったようだが、この状況では誰も動くことはできない。
 一気に緊張感が高まり、張り詰めた空気になった。耐えられなくなったのか、奇声を上げる者が数人いたが、オニキモンも軍人も全く気にしていないようだ。

 待っている間、気怠そうに壇上をブラブラしていたオニキモンがマイクを使って、「えー、もう撮影は始まってますよね?」と撮影班の誰かに向かって聞いた。撮影は始まっているらしく、オニキモンが口元を少し緩めて頷き、こちらに向き直った。
「はい。もう撮影は始まっています。撮影っつーか生中継もされています。いやー、ワクワクしますね。ふはははっ。まあ、さっきも言ったように、今回は初めてなんであんまり期待はしてないんだが、こうやって始まってみると、どんな風になるのか楽しみだぜ。では、ルールを説明します。えー、ぶっちゃけ、ルールとかあんまり気にしてません。はっはっはっ。まあ、今回は適当にやりゃいいかって感じだったんでね。まあ、要するにお前らが殺し合ってくれれば何でもいいわけよ。とはいえ、いくつかルールを設定しました。まず一つは、今お前らがいるエリアより外に出てはいけません。周りに白いラインがあるだろ。もし、そのラインの外に出たら射殺してあげると、まあそういうことになっているわけです。ふへへへへっ。えー、二つ目。このモニターに出ているように、今ここには72人がいます。んで、最終的には5人以下になるまで殺し合いをしてもらいます。以下ってーのは、何人か同時に死ぬこともあるだろうからっつーことね。基本的には5人まで残ればこのゲームの勝者ということになります。最後の5人に残れるよう、頑張ってください。ついでに言うと、勝ち残った5人はどうなるかというと、アメリカ様の保護の元、海外で暮らすことになります。生活は完全に保証されています。つまり、何もしなくても生きていくことができます。これはラッキーだよな。いい話だろう? はっはっはっ。住む場所はアメリカ様が提供するんで、そこに住んでもらいます。ま、おとなしくしてりゃー何もないと思うぜ。ただ、今回のことをバラそうとしたりすると、まあ消されるだろうな。ふはははっ。だから、そこだけ気を付けてりゃー大丈夫なはずです。まあ、そこは俺様も生き残った奴らへの手厚い保護をアメリカ様に交渉したわけよ。こっちはデスゲームでも何でもやるから、そっちもお願いねっつーことでね。素晴らしいだろ。さすが日本の総理大臣だろ。見事な外交手腕だろ。感謝しろよ。はっはっはっはっ!!」
 オニキモンの不気味な笑い声が響き渡る。
「で、えーと、何の話だっけ? あ、ルールの話か。えーと、後はだな。そうそう、今回のゲームは3時間以内で終らせようということになってるわけよ。別に深い理由は何もないんだが、まあ、今回は試作品みたいなもんなんで、チャチャっと終わらせようっつーこと。なので、残り10人になるまで、2分に1人を射殺していきます。えー、今72人いるけどめんどくせーから、70人ちょうどだとして、もしオメーらが誰も殺さなかったとしたら、60人を射殺するのに2時間なので、残り10人で残り1時間ってー感じになるわけよ。で、残り1時間誰も死ななかったら、最後は適当に5人を射殺して、5人が生き残るということになります。ここで朗報です。要するに今回のゲームは何もしなくても運が良ければ生き残れます。ま、でも取りあえず、おしくらまんじゅうなり相撲なりしてエリアの外に誰かを押し出せば、周りにいる銃を構えている方たちが射殺してくれますので、まずはそれを狙うのがいいと思います。明らかに男子に有利なんだけど、そこで男子がどうするかってーのも見ものなんだよな。へへへっ。ただ、こちらとしてはゲームを盛り上げたいんで、状況を見ながら、ゲームを動かすためにルールを変えたり追加したりとか、あるいはエリアの中に武器だとか何らかのアイテムを放り込んだりとか、女子に超有利なようにするとか、そういうことも考えています。俺様は女子に頑張って欲しいんでね。うへへへへっ。まあ、今回に関しては我々の気分次第で適当にやっていきます。ふははははっ。まっ、お前らがどんどん殺し合ってくれたら2分に1人の射殺なんかすぐやめますので、どんどんやっちゃって下さい。ふへへへへ。あっ、今お前らが持っている物は何でも使っていいですよ。もしカッターを持ってたら使っていいし、服とかベルトで首を絞めるとか、何でもやっちゃって下さい」
 今回の卒業生は全部で72人だ。ここに72人の卒業生がいるということは、誰も休まず、全員が出席していることになる。72人から5人に残る確率は……。手元のスマホで計算すると、0.0694444……。つまり約7パーセントだ。この数字を見ると、生き残れる可能性は思ったよりはあるような印象だ。
 「あ、そうそう。さっきからスマホを見てる奴がけっこういますねー。こっからよく見えてますよ。でも、ネットにつながんないっしょ? ふふふっ。残念でしたー。そりゃー、こっちだって対策するに決まってるっつーの」
 確かに手元のスマホがネットにつながっていない。電波妨害をしているんだろう。
「さて、大体、必要なことは言ったかな。あー、まだあった。そうそう、これから何十人もの人間が一気に死ぬわけだ。だから本当にデスゲームなんてやったら、マスコミとかSNSで大騒ぎになるはずだと。大問題になるはずだと。そんなこと思ってませんか? 残念でした。そんなことは絶対に起きませーん。ふははははっ。そんなものはアメリカ様の力でいくらでも隠蔽できますんで、ご心配なく。君らが消えたところで、大きな話題になることはありません。この学校を選んだのも隠蔽しやすいっつーのが理由の一つなんでね」
 オニキモンの言う通りだ。卒業生の人数はそんなに多くないし、この学校は周囲から孤立した場所にあるため、大きな音が出ても誰も気づかない。彼らにとってはうってつけだ。
 「さーて、いよいよゲームを始めるんだが、今日はなんと、この俺様がこのゲームの実況をしちゃいまーす。いやっふおおおおおーーーーーーーいっ!!」
 オニキモンは左手にマイクを持ち、右手の拳を斜め前方へ突き出しながら奇声を響かせた。一人だけノリノリである。相変わらず上半身は袖なしシャツのままだ。
「さあそれではー!! 今回のー!! 何人だっけ、えーと72人の高校の卒業生たちがー!! 人生の卒業をするのかー!! それとも、生き残って悠々自適な生活を送るのかー!! ゲームすたあとおおおおおおーーーーーーーーっ!!!!」
 オニキモンの絶叫が会場に轟き、モニターに表示されているタイマーが3時間0分0秒から2時間59分59秒、58秒とカウントダウンを始めた。卒業生たちは皆、硬直したままだ。
 「おいおいおーい!! ゲーム始まってんだぞー。なに座ってんだよ。せめておしくらまんじゅうくらいしろよ。ふへへへへ」
 オニキモンがニヤニヤしながら実況している。

