何組かの挨拶が済んだ頃、やっと、ノア王とエマ王妃が、会場に、入って来られました。
ノア王が会場内の皆様に挨拶を述べた後、今日、行われた聖女認定式では、結果に疑問が出た為、再度、魔力判定を行うことになったため、予定していたアリシアの聖女のお披露目は、中止にしたと報告されました。
それとは、別に、龍巫女が新しく見つかり、 皆にお披露目したいと私の名前が呼ばれました。
いよいよだと緊張して思わず、ランディ様を見ると、
『大丈夫だかね。きっとうまくいくから、落ち着いて行っておいで。』
と励ましの言葉を下さいました。
覚悟を決めて足を踏み出します。
ノア王の前まで、行くと、手を取って下さり、横に、並んで、龍巫女のソフィア・ガパトニーと紹介して下さった後、
『この度、龍巫女に認定されましたソフィア・ガパトニーです。
何ができるかわかりませんが、国の発展や、国の民の健やかな生活のために、できることをしていきたいと思います。宜しくお願いします。』
と簡単に挨拶させて頂きました。
最後に、ノア王が、
『これからの活躍に期待しているよ。』
と言葉を掛けて下さいました。
何ができるかわかりませんが、身が引き締まる思いがしました。
その後、王、王妃、ランディ様と並んで、列が途絶えるまで、一瞬に、挨拶をさせて頂きました。
パーティに参加させている方々の前で、龍巫女として紹介され、挨拶には、ランディ様も同席しているので、龍巫女として、純粋な信頼を向け、好意的な挨拶をして下さる方も沢山いらっしゃいましたが、
女性の方の中には、ランディ様の花嫁になるのでは?と、嫉妬やら怒りを向けられたり、上から下まで不躾に品定めされたり、
男性の方には、龍の力を利用できないかという目で品定めされたりもし、
かなり心が疲れましたが、ノア王やランディ様がさりげなく庇って下さったり、ハルが、私の代わりに、頭の中で、毒づいて茶化してくるので、煮詰まることなく、なんとかやりきれました。
挨拶がひと段落すると、ノア王とエマ王妃に挨拶して、皆様が、歓談や食事を楽しむフロアに戻り、立食形式では、ありましたが、座って食事を取れるテーブルも用意されていましたので、一緒に、食事を楽しみ、食後は、
ランディ様に誘われて、庭に出ました。
暑い時期ではありますが、夜風が吹いて、気持ちよく、星空がとても綺麗です。
星を眺めていると不思議な気持ちに襲われました。
妹の聖女認定式に王宮に来たはずでした。それも、家族としてではなく、侍女として。
それがなぜかランディ様に偶然出会い、
「君は僕の花嫁。僕のところにおいで。」
と、求婚して頂いて…。
(求婚でいいんですよね…⁈あってますよね…⁇ ランディ様のような素敵な方に求婚して頂いた。なんて自分で言うのは、烏滸がましさと、むずがゆいような恥ずかしさや照れ臭さを感じます…。)
魔力なしの役立たずと思っていたのが、実は、神力を持っていて、子どもの頃から、日々、色々な能力を気づかず、発揮していたことを知ったことと、
今まで受けていなかった魔力判定も受け、水晶が、5色の光を放ったのを実際に目で確認できたことで、
無能ではないことが、納得でき、魔力なしの役立たずという思い込みから解放されて、スッキリした気持ちになれました。
龍巫女に認定されましたが、今まで感じたことのない前向きでワクワクした気持ちで、今、います。
そして、今まで一度も着たことのないドレスを着て、華やかに着飾って頂いて、来たことがないパーティに出席して今、こうして、庭で、ランディ様と星を眺めています。
自分の身に、こんなに沢山の変化が、たった1日で起きるだなんて…。その現実に居ながら信じられない気持ちがします。
『ソフィー?ずっと黙って、何を考えているの?』
『不思議な一日だったなぁって。たった1日で私の住んでる世界がひっくり返ったんですよ。まるでシンデレラになった気分です。』
『それって、王子様は、僕?』
ポッと頬が赤らんだのがわかった。
『…その、そういうことが言いたかったんじゃないんです…えっと…』
『違うの?』
『……あぅ。ち、違わないです。誰が王子様がいいかと言ったら、ランディ様がいいですから。と言うより…、
ランディ様以外の王子様は嫌です。』
ランディ様が腕を引いたので、体がランディ様の胸に飛び込んでしまいました。
そのまま、ギュッと抱きしめられて、体がスッポリ、ランディ様に収まってしまいました。
暖かくて、心臓の音が心地よく響いて、とても安心します。
…もう思いが堪えきれません。
『ここに居たいです。ずっとランディ様の側にいたいです。ランディ様が居ないのも、他の方も嫌なんです。側に居させて下さい。
はなれたくないんです。』
胸から溢れるように出る思いのままに口にしてしまいました。泣いてしまいそうです。
私、どうしちゃったんでしょう…?
