夜七時、三十歳近い青年は会社から帰宅する。彼は未婚で一人暮らしをしている。
「今日も仕事したな、コンビニで買ってきた弁当を食べてお風呂入って今日も明日に備えて早く寝るか」
そして物が散らかっているテーブルでさっきコンビニで買ってきた弁当を食べる。
「もしも結婚して妻がいたら会社から帰ってきたらこんなコンビニの冷たいごはんではなくあたたかいごはんが待っているのだろうか」
 青年は家に帰っても誰もいないことに寂しさを感じていた。
「独り身だとただいまと言っても誰も返事してくれないのは少し寂しい、まあそれよりこんなことを考えてないで早く弁当食って寝よう」

 それで弁当を食べ終わり風呂に入って寝ようとした瞬間、インターホンが鳴った。
「誰だ、こんな夜に。」
 ドアを開けるとそこには目が開いているか閉じているかわからないぐらい目が細い、何処から見ても不気味な男が立っていた。
「こんばんは、人々の悩みを解決することを仕事にしている黒磯と申します、少しお話をよろしいですか?」
「いや、今から寝るので帰ってください」  
 青年は追い返そうとするが「お話だけでも」といい、なかなか帰ろうとしないので話だけは聞くことにした。

「さきほどもいいましたが私は人々の悩みを解決することが仕事なのです。悩み事が絶えないこの現代、誰もが悩みを抱えています。それで私はより多くの人に幸せになってほしいと思いこの仕事をしております。何か悩みごとはあるでしょうか?」
「まあ自分は独り身なので一人、部屋にいると寂しくなる時がありますね。もし結婚して家庭を持っていたらどんな感じになっているだろうかと想像したりします。」
「そうですか、それなら私にいい物があります」
「いい物って何ですか?」
「それはこれからのお楽しみです。後日、あなたにお送りします」
 そう言うと不気味な男は帰っていた。

 後日、家に不審な物が届いた。ダンボールには精密機械につき取扱注意の張り紙が貼ってある。
「精密機械につき取扱注意?一体このダンボールの中に何が入っているか」
 そしてダンボールの中を開けてみるとバイクのヘルメット型をした機械が入っていて、横にその機械の取扱説明書らしき物が入っている。
「これはまるで自分に家族ができるサービスです、その機械を被ればだれでも家族を持てます?」
「ヘルメットの機械を被りボタンを押すだけ家族が持てると書いているがどういうことだ?」
 さっそく書いてあるとおりヘルメットの機械を被りボタンを押す。そうするとどこを見渡しても真っ暗な空間の中にいた。
「ここは何処だ?」
 
 そして何者かのアナウンスが始まる。
「この度は仮想現実サービス、「仮想家族」をご利用いただきありがとうございます。本サービスは仮想現実の世界の中で架空の家族を持てるサービスとなっております」
「早速ですが「仮想家族」について説明させていただきます。まずこのサービスでは仮想空間の中で家族をもつことができます。次に、このシステムを使用するにあたっていくつかルールを設けております。1つ目、このシステムは一年間しか使用できず、期間内に返却しなければ自動的に契約が終了することになっております。2つ目は、このシステムを他の人に譲渡することは禁止されております。3つ目のルールは、このシステムの不具合により、貴方様に危害が加わる可能性があります。その場合は速やかに弊社に連絡をしてくださいませ」
「なるほど、この仮想の世界に行けば寂しさがなくなるかもな」

 そして「仮想家族」というもの始めるための設定をアナウンスの指示に言われるがままやった。
「それでは仮想家族の構成は橋本美里 妻 32歳、橋本千尋 娘 5歳になります」
 こうして青年は奇妙な男から買った怪しい機械で家族を手に入れたのだ。
「それでは仮想現実サービス「仮想家族」お楽しみ下さい」
 
 そして青年は仮想家族を開始した。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 そこには妻がいる。青年は嬉しくて涙が出そうになる。
「あなたお仕事大変でしたね」
「ああ」
 青年は妻の優しさに触れ感動していた。
「ご飯できてるから一緒に食べましょう」
「そうだな、じゃあ着替えてくるよ」
 青年はスーツを脱ぎラフな格好になる。そしてテーブルの前に座り料理を食べようとする。
「今日はハンバーグか」
「そうです!私の得意なハンバーグですよ」
「それではいただきます!」
 青年は久しぶりに誰かと食べる食事が美味しいと感じた。
「うん、うまい」
「良かったわ、作った甲斐があった」