 残りが2時間58分を切ったところで、突然、銃声が響いた。左端で誰かが撃たれたようだ。大型モニターに表示されていた『72』が『71』になった。予告通り、本当に2分に1人を射殺していくようだ。ここで、ようやく卒業生たちにも動きが出て来た。うろつく者、困惑し周りの様子をうかがう者……。もう何人か射殺されたら、一気に動きが出てくるかもしれない。そうなる前に何とかしたい。そのために今日、僕はここにいるのだ。

 このふざけた総理に、そして愚かな日本政府に鉄槌を下す。そのために準備してきた。日本政府がこの学校でデスゲームを行うという情報を得てすぐにこの学校に転入した。自分が所属する組織にはそれが可能なのだ。半年くらい前、学校が夏休みの頃だ。転入後はまず、同じ学年内で組織にスカウトできる人材を探した。今回の任務の成功確率を高めるためだ。ただ、こちらの動きを誰からも不審に思われないように気を付けて行動する必要があった。潜入捜査と似たようなものだ。事前情報で数人の候補がいたが、実際に学校での様子を観察し、直接コンタクトを取ることで、男子1人と女子1人を僕らの組織に引き込むことに成功した。2人とも、僕らの崇高な目的に共感してくれた。70人ほどしかいない中で、2人も組織のメンバーに足り得る人材がいたのは奇跡に近い幸運だった。
 
 卒業生たちが動き出したことで、僕らもやりやすくなった。今、体育館の中で敵は軍人だけだと15人。想定していた中でも楽な方のケースだ。ただ、撮影スタッフが武装していた場合は、想定している中でも高い方の難易度になる。一方、僕らの陣営は3人。でも実際にはこちらは3人ではない。もっといる。体育館の外に組織の仲間が控えている。犠牲者が増える前に、相手の虚を突いて、一気に片を付けたいところだ。

 今回が1回目のデスゲームだが、日本政府は既に2回目と3回目の開催地と開催日時を決めている。こんな非人道的なことを続けさせるわけにはいかない。今回の僕らの任務が成功すれば、とりあえず次回以降は延期か中止になるはずだ。
 でも今日が成功したとしても、それで終わりではない。このデスゲームを見て楽しんでいる奴らにも鉄槌を下さなければならない。

 ――さあ、始めよう。今日が長い戦いの第一歩だ。

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