『はぁ。嬉しい。ずっと一緒に居よう。
だから、僕のところにおいで。』
『はい。行きます。離れません。』
嬉しくて感無量で、ぎゅーっとランディ様にしがみつきました。
感極まって涙が出てきました。
ランディ様が抱きしめたまま、泣き止むまで、優しく背中を撫でてくれました。
顔を上げたら、ランディ様が、おでこにキスをしてくれました。
♢♢♢♢♢
パーティ会場から出て、今、馬車に乗っています。
王様に、王宮に部屋を用意して頂いたので、今日は、その部屋に泊まる予定でした。
それが、思い余って、思いをぶつけるように告白してしまったものだから…、
(自分でしておいて変ですが、告白しただなんて…自分で言うの…恥ずかしいです…。)
ランディ様が、
『あんな風に、「側に居たい。」って言われちゃったら、もうソフィアを王宮に置いて行けないから、王都にあるスペンサー本家においで。』
と馬車に乗せられしまいました。
そして今、座席に座るランディ様の膝の上に、ちょこんと座らされ、ランディ様に後ろから抱きしめられ、頭に顎を乗せられたり、頬に、頬をスリスリされたりしています。
なぜそうなったかと言うと、最初は、ひょいっと抱き上げられて、ランディ様の足の間に、座らされたのですが、身長差が30センチとあり過ぎて、
『高さが足りないから、ソフィーはココね。』
と、またもや、ひょいっと持ち上げられて、膝の上にちょこんと置かれてしまいました。
『重いと思いますし、その…恥ずかしいので、下ろして貰えませんか?』
『ダ〜メ。』
『ダ〜メって…。なんでダメなんですか?』
『ソフィーが足りないから充電。
ソフィーは、いい匂いがするね。美味しいそう。はあ、可愛い。』
と言うことで、引き続き、撫で撫で、スリスリされています。
どうしたらいいのでしょうか…?
『ソフィー。僕が何処に住んでいるか?知ってる?』
『えっ‼︎北の辺境地ですよね?』
『知ってたんだ。』
凄く嬉しそうです。こういう時のランディ様は、人懐っこい大型犬の様です。
凄く可愛らしいです。
『アリシアが、ランディ様が好きで…。
色々、ランディ様の噂を聞いてきては話してましたから。』
(私にではなく義母にだけど…。)
『ソフィーは好きじゃなかったの?』
『お会いしたことがないし…。龍神の方の噂話って、現実離れしていて、御伽話みたいに聞こえていて…。好きとかそういう身近な感覚は持てなかったです。』
『そうなの?残念だな。今はどう?』
『……好き…です…。』
今日、ずっと、こんな感じでなんだかんだと上手に、色々、言わされてる気がします…。
『声が小さくて聞こえなかったな。もう1回言って欲しいな。』
『……もう無理です。恥ずかしいです。』
『…可愛いね。ソフィー。』
『あんまり揶揄わないで…下さい。』
『揶揄ってはいないんだけど…ね。恥ずかしがり屋のソフィーには刺激が強かったね。ごめんね。』
そう言って頭を撫でてくれます。
『それでね。ソフィー。
ソフィーには、できるだけ早く北の辺境地に来て欲しいんだけど、大丈夫かな?
