「俺さ、やっぱりサッカーにしようと思って」
 中学生活が始まって、少し経った頃だった。
 帰り道で唐突にかんちゃんが言って、わたしは口に含んでいたゆずジンジャーを飲み込んだ。ごくん、と喉が鳴る。
「え、あ……部活?」
「うん」
「そっか。上手だもんねー、かんちゃん。うん、いいと思うよ」
 笑みを作ろうとしたら、なぜか少し頬が強張った。返した言葉も、なんだか上滑りするように響いた。

 わたしも。言いかけた言葉が、喉に詰まる。
 押し込むように、わたしはまたゆずジンジャーを飲んだ。喉に流し込んで、言いたかった言葉を、押し流した。
 ――わたしもどこか、部活に入りたいな。
 数日前、かんちゃんにそう告げたときの、『七海には無理』だと返ってきた素っ気ない声が、まだ記憶に新しかったから。

 中学生になっても、わたしたちのあいだの距離が開くことはなかった。登下校も変わらずいっしょだったし、放課後は今も、かんちゃんに勉強を教えてもらっていた。
 学年が上がるにつれ、わたしの身体は少しずつ、本当に少しずつだけれど、強くなっていった。前ほど、倒れたり寝込んだりすることはなくなった。少しだけなら、外で遊べるようにもなった。
 それでもまだ、みんなと同じことができるわけではなかった。あいかわらず体育はほとんど見学していたし、校外行事も参加できないことが多かった。

 何度か、参加したいと言ってみたことはある。だけどそのたび、お母さんや、かんちゃんに止められた。やめたほうがいい、無理をすればまた体調を崩すから、七海には無理だよ、って。
 そう言われると、わたしはいつもなにも言えない。
 わたしが体調を崩したとき、看病してくれるのはお母さんだし、休んだ分の授業を教えてくれるのはかんちゃんだから。わたしがわがままを通したせいで、迷惑をかけることになるのは怖かった。とくに、かんちゃんには。

「本当に、かんちゃんがいてくれてよかったわね」
 何度となく、お母さんはわたしにそう言った。
 学校で体調を崩したわたしを、かんちゃんが家まで送ってくれたとき。かんちゃんが勉強を教えてくれるおかげで、わたしのテストの成績が少しずつ伸びてきたとき。七海ちゃんはいつも体育を見学していてずるい、と文句を言ってきたクラスメイトに、かんちゃんがわたしの代わりに怒ってくれたとき。
 なにかあるたび、お母さんは噛みしめるように、その台詞を口にした。
「今、七海が学校でやっていけてるのは、かんちゃんのおかげね」
 そのたびわたしは、うん、と笑顔で頷く。かんちゃんのおかげ。
 本当に、そうだと思う。
 かんちゃんがいない学校生活なんて、わたしには考えられない。いつも傍にいて助けてくれる、そんな彼のいない毎日なんて、ちょっと想像してみただけでぞっとする。
 小さな頃は当たり前だと思っていた。だけど大きくなるにつれ、その存在のすごさを、わたしは意識するようになった。
 かんちゃんがわたしの傍にいてくれること。
 そのありがたさやかけがえのなさと、――不思議さを。