 それから数日後、青年は家に帰えることが楽しみになった。それは今までは家に帰っても一人だったがリアルな仮想空間の中には家族がいるからだ。
 青年は黙々と洗濯物を取り込む。独り身だと洗濯物が少ないが家族3人分となると洗濯物を取り込むのが多くなる、青年はいつもとは違う洗濯物を取り込む量に大変に思った。


 そして洗濯物を取り込み終わりソファーで休もうとするとまた妻に「娘の面倒に見といて」と言われ娘の遊びに付き合わせられる。子供とあまり関わってないため子供の接し方というのがわからないのでとりあえずコミュニケーションを取ろうと話して見るが何も反応せず無視される。他にも「いい子だ」や「えらい」と言って褒めてみるも反応はさっき同じだ。

 そうしている間に時間は過ぎて娘のお風呂にいれる時間がきた。
 まずは服を脱がそうとするがと逃げ回ってなかなか服を脱がしてはくれない、そしてなんとか服を脱がしても次は体を洗うため頭にシャンプーをしようとするがかなり嫌がるが無理やりシャンプーをさせた。頭を洗っているうちに突然子供が泣き出した、最初はなんのことやらと思ったがどうやら頭を洗っているうちに目にシャンプーが入ったようだ。
 そのあと泣き止まり湯船につかりなんとか子供をお風呂に入れたが子供が泣き出し落ち着いてお風呂に入ることはできなかった。

 そうして青年は今日の所は仮想家族の体験を終わりにし現実世界に戻ってきた。仮想の家族とはいえ家族を持つことが大変だということに気づいた。
 「家庭を持つとメリットってなんだろうか?大変だし自分の時間が無くなる」
 青年はそう考えた。
 また仮想現実の機械を被り何日間も次こそは子供とのコミュニケーションを試みるもまったくうまくいかない。
 この先このままコミュニケーションを試してもうまくいかないと思い妻に相談してみることにした、妻は夫と違い専業主婦のため家におりずっと子供の面倒を見ているので自分の子供のことをよくわかっている。
 相談しようと思いリビングに行くとちょうど妻がいた。
「ちょっといいかな」
「どうしました?」
「実は娘について聞きたいことがあるんだ」
「千尋のことですか?」
「ああ、君の言うとおり娘は可愛いとは思うがどうしてあんなにも無口で無表情なのか知りたくてね」
「それについては私もよくわかりません。でも、一つだけわかることはあります。あの子はあなたには心を開かないということだけははっきりと言えます」
「そ、そうなんだ」
 青年はショックだった。
「ごめんなさい、別にあなたが悪いわけじゃないんですよ、ただあの子が心を開いていないだけですから」
「どうすればいいんだ…」
「ならあの子の気持ちを尊重してあげてください」
「わかったよ」
 そして次の日も青年は娘に話しかけるがまたもや無視されてしまい落ち込んでいると妻がやってきた。
「やっぱり俺嫌われてるのかな?」
「きっと大丈夫ですよ、明日はあの子の誕生日なので一緒にプレゼント買いに行きましょう」
「ああ、そうだな」
 そして翌日になり青年は娘と妻で一緒に買い物に出かけた。
ショッピングモールに着き色々な店を見て回っていると少女は何かを見つけたらしくそれを指差した。
「これ欲しい」
 それは可愛らしいぬいぐるみだ。
「どれがほしいのかい?」
「あれ」
「よし、じゃあ買ってくるから待っていてね」
「うん」
 
 そしてレジで会計をしようとした時、「仮想家族」のサービスからメッセージが表示された。そのメッセージには「利用確認、設定されたクレジットカードで支払いますか?」と書いてあった、最初は何のことやらと思ったがピンときた。  「仮想家族」のサービスを始めるときの設定でアナウンスの指示に言われるがままやった時、クレジットカードの番号を入力したのを思い出した。
 「そうか、あの時クレジットカードの番号を入力したのはそういうことか。これはソーシャルゲームでいう課金みたいなものか」
 