もしかして行きたくなかったりする?』
『行きたくないは、ないです。むしろ、新天地に興味があります。それに私も、行くなら早く行きたいです。』
『そうなんだ…。あー、良かった。「行きたくない。」って言われたら、どうしようかと思ってた。』
『そんなこと言わないです。ランディ様の側に居たいからどこでもついて行きます。』
『はあ。嬉しいことを言うんだね。堪らない。』
さっきよりギュッと抱き締められました。
『向こうに行くにあたって、何か心配なこととか、気になることとか、あったらなんでも言って。』
『家に、お手伝いのメグって女の子がいるんですけど…、14才の子で。2年前から、家で一緒に働いていたんだけど…。
お父様が随分前に亡くなられてて、お母様と2人で暮らして居たんだけど、家に来た頃は、お母様も病気で…。働かないといけないけど、学校も、初等部までで、父親もいないから、働き口が中々見つからず、父が、家の使用人に凄く安く雇ったんです。
王様が厳しく裁くと仰ってたから、子爵家はお取り潰しになる可能性もあるでしょう?
家で働いている他の方は、再就職できると思うんですけど、メグは難しいし、色々理由をつけられて給料を安くされたり、仕事を沢山、課せられたりしそうで…心配で…。』
『そういうことなら、そのメグって子が望むなら、辺境地に連れて行ったらいい。
仕事ならいくらでもあるし、給料は、してくれた仕事に見合う額を払うし、勉強したければ、学校に通ってもいい。学校に通いながら、住み込みで働いている子はいるからね。』
『それって仕事の能力が上がっていくと、給料も上がって生活を楽にしていけるってことよね。』
『あー、そうだよ。』
『もしメグのお母さんも一緒に行きたいっていったら、一緒に連れて来ていい?』
『勿論。こちらで仕事をしたいなら、探してみるよ。あては色々あるからね。』
『辺境地の様子とか仕事の種類とかわからない私が話すより、私も聞きたいし、メグやお母さんに会って説明して貰うことはお願いできない?ランディ様。』
『あーそうだね。その方が色々纏めて話せるからいいだろうね。
それじゃあ、会う予定を決めないとね。』
『それから、メグに会いに行った時にでも、荷物を取りに行きたいのだけどいい?』
『辺境地までは、馬車だと時間がかかるから、飛竜で行くつもりなんだ。いつもそうしているし…。
沢山、荷物を運べないし、身一つできてもらえばいいと思っているから、どうしても手放せないような大事な物だけ持っておいで。』
『恥ずかしい話しだけど、元々、荷物はあまり持ってないの…。
ポーションを作る器具とか、自分で作ってきた調味料や保存食とか持って行きたいの。』
『沢山あるなら、馬車で運ぶよ。馬車だと10日〜2週間かかるから、傷みやすいものは無理だけどね。』
『馬車で運ぶ程の量は無いから大丈夫。』
『もう一つ、ずっと気になってることがあるんだけど…。ランディ様…。』
『なんだい?』
『私、子爵令嬢とは名ばかりで…。普通の貴族子女が身につけていることを何も習得していません。だから…、その…、
私がランディ様の……その…奥様になったとしても、色々、困るんじゃないかな?と思って…。』
『どんなことが?』
『え、えっと…、今まで家の中では、使用人として食事の支度や掃除、畑や牛舎の世話をして働いてたから、貴族の奥様の暮らしが、私に出来る気がしないし…。
『龍神族は、貴族じゃないよ。ソフィー。』
『だけど…、妻の役割として社交は必要でしょう?
私、ドレスを着たのも、パーティに参加したのも今日が初めてで、お茶会だって参加したことないし、ダンスもしたことない。
勉強も練習も必要なことはなんでもするつもりよ。…だけど、私では、最初から結婚相手として役不足じゃないかなって…。』
『今日のパーティーの様子を見ていて、ソフィアには何も問題はなかったよ。凄く可愛かったし…、いや、可愛すぎるのは問題か…、後、皆んなに見せつけたいから、ソフィアとダンスはしたいな…、うん。だから、ダンスは、練習しようね。』
なんか根本的に趣旨がズレてる気がするのだけど…。そんなに緩くていいのかしら…?
