スマホを充電器に挿したということは、スマホの充電が残り少ないということだ。少なくとも、俺の場合そうである。その状況下、スマホ最後の充電を振り絞って学年LINEで学校へと全員を招聘した。
ちょうど学年LINEとクラスLINEに学校の要塞化と招聘を伝え終わったところで、スマホが白い林檎のマークを映し出した。これは招聘が間に合ったのが本当に奇跡ともいえるだろう、と思い、漕ぎ出し順調を感じた。
それから10分も経っていない時に、最初の到着者が現れた。彼は教室で堂々と構えていた俺を一瞥してから、校内を周りに行った。彼らしいといえば彼らしい。
彼——沢城 邦雄——は、基本的にどこかクラスから浮いているが、彼の剣呑な雰囲気に呑まれるためか問題は起きていない、所謂孤独主義モンロー主義と言うタイプの奴だった。俺はあいつが得意ではないが、苦手とも思わない。
......と、俺には人を一人一人分析しようとする癖がある。正気を取り戻すと、俺はまた要塞化の作戦を考え始めた。
(基本的小銃は——射撃部倉庫から接収するか)
(ただ弾薬の枯渇は苦しいだろうな)
(中距離用として弓道部の和弓を接収するのもありか?)
(いっそ日本の抜刀隊みたく薙刀を使うのも...ダメか)
(そもそも制空権は絶対取れないよな)
(つまり空爆はある、まあ地下壕暮らしだな)
(食糧事情はどうする?絶対足りないぞ)
そんなことを10分ばかり考えており、教室内にもちらほらと人が見えるようになった時、ガラガラと音を立てて教室の後方ドアが開いた。誰か、と警戒しつつ振り向くと、東條 天音さんが立っていた。
「どうしたの?急に学校を要塞化するとか言いだして」
開口一番、このクラスきっての常識人の東條さんはこんな戦時中にあっても常識人なのは認識でき、少し安心する俺がいたのは秘密だ。
「いや、他の学校でもしてるって聞いて」
と当たり障りない答えを出す。決して孤独に飽きたとは言えない。いや、それも理由の一つでしかないのだけれども。
「てか、それだとしたら戦略とか考えてんの?」
「もちろん」
と勢いで答えてしまったが、これは完全なるハッタリだ。基本的に男子は女子に対して見栄を張りたがるが、俺もその一例だ。
「じゃあ具体的にどうするの?」
まあそうなるわな、という質問を投げかけられた俺は、辛うじて不自然に聞こえない(であってくれ)くらい落ち着いて返そうと努める。
「いや、そ、それはあくまで民主的に話し合って、ててて、そ、そんで軍備とか、だっ、誰が担当か、っとか......」
「つまり何も決まってない、と。」
図星である。
「まあ、私も手伝うよ。家に独りでいてもどうせ敵軍に殺されるだけだしね」
と、東條さんは意外な言葉を続けた。てっきり断られると思っていたのだが。そして、さらに
「なんなら、作戦なんかも一緒に立てる?」
と続ける。こんな好機を逃すわけなく、俺は考えるより先に頸が上下に動いていた。