 それで会計を済ませると娘の所へ戻って行った。
「はい、あげるよ」
「ありがとう」
「大切にしてくれ」
「うん」
「よかったわね」
 昨日はまったく自分の声掛けに反応がなかった娘が初めて口を聞いてくれた。昨日に比べたら大きな進歩だ、さらに娘との関係を深めるため妻と娘で公園に行くことにした。
「ねえ、お父さんブランコ乗ろう」
「おういいぞ」
 そして青年と娘は一緒にブランコに乗る。
「楽しい」
「良かったな」
「今度は滑り台で遊ぼう」
「ああ」
 それからしばらく二人で遊具で遊び続けた。
 前までは青年に口を聞かない娘はだったが今は普通にコミュニケーションが取れている。そのあと鬼ごっこをすることになり娘は公園の中を元気に走り回った、そこには笑顔が溢れていた。


 そして夕方になると娘は疲れたのか眠ってしまった。
「寝ちゃったわね」
「ああ」
「今日一日楽しかった?」
「ああ」
「そう、なら良かった」
「子供と遊ぶのはいいものだな、子供と遊ぶと自分も子供になった気分になれる」
 自分が子供だった頃、友達と空が暗くなるまで外で遊んだことを懐かしく思う。
「大人になったからは無邪気に外で遊ぶということが無かったな…」
 そして現実世界に戻っていた。
 家庭を持つと大変でつらいこともあるがいいこともある。特に子供の成長を見るのは家庭を持つものしか味わえない楽しみがある。

 それから毎日のように仮想家族を楽しみ数カ月が過ぎた頃、家のインターホンが鳴りドアを開けてみるとこの前きた黒磯という人物がきた。どうやら様子を見に来たらしいので家の中で話すことにした。
「仮想家族のサービスの方はどうですか?気にいっていただけたでしょうか?」
「突然あんな物が家に届いて驚きましたが仮想家族には満足しています、自分みたいの独り身にはぴったりのサービスだと思います」
「そうですか、でも実は仮想家族は独り身の人の寂しさを埋めるためだけのサービスではないのですよ」
「というと何のサービスなのですか?」
「最近では未婚が進み少子化になっています、その理由として結婚することで自分の自由な時間がなくなるだとか家事の負担が増えるなどと感じる人の増加と言われています。ですが家庭を持つことでの楽しさやうれしさがあります。そこで仮想の世界で家族を持つことで関心を引こうとすることで未婚化、少子化の解決に繋がると思います。なので、家族を持たない人に、家族と暮らしを感じてもらうためのリアルなバーチャルサービス「仮想家族」のサービスを始めました」
「どうですか体験してみて、実際に家族を持ちたいと思いました?」
「まあ、家族を持つと独り身では体験できないこともありけっこう楽しいと思いましたが、まだ実際に家族を持つのは悩む所ですね」
「なのでもう少し仮想家族を体験してから考えたいですね」
「そうですか、まあ焦らず考えて下さい」
 そう言うと黒磯は帰っていた。 

 青年は今の生活に不満はない。しかしこのまま独身でいるよりは結婚した方がいいとは思っていた。今の自分には妻もおらず子供もいないそんな状態だが、なかなか踏み切れない。
 そんなことを考えながら青年は再び仮想現実の機械を被る。

 数日後、青年は仮想世界にいた。幼稚園児だった娘が成長しもうすぐ小学校に入学する、そのためデパートに娘のランドセルを買いに来ていた。ランドセル売り場には色とりどりのランドセルがあった。
 娘はどの色がいいのか迷っていると店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ、何か御用でしょうか?」
「この子に似合う色のランドセルを探しているのですが」
「それでしたらこちらのピンクなどはいかがでしょう」
「うーん、この子はもっと落ち着いた感じの色の方が好きだと思うんですよね」
「そうですか、でしたらこちらはどうですか?」
 そう言って出された色は青みがかった白のような色をしていた。
「いいですね、これなら娘に合いそうです」
「そうですか、ありがとうございます。」
 娘は父親のプレゼントに喜んでいた。
「お父さん、ありがと!」
「どういたしまして」