『王族、貴族の妻には、求められる役割が確かにあるね。そのために、貴族子女は、幼い頃から色々なことを身につけるべく教育を受けていることは知っているし、龍神族の妻にも、求められるものは、確かにある。
それに、今まで家や親の役に立つことを求められてきたソフィアが、そういうことを気にするのは、わかるけど、
ソフィアはね、もう龍の巫女で、龍神である僕の花嫁になったんだよ。
それは、他とは比べられない、比べようがない、王族・貴族や、龍神族が子女や妻に求めるものの【圏外の存在】になったてことだよ。 』
『圏外の存在ですか?』
『そうだよ。ソフィアは、今、エルドラ王国、唯一の龍の巫女の花嫁たよ。
決められた花嫁の型などない。だから、こうでなきゃと型に縛られることなんかない。ソフィーらしい花嫁になったらいい。』
『私らしい花嫁なんて、難し過ぎて何をしたらいいかわからないわ。』
『難しく考えることはないよ。
ソフィアが望むことをし、祈り、ただ、ソフィアでいたらいい。
僕が、僕の花嫁に求めるのは、幸せそうに笑って僕の隣に居ること』
『ただ、私でいる。そんなの許されるの?』
『そうで居てくれないと困るよ。』
『でも、それだと何をしていいかわかないわ。』
『考えるより、実際、辺境地に行って見れば、何かしたいことが浮かぶんじゃないかな?浮かばなかったら、浮かぶまで、ゆっくり休んでいたらいいよ。』
『そんなに楽をしていいのでしょうか?』
『何を言っているんだい。ソフィー。
神獣ハルが
「ソフィーの親が、ソフィーを働かせ過ぎてソフィーの力の封印が解ける神力がたまる暇かまなかった。」
って話してたでしょう。
ゆっくり休んで、神力がたまって、ソフィアの力の封印が解けるのは、龍の加護の国であるエルドラ王国、全ての者の願いだよ。』
『そうですね。早く立派な龍の巫女になってハルの姿を元に戻さないといけないですね。』
『〜しないといけないという考えは良くないよ。そういう考えは、焦りや力みを生む。
ソフィアは、ハルの加護巫女なんだ。
ちゃんと時がくれば、封印は解けるようになっているんだ。信じてゆったり構えて、笑ってて。ソフィー。』
『…とっても難しいわ…。』
『あー、元気が無くなっちゃったね。こっち向いて。ソフィー。』
言われるまま、振り向いてらランディ様を見上げると、ランディ様がおでこにキスをした。
真っ赤になっておでこを抑える。
……⁇…な、なんで、キス⁇どうしてそうなるの⁇
『ふふっ。真っ赤だね。可愛い。』
満足そうに、また、撫で撫で、スリスリし始めたランディ様。
『えっと、どうしてこうなっているのでしょう…?』
『うん?ソフィーが考え過ぎて頭から、煙が出そうだったから。』
恥ずかし過ぎて、違う熱が出てますが…。それはいいのでしょうか…?
『もう直ぐつくよ。ソフィー。明日、一緒に出かけよう。色々、済ませてしまおうね。わかった?ソフィー。』
『えっ?あっ、ハイ。』
♢♢♢♢♢
突然、バンッと大きな音を立てて扉が開きました。
『ランディ。花嫁がみつかったって本当?』
凄く綺麗な金髪の女性が部屋の入り口に立っています。
『あっ‼︎この子ね。』
私を見つけてコチラに凄い勢いで向かってきたと思ったら、ワシッと両脇を持たれ立たされました。そして、ギュッと抱きしめられました。
(胸が…、豊満な胸が顔に当たってます…。同性でも、恥ずかしいです…。どうしたらいいんでしょう…?それに、なんか昨日も似たようなことがあった気がします…。)
抱きしめる腕が緩み、今度は、両肩を持たれたと思ったら、体が離れました。
思わず見上げたら、
『まあ、真っ赤。可愛いわっ。』
綺麗なお顔が寄ってきて、頬をスリスリされています。いい匂いがします。一体何が、起きているのでしょう…?
横から、腕を引かれてよろけたら、ガシッと後ろから、抱きしめられました。あっ、ランディ様の匂いがします。
見上げると、ランディ様の眉間に皺が寄っています。
『母さん、ソフィーがビックリしています。いきなりなんですか‼︎』
(母さん…⁇……えっ‼︎この綺麗な方…、ランディ様のお母様なの?…頬スリスリは龍神族の挨拶でしようか⁇)
『だって〜。ランディに花嫁が見つかったって聞いたらじっとしてられないじゃない⁉︎会いに来たら、こんなに可愛いんですもの。抱きしめたくなるじゃない?』
『ソフィアは可愛いので、気持ちはわかりますが、するかどうかは別です‼︎ソフィアは、僕の花嫁です。』
(会話の内容が大変小っ恥ずかしいのですが…、一体何が起きているのでしょう?)
『あら、ランディの花嫁は、私の娘よ。抱きしめたっていいじゃない?』
『ダメです。』
『独占欲が強いと嫌われるわよ。』
『うっ‼︎』
ランディ様の抱きしめる力が緩みました。
『あ、あのう…。ランディ様のお母様でしょうか?』
『ええそうよ。』
『わ、私、ソフィア・ガパトーニと申します。昨日、こちらに泊めて頂きました。挨拶もせず、申し訳ありません。』
『ランドールの母のオリビア・スペンサーよ。きっとランディがソフィアと離れたくなくて、連れて来たんでしょ。気にすることないわ。
それよりも、ソフィア話がしたいわっ。一緒にお茶をしましょう。』
『あっ。はい。』
先程、朝食を頂いて、ランディ様と食後のお茶をしていたところだったので、給仕の方々が使っていたカップを下げて、手際良くお茶の用意をして下さっています。
オリビア様は、私を見てニコニコしていらっしゃいます。
『それにしてもソフィアは可愛いわね〜。もう少しギュッとして、スリスリしていたかったわ。』
そう言ってジトっとランディ様を見ます。
貴族社会とは、スキンシップに関する文化がちょっと違うみたいなのでしっかり確認しておいた方がいいですよね?
『あ、あの頬をスリスリするのは、龍神族の挨拶でしょうか?』
『まあっ。』
オリビア様が急に、ニヨニヨして、ランディ様を見ます。
ランディ様はいつも通りの爽やかな顔をなさっていますが…、私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか?
『龍神族は、家族の親愛を伝えるときに、頬をスリスリするのよ。』
『ということは、家族だけの挨拶ですか?』
『そうよ。ソフィア。』
『そうなんですね。知りませんでした。』
だから、ランディ様もしていたんですね。謎が解けました。そういうことなら、凄く恥ずかしいですけど…、やっぱり慣れないといけませんよね。ローマにいるときはローマ人のするようにせよ。ということわざがありますし…。
『母さん、出鱈目を教えないで下さい。
ソフィアが変な誤解をしたじゃないですか‼︎
頬をスリスリするのは、龍神族の挨拶じゃないからね。僕以外と絶対しちゃダメだからね。』
(えっ‼︎今の出鱈目だったんですか?)
『あら、ランディがしっかりソフィアに頬をスリスリしていたから誤解したんじゃない?』
『僕はいいんです‼︎』
『まあ、横暴ね。』
『ソフィア。家族の親愛を伝えるときに、頬をスリスリするのは、母さんだけだからね。
嫌なら断っていいからね。ソフィアは僕とだけしたらいいんだから。』
『ランディ様とお母様だけですか?親子で受け継いでいるということは、スペンサー家だけの文化なんですね。』
ハルの体がプルプル小刻みに震え出しましたが、どうしたんでしょう?
心なしか…給仕の方々も、ニヨニヨ、プルプルして見えますが、気のせいでしょうか?
『母さんには無理にされなくてもいいんだよ。』
『恥ずかしいけど、嫌じゃないです。』
恥ずかしくて頬が熱いです…。
『まあ、真っ赤になって。素直で可愛いわ〜。
ソフィアが嫌じゃないなら、それでいいじゃない。そもそもこんな可愛い子を1人占めしようなんていうのがズルいのよ。
ソフィアに頬をスリスリするのは、私とランディだけ。これで決まりよ。』
(決まってしまった様です…。恥ずかしいですが、ここは覚悟して慣れる努力をした方がいいですね。)
『あ〜。』
ランドール様が、ガックリ肩を落としてしまいました。
『わしを除いてもらってはならぬな。』
ハルが大きくなって、体に巻きついて頭を頬にスリスリしてきました。ひんやり冷たくて気持ちいいです。
『ハルったら。』
私もハルの体を撫でてあげます。
(あっ、家族の親愛を伝えるってこういうことですね?私もずっとハルとしてました。
人間とはしたことが無かったので、ピンときませんでした。)
『あら、やっとハッキリ姿を現したわね。ヤキモチを焼いたのかしら。』
『えっ‼︎そうなの。ハル?』
『そうじゃ。』
そう言ってスリスリしてくるハルの体を撫でてあげる。
『ハルは生まれた時からずっと私の大事な家族なんだから、妬くことないじゃない?』
『あら、強そうなライバルね。ランディ。
さっきから、ソフィアの腕にウニョウニョしてるから気になってたのよね。蛇の神獣…⁈じゃないわね?貴方は、誰?』
『わしはハル、ソフィアの加護龍じゃ。』
『蛇の見た目で加護龍…ね。なんだか色々、事情がありそうね。
だいたいランディは、昨日、アリシアって子の聖女のお披露目パーティーに行ったんじゃなかったかしら?