 それから日頃お世話になっている妻へプレゼントを買うことにした。妻は腕時計が欲しいと言うので売り場に来てみたが青年は驚いた、売り場にある腕時計の値段が財布にはやさしくない値段であった。
「高いな……」
「どうしました?」
「いや、何でも無いよ」
「そうですか、もし予算が足りないのであれば私が出しましょうか?」
「いや、自分のお金を使うから大丈夫だよ」
「そうですか、あまり無理しない程度にしてください」

 そして妻が選んだ腕時計は三十万ほどの腕時計だった、青年は妻が選んだ三十万ほどの腕時計を買うことにした。
 仮想現実にいる仮想の家族に三十万ほどの腕時計を買うことにあまり抵抗感は無かった。
「これってソーシャルゲームで三十万を課金していることとあまり変わらないのだよな」


 そして月日は流れこの前まで小さな子供だったがもう小学校卒業だ。
「子供の成長は早いものだな、もう中学生か…」
  そう言いながら家でのんびりしていたら一本の電話がかかってきた。
 その電話は娘の学校からだった。電話の内容が娘の千尋が突然倒れ病院へ緊急搬送されたらしい、青年と妻は一刻も早く急いで病院に行った。 
 病院に着くとベッドに娘が横たわっていた、容態は落ち着いたらしくこれから検査をするらしい。自分と妻は病院の椅子に腰を掛け検査の結果を待つ。青年は本当の自分の家族のように娘を心配した。

 数時間後、検査が終わり青年と妻だけ医師に呼び出された。あまりいい予感はしないと思いながら医師の話を聞くとやはり予想は的中した。
娘は重症な病気にかかっており手術をせずほっておくと死に至るという、手術の費用は保険がきかないため二千万ほどするらしい。
「そんな大金、とてもじゃないけど用意できない」
 しかし青年には貯金がなく、ローンを組んでも返せるかどうかわからない。「どうすればいいんだ……、このままでは死んでしまうかもしれないのに」
 青年は悩みある決断を考えた。それは「仮想家族」のサービスを辞めることだった。
「このままでは娘を助けられない、それならいっそサービスを辞める方が自分の為になるはずだ」

 この娘が手術せずに死んだとしても所詮架空なので現実世界では何ともないが青年はそうは思わなかった。
 「仮想家族というサービスは存在しない架空の家族だが本当の家族のように思えるのだよな、普段ソーシャルゲームの課金なんか無駄だと思ってやってなかったが娘のランドセルや妻の時計を買った時も買うことに無駄だと思わなかった」
 それから青年は急ぎ足でとある場所に向かった。

 
 そして何日か過ぎそこには途方に暮れる前の姿とは比べほどにならない青年の姿があった。
 青年は仮想世界いる架空の娘のために借金をしてまで手術を受けさせ助けたが無理をしてまで借金をしてしまったのだ。
「俺は何をしているのだろう、こんなことをしても意味がないのに」

 そして数日後、青年はいつも通り仕事を終え帰宅し「仮想家族」を開きログインしようとしたがエラー表示が出た。
「どういうことだ?」
 すると運営からメッセージが届いた。内容は「このサービスは終了しました」という内容だった。
「なんだと!ふざけんなよ!」
 青年は怒りに震えた。
 そして「仮想家族」の運営会社に電話をかけてみたが繋がらなかった。
「くそ、俺の娘は助かったのに…」
「どうやら本当に終わったみたいだな」
「やっぱり仮想現実での生活は夢のようなものだったんだ」
 
 そして路頭に迷う青年を見ていた黒磯はとある所に電話をかけた。
「黒磯です。やはり膨大な人のデータを使うことにより、リアルなAIの家族を作り出すことで本当の家族のように思えるようです。
 利用者で普段ゲームなどで課金してない人も「仮想家族」はよりリアルなため課金を誘発することで抵抗感なく課金してくれて本当の家族に物などを買ってあげているような感覚になります」
「これからは「仮想家族」が新しくすばらしいビジネスになるでしょう。それから実際に家族を持つより仮想の世界で家族を持つ方がリスクが少ないため増えると思います、なぜなら「仮想家族」は嫌になったらやめてしまえばいいのですから... 」
「これで実験機は成功ですね」
 そう言って黒磯は立ち去った。