なのにどうして、今まで一度も存在を聞いたことがない龍の巫女をちゃっかり花嫁にして連れて帰って来ることになったの?
ちゃんと説明して頂戴。』
(やっぱり急にお邪魔して不快だったんだわ。)
『いきなりお邪魔してしまって…ごめんなさい。』
『さっきも言ったけど、それはいいのよ。龍巫女の花嫁、しかもこんな可愛い子を連れて帰って来たことは、でかした‼︎と思っているわ。流石、私の息子ね。』
(ランディ様とオリビア様の会話を聞いてるとなんだか、私がとってもいいものになったみたいに感じます。胸が熱くなります。)
オリビア様が人払いをして下さり、昨日、起きた出来事を一通りお話ししました。
と言っても、話していたのは、殆どランディ様とハルですが…。
話しを聞きながら、色々、思い出して、本当に、沢山のことが起きた一日だったとあらためて思いました。
一通り話しを聞き終えると、オリビア様は、私の家族に大変憤慨なさいました。
私や家族のことで、この様な思いをさせてしまった申し訳なさと有り難さの混じった複雑な気持ちがしました。
『今まで本当に大変だったのね。ソフィア。
過去は変えられないけど、その分も、これからは、うーんと、幸せになったらいいわ。
そうだわっ。もうソフィアは、私の娘。
神力がたまって本来の力を取り戻すまで、ここに居てゆっくり過ごすといいわ。
そうと決まったら、ソフィアの部屋の用意をさせないとね。それから、世話をする侍女もいるわね。それと…』
『母さん。ちょっと待って‼︎』
『なに?』
『ソフィアを気に入ってくれたのは、嬉しいですが、ソフィアは、僕と一緒に、辺境地に連れて帰ります。』
『え〜‼︎あんな僻地に直ぐに行かなくたって暫くここに居てゆっくりしたらいいじゃない。』
『僕は結構、忙しいんです。』
『せっかく、娘ができたのに、すぐ別れるなんて寂しいわ。忙しいなら、ランディだけ先に帰ったらいいじゃない?』
『花嫁に出会ったのに、別れるのは、嫌です。ソフィアは連れて行きます。』
『私だって娘がやーっとできたのよ。離れるのは寂しいわ。』
『我慢して下さい。』
『そんなあ…。ランディ独り占めはずるいわ。そうだ。ソフィアはどうしたいの?』
『私なんかにそんな風に言って頂いて…、とっても嬉しいんです。本当に凄く嬉しいんですが…、ランディ様と一緒に居たいです…。
とっても歓迎して下さっているのに…ごめんなさい。』
(申し訳なさ過ぎて居た堪れない気持ちになってきました…。私には、過ぎるほどのお話ですのに…。)
『あら、「私なんか」なんて言っちゃダメよ。ソフィアは、このスペンサー家の大事な娘なんだから。
すっごく残念だけど…。そんなに謝ることはないわ。ソフィアの気持ちはわかったわ。
仕方ないわね。』
ランディ様がホッとなさるのがわかりました。
『母さん、済まさないといけない要が色々、ありますので、これからソフィアと出掛けてきます。』
『そうでしょうね。でも、夕食迄には帰ってらっしゃいね。ソフィアがここに居る間は、一緒に食事がしたいわ。』
『わかりました。ちゃんと夕食迄には戻って来